読書日記

いろいろな本のレビュー

毛沢東(ある人生) フイリッツプ・ショート 白水社

2010-09-04 09:21:26 | Weblog
 上下二巻1000ページ(含む注)の力作。十年前に刊行されたが、最近日本語訳が完成して日本で刊行された。著者はポル・ポトの伝記(2008年)も書いており、世界的に高い評価を受けている。毛の伝記としては初めてのもの.上巻は国共合作までの履歴を書いている。共産党内部の李立三との戦略論争で、毛が主導権を握って行く過程が克明に描かれる。それは紅軍にゲリラ戦を実行させること、紅軍に都市攻撃をさせることなどである。さらに紅軍内の反革命闘争で多くの共産党同士を粛清したこと、農民問題に真剣に取り組んだことなどが書かれているが、私が感心したのは、共産党の初期において毛が国民党左派と連携して活動していたくだりだ。このあたりは類書にはない記述でよく調べている。
 下巻のポイントはなんといっても文化大革命を仕掛けた毛の様子だ。古参の幹部を次々と粛清していくその冷徹さは恐ろしい限りだが、国土を荒廃させるリスクを背負ってあれだけの芝居を打った毛の権力に対する執着はすごい。周恩来だけが被害を免れたが、気まぐれな皇帝に仕える臣下のようなもので、逆に周の立ち回りのうまさが浮き彫りにされる。晩年周は膀胱ガンで苦しむが、毛は最後まで治療を許可しなかった。(この事実は本書には書かれていない)最後の最後まで手を緩めないその意志力の感嘆せざるをえない。
 この意志力について著者は言う、「毛沢東の政策によって殺された圧倒的多数は、飢餓による意図せざる犠牲者だった。それ以外はーーと言っても三、四百万人はいるがーー中国を変えようという叙事詩的な闘争における、人間の残滓であり瓦礫なのであった。そう言われても犠牲者としては何の慰めにもならないだろうし、毛のすさまじい社会工学がもたらした途方もない悲惨をいささかも和らげるものではない。だがそれは、彼を他の二十世紀独裁者たちとは別格にしている。法律でも、殺人、謀殺、過失致死では扱いが違う。同じく政治でも、自国の人民に大量の苦しみをもたらす指導者の責任には、動機と意図に応じて程度の差があるのだ。スターリンは、臣下が何をしたか(あるいはしそうか)を気にした。ヒトラーは、彼らが何者かを気にした。毛沢東は彼らが何を考えるか気にした」と。
 したがって自分の政策が何百万人もの死を引き起こしている時でさえ、毛は人びとの考え方を改めて償わせるというのが有効だという信念を改めたことはなかった。これが文化大革命の悲劇を生む要因になったことは確かだ。独裁者のかくあらねばならないという強い意志は必ず人民に悲劇をもたらす。振り返って、日本の政治家の状況はどうだ。民主主義国家の為政者は独裁者とは同じ土俵に立っていないが、かくあらねばという意志力ありや否や。政治主導が聞いてあきれる。米軍基地問題、経済政策、年金問題、これらを全力で重点的に解決すべきである。総花的にやったのではだめだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。