東京・台東借地借家人組合1

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大阪の地上げ屋相手に地代を供託 (東京・大田区)

2011年11月28日 | 弁済供託

 大田区南馬込地域は、大正から昭和初期に尾崎士郎・宇野千代や山本周五郎等の文士や芸術家が住み、馬込文士村として、桜並木とともに散策コースになっている。

 この地域に宅地約97・45㎡を賃借しているAさんのところに何の前触れもなく突然新所有者の代理人が現れ、土地の所有権を買うか借地権を売るかとの横暴な請求をしてきた。Aさんはこれを拒否すると、地代の支払いの問いかけには耳も貸さずに退去してしまった。そこで今後の対応の相談に組合事務所を訪ねる。

 土地の登記簿謄本を調べ、大阪の建築業者が取得したことを確認。内容証明郵便で地代の支払いを問い合わせるが回答がなく、供託する旨を通告するも返事がないので、地代を現金書留で送金すると受領した。

 しかし、2度目の送金では受領拒否となり供託することとなった。地元の東京法務局に供託の手続きをと無理を承知で協議するが、持参払いの原則で賃貸人の所在地の大阪法務局宛に行うことが望ましいとの結論となった。

 供託書(OCR用紙)に記載、供託金とともに大阪法務局に送付する。供託済の用紙が返信されてAさんはようやく一安心した。

 今後、裁判になった場合には大阪ではなく、東京の裁判所で行われるように手立てをとることが必要になっている。

 

東京借地借家人新聞より

 

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震災で傾いた建物補修・補強工事を実施し、借地権を守る (東京・足立区)

2011年11月25日 | 増改築・改修・修繕(借地)

 東借連新聞5月号で3月11日の地震で傾いた足立区千住で22坪の土地を賃借しているAさんのその後を報告する。

 一級建築士のBさんのアドバイスで費用の面から3期に分けて工事することになった。前号でも報告したとおり契約書がなく、建物修繕には地主の承諾は必要ないと判断し、B建築士から紹介された業者に依頼して5月第1期工事に着手した。

 工事は1階の開閉扉の上部に新しく梁を渡し、十箇所の柱部分に筋交い構造の壁を設置した。以前は通し柱1本にかかっていた荷重をこの工事で分散でき、B建築士が言うには大きな余震でも倒壊の危険が少なくなり6月中旬第1期工事を完了、9月初旬には第2期工事も完了した。

 Aさんは業者にも恵まれ低価格で施工でき、これで一安心と喜んでいる。

 

東京借地借家人新聞より

 

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強圧的態度で立退き迫る <2> (静岡・駿東郡清水町)

2011年11月24日 | 建物明渡(借家)・立退料

前回の「老朽化理由の明渡の調停不調後、建替ええを理由にした明渡裁判へ<1>」 (静岡・駿東郡清水町)からの続き

10月20日沼津地裁で第1回証人尋問が行われました。
 原告側証人は次のように述べました。
①相続税を祖父分3億円、祖母分8000万円支払った。
②現在、病院建設、貸し店舗建設、貸家建設での債務が約1億8000万円ありその支払の為土地を売却したいので立退きが必要である。500坪の売却実質収入は9000万円を見込んでいる。
③(借家人弁護士から債務支払の為の売却予定地は3箇所ぐらいかの質問に対し)係争中の土地以外売却予定地はそれ以上ある。

 一方借家人は
①長年すみ続け相互援助の人間関係が出来ている。
②現在の借家は通院、買い物、介護の地理的条件を満たしており、同じ様な条件の高齢者に対応する借家を探すのは困難である。
③年金生活者であり、経済的に家賃の高いところには住めない。借家人と地主が困っている内容は質が違うと主張しました。

 原告側弁護士から「地主が困っているに、協力できないのか」と畳み掛けるような詰問調の尋問があり、裁判長からたしなめられる場面もありました。次回は残り借家人3名の尋問が行われます。

 

全国借地借家人新聞より

 

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地主が更新時に土地明渡請求 (東京・豊島区)

2011年11月22日 | 土地明渡(借地)

 Aさんは、豊島区メトロ千川駅から数分にある要町で数10年にわたって土地を賃借していた。20年前に、この土地の賃貸借契約の更新と更新料をめぐって争いになり、地主から更新料支払請求の調停までおこされた。

 その時に組合に入会し、更新料の支払いを拒否し、結果は不調となった。合意更新ができず法定更新となったために、地主が地代については受領を拒否したために供託。以後、20年間供託することになった。

 平成23年10月に、更新の時期を迎え、再び地主が弁護士を立てて、更新を拒絶し土地の明渡を請求する通知書を送ってきた。

 中身は「①共同住宅を建設する自己使用の必要性②更新料の支払いに応じないばかりか低額な供託地代で信頼関係の破壊③借地人は別に建物を所有し、息子が住んでいる。④築後40年経過し、社会的経済的耐用年数はすでに経過しており老朽化している。以上の点から正当な事由がある。」としている。

 Aさんはこのような理由がとても更新拒絶の正当な事由には当たらないとして地主が法的手段をとったら、組合の顧問弁護士とともに頑張ることを決意している。

 

東京借地借家人新聞より

 

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家主は借地契約切れを理由に店舗明渡請求 (大阪・都島区)

2011年11月21日 | 建物明渡(借家)・立退料

 都島本通2丁目で、居酒屋を営業しているAさんに、家主から「契約解除通知」が届いた。家主に問いただすと来年の8月に土地の契約が終わるので、建物を取り壊すというのが理由です。Aさんは民商の紹介で組合に入会。家主との交渉を申し出たところ、弁護士に依頼したと回答がありました。Aさんは、生活がかかっているので、明け渡しには応じられないと語っています。

 10月25日、家主の弁護士との話し合いで、来年9月に土地を明渡すとの公正証書があり、建物を取壊すことになっているとの事。Aさんは、賃借時に文書による説明はなかった。店舗として6年になるが、権利を守るため、がんばらざるを得ないと反論しています。

 

全国借地借家人新聞より


以下は、東京・台東借地借家人組合の文章。

判例は<借地契約が地主と借地人との合意によって解除された場合には、借地上の借家人に明渡しを対抗できない>(最高裁1963(昭和38)年2月21日判決、民集17巻1号219頁)と判示している。

公正証書による地主と借地人(家主)との合意解除であるから、最高裁の判例からも、借家人に建物の明渡しを主張できない。従って、店舗付き借家を明渡す必要がないことは明確である。

参考> 
【Q&A】 突然地主から家屋の明渡しを要求された

 

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地主の更新料支払請求を拒否 (東京・世田谷区)

2011年11月18日 | 更新料(借地)

 東京の世田谷に住むAさんは、20年前に契約を更新した時に、最初の契約書案に「本契約を更新する場合は乙は甲と協議の上相当なる更新料を支払う」という文面が記載されていました。その時に「この文面では契約書に署名捺印できない」といって更新料の文字を削除することで合意しました。

 今年になって、契約期間の満了する3ヶ月前になったときに地主の代行者という税理士から更新のご案内という通知が来て更新料400万円を請求されました。早速、更新料支払うという合意がなされていないのでお支払できない旨の回答をしました。これについて代行者の税理士は「①更新料なしで更新できると記載されていない。②一般社会の慣行を無視している。③更新料の支払は常識でもともと記載などの必要がないものである」と主張してきました。

 Aさんは、自分の賃貸借契約では、更新料の支払は必要がないと考えていたが、7月の最高裁の更新料判決(註1)などで不安を感じ、組合が行っている百貨店の相談会に参加しました。相談員から昭和52年の更新料裁判の最高裁判決(註2)などを示され、更新料支払いの特約のないものについては支払義務がないと説明された。同時に7月の最高裁判決についても借家の更新で、更新料の支払いについては明確な記載のあることなど今回の借地契約と違うことが説明されました。

 Aさんは「更新料については支払う必要はないと思っていましたが、これで、安心しました」と語っていました。

 

全国借地借家人新聞より


以下の文章は東京・台東借地借家人組合。

(註1) 【判例】 借家契約の更新料支払特約に関する最高裁判決 (2011年7月15日判決)     

     【判例紹介】 一義的で具体的更新料特約は高額でなければ有効と判断した最高裁判決


(註2)  更新料に関する昭和52年の最高裁判決は存在しない。最高裁昭和51年10月1日判決及び最高裁昭和53年1月24日判決の間違と思われる。以下がその判決の全文。

    【判例】 *更新料支払の慣習を否定し、更新料支払義務なしとした最高裁昭和51年10月1日判決 (1)

    【判例】 *更新料支払の慣習を否定し、更新料支払義務なしとした最高裁昭和53年1月24日判決 (2)


(*)更新料支払の約束があっても、客観的に更新料の額を算出することができる程度の具体的基準を定めることが必要であるとして更新料の支払を認めなかった判例

    【判例紹介】 更新料支払請求権は客観的に金額を算出できる具体的基準が必要とされた事例

 

 

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【Q&A】 家主が修繕義務を果たさないときは?

2011年11月17日 | 修理・改修(借家)

 【問】 私は戦前からの借家住まいです。建物が古くなって雨漏りなどで困っています。ところが家主は一向に修繕してくれません。どうすればよいでしょうか。


 【答】 民法606条は、賃貸人の修繕義務を定めています。しかし、賃料の額や家主の経済事情などを理由に、修繕を渋るケースがあります。

 そんな時は、借家人は文書=内容証明郵便が有効=で、修繕が必要なこと、破損箇所・状況を知らせて、可能ならば見積りは幾らかも記載した上で修繕を請求することです。

 その際、指定日の希望も書き、その日まで修繕をしてもらえないときは、借家人が修繕費を出して修繕すること、またその費用は、家主に請求することを催告しておくとよいでしょう。

 それでも家主が修繕しない場合は、借家人が自ら業者に依頼して修繕をすることができますし、その費用も家主に請求できます。

 ただ、いつもスンナリ行くわけではありません。そんな時は、裁判所に調停などを申し立てても修繕してもらうのだ、との強い意思を示すことが大切です。ただ、一人では心細いものです。最寄の組合に相談してもらうことが一番です。

 

全国借地借家人新聞より


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【Q&A】 備え付けのガス給湯器が故障したが家主が修理をしないときの対処法は

 

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【判例紹介】 保証会社の組織的な追い出し行為が不法行為として慰謝料を命じた事例

2011年11月16日 | 家賃保証会社・管理会社・(追い出し屋)

 判例紹介

 借家人が家賃支払を遅滞した場合に、保証委託契約が一度自動的に解除された上で更新され、その際に解除更新料を支払うなどとされた借家人と保証会社との保証委託契約における特約が消費者契約法10条により無効とされるとともに、保証会社が根拠不明の金銭を含め借家人に過分な支払をさせる行為や退去勧告を組織的に行っていたことが不法行為に該当するとされた事例 名古屋地裁平成23年4月27日判決

【事案の概要】
 甲(借主)とA(貸主)は、平成19年11月、マンション一室の賃貸借契約を締結した。この契約に際し、賃貸住宅等の入居者の保証人受託業務等を目的とする株式会社乙が甲との間で保証委託契約を締結して甲の連帯保証人となったが、同契約には、甲が賃料の支払を1回でも滞納した場合、保証委託契約が無催告で自動的に債務不履行解除された上で、自動的に同一条件で更新され、乙に対しその都度1万円の更新保証委託料を支払うという条項(解除更新料特約)が含まれていた。この特約に基づき、甲は乙へ解除更新料として合計10万円を支払った。また、乙は、「手数料」名目での金銭請求や約5分間に10回以上の不在着信を残すなどの甲への執拗な督促や退去の勧告等を何度も行った。

【判旨】
1、解除更新料特約は、甲(委託者)が初回保証委託料を支払って乙(受託者)に対する債務を履行しているのに、乙が自ら受託した保証債務を履行する前に自動的に債務不履行解除されることになり、明らかに契約の趣旨及び信義則に反するから、消費者契約法10条により無効である(既払解除更新料10万円の返還を認める)。

2、乙が、根拠の明らかでない金銭も含め甲に過分な支払をさせていたことや、甲とAとの間の信頼関係が破壊されたと認められる状況には至っていないにもかかわらず賃貸物件から出て行くように働きかける行為等を組織的に行っていたことは、社会通念上許容される限度を超え不法行為に該当する(慰謝料として20万円の支払いを認める)。

【寸評】
 物件を借りるに際して連帯保証人を用意することができない賃借人のための賃貸保証委託会社が急増しているが、賃借人の立場の弱さにつけ込み、賃借人に過大な義務を負わせたり、不当な要求に及ぶ業者は少なくない。本事例は、そのような業者の行為を組織的な違法行為と認め慰謝料の支払いを命じたものであり、悪質業者への警鐘となると思われる。

 

(2011.11.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


【判例】 家賃保証会社の保証委託契約による「取立て・追い出し行為」が不法行為に該当するという事例

 

東京・台東借地借家人組合

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【判例】 *登記の地番及び床面積が実際と異なる建物が「登記されている建物」に当たるとされた事例

2011年11月02日 | 登記

 判  例

事件番号・・・・・・・・平成17(オ)48

事件名・・・・・・・・・・建物収去土地明渡等請求事件

裁判所・・・・・・・・・・最高裁判所第一小法廷

裁判年月日・・・・・・平成18年1月19日

裁判種別・・・・・・・・・判決

結果・・・・・・・・・・・・・破棄差戻し

原審裁判所・・・・・・・高松高等裁判所

原審事件番号・・・・・平成16(ネ)267

原審裁判年月日・・・平成16年10月12日

(判示事項)
 登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる建物が借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たるとされた事例

(裁判要旨)
 借地上の建物の登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる場合において,所在地番の相違が職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じたものであること,床面積の相違は建物の同一性を否定するようなものではないことなど判示の事情の下では,上記建物は,借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たる。



主    文

    原判決のうち上告人に関する部分を破棄する。
    上記部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。


理    由

 第1 事案の概要

 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)のうちの東側部分(同目録3記載の土地,以下「東側土地部分」という。)には,住宅営団が昭和22年ころに新築した建物(以下「本件建物」という。)が存在したところ,昭和24年,本件建物につき床面積を8坪(後に26.44㎡と書替え)とする表示の登記及び住宅営団を所有者とする所有権保存登記がされた。

 (2) 住宅営団は,本件建物をDに売却し,昭和24年,Dはその旨の所有権移転登記を了した。Dは,その後本件建物を約13.32㎡分増築した上,昭和34年4月,これを上告人の夫の母であるEに売却し,Eは本件建物につきその旨の所有権移転登記を了した。

 (3) Eは,昭和43年ころ本件建物を約16.18㎡分増築するとともに,昭和44年ころ,本件建物に隣接して床面積約4.06㎡の物置を新築したが,登記上の床面積の表示の変更及び附属建物の新築の登記はされなかった(以下,本件建物と上記物置とを併せて「本件建物等」という。)。

 (4) Eは,平成2年6月に死亡し,その孫であり上告人の子であるF及びG(以下,両名を併せて「Fら」という。)が代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した。Fらは,平成15年ころ,本件建物を8.45㎡分増築したが,登記上の床面積の表示の変更はされなかった。

 (5) 被上告人は,平成15年10月28日,競売により本件土地の所有権を取得し,同月29日,その旨の所有権移転登記を了した。

 (6) 本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年の所在及び地番の変更並びに昭和61年の分筆を経て,「松山市a町b丁目c番d」(本件土地)となっていたが,本件建物の登記においては,その後も建物の所在地番が「松山市a町b丁目e番地」と誤って表示されており,本来の所在地番とは相違していた上に,床面積の表示も26.44㎡のままであった(以下,この登記を「本件登記」という。)。そのため,上記競売手続における執行官の現況調査報告書には,本件建物等は未登記である旨記載されており,物件明細書には,東側土地部分に係る賃借権は対抗力を有しない旨が記載されていた。

 (7) 本件建物については,平成16年5月,平成2年6月相続を原因とするFらに対する所有権移転登記がされた。また,平成16年6月,Fらの申請により,本件登記につき,所在地番を「松山市a町b丁目c番地d」,主たる建物の床面積を64.39㎡とする表示変更及び表示更正登記がされるとともに,附属建物について床面積を4.06㎡とする新築の登記がされた。

 2 本件は,被上告人が,本件建物に居住して東側土地部分を占有する上告人に対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物等を収去して東側土地部分を明け渡すことを求める事案である。これに対し,上告人は,(1) 本件建物等の所有者は上告人ではなく,Fらである,(2) Eは,東側土地部分につき建物所有を目的とする賃借権を有しており,同人が本件登記のされている本件建物を所有することによって上記賃借権は対抗力を有していたところ,Fらが相続によって本件建物及び上記賃借権を取得した,と主張してこれを争っている。


 第2 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告理由について

 上告人に対し本件建物等の収去を命じるためには,その所有者が上告人であることを要するところ,原審は,前記事実関係のとおり,Fらが相続により本件建物等の所有権を取得した事実を認定しながら,他方で,上告人が東側土地部分に本件建物等を所有している旨の第1審判決の説示を引用の上,上告人に対し本件建物等の収去を求める被上告人の請求を認容すべきものとしている。そうすると,本件建物等の所有者に関する原判決の理由の記載は矛盾しており,原判決には,上告人に対し本件建物等の収去を命じる部分につき理由に食違いがあるというべきである。論旨は理由がある。


 第3 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告受理申立て理由について

 1 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,本件登記は東側土地部分の借地権の対抗要件としての効力を有しないとして,被上告人の上告人に対する請求を認容すべきものとした。

 (1) 賃借権の設定された土地の上の建物についてされた登記が,錯誤又は遺漏により,建物の所在地番の表示において実際と相違していても,建物の種類,構造,床面積等の記載とあいまち,その登記の表示全体において,当該建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違である場合には,当該建物は,建物保護に関する法律1条にいう登記した建物に当たると解すべきである。

 (2) 本件建物等の本来の所在地番は「松山市a町b丁目c番地d」であるのに対し,本件登記上の所在地番は「松山市a町b丁目e番地」であって,その間に大きな相違がある上に,本件登記上に表示された建物の床面積も昭和22年に新築された当時の26.44㎡のままであり,本件建物等のうちの大部分は本件登記に反映されていない。また,執行官の現況調査報告書にも本件建物等は未登記である旨記載されており,このような場合にまで賃借人を保護するときには,その土地を買い受けようとする第三者を不当に害することになりかねない。したがって,上記の所在地番や床面積の相違は,建物の同一性を認識するのに支障がない程度に軽微であるとは認められず,本件建物等を建物保護に関する法律1条にいう登記した建物ということはできない。そして,被上告人が本件土地を取得した後に本件登記につき現況と合致するように更正登記等がされたとしても,かかる登記の効力は遡及しないと解すべきであるから,上記結論に影響しない。

 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 記録によれば,①Eが本件建物を取得した昭和34年当時の同建物の敷地の所在及び地番は松山市f町b丁目e番であり,同人が本件建物につき所有権移転登記を了した時点では,本件建物の登記上の所在地番は「松山市f町b丁目e番地」と正しく表示されていたこと,②本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年に松山市a町b丁目c番に変更になり,土地登記簿については職権でその旨の変更登記がされたこと,③上記敷地の所在及び地番の変更に伴い,昭和39年に職権で本件建物の登記の所在欄のうち地番以外の部分が「松山市f町b丁目」から「松山市a町b丁目」に変更されたが,地番はe番地のまま変更されなかったこと,④昭和61年に松山市a町b丁目c番の土地から本件土地が分筆されたが,本件建物の登記における所在地番の表示は変更されなかったこと,⑤本件土地の競売による売却によって消滅した担保権のうち最も古いものの設定登記は昭和62年にされていること,以上の事実がうかがわれる。

 以上によれば,本件建物の登記における所在地番の表示は,Eが本件建物を取得した昭和34年当時は正しく登記されていたが,その後登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤ったため,競売の基礎となった担保権の設定時までに実際の地番と異なるものとなった可能性が高いというべきである。

 (2) ところで,建物保護に関する法律1条は,借地権者が借地上に登記した建物を有するときに当該借地権の対抗力を認めていたが,借地借家法(平成3年法律第90号)10条1項に建物保護に関する法律1条と同内容の規定が設けられ,同法は借地借家法附則2条により廃止された。そして,同附則4条本文によれば,本件にも同法10条1項が適用されるところ,同項は,建物の所有を目的とする土地の借地権者が,その土地の上に登記した建物を有するときは,当該借地権の登記がなくともその借地権を第三者に対抗することができるものとすることによって,借地権者を保護しようとする規定である。この趣旨に照らせば,借地上の建物について,当初は所在地番が正しく登記されていたにもかかわらず,登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤った結果,所在地番の表示が実際の地番と相違することとなった場合には,そのことゆえに借地人を不利益に取り扱うことは相当ではないというべきである。また,当初から誤った所在地番で登記がされた場合とは異なり,登記官が職権で所在地番を変更するに際し誤った表示をしたにすぎない場合には,上記変更の前後における建物の同一性は登記簿上明らかであって,上記の誤りは更正登記によって容易に是正し得るものと考えられる。そうすると,このような建物登記については,建物の構造,床面積等他の記載とあいまって建物の同一性を認めることが困難であるような事情がない限り,更正がされる前であっても借地借家法10条1項の対抗力を否定すべき理由はないと考えられる。

 (3) これを本件についてみると,前記のとおり,【要旨】①Eが本件建物を取得した当時の本件建物登記の所在地番は正しく表示されていたこと,②本件登記における所在地番の相違は,その後の職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じた可能性が高いことがうかがわれるのであり,また,本件登記における建物の床面積の表示は,新築当時の26.44㎡のままであって,実際と相違していたが,前記事実関係に照らせば,この相違は本件登記に表示された建物と本件建物等との間の同一性を否定するようなものではないというべきである。そして,現に,本件登記については,その表示を現況に合致させるための表示変更及び表示更正登記がされたというのである。

 そうすると,Eが,本件土地の競売の基礎となった担保権の設定時である昭和62年までに東側土地部分につき借地権を取得していたとすれば,本件建物等は,借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に該当する余地が十分にあるというべきである。

 (4) 以上の点に照らせば,本件登記における建物の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯等について十分に審理することなく,本件登記における建物の表示が実際と大きく異なるとして直ちに上告人の主張する借地権の対抗力を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由がある。

 第4 結論
 以上によれば,原判決のうち上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件建物等の所有者,本件登記の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯,東側土地部分についての借地権の有無等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉治の補足意見がある。


 裁判官泉治の補足意見は,次のとおりである。

 原判決は,「当裁判所の判断」として,「次のとおり補正するほかは,原判決の『事実及び理由』中,『当裁判所の判断』記載のとおりであるから,これを引用する。」と記載し,第1審判決書の理由のうち「上告人が東側土地部分上に本件建物等を所有して東側土地部分を占有している」との部分を引用箇所として残したまま,独自に「上告人らの子であるFらが代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した」との判断を付加し,相矛盾する事実の認定をすることになった。

 原判決は,控訴審の判決書における事実及び理由の記載は第1審の判決書を引用してすることができるとの民訴規則184条の規定に基づき,第1審判決書の「当事者の主張」の記載を引用すると表示しつつ,これに追加の主張を1箇所付加し,また,第1審判決書の「当裁判所の判断」の記載を引用すると表示しつつ,そのうちの3箇所の部分を原審独自の判断と差し替えている。

 民訴規則184条の規定に基づく第1審判決書の引用は,第1審判決書の記載そのままを引用することを要するものではなく,これに付加し又は訂正し,あるいは削除して引用することも妨げるものではない(最高裁昭和36年(オ)第1351号同37年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事59号89頁参照)。しかしながら,原判決の上記のような継ぎはぎ的引用には,往々にして,矛盾した認定,論理的構成の中の一部要件の欠落,時系列的流れの中の一部期間の空白などを招くおそれが伴う。原判決は,そのおそれが顕在化した1事例である。この点において,継ぎはぎ的な引用はできるだけ避けるのが賢明である。

 また,第1審判決書の記載を大きなまとまりをもって引用する場合はともかく,継ぎはぎ的に引用する場合は,控訴審判決書だけを読んでもその趣旨を理解することができず,訴訟関係者に対し,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込んだ上で読むことを強いるものである。継ぎはぎ的引用の判決書は,国民にわかりやすい裁判の実現という観点からして,決して望ましいものではない。

 さらに,民訴規則184条は,第1審判決書の引用を認めて,迅速な判決の言渡しができるようにするための規定であるが,当該事件が上告された場合には,上告審の訴訟関係者や裁判官等は,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込むという機械的作業のために少なからざる時間を奪われることになり,全体的に見れば,第1審判決書の引用は,決して裁判の迅速化に資するものではない。

 判決書の作成にコンピュータの利用が導入された現在では,第1審判決書の引用部分をコンピュータで取り込んで,完結した形の控訴審の判決書を作成することが極めて容易になった。現に,「以下,原判決『事実及び理由』中の『事案の概要』及び『当裁判所の判断』の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的削除については,特に指摘しない。」,あるいは「以下,控訴人を『原告』,被控訴人を『被告』という。なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。」等の断り書きを付して,控訴審判決書の中に引用部分をとけ込ませ,自己完結的な控訴審判決書を作成している裁判体もある。このような自己完結型の控訴審判決書が,国民にわかりやすい裁判の実現,裁判の迅速化という観点において,継ぎはぎ的な引用判決よりもはるかに優れていることは,多言を要しないところである。本件の原審がこのような自己完結型の判決書を作成しておれば,前記のような誤りを容易に防ぐことができたものと考えられる。

 (裁判長裁判官 泉 治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

 

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【Q&A】 私道を所有している地主が下水道工事の承諾をしません

2011年11月01日 | 承諾に関して

 【問】 私の借地は公道から私道を入った奥にありますが、今度水洗化工事をしようと思っています。ところが、私道を所有している地主が、地代の値上げとか・承諾料とかを要求して下水道工事を承諾してくれません。どうしたらいいでしょうか。


 【答】 下水道整備は地方自治体や政府の重要な施策になっていることはよく知られています。水洗化工事をしようとするとき、自分の土地だけで下水道管の埋設工事が出来ればいいのですが、ご質問のように他人の土地を使わしてもらわなければ工事が出来ないという場合もめずらしくありません。たいていの場合は、私道に下水道管を埋設することについて、近所の方々は了解してくれるものです。しかし、地主から不当な妨害を受けたとき、水洗化工事を諦めなければならないのでしょうか。諦める必要はないというのが結論です。

 借地人は、地主から建物を所有する目的で借地しています。借地上の建物には当然人が居住したり・営業したりするわけですから、地主としては、借地人に対して建物所有が全うできるように土地を貸す義務があります。昔は、下水道がなくともそれが当たり前であったでしょうが、現在は、下水道を引いて水洗トイレを使用することが普通の状況にあります。ですから、地主は、土地を貸すという義務の内容として、借地人が下水管埋設工事をすることに協力する義務があります。

 また、法律は隣地の土地利用について、いろいろな規定を設けています。例えば、塀や建物を作ったり修繕するときは隣の土地を使用することが出来る(民法209条)、袋地となった土地の人は他人の土地を通行することが出来る(民法210条)、一段高い土地の人は隣の低い土地を使って排水を流すことが出来る(民法220条)という具合です。

 私道の奥に居住する人はどうしても他人の土地を利用しなければ日常生活が出来ませんので、こういった法律を置いているわけです。さらに、下水道法という法律には、公共下水道が出来た場合、排水区域の土地所有者はその土地の下水を公共下水に流入させるために必要な配水管その他の排水設備を設置することが義務とされています(下水道法10条)。借地人にもこの義務があるわけです。その場合、他人の土地を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが出来ないときは、他人の土地に排水設備を設置することが出来る(下水道法11条)とされています。

 これらの法律の規定から見ても、地主が下水管埋設工事を拒否することは法律が認めていません。地主がどうしても承諾しないときは、裁判所に、承諾を請求したり、工事の妨害を禁止したりする法的手続きをとることが出来ます。

 

東借連常任弁護団解説

Q&A あなたの借地借家法

(東京借地借家人組合連合会編)より


(参考) 
 【判例紹介】 地主は借地人に下水道敷設につき承諾義務を負うとされた事例東京高裁平成9年8月30日判決、判例タイムズ1998年10月25日号134頁以下)

 

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