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荒川区荒川で昭和56年5月から8坪の店舗を月10万円で借りているAさんは、飲食業を営んでいる。これまで隣に住む家主とは不断から仲良く付き合っていたが、昨年11月に入ってすぐ今年の4月で3年の期間が終了したら店を返してほしいと云われた。
Aさんは大変驚き理由を聞いたところ、「私の義弟が店を開業したいのでAさんが整えた設備全て責任を持って買い取るので、それを立退き料のかわりにしてほしい」とのことだった。数十年苦労してやっと常連客も増えてきたのに、家主の勝手な都合で立ち退くことは到底できない。Aさんはあらためて移転する条件を家主に提示し、全てを補償してくれなければ引き続き店の営業を継続し明渡しを拒否して頑張る覚悟でいる。
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平成11年4月22日 第1小法廷判決 平成9年(オ)第1104号 共有物分割、準共有物分割請求事件
(要旨)
共有に係る土地及び借地権につき全面的価格賠償の方法により分割することが許されるとされた事例
(内容)
件名 共有物分割、準共有物分割請求事件(最高裁判所平成9年(オ)第1104号平成11年4月22日第1小法廷判決、棄却)
原審 名古屋高等裁判所金沢支部
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人野村侃靱、同山口民雄の上告理由について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯するに足りる。その概要は、次のとおりである。
(1) 本件各土地(宅地合計1468.90平方メートル)は、元は上告人外12名が共有し、上告人の持分は120分の2であったが、被上告公社は、平成2年から平成5年にかけて、被上告人町の施行する都市計画事業による道路拡幅等に使用する目的で、上告人以外の者の持分合計120分の118を順次買収した。
(2) 本件各土地のうち209番4の土地(宅地155.14平方メートル)についての本件賃借権は、元は上告人外2名が各3分の1の持分により共有していたが、被上告人町は、平成4年12月6日ないし7日、前記都市計画事業を円満に遂行するため、上告人以外の者の持分合計3分の2を買収し、これにつき被上告公社の承諾を得た。
(3) 上告人は、遅くとも被上告人町が本件賃借権の持分を取得した当時には、本件各土地を使用しなくなっていた。
(4) 本件各土地の持分120分の2の適正価格は232万5065円、本件賃借権の持分3分の1の適正価格は176万6422円であり、被上告人らの右各金額の支払能力に不安はない。
右事実関係の下においては、被上告人らの希望に従い本件各土地等につき全面的価格賠償の方法による分割を命ずるとともに、上告人に対して本件各土地の持分につき被上告公社に対する持分移転登記手続を命じた原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでその違法を主張するものであって、採用することができない。
よって、裁判官遠藤光男、同藤井正雄の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官遠藤光男、同藤井正雄の補足意見は、次のとおりである(裁判官遠藤光男については、本補足意見のほか、後記の追加補足意見がある。)。
私たちは、法廷意見に同調するものであるが、全面的価格賠償の方法により共有物の分割を命ずる場合の判決主文の在り方について、意見を補足して述べておきたい。
1 裁判所が判決により全面的価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合には、当該共有物を取得する者にその対価たる価格の支払能力があることが不可欠の要件となる。この判決は、一方当事者(現物取得者)には判決確定と同時に共有物を単独で所有させる反面、他方当事者(対価取得者)には共有持分を失わせる対価として金銭債権を取得させるにとどまるから、その債権の回収可能性について不安を残したのでは共有者間の実質的公平を損なうことになるからである。そして、またこのことは、現物取得者の価格賠償義務の履行確保について、裁判所としての特別の配慮を要求することになる。
2 家事審判による遺産分割において、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて現物分割に代えるいわゆる代償分割の方法(家事審判規則109条)を採用した場合には、審判により創設される金銭債務の履行確保のため、(1) 金銭債務についての債務名義を形成すること(同規則110条、49条)のほか、(2) 利息、遅延損害金を付すること、(3) 担保権を設定することなどが考案され、実行されている。一方、民事訴訟としての共有物分割において全面的価格賠償の方法による分割を行う場合にも、裁判所が当事者間に共有持分移転の対価についての債権債務関係を非訟的に創設するのである(本件の第1審判決主文第1項の2及び第3項の2がこれに当たる。)が、その債権の履行請求は純然たる訴訟の領域に属する事柄であり、対価取得者の明示の申立て(原告が物件を取得するときは被告による予備的反訴の提起、被告が物件を取得するときは原告の予備的請求の追加)もないのに、右(1)に準じ、対価について給付判決をして債務名義を形成することはできないであろう。また、(3)の担保権の設定も、訴訟に親しむ事項とはいい難い。(2)の利息、遅延損害金の付加は、対価の額とその履行期の決め方に連なる問題であって、共有物分割訴訟に応用可能であるが、申立てなくして給付を命じ得ないことは(1)と同断であり、いずれにせよこれだけでは金銭債務の履行確保には必ずしも十分とはいえない。
3 共有物分割訴訟の多くは共有不動産に係るものであり、全面的価格賠償の方法による分割により現物の取得を希望する者が、取得する共有持分についての移転登記手続又はその物の引渡し(以下「登記手続等」という。)を請求することが少なくない。この場合、対価取得者から現物取得者への共有持分権の移転と現物取得者の対価取得者への金銭支払義務の負担は、共有物分割によって発生し、相互に対価関係に立ち、相牽連する関係にあるから、持分権移転に伴う登記手続等と金銭の支払とを関連的に履行させることが公平に適うものということができ、この両者の間に双務契約におけるのと同様の同時履行関係を認めるのが相当である。
しかし、このように同時履行関係があるといっても、当事者が常に同時履行の抗弁を主張するとは限らない。原告が全面的価格賠償の方法による分割を求めたのに対し、被告が現物分割を求めて強く争っている場合(本件がそうである。)に、被告から予備的にでも同時履行の抗弁が提出されることを期待することには限界がある。このような場合においてもなお、現物取得者の金銭債務の履行を確保する方策を講ずる必要があるからには、裁判所は、同時履行の抗弁の有無にかかわらず、その裁量により、登記手続等につき金員支払との引換給付を命じ得るとしなければならない。共有物分割訴訟がその本質において非訟事件であって、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、妥当な分割の実現を期したものである(最高裁平成3年(オ)第1380号同8年10月31日第1小法廷判決・民集50巻9号2563頁参照)ことからすると、事案に応じてこのような処理をすることも、裁量権の発動の一内容として許容され得るものと考える。現物取得者の信用度が高く、対価の額が比較的少額であって、金銭債務の履行につき全く不安視する要素がない場合を除き、右のように引換給付を命ずることを原則とする運用を考慮すべきであろう。
4 右の見地に立って本件の主文を見てみると、第1審判決は、被上告公社と上告人との間の共有土地の分割につき、第1項において、分割の方法として、本件各土地を被上告公社の所有とし、被上告公社は上告人に対し232万円余を支払うものとした上、第2項において、前項の裁判が確定したときは、上告人は被上告公社に右土地の共有持分120分の2について持分移転登記手続をすべきことを命じ、原審はこの第1審判決をそのまま維持しているのであり、価格賠償の履行確保の点で問題なしとしない。しかし、現物を取得する被上告公社は、地方公共団体の設立に係る公的な団体であり、これが負担する支払義務の額は自ら申し出た額そのままで、その者にとってさほど大きいものではなく、その公共的性格に由来する社会的信用度からみても、また、これまで本件各土地の他の12名の共有者からそれぞれの持分を買収する過程で代金支払に関して紛争の生じたことはうかがわれない実績に照らしても、被上告公社が定められた価格の支払を遅滞するおそれはないと認められるから、上告人に対し被上告公社への持分移転登記手続を命ずるにつき、右価格の支払との引換えにしなかった原審の判断に裁量の範囲からの逸脱はなく、これを是認すべきものと考える。
裁判官遠藤光男の追加補足意見は、次のとおりである。
私は、共同補足意見において述べたとおり、裁判所が全面的価格賠償の方法により共有物の分割を命ずる場合、現物取得者が求める登記手続等については、同時履行の抗弁の有無にかかわらず、対価支払との引換給付を命ずることができると考えるが、事案によっては、更に進んで、現物取得者が判決確定後一定期間内に右対価を支払うことを条件として共有物の権利を単独で取得する旨の判決を言い渡すこともできると考える。
1 全面的価格賠償の方法により共有物を単独で取得することを希望する当事者は、本訴又は反訴請求において、当該共有物についての登記手続等を併合して請求する場合が多いであろう。このような場合、裁判所が全面的価格賠償の方法により共有物分割を命ずるに当たっては、前記のような引換給付判決をすることにより、対価取得者が債権回収の可能性につき抱く不安の多くは、事実上解消されるとみてよい。けだし、現物取得者としては、裁判所が命じた対価を現実に支払わない限り、当該共有物を完全には取得することができないことになるからである。
2 しかし、共有物分割訴訟において、登記手続等が常に併合して請求されるとは限らない。現に、本件各請求のうち被上告人町の請求については、その分割対象が借地権であることもあり、登記手続等は一切求められていない。当然のことながら、このような場合には、前記のような引換給付判決をする余地はない。また、登記手続等につき引換給付が命じられたとしても、現物取得者が対価の支払を遷延しているうちにその支払能力に変化が生じ、これを支払うことができなくなった場合には、判決自体が宙に浮いてしまうこともあり得るであろう。契約関係を前提とした対価不払の場合とは異なり、判決によって形成された法律上の効果を契約解除の法理により解消させることは容易に認められ得るところではない。もっとも、その解決方法としては、引換給付を命じた判決自体において、対価支払の履行期を定め、右期間内にその支払がされなかった場合にはいったん命じた全面的価格賠償の方法による分割を失効させる手立てを講じておくことも考えられよう。しかし、判決により生じた形成の効果を後日一定の条件の下に失効させることを認めるのであれば、むしろ、初めからその効果の発生自体を一定の条件に係らしめておいた方が簡明というべきである。したがって、前記のような場合には、現物取得者が判決確定後一定期間内に判決の定めた価格を支払うことを条件として共有物の権利を単独で取得することを命じ得るものというべきである。
3 最高裁平成7(オ)第1684号同10年2月27日第2小法廷判決(裁判集民事187号207頁)における河合裁判官の補足意見は、この方式による判決主文を示唆されるものであるが、私も右意見に賛成するものである。けだし、共有物分割訴訟は、前述したとおり、その本質において非訟事件であり、裁判所の適切な裁量権の行使により共有者間の公平を保ちつつ妥当な分割が実現されることを期したものであるから、右のような判決主文を言い渡すことは、裁判所の裁量権の範囲を超えるものではなく、当然に許容されると考えるからである。
右判決主文は、形成判決の主文に条件を付するものであり、類例に乏しいが、右条件は飽くまで共有者間の実質的公平を確保するため付されるものにすぎず、判決の確定により従来の共有関係に変更を加えるという点において、他の形成判決と何ら異なるものではない。また、実質的に見ても、競売による代価分割にあっては、これを命ずる判決の確定により従来の共有関係は直接的には将来競売に付されるべきものに変更されるにとどまり、最終的な権利関係の変更は、現実に競売手続が開始され、例えば、不動産については代金の納付があって初めてもたらされるものであることと対比すると(民事執行法195条、188条、79条)、右判決主文は、共有物分割訴訟における裁量権の行使の在り方の1つとして、十分その相当性が肯定されるものと考える。
4 右のような判決主文を採用した場合、従来の共有関係は、判決確定と同時に条件付きのものに変更され、現実に対価の支払が行われ条件が成就することによって、共有物についての権利関係が最終的に変更されることとなる。そして、現物取得者の登記手続等は、右条件が成就したときに可能となり、あらかじめその請求がされていた場合には、右のような条件を付してこれを認容することとなる。裁判所は、通常は、右の主文による分割を命ずるとともに、対価の支払がされないまま期間が経過した場合につき更に別の方法による分割を命ずることとなろうが、原告が現物の取得を希望して共有物の分割を求め、裁判所がその希望に応じて価格を確定したにもかかわらず、原告がその支払を怠ったような場合には、被告において他の適当な機会に適宜の方法による共有物の分割を請求し得るように、あえて別途の方法による分割を命じないという取扱いをすることも許されよう。なお、支払能力の流動性を考慮すると、対価が支払われるべき期間については、判決確定後せいぜい半年程度が適当と思われる。
5 以上に述べたとおり、共有物の全面的価格賠償の方法による分割については、事案の内容に応じ、各種の方途によって共有者間の実質的公平の確保が図られることが必要であると考える。
原判決により維持された第1審判決の主文第3項は、被上告人町と上告人が共有する本件賃借権の分割を命ずるに当たり、分割の方法として、右借地権を被上告人町に単独で取得させた上、被上告人町に、上告人に対する176万円余の支払義務を負わせている。このような判決主文は、一般論として好ましいものとはいえないが、本件においては、現物取得者が地方公共団体であることに加え、共同補足意見4項に記載したような事情があることにかんがみると、右判決主文についても、原審の判断に裁量の範囲からの逸脱があるとは認め難く、これを是認すべきものと考える。
(裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)
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組合員のAさんは地主より、借地賃貸借契約解除の訴えを起こされたが、地主の主張を全て退ける判決を勝ち取りました。
地主の主張は、「①無断で妻に借地権の一部を譲渡した。②地主の署名と印を盗用し車庫証明を取得した。③地主の不動産業務を妨害した。④被告とは3度も訴訟があり信頼関係は破壊されたので契約を解除する」というものです。
Aさんは、「地主の主張は事実に反しているので棄却を求める」と主張しました。
昨年末、静岡地方裁判所は「1 原告の請求をいずれも棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする」と判決。
判決要旨は次のとおり。借地法4条1項但書については、最高裁大法廷昭和37年6月6日判決は「地主が更新を拒絶に必要な正当の事由を判断するには、単に地主の事情ばかりではなく、地主自ら土地を使用する場合でも、借地人がもつ必要性を参酌した上判定しなければならない」としている。妻への譲渡に地主は黙示的承諾していた。車庫証明申請には契約書の写しで足り、地主の承諾は不要である。境界線上の争いは、借地人の転居に伴う負担を考慮した立ち退き料を支払うつもりが無い。
本件契約は更新されており、地主の請求は理由がないのでこれを棄却する。
Aさんは「契約更新拒否の調停は不調。昨年4月裁判になりました。地主は偉いのだから借地人は従うのが当然という非常識な主張がすべて否定されたのは当然と思います。勇気を出して地主の横暴を糺せば勝利することを確信しました」と話しています。
全国借地借家人新聞より
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奈良市高畑地域の木賃住宅高畑アパートに居住する借家人3世帯は、(全借連新聞2010年11月号既報)の家主の代理人として大東建託(株)奈良支店から2010年10月ごろ一方的に立退きを迫られ、これを撤回させました。
今年11月6日、高畑アパートの敷地の一部を活用し、3階建ての賃貸マンションを11月12日から着工すると建築予定の図面が届けられました。ところが、住民が受け取った図面を見ると、住民の戸口から80センチ前に新たに駐車場を設置することが判明しました。
住民らは、大東建託が立退き請求をあきらめたものの、今度は排ガス騒音などの環境汚染と出入口に近接し家財道具の持ち出しを困難にし、避難口を封鎖する状態になっていることに怒っています。
11月12日、住民らは船越康亘大借連事務局長と奈良市役所建築課へ出向き、建築確認の閲覧を申請したところ、「建築確認申請書は提出されているが、認可をしていない」との応答がありました。
13日、住民は、大東建託が工事を着工していることを確認し、奈良市へ通報したところ、当日午後から担当者は現地へ出向き、「建築確認がされていない工事はできない。申請中の図面と住民に提供した図面が異なるので、現状では着工できない。また、駐車場の設置は、アパートから移動すること」を大東建託へ助言しました。
住民は、駐車場の設置場所を変更し確認申請どおりの工事となるよう今後は監視を続けていきます。
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判 例
平成24年2月3日判決言渡
平成23年(レ)第566号 放送受信料請求控訴事件(原審・松戸簡易裁判所平成23年(ハ)第1032号)
口頭弁論終結日 平成23年12月9日
日本放送協会と受信者との放送受信契約に基づいて発生する受信料債権が民法169条所定の債権に当たり,その支払い期限から5年間を経過した債権は時効により消滅したとされた事例 (千葉地方裁判所 民事第2部 平成24年2月3日判決)
判 決
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,1万1160円及びこれに対する平成23年10月1日から,支払済みの日が奇数月に属するときはその月の前々月末日まで,支払済みの日が偶数月に属するときはその月の前月末日まで2か月あたり2パーセントの割合による金員を支払え。
3 控訴費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,控訴人が,被控訴人との間の放送受信契約に基づき,被控訴人に対し,平成17年2月1日から平成23年3月31日までの放送受信料10万7110円及び約定遅延損害金(上記金額に対する,平成23年8月10日付け訴えの変更申立書が送達された日(同日)の属する月の翌々月の初日である平成23年10月1日から支払済みの日が奇数月に属するときはその月の前々月末日まで,支払済みの日が偶数月に属するときはその月の前月末日まで2か月あたり2パーセントの割合による金員)の支払を求める事案である。
原審は,控訴人の本訴請求のうち,9万5950円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,控訴人が,敗訴部分の取消し及び同部分の請求の認容を求めて控訴した。
2 前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決中の「第2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1) (本件受信契約における放送受信料と遅延損害金)及び(2)(本件受信契約が終了したか否か)について
原判決中の「第3 争点に対する判断」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点(3) 放送受信料が民法169条所定の債権に該当するか否か)について
(1) 甲6ないし10号証及び弁論の全趣旨によれば,控訴人の放送受信料債権は,受信者との放送受信契約に基づいて,放送受信契約者に対して発生するものであり,その具体的金額は放送受信契約の内容となっている日本放送協会放送受信規約の規定により確定し,年又はこれより短い時期ごと(被控訴人については2か月ごと)に所定の方法で支払われるものである。
このような控訴人の放送受信料債権は,基本権たる定期金債権から派生する支分権として,民法169条所定の債権に当たると解するのが相当である。
(2)ア 控訴人は,民法169条が適用される債権については,その基本権部分に民法168条が適用されることが前提となっているところ,放送法64条1項は,控訴人と受信設備を設置した者が放送受信契約を締結することを強制していることからすれば,放送受信料の債権の基本権部分は,20年間の不行使により時効消滅しないから,民法168条が適用されないと主張する。しかし,民法168条が適用されない永小作料,賃借料債権も民法169条の適用は認められており,民法168条の適用がないからといって当然に民法169条を適用する余地がないと解することはできず,上記主張は採用できない。
イ 控訴人は,放送受信料債権には,民法169条の立法趣旨が当てはまらないから同条の適用はないと主張する。しかし,同条が,年又はこれより短い時期によって定めた金銭等の給付を目的とする債権について5年間の短期消滅時効を定めた趣旨は,①弁済がないと直ちに債権者に支障が生ずる債権であるから速やかに請求され弁済されるのが通常であること,②通常それほど多額でないため受取証の保存が怠られがちであって後日の弁済の証明が困難であること,③定期金は長年放置された後に突然支払の請求をされると多額になって債務者が困窮することにあると解されるところ,これらの趣旨が,民法169条が適用されると解されている各債権と比して,放送受信料の債権に明らかに妥当しないとはいえず,控訴人の上記主張は採用できない。
控訴人は,上記③につき,債権者の債権不行使の懈怠に対するサンクションという趣旨が含まれているところ,控訴人の放送受信料債権については,支払がない場合に,債権者である控訴人に,放送受信契約を解除したり,先取特権等により優先弁済を得たりするという保護の手段が与えられていないことから,放送受信料の債権を行使しないことは懈怠に当たらないと主張する。しかし,放送法により規定された放送受信契約や放送受信料の債権の性質上,債権者である控訴人が上記手段を採り得ないとしても,控訴人は,訴訟提起等により未払受信料を回収すること自体は当然に可能であり,かつ,民法169条が適用されている他の債権の中にも,上記のような保護手段を与えられていないものも存することからすれば,上記主張は理由がない。
ウ 控訴人は,放送受信料は「控訴人の豊かで,かつ,良い放送番組による国内放送」を行うこと(放送法15条)と対価性のない特殊な負担金であるから,民法169条を適用することは実質的に不当であると主張する。
しかし,民法169条適用の前提となる定期金債権とは,年金債権のように,一定の金銭その他の代替物を定期に給付させることを目的とする債権をいうのであり,何らかの対価を要するものではないから,放送受信料の上記性格を前提としても,このことをもって,放送受信料に民法169条を適用することが不当であるということはできない。
3 争点(4) (時効の中断)について
争点(4)に対する判断は,原判決中の「第3 争点に対する判断」の4(1)及び(2)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 時効に関する判断のまとめ
上記2のとおり,控訴人の放送受信料債権の消滅時効期間は5年間と解すべきところ,被控訴人は,平成23年7月6日原審第2回口頭弁論期日において,控訴人に対し,本訴放送受信料債権につき,5年の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。他方,上記3のとおり,本訴放送受信料債権については,平成22年11月18日,時効中断が生じている。したがって,本訴放送受信料債権のうち,同日の時点でその支払期限から5年が経過していない平成17年10月分以降の債権については消滅時効が完成していないが,同年9月分以前の債権は,時効により消滅したというべきである。
5 結論
以上によれば,控訴人は被控訴人に対し,放送受信料合計9万5950円(平成17年10月から平成20年9月までの36か月における放送受信料5万0220円及び同年10月から平成23年7月までの34か月における放送受信料4万5730円)及びこれに対する各支払期限後である平成23年10月1日から支払済みの日が奇数月に属するときはその月の前々月末日まで,支払済みの日が偶数月に属するときはその月の前月末日まで,2か月あたり2パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求めることができる。
よって,控訴人の本訴請求のうち,9万5950円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し,その余を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 白 石 史 子
裁判官 村 松 悠 史
裁判官 酒 井 直 樹
<関連判例>
【判例】未払いNHK受信料、5年の短期消滅時効が適用される(旭川地裁平成24年1月31日判決)(1)
【判例】未払いNHK受信料、5年の短期消滅時効が適用される(旭川地裁平成24年1月31日判決)(2)
【判例】未払いNHK受信料、5年の短期消滅時効が適用される(旭川地裁平成24年1月31日判決)(3)
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判 例
平成11年7月13日最高裁 第3小法廷判決 平成8年(オ)第539号 通行権確認等請求事件
【要旨】 公道に1.45メートル接する土地上の建築基準法施行前からあった建物が取り壊された場合に同土地の所有者につきいわゆる接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が認められないとされた事例
【内容】 件名 通行権確認等請求事件(最高裁判所平成8年(オ)第539号平成11年7月13日 第3小法廷判決、一部破棄自判、一部差戻)
原審 大阪高等裁判所
主 文
原判決を破棄し、被上告人の主位的請求を棄却する。
被上告人の予備的請求につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
第1項の部分に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人中島三郎、同中島志津子の上告理由について
1 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯するに足りる。これによれば、本件の事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 大西甚太郎は、昭和24年当時、第1審判決別紙物件目録5記載の土地(以下「A番1の土地」という。)、これに隣接する大阪府北河内郡***町大字***A番地の5の土地(以下「旧A番地の5の土地」という。)のほか、右各土地上に存在する木造の長屋を所有していたが、同年12月2日、被上告人に対し、A番1の土地を売却した。
(2) 大西は、昭和32年5月28日、被上告人に対して旧A番地の5の土地のうち前記目録3及び4記載の各部分(以下、それぞれ、「本件東側通路」、「A番5の土地」といい、被上告人所有の各土地を合わせて「被上告人所有地」という。)並びに4戸から成る前記長屋のうち被上告人所有地上にある3戸(以下「旧被上告人所有建物」という。)を、高橋貞良に対して旧A番地の5の土地のうち公道と約13.42メートルにわたって接する残りの部分(以下「上告人所有地」という。)及びその上にある前記長屋のうちの残りの1戸(以下「旧上告人所有建物」という。)を売却した。右各売却に係る上告人所有地と被上告人所有地の位置関係は、第1審判決別紙図面(1)のとおりであり、右のころ、旧A番地の5の土地については前同所A番5及び同番9の各土地に分筆する登記が、前記長屋については右のとおり分棟する登記がされている。なお、旧被上告人所有建物の居住者は、公道との出入りに関し、幅員1.45メートルの本件東側通路のほか、上告人所有地のうち西側の前記目録2記載の幅員1.25メートルの部分(以下「本件西側通路」という。)を利用していた。
(3) 上告人所有地及び旧上告人所有建物は、昭和38年3月25日、高橋から青諭に対して譲渡され、さらに、昭和43年6月3日、青から上告人に対して譲渡された。
(4) 上告人は、昭和47年8月、旧上告人所有建物を取り壊し、同年11月、建物(以下「上告人所有建物」という。)を建築した。上告人所有建物は、上告人所有地を敷地とし、その東側の幅員約1.2メートルの部分(以下「玄関前部分」という。)及び本件西側通路を除く部分に、玄関を東向きに構えて配置され、玄関前部分の南端及び東端に沿って、コンクリートブロック塀(以下「本件ブロック塀」という。)が設置された。
(5) 被上告人は、平成2年、旧被上告人所有建物が老朽化したため、これを取り壊した。
(6) 現在、上告人所有建物は、第三者に賃貸されて飲食店として利用されており、被上告人所有地は、更地となっている。なお、上告人所有地及び被上告人所有地の付近は、いわゆる住宅地となっている。
2 本件において、被上告人は、主位的請求として、建築基準法43条1項本文は建築物の敷地は原則として同法所定の道路と2メートル以上接しなければならない旨定めているところ(以下、右規定が定める原則を「接道要件」という。)、被上告人所有地は、接道要件を満たしておらずその用法に従って宅地として使用することができないから、袋地に当たり、被上告人は上告人所有地のうち玄関前部分に含まれる原判決別紙係争地目録記載の幅員0.55メートルの部分(以下「本件係争地」という。)につき囲繞地通行権を有すると主張し、上告人に対し、右の旨の確認、本件ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去等を求めている。
原審は、次のように判示して、被上告人の主位的請求を認容した。
(1) 被上告人所有地は、宅地として利用することがその用法に最もかなっているが、現状のままでは、接道要件を満たさないため、建築物を建築することができない。したがって、被上告人所有地は、袋地状態にあるというべきである。
(2) 本件東側通路は従前からいわゆる生活道路として使用されていたこと、本件ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去に要する費用は20万4000円程度にすぎず被上告人はこれを負担することを申し出ていること、被上告人は本件係争地を通路として確保することができれば本件西側通路の通行権に関する主張を放棄することを申し出ていること、本件係争地が使用できなくなると上告人所有建物の出入口はやや手狭になり建物の印象が低下するおそれがあるものの、本件係争地を通路に提供することによる損害については上告人は被上告人に対して償金を請求することも可能であることなどを考慮すると、被上告人の本件係争地に関する囲繞地通行権の主張には、理由がある。
3 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
民法210条は、相隣接する土地の利用の調整を目的として、特定の土地がその利用に関する往来通行につき必要不可欠な公路に至る通路を欠き袋地に当たる場合に、囲繞地の所有者に対して袋地所有者が囲繞地を通行することを一定の範囲で受忍すべき義務を課し、これによって、袋地の効用を全うさせようとするものである。一方、建築基準法43条1項本文は、主として避難又は通行の安全を期して、接道要件を定め、建築物の敷地につき公法上の規制を課している。このように、右各規定は、その趣旨、目的等を異にしており、単に特定の土地が接道要件を満たさないとの一事をもって、同土地の所有者のために隣接する他の土地につき接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない(最高裁昭和34年(オ)第1132号同37年3月15日第1小法廷判決・民集16巻3号556頁参照)。
ところで、本件において被上告人が囲繞地通行権を主張する理由は、被上告人がその所有地と公道との往来通行をするについて支障が存在するからではなく、現存の通路幅では本件係争地の奥にある被上告人所有地上に建築物を建築するために必要な建築基準法上の接道要件を満たすことができないという点にある。しかしながら、前記の事実関係の下において、被上告人が平成2年に旧被上告人所有建物を取り壊し被上告人所有地に対して接道要件に関する規定が適用されることとなった当時、本件係争地は既に建築基準法上も適法に上告人所有建物の敷地の一部とされていたのであって、後に、もし、これを重ねて被上告人の建築物の敷地の一部として使用させたならば、特定の土地を一の建築物又は用途上不可分の関係にある2以上の建築物についてのみその敷地とし得るものとする建築基準法の原則(同法施行令1条1号参照)と抵触する状態が生じ、上告人所有建物は同法所定の建築物の規模等に関する基準に適合しないものとなるおそれもある。そのような事情をも考慮するならば、右被上告人の主張を直ちに採用することのできないことは明らかであり、原審の前記判断は、奥の土地の所有者の必要を配慮する余り、法令全体の整合性について考慮を欠くものといわなければならない。
以上の次第で、原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものというべく、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、右に説示したところに徴すると、被上告人の主位的請求は理由がないから、これを棄却すべきである。しかし、被上告人の予備的請求については、更に審理を尽くさせる必要があるから、同請求につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)
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6月23日、全借連と東借連共催で更新料問題の学習会が東京都豊島区で開催されました。
これは東借連と東借連常任弁護団が7月中旬に「更新料解決マニュアル・その更新料払う必要ありません」(旬報社)の出版予定の本を記念して計画されました。
当日は、このような勉強会に初参加という人も含め45名の方が参加しました。
生駒勝美東借連副会長の司会ではじまり、佐藤富美男東借連会長が「この本の出版を機会に更新料問題について大いに学び、借地借家法に規定のない意味のわからない更新料や礼金、敷引きなどの慣習をなくしていく運動を巻き起こそう」と挨拶しました。
その後に枝川充志弁護士(東借連常任弁護団所属)が講演しました。枝川弁護士は自らがかかわった東京高等裁判所での更新料裁判で、裁判長自らが更新料支払いの和解をすすめたが、借地人(東京・台東借地借家人組合の組合員)の強い決意でこれを拒否した結果、支払いを認めない判決を勝ち取った経験を紹介しながら更新料問題の説明をしました。
今、調停でも調停委員がまた、裁判でも和解をすすめ何とかして更新料を払わせる動きがある中で、今回の判決は重要であるとともに更新料問題の正しい知識をもって頑張ることの必要性を本の紹介とともに行いました。
その後、参加者から法定更新中の増改築や修理修繕についてなどの質問や更新料問題で組合に入会して更新料支払わずにがんばっている経験発表などが行われました。
参加者からは「若い人の非正規雇用などから考えると時代遅れです。こんなものがなくなればよいと思います」「じかに法律家の話が聞くことができて、話の内容も具体的で更新料とは何か、どう対応するかについてよくわかりました」「現在、地主と話し合い中です。地主の更新契約書には納得できません。今回の学習会、大変勇気がでました」「今後、更新料をなくすための運動を進めていかなければならないと意をあらたにしました」などの感想がだされました。
全国借地借家人新聞より
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大田区西六郷地区で約19坪を賃借しているAさんは、地主の代理人となった不動産業者から連絡があり面会すると、平成24年6月30日の契約期間満了を控えて約20%の地代の値上げと坪当たり6万円の更新料を請求された。
Aさんは、組合総会参加し事務所を訪ねて、支払い義務のない更新料をなくす運動を理解している。更新料は支払わないし支払い義務がないことを即答。さらに、組合員であることを通告すると業者の担当者は驚き、「組合員なのか。組合の方針は分かるが再度検討してほしい」といわれAさんはその足で組合事務所を訪ねた。
方針通り更新料支払いを拒絶、通路が狭く建築許可が不可能な土地ですでに高額な地代であり値上げも拒否、地代の供託も確認した。
翌日、Aさんは業者に意向を伝えると、更新契約書は作成せず、地代値上げも更新料請求も撤回することで決着した。
東京借地借家人新聞より
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平成24年度は固定資産税・都市計画税の評価替えを行う基準年度で、固定資産税を算出する土地の評価額は23年1月1日地点の公示価格の7割を目途に算出される。
地方税法の改正で、左の表にあるように住宅用地の負担調整措置が変わり、今年度の評価額の6分の1(200平方メートルを超える部分は3分の1)に対する前年度の課税標準額の割合(負担水準)が、100%未満~80%以上の据置特例が平成26年度で廃止され、平成24年度・25年度は負担水準90%以上~100%未満の場合のみ前年度課税標準額で据え置かれ、負担水準が90%未満の場合は表の計算式のように僅かに増税となる。このような負担調整措置は、地価が大幅に上昇した時に課税標準額を低く抑え、税負担の上昇を年間5%以内になだらかに上昇させるためにとられた措置で、平成24年度に評価額が前年より下がっていても負担水準の割合によって増税となるところがある。
6月1日以降の納税通知が地主のところに届くと、僅かな増税でも地代値上げのチャンスとばかり、地代の値上げ請求が予想される。
東借連では組合員が借地している宅地の平成24年度の固定資産税と都市計画税の調査を呼びかけ、地代の便乗値上げを抑えるとともに、今まで固定資産税・都市計画税が下がっているにもかかわらず地代が下がっていないところでは、地代値下げの運動を呼びかけている。
借りている宅地の固定資産課税台帳の閲覧と固定資産評価証明書の発行は、平成15年度より借地借家人も利害関係人として認められている。閲覧及び証明書の発行を都税事務所(多摩地域は市の固定資産税課)に求める場合には、賃貸借契約書及び賃借料を支払っている領収書等が必要で、申請者の身分証明書も持参することが必要である。
なお、都税事務所によっては賃貸借契約書がなく、地代を供託中の場合は借主であるあることが確認できないという理由で証明書の発行等を拒否される場合がある。
東京借地借家人新聞より
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伊勢原市白根のアパートに6年居住してきたAさんに家主から建物老朽化による建て替えを理由に明渡の通知がありました。Aさんは、困惑の末、消費者センターに問い合わせて組合に相談に訪れました。
組合と協力して対処することを確認して家主との折衝を粘り強く重ね、平成23年8月より家賃受領拒否となりました。供託を継続して頑張り続けた結果、家主側よりAさんの要望事項を全面的に受け入れる確認書が提示されました。
*提示内容*
1、移転先契約費用全額負担
2、引越し運搬費用全額負担
3、室内の残置物品(ゴミ)の一切処理
4、敷金全額返還
上記の内容提示にてAさんは、組合の協力のお蔭で、結果的に大変喜んでいました。
全国借地借家人新聞より
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豊島区南池袋の分譲マンションの一室を賃貸の居室として住むAさんは入居してすぐに様々な不具合に遭遇した。風呂のドアーがきちんと閉まらない、換気扇が回らず湿気が取れない、玄関ドアーの修繕など入居する際には想像できないことなどが生じた。
家主の代理人と称する不動産会社に連絡すると様々な理由をつけて修繕を行わなかった。そこで、家賃の支払いをストップすると通告すると、一部についてはその修繕を行った。その結果、家賃の一部を支払ったが、それ以上進展がなかったので再び家賃の支払いを6ヶ月ストップしたところ、家主の代理人という弁護士から家賃の督促が内容証明書で郵送されてきたが受け取りを拒否した。保証会社にも相談したところ、保証会社の社員は「私から家主に話してみます」と言ったので放置していたところ明渡しの裁判になった。この時点で組合に相談にきた。
組合は修繕が必要な場合は逆に内容証明書で家主に通告し、それでも修繕をしない場合に借主が修繕を行い、後日支払ってもらうか家賃で相殺するなどの方法でしないと今回のような明渡し裁判になってしまことを説明し、とりあえず弁護士と話し合うことをアドバイスした。
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足立区内で125坪の借地をしているAさんは6年前、母親からアパートの管理を任され、自分なりに工夫して常に満室状態にすることを心がけてきた。
地代について都税事務所で借りている土地にかかる税金を調べてみると何と、税金の約15・2倍の地代を支払っていることが判明。Aさんはご近所の人から教えられた組合に地代の値下げについて相談した。
父親が昭和39年に借地権付き建物を購入して土地賃貸借契約を結び、3年後に工場・事務所を建築し、昭和49年には旧建物を撤去し、地主の承諾を得てアパートを新築した。地代は昭和52年から平成12年までは毎年改定され、10万円を超えた。この間に、昭和59年と平成12年の更新時には更新料3百数十万円で合意更新した。両親はこれまで地主の言いなりできてしまった。
組合役員からの地代の値下げは借地人の方から要求し、地主が合意すれば決まるが、合意しない場合は調停裁判にしなければならず、決着がつくまでは地代は現行額で支払わなければならない。調停で合意しなければ値下げは決まらず、最終的には裁判で決着することになり相当のエネルギーが必要と説明された。
Aさんは組合に入会してまずは地主に会って値下げ交渉を始めることにした。
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名古屋地方裁判所 平成19年3月30日判決言渡し
平成17年(ワ)第45号 工作物収去等請求事件
平成17年(ワ)第737号 損害賠償反訴請求事件
判示事項の要旨
建物新築工事請負契約において,施主が基礎工事の施工不良を理由に工事のやり直しを要求したにもかかわらず,請負業者が同要求を拒絶し事態が膠着した事案において,請負業者の仕事完成義務が履行不能となったものと判断し,施主の請負業者に対する解除による原状回復請求及び損害賠償請求の一部を認容した事例
主 文
1 被告は,原告に対し,978万5000円及びこれに対する平成18年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 被告の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを10分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,1項に限り仮に執行することができる。
事 実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告は,原告に対し,1788万5000円及びこれに対する平成18年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 主文3項と同旨。
(3) 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,被告の負担とする。
(4) (1),(3)につき仮執行宣言
2 被告
(1) 原告は,被告に対し,142万0858円及びこれに対する平成16年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告の負担とする。
(4) (1),(3)につき仮執行宣言
第2 当事者の主張
(本訴について)
1 本訴請求原因
(1) 原告は,介護事業等を目的とする株式会社である(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条1項)。
被告は,建築請負業等を目的とする株式会社である。
(2) 原告は,平成16年9月7日,被告との間で,原告を発注者,被告を請負人とし,以下の約定で木造平家建て建物の建築工事請負契約を締結した(以下,同契約を「本件請負契約」といい,同契約よる建築工事を「本件建築工事」という。)。
ア 工 事 名 有限会社シマ企画デイサービス新築工事
イ 請負代金 2887万5000円
ウ 工 期 着 手 平成16年9月7日
完 成 平成17年1月15日
引渡日 完成の日から7日以内
(3) 原告は,平成16年9月7日,被告に対し,本件請負契約の報酬の一部として800万円を支払った。
(4) 被告の作業員が,同月24日,基礎工事であるコンクリート打設工事(以下「本件打設工事」といい,これにより打設されたコンクリートを「本件コンクリート」という。)を行ったが,本件コンクリートには以下の欠陥があった。
ア 本件打設工事は豪雨の中で行われ,生コンクリート中に大量の雨水が混入したため,本件コンクリートの表層部には,骨材の含有量が少なく水と石灰などのコンクリート中の不純物が溶け合わさってできたコンクリート工学上,強度が零とされているレイタンス層が形成されたほか,コンクリート中には養生材が巻き込まれているなど,本件コンクリートの品質は劣悪である。
イ 本件打設工事に使用された生コンクリートの配合及び同工事の施工方法は,日本建築学会の建築工事標準仕様書の規定に反する。
ウ 本件請負契約上,コンクリートの圧縮強度は1平方ミリメートル当たり21ニュートンとされていたのに,本件打設工事では,圧縮強度が1平方ミリメートル当たり18ニュートンの生コンクリートが使用された。
(5) ア 原告は,同月27日及び28日,被告に対し,本件コンクリートに欠陥がある旨主張し,工事の中止を指示するとともに,基礎工事をやり直すよう求めたが,被告はこれを拒絶した。
イ 以上により,本件請負契約の仕事完成義務は履行不能となった。
(6) 原告は,同年10月20日,被告に対し,本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。
(7) ア 本件コンクリートは現在も残存したままであり,原告は,今後,これを除去しなければならないところ,その撤去費用として,178万5000円を要する。
イ 原告は,被告の債務不履行によって,本件建築工事により完成した建物において福祉事業を営むことで当然得られるべきであった利益を得られなかった。この逸失利益は,810万円を下らない。
(8) よって,原告は,被告に対し,本件請負契約の債務不履行解除による原状回復請求権に基づき800万円,本件請負契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき988万5000円及びこれらに対する平成18年12月20日付け訴え変更の申立書送達の日の翌日である同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 本訴請求原因に対する認否,反論
(1) 本訴請求原因(1)ないし(3)の事実は認める。
(2) 同(4)の事実は,否認する。
(3) 同(5)アの事実は認める。
同(5)イは争う。
(4) 同(6)の事実は認める。
(5) 同(7)の事実は否認する。
3 本訴抗弁(帰責事由の不存在)
(1) 本件打設工事中,生コンクリートに雨水が混入することはほとんどなく,本件コンクリートに欠陥はない。
本件コンクリートの表面状況は,被告が表面仕上げをしようとした時点で,原告が工事の中止を指示したため,これが不可能になった結果である。
本件請負契約の工事内訳書には「FC−21N」(圧縮強度1平方ミリメートル当たり21ニュートンの趣旨)との記載があるが,これは誤記であり,原告と 被告との間では,通常,木造平家建ての建物の基礎として必要な強度で足りるものとされており,圧縮強度は1平方ミリメートル当たり18ニュートンで足りる。
(2) 被告は,平成16年9月27日,原告に対し,既設のコンクリートの上に更に10センチメートルの鉄筋コンクリートを打ち増しする補強案を提案した。 仮に本件コンクリートが不十分なものだとしても,このような補強を行えば地盤に基礎をつくるよりもはるかに強固な基礎となる。
しかし,原告は,一旦はこのような補強を行うことで被告と合意したのに,これを撤回し,打ち直しを要求してきた。
4 本訴抗弁に対する認否
本訴抗弁事実は否認する。
(反訴について)
1 反訴請求原因
(1) 被告は,平成16年9月7日,原告との間で,本件請負契約を締結した。
(2) 原告は,同年10月1日,民法641条により本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。
(3) 被告は,前項の解除により,以下の損害を被った。
ア 基礎工事費(仮設工事,設計費用等を含む)・・・・・・・・・・・・・・・・208万8246円
イ 契約印・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1万5000円
ウ 大工補償費(30日×2万5000円)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75万0000円
エ プレカット図面作成その他打合せの費用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20万0000円
オ 鋼製建具,工事準備費用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10万0000円
カ 電気・給排水衛生設備工事図面作成等準備費用・・・・・・・・・・・・・・30万0000円
キ 官庁確認申請費用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1万9000円
ク 逸失利益(工事総額に対する20パーセント)・・・・・・・・・・・・・・・・・・550万0000円
小 計 897万2246円
消費税 44万8612円
合 計 942万0858円
(4) 被告は,平成16年11月8日,原告に対し,142万0858円(ただし,前項の損害から本件請負契約の既払い代金800万円を控除したもの)を支払うよう催告した。
(5) よって,被告は,原告に対し,本件請負契約の民法641条による解除に伴う損害賠償請求権に基づき142万0858円及びこれに対する催告の日の翌日である平成16年11月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 反訴請求原因に対する認否,反論
(1) 反訴請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実は否認する。
(3) 同(3)の事実は否認する。
(4) 同(4)の事実は認める。
理 由
第1 本訴について
1 本訴請求原因(1),(2),(3),(5)ア,(6)の事実は,当事者間に争いがない。
2 事実の経過
当事者間に争いのない事実に証拠(甲2ないし4,5の1・2,6ないし9,19,28,33,47,49,乙1ないし6,31,36,39,40)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,平成16年9月7日,被告との間で,本件請負契約を締結し,被告に対し,本件請負契約の報酬の一部として800万円を支払った。
本件建築工事は,愛知県尾張旭市a町b丁目cを建築場所とし,老人福祉施設を用途とする,1階建て木造建物の建築工事であるところ,基礎は,建物面積と同面積の単一基礎スラブを設ける,べた基礎が採用された。本件請負契約の契約書添付の明細書には,基礎工事のコンクリートの摘要欄に「FC−21N」(圧縮強度1平方ミリメートル当たり21ニュートンの趣旨)との記載がある(甲2,49・4頁)。
(2) ア 被告の作業員は,平成16年9月24日,地盤上に単一基礎スラブを設置するコンクリート打設工事(本件打設工事)を行った(甲33)。
同日の中日新聞の朝刊には,同日の名古屋の天候につき,午後3時まで曇,午後3時から雨,降水確率は60パーセントとの予報が掲載されていた(甲19)。
イ 同日の降雨量は,尾張旭市消防本部気象観測装置によれば,以下のとおりであるとされている(乙40)。
午前1時台 5.0ミリメートル
午前2時台ないし午後0時台 0.0ミリメートル
午後1時台 1.5ミリメートル
午後2時台 0.5ミリメートル
午後3時台 13.5ミリメートル
午後4時台 3.5ミリメートル
午後5時台 0.0ミリメートル
午後6時台 0.0ミリメートル
大雨・洪水警報が,同日午後3時19分に,本件建築工事の現場を含む愛知県尾張・西三河北部を対象区域として発令され,同日午後8時25分に,解除されている(甲9)。
ウ 本件打設工事に使用する生コンクリートは,以下のとおり,ミキサー車6台に分けて工事現場に納入され,被告の作業員は,順次,基礎の型枠に生コンクリートを打設した(乙1ないし6)。
1台目 午後1時29分 納入容積5.0立方メートル
2台目 午後1時45分 納入容積5.0立方メートル
3台目 午後2時05分 納入容積5.0立方メートル
4台目 午後2時25分 納入容積5.0立方メートル
5台目 午後2時55分 納入容積5.0立方メートル
6台目 午後3時20分 納入容積2.5立方メートル
強い雨が同日午後3時ころ降ってきたが,被告の作業員は,生コンクリートの打設の途中であったため,これを続行し,作業完了後,打設部分に養生材(ポリエチレンシート及びビニールシート)を被せて養生をした(乙39)。
このとき原告代表者の夫は,雨の中,被告の作業員が生コンクリートを打設している様子を目撃していた(甲13,47)。
(3) 原告代表者は,夫から上記のような本件打設工事の状況を聞き,本件コンクリートには重大な欠陥があり,基礎工事をやり直す必要があると考え,平成16年9月24日午後7時ころ,本件建築工事の現場監督を務めていた被告従業員Aに対し,工事の中止を指示するとともに,既設のコンクリートを撤去して基礎工事をやり直すよう要求した(甲47,乙36)。
原告代表者,同人の妹,被告代表者及びAは,同月27日午前9時ころ,原告代表者の自宅において,本件打設工事について協議した。その際,被告代表者及びAは,原告代表者に対し,既設のコンクリートの上に更に10センチメートルの鉄筋コンクリートを打ち増しする補強案を提案した。原告代表者は,一旦は同補強を行うことに積極的な姿勢を見せたが,同日中に,被告に対し,再び基礎工事のやり直しを要求した(甲47,乙36)。
原告代表者,同人の夫,被告代表者及びAは,同月28日午後7時ころ,再度,原告代表者の自宅において,協議した。原告代表者らが,コンクリートに関する文献を示して「降雨時のコンクリート打設により30パーセントは強度が下がる。」などと主張したのに対し,被告代表者らは,「本件においては強度の低下はない。」旨説明するとともに,上記補強案を再度説明した(甲28)。原告代表者らは,既設のコンクリートと補強部分のコンクリートとの接合部に隙間が生じることに難色を示し,改めて基礎工事のやり直しを要求したが,被告代表者らはこれに応じなかった(甲47,乙36)。
被告の専務取締役であるBは,同月29日,原告代表者の自宅を訪問し,同人と本件打設工事について協議したが,両者の姿勢に変化はなく,話し合いが付かなかった(乙36)。
原告代表者は,同月30日,被告代表者に対し,電話で,本件請負契約を解除する旨告げた(甲47,乙36)。
(4) 被告は,平成16年10月1日午前9時ころ,原告に対し,原告から要求のあった「レディーミクストコンクリート納入書」と題する書面をFAXにより送信した。同書面は,本件打設工事に使用された生コンクリートの納入業者である名東生コン株式会社が作成した書面であり,平成16年9月24日午後3時20分に6台目のミキサー車により2.5立方メートルの生コンクリートが工事現場に納入されたことを示すものである(甲8)。
また,原告は,同日ころ,被告に対し,本件打設工事に使用されたコンクリートの配合報告書を提出するように要求し,同要求を受けた被告は,名東生コン株式会社に対し,同報告書を提出するように手配した。
原告代表者は,同日ころ,被告代表者に対し,「通知書」と題する書面を送付した。同書面には「降雨予報が出ていたにも拘らず9月24日午後3時過ぎ雷を伴う激しい降雨の中での基礎コン打設作業を断行した事は,根本的工事ミスであります。すなわち水/セメント比はコンクリートの強度に直接的に関係しているという公知の事実より,本工事におけるコンクリート性能に著しい強度,耐久性不足が生じる事は必至であります。このような基礎技術を軽視する工法は納得できません。毎回このテーマで話し合いを重ねて参りましたが御社にご同意頂けず誠に残念です。こうした理念での工事の続行は承服出来ない為昨日午前9時半社長に電話でお話しした通り契約の解除を求めると共に契約時支払金800万円の返還を求めます。」と記載されていた(甲3)。
被告代表者は,同月4日ころ,原告代表者に対し,上記書面に対する回答として「回答書」と題する書面を送付した。同書面には「当社としましては,貴社からの本件申し出は,立上がり布基礎打設前の基礎ベタコンクリート工事であることから,雨天の中で施工したために重大なる瑕疵の発生や将来請負契約締結の目的を達成することができない程の問題が発生したとは理解しておりません。即ち,貴社の契約解除は,解除原因が存在しないと思料いたします。」との記載のほか,民法641条により注文者はいつでも請負人の損害を賠償して請負契約を解除できること,後日,原告に対して工事出来高部分の費用,損害賠償額を提示することが記載されていた(甲4)。
名東生コン株式会社は,同月8日,被告の手配に従い,原告に対し,「レディーミクストコンクリート配合報告書」と題する書面をFAXにより送付した。同書面は,本件打設工事において使用された生コンクリートの「配合の設計条件」,「使用材料」,「配合表」などが記載された書面であり,その圧縮強度は1平方ミリメートル当たり18ニュートンとされていた(甲7)。
(5) 原告代理人弁護士江尻泰介及び同岡耕一郎は,平成16年10月19日付けの内容証明郵便をもって,被告代表者に対し,「通知書」と題する書面を送付し,同書面は同月20日に到達した。同書面には,「激しい降雨の中でコンクリート打設工事を行うことはありえない,との意見を複数の建築業者からいただいており,また加水されたコンクリートの強度,耐久性が劣ることは諸文献からも明らかであります。さらに,そのような基礎コンクリートは補強工事で修補できるものではなく,このような瑕疵のある土台の上に建物の建築を行うことは将来的に建物の不等沈下やキレツが発生することになるともされています。従って,当社は民法635条に基づき,本書面をもって改めて貴社との間の請負契約を解除したことを通知致します。」との記載のほか,原告の契約解除は民法641条による解除ではないこと,既払い金800万円の返還,工事現場の原状回復,原告のデイサービス事業が遅れたことによる損害賠償を請求することが記載されていた(甲5の1・2)。
被告代理人弁護士高柳元及び同宇田幸生は,同年11月2日ころ,内容証明郵便をもって,原告代理人弁護士江尻泰介に対し,「通知書」と題する書面を送付した。同書面には,本件打設工事では,ブルーシート等により生コンクリートへの雨水の浸入を防ぎつつ生コンクリートの打設を行っており,打設面への雨水の浸入はほとんど問題ないこと,そもそも生コンクリートと雨水とは比重が異なるため,両者が混ざることはなく,コンクリート強度に影響が生じることはないことのほか,解除に伴う損害賠償として142万0858円(ただし,既払い金800万円を控除した後の損害額)の支払を請求することが記載されていた(甲6)。
3 本訴請求原因(4) (本件コンクリートの状態)について
証拠(甲10,11,15,22,31,37,乙37)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 均質に練り混ぜられたコンクリートは,どの部分をとってもコンクリートを構成するセメント,水,細粗骨材などの構成比率は同一であるが,この均質性が損なわれる現象を分離という。分離の程度によってはコンクリートの性質に悪影響を及ぼさない場合もあるが,一般的には,分離は施工上著しい障害となったり,硬化したコンクリートの強度や構造物の美観,耐久性を阻害する。分離防止のためには,配合設計,運搬,打設,締固め,型枠,配筋等のあらゆる面からの配慮が必要である。
型枠に打ち込まれたコンクリートにおいて,セメント・骨材が沈降し,水が上面に集まる現象をブリージングという。ブリージングに伴ってセメント中の比重の軽い成分,例えば,石こうや骨材中の泥分などが上面に集まり,レイタンスと呼ばれる層をつくる。
レイタンスは,セメント中の水と水和反応を示さない成分がコンクリート打設後に混練水に溶け込んで上昇し,コンクリート表面にしみ出した後,水分が蒸発した後に残った白色の未水和の成分であり,硬化後の強度は零である。
コンクリート打設中には雨水がコンクリートの表面にかからないように作業しなければならない。コンクリート表面に雨水がかかった場合は,表面の雨水を速やかに排水するとともに,表層部のコンクリート中に侵入したと考えられる厚み分のコンクリートをめくり取り,新たに生コンクリートを打設し,ブリージングが終了するまでコテ入れ作業を行ってから,養生を施して作業を終了させる(甲31,37)。
(2) 本件コンクリートは,べた基礎として建物と同面積に設置された厚さ13センチメートルの鉄筋コンクリートである。本件コンクリートの表面には,広範囲にわたり石こう様に白色がかった部分があり,被告の作業員が使用した養生材(ポリエチレンシート及びビニールシート)のシワによりできた凹凸や雨水が養生材の上又は生コンクリート上を流動又は滞留してできた凹凸が随所にあるほか(甲10,11,37,乙37),剥離したコンクリートの破片が多数落ちている(甲15,22,37)。また,コンクリートに埋没した養生材(ポリエチレンシート及びビニールシート)の一部がコンクリート表面に出ている部分が2か所あるほか,コンクリート表面を深さ約2センチメートル削って採取されたコンクリート片の内部には,ポリエチレンシートが挟まれていた(甲15,37)。
上記石こう様に白色がかった部分は,コンクリートの上層部に形成されたレイタンス層であり,厚さ約2センチメートルに及ぶところもある。この層は,ブリージングによる水分の上昇と降雨により,比重の小さい微細な粒子と水が混合したのろ状の物質が上記のような措置により除去されることなく硬化して生じたものであり,その強度は零に等しい。本件コンクリートの表面に落ちている多数の剥離片は,これが剥がれたものである。また,養生材がコンクリート内に埋没しているのは,被告の作業員が上記のろ状の部分を放置したまま上から養生材を被せて作業を終了したため,その後の降雨により養生材の上に滞留した雨水の重みなどによって,養生材の一部が上記のろ状の物質に沈み込み(これにより硬化前の生コンクリート上に雨水がさらに注がれたものと推認できる。),コンクリートの上層部が養生材を浸したまま硬化したことによるものである。この部分のコンクリートは連続性を欠いている(甲37)。
以上からすれば,本件コンクリートは,強度上重大な欠陥があるといわざるを得ず,上部構造の広範囲な面積内の加重を地盤に伝えるべき建物の基礎に使用されるコンクリートが有すべき性能を欠くものと認められる。
この点,被告は,本件コンクリートに欠陥はないと主張し,「べた基礎のコンクリートには設計基準強度1平方ミリメートル当たり18ニュートンの普通コンクリートを採用する」旨記載された文献(乙32)のほか,琉球大学工学部教授Cの意見書(乙41),降雨量30ミリメートルにおけるコンクリート強度に関する報告書(乙43,44ないし46の各1~3)を提出する。上記意見書は,原告が主張する水セメント比及び単位水量の算定が不適切であること,原告が提出したシュミットハンマーテスト報告書(甲14)の計算式が不適切であり,適切な計算式によれば,測定地点すべてにおいて圧縮強度1平方ミリメートル当たり18ニュートンを超えていること等を指摘するものである。
また,上記報告書は,本件打設工事の再現実験を行った結果,すべてのテストピースにおいて圧縮強度1平方ミリメートル当たり18ニュートンを超えたこと等を報告するものである。
しかし,上記認定の本件コンクリートの欠陥は,レイタンス層の存在及び養生材の埋没による本件コンクリートの品質の粗悪を指すものであり,上記各証拠はこの点を直接反駁するものではない(かえって,上記意見書は「降水により,水セメント比,単位水量,そして分離傾向も増したであろうことは否定しない」と指摘している。)。上記認定の本件コンクリートの欠陥を指摘する愛知工業大学工学部教授Dの鑑定書(甲37)に照らし,この点に関する被告の主張は採用できない。
4 本訴請求原因(5)イ(履行不能)について
上記2,3の認定事実からすると,原告代表者は,平成16年9月24日,本件打設工事が雨の中で行われたことなどから,本件コンクリートには重大な欠陥があり基礎工事をやり直す必要があると考えるとともに,そのような工事を行った被告に対し不信感を抱くこととなったこと,原告代表者は,工事の中止を指示して以来,一度被告の補強案に積極的な姿勢を示したことがあった外は,一貫して基礎工事のやり直しを求めたが,同月27日,28日及び29日と協議を重ねても被告代表者らがこれに応じようとしなかったため,不信感を強めていったこと,その結果,原告代表者は,同月30日及び同年10月1日,被告に対し解除を通告し,その後も考えをひるがえすことなく,事態が膠着化したことが認められる。
これらの事実からすれば,弁護士である江尻泰介らが原告の代理人となり,被告代表者に対し,本件請負契約を解除する旨の内容証明郵便が到達した同月20日には,もはや被告において本件建築工事を完成できないことは確定的な状態となっており,本件請負契約に基づく仕事完成義務は社会通念上履行不能となったものと認めるのが相当である。
5 抗弁(帰責性の不存在)について
(1) 上記3の認定のとおり,本件コンクリートは,基礎工事に使用されるコンクリートが通常有すべき性能を欠くものであるところ,このような欠陥は,被告の作業員が,速やかにコンクリート表面の雨水を排水するとともに,コンクリート表層部にできたのろ状の物質を除去し,必要に応じて生コンクリートを補充して打設し,ブリージングが終了するまでコテ入れ作業を行ってから,養生を施して作業を終了すべきところ,これを怠ったために生じたものである(甲37)。
このような工事に対し,工事の中止を指示するとともに基礎工事のやり直しを求めた原告の対応は,施主として何ら不適切なものではない。上記のような工事を行った上,かかる原告の要求にも応じようとしなかった被告の対応は,請負人として適切を欠くというほかなく,結局,そのような被告の対応が,原告,被告間の信頼関係を破壊する要因となったということができる。
したがって,上記履行不能について被告に帰責性がなかったということはできない。
(2) この点,被告は,本件コンクリートの表面の状況について,被告が打設した生コンクリートについて表面仕上げをしようとした時点で,原告が工事中止を指示したため,これが不可能になったなどと主張する。しかし,原告が工事中止を指示したのは,本件打設工事当日の午後7時ころであること,本件打設工事に使用された生コンクリートは6台目のミキサー車が到着した午後3時20分までには,すべて現場に搬入されていたことからすれば,原告代表者の指示により,表面仕上げの作業が中断されたものと認めることはできず,上記被告の主張はその前提を欠く。
また,被告は,鉄筋コンクリートを打ち増しする補強案を示したことなどを指摘する。しかし,建物の基礎は,建物の最下部に造られ,建物を支え,上部建物加重を地盤へと安全に伝える構造安全上最も重要な部分であって,これに対する信頼性がすなわち,建物それ自体に対する信頼性の拠り所となる。当時,本件建築工事は,いまだ基礎工事の途中の段階にあり,基礎工事のやり直しに要する費用は社会通念上不当に高額なものではないこと(訴外建築会社作成の見積書(甲55)によれば,既設のコンクリートの撤去工事は外注した場合でも68万6000円程度であり,本件請負契約締結時の工事内訳書(甲49)によれば,コンクリートの打ち直し工事は100万円弱である。)に照らせば,このような建物の基礎について,欠陥があるコンクリートを残し,契約の内容にはない補強工事を行うことは承服できないとして,基礎工事をやり直すよう求めた原告の選択は,施主の選択として何ら不当なものではない。請負人である被告としてはこの要求に応じるのが本則というべきであって,被告が指摘する事情は帰責性に関する上記判断を覆すものではない。
6 そうすると,原告は,本件請負契約の仕事完成義務の履行不能に基づき同契約を解除することができると解するのが相当であり,本訴請求原因(6)の解除の意思表示により同契約は解除されたということができる。
そこで,解除の範囲についてみるに,建物の建築工事請負契約につき,工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に同契約を解除する場合において,工事内容が可分であり,しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは,特段の事情のない限り,既施工部分については契約を解除することができず,ただ未施工部分について契約の一部を解除することができるに過ぎないと解される(最判昭和56年2月17日・裁判集民132号129頁参照)。この点,本件建築工事は,いまだ基礎工事の一部である本件打設工事がされたにすぎず,しかも,打設された本件コンクリートには欠陥があるというのであるから,本件請負契約の施主である原告が既工事部分の給付に関し利益を有するということはできず,かかる解除は本件請負契約の全部に及ぶものと解するのが相当である。
7 本訴請求原因(7)について
証拠(甲55)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件請負契約の仕事完成義務の履行不能により,本件コンクリートの撤去費用に相当する178万5000円の損害を被ったものと認められる。
原告は逸失利益として810万円の損害を被った旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
8 以上より,原告の請求は,本件請負契約の債務不履行解除による原状回復請求権に基づき800万円,本件請負契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき178万5000円及びこれらに対する平成18年12月20日付け訴え変更の申立書送達の日の翌日である同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却することとする。
第2 反訴について
1 反訴請求原因(1),(4)の事実は当事者間に争いがない。
2 同(3)につき検討するに,前記第1の2記載の事実の経過によれば,原告代表者は,平成16年10月1日ころ,被告代表者に対し,本件請負契約を解除する旨の書面を送付したことが認められるが,同書面には「激しい降雨の中での基礎コン打設作業を断行した事は,根本的工事ミス」と指摘して解除を求めた上,既払い金800万円の返還を求める旨記載されていることのほか,同書面が送達されるに至った経緯及び前記第1の3記載の本件コンクリートの状態に照らせば,上記書面による意思表示が,請負人に対する損害賠償債務の発生を伴う民法641条の解除の意思表示を含むものと解することはできない。
したがって,同(3)の事実は認められない。
3 以上より,被告の反訴請求には理由がないからこれを棄却することとする。
第3 結論
よって,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第6部
裁判長裁判官 内 田 計 一
裁判官 安 田 大 二 郎
裁判官 高 橋 貞 幹
東京・台東借地借家人組合
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判例
平成19年8月7日判決言渡 東京簡易裁判所
平成18年(ハ)第20200号 管理費等請求事件
(判示事項の要旨)
マンション管理組合が,町内会費相当額を管理組合費に含めて徴収することを規約等で定めても,その拘束力はないとされた事例
判 決
主 文
1 被告は,原告に対し,金9万7655円を支払え。
2 被告は,原告に対し,平成19年7月1日以降被告が別紙物件目録記載のマンションを所有している間,毎月末日限り,1か月金1万7750円の割合による金員及びこれに対する各該当月の翌月1日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は,主文第1項,第2項及び第4項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,金10万1543円を支払え。
2 被告は,原告に対し,平成19年7月1日以降被告が別紙物件目録記載のマンションを所有している間,毎月末日限り,1か月金1万7850円の割合による金員及びこれに対する各該当月の翌月1日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告に対し,未払いの管理費等の支払いを求めて訴訟提起したところ,被告は,管理費等の滞納の始期は平成16年10月である,町内会費を管理組合費として原告が請求することはできないと主張して争った事案である。
なお,訴訟係属中に,被告は,管理組合費を除く滞納していた管理費等を支払ったので,原告は,未払いの管理組合費として1万6500円,管理費等の遅延損害金として8万5043円並びに将来の管理費等及び遅延損害金の支払いを求めるとして,請求を減縮した。
1 争いのない事実等(証拠によって容易に認定できる事実を含む。)
(1) 昭和50年6月21日,東京都a区bc丁目d番地e所在のAマンション(以下「本件マンション」という。)の自治会として,Aマンション親和会(以下,「親和会」という。)が設立された。親和会は,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)に基づいて設立された管理組合ではなく,任意の団体であった。そして,親和会は,管理費及び補修積立金等の徴収を行わず,自治会費として月額300円及び町内会費として月額200円(その後月額100円に値下げ)の徴収を行っていた。町内会費の徴収を親和会が行うことについては,親和会設立時に,本件マンションの区分所有者全員が集まって同意した。B株式会社(以下,「B」という。)は,個々の区分所有者から依頼を受けて,管理費等を徴収し,本件マンションを管理していた。(甲16,17,22,原告代表者)
(2) 被告は,昭和58年3月8日以降,別紙物件目録の「一棟の建物の表示」欄記載の建物の中,「専有部分の建物」欄記載のf階部分g号室(以下,「本件居室」という。)を所有している。
(3) 昭和58年3月8日当時,被告が負担する管理費は月額5400円,補修積立金は月額1620円であった。(甲2)
(4) 昭和59年12月,Bが,昭和58年11月から翌59年10月までの管理費等の清算報告書を各区分所有者及び居住者に報告した。この報告の際,本件マンションの管理状況を説明し,今後運営が赤字になる旨を伝え,本件マンションの管理費,補修積立金を増額することとし,本件居室については,昭和60年2月分より管理費を月額5940円に,補修積立金を月額1780円に,それぞれ増額することが提案された。この提案は,被告を含む全区分所有者等に配布され,その後の増額された管理費等の徴収について異議はなかった。(甲2,22)
(5 ) 平成2年10月19日,親和会の議案として,親和会費及び町内会費の支払いについて,親和会費及び町内会費(以下「親和会費等」という。)の合計として,月額500円を管理費及び補修積立金と共に支払う旨が提案された。平成2年10月19日,上記提案は可決され,平成3年1月分より施行された。(甲3,4)
(6) 平成3年12月1日,親和会は,各区分所有者に対し,管理運営をよりよく機能させるために,本件マンションの管理組合を設立する旨の総会開催の案内を送付した。(甲5)
(7) 平成4年1月17日,上記総会が開催され,原告は,本件マンションについて,区分所有法第3条に基づき設立された。原告が設立された際,従前の管理費月額5940円及び補修積立金月額1780円はそのまま踏襲され,親和会費月額500円は管理組合費と名称が変更された。なお,管理組合費月額500円の内訳は,管理組合運営のための費用として400円,町内会費として100円とするものであった。(甲6,7,原告代表者)
(8) 原告の管理規約第23条によれば,区分所有者は,敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため,管理費等として,管理費,修繕積立金及び管理組合費を定め,同規約第25条によれば,管理費は,管理人の人件費,共用設備の保守費,通信・消耗品費等の通常の管理に関する経費に充当するものとして定められ,同規約第27条によれば,管理組合費は,会議費,広報及び連絡業務に要する費用,役員活動費,住環境を守り,生活向上のために要する費用等の管理組合の運営に要する経費に充当するものとして定められ,同規約第57条によれば,管理費等は毎月,当月分を当月の末日までに一括して納入しなければならないこと,期日までに納入ない場合においては,原告は組合員に対し,未払い金額に対し年14パーセントの割合による遅延損害金を加算して組合員に請求できることが定められている。(甲7)
(9) 平成8年3月初旬,原告は,本件マンションの通常総会議案書を,被告を含む各区分所有者に送付した。同議案書においては,本件居室の改定後の管理費は月額5940円(据え置き),補修積立金は月額7130円,管理組合費は月額500円(据え置き)の合計1万3570円と提案された。(甲8)
(10) 平成8年4月3日,原告の通常総会が開催され,上記管理費等の改定が可決され,平成8年6月分より実施されることとなった。(甲9)
(11) 平成17年2月,原告は,被告を含む本件建物の各区分所有者に対し,通常総会開催の案内を送付し,補修積立金の改定を提案し,本件居室については月額1万1410円に増額する旨を提案した。(甲10)
(12) 平成17年3月24日,上記通常総会が開催され,管理費,管理組合費は据え置きとし,補修積立金を改定し,平成17年11月分より実施する旨が可決された。
この結果,被告の補修積立金は,月額7130円から月額1万1410円と増額され,平成17年11月分からの被告の管理費等の支払額は,月額合計1万7850円となった。(甲11)
(13) 平成18年2月,原告は,各区分所有者に対し,通常総会開催の案内を送付し,管理費等の長期滞納者には法的手続を行う旨の議案を提案した。(甲12)
(14) 平成18年2月22日,原告の上記通常総会において,被告に対して管理費等を請求する訴訟を提起するとの議案は,可決承認された。(甲13)
(15) 東京都a区bには,いわゆる町内会としてb町自治会が存在する。同会の平成18年度の事業計画としては,会員相互の親睦を図り,会員福祉の増進に努力し,関係官公署各種団体との協力推進等を行うとなっている。(甲15)
(16) 原告は,平成19年3月20日の総会において,管理組合費を月額500円から町内会費相当分の100円を引き月額400円に減額することと決定した。なお,その実施時期は未定である。原告は町内会を脱退したわけではなく,今後の町内会費の納入方法については未定である。(原告代表者)
(17) 平成19年4月26日,被告は原告に対し,平成16年9月分から平成19年5月分までの管理組合費を除く管理費等として51万2630円を支払った。(乙1)
2 争点
(1) 本件訴訟提起前において,被告が管理費等の支払いをしていたのは,平成16年8月分までか,同年9月分までか。
(原告の主張)
被告が管理費等を管理規約の約定どおり支払ったのは,平成14年7月分までである。以後,被告は毎月遅滞し,最終的には平成16年8月分が入金された。従って,被告は平成16年9月分以降の管理費等を支払っていなかったのである。
そして,「弁済」は抗弁事由であり,被告において立証責任がある。
(被告の主張)
被告が管理費等を約定どおり支払ったのは,平成14年7月分までであること(充当)を否認する。被告は平成15年以降ほぼ1か月ないし数か月遅れるも各月支払っており,特に平成16年6月分から同年9月分までの4か月分は,平成16年9月30日に支払っている。
原告は,平成9年以降の管理費等台帳(甲24ないし30)しか提出しないのであるから,その主張は,明らかに証明不十分である。また,原告の管理規約第57条によると管理費等は当月分を当月末日払いであることから,個人別入金履歴(甲21)の「2004.9.30振込」は平成16年9月分まで支払済みであることを推認させる。
(2) 原告が町内会費を管理組合費として請求をすることの是非。
(原告の主張)
管理組合費の月額500円は,管理組合を運営するための諸費用として400円及び町内会費として100円に支出されている。従って,その実態は管理費の一部であり,区分所有者は支払義務を負うものである。
本件では,本件マンションの区分所有者が同マンションに居住しなくても,その賃借人等は以下のとおりの恩恵を受けるのであり,それらの事実及び月額100円という金額からすると,町内会への加入は不可欠であり,十分合理性がある。
① 町内会が主催するお祭り,レクリエーション等の行事に参加することにより地域と密着した社会生活を送ることができる。
② 町内会は,区役所,警察,保健所等の依頼を受け,日常生活に密着した通知等の各種印刷物を配布しており,これらの印刷物の配布を受けられないと,日常生活に支障を来すこととなる。
③ 本件マンションの住民は,その多くは昼間は勤務しているため,日中は留守である場合が多いし,被告のように本件マンションに居住してない人も多い。
これらの人々から個別に町内会費を個別に徴収すると,膨大な費用がかかることからすると,原告が一括して徴収することが最善である。
(被告の主張)
町内会は,一定の地域に居住する者によって組織される自治組織であり,自主的な団体であり,原告の所在するbc丁目には「b町自治会」が存在する。被告は,本件マンションに居住していないのであるから,町内会の会員に明らかに該当しない。
また,町内会費は,まさに住民が任意に支払いを委ねられているものであり,法的に支払いを強制されるべきものではない。
そして,町内会費の未払いに関して,原告のようなマンション管理組合が,裁判をもって訴求することはできない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
証拠(甲14,21,24ないし30)及び弁論の全趣旨によれば,これらの書証は,建物管理会社であるBが原告の委託を受けて本件マンションの管理費等の入金管理をするために作成したものであり,その内容(支払いの充当を含む。)は信用することができる。これらの証拠によれば,被告の管理費等の入金履歴は,平成9年1月以降は管理費等台帳で,平成15年4月以降はコンピューターで,それぞれ管理されており,それによると,被告は,管理費等を平成9年1月以降,しばしば数か月分を遅れてまとめて支払っており,特に平成16年4月分から8月分については,同年9月30日に支払っていることを認めることができる。なお,被告は,原告の証明が不十分であるとか,平成16年9月分まで支払済みであることが推認できる旨の主張をするが,前記認定によれば,いずれも理由がない。
よって,原告の主張は理由がある。
2 争点(2)について
(1) 町内会は,自治会とも言われ,一定地域に居住する住民等を会員として,会員相互の親睦を図り,会員福祉の増進に努力し,関係官公署各種団体との協力推進等を行うことを目的として設立された任意の団体であり,会員の自発的意思による活動を通して,会員相互の交流,ゴミ等のリサイクル活動及び当該地域の活性化等に多くの成果をもたらしているところである。そして,町内会は,法律により法人格を取得する方法もあるが,多くの場合,権利能力なき社団としての実態を有している。
このような町内会の目的・実態からすると,一定地域に居住していない者は入会する資格がないと解すべきではなく,一定地域に不動産を所有する個人等(企業を含む)であれば,その居住の有無を問わず,入会することができると解すべきである。そして,前記目的・実態からすると,町内会へ入会するかどうかは個人等の任意によるべきであり,一旦入会した個人等も,町内会の規約等において退会の制限を定める等の特段の事由がない限り,自由に退会の意思表示をすることができるものと解すべきである。
(2) ところで,区分所有法第3条,第30条第1項によると,原告のようなマンション管理組合は,区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置されるのであるから,同組合における多数決による決議は,その目的内の事項に限って,その効力を認めることができるものと解すべきである。
しかし,町内会費の徴収は,共有財産の管理に関する事項ではなく,区分所有法第3条の目的外の事項であるから,マンション管理組合において多数決で決定したり,規約等で定めても,その拘束力はないものと解すべきである。
本件では,原告の規約や議事録によると,管理組合費は月額500円となっており,親和会当時からの経緯によると,そのうちの100円は実質的に町内会費相当分としての徴収の趣旨であり,この町内会費相当分の徴収をマンション管理組合の規約等で定めてもその拘束力はないものと解される。
(3) 原告は,町内会の存在によって被告は一定の恩恵を受けるのであり,町内会費が月額100円という金額からすると,町内会への加入は不可欠であり,合理性もあることから,規約等に管理組合費の定めがあることを根拠として,町内会費の請求をすることができる旨の主張をするが,前述のとおり,管理組合費のうち100円については,実質的に町内会費相当分であって,その部分に関する原告の規約等の定めは拘束力がないのであり,また,区分所有法第3条の趣旨からすると,原告自身が町内会へ入会する形を取ることも,その目的外の事項として,その入会行為自体の効力を認めることはできないものと解されることからすると,これらを根拠に,原告が被告に対し,未払いの町内会費の請求をすることはできないと解すべきである。
その他,原告がその権利主体である旨(例えば,原告と被告との間の委託契約の成立等)の主張・立証もない。
そうすると,町内会費を請求する権利主体ではない原告が同会費の請求をすることは認めることができないと解される。
よって,未払いの町内会費相当分を求める原告の主張は理由がない。
(4) 被告は,管理組合費としての月額500円の支払いを拒否しているが,町内会費相当分としての100円を除く月額400円については,会議費,広報及び連絡業務に要する費用,役員活動費等の管理組合の運営に要する経費に充当するものであって,区分所有法第30条第1項に定める事項であるから,原告の規約等にその定めがある以上,被告は,その支払義務があるものと解すべきである。
よって,町内会費相当分を除く未払いの管理組合費の支払いを求める原告の主張は理由がある。
3 被告は,原告の管理費等の遅延損害金の請求に対して,①原告の同請求は権利濫用に該当するので,その請求は認められない,②原告は,被告が管理及び管理人の対応に不満があって支払いを拒んでいた事態を放置し,いたずらに遅延損害金の金額が重なる事態を招いたのであるから,過失相殺を適用ないし類推適用すべきである旨の主張をするが,それらの主張を認めるに足りる証拠はない。
よって,これらの点についての被告の主張は理由がない。
4 認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被告には管理費等の滞納の事実があったこと,被告の管理費等の支払義務は今後も継続すること等が認められ,これらの事情からすると,原告は被告に対し,予め将来にわたる管理費等の支払いを求め,本件紛争の実効的な解決を図る必要があると解されるので,前記争点(2)の判断を前提にすると,将来の町内会費相当分を除く管理費等の支払いを求める限度で,原告の主張は理由がある。
5 以上によれば,原告の被告に対する本件請求は,平成16年9月分から平成19年5月分までの管理組合費(ただし,町内会費相当分を除く。)として1万3200円,管理費等(ただし,管理組合費のうち町内会費相当分を除く。)を滞納していたことによる別紙滞納一覧表記載のとおり各滞納開始日から弁済があった日の前日の平成19年4月25日までの間の遅延損害金として8万4455円,平成19年7月分(なお,原告は第4準備書面において平成19年6月分から支払いを求めると主張するが,請求の趣旨を前提とすると,同年7月分からの支払いを求めるものと解される。)から支払済みまで管理費,補修積立金及び管理組合費(ただし,町内会費相当分を除く。)として1か月1万7750円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し,その余の請求は理由がないので棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法第64条ただし書き,第61条を,仮執行の宣言につき同法第259条第1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所民事第5室
裁 判 官 河 野 文 孝
(別紙省略)
東京・台東借地借家人組合
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判例
事件番号・・・・・・平成11(ワ)516等
事件名・・・・・・・・賃料等本訴請求事件、賃料減額確認反訴請求事件
裁判所・・・・・・・・甲府地方裁判所 民事部
裁判年月日・・・・平成18年9月12日
主 文
1 原告(反訴被告)と被告(反訴原告)との間の別紙物件目録記載の建物についての賃貸借契約における賃料は,平成12年3月17日以降1か月当たり2650万円であることを確認する。
2 原告(反訴被告)の請求及び被告(反訴原告)のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告(反訴原告)の負担とし,その余を原告(反訴被告)の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴について
(1) 被告(反訴原告。以下「被告」という。)は,原告(反訴被告。以下「原告」という。)に対し,金9013万7520円及びこれに対する平成12年2月17日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 原告と被告の間の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)についての賃貸借契約(以下「本件契約」という。)における賃料が,平成11年11月17日以降1か月当たり金3857万9690円であることを確認する。
2 反訴について
原告と被告との間の本件契約における賃料が,平成12年3月17日以降1か月当たり金2003万0558円であることを確認する。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本訴事件は,本件契約の賃貸人である原告が,本件契約の賃料は,本件契約開始の日から3年を経過した時点で,改定前の賃料を7.5%増とする旨の特約があると主張して,被告に対し,同特約を理由に賃料増額の意思表示をなし,その増額後の賃料額の確認及びこれを前提とする未払賃料の支払を求めた事案である。
(2) 反訴事件は,本件契約の賃借人である被告が,本件契約の賃料は,近隣土地・建物賃料の下落,諸物価指数の変動等の諸要因を勘案すると不相当に高額となったと主張して,原告に対し,賃料減額の意思表示をなし,その減額後の賃料額の確認を求めた事案である。
2 前提となる事実 (証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
原告は,不動産の賃貸業等を目的とする株式会社であり,被告は,ショッピングセンターの企画運営等を目的とする株式会社である。
(2) 原告は,平成5年10月25日,貸店舗として本件建物を建築し,以後,本件建物を所有している。
(3) 本件ショッピングセンターが開店するまでの経緯
ア 原告と被告は,昭和63年4月30日,本件建物が所在する土地上に原告が建物を建築してこれを被告に賃貸し,被告がそこでショッピングセンターを運営するとの内容の覚書をとり交わした(甲2。以下「本件覚書」という。)。
イ 本件覚書には,次のとおりの条項が存在する。
(ア) 賃料について
(4条1項)
賃料の算定は,次の算式による。
月額賃料=坪当たり建築価格×19%×延べ床面積÷12ヶ月
(イ) 賃料の改定について
(5条1項,以下「本件賃料自動増額条項」という。)
賃料は,賃貸借開始の日より3カ年を経過した時点で,その改定を行なう。改定後の月額賃料は,改定前の月額賃料に7.5%相当額を加えた額とする。
(5条2項)
以後も3カ年を経過するごとに改定するものとし,前項の率を基本として経済情勢を勘案のうえ,甲乙協議して決定する。
ウ 原告と被告は,平成元年2月18日,本件覚書をふまえ,基本協定書を取り交わした(乙1。以下「本件基本協定書」という。)。
エ 基本協定書には,次のとおりの条項が存在する。
(ア) 賃料について
(10条1項)
賃料の算定はつぎの算式による。
月額賃料=坪当たり建築価格×19%×乙の賃借する延床面積÷12
(イ) 賃料の改定について
(12条)
賃料は賃貸借開始の日より満3カ年毎に改定するものとし,改定後の月額賃料は,長期プライムレートの加重平均変動値・公租公課・近隣の賃料比較及び経済情勢を勘案のうえ甲乙協議し決定する。但し,上記情勢等に異常な変動を生じたときはこの限りではない。
オ 本件基本協定書15条によれば,建物建築工事請負契約の締結時に原告と被告の間で建物賃貸借の予約契約を締結することとされていた。
しかしながら,原告と被告は,賃料算定の基礎となる「坪あたりの建築価格」の額を幾らにするか,建築代金にかかる消費税をどちらが負担するか,ショッピングセンターの管理運営をどちらがするかなどをめぐって意見が対立したため,予約契約を締結しなかった。
そのため,本件建物が完成し,本件ショッピングセンターの開店に向けての準備が具体化しても,原告と被告の間の協議は難航し,合意に達しなかった。
カ その後,被告は,建物賃貸借契約が締結されないまま,平成5年11月17日までに,原告より,本件建物のうち,1階につき2,917.49平方メートル,2階につき3,631.85平方メートル,3階につき2,931.91平方メートル,4階につき0平方メートル(それぞれ共用部分を除いた被告専有面積)の引渡しを受け,本件建物にショッピングセンター「Aショッピングモール」(以下「本件ショッピングセンター」という)を開店させた。
(4) 本件ショッピングセンター開店後の本件契約の締結
平成5年12月になり,賃料算定の基礎となる「坪当たりの建築価格」について原告と被告との間でようやく合意が成立し,同月29日,以下の内容で本件契約が成立した(甲3)。
期 間(4条) 平成5年11月17日から20年間
賃 料(5条) 初年度月額賃料 3338万4264円
消費税相当額は,被告が負担するものとする。
賃料の改定(8条) 賃貸借開始日から満3カ年経過毎に賃料の改訂を行うものとし,改訂後の月額賃料は,長期プライムレートの加重平均変動値,公租公課,近隣の賃料状況及び経済情勢等を勘案の上,原告,被告及び訴外Bにおいて協議し,決定する。ただし,上記情勢等に異常な変動が生じた場合はこの限りではない。
(5) 原告の被告に対する賃料増額の意思表示
ア 原告は,被告に対し,平成8年10月9日ころ到達の書面により,前記本件覚書5条1項に基づき,本件賃貸借開始の日から3年を経過する日である同年11月17日以降の本件建物の賃料を,従前の賃料の7.5%を加算した3588万8084円(消費税別途)とする旨の賃料を増額する意思表示をした(甲4)。
イ 原告は,被告に対し,平成11年10月13日ころ到達の書面により,本件覚書5条1項に基づき,前記平成8年11月17日から3年を経過する日である平成11年11月17日以降の賃料を,上記アにおいて増額した賃料の7.5%を加算した3857万9690円とする旨の賃料を増額する意思表示をした(甲5)。
(6) 被告の原告に対する賃料減額の意思表示
被告は,原告に対し,平成12年3月14日ころ到達の書面により,本件賃貸借契約書8条に基づき,平成12年3月17日以降の賃料を,現行の賃料である3338万4264円から40%控除した1か月2003万0558円とする旨の賃料を減額する意思表示をした。
3 争点
(1) 本件契約には賃料自動増額特約があるか(本件覚書5条の効力)。
(原告の主張)
ア 本件基本協定書12条の規定は,本件覚書5条の規定を当然の前提として定められたものである。すなわち,本件覚書5条は,1項において,賃貸借開始の日から3年経過時に自動的に7.5%賃料を増額することを定めるとともに,2項において,さらに3年を経過する毎に,原告・被告間で協議の上,賃料を改定すべきことを定めたものである。そして,本件覚書においては,この協議の際の判断基準が「前項の率を基本として経済情勢を勘案のうえ」と抽象的にしか規定されていなかったことから,これをより具体的に規定したのが本件基本協定書12条なのである。このように本件基本協定書12条と本件覚書5条は両立するものであり,また,本件覚書の効力を失わせるためには,契約書等において明文にてその旨を規定するのが実務慣行であるところ,本件契約書にはそのような記載がない。したがって,本件基本協定書の締結により,本件覚書5条の本件賃料自動増額条項の効力が撤回される理由はない。
イ 本件建物の建設は,他のショッピングセンターが当地区に進出することを恐れた被告代表者(当時。以下,被告,原告とも代表者につき当時。)が,原告代表者に対し,本件敷地の購入とショッピングセンターの建設を余りにも切に懇願するので,原告代表者がその懇願に抗しきれなくなり,原告において,本件敷地を新たに購入したものである。
本件建物がこのような経緯で建設されたことから,本件建物の当初賃料は,坪当たりの建築価格に19%を乗じ,さらに賃借面積を乗じたものを年間賃料として算出され(甲2・乙1),また,賃貸借開始から20年間が経過するより前に被告の都合で賃貸借契約を解約する場合には,約定賃貸借期間満了までに被告が支払うべき賃料等を支払うか,原告が承認する新賃借人(ただし,同業種,同等以上の者)を選定しなければならない。このように被告と原告との間では,3年分の初期賃料及び17年分の自動増額後賃料をもって,原告が本件ショッピングセンターの建設についてなした初期投資の回収を保証することが予定されていたのであるから,本件契約には,賃料自動増額特約があったというべきである。
(被告の主張)
ア 賃料改定に関する本件賃料自動増額条項は,本件基本協定書作成の時点において,原告と被告間の合意事項から撤回されたものである。
そもそも,本件賃料自動増額条項は,本件覚書締結前の昭和63年3月4日に被告がCショッピングモールにおけるD保険相互会社との間で締結した建物賃貸借予約契約書(乙3)において,同様の規定を挿入したことから,被告の提案により,本件覚書においても挿入することとした。しかしながら,上記Cショッピングモールの賃貸借予約契約書は,賃貸借開始を約1年後に予定しており,予約契約締結時から4年後の賃料の改定を規定していたのに対し,本件賃貸借は,開店まで5年前後を要することを予想しており,それからさらに賃料改定は8年後となってしまうところ,8年後の経済状況を完全に予想することは不可能であるので,本件賃料自動増額条項は,余りにも非合理的であると原告・被告間で意見が一致し,合意の上で削除されたものである。
イ 本件契約に至る経緯に関し,被告代表者が原告代表者に対して懇願したとの原告の主張事実は否認する。すなわち,被告は,昭和62年ころ,本件土地付近に全国的な中堅業者であるE屋がショッピングセンターを出店するとの情報を得たことから,本件土地を所有するF食品工業株式会社から本件土地を購入又は賃借する方式でのショッピングセンター出店の検討を始めた。そして,その検討を行っている途中で,原告が本件土地を入手して建物を建築し,被告に賃貸するという話が出てきた。当時,被告と原告は,原告がG駅南に所有する土地に被告がショッピングセンターを出店する計画が進んでおり,非常に緊密な間柄にあった。そこで,被告はショッピングセンター経営を業とし,原告は不動産賃貸業を業としていたので,被告としては,それぞれその得意分野を分担することにしようと,本件土地を購入することを断念し,原告が建築する建物を賃借することとした。
また,被告と原告との間において,3年分の初期賃料及び17年分の自動増額後賃料をもって,原告が本件ショッピングセンターの建設についてなした初期投資の回収を保証することが予定されていたとの原告の主張事実も否認する。
なお,賃料は,通常,長期プライムレートの加重平均変動値,公租公課,近隣の賃料状況及び経済情勢等を勘案の上,改定されるのが原則であり,それ以外の特別の合意があれば契約書にその旨が明記されるべきであるところ,本件契約では,そのような合意も契約書の記載もない。
(2) 本件契約の平成11年11月17日時点及び平成12年3月17日時点における適正継続賃料額
(原告の主張)
ア 本件建物の建設は,他のショッピングセンターが当地区に進出することを恐れた被告代表者が,原告代表者に対し,本件敷地の購入とショッピングセンターの建設を余りにも切に懇願するので,原告代表者がその懇願に抗しきれなくなり,原告において,被告の求めに応じて,本件敷地を新たに購入したものである。本件建物がこのような経緯で建設されたことから,本件建物の当初賃料は,坪当たりの建築価格を基礎に算出されている(乙1)。とともに,賃貸借開始から20年間は,被告の都合で賃貸借契約を解約する場合には,約定賃貸借期間満了までに被告が支払うべき賃料等を支払うか,原告が承認する新賃借人(ただし,同業種,同等以上の者)を選定するかしなければならないものとしている(甲3)。このように被告と原告との間では,3年分の初期賃料及び17年分の自動増額後賃料をもって,原告が本件ショッピングセンターの建設についてなした初期投資の回収を保証することが予定されていた。
したがって,本件契約においては,いかなる情勢の変化があろうとも,少なくとも自動増額後の賃料を下回る額に賃料を減額することは許されない。
イ 本件契約のような賃借人からの働きかけに応じて建築された建物の賃貸借契約における賃料については,賃料減額請求を認めるとしても,その減額幅は,このような特段の事情がないと仮定して算定された鑑定評価等にとらわれることなく,賃貸人の収支計算を害しない範囲にとどめるべきである。
ウ そうすると,本件建物の平成11年11月17日時点の適正賃料は,月額3857万9690円とするのが相当である。そして,平成8年11月17日から平成11年11月16日までの被告の未払賃料は,月額250万3820円,その合計は9013万7520円である。
(被告の主張)
本件契約が締結された平成5年以降,いわゆるバブル経済の崩壊により,土地価格は継続的に下落傾向にあり,また,国内及び山梨県内の景気も低迷状態が続いている。このような状況を受けて,本件建物の近隣土地・建物の賃料は,一般的に下落傾向にある。更に,本件建物の近隣には,大型ショッピングセンター「H」が平成12年2月にオープンした。以上のような状況などを総合考慮すると,本件建物の平成12年3月17日時点における適正賃料は,大幅に下落し,月額2003万0558円とするのが相当である。
第3 争点に対する判断
1 賃料自動増額特約の有無(本件覚書5条の効力)について
(1) 本件契約における賃料自動増額特約の存在については,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
前記認定事実によれば,確かに,本件覚書(甲2)を取り交わした時点では,原告・被告間において,本件建物に関する賃貸借契約につき賃料自動増額特約を付することが予定されていたと認めることができる。しかしながら,平成元年2月に締結した本件基本協定書(乙1)12条では,本件覚書で定められていた「改定後の月額賃料は,改定前の月額賃料に7.5%相当額を加えた額とする。」との文言が削除され,「改定後の月額賃料は,長期プライムレートの加重平均変動値・公租公課・近隣の賃料比較及び経済情勢を勘案のうえ甲乙協議し決定する。」との文言に変わっており,本件契約の契約書(甲3)も上記文言をそのまま採用していることからすれば,原告と被告の間では,本件契約を締結するまでの交渉の過程において,賃料自動増額特約を付する方針は撤回されたとみるのが自然である。
(2) この点に関し,原告は,上記基本協定書12条は,本件覚書5条2項が,2回目以降の賃料改定の際の判断基準として「前項の率を基本として経済情勢を勘案のうえ甲乙協議して決定する。」という抽象的な表現になっていたことから,これをより明確かつ具体的な判断基準とするために規定したものであって,本件賃料自動増額条項を前提としたものであるから,本件賃料自動増額条項の効力は本件契約においても有効である旨主張し,当時の原告の代表者であるIの陳述書(甲6)にもこの主張事実に沿う旨の記載があり,また,原告の取締役である証人Jも上記被告の主張事実に沿う証言をする(同人の陳述書(甲8)を含む。)。しかしながら,原告の主張によるならば,むしろ,本件基本協定書においても本件賃料自動増額条項の文言を明記した上で,「第2回目以降の改定賃料は,長期プライムレートの加重平均変動値・公租公課・近隣の賃料状況及び経済情勢等を勘案のうえ,・・・決定する。」と文言上明らかにすべきであるところ,本件基本協定書12条及び本件契約の契約書8条の文言は「賃貸借開始日から満3か年経過毎に賃料の改定を行うものとし」となっており,原告の主張は,文言解釈として不自然であるといわなければならない。しかも,前記認定事実によれば,原告は,不動産の賃貸業等を目的とする会社であるから,経験上後々の紛争を回避するためには契約条項を明確かつ具体的に記載すべきことは十分認識し得たことをも合わせ考慮すると,上述したように本件基本協定書において何故本件賃料自動増額条項を明記しなかったのか理解し難いところである。さらに,証拠(乙8の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は本件基本協定書を作成するに当たり,原告に対し,本件賃料自動増額条項を削除するよう要請していた事実が認められる。したがって,これらの事実に照らせば,この点に関するIの陳述書(甲6)の記載及び証人Jの証言等は,にわかに信用することができない。
(3) したがって,本件契約において賃料自動増額特約があったことにつき,他にこれを認めるに足りる証拠がない本件では,同事実を推認することはできず,原告の上記主張は採用できない。
2 本件契約の平成11年11月17日時点(以下「平成11年基準時」という。)及び平成12年3月17日時点(以下「平成12年基準時」という。)における適正継続賃料額について
(1) 本件鑑定の検討
鑑定人Kの結果(以下「本件鑑定」という。)によれば,鑑定人は,本件契約の平成11年11月17日時点の適正継続支払賃料を月額2670万円,平成12年3月17日時点の適正継続支払賃料を月額2650万円と評価していることが認められる。そこで,まず本件鑑定の内容の合理性について検討する。
ア 一般的信用性について
鑑定人は,裁判所が選任した両当事者に利害関係を持たない不動産鑑定士であり,現地を実査した上,近隣地域の状況,対象不動産の状況を把握し,通常継続賃料の鑑定に採用される賃料差額配分法,利回り法,スライド法,賃貸事例比較法のすべてを評価の基礎として考慮しており,本件鑑定は,評価の手法等について特に不合理な点は認められない。
イ 賃料差額配分法による算定について
まず,積算法により,正常実質賃料相当額(対象不動産の経済的価値に即応した実質賃料)を月額2076万1000円と算出し,次に,賃貸事例比較法により,正常実質賃料相当額を月額2125万2000円と算出した上で,積算賃料における利回りの把握にやや難点があること,賃貸事例比較法は,市場性を反映しており実証的であることを考慮して,両試算賃料の重視割合を積算法による試算賃料を4とするのに対し,賃貸事例比較法による試算賃料を6として最終的な正常実質賃料を月額2110万円と算出している。他方,実際実質賃料相当額の算定については,実際支払賃料3338万4264円に保証金運用益66万7685円を加算した3405万2000円と算出し,上記正常実質賃料相当額と上記実際実質賃料相当額との差額マイナス1295万2000円を,本件物件の特色,賃貸市場の実情等を勘案の上,折半法を採用して,当事者それぞれに2分の1配分し,差額配分法による適正な実質賃料を平成11年基準時は月額2700万円,平成12年基準時は月額2690万円と算定した。
ウ 利回り法による算定について
本件契約時点(平成5年11月17日)における純賃料利回り(実際支払賃料に保証金運用益を加算した実際実質賃料から必要経費を控除して得られた純賃料の対象不動産の基礎価格に対する比率)を7.2%と算出し,これに基礎価格の変動幅ほど賃料変動がないことを考慮して,基礎価格下落率の半分を補正率として除した結果,平成11年基準時における継続賃料利回りを9.2%,平成12年基準時におけるそれを9.4%とした。そして,それぞれの基準時における対象不動産の基礎価格に上記継続賃料利回りを乗じたもの(純賃料)に必要経費を加算して得られた利回り法による実質賃料から前記保証金運用益を控除した結果,利回り法による適正な実質賃料を平成11年基準時は月額2510万円,平成12年基準時は月額2480万円と算定した。
エ スライド法による算定について
本件契約時点から本件鑑定の平成12年基準時までの消費者物価指数,企業向けサービス価格指数(不動産賃貸),名目GDP,オフィース・共同住宅賃料指数,山梨県商業統計調査(年額商品販売額・売場面積当たり年間販売額)のそれぞれの変動率をその重視割合に従い採用し,変動指数として平成12年基準時では89.9%を算出した。また,平成11年基準時における変動指数は,上記平成12年基準時の変動指数を期間配分し,90.4%と算出した。そして,本件契約時点の賃料に上記変動指数を乗じた結果,スライド法による適正な実質賃料を平成11年基準時は月額3020万円,平成12年基準時は月額3000万円と算定した。
オ 賃貸事例比較法による算定について
賃貸事例比較法においては,本件建物の近隣地域及び同一需給圏内の類似地域に存する類似の賃貸事例を収集した上で,比準賃料を1,450円(平方メートル当たり)と算定し,これに契約面積を乗じたものから保証金運用益を控除して,賃貸事例比較法による適正な実質賃料を平成11年基準時及び平成12年基準時月額2510万円と算定した。
カ 適正継続支払賃料の算定
その上で,スライド法による賃料が他の算定方式による賃料に比して高く試算されたのは本件賃貸借契約時の賃料が周辺相場と比べて高めであったことによると推測できるとし,本件賃貸借契約時の賃料は,賃貸人・賃借人間の合意であるから本来重視すべきものであるが,上記契約時からそれぞれの基準時までに他の大型店舗が開業し周辺商業動向が契約時点とは異なることを考慮すると,その試算賃料の重視割合は,差額配分法及び利回り法をそれぞれ30%とするのに対し,スライド法は20%とすべきであるとした。また,賃貸事例比較法の重視割合も,賃貸事例の契約経緯や賃料改定の経緯も個々の事情があり,要因比較にもやや困難が伴うことを考慮して,20%とした。その結果,本件鑑定における適正な実質賃料として,平成11年基準時は月額2670万円,平成12年基準時は月額2650万円と算定した。
キ 結論
以上の鑑定評価の手法,採用された基礎数値,評価結果について得に不合理な点は認められない。
なお,被告は,前述した各試算賃料の重視割合の算定において,スライド法による賃料が他の算定方式による賃料に比して高く試算されたのは本件契約当初における賃料が周辺相場と比べて高めであったことによると推測できるとする本件鑑定に対し,そうであるならば,差額配分法及び利回り法においても,同様に考慮すべきである旨主張する。
上記契約時の賃料は,差額配分法では,実際実質賃料の算定の際に考慮されるところ,確かに,上記契約時の賃料が高めであるとすればその分,正常実質賃料との差額に反映されることは否定できない。しかしながら,賃貸人に配分されるのはその差額からさらに半分に減額されたものである。また,利回り法においても,上記契約時の賃料が高めであるとしても,それは,利回りに若干反映されるにすぎない。したがって,上記契約時の賃料が高めであることは,スライド法においては算定結果に直接反映されるのに対し,差額配分法及び利回り法においては算出された賃料額に反映する割合がかなり低減されたものになる。加えて,適正な賃料算定のためには,重視割合に程度の差はあるにせよ,本件契約時の当事者が賃料額決定の要素とした事情もまた考慮すべきであることは否定できない。以上のことにかんがみると,本件鑑定が上記契約時の賃料が高めであることを差額配分法及び利回り法において考慮していないことだけをとらえて,被告主張のように本件鑑定の合理性を否定することはできないといわざるを得ない。よって,被告の上記主張を採用することはできない。
また,被告は,本件鑑定が賃貸事例比較法による賃料を余り重視しておらず,適正でない旨主張する。しかしながら,両当事者に利害関係がなく,かつ,契約内容等に類似性がある賃貸事例は少ない上に,その要因比較に多少の困難があることは否定できないのであるから,賃貸事例比較法による賃料を被告の主張するほど重視していないとしても,必ずしも不合理なものとはいえない。したがって,この点に関する被告の主張も採用することができない。
他方,原告は,最高裁平成14年(受)第1954号平成17年3月10日第一小法廷判決を引用し,本件契約は,原告が被告からの要望に応じ,被告が営業するショッピングセンターに適した建物を建築し,これを被告に対して長期にわたって賃貸するという形態の賃貸借契約であるから,賃料減額請求後の相当賃料額の算定に当たっては,上記最高裁判決に沿った判断が行われるべきであるのに,本件鑑定は,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を考慮していない旨主張する。しかしながら,上記判決は,本件で問題となった賃料自動増額特約の存在が認められた事案のものであり,本件と同一に論じられるものではない。むしろ,本件鑑定は,前記のとおり,賃料差額配分法,利回り法及びスライド法において,本件契約当初における賃料が高めであるという本件契約の個別性を考慮しているのであるから,上記原告の主張は採用できない。
(2) 原告鑑定の検討
原告提出の不動産鑑定評価書(甲7。以下「原告鑑定」という。)は,差額配分法,スライド法,利回り法,賃貸事例比較法のすべてを評価の基礎として考慮しており,評価の手法等について特に不合理な点は認められない。
しかしながら,①差額配分法,利回り法においては,建物価格の査定に当たり,本件鑑定が当初の本件建物の建築費をもとに変動率を考慮して求めているのに対し,原告鑑定では,当初の本件建物の建築費を全く考慮せず,単純に山梨県の鉄筋コンクリート造の標準建築費から本件建物の個別要因修正を行っているため,本件建物の再調達原価が本件鑑定より約8億円(この点,原告鑑定によれば,平成12年3月当時の本件建物の再調達原価は1平方メートル当たり14.0万円であるから,これに本件建物の延べ床面積を乗じた結果,平成12年3月当時の本件建物の再調達原価は,30億7276万2000円となる。他方,本件鑑定によれば,平成12年3月当時の本件建物の再調達原価は22億7668万9000円である。)も不当に高額なものになっている。また,②必要諸経費の加算においても,本件鑑定が支払賃料の2%を計上したものに原告・被告間における本件契約の共益費等請求が問題となった別件和解(東京高裁平成15年・第3881号)で定められた維持管理費を控除して求められているのに対し,原告鑑定は,単純に人件費の3倍の収入が必要としてこれを計上しており,その根拠も不明であることに加え,上記和解による維持管理費の部分が二重に計上されてしまう点でも合理性がない。
さらに,③差額配分法における正常実質賃料相当額の算出に当たっては,まず,積算法による積算賃料の算定において,本件鑑定が期待利回りを6.7%とするのに対し,原告鑑定は,12%と算定している。しかし,原告鑑定は,期待利回りを12%とする根拠として比準賃料を4000円から5800円と試算し,この賃料水準からは総合期待利回りが15%超となることを挙げているところ,そもそもこの比準賃料は,支払賃料に保証金運用益だけでなく共益費をも加算したものであり,また,必要諸経費は全く控除されていないのであるから,期待利回りが高くなるのは当然であり,本件賃貸借の契約時から平成11年及び12年の間における社会情勢の変動,物価指数の変動等をも合わせ考慮しても,12%は高率に過ぎ,本件鑑定及び被告鑑定で採用されている利回りと2倍の開きがあることに合理性が認められず,到底採用できるものではない。なお,この点に関して,原告は,平成14年6月のL投資法人のリートの目論見書による賃貸事務所ビルの利回りを引用し,原告鑑定の上記利回りの合理性を縷々主張するが,これらは,本件で問題となっている平成11年及び平成12年から2年後の平成14年のものであることに加え,本件建物のようなショッピングセンターの利回りがこのような事務所ビルの利回りよりも当然高くなるとする根拠が何も示されていないこと等を考慮すると,原告の上記主張は採用できない。④差額配分法の比準賃料の算定においても,本件鑑定は,支払賃料に保証金運用益を加算したものを実際実質賃料としているのに対し,原告鑑定は,前述したように支払賃料及び保証金運用益に共益費をも加算して実質賃料としているため,賃料と共益費を合計すると,必要経費部分が二重に計上されてしまうこととなり合理的でない。⑤利回り法においては,本件鑑定及び被告鑑定が,基準時の本件土地・建物の基礎価格に利回りを乗じたものに必要経費を加算した上,これに保証金(敷金)運用益を控除しているのに対し,原告鑑定は,本来控除されるべき保証金運用益を全く控除しておらず,これもまた原告鑑定賃料額が高額に過ぎる要因の一つとなっている。⑥スライド法においては,採用変動率として92%を採用しているが,これは,原告の関連会社であり,かつ,原告から本件物件を賃借している訴外新日本建物のテナントに対する転貸賃料収入の変動を採用したことが主たる原因であり,上記テナントである転借人自体及びその数も変動していることをも考慮すると,上記変動率を採用することは,本件契約の継続賃料の算定に当たっては合理性を欠くと言わざるを得ない。7賃貸事例比較法においては,賃貸データの一つとして本件建物について訴外新日本建物が原告から賃借している部分における原告に対する支払賃料を採用しているものと推認されるところ,前述したとおり訴外Bが原告の関連会社であり,賃貸データとしての公平性に疑問の余地があること,しかも,上記賃貸データを他の賃貸データと比して50%もの重きを置いて算定されている点で合理性を欠くと言わざるを得ない。
したがって,以上の点を総合考慮すると,原告鑑定は,その合理性において,本件鑑定に劣るものといわざるを得ない。
(3) 被告鑑定の検討
被告提出の不動産鑑定評価書(乙5。以下「被告鑑定」という。)は,差額配分法,利回り法,スライド法,賃貸事例比較法のすべてを評価の基礎として考慮しており,評価の手法等について特に不合理な点は認められない。
しかしながら,①差額配分法及び利回り法においては,本件鑑定は,保証金(敷金)の運用利回りを2%としているのに対し,被告鑑定のそれは,5%としており,平成12年の公定歩合,プライムレート,定期預金平均金利等を考慮すると高率に過ぎること,②差額配分法においては,本件建物の基礎価格の算定における現価率を55%とし,本件鑑定及び原告鑑定が64%としていることに比して,低きに過ぎる感が否めない。また,その根拠として,被告鑑定は,定率法による現価率を59%と算出し,維持管理の状態等を勘案してさらに4%も控除しているが,被告鑑定における資料にはこれを裏付ける資料はなく,他方,本件鑑定は,「本件建物は,外観上比較的良好に維持管理がなされている」と評価していること,本件鑑定添付写真等を見ても維持管理の状態に上記4%も控除するほどの問題点が見受けられないこと等も合わせ考慮すると,被告鑑定の根拠の合理性に若干疑問の余地があると言わざるを得ない。また,③差額配分法における正常実質賃料を賃貸事例比較法を併用せずに,積算法のみを用いて算出しているため,市場性が反映されたものになっていない。さらに,④利回り法においては,被告鑑定は,実績利回りを本件賃貸借契約時の実績利回りである7.5%を採用しており,本件鑑定及び原告鑑定がこれを9%台としているのに比して,低きに過ぎる上,本件賃貸借契約時である平成5年から本件鑑定基準時である平成11年及び12年までの約7年もの間における地価の下落により利回りも少なからず高くなる傾向があることを反映しておらず,採用できない。なお,この点に関し,被告は,本件鑑定が上記利回りを算定するに当たって,基礎価格下落率46%の半分を補正率としているところ,何故半分としたのかの合理的な説明がない旨主張する。確かに,本件鑑定には,この点を説明する明確な記述がないが,賃料については,基礎価格の変動幅ほどの変動はないものの,地価が下落すれば多少は影響を受けることは否定できないのであるから,基礎価格下落率をそのまま補正率とすることは適正でないのであって,補正率を算出するに当たり,基礎価格下落率の半分を採用することが不合理であるとまでは言えず,被告の上記主張は採用できない。
したがって,以上の諸点を総合考慮すれば,被告鑑定も,その合理性において,本件鑑定に劣るものといわざるを得ない。
(4) 総合的検討
以上の検討の結果によれば,本件鑑定は,その鑑定手法,採用した基礎数値,評価の過程,評価額等に格別不合理な点は見当たらず,これに対し,原告鑑定及び被告鑑定には,前記(2)及び(3)に指摘したような問題点が含まれていることを総合的に考慮すると,いずれも採用することができず,本件鑑定の結果を相当なものとして是認するべきである。
そうすると,本件契約の適正賃料は,平成11年11月17日時点では月額2670万円,平成12年3月17日時点では月額2650万円と認めるのが相当である。
(5) なお,原告は,最高裁平成12年(受)第573号平成15年10月21日第三小法廷判決・民集57巻9号1213頁,最高裁平成14年(受)第689号平成15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号595頁,及びこれらの差戻審における和解,並びに,最高裁平成14年(受)第852号平成15年10月23日第一小法廷判決・裁判集民事211号253頁,及びその差戻審である東京高裁平成15年(ネ)第5399号平成16年12月22日判決を引用し,賃借人からの働きかけに応じて建築された建物の賃貸借契約における賃料については,賃料減額請求を認めるとしても,その減額幅は,このような特段の事情がないと仮定して算定された鑑定評価等にとらわれることなく,賃貸人の収支計算を害しない範囲にとどめるべきである旨主張する。
しかしながら,これらの判決は,いわゆるサブリースの事案であって,不動産業者である原賃借人自身の占有使用が予定されていないものである上,いずれも賃料保証特約又は賃料自動増額特約がある事案であるから,本件と同一に論じられるものではない。しかも,和解は,両当事者の互譲によるものであるから,本件の参考になり得ないと言わざるを得ない。また,上記東京高裁平成16年12月22日判決は,賃料保証特約を前提とする収支予測の下に賃貸人が多額の銀行融資を受け,賃貸借契約の対象となる建物を建築した事情を考慮し,相当賃料額を算定しているが,本件では,前述したとおり,このような賃料保証の合意はなく,しかも,本件覚書及び本件基本協定書における賃料算定方法である「坪当たり建築価格×19%×被告の賃借する延べ床面積÷12」の19%の根拠も明らかとなっていない等,本件契約当初における賃料額等と原告の本件建物建築のための銀行借入金等の返済額との関係を認めるに足りる証拠はない。したがって,この点においても本件は,上記判決と事案を異にするのであって,上記原告の主張は,採用できない。
3 結論
以上によれば,原告の被告に対する請求(本訴請求)は,理由がないからいずれもこれを棄却し,被告の原告に対する請求(反訴請求)は,本件契約の賃料が平成12年3月17日以降1か月当たり2650万円であることの確認を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。
甲府地方裁判所民事部
裁判長裁判官 新 堀 亮 一
裁判官 岩 井 一 真
裁判官 村 上 典 子
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