読書日記

いろいろな本のレビュー

強いられる死 斎藤貴男 角川学芸出版

2009-08-18 20:54:42 | Weblog
 副題は「自殺者三万人超の実相」だ。日本はこの十年間連続で年間三万人を超える自殺者を出しているが、具体例を挙げて自殺者を「社会的に強いられる死」という視点から、日本の暗部を照らし出す。斎藤氏は夙に反権力の立場から激しい批判をする事で有名だ。本書で例に挙げられたのは、Ⅰ会社のパワハラと過重労働、Ⅱ郵政民営化の余波、Ⅲ多重債務・倒産、Ⅳ学校と自衛隊、Ⅳは他と違って閉ざされた世界であるが、いじめの構造は他の場合にも共通する。
 読んでいて気が滅入って来るのをどうすることもできなかった。学校のいじめ以上に会社の上役によるいじめの実態を知るに及んで段々怒りがこみ上げてきた。会社を辞職できない状況を知った上でのパワハラは人間の尊厳を破壊するものだ。会社は人権研修をやらないのだろうか。いや、そのような研修がなくても、人間としてまっとうな生き方を心がけていれば、心の痛みを覚えて当然ではないか。中部電力やトヨタ関係に自殺者が多いという指摘は意味深長だ。乾いた雑巾も絞るというほどの労務管理を実践して巨大な利益を上げるトヨタと同じ地域に中部電力はある。ことほど左様にトヨタの影響力は大きいと言える。そしてグローバリズムによる自己責任論もこの人間使い捨ての風潮を助長しているのだ。
 営業成績の良いものが勝者であり、悪いものは敗者という二項対立が会社を支える理念だとすれが、それはあまりに悲しいことではないか。金儲けが善という発想はそれだけでは意味がない。それだけが強調される社会は絶望的だ。いくら資本主義社会とは言え、一人勝ちを容認して、金持ちを敬うというようなバカな風潮にストップをかける必要がある。小泉内閣が促進した郵政民営化も今、様々な問題点が浮かび上がってきている。郵便局の現場は大変な混乱に見舞われている。用事で郵便局を訪れても、労務管理が非常にきつくなって職場が暗くなっているのを実感できる。いつか、配達のおじさんが記念切手買ってくれと家まで入って来た時はそこまでやらせるかとあきれてしまったことがある。今度は四年前の郵政民営化が争点の選挙の揺り返しが来る気がする。この30日の選挙で国民がどういう判定を下すか、興味深い。

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