読書日記

いろいろな本のレビュー

「戦争と平和」の世界史 茂木誠 TAC

2020-03-06 15:02:33 | Weblog
 本書の腰巻に曰く、「願っているだけでは平和は守れない!〝悲惨な腫れ物〟として扱うだけでは、戦争はなくならない。緊迫する米中関係、朝鮮半島、中東ーーー。秒単位で激変する国際情勢下で、私たちは今こそ史実から学ぶ必要がある。情緒を抑え、冷静に事実のエッセンスをえぐり取った、日本人の生き方を示唆してくれる究極の書」とこれは本の裏側にあるもので、平和ボケの日本に警鐘を鳴らすような文句である。表には「人類とチンパンジーは仲間同士で殺し合う」という文句もある。よって人間は本来は殺し合うのが普通で、真の平和はじっとしていては守ることができず、しっかり敵の攻撃を防ぐ準備をすることから始まるという意味らしい。個人の集合体の国家においてはなおさらで、平和憲法云々では国は守れず、他国の侵略を受け、滅んでしまうという危惧を表明したものだ。これを読むだけで本書の言いたいことは大体わかる。

 著者はまず、日本国の国家意識は663年の白村江の戦いの敗戦と、壬申の乱で親唐派の大友皇子を反唐派の大海人皇子が破り天武天皇となり、彼の巧みな外交で中華帝国の呪縛から自由になったと評価する。敗戦から復興へ、ナショナリズムの発露が日本国を誕生させたという文脈である。以降、日本史を軸にそれぞれの時代における内政と外交を述べ(元寇など)、ヨーロッパの宗教戦争の実相を詳述し、その関係で、ヨーロッパのカトリックとプロテスタントの三十年戦争の講和条約であるウエストフアリア条約とその体制に言及する。これ以降、条約締結国は相互の領土を尊重し内政への干渉を控えることを約束し新たな秩序が形成されることになった。さらにグロティウスの「戦争と平和の法」の影響などもあり、近代国家の体裁が整えられて行ったが、日本の江戸時代はこの流れとは異質の権力構造で250年間の平和が維持されたと著者は「パックストクガワーナ」を評価する。しかし明治維新によって近代化を図る中で西洋のナショナリズムの洗礼を受けることになる。

 明治以降の日本の歩みはまさに戦争の歴史であった。そして太平洋戦争という破局に至る過程を分析する中で、印象的だったのが東条英機の出身母体である日本陸軍の分析である。陸軍内の派閥の「統制派」と「皇道派」の確執が2,26事件を生み、その後権力を握った「統制派」が日本を破滅に導いたという説は今まで聞いたことがなかったので興味が湧いた。本書によると、「統制派」は官僚・財閥とも連携し、ソ連型統制経済によって失業問題を解決する。そして対ソ戦の前に中国に一撃を加え、親日政権を樹立するという考えで代表者として永田鉄山を挙げる。対して「皇道派」は手段を選ばず軍事政権を樹立し、天皇親政の社会主義国家を実現する。対ソ戦に備え、内政を優先し、中国への戦線拡大には反対という考えで代表者として小畑敏四郎を挙げる。

 東条英機は統制派の一員だが、著者曰く、そもそも日本を泥沼の戦争に引きずり込んだ「昭和維新」の思想とは、天皇をいただく国家社会主義、北一輝の思想であり、そのモデルはソ連型社会主義でした。統制派と皇道派との抗争は、「革命方針」をめぐる「内ゲバ」に過ぎません。軍事クーデター(2.26事件)によってその実現を図った陸軍皇道派に対し、統制派が一貫してソ連との不戦、対中国・対米国との戦争拡大を推進して大日本帝国を存続の危機に陥れ、その最後の段階でソ連の日本占領を容易にする「本土決戦」を唱え始めたことは、もはや偶然とは思えません。彼らは日本が敗北し、ソ連軍に「解放」されることが、「昭和維新」の近道だと信じていたのです。米軍に占領されれば、資本主義社会と財閥の跋扈が続くだけなので、ソ連軍による占領に意味があったのです。このような「赤い将校たち」によって東京の大本営は乗っ取られていたのです」と。著者は予備校講師だというが、教壇でこのようなことを熱く語っているのだろうか。反ソをここまで熱く語る本を私は知らない。そしてソ連のスパイであったゾルゲ、尾崎秀実、志位正二(前日本共産党書記長)などを挙げて批判している。反共のスタンスを鮮明にしている。

 まとめの今後の日本の在り方についてよく考えておく必要があるということは、本書に即していうと、憲法改正、軍隊の保持という流れになるだろう。本書は学術誌ではないので、本書の評価を専門家はどう下すのだろう。ちなみに並行して読んだ、倉山満氏の『ウエストフアリア体制』(PHP新書)も戦争を外交手段の一つと考える(クラウゼビッツの戦争論にある)趣旨の発言をしており、第28代アメリカ合衆国大統領の「十四か条の平和条約」を親ソの典型で国賊に値すると断罪している。これも反ソ・反共の流れで書いているという意味で共通している。同じ研究会ですり合わせでもしているのだろうか。こちらはたまたま買って読んだに過ぎないのだが。

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