読書日記

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ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか 熊谷 徹 青春新書

2019-06-04 14:37:59 | Weblog
 タイトルはかなり刺激的で、ホンマかいなと思ったが、在独29年の著者が具体例をあげて解説しているのでうそはない。ドイツはEUの中で一人勝ちしている印象だったので、みんな高い年収で優雅に暮らしているのかと思っていたが意外だった。この年収で豊かに生活することは日本では少々厳しい感じだが、著者によると、大半のドイツ人の暮らしは質素で、日本人ほど消費活動に重きを置かないようだ。基本的にものを買わずけちけち生活ということだ。ドイツの合理主義と言っていい。そして仕事だけに束縛されず、自由時間を楽しんでいる。そのゆとりを生んでいるのは、一日10時間を超える労働が禁止されていることや、社員に対して最低24時間の有給休暇を与えることが義務付けられていることに由来するものの、要は人々の意識だという。ドイツ人は自分でできることは自分でやり、他人に頼らない。商店やホテル、スーパーマーケットやレストラン、宅配便の社員など、過剰なサービスやへりくだった態度は皆無で、顧客と同じ目線で対応する。従ってドイツでは日本のような「お客様は神様です」というような卑屈な考え方はしないとのこと。初めてドイツに来た人は、余りのサービスの悪さに辟易するらしいが、慣れたら何ともないと著者は言う。私はこの部分を読んで感動した。今の「おもてなし日本」の対極にあると思ったからだ。日本は今や「おもてなし天国」の様相を呈しているが、余りにも卑屈な感じがして個人的には気に入らない。どこまでやるんだという気がしていたが、少しはドイツを見習えと言いたい。余りにも個人の尊厳を守るという主体性がない。これだからクレーマーはますます増長してはびこるのである。
 行き届いたサービスをやればやるほど、クレーマーが増えるというのは皮肉だが、これが現実なのだから顧客に頭を下げ続けるやり方は改めるべきだ。私見だが、会社に「お客様相談室」なるものができてから、ここぞとばかりクレームが増えた。この余波は教育界にも及んで、学校もモンスターペアレンツに悩まされるようになった。学校って一番文句が言いやすいので、クレーマーの温床になっている。そして著者によると、ドイツ人は、我々日本人よりもシステムを構築することが得意で、各人が毎年6週間休んでも企業や経済が回るシステムを築き上げることに成功した。このシステム作りに長けている理由として個人主義をあげている。ドイツでは日本に比べるとチーム精神が希薄で、個人主義が職場にも浸透しているという。ここが日本と決定的に違うので、会社のありようを今すぐには変えられないかも知れないが、最近は外資系の企業が多いので、個人主義のメリットが徐々に見直されることはありうる。このシステム思考は少ないインプットで経済的効果を上げる所以と評する人もいるので、参考にすべきと思う。日本はとりあえず消費者天国の発想を改めて、質素にしかも豊かに生活する道を模索すべきだ。そうすれば、駅やデパートや様々な場所での不要な放送・音楽を減らせることができるのではないか。

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