読書日記

いろいろな本のレビュー

漢字が日本語を滅ぼす  田中克彦  角川SSC新書

2011-06-25 11:35:27 | Weblog
 日本語は外に閉じた言語(外国人にとって学びにくい言語)で、それを助長しているのが漢字である。漢字を減らしてひらがな・カタカナ・ローマ字で表記すべきだというのが本書の内容。漢字は知識人のもので、庶民を馬鹿にした反動的な文字だという考え方が諸所に顕れている。このような議論は明治維新や太平洋戦争が終わった時に漢文の反動性を非難するのと同時に行なわれたもので、話題としては新しくない。東南アジアからきた看護士希望の人々が国家試験の際に難解な漢字のために、合格できない現状を漢字廃止の論拠としているが、少々的はずれだと思う。最近、難解な専門用語をやさしく言い換えることで合格率を増やそうという流れになっている。
 漢字かな交じりで文章を表記するシステムは非常に優れた表記法で、世界に誇れるものだ。漢文訓読の長い歴史を鳥瞰することなく、外国人に使われなければマイナーな言語として、行く行くは消滅するであろうという危惧を述べているが、杞憂に過ぎない。話が大げさすぎる。著者はベトナムの漢字廃止、韓国のハングル使用を称賛しているが、韓国の場合その弊害は顕著だ。ハングルは表音文字であるため同音の衝突が頻繁に起こり、発音からものそのものをイメージするのに時間を要してしまい、非常に不便を強いられている。ハングル採用の裏には宗主国中国の桎梏から逃れようとするナショナリズムがあったことを忘れてはならない。日本はその点、非常に柔軟で、表意文字の漢字を捨てず、便利で利用できるものは何でも利用しようという高い見識があったとみるべきだろう。
 また漢字廃止と声高に言う割にどういう表記がいいのか、具体例を示していないのが欠点だ。また漢字廃止を漢字かな交じり文で滔々と述べている点が自己矛盾に陥っている。辛亥革命のときに白話(口語)運動を提唱した胡適がそれを文語で書いていたのと同じだ。著者はモンゴル語の専門家である。中国の帝国主義によって弾圧され続ける内モンゴル自治区などの状況に思いをはせた時、漢民族の象徴である漢字に対して憎悪の念がふつふつと湧いてきて、この書を書かせたのかもしれない。穿った見方であるが、可能性は無いとも言えない。著者には、晩節を汚さないためにも、もう少し冷静な議論をしてもらいたい。

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