読書日記

いろいろな本のレビュー

アメリカの教会 橋爪大三郎 光文社新書

2022-12-05 09:45:10 | Weblog
 副題は「キリスト教国家」の歴史と本質。アメリカは世俗主義国家とはいえキリスト教の縛りが非常に強い国である。大統領の就任時の宣誓にしてもダーウインの進化論が教育段階で排除されるにしても神の存在を前提にした事例が多い。本書はこのアメリカのキリスト教について詳細な解説を施したもので、まるで百科事典を読んでいるようだった。それは極力感情的な表現を排し、客観的な記述を心掛けたためであろう。

 今回は本書を読んで、私の今まで理解が足りなかった事柄を取り上げたい。第一に、新大陸にはイングランド以外にスペイン、ポルトガル、フランス、オランダなどが植民地を持っていたが、それらの国はカトリックが唯一の教会であって(オランダは改革派)、本国の教会が植民地の教会になるのに、今のアメリカはそうなっていないという問題。これについては、フランスは、ルイジアナ(ミシシッピ河の流域)やカナダの一帯を、スペインはフロリダや北米大陸西部の一帯を植民地としていた。フランスもスペインもこれらの地域を手放したので、その影響はアメリカ合衆国にほとんど残っていないというのが著者の回答。

 第二に、イングランド植民地の宗教はどうかという問題。イングランドは国王が特許状(チャーター)を発行して誰か(個人や法人)に植民地の経営を任せるやり方を取った。入植が始まった頃はヨーロッパでは宗教をめぐる混乱が続いており、信仰の自由を求めて新大陸に渡る人が多かった。そのような状況下で、イングランド国教会を飛び出したピルグリム・フアーザーズ(分離派といわれる)をはじめいろんな派の人々が入植した。先述のように本国は植民地の教会のことまで干渉しなかったので、イングランドの植民地はさまざまの教会の展示場の様相を呈することになった。それは教会は民間の任意団体で自由に設立できるという事情と関わっている。これがアメリカが世俗国家であることを保障している。カトリックやイスラムが支配する国家とは違うのである。本書では各宗派の特徴をわかりやすく解説していて大いに参考になる。

 第三に、なぜアメリカでは共産主義(共産党)が認められないのかという問題。著者は言う、マルクス主義は宗教ではなくて政治思想である。そして、非暴力ではなくて暴力による革命思想である。しかも無神論である。宗教はアヘンだとする。マルクス主義は神の代わりに理性を信じ、科学を自称する。知的な人々の組織である共産党が世界の解釈権を握る。そして人々を統治する。要するに人の支配である。これは「神の支配」を当然視して神の王国の到来を待ち望むキリスト教と両立しない。よってアメリカはマルクス主義を受け入れない。アメリカは反共である。マッカーシズム(第二次大戦後の1950年に起こった共産主義者弾圧事件。上院議員のジョセフ・マッカーシーが非米活動委員会を舞台に、国務省など政府関係者、ハリウッドの映画関係者、マスメディアの人々を共産党員などの嫌疑で次々告発した)はその極端な表れである。これで共産党は非合法化された。ちなみにハリウッドの映画界で共産主義者の摘発に一役買ったのがロナルド・レーガンである。彼が後に大統領になれたのもこのことが影響している。

 以上三点、今まで不明な点がはっきりした。橋爪氏のおかげである。最後に「結論」としてまとめがついているのもうれしい。今話題の中国については、「世俗の政府と教会(中国共産党)が合体した、神聖政治になっている。自由や民主主義の余地はない。資本主義が発展すれば、そのうち民主化するかもという話ではない」とある。中国共産党は一神教を主催する教会であるがゆえにチベット仏教も、イスラム教も、カトリックもプロテスタントも法輪功も厳しく管理して抑え込んでいるのだ。スマホと監視カメラでの統治。そしてあの独裁者とその取り巻き連中。庶民はすべてわかっているはずだ。国の将来を。

 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。