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儒教・仏教・道教 菊池章太 講談社選書メチエ

2009-08-22 09:59:52 | Weblog

儒教・仏教・道教 菊池章太 講談社選書メチエ



 東アジアは儒・仏・道教の混合地域である。本書のキイワードはシンクレティズム(融合・混成・ごたまぜ)で、この融合状況をフランスの宗教研究者が分析するという趣向だ。今までは儒・道、儒・仏、の組み合わせでの議論は多かったが、儒・仏・道を俯瞰してまとめたものは無く、タイムリーな企画と思う。
 葬式仏教という言葉がある。これは仏教の堕落を非難するニュアンスを含んでいるが、日本の仏式の葬式は実は儒教のやり方であり、本来の仏教とは無関係なものなのである。仏教では、人間は死ねば魂が身体から抜け出て、身体はただの物に過ぎなくなる。日本人が遺体にこだわるのはまさに儒教の精神そのもので、「身体髪膚これを父母に受く、敢へて毀傷せざるは孝の始めなり」(孝経)の実践といえる。儒教が死と深く結びついた宗教であることを説いたのは加地伸行氏で、氏の「儒教とは何か」(中公新書1990年)は儒教に宗教性はないという従来の考え方を覆えした画期的な書物である。本書にもここからの引用があるが、儒・仏・道教をまとめて分かりやすく論じているところが最大の長所だ。仏教の伝播の仕方は国の状況によって多様であり、道教の現世利益も同様だ。個人的な体験だが、台湾では仏教や道教の寺院は多くの人々でにぎわい、みんな懸命に祈っている。それに比べると日本のそれは静かで、雑駁さがない。エネルギーが噴出していないという気がする。このエネルギーの差が、今後の国力の差として表面化するような気がする。そのうち街は老人ばかりになり、廃墟の様相を呈するのではないか。杞憂であればいいのだが。

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