読書日記

いろいろな本のレビュー

マルコムX 荒このみ 岩波新書

2010-04-04 08:36:28 | Weblog
 マルコムXは本名マルコム・リトル、キング牧師と並ぶ黒人運動の指導者だが、1965年2月暗殺された。生地はボストンだが、父親を早くに亡くし、母親は精神病院に収容され、兄弟や異母姉エラ・コリンズの愛情と精神的支えによって何とかやっていた。エラがいなければその後のマルコムの人生はなかったと思われるほど彼女の影響力は大きかった。マルコムの父母はガーヴイー主義の信奉者で、これが彼の思想形成に大きな役割を果たした。ガーヴイー主義とは西インド諸島ジャマイカ出身のマーカス・ガーヴイー(1887~1940)の思想と運動を指す言葉で、簡単に言うとパン・アフリカニズム(アフリカへ帰ろう)ということである。後にマーカスは国外退去させられたが、その思想は黒人社会に深く根付いて行った。
 マルコムは少年時代は問題児で、ボストンの繁華街で犯罪に手を染めるようになっていたが、1945年窃盗罪で8~10年の刑を言い渡された。このころに「ネイション・オブ・イスラム」の伝道師・イライジャ・ムハマドと親交を結び、彼の思想に影響されつつあった。マルコムは1946年2月27日から1952年8月7日までの6年半服役した。20歳から27歳にかけての成人になる時期である。25歳ごろ獄中からムハマドに宛てた手紙には、今までの人生を反省し愛と正義のために生きる決意を述べている。マルコムは自分を本当に理解してくれるメンター(師)を求めていた。そこに登場したのがイライジャ・ムハマドだった。「ネイション・オブ・イスラム」への帰依は、自分を受け入れない権威であるアメリカ社会=キリスト教という「父親像」に代る、新たな精神構造をマルコムに与えてくれたのだ。当時ムスリム勢力は抑圧された黒人の中で勢力拡張のため積極的に黒人街に入り込んで布教をしていた。当局もそれを監視するという状況があった。
 マルコムがイスラム教に帰依していたことは本書で初めて知ったが、公民権運動のマルティン・ルーサー・キング牧師の流儀とは違う過激さはここから来ているのではないかと思われる。著者はマルコムは公民権よりも人権を説いたと述べているが、それは時代を先取りした、当時としては前衛的思想だったと思われる。その中で、黒人の意識を改革するため言葉は過激で鋭角化する。それは両刃の剣のごとく相手を倒すが、自分も傷つく。結局、暗殺という結果でキング牧師と同じ運命を辿ったわけだが、その精神的遺産は継承されオバマ大統領の誕生という事実で開花したと言うことか。

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