読書日記

いろいろな本のレビュー

人間、やっぱり情でんなあ 竹本住大夫 文藝春秋

2014-11-21 09:42:45 | Weblog
 七世竹本住大夫は今年五月二十六日の東京公演を最後に引退した。私は四月の大阪での「菅原伝授手習鑑」の「桜丸切腹の段」を見たが、満員であった。全盛期の姿を知らないので比較はできないが、やはり他の大夫にはないオーラが出ていた。竹本源大夫も引退したので、後は豊竹嶋大夫や豊竹咲大夫が引っ張って行くことになるだろう。
 先日の公演は「双蝶蝶曲輪日記」(第一部)と「奥州安達が原」(第二部)であったが、平日の二部(夜の部)は客の入りが七割ぐらいで、あまり良くない。住大夫の引退の影響がもろに出ている。ことほど左様に彼の存在が大きかったのだ。今年の文化勲章も受章して文楽界には慶事であったが、これからの人材育成が大きな課題である。これには技芸員の待遇改善が必須であるが、大阪市長の補助金削減問題で文楽協会も対応に苦慮している。芸術のわからない人間に文楽のよさを解いても仕方がないが、それにしてももう少し芸術に対する謙虚さが必要ではないか。人形遣いの顔を全部隠せとか内容をもっと今風に変えた方がよいとか、無知ゆえの感想を述べていたが、陰で笑われていることを承知しておく必要がある。逆に言えば市長の文楽いじめがあったから応援に行こうという人が増えたのも事実で、そこまで考えてのパフオーマンスであったとしたら大した政治家だが、まあそういうことは無いだろう。吉本新喜劇や漫才の方がよっぽど面白いというような人間なのだから。
 本書は聞き書き形式で、住大夫の人となりがにじみ出た内容になっている。叱り、叱られ、命がけ!修行六十八年の「芸の神髄」とは腰巻のコピーだが、修行を積んだ人間のみが観客を感動させることができる。また生粋の大阪弁を聞けるのも大きな収穫である。優しさばかりが強調される昨今、厳しく弟子を育てるという姿勢は、教育界においても保持されなければならないという事を痛感した。金持ってる人間だけが偉いのではないぞ。

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