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【Q&A】借地借家法施行前に設定された借地権が施行後に譲渡された場合の存続期間は

2023年07月27日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

(問)私は、昭和63年に建築された借地上の建物を地主の承諾をえて建物所有者から令和5年6月に購入しました。
 購入した借地権付き建物の借地権の存続期間や更新後の期間は、どうなるのでしょうか。


 (答)平成4(1992)年8月1日に現行の「借地借家法」(新法)が施行された。それ以前には、借地契約は「借地法」、借家契約には「借家法」が適用されていた。

 「借地借家法」の施行前(平成4年8月1日)に締結した借地契約の場合で、「借地借家法」(新法)の施行後に借地権の譲渡、又は借地権を相続する場合は、即ち借地人の交代があった場合の存続期間・更新後の期間はどうなるのか。

 その場合、「旧借地法が適用」されるのか、或いは「新法(借地借家法)が適用」されるのかが問題である。

 借地権の「設定」が新法施行前か後かで適用が分かれる。その「設定」とは、当初の契約時点のことである。その後に、更新が繰り返されたり、借地権の譲渡とか相続があっても当事者が変更しても、当初の契約時点が基準になる。従って、新法施行(平成4年8月1日)後に譲渡を受けた借地権でも、当初の借地人の契約が新法施行前ならば旧法の適用となる。

 「借地借家法」施行後に借地権付き建物が譲渡されても、その借地権の内容は従来の契約がそのまま引き継がれ、存続期間や更新後の期間についても「旧借地法」が適用され、借地権を相続する場合も同様である。存続期間も更新後の期間も従来の契約のままで、何ら変更されることはない。

 「借地借家法附則4条但書」により、「廃止前の建物保護法に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない」として、新法施行前に設定した借地権の存続期間については、「借地借家法」は適用されず、旧「借地法」が適用される(経過措置の原則)。

 また、更新に関しては、「借地契約の更新に関する経過措置」により「法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による」(借地借家法附則6条)として、「借地借家法」は適用されず、これも旧「借地法」が適用される。

 もっとも借地権の譲渡に際して、存続期間を譲渡のときから20年とか30年とかに延長することはできる。・・・・・また借地権の譲渡に際して、更新後の期間について「これからは新法による」と定めることはできない。更新後の期間について新法の規定は旧法よりも明らかに不利なので、無効となる。再び借地権を譲渡しても同様である。

   旧借地法が適用されずに借地借家法(新法)が適用されると、借地人の権利は大幅に弱められる。借地人の権利に関することで重要である。

 

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【Q&A】 貸主側の相続で土地・建物が共同所有に変わった場合

2022年07月29日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

  (問) 建物や土地の所有者が死亡し、複数の相続人による共同相続になり、単独所有から共同所有によって建物や土地が共有に変わった。その場合、借主は賃料を各人に分割し、それぞれの相続割合に応じて各人にそれぞれ支払わなければならないのか。


  (答)相続人の遺産分割協議が確定していれば、相続分に応じて、それぞれに賃料を支払うことになる。

  しかし、賃借人は相続の遺産分割協議が確定するまでは相続人が誰なのか窺い知れない。また、各相続人の相続割合が判らないので、相続分に応じた賃料を支払うことができない。

 従って、賃料の支払いは相続開始から遺産分割協議が確定するまでは民法494条に基づく「債権者不確知」(*)を理由とした「弁済供託」で対応しなければならない。

 

 土地や建物の貸主が死亡した場合、相続人は土地や建物の所有権を相続すると同時に貸借関係についての貸主の地位を承継する。相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属する(民法898条)。

  最近は、不動産小口化商品の1つとして投資者等が細分化された建物の共有持分を買受けるケースが多くなっている。

  共同相続人や共有持分取得者が貸主人の地位を承継した場合貸主が複数になる。その場合、①借主は相続割合に応じて賃料を各人にそれぞれ分割して支払わなければならないのか、それとも、②貸主の内の1人に賃料を全額支払えば、それで全員に弁済したことになるのかが問題になる。

  この問題に対して、共有物件の賃料は「不可分債権」であるという判例(東京地裁1972年12月22日判決)がある。

  家賃・地代は金銭で支払う債務であるから一見したところは分割債務とするのが素直なように思われる。即ち分割が出来る可分債権に思える。しかし、共有賃料を可分債権とみなすと色々不都合が生じる。相続が確定するまでは、相続人の相続割合が判らない。賃料の分割割合が確定できないので、各相続人に相続に応じた賃料が支払えないことになる。

  そこで、この不都合を避けるために判例は、共有賃料はその性質上不可分債権とみなした。①不可分債権には性質上不可分給付と意思表示による不可分給付がある。②不可分債権においては、債権者の1人が債務者に履行を請求すると、総ての債権者が履行を請求したのと同様の効果が生じる。③債務者が債権者の1人に履行すると、総ての債権者に履行したものと同様の効果が生じる(①②③は民法428条)。

  このことから、共有賃料は共同貸主の内の1人に賃料の全額を支払えば、それで総ての貸主に弁済したことになる。弁済供託を行う場合も同様に考えればよいことが判る。

上記の「共有賃料はその性質上不可分債権とみなす」という考え方があった。借主には都合のいい判例であった。

 しかし、最高裁は従来の解釈を変更した。

 すなわち、最高裁平成17年9月8日判決は「相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権は,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、この賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない」ということで賃料は不可分債権から分割債権へと判例が変更された。

 従って、相続開始後遺産分割の時までに、遺産である不動産から生ずる地代や家賃など法定果実は、遺産分割の対象にはならず各相続人が相続分に応じて取得することになる。

 前記最高裁の判決が出るまで、下級審では、①遺産分割協議の結果、そのマンションの所有者になった相続人が、相続開始後遺産分割までの賃料債権を取得する、という見解と、②相続開始後遺産分割までの賃料債権は、共同相続人がその相続分の割合で取得する、という見解に分かれていた。

 この両説の対立に終止符を打ったのが、前記最高裁判所判決である。民法898条の「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」という規定で、この規定は、遺産分割協議の結果、マンションが1人の相続人に帰属することになっても、それまでは、マンションは共同相続人の共有であるのだから、その間に生ずる賃料債権も、共同相続人のものになる。賃料は可分債権なので、共有ではなく、共有の割合、つまり相続分に応じて分割されるという訳である。

 しかし、賃借人は相続の遺産分割協議が確定するまでは相続人が誰なのか、どこに住んでいるのかも判らないのが通常である。また、各相続人の相続割合も判らないので、相続分に応じた賃料を支払うことができない。

 従って、賃料の支払いは相続開始から遺産分割協議が確定するまでは民法494条に基づく「債権者不確知」を理由とした「弁済供託」で対応しなければならないことになる。

 相続人の遺産分割協議が確定すれば、その後は相続分に応じて、それぞれに賃料を支払うことになる。

(*)相続や債権譲渡などがあったことによって真正な債権者が誰であるか確知出来ない場合である。

 

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借地の更新についての回答

2022年03月17日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

(問)地主が2021年12月、借地の期間満了が2022年1月1日なので借地の更新に当たって、借地の更新料(1坪当たり600万円)504万6000円、「更新手続き後に改定地代5万3824円(地代1坪当たり2200円を3200円に増額請求)をお支払いください」と請求してきた。2022年1月15日までに回答を求めている。どう回答すればいいでしょうか。


(答)取敢えず、借地の更新は3年後であることを回答するすればいいと思います。更新料、地代増額に関しては先延ばしにして、対抗策を考えることにするのが最善の策かと思います。以下が回答例です。

 

借地の更新についての回答> 

(1)借地借家法は平成4年(1992年)8月1日から施行されている。それ以前に設定された借地権については、「建物の滅失後の建物築造 による借地権の延長に関してはな、従前の例による」(借地借家法7条)とされているので、当該借地権は旧「借地」法7条が適用される。

(2)「借地法」7条の趣旨は賃借人が残存期間を超える耐用年数のある建物を再築することに対して賃貸人が遅滞ない異議を述べなかった場合、借地権は建物滅失の日から、堅固建物については30年間、その他の建物については20年間存続する。滅失建物再築による借地期間の延長を規定する。

(3)ここでの「滅失」は「建物滅失の原因が自然的であると人工的であると、借地権者の任意の取り壊しであると否とを問わず、建物の滅失した一切の場合を含む」(最高裁昭和38年5月21日判決)。賃借人が再築するために旧建物を取り壊す 場合も滅失するに該当する。

(4)なお、「借地法」7条の条文上は存続期間の起算点は「建物滅失の日」となっている。しかし、30年も時間が経過すると滅失日 が確定できない場合もある。そのような状況を考慮して、存続期間延長の起算点を「建物保存登記日」とする判例(東京地裁昭和48年7月25日判決)がある。この判例によれば当該建物の滅失・保存登記日は1995年3月17日である。「借地法」7条の規定によれば、当該堅固建物の場合、借地の存続期間は、建物滅失の1995年3月17日から30年間と法定されている。

(5)借地契約書第2条に記載されている「平成4年1月1日から30箇年とする」によると借地期間30年の満了日は2021年12月31日になる。しかし、借地法7条の規定から再築による借地期間の延長によって2025年3月16日までの30年間と法定されている。従って、2022年は更新年ではなく、2025年3月17日が更新日になる、これが今回の解答である。

(6) 契約書の第2条に「更新料の額については甲乙協議により決定する。」と記載されている。しかし、今回の文書では協議することもなく、一方的に合意事項を踏み躙り、更新料(504万6000円)の支払い請求を押し付ける姿勢・態度には納得できない。地代改定(更新後、1か月当たり2万6912円を5万3824円に増額)も協議も無く一方的に行う等、今後も同様の態度で臨むのであれば、当方も、それ相応の態度で応じざるを得ない。

 

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地主から「更新に際し、更新料を支払う意思はあるのか」という通告文が送られてきた。

2022年02月09日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

(問)地主から更新に際し、「更地価格の3%程度の更新料を支払う意思はあるのか」という通告文が送られてきた。

 内容は、次のような趣旨の文面だった。

「本件賃貸借契約は、本年10月31日をもって終了します。私共は、現時点では本契約の更新はしたくないと考えております。・・・更新を希望するのであれば本件土地の更地価格の3%程度の更新料を支払う意思があるかについてご回答いただきたい。なお、回答は本書面到達後2週間以内でお願いします」というものでした。

 更地価格の3%程度の更新料というと約240万円程です。借地契約書には更新料を支払う特約の記載はありません。コロナ禍で支払う余裕がありません。どうしても支払わないと借地契約は更新できないのでしょうか。


(答)結論を先に書きます。更新料を支払う約束をしていないので、更新料を支払わなくても、借地契約を解除されることなく、借地の更新はできます。

 借地契約の期間満了後、借地契約は「借地法」6条の規定に従って自動更新される。再度、地主側と借地契約書を取り交わさなくても、法律の規定によって、自動的に更新される。従前の契約がそのまま継続されるので、借地契約を結び直す必要はない。

 なお、本件借地契約は、「借地借家法」施行前に設定された借地権なので、「借地借家法」附則6条により「契約の更新に関しては、なお従前の例による」ということで、旧「借地法」が適応される。

 以下の回答文は、地主に更新料支払裁判行っても、敗訴することを理解してもらうためのものです。無駄な裁判を提訴させないための防御例文です。

 

(1)<更新料に関する回答>として、更新料支払い請求裁判の判例を資料として提示します。

一審・・・東京地裁昭和48年1月27日判決(判例時報709号53頁)

控訴審・・・東京高裁昭和51年3月24日判決(判例時報813号46頁)

上告審・・・最高裁昭和51年10月1日判決(判例時報835号63頁)

<事案> 昭和41年7月、借地期間満了前に賃対して、更新料を希望するならば、更地価格の5~10%(3.3㎡当たり2~4万円)の更新料の支払いを求めた。賃借人は3.3㎡当たり5000円なら払えると回答したが、折り合いがつかなかった。その後、弁護士のアドバイスを受けて、更新料の支払いを拒否した。

 昭和41年12月、賃貸人は賃借人に対して、①建物収去・土地明渡を求め、東京地裁に提訴した。②予備的に更新料支払の商習慣ないし事実たる慣習が存在するから、本件土地の更地価格の8%に相当する78万円余の更新料の支払を訴求した。

1、一審は、借地契約の法定更新に当たって賃貸人の請求があれば、更新料支払い義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習があることは認められない。仮に、そのようなものがあるとしても借地法11条の規定の精神に照らし、その効力を認めることができない。それらのことから賃貸人の主位的請求①と予備的請求②をいずれも棄却した。

2、控訴審も、一審と同旨を述べて、賃貸人の控訴を棄却した。

3、上告審は次のとおり判示し、賃貸人の上告を棄却した。

宅地賃貸借契約における賃貸借期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば、当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、その過程に所論の違法はない」(最高裁第二小法廷昭和51年10月1日判決

(2)上記の事案は、契約書に更新に際して更新料を支払うという旨の約束事項が記載されていなかった。従って、法律的には更新料の支払いを請求する根拠がないない訳である。そこで賃貸人は苦肉の策として、地主本人の勝手な解釈に基づいて、更新料支払いの「慣習法」が既に広く成立しているということを根拠に更新料を支払えと主張した。勿論、裁判では全く認められず、結果は完敗であった。

(3)次の判例も上記と同趣旨の判例です。

最高裁昭和53年1月24日判決(昭和52年(オ)第1010号)>

建物所有を目的とする土地賃貸借における賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求請求に基づき当然に賃借人に対する更新料支払義務を生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められない

昭和51年10月1日最高裁判決と同様に「更新料の支払合意がない借地契約」の場合は、賃貸人の一方的な更新料支払請求を一切認めていない。

(4)<東京地裁平成20年8月25日判決>

1、<事案>平成20年2月に借地契約は法定更新された(3回目の更新)。

しかし、賃貸人は旧「借地法」の規定によって「借地契約は前契約と同一条件で借地権は設定されている」にも拘らず、150万円(土地時価の5%)の更新料を請求して提訴した。借地契約書には一切更新料に関する支払特約の記載がなかった。

2、判決は<最高裁昭和51年10月1日判決>を引用して、次のように判示した。

宅地賃貸借契約における賃貸借期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば、当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するとはいえない」(最高裁第二小法廷昭和51年10月1日判決)として、賃貸人の更新料支払い請求を棄却した。

(5)以上、判例を検討した結果、次ののような結論になります。借地契約書に「更新に際して更新料を支払う旨の特約」が書かれていない場合、更新料を請求する法的根拠は存在せず、更新料の支払い義務は発生しない。これらのことは判例上既に確立した事実となっている。

(6)今回の更新料支払い請求に対する回答は以下のようになります。

 契約書に更新料支払い特約が書かれていない場合の更新の支払い請求は、法律的には無効ということが判例上明確な結論となっています。従いまして、今回の更新料の支払い請求に関しましては、最高裁の判例の結論に付き随うことにします。

 

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【Q&A】 地代値上げの文書が届いた。20日後までに回答を求められている。

2022年02月07日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 (問)<賃料の増額について>という文書が地主から送られてきた。

 次のような趣旨の文面です。「本件土地の地代は月額11万4000円(内訳は借地面積76坪で、1坪当たり1,500円)ですが、4月以降月額26万円に増額したいと考えております。貴殿におかれては、上記増額にご同意いただけるか、ご同意いただけないのであれば、いくらまでの増額であれば同意できるのか、端的にご回答いただくようお願いいたします。端的な回答がなければ、増額を拒否したものと受け取らせていただき、その後は裁判手続きに進ませていただきます。」

文書到達後、20日以内の回答を求めています。どのような回答をすればよいのでしょうか。


 

 (答)以下が地主への回答例です。

       <先般受け取った通知に対する回答>

(1)「借地借家法」11条1項に「地代等」の増額請求権の「成立要件」として、次のように規定しています。

 ①公租公課の増加により、

 ②土地価格の上昇、その他経済事情の変動により、

 ③近傍類似の土地の地代に比較して不相当となったとき

  以上の「法律要件」が満たされたときは契約の条件にかかわらず、将来に向かって地代等の増額請求ができると規定しています。 

(2)現行地代11万4000円を2022年4月以降に26万円に増額したいのであるから、当然上記の「法律要件」を充足する明確な算定資料に基づいて計算された結果による増額請求だと思います。

 「法律要件」を満たす客観的な算定資料の提示をお願いします。資料の提示を頂ければ、算定資料を検討し、増額理由に十分納得が出来れば、言うまでもなく増額には応じる所存でございます。

 地代の合意をするためにも、納得ができる算定資料に基づいた方が当事者間の合意形成は速いと思います。裁判も考えておられるならば、裁判に耐えられる客観的な資料に基づいた増額の主張は重要だと思います。

(3)「借地借家法」11条2項に次のように規定されています。

 「地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。」と規定しています。

地代額は当事者間の協議による合意で決定されることが原則です。一方的な増額請求で地代が決定される理由にはならないと条文から判読できると思います。

(4)現在、地代の改定に関しては当事者間の協議もなされず、当然地代増額の合意も成立していません。「借地借家法」11条2項の規定に従って地代の増額改定合意が成立するまでは、賃借人が「相当と認める額」を支払います。

 「相当と認める額」は賃借人が「主観的に相当と認める額」とされ、賃借人の相当額が裁判所の認定額に満たなかった場合でも、賃借人が主観的に判断する相当額の賃料を支払うことで債務不履行の責を負わない」(最高裁平成5年2月18日判決)。

 以上から勘案すると賃料の合意が成立、または裁判所の判断する適正賃料が確定するまでは、賃借人が「相当と認める額」である従前賃料11万円4000円を支払いますので、お含み置きください。

 

 

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最高裁判例 借地契約書に更新料支払い特約がない場合は、更新料の支払いを拒否できる

2022年02月04日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

宅地賃貸借契約の更新に際し、賃貸人の一方的な更新料の支払い請求に対し更新料支払義務が生ずる旨の商慣習又は事実たる慣習はないとして更新料請求を認めなかった事例


       主   文


 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


       理   由


 上告代理人小林宏也、同本多藤男、同長谷川武弘の上告理由第1点について
 原審が適法に確定した事実関係によれば、被上告人の所論所為をもって、未だ本件賃貸借契約の継続を不可能又は著しく困難ならしめるものとは認めるに足りないとした原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。


 同第2点について
 宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができその過程に所論の違法はない。論旨は、畢竟、独自の見解を主張するものであって、採用できない。


 同第3点及び第4点について
 記録及び原判決事実摘示に照らし、所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用できない。
 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官大塚喜一郎、裁判官岡原昌男、同吉田豊、同本林譲、同栗本一夫

 

 

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【判例】*改良住宅の入居者が死亡した場合において、市長の承認を受けて死亡時に同居していた者等に限り使用権の承継を認める京都市市営住宅条例は、公営住宅法等に違反し、違法、無効とはいえない

2018年12月12日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

平成29年(受)第491号 居住確認等請求本訴、家屋明渡等請求反訴事件


改良住宅の入居者が死亡した場合において、市長の承認を受けて死亡時に同居していた者等に限り使用権の承継を認める京都市市営住宅条例(平成9年京都市条例第1号)24条1項は、住宅地区改良法29条1項、公営住宅法48条に違反し違法、無効であるとはいえない
(最高裁平成29年12月21日 第一小法廷判決)



      主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


      理   由
 上告代理人河田創、同中道滋の上告受理申立て理由第3について

1 本件本訴は、上告人が、被上告人(京都市)の所有する住宅地区改良法(以下「法」という。)2条6項の改良住宅である第1審判決別紙物件目録記載1の住宅(以下「本件住宅」という。)を使用する権利(以下「使用権」という。)を上告人の母であるAから承継したなどと主張して、被上告人に対し、本件住宅の使用権及び賃料額の確認等を求めるものであり、本件反訴は、被上告人が、本件住宅を占有する上告人に対し、所有権に基づく本件住宅の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求めるものである。

2 改良住宅に関する関係法令の定めは、次のとおりである。
(1) ア  法は、不良住宅が密集する地区の環境の整備改善を図り、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅の集団的建設を促進し、もって公共の福祉に寄与することを目的とするものである(1条)。

イ  住宅地区改良事業の施行者は、市町村又は都道府県であり(法3条)、同事業において、改良地区内の不良住宅を除却しなければならず(法10条)、そのため必要がある場合においては、当該住宅又はこれに関する所有権以外の権利を収用することができ、その収用に関しては、土地収用法の規定を適用するものとされている(法11条1項、16条1項)。

ウ  施行者は、国土交通大臣による改良地区の指定の日において、当該地区内に居住する者で、住宅地区改良事業の施行に伴いその居住する住宅を失うことにより、住宅に困窮すると認められるものの世帯の数に相当する戸数の改良住宅を原則として当該地区内に建設しなければならないとされている(法17条1項、3項)。そして、上記指定の日から引き続き当該地区内に居住していた者等で、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失ったものその他の法18条各号に掲げる者については、改良住宅への入居を希望し、かつ、住宅に困窮すると認められるものを改良住宅に入居させなければならないとされている(同条)。

エ  国の補助を受けて建設された改良住宅の管理については、改良住宅を公営住宅法に規定する公営住宅とみなして、公営住宅の管理に関する同法27条1項から4項までが準用されている。他方、公営住宅の入居者が死亡した場合において、その死亡時に当該入居者と同居していた者につき、事業主体の承認を受けて引き続き当該公営住宅に居住することができる旨を定めた同条6項(平成8年法律第55号により新設されたもの)は準用されていない(法29条1項)。

オ  国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者は、当該改良住宅に引き続き3年以上入居している場合において政令で定める基準を超える収入のあるときは、当該改良住宅を明け渡すように努めなければならないとされている(法29条3項、平成8年法律第55号による改正前の公営住宅法(以下「旧公営住宅法」という。)21条の2)。


(2)  施行者は、国の補助を受けて建設された改良住宅の管理について必要な事項を条例で定めるものとされており(法29条1項、公営住宅法48条)、被上告人は、改良住宅及び公営住宅を含む市営住宅の管理等について京都市市営住宅条例(平成9年京都市条例第1号。以下「本件条例」という。)を制定している。本件条例24条1項は、改良住宅の入居者が死亡した場合において、その死亡時に当該入居者と同居していた者で、入居の承認に際して同居を認められていた者又は同居の承認を受けて同居している者(以下、併せて「死亡時同居者」という。)は、市長の承認を受けて、引き続き、当該改良住宅に居住することができる旨を定めている。

 

3  原審の適法に確定した事実関係等のの概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、平成20年1月、Aに対し、法18条所定の改良住宅に入居させるべき者に当たるとして、国の補助を受けて建設された本件住宅を賃貸して引き渡した。

(2)  上告人は、平成22年5月頃からAを介護するため本件住宅に同居したが、京都市長に対し、本件条例に基づく同居の承認を申請しなかった。

(3)  Aは、平成25年9月に死亡した。

(4)  上告人を含むAの相続人の間で、平成27年7月、上告人が本件住宅の使用権を取得する旨の遺産分割協議が成立した。

4  原審は、要旨次のとおり判断して、上告人による本件住宅の使用権の承継を否定した。
公営住宅の入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継するものではないと解されるところ(最高裁平成2年(オ)第27号同年10月18日第一小法廷判決・民集44巻7号1021頁)、法の規定及びその趣旨に照らすと、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合についても、公営住宅の場合と同様に、当該入居者の相続人が改良住宅の使用権を当然に承継すると解する余地はない。そうすると、本件条例24条1項は、法の規定の趣旨に違反するとはいえない。

5  所論は、原審の上記判断は、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合について、住宅に困窮する低額所得者に賃貸される公営住宅の場合と同様に解したものであって、法の規定の解釈を誤った違法があり、相続人による当該使用権の承継を制限した本件条例24条1項は、法29条1項に違反し違法、無効であるというものである。

6 (1)  前記2(1)に掲げた法の規定及びその趣旨に鑑みれば、改良住宅は、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失うことにより住宅に困窮した改良地区内の居住者を対象として、建設されるものということができる。また、法は、公営住宅の入居者が死亡した場合における使用権の承継について定めた公営住宅法27条6項を準用していない。そうすると、改良住宅の法18条に基づく入居者が死亡した場合における使用権の承継については、直ちに、住宅に困窮する低額所得者一般に対して賃貸される公営住宅の場合と同様に解することはできないというべきである。

(2)  ところで、法18条は、改良住宅に入居させるべき者について、改良住宅への入居を希望し、かつ、住宅に困窮すると認められるものに限定しており、住宅地区改良事業に伴い住宅を失った者の全てについて、無条件に改良住宅への入居を認めるものではない。そして、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者は、当該改良住宅に引き続き3年以上入居している場合において政令で定める基準を超える収入のあるときは、当該改良住宅を明け渡すように努めなければならないともされている(法29条3項、旧公営住宅法21条の2第1項)。また、改良地区内の居住者が従前の住宅につき有していた所有権その他の権利に対しては、施行者が金銭をもって補償することが予定されている(法11条1項、16条1項参照)。

そうすると、施行者が住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失った者等を改良住宅に入居させることは、上記権利に対する補償ではなく、上記の者等の居住の安定を図るために義務付けられるものであるということができる。

以上によれば、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合における使用権の承継については、民法の相続の規定が当然に適用されるものと解することはできない。そして、上記の場合における使用権の承継について、施行者が、法の規定及びその趣旨に違反しない限りにおいて、法29条1項、公営住宅法48条に基づき、改良住宅の管理について必要な事項として、条例で定めることができるものと解される。

(3)  本件条例24条1項は、改良住宅の入居者が死亡した場合において、死亡時同居者に限り、市長の承認を受けて、引き続き当該改良住宅に居住することができると定めている。上記規定の趣旨は、前記のとおり、改良住宅が、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失った者等の居住の安定を図る趣旨のものであることを踏まえて、改良住宅の入居者死亡時における使用権の承継を死亡時同居者に限定したものと解することができる。そうすると、本件条例24条1項は、法の規定及びその趣旨に照らして不合理であるとは認められないから、法29条1項、公営住宅法48条に違反し違法、無効であるということはできない。

以上によれば、上告人による本件住宅の使用権の承継を否定した原審の判断は、是認することができる。論旨は採用することができない。

なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。


よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


   (裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口 厚)

 

 

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【判例】*地代等自動改定特約による地代額が不相当になったときは、地代増減請求が出来るとされ事例

2018年12月11日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

地代自動改定特約による地代額が不相当になったときは、地代増減請求が出来るとされ事例
(最高裁平成15年6月12日判決 民集57巻6号595頁)

 

       主   文
 原判決を破棄する。
 被上告人の請求についての本件控訴を棄却する。
 上告人の請求に関する部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 第2項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。


       理   由
 上告代理人遠藤光男、同高須順一、同高林良男の上告受理申立て理由について
 1 本件は、本件各土地を被上告人から賃借した上告人が、被上告人に対し、地代減額請求により減額された地代の額の確認を求め、他方、被上告人が、上告人に対し、地代自動増額改定特約によって増額された地代の額の確認を求める事案である。

 2 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人は、大規模小売店舗用建物を建設して株式会社ダイエーの店舗を誘致することを計画し、昭和62年7月1日、その敷地の一部として、被上告人との間において、被上告人の所有する本件各土地を賃借期間を同月20日から35年間として借り受ける旨の本件賃貸借契約を締結した。

 (2) 被上告人及び上告人は、本件賃貸借契約を締結するに際し、被上告人の税務上の負担を考慮して、権利金や敷金の授受をせず、本件各土地の地代については、昭和62年7月20日から上告人が本件各土地上に建築する建物を株式会社ダイエーに賃貸してその賃料を受領するまでの間は月額249万2900円とし、それ以降本件賃貸借契約の期間が満了するまでの間は月額633万1666円(本件各土地の価格を1坪当たり500万円と評価し、その8%相当額の12分の1に当たる金額)とすることを合意するとともに、「但し、本賃料は3年毎に見直すこととし、第1回目の見直し時は当初賃料の15%増、次回以降は3年毎に10%増額する。」という内容の本件増額特約を合意し、さらに、これらの合意につき、「但し、物価の変動、土地、建物に対する公租公課の増減、その他経済状態の変化によりα(被上告人)・β(上告人)が別途協議するものとする。」という内容の本件別途協議条項を加えた。

 (3) 本件賃貸借契約が締結された昭和62年7月当時は、いわゆるバブル経済の崩壊前であって、本件各土地を含む東京都23区内の土地の価格は急激な上昇を続けていた。従って、当事者双方は、本件賃貸借契約とともに本件増額特約を締結した際、本件増額特約によって、その後の地代の上昇を一定の割合に固定して、地代をめぐる紛争の発生を防止し、企業としての経済活動に資するものにしようとしたものであった。

 (4) ところが、本件各土地の1㎡当たりの価格は、昭和62年7月1日には345万円であったところ、平成3年7月1日には367万円に上昇したものの、平成6年7月1日には202万円に下落し、さらに、平成9年7月1日には126万円に下落した。

 (5) 上告人は、被上告人に対し、前記約定に従って、昭和62年7月20日から昭和63年6月30日までの間は、月額249万2900円の地代を支払い、上告人が株式会社ダイエーより建物賃料を受領した同年7月1日以降は、月額633万1666円の地代を支払った。

 (6) その後、本件各土地の地代月額は、本件増額特約に従って、3年後の平成3年7月1日には15%増額して728万1416円に改定され、さらに、3年後の平成6年7月1日には10%増額して800万9557円に改定され、上告人は、これらの地代を被上告人に対して支払った。
 しかし、その3年後の平成9年7月1日には、上告人は、地価の下落を考慮すると地代を更に10%増額するのはもはや不合理であると判断し、同日以降も、被上告人に対し、従前どおりの地代(月額800万9557円)の支払を続け、被上告人も特段の異議を述べなかった。

 (7) さらに、上告人は、被上告人に対し、平成9年12月24日、本件各土地の地代を20%減額して月額640万7646円とするよう請求した。しかし、被上告人は、これを拒否した。

 (8) 他方、被上告人は、上告人に対し、平成10年10月12日ころ、平成9年7月1日以降の本件各土地の地代は従前の地代である月額800万9557円を10%増額した月額881万0512円になったので、その差額分(15か月分で合計1201万4325円)を至急支払うよう催告した。しかし、上告人は、これを拒否し、かえって、平成10年12月分からは、従前の地代を20%減額した額を本件各土地の地代として被上告人に支払うようになった。


 3 本件において、上告人は、被上告人に対し、本件各土地の地代が平成9年12月25日万7646円であることの確認を求め、他方、被上告人は、上告人に対し、本件各土地の地代が平成9年7月1日以降月額881万0512円であることの確認を求めている。


 4 前記事実関係の下において、第1審は、上告人の請求を一部認容し、被上告人の請求を棄却したが、これに対して、被上告人が控訴し、上告人が附帯控訴したところ、原審は、次のとおり判断して、被上告人の控訴に基づき、第1審判決を変更して、上告人の請求を棄却し、被上告人の請求を認容するとともに、上告人の附帯控訴を棄却した。

 (1) 本件増額特約は、昭和63年7月1日から3年ごとに本件各土地の地代を一定の割合で自動的に増額させる趣旨の約定であり、本件別途協議条項は、そのような地代自動増額改定特約を適用すると、同条項に掲げる経済状態の変化等により、本件各土地の地代が著しく不相当となる(借地借家法11条1項にいう「不相当となったとき」では足りない。)ときに、その特約の効力を失わせ、まず当事者双方の協議により、最終的には裁判の確定により、相当な地代の額を定めることとした約定であると解すべきである。

 (2)ア 本件各土地の価格は、昭和62年7月1日以降、平成3年ころまでは上昇したものの、その後は下落を続けている。

 イ しかし、総理府統計局による消費者物価指数(全国総合平均)は、昭和62年度を100とすると、平成3年度が109.66に、平成6年度が113.69に、平成9年度が115.75に、それぞれ上昇している。また、日本銀行調査統計局による卸売物価指数は、昭和62年度を100とすると、平成3年度が104、平成6年度が100、平成9年度が98であり、それほど大幅には変動していない。また、本件各土地の公租公課(固定資産税・都市計画税)は、昭和62年7月1日には1㎡当たり6000円であったのが、平成3年7月1日には同6740円に、平茂6年7月1日には同8090円に、それぞれ上昇しており、本件各土地のうち面積が最も広い地番141番51の土地の固定資産税・都市計画税の合計は、平成6年度には84万4103円であったのが、平成9年度には117万4570円となり、約40%も上昇している。さらに、本件各土地の平成9年7月1日の時点における継続地代の適正額についての第1審の鑑定結果は月額785万8000円であり、本件増額特約を適用した地代の月額881万0512円は、その1.12倍にとどまる。

 ウ 以上の事実を考慮すると、平成9年7月1日時点において、本件各土地の地代が著しく不相当になったとまではいえないから、本件増額特約が失効したと断じることはできない。

 (3) そうすると、本件増額特約に基づき、平成9年7月1日以降の本件各土地の地代は月額881万0512円(従前の月額800万9557円を10%増額した金額)に増額されたと認めるのが相当である。

 (4) 本件増額特約のような地代自動増額改定特約については、借地借家法11条1項所定の諸事由、請求の当時の経済事情及び従来の賃貸借関係その他諸般の事情に照らし著しく不相当ということができない限り、有効として扱うのが相当であるところ、その反面として、同項に基づく地代増減請求をすることはできず、その限度で、当事者双方の意思表示によって成立した合意の効力が同項に基づく当事者の一方の意思表示の効力に優先すると解すべきである。

 (5) 平成9年12月24日の時点において、未だ、本件増額特約そのものをもって著しく不相当ということはできないし、これを適用すると著しく不相当ということもできない(従って、本件別途協議条項を適用する余地もない。)から、上告人は、本件各土地につき、借地借家法11条1項に基づく地代減額請求をすることはできない。

 5 しかし、原審の上記判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約の当事者は、従前の地代等が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、借地借家法11条1項の定めるところにより、地代等の増減請求権を行使することができる。これは、長期的、継続的な借地関係では、一度約定された地代等が経済事情の変動等により不相当となることも予想されるので、公平の観点から、当事者がその変化に応じて地代等の増減を請求できるようにしたものと解するのが相当である。この規定は、地代等不増額の特約がある場合を除き、契約の条件にかかわらず、地代等増減請求権を行使できるとしているのであるから、強行法規としての実質を持つものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日判決・民集10巻5号496頁、最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日判決・民衆35巻3号656頁参照)。

 (2) 他方、地代等の額の決定は、本来当事者の自由な合意にゆだねられているのであるから、当事者は、将来の地代等の額をあらかじめ定める内容の特約を締結することもできるというべきである。そして、地代等改定をめぐる協議の煩わしさを避けて紛争の発生を未然に防止するため、一定の基準に基づいて将来の地代等を自動的に決定していくという地代等自動改定特約についても、基本的には同様に考えることができる。

 (3) そして、地代等自動改定特約は、その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には、その効力を認めることができる。

 しかし、当初は効力が認められるべきであった地代等自動改定特約であっても、その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより、同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には、同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず、これを適用して地代等改定の効果が生ずるとすることはできない。また、このような事情の下においては、当事者は、同項に基づく地代等増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない。

 (4) これを本件についてみると、本件各土地の地代がもともと本件各土地の価格の8%相当額の12分の1として定められたこと、また、本件賃貸借契約が締結された昭和62年7月当時は、いわゆるバブル経済の崩壊前であって、本件各土地を含む東京都23区内の土地の価格は急激な上昇を続けていたことを併せて考えると、土地の価格が将来的にも大幅な上昇を続けると見込まれるような経済情勢の下で、時の経過に従って地代の額が上昇していくことを前提として、3年ごとに地代を10%増額するなどの内容を定めた本件増額特約は、そのような経済情勢の下においては、相当な地代改定基準を定めたものとして、その効力を否定することはできない。しかし、土地の価格の動向が下落に転じた後の時点においては、上記の地代改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより、本件増額特約によって地代の額を定めることは、借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなったというべきである。従って、土地の価格の動向が既に下落に転じ、当初の半額以下になった平成9年7月1日の時点においては、本件増額特約の適用を争う上告人は、もはや同特約に拘束されず、これを適用して地代増額の効果が生じたということはできない。また、このような事情の下では、同年12月24日の時点において、上告人は、借地借家法11条1項に基づく地代減額請求権を行使することに妨げはないものというべきである。


 6 以上のとおり、平成9年7月1日の時点で本件増額特約が適用されることによって増額された地代の額の確認を求める被上告人の上告人に対する請求は理由がなく、また、同年12月24日の時点で本件増額特約が適用されるべきものであることを理由に上告人の地代減額請求権の行使が制限されるということはできず、論旨は理由がある。これと異なる原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そこで、原判決を破棄し、被上告人の上告人に対する請求についての本件控訴を棄却するとともに、上告人の被上告人に対する請求について、上告人が地代減額請求をした平成9年12月24日の時点における本件各土地の相当な地代の額について、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官甲斐中辰夫、裁判官深澤武久、同横尾和子、同泉徳治、同島田仁郎

 

 

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【判例】*借地法4条1項所定の正当事由を補完する立退料等の提供・増額の申出の時期

2018年12月04日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

借地法4条1項所定の正当事由を補完する立退料等の提供・増額の申出の時期
(最高裁平成6年10月25日判決 民集48巻7号1303頁)

 


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


       理   由
 1 上告代理人竹田章治の上告理由第2点について
  土地所有者が借地法6条2項所定の異議を述べた場合これに同法4条1項にいう正当の事由が有るか否かは、右異議が遅滞なく述べられたことは当然の前提として、その異議が申し出られた時を基準として判断すべきであるが、右正当の事由を補完する立退料等金員の提供ないしその増額の申出は、土地所有者が意図的にその申出の時期を遅らせるなど信義に反するような事情がない限り、事実審の口頭弁論終結時までにされたものについては、原則としてこれを考慮することができるものと解するのが相当である。けだし、右金員の提供等の申出は、異議申出時において他に正当の事由の内容を構成する事実が存在することを前提に、土地の明渡しに伴う当事者双方の利害を調整し、右事由を補完するものとして考慮されるのであって、その申出がどの時点でされたかによって、右の点の判断が大きく左右されることはなく、土地の明渡しに当たり一定の金員が現実に支払われることによって、双方の利害が調整されることに意味があるからである。このように解しないと、実務上の観点からも、種々の不合理が生ずる。すなわち、金員の提供等の申出により正当の事由が補完されるかどうか、その金額としてどの程度の額が相当であるかは、訴訟における審理を通じて客観的に明らかになるのが通常であり、当事者としても異議申出時においてこれを的確に判断するのは困難であることが少なくない。また、金員の提供の申出をするまでもなく正当事由が具備されているものと考えている土地所有者に対し、異議申出時までに一定の金員の提供等の申出を要求するのは、難きを強いることになるだけでなく、異議の申出より遅れてされた金員の提供等の申出を考慮しないこととすれば、借地契約の更新が容認される結果、土地所有者は、なお補完を要するとはいえ、他に正当の事由の内容を構成する事実がありながら、更新時から少なくとも20年間土地の明渡しを得られないこととなる。


 本件において、原審は、被上告人が原審口頭弁論においていわゆる立退料として2350万円又はこれと格段の相違のない範囲内で裁判所の決定する金額を支払う旨を申し出たことを考慮し、2500万円の立退料を支払う場合には正当事由が補完されるものと認定判断しているが、その判断は、以上と同旨の見解に立つものであり、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するに帰するもので、採用できない。


 

2 その余の上告理由について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。右判断は、所論引用の当審判例に抵触するものではない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用できない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官可部恒雄の補足意見(略)があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官園部逸夫、裁判官可部恒雄、同大野正男、同千種秀夫、同尾崎行信

 

 

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【判例】*土地賃借人が該地上の借地上建物に設定された抵当権は敷地の借地権に及ぶとされた事例

2018年12月03日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

1、土地賃借人が該地上の借地上建物に設定された抵当権は敷地の借地権に及ぶとされた事例
2、地上建物に抵当権を設定した土地賃借人は抵当建物の競落人に対し地主に代位して当該土地の明渡を請求ができないとされた事例
(最高裁昭和40年5月4日判決 民集19巻4号811頁)


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


       理   由
 上告代理人長谷川毅の上告理由第1・2点について。

 土地賃借人の所有する地上建物に設定された抵当権の実行により、競落人が該建物の所有権を取得した場合には、民法612条の適用上賃貸人たる土地所有者に対する対抗の問題はしばらくおき、従前の建物所有者との間においては、右建物が取毀しを前提とする価格で競落された等特段の事情がないかぎり、右建物の所有に必要な敷地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である(原審は、択一的に、転貸関係の発生をも推定しており、この見解は当審の執らないところであるが、この点の帰結のいかんは、判決の結論に影響を及ぼすものではない。)。何故なら、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって1の財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからである。従って、賃貸人たる土地所有者が右賃借権の移転を承諾しないとしても、すでに賃借権を競落人に移転した従前の建物所有者は、土地所有者に代位して競落人に対する敷地の明渡しを請求することができないものといわなければならない。結論においてこれと同趣旨により、本件における従前の建物所有者たる上告人から競落人たる被上告人に対して本件土地明渡しを請求しえないとした原審の判断は、正当として是認すべきである。


 されば、本件において、かかる特段の事情を主張立証すべき責任は、従前の建物所有者たる上告人に存するものというべく、これと反対の見解に立つ所論は理由がないし、また、被上告人が上告人から競落により賃借権を取得したとしてもそれは地主の承諾を条件とするものであるとの所論は、前記原判示の趣旨を正解しないものである。さらに、上告人が本件競落によって被上告人の取得した賃借権とは別個の賃借権を取得したとの所論主張を肯認すべきなんらの根拠も見出しがたい。論旨は、畢竟、独自の法律的見解に立脚して原判示を非難するものであり、いずれも採用するを得ない。よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官横田正俊、裁判官石坂修一、同五鬼上堅磐、同柏原語六、同田中二郎

 


(註)競売により建物所有権が買受人に移転した時は、敷地利用権も買受人に移転する(同趣旨 最高裁昭和48年2月8日判決金融・商事判例677号44頁)。買受人が土地所有者に対抗できるかは別問題である。敷地使用権が賃借権の場合は、土地所有者の承諾がなければ、対抗できない(民法612条1項)。しかし、昭和41年の借地法の改正(9条ノ3)により借地上建物競売又は公売により買受けた者は借地権の譲受けについて賃貸人の承諾に代わる裁判所の許可を得ることが出来る規定を設けた。この規定は借地借家法20条に踏襲されている。

 

 

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【判例】*借地人が建物買取請求権を行使すると明渡の強制執行の阻止理由になるとされた事例

2018年11月29日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

①建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結後に建物買取請求権を行使することができるとされた事例
②借地人が建物買取請求権を行使すると明渡の強制執行の阻止理由になるとされた事例

(最高裁平成7年12月15日判決 判例時報1553号86頁 判例タイムズ897号247頁 民集49巻10号3051頁)

 


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人(賃貸人)の負担とする。


       理   由
 上告代理人林正明の上告理由1について

 借地上に建物を所有する土地の賃借人が、賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時までに借地法4条2頃所定の建物買取請求権を行使しないまま、賃貸人の右請求を認容する判決がされ、同判決が確定した場合であっても、賃借人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができるものと解するのが相当である。何故なら、

(1) 建物売買請求権は、前訴確定判決によって確定された賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり、これとは別個の制度目的及び原因に基づいて発生する権利であって、賃借人がこれを行使することにより建物の所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、その結果として賃借人の建物収去義務が消滅するに至るのである、

(2) 従って、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったとしても、実体法上、その事実は同権利の消滅事由に当たるものではなく(最高裁昭和52年(オ)第268号同52年6月20日判決・裁判集民事121号63頁)、訴訟法上も、前訴確定判決の既判力によって同権利の主張が遮断されることはないと解すべきものである、

(3) そうすると、賃借人が前訴の事実訴口頭弁論終結時以後に建物買取請求権を行使したときは、それによって前訴確定判決により確定された賃借人の建物収去義務が消滅し、前訴確定判決はその限度で執行力を失うから、建物買取請求権行使の効果は、民事執行法35条2項所定の口頭弁論の終結後に生じた異議の事由に該当するからである。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用できない。


 同2について
 原審の適法に確定した事実関係の下において、被上告会社(賃借人)が本件各建物買取請求権を放棄したものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用できない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官河合伸一、裁判官大西勝也、同根岸重治、同福田博

 

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【判例】*更新料の支払義務の不履行を理由として土地賃貸借契約の解除が認められた事例

2018年11月28日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

更新料の支払義務の不履行を理由として土地賃貸借契約の解除が認められた事例
(最高裁昭和59年4月20日判決 民集38巻6号610頁)


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人(賃借人)らの負担とする。


       理   由
 上告(賃借人)代理人猪狩庸祐、同大久保博の上告理由第1及び第2について

 原審は、
1(一) 被上告(賃貸人)人は、昭和9年12月14日、上告人(賃借人)甲に対し、被上告人(賃貸人)所有の本件土地を、賃貸期間20年、普通建物所有の目的、権利金・敷金なく、無断譲渡・転貸禁止の特約付きで賃貸した。

 (二) そして、本件賃貸借契約は、昭和29年12月14日期間20年として更新され、その後地上建物の無断増改築禁止の特約がされ、上告人(賃借人)乙が連帯保証人となったが、更に本件賃貸借契約は、昭和49年12月14日期間20年として更新された。

 (三) ところで、本件賃貸借契約には、前示のとおり被上告人(賃貸人)の承諾なしに建物の増改築をしてはならない旨の特約があったが、上告人(賃借人)甲は、昭和37年12月本件建物(1)について長男名義で増改築の確認の申請をしたうえ、昭和38年ころその増改築に着手し、土台石を敷いた段階で被上告人(賃貸人)に承諾を求めたので、被上告人(賃貸人)がこれを承諾せず、その中止を申入れたが、上告人(賃借人)甲はこれを聞きいれずに完成させてしまった。そして、右増改築により上告人(賃借人)甲宅の便所が被上告人(賃貸人)の長男宅に接近して同人らに不快感を与えるようになり、また、上告人甲(賃借人)は、右増改築部分に間借人をおいたが、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)らとの紛争を避けるため、特に抗議を申入れることはしなかった。

 (四) また、本件賃貸借契約には、前示のように被上告人(賃貸人)の承諾なしに本件土地の賃借権の譲渡・転貸をしてはならない旨の特約があったが、上告人(賃借人)甲は、被上告人(賃貸人)の承諾を得ずに妻である上告人(賃借人)乙に本件建物(1)の所有権を移転して本件土地を使用させ、かつ、昭和38年2月8日上告人(賃借人)乙に本件建物(1)の所有権保存登記をして、本件土地を転貸した。被上告人(賃貸人)は、後日このことを知ったが、紛争を嫌って抗議等の申入れをしなかった。

 (五) 上告人(賃借人)らは、昭和50年12月7日本件建物(2)を隣地に接近して建築した。そのころ、これを知った被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)らに書面で右建物は、何時、誰が建てたのか明らかにするよう求めたが、上告人(賃借人)らがこれに応じなかったので、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)らに重ねて書面でその回答を求めたが、上告人(賃借人)らはこれにも応じなかった。

 (六) 昭和38年ころから上告人(賃借人)甲の賃料の支払が遅れ、また、被上告人(賃貸人)は、本件土地を自ら使用する考えをもっていたが、本件賃貸借契約の解消は考えず、昭和49年12月14日の賃貸借契約の更新に先立ち、同月12日上告人(賃借人)甲に対し更新料の支払を請求する旨予め通告し、昭和50年6月1日三菱信託銀行株式会社の鑑定による本件土地の更地価格2585万3000円に基づき、借地権の価格をその7割にあたる1809万7100円とし、更に更新料をその1割にあたる180万9710円と算定してこれを上告人(賃借人)甲に支払うよう求めた。

 (七) しかし、上告人(賃借人)甲がこれに応じなかったので、被上告人(賃貸人)は、昭和50年10月30日右更新料の支払を求めて宅地調停の申立てをした。調停は、14回の期日が開かれ、主として、被上告人(賃貸人)と上告人(賃借人)甲の代理人として出頭した弁護士丙との間で更新料の額と支払方法のほかに、前記の上告人(賃借人)甲の本件建物(1)の無断増改築、本件土地の賃借権の無断転貸、賃料支払の遅滞等の問題等についても話合がなされた。その結果、賃料に関する問題は、賃料の増額もあってその賃料額及び支払額が不明確になっていたが、双方の言分の隔たりが大きく早急に合意に達することが困難な状態にあったので、調停成立後、右の点につき更に話合いを続けることとした。そして、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)甲の前記の不信行為を不問に付することとし、不問に付したことによる解決料と本来の意味での更新料との合計額を100万円に減額する旨申入れたところ、上告人(賃借人)甲はこれを了承し、右100万円を昭和51年12月末日50万円、昭和52年3月末日50万円と2回に分割して支払うことを約したので、昭和51年12月20日上告人(賃借人)甲が被上告人(賃貸人)に対し更新料100万円を右のとおり分割して支払う旨の調停が成立した。

 (八) そして、上告人(賃借人)甲は、第1回の分割金50万円は約定のとおり支払をしたが、第2回の分割金50万円は期限までに支払をしなかった。そこで、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)甲に対し、昭和52年4月4日到達の書面をもって、右書面到達の日から3日以内に第2回の分割金50万円を支払うよう催告したが、上告人(賃借人)甲がその支払をしなかったので、被上告人(賃貸人)は、同月10日到達の書面をもって本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

 (九) 上告人(賃借人)甲が、第2回の分割金50万円を期限までに支払わず、かつ、被上告人(賃貸人)の催告にも応じなかったのは、調停の際被上告人(賃貸人)側が借地の範囲を明確にすることなどを先ず履行することを約束していたものと考えていたこと、被上告人(賃貸人)が従来、賃借人の不信行為について強く抗議をせず、また、義務の履行を迫ったことがなかったので、右分割金を期限までに支払わなくても本件賃貸借契約が解除されるという事態に至ることはあるまいと思っていたからであった。しかし、調停成立の際、賃料については後日話合いすることが留保されたものの、被上告人(賃貸人)が先ず借地の範囲を明確にすることなどの合意はされていなかった。なお、上告人(賃借人)甲は、昭和52年4月16日被上告人(賃貸人)に対し、第2回の分割金50万円を弁済のため提供したが、被上告人(賃貸人)がその受領を拒絶したので同月18日これを供託した、との事実を確定したうえ、

2(一) 本件賃貸借契約は、昭和9年に締結されて以降2回の更新がされているが、右契約締結当時権利金・敷金等の差入れがなく、かつ、その間地価をはじめ物価が著しく値上りしているため、被上告人(賃貸人)が更新の際に借地権価格の1割に相当する更新料の支払を請求し、これについて当事者双方が協議したうえその支払の合意がされたことの経緯から見ると、本件更新料は、本件土地利用の対価として支払うこととされたものであって、将来の賃料たる性質を有するものと認められる。

 (二) 被上告人(賃貸人)は、その所有土地の有効利用を考え、また、上告人(賃借人)らの不信行為もあったが、本件賃貸借契約の解消を求めず、その継続を前提として更新料を請求したものであるから、更新に関する異議権を放棄し、その対価としての更新料を請求し、これについて更新料の支払が合意されたものと認めるべきである。

 (三) また、本件においては、上告人(賃借人)甲に建物の無断増改築、借地の無断転貸、賃料支払の遅滞等の賃貸借契約に違反する行為があったが、本件調停は、これら上告人(賃借人)甲の行為を不問とし、紛争予防目的での解決金をも含めた趣旨で更新料の支払を合意したものと認められる、と認定判断するところ、以上の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし正当として是認できる。

 ところで、土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが、その更新料がいかなる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは、単にその更新料の支払がなくても法定更新がされたかどうかという事情のみならず、当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当であるところ、原審の確定した前記事実関係によれば、本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから、その不払は、右基盤を失わせる著しい背信行為として本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。従って、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 論旨は、畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用できない。

 同第3について
 本件において、賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるとは認められないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として肯認するに足り、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用できない。

 よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁裁判長裁判官宮崎梧一、裁判官木下忠良、同鹽野宜慶、同大橋進、同牧圭次

 

 

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【判例】*新賃貸人は建設協力金の性質を有する保証金の返還債務を承継しないとされた事例

2018年11月26日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例


ビルの貸室の賃貸借契約に際し賃借人から建物所有者・賃貸人に差し入れられた建設協力金の性質を有する保証金の返還債務が右建物の所有権を譲り受けた新賃貸人に承継されないとされた事例
(最高裁 昭和51年3月4日判決 民集30巻2号25頁)


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人(賃借人株式会社X)の負担とする。


       理   由
 上告(賃借人株式会社X)代理人高芝利徳、同渡辺法華の上告理由第1点について
 原判決の確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 上告人(賃借人株式会社X)は、昭和38年6月15日訴外A(賃貸人)から同人所有の本件建物(ビルデイング)の2階部分176.85㎡(以下「本件貸室」という。)を、期間昭和38年7月1日から5年間、賃料1か月23万50円、敷金138万300円、保証金664万4700円の約定で賃借し、上告人(賃借人株式会社X)は昭和38年7月1日までに右敷金及び保証金を甲に差し入れ、本件貸室の引渡を受けた。

 2 右敷金及び保証金に関する特約として、本件賃貸借契約の期間満了の際、上告人(賃借人株式会社X)が本件貸室の明渡を完了し、かつ、右契約上の債務を完済したときは、A(賃貸人)は直ちに前記敷金及び保証金を上告人(賃借人株式会社X)に返還しなければならず、ただ、上告人(賃借人株式会社X)は、(イ) 右契約成立時から2年間はやむを得ない事情がない限り解約することができず、(ロ) 2年経過後は正当な理由がある限り解約することができるが、A(賃貸人)は、右(ロ)の場合には直ちに敷金及び保証金を返還しなければならないのに反し、(イ)の場合には、敷金については、直ちにこれを返還し、保証金については、本件貸室の次の入居者が決定し、その者から保証金が差し入れられるまで、6か月を限ってその返還を留保できる旨約された。

 3 本件保証金に関する約定は本件賃貸借契約書の中に記載されていたが、右保証金は、A(賃貸人)が本件建物建築のために他から借り入れた金員の返済にあてることを主な目的とする、いわゆる建設協力金であって、本件賃貸借契約成立のときから5年間はこれを据え置き、6年目から毎年日歩5厘の利息を加えて10年間毎年均等の割合でA(賃貸人)から上告人(賃借人株式会社X)に返還することとされている。

 4 被上告人(新賃貸人株式会社Y)は昭和43年5月9日競落によって本件建物の所有権を取得し、同年6月5日その旨の登記を経由した。

 5 建物の所有権移転に伴って新所有者が賃貸人たる地位を承継するとともに、保証金返還債務も当然に承継するという慣習ないし慣習法が形成されていることの立証はない。

 以上の事実関係に即して考えると、本件保証金は、その権利義務に関する約定が本件賃貸借契約書の中に記載されているとはいえ、いわゆる建設協力金として右賃貸借とは別個に消費貸借の目的とされたものというべきであり、かつ、その返還に関する約定に照らしても、賃借人の賃料債務その他賃貸借上の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付され、賃貸借の存続と特に密接な関係に立つ敷金ともその本質を異にするものといわなければならない。そして、本件建物の所有権移転に伴って新所有者が本件保証金の返還債務を承継するか否かについては、右保証金の前記のような性格に徴すると、未だ新所有者が当然に保証金返還債務を承継する慣習ないし慣習法があるとは認め難い状況のもとにおいて、新所有者が当然に保証金返還債務を承継するとされることにより不測の損害を被ることのある新所有者の利益保護の必要性と新所有者が当然にはこれを承継しないとされることにより保証金を回収できなくなるおそれを生ずる賃借人の利益保護の必要性とを比較衡量しても、新所有者は、特段の合意をしない限り、当然には保証金返還債務を承継しないものと解するのが相当である。そうすると、被上告人(新賃貸人株式会社Y)が本件保証金返還債務を承継しないとした原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

 同第2点及び第3点について
 所論は、原審の認定にそわない事実又は独自の見解に基づき原判決を非難するものにすぎず、採用できない。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。

 同第4点について
 原判決は、上告人(賃借人株式会社X)が現に本件貸室を占有していないこと及び上告人において民法201条3項所定の期間内に占有回収の訴を提起していないことを理由に、上告人が本件貸室につき留置権を有しないと判断したものであって、原判決の確定した事実関係のもとにおいては、右判断は正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁裁判長裁判官下田武三、裁判官藤林益三、同岸盛一、同岸上康夫、同団藤重光

 


  

 参照 敷金は賃貸建物の所有権移転に伴い新賃貸人に承継されるとされた事例(最高裁昭和44年7月17日判決

 

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【判例】*借地人が地上建物を第三者に譲渡した場合敷地の賃借権をも譲渡したものと推定される及び賃料増額請求は共同借地人の一部の者に対してされた賃料増額請が無効とされた事例

2018年11月22日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

ア 借地人がその建物を他に譲渡した場合には、特別の事情のない限り、建物の所有権とともにその敷地の賃借権をも譲渡したものと推定されるから、借地人と建物譲受人との共同借地関係が成立したとの事実認定が違法とされた事例
イ 共同借地人の一部の者に対してされた借地法12条に基づく賃料増額請が無効とされた事例
(最高裁 昭和54年1月19日判決 裁判時報919号59頁 裁判集民事126号1頁)


       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。


       理   由
 (1) 上告(賃借人)代理人西山要の上告理由第1点について

 賃借地上に建物を所有する土地の賃借人がその建物を他に譲渡した場合には、特別の事情のない限り、建物の所有権とともにその敷地の賃借権をも譲渡したものと推定すべきものである最高裁昭和45年(オ)第803号同47年3月9日判決・民集26巻2号213頁)ところ、原審の確定する事実関係によれば、上告人(賃借人)A1は、昭和36年3月ごろに被上告人(賃貸人)から第1審判決別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち596.13㎡を建物所有の目的で賃借し、その後借増しをして昭和38年1月には本件土地の全部(実測643.96㎡)を賃借するに至ったが、昭和40年12月ごろ、本件土地上にある木造建物を取りこわしたうえ、同地上に鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造陸屋根4階建ビルディング1棟(以下「本件建物」という。)を建築して所有し、本件建物でパチンコ店、喫茶店等を経営してその営業の基礎を築いた後、本件建物の所有権を上告人(賃借人)A2(弟)に移転して昭和44年4月4日付でその所有名義をも同上告人(賃借人)A2に移転し、また、本件建物における右営業を同上告人(賃借人)A2に譲り、その後は山口県宇部市に居を移して他の事業に従事している、というのである。


 右事実関係によれば、上告人A1が本件建物の所有名義を上告人A2に移転した際、上告人A1は、特別の事情のない限り、本件土地の賃借権をも上告人A2に譲渡して賃借人の地位を離脱し、他方、上告人A2が単独で賃借人の地位を承継取得したものと推定すべきものである。しかるところ、原審は、この点につき、上告人A1は未だ本件土地の賃借人たる地位を失っておらず、上告人A2とともに共同賃借人たる地位にあるものと推認すべきものとし、そのように推認すべき事情となるべき事実関係として、

  1 上告人A1は本件建物及び建物内で経営する前示営業を上告人A2に譲渡した後も、毎月一度は来阪して上告人A2の営業について指示、助言を与え指導に当たっていること、

  2 被上告人(賃貸人)が昭和46年12月に本件第1回目の賃料増額の請求をした際、上告人A1が上告人A2を同道して被上告人(賃貸人)宅を訪れ、上告人らの増額案を呈示するなど接衝に当たっていること及び

  3 上告人A1は、本件建物を上告人A2に譲渡するにあたり、事前に被上告人(賃貸人)の承諾を得ておらず、本件土地の賃借権の譲渡等につき未だ被上告人(賃貸人)との間で接衝するに至っていないことの諸事実を認定している。しかし、原審が挙示する右1ないし3の事実関係が存在するというだけでは未だ本件建物の所有権及び本件建物を利用して行われている営業が上告人A1から上告人A2に譲渡されたにもかかわらず、なお上告人A1が賃借人たる地位を離脱することがなく、従って、上告人A2も完全な単独賃借権を取得せず、その結果、上告人両名が共同で賃借人たる地位を保有するに至ったものと認定すべき特別の事情があるものということはできない。してみれば、右事実関係を認定しただけで、上告人両名が共同賃借人の関係にあることを肯認した原判決には建物の敷地となっている土地の賃借権の譲渡に関する法律関係についての法令の解釈、適用を誤り、ひいて理由不備の違法を犯したものというべきであるから、論旨は理由があり、原判決は、その余の論旨につき判断するまでもなく、破棄を免れない。


 (2) のみならず、被上告人(賃貸人)の主張にかかり、また原審の確定した事実関係によれば、昭和47年1月1日から本件土地の賃料を1か月あたり41万6500円に増額する旨の第1回目の増額請求部分については、昭和46年12月22日に被上告人(賃貸人)の代理人小林良子から上告人A2に対してその旨の意思表示がされたというにとどまり、共同賃借人の他の一人とされる上告人A1に対してその旨の意思表示がなされたことについては、被上告人(賃貸人)の主張するところでも、また原審の確定するところでないにもかかわらず、原審は右第1回目の増額請求の効力を認め、昭和47年1月1日をもって本件土地の賃料が適正額に改定された旨の判断を示している。

 しかし、賃貸人が賃借人に対し借地法12条に基づく賃料増額の請求をする場合において、賃借人が複数の共同賃借人であるときは、賃借人の全員に対して増額の意思表示をすることが必要であり、その意思表示が賃借人の一部に対してされたにすぎないときは、これを受けた者との関係においてもその効力を生ずる余地がない、と解するのが相当である最高裁昭和50年(オ)第404号同年10月2日判決・裁判集民事116号155頁参照)。してみれば、原判決中、上告人A2に対してされた増額の意思表示によって第1回目の増額請求が効力を生じたことを前提として、上告人両名に対し、昭和47年1月1日から同49年11月末日までの増額後の賃料月額と従前の賃料月額との差額813万4000円及びこれに対する昭和50年1月1日から支払ずみまで年1割の割合による遅延損害金の支払を命じた第1審判決を維持し、控訴を棄却した部分は、この点においても破棄を免れない。

 (3) そして、上告人両名が本件土地につき共同賃借人たる地位にあるか否かについてはなお審理を尽くさせる必要があるので、本件を原審に差し戻すのが相当である。

 よって、民訴法407条に従い、裁判官全員の一致の意見で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官栗本一夫、裁判官大塚喜一郎、同吉田豊、同本林譲

 

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【判例】*借地人の供託した賃料額が後日の裁判適正賃料よりも遥かに低額であったにも拘らず借地法12条2項の相当賃料と認められた事例

2018年11月19日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

借地人の供託した賃料額が後日の裁判適正賃料よりも遥かに低額であったにも拘らず借地法12条2項の相当賃料と認められた事例
(最高裁平成5年2月18日判決 判例タイムズ816号189頁)


       主   文
 原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第1審判決中右部分を取り消す。
 前項の部分に関する被上告人(賃貸人)の請求を棄却する。
 訴訟の総費用は被上告人(賃貸人)の負担とする。


       理   由
 上告(賃借人)代理人永原憲章、同藤原正廣の上告理由について

 (1) 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
  1 上告人(賃借人)は、昭和45年5月23日、被上告人(賃貸人)から、第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を、建物所有を目的として、賃料月額6760円で賃借し、右土地上に同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。

  2 被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、本件土地の賃料を、昭和57年9月13日ころ到達の書面で同年10月1日から月額3万6052円に、昭和61年12月30日到達の書面で昭和62年1月1日から月額4万8821円に、それぞれ増額する旨の意思表示をした後、本件土地の賃料が右各増額の意思表示の時点で増額されたことの確認を求める訴訟を神戸地方裁判所に提起した(同庁昭和62年(ワ)第36号、以下「賃料訴訟」という。)。

  3 被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、賃料訴訟の係属中の昭和62年7月8日到達の書面で、昭和57年10月1日から同61年12月31日まで月額3万6052円、昭和62年1月1日から同年6月30日まで月額4万6000円による本件土地の賃料合計211万4652円を同年7月13日までに支払うよう催告するとともに、右期間内に支払のないときは改めて通知することなく本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

  4 上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)に対し、従前の月額6760円の賃料を提供したが、受領を拒絶されたため、昭和59年5月12日に同年6月分まで月額6760円、昭和62年1月28日に同59年7月分から同62年6月分まで月額1万140円、昭和62年7月10日に同年7月分から同年12月分まで月額2万3000円を、いずれも上告人(賃借人)において相当と考える賃料として供託した。

  5 昭和62年12月15日、賃料訴訟において、本件土地の賃料が昭和57年10月1日から同61年12月31日までは月額3万6052円、昭和62年1月1日以降は月額4万6000円であることを確認する旨の判決がされ、控訴なく確定した。昭和63年3月1日、上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間で、賃料訴訟で確認された同62年6月30日までの本件土地の賃料と上告人(賃借人)の供託賃料との差額及びこれに対する法定の年1割の割合による利息を支払って清算する旨の合意が成立し、上告人(賃借人)は右合意に従って清算金を支払った。

  6 被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、前記の賃料増額の意思表示のほかにも、昭和47年4月から月額2万2533円に、同53年1月から月額2万6288円に、同55年7月から月額3万1546円に各増額する旨の意思表示をその都度したが、上告人(賃借人)はこれに応ぜず、前記のとおり昭和59年6月分まで当初の月額6760円の賃料を供託し続けた。また、上告人(賃借人)は、本件土地の隣地で被上告人(賃貸人)が他の者に賃貸している土地について、昭和45年以降数度にわたって合意の上で賃料が増額されたことの大要を知っていた。

 (2) 原審は、被上告人(賃貸人)の本件建物収去本件土地明渡等請求を認容した第1審判決は、賃料相当損害金請求に関する一部を除いて、正当であるとした。

その理由は、次のとおりである。
  1 借地法12条2項にいう「相当ト認ムル」賃料とは、客観的に適正である賃料をいうものではなく、賃借人が自ら相当と認める賃料をいうものと解されるが、それは賃借人の恣意を許す趣旨ではなく、賃借人の供託した賃料額が適正な賃料額と余りにもかけ離れている場合には、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行とはいえず、さらに、そのような供託が長期にわたって漫然と続けられている場合には、もはや賃貸人と賃借人の間の信頼関係は破壊されたとみるべきである。

  2 1記載の事実関係の下において、上告人(賃借人)が相当と考えて昭和57年10月1日から同62年30日までの間に供託していた賃料は、賃料訴訟で確認された賃料の約5.3分の1ないし約3.6分の1と著しく低く、上告人(賃借人)は、右供託賃料が本件土地の隣地の賃料に比してもはるかに低額であることを知っていたし、他に特段の事情もないから、上告人(賃借人)の右賃料の供託は債務の本旨に従った履行と認めることはできず、上告人(賃借人)が、被上告人(賃貸人)の数回にわたる賃料増額請求にもかかわらず、約12年余の間にわたり当初と同一の月額6760円の賃料を漫然と供託してきた事実を併せ考えると、当事者間の信頼関係が破壊されたと認めるのが相当であり、本件賃貸借契約は昭和62年7月13日の経過をもって賃料不払を理由とする解除により終了した。


 (3) しかし、被上告人(賃貸人)の請求は理由があるとした原審の右判断部分は、是認できない。その理由は、次のとおりである。

 借地法12条2項は、賃貸人から賃料の増額請求があった場合において、当事者間に協議が調わないときには、賃借人は、増額を相当する裁判が確定するまでは、従前賃料額を下回らず、主観的に相当と認める額の賃料を支払っていれば足りるものとして、適正賃料額の争いが公権的に確定される以前に、賃借人が賃料債務の不履行を理由に契約を解除される危険を免れさせるとともに、増額を確認する裁判が確定したときには不足額に年1割の利息を付して支払うべきものとして、当事者間の利益の均衡を図った規定である。

 そして、本件において、上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)から支払の催告を受ける以前に、昭和57年10月1日から同62年6月30日までの賃料を供託しているが、その供託額は、上告人(賃借人)として被上告人(賃貸人)の主張する適正賃料額を争いながらも、従前賃料額に固執することなく、昭和59年7月1日からは月額1万140円に増額しており、いずれも従前賃料額を下回るものではなく、かつ上告人(賃借人)が主観的に相当と認める額であったことは、原審の確定するところである。そうしてみれば、上告人(賃借人)には被上告人(賃貸人)が本件賃貸借契約解除の理由とする賃料債務の不履行はなく、被上告人(賃貸人)のした解除の意思表示は、その効力がないといわなければならない。

 もっとも、賃借人が固定資産税その他当該賃借土地に係る公租公課の額を知りながら、これを下回る額を支払い又は供託しているような場合には、その額は著しく不相当であって、これをもって債務の本旨に従った履行ということはできないともいえようが、本件において、上告人(賃借人)の供託賃料額が後日賃料訴訟で確認された賃料額の約5.3分の1ないし約3.6分の1であるとしても、その額が本件土地の公租公課の額を下回るとの事実は原審の認定していないところであって、未だ著しく不相当なものということはできない。また、上告人(賃借人)においてその供託賃料額が本件土地の隣地の賃料に比べはるかに低額であることを知っていたとしても、それが上告人(賃借人)において主観的に相当と認めた賃料額であったことは原審の確定するところであるから、これをもって被上告人(賃貸人)のした解除の意思表示を有効であるとする余地もない。

 (4) そうすると、原判決には借地法12条2項の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。そして、以上によれば、被上告人(賃貸人)の請求は理由がないことに帰するから、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第1審判決中右部分を取り消した上、右部分に係る被上告人(賃貸人)の本訴請求を棄却すべきである。


 よって、民訴法408条、396条、386条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
   最高裁裁判長裁判官三好達、裁判官大堀誠一、同橋元四郎平、同味村治、同小野幹雄

 

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