読書日記

いろいろな本のレビュー

利休にたずねよ 山本兼一 PHP

2009-07-26 09:39:10 | Weblog
利休にたずねよ 山本兼一 PHP


 本年度上半期の直木賞受賞作。現代人の浅薄な抒情をそこはかとなく書く芥川賞受賞作については、もうひとつゾットしないということを前に書いたが、直木賞は本作のように歴史を題材にしている分、登場人物の存在感が周知の事実としてあるので、小説に厚みが生まれ幾分有利な展開になる。
 利休と秀吉の確執は小説の題材として好まれ、類書は多い。本書は利休は基本的に秀吉と似た感性・人間性を持っているがゆえに、近親憎悪的な対立があったという感じで描いているところが新しい。小説の構成にも一工夫が凝らされていて読んでいて冗漫な感じはしない。利休は秀吉を下賎の身からたたき上げた成り上がりと軽蔑するが、その成功の原因は、地位・金・女に対する執着であると喝破する。その執拗な「むさぼり」の精神が秀吉を天下人にしたと推察するのである。一方、利休自身は茶の道で成功したが、自分も秀吉同様「むさぼり」の精神があればこそ、宗匠としてのの今日があると考える。わしが額ずくのは美しいものだけだと嘯く利休の感性はまさに秀吉と共通するものがあろう。
 このように近代人の自己分析を盛り込んでいるがゆえに、この小説は新しさを獲得して、現代小説として読むことができるのだ。本書のもう一つの話題は、利休の若き日の恋だ。高麗から売られてきた両班の娘との遂げられなかった恋が生涯に渡って利休の心に影を落とすというものだが、如何せん、二人の会話が無い。したがって恋の必然性が読者に伝わらないのだ。歴史小説にどこまでフイクションを入れるかは難しいが、恋の焔が燃え上がる、その感情の吐露としての言葉のやり取りが不可欠と思う。

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