東京・台東借地借家人組合1

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【判例紹介】 店舗等を目的とする賃貸借契約の保証金は敷金の性質がないとした事例 

2006年02月27日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

  判例紹介
 
店舗等を目的とする建物賃貸借契約の際に保証金として支払われた賃料の約22.5ヶ月分に相当する金員が敷金としての性質を有しないとされた事例 大阪高裁平成14年4月17日判決、判例タイムズ1104号)

(事案の概要)
 賃借人は、昭和59年3月、ショールームの使用目的で、契約期間10年、賃料443万円、敷金1283万円、保証金9977万円の約定で賃借した。

 保証金については、10年間据置のうえ翌年から5年の年賦で返還するが賃貸借契約日から5年内に解約したときは20パーセントの解約金が控除されるという特約が付いていた。

 賃借人は、昭和60年8月、賃料を支払えなかったので、賃貸借契約を解約して建物を明渡し、敷金の返還を受けた。しかし、保証金は据置期間未到来のためにそのままになっていたところ、国税が保証金返還債権を差し押さえ、家主に対して、保証金9977万円の取立を請求した。

 家主は、賃借人に対する未払い賃料、期間内解約による違約金、共益費、電気料金、現状回復費等の清算が済んでないので、保証金返還額は1066万円分しか残っていないと争った。そこで本件保証金は、敷金のように賃貸契約上の債務を清算すべき性質のものなのかどうかが問題となった。

(判決要旨)
 「本件保証金が差し入れられたのは、本件建物の建築資金が必要な時期であって、本件保証金は多額であるほか無利息で返還する約定があることからすれば、銀行からの借入金に比して金利分の節約ができることから賃貸人にとって有利であることが明らかであるから、通常であればこれを建設資金などに充当すると考えられるし、賃貸人がこの保証金を他に使ったことを客観的に説明しない以上、本件保証金は本件建物の建設資金に充当することを主目的として差し入れられたものと推認すべきである。

 本件保証金の敷金としての担保機能の有無について検討する。本件契約では、敷金と保証金を別個に規定し、敷金については、賃借物件明け渡し後債務完済を確認したときに返還する旨規定しているのに、本件保証金については本件据置規定が存在するだけで、賃貸借終了時の返還義務の有無については何ら触れていないので、敷金と同様の担保的機能を有し賃借物件の明け渡し時に契約上の債務と清算した上で賃借人に返還すべきものであるとはいえない。

(説明)
 保証金の性質については、建設協力金、敷金、即時解約金、権利金のいずれか、又はこれらを併せ持ったものなど、さまざまであり、契約文言、金額、差し入れの趣旨などから、賃貸借当事者間の意思を解釈して結論される。本件では、金額が多額あること、返還時期が契約終了と無関係であること、使途が建築資金であること等から、敷金ではないとされた。

(2003.04.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 対抗力ある借地権は競売中に建物が滅失しても土地買受人に対抗できる

2006年02月21日 | 借地の諸問題

  判例紹介
 抵当権設定時に対抗力を有していた借地権は、競売中に借地上の建物が滅失しても、土地買受人に対して借地権を対抗できるとされた事例 平成12年5月11日東京高裁判決、金融・商事判例1098号)

 

(事案)
 借地人は、借地上の建物について所有権保存登記をして借地していたが、地主は、昭和63年に土地に抵当権を設定してその登記をした。 平成3年、抵当権者が抵当権の実行をして競売手続が開始した。借地人は、平成5年に、借地上の建物を取壊して新建物を建築し、平成6年に保存登記をした。執行裁判所は、賃借権があるものとして、売却条件を定め、売却したところ、買受人が決まった。買受人は、借地人に対して、借地権はないとして、建物収去、土地明渡訴訟を提起した。 横浜地方裁判所は、借地権を買い受けた人に対抗するには土地の競落時に建物の保存登記を必要とするが、旧建物は滅失しているので、旧建物の保存登記による対抗力は消滅したとして、借地人負訴の判決をした。しかし、東京高裁は、要旨次のような理由で、逆転判決をした。

(判決要旨)
 「民事執行法は、不動産を目的とする担保権の実行としての競売(不動産競売)において、不動産の上に存する抵当権が売却により消滅することを規定し、消滅する権利を有する者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失うと規定している。これによれば、抵当権者に対抗することができない借地権の取得は売却によりその効力を失い、対抗できる借地権は効力を失わないことになる。民事執行法は、土地の買受人が借地権を引き受けるかどうかは、その借地権が抵当権に対抗できるかどうか、つまり、抵当権を設定したときに借地権が対抗できるかどうかを問題としているのであって、競落時に対抗できるかどうかではない。なぜなら、競売によって買受人に移転される権利は、抵当権者が把握していた権利にほかならないからである。 本件では、抵当権が設定された当時には借地権は登記のある建物によって対抗できたのであるから、その後、その建物が滅失したとしても、当該抵当権に対して対抗力を失うことはなく、借地人としては、いったん生じた対抗力を維持するために、建物自体を維持したり、所有権保存登記を継続していなければならないわけではない。」

(説明)
 本判決は、抵当権による競売の性質をこまかく論述し、借地権の対抗力の有無は、競売時ではなく、抵当権設定時点で決めるべきであるとした。その上で、土地が競売されたときは借地上には旧建物は滅失して存在しないが、抵当権設定時に登記のある旧建物が存在して対抗力があったのであるから、その効力は、継続していると判断した。

(2000.11.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 


 

 借地人にとっては注目される判決である。この判決に関してはこちらも御覧ください。

 

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【判例紹介】 自力救済条項があっても侵入したり鍵を替える行為を違法とした事例

2006年02月18日 | 借家の諸問題

   判例紹介

 建物賃貸借契約書に自力救済条項があっても、建物内に侵入したり鍵を取り替える行為が違法であるとされた事例 札幌地裁平成11年12月24日判決。判例時報1725号)

(事実関係)
 1、賃借人X(原告)は平成10年7月、札幌市内のマンションの1室を賃借し妻とともに居住した。Y(被告)はこのマンションの管理会社である。

 2、賃貸借契約書には次のような特約があった。 「賃借人が賃借料の支払を7日以上怠ったときは、賃貸人は直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。また、その後7日以上経過したときは、賃貸物件内にある動産を賃借人の費用負担において賃貸人が自由に処分しても賃借人は異議の申立てをしないものとする」(本件特約)

 3、Xは、「部屋に雨漏りがする、かびが発生した」など苦情を述べたが、Yは、かびによる被害の弁償には応じられない旨回答した。
 そこでXは同年10月分から賃料の支払を停止した。するとYはXに対し、「督促及びドアロック予告通知書」、続いて「最終催告書」を送り付け、そこには、一定日時までに連絡がない場合には、以後何ら勧告することなくドアロックし部屋への立入りを禁止する旨記載されていた。

 4、管理会社Yの従業員は右日時の最終日、X夫婦が外出して留守の間、本件特約があることを根拠に、部屋に立ち入って、部屋内の水を抜き(水道管の破裂を防ぐため)、ガスストーブのスイッチを切り、浴室の照明器具のカバーを外すなどした上、部屋の錠を取り替えた。

 5、そこでXはYに対し、その行為は違法だとして損害賠償(慰謝料)の支払を求めて提訴した。

(判決)
 1、本件特約は、賃貸人側が自己の権利(賃料債権)を実現するため、法的手法によらずに、通常の権利行使の範囲を超えて、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものである。

 2、このような手段による権利の実現は、近代国家にあっては、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる場合のほか、原則として許されないものというほかなく、本件特約は、そのような特別の事情がない場合にも適用される限りにおいて、公序良俗に反し、無効である。

 3、本件の場合には右の「特別の事情」は認められず、Yの行為は違法であるからXに対し慰謝料10万円支払うべきである。

(寸評)
 このような特約(自力救済)が入っている契約書はよく見かける。この判決の考え方はごく常識的であり、悪徳業者に対する警告として意味がある。

(2001.03.)

(東借連常任弁護団)

 東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 家賃減額を請求した場合に裁判確定前の家賃額は従前と同額とした事例

2006年02月16日 | 家賃の減額(増額)

 判例紹介

 建物賃借人が賃料減額請求をした場合借地借家法32条3項が定める「賃貸人が相当と認める額」の賃料支払請求権は、賃料減額の意思表示が到達した時点で当然に発生しその額は特段の事情がない限り従前の賃料額と同額であるとされた事例  (東京地裁平成10年5月29日判決。判例タイムズ997号221頁)

(事案の概要)
 賃貸人Xは、賃借人Yから賃料減額請求を受けたが、右減額請求後Yが減額後の賃料の支払いを継続したため、Yに対し従前の賃料額との差額賃料の支払いを求め本件訴えを提起した。これに対しYは、Xの請求は借地借家法32条3項に定める賃貸人からの相当賃料の支払請求であるが、Xは本件訴訟に至るまで相当賃料の支払を求める意思表示をしていないから支払義務はないとして争った。

(判決)
 本判決は「賃料の減額に係る借地借家法32条の趣旨は、賃料の減額請求がされた場合においては、減額の意思表示の到達時において賃料は適正額に当然に減額されたことになるが、右適正額への減額を正当とする裁判が確定するまでの間は賃貸人も右適正額を正確に知ることは困難であるから、裁判確定までの間は賃借人には『賃貸人が相当と認める額』の賃料支払義務があることとし、裁判確定後は既払額と適正額の差額のみならず年一割の割合による受領の時からの利息をも賃貸人が賃借人に返還しなければならないこととして、当事者間の均衡を図ったもの」とした上で「減額を正当とする裁判が確定するまでの『賃貸人が相当と認める額』の賃料支払請求権は、賃料増額請求がされた場合においては賃借人は格別の意思表示を要することなくその相当と認める額を支払えば足りるとされていることとの均衡を考慮すれば賃貸人の請求等の意思表示により発生する形成権ではなく、賃料減額の意思表示の到達時に当然に発生する権利であるとするのが相当である。また、右の『賃貸人が相当と認める額』は賃貸人が支払を求める具体的な額を賃借人に通知するとか、賃貸人が減額請求後において従前賃料に満たない額を格別の異議を述べないまま長期間受領し続けるなどの特段の事情のない限り、従前の賃料額と同額であると推定することが相当である」旨判示し、本件ではXがYの減額請求後直ちにこれを拒絶する回答をしているので右特段の事情はないとして、Xの請求を認容した。

(寸評)
 賃料減額請求をした場合、従前の賃料額を支払うか減額後の賃料額を支払うかが常に問題となるが、家主に前者の請求権があることを認めたものである。本判決によれば、借家人が後者を選択した場合には賃料不払いで契約が解除される事態も発生する。減額請求後も賃料減額の判決があるまでは従前の賃料額を支払うのが無難である

(1999.08.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 *契約が期間満了で終了した場合はその終了を再転借人には対抗できない

2006年02月14日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

  事業用ビルの賃貸借契約が期間満了により終了した場合、賃貸人は信義則上その終了を再転借人に対抗できないとされた事例 最高裁平成14年3月28日判決、判例時報1787号)

(事案の概要)
  1、 (原告)は、ビルの賃貸、管理を業とするA社の勧めにより、Xの土地上にビルを建築してA社に一括して賃貸し、A社から第三者に店舗又は事務所として転貸させ、賃料の支払を受けるということを計画しビルを建築した。

  2、 そしてXとA社は、ビル全体について期間20年の賃貸借契約を締結した(本件賃貸借)。同時にA社は、Xの承諾を得てその一室(店舗)をBに転貸し、さらにBは、XとA社の承諾を得てYに再転貸した(本件再転貸借)。現在もYが店舗として使用している。

  3、 A社は、平成8年にXとの賃貸借の期間20年が満了するに際し、転貸方式によるビル経営が採算に合わないとして撤退することとし、Xとの賃貸借契約を更新しない旨の通知をした。そこでXはBとYに対し、A社との賃貸借契約が期間満了により終了する旨通知した。

  4、 XはYに対し本件店舗の明渡しを求めたが、Yは、信義則上、XとA社間の賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人であるYに対抗することはできないと争った。

(判決要旨)
 本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的(ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定していたこと、A社の知識、経験等を活用して収益を上げさせること、Xは自ら個別に賃貸する煩わしさを免れ、かつ、A社から安定的に賃料収入が得られること)を達成するために行われたものであって、Xは、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、Yによる本件転貸部分の占有の原因を作出したものというべきであるから、A社が更新拒絶の通知をしても本件賃貸借が期間満了により終了しても、Xは、信義則上、本件賃貸借の終了をもってYに対抗することはできず、Yは、本件再転貸借に基づく本件転貸部分の使用収益を継続することができると解すべきである。Xの敗訴。

(短評)
 第一審はX敗訴、第二審はX勝訴、そして第三審はまたX敗訴という具合に結論が分かれた。本件は、いわゆるサブリースの事案について、賃貸人(X)が賃貸借の終了をもって信義則上転借人(Y)に対抗できない場合のあることを判示した初めての最高裁判例であるとされている。

 XとA間の賃貸借契約が合意解除された場合には、Xは転借人Yに対抗できるというのは古くから確立された判例であったが、この判決は、合意解除ではなく、期間満了により終了させた場合について、しかも、それがサブリースである場合について、新しい判断を示したものである。

(2002.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 


 

最高裁の判決文はこちらから

 

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2005年12月16日最高裁判決 (東京・台東)

2006年02月10日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

               通常損耗は貸主の修繕費用負担が原則

 建物賃貸借で普通に暮らしていて生じた床や壁の汚れ、傷等の所謂「通常損耗」を賃借人の費用負担で行なう「原状回復特約」が有効かどうかで争われた敷金返還請求訴訟で最高裁は、
通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる特約は原則として許されないという画期的な判断を示した。

 最高裁の判決は、通常損耗に関して「建物の賃貸借においては賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行なわれている」と指摘し、通常損耗の修繕費用は家賃に含まれるという原則が確認された

   この原則に反して、これらの修繕費用を賃借人に負担させる特約を「原状回復特約」という。賃借人にとっては、この特約は家賃の二重払いを強いるものであり、賃借人には不利益な特約と言える。

  最高裁は、この「原状回復特約」が認められる条件として「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸契約書では明らかではない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」とされた。最高裁は、それらの条件が認められない場合は通常損耗を含む原状回復義務を賃借人に負担させることが出来ないという初判断を示した。

  これらに関しては従来からか下級審で通常損耗を含む明文化された「原状回復特約」が成立するためには、①客観的理由の存在が必要②特約による修繕義務を負うことを認識していること③義務負担の意思表示をしていること、以上の要件を具備し、自由意思に基づき契約をしたことが必要であるとしていた。このような意思表示論によって「特約」の成立に制約を設け、これらの要件を充たしていない場合は「特約」の有効性を否定し、その特約を無効とした。(伏見簡裁1995年7月18日判決、伏見簡裁1997年2月25日判決、仙台簡裁1996年11月28日判決、神戸地裁尼崎支部2003年10月31日判決、大阪高裁2003年11月21日判決、大津地裁2004年2月24日判決)。

 今回の最高裁の判決は、これら下級審の判例理論を追認したものであるが、更に特約の成立に厳しい制限を加えた例外的な基準を設け、不当な「原状回復特約」による費用負担から賃借人を幅広く救済する効果が期待される。

 


最高裁2005年12月16日判決全文

 

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【Q&A】 原状回復特約は消費者契約法10条に違反し無効の判決

2006年02月09日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 東京簡裁で消費者契約法で原状回復特約が 
                    無効とされた借主勝訴の判決

 (問) 東京でも敷金返還請求裁判で自然損耗を含む原状回復特約は消費者契約法10条に違反し無効という判決があり、敷金全額が返還されたということですが、どんな内容の裁判だったのか。


 (答) 2005年11月29日の東京簡易裁判所の敷金返還裁判で自然損耗を含む原状回復を総て借主の費用負担で行わせる特約の有効性を争った訴訟で、その特約が消費者契約法10条に違反し無効とされた。そして貸主に対して敷金全額(13万6000円)の返還を命ずる判決があった。

  裁判の概要 
 借主は貸主のA株式会社との間で平成8年3月、杉並のマンションの賃貸借契約を締結した。その後、2年毎の合意契約での更新を3回繰返し、平成16年3月1日に法定更新された。

 被告(新家主)は平成16年7月22日に所有権を取得し、賃貸人の地位を承継した。

 借主は平成16年9月23日に居室を明渡し、預け入れていた敷金13万6000円の返還を新家主に求めた。 ところが、新家主は「原状回復特約」による修復費用が18万390円で、敷金から控除すると追加費用が発生するので、その分(4万4390円)を支払えと反訴請求をして来た。

  裁判所の判断
 東京簡易裁判所は、
 「契約書第11条に『明渡しの時は、原状に復するものとし、又、借主は故意及び過失を問わず、本物件に損害を与えた場合は直ちに原状に復し、損害賠償の責に任ずるものとする』と合意されている」この合意は「自然損耗等についての原状回復費用も負担することを定めたものといえる」と自然損耗を含めた原状回復特約の成立を認定した。

 その上で「貸主において使用の対価である賃料を受領しながら、賃貸期間中の自然損耗等の原状回復費用を借主に負担させることは、借主に二重の負担を強いることになり、貸主に不当な利得を生じさせる一方、借主には不利益であり、信義則に反する

 加えて「自然損耗等についての原状回復義務を借主が負担するとの合意部分は、民法の任意規定の適用による場合に比べ、借主の義務を加重し、信義則に反して借主の利益を一方的に害しており、消費者契約法10条に該当し、無効である」として東京簡裁は敷金の全額返還を命じた。

 


東京簡易裁判所2005年11月29日判決文全文

 

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3000円の値上げを家主撤回 する (東京・台東区)

2006年02月08日 | 家賃の減額(増額)

6軒の借家人に1月から 3千円の家賃値上げ通告

 1月初旬、組合に相談の電話が入った。家主から6軒の借家人に対して、1月の家賃から1か月3000円の値上げを通告され困っているという内容である。 過去、2年毎の値上げが繰返され、その都度、値上げを呑まされ続けている。借家人の意見は、これ以上値上げは呑めないということで全員一致している。 だが、値上げ通告にどのように対処するか、借地借家人組合への加入に対しても、各人の意見は纏らない。

 そこで組合の説明会を開いてほしいということで、1月13日に会合を開き、借地借家人組合とはいかなることをするのかを説明した。借地借家法の条文のコピーを配り、それを基にして、家賃値上げの対処方法、供託、調停等を解説した。

  組合に加入したいので、1月26日に再度会合を開きたいとの要請があった。 会合で今後の行動の意見交換をし、1月31日に代表者3名と組合役員とで6軒分の家賃を纏めて家主の元へ持参すること、家主への対応は総て組合役員が代表して行なうことを決めた。

 当日、家主に対して、6名が組合に加入したこと、交渉は組合を中心に行なうことを通告。今回の値上げは認められない。今まで通りの家賃額で支払うので受領の有無を返答してもらいたいと告げた。家主は共同所有者(不動産業者)に電話で相談するので待ってもらいたいと奥へ引込んだ。

 数分後、今回の値上げは撤回すると言い、今まで通りの金額で受領した。

 

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最高裁2005年12月16日判決の意義

2006年02月06日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

  通常損耗を賃借人負担とすることは原則として許されない
    画期的な最高裁判決が出る!

大阪支部  増 田   尚


 最高裁第二小法廷(中川了滋裁判長)は、2005年12月16日、大阪府住宅供給公社の特優賃物件での敷金返還請求訴訟で、通常損耗を賃借人負担とする特約が成立しており修繕費用の控除は正当であるとして賃借人の敷金返還請求を棄却した原判決を取り消し、審理を大阪高裁に差し戻す判決を言い渡した。

 この事案は、大阪の弁護士及び司法書士らで結成された敷金問題研究会が、結成当初の2002年10月にいっせいに提起した訴訟の一つであった。当時、原状回復費用と称して実質的には賃借人が負担すべきでないリフォーム費用を請求する事例が多発しており、中でも、特優賃物件の相談件数が目立っていた。

 もともと、大阪府住宅供給公社は、地方住宅供給公社法に基づき設立された法人であり、住宅の賃貸業務を遂行するに当たり、住宅を必要とする勤労者の適正な利用が確保され、かつ、賃貸料が適正なものとなるように努めなければならないとされている(同法22条)。そのような、いわば「家主の鑑」ともなるべき住宅供給公社が通常損耗を賃借人の負担であるとして請求していることは、社会的にも問題視された。

 しかし、裁判の壁は厚かった。何しろ、大阪府住宅供給公社は、修繕箇所を事細かに分割して、その大半の修繕を賃借人の負担とする「修繕費負担区分表」なる書面を別冊として用意しており、契約書本文には明渡時には、この区分表に基づいて補修費用を賃借人が負担すると記載していた。時期によっては、この区分表の冒頭に、「上記区分表については承知しております」と不動文字で記載し、そこに賃借人の署名捺印を求めるなど、賃借人に通常損耗の修繕費用を負担させるための用意周到ぶりは、民間の業者も顔負けであった。このガチガチの契約書・区分表を前に、大阪地裁(吉川愼一裁判官)、大阪高裁(横田勝年裁判長)とも、通常損耗の修繕費用を賃借人が負担するとの特約が成立しているときわめて形式的に判断して、賃借人を敗訴させた。

 しかし、率直に言って、このようなやり方は、地方住宅供給公社として恥ずべきものであるといわなければならない。政府は、1993年に賃貸住宅標準契約書を整備し、退居時の原状回復の範囲から自然損耗を除外することを明確にし、1998年には、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を制定して、退居時の原状回復について、範囲と基準、賃借人が負担すべき割合について基本的な考え方を示した。また、建設省住宅局長は、特優賃法の施行に先立ち、各都道府県知事に宛てて、「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律の運用について」と題する通達を発出し、特優賃貸住宅における賃貸住宅契約書は、特定優良賃貸住宅賃貸借契約書によることを求めた。これは、後記標準契約書を特定優良賃貸住宅に使用できるよう若干の修正を加えたものである。にもかかわらず、「家主の鑑」になるべき住宅供給公社が通常損耗を賃借人に負担させることは、まったく納得がいかなかった。

 敷金はよほどの不始末がなければ原則として返還されるべきものであり、ふつうに暮らしていれば生じる汚れ・傷について、その修繕費用を返還されるべき敷金から控除されることはない。まして、特優賃物件であり、賃借人も大阪府住宅供給公社である。民間ならあり得べき「ぼったくり」があろうはずもない―というのが賃借人の一般的な感覚である。退居時に修繕費負担区分表をにわかに持ち出し、特約があるとして一方的に通常損耗の修繕費用を控除するのは、まさに「不意打ち」というほかない。そうした賃借人の感覚に適合した法解釈こそ求められるのではないか。そう考えて、賃借人は上告した。

 上告受理申立理由は、(1)特約が成立していないこと、(2)成立したとしても特優賃法などに違反し公序良俗に反して無効であること、(3)判例違反、(4)法令違反など、あらゆる主張を駆使した。(1)については、賃貸借契約が使用収益と賃料支払が対価関係に立つ契約であり、目的物を通常に利用したことによる価値の減少は賃料によって補償されるとみるべきであり、目的物の修繕義務を原則として賃貸人が負うとなっていること、このような民法の原則や社会通念に反する特約は、賃借人にとっていわば「不意打ち」になるので、その認定には慎重になるべきであること、契約書や区分表の記載だけでは、賃借人が負担すべき範囲が明らかでなく、入居者説明会の説明も不十分であったこと、などを主張した。また、幸い、(2)については、上告申立理由書提出直前の2004年7月30日に、大阪高裁(小田耕治裁判長)が大阪府住宅供給公社を相手取った敷金返還請求訴訟で、このような特約が公序良俗に反し無効であるとの判決を言い渡したので、大いに主張を補充することができた。

 しばらくして、最高裁第二小法廷より、上告受理申立書記載の理由のうち(1)以外を排除して受理する決定が届いた。私たちは、特約の成立を認めた原審大阪高裁判決が見直されるものとして、大いに期待した。果たせるかな、最高裁判決は、通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる特約は、原則として許されないとの画期的な判断を示した。

 本判決は、「賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている」として、賃貸借契約においては、通常の使用による目的物の価値の減少は賃料によってまかなわれており、通常損耗の修繕費用は、原則として、賃貸人が賃料から負担すべきであるとの考え方を示した。そのような基本的な考え方から、「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる」と述べ、賃料以外の方法によって通常損耗の修繕費用を賃借人に負わせるのは、「賃借人に予期しない特別の負担」であると言い切った。「不意打ち」と多くの賃借人の感覚にマッチした指摘であるといえる。

 また、本判決は、「賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約…が明確に合意されていることが必要である」と述べ、例外的に通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる場合の基準を示した。

 その上で、本判決は、大阪府住宅供給公社の賃貸借契約書及び別冊である修繕費負担区分表について、「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない」などとして、通常損耗の範囲が条項自体に具体的に明記されておらず、入居者説明会における口頭説明についても、「通常損耗補修特約の内容を明らかにする説明はなかった」として、賃借人が特約を明確に認識し、合意の内容としたとは認められないと判断した。

 原状回復をめぐる法的紛争は、(1)「原状に復して明け渡す」などの文言を賃貸借契約締結当時の状態にするのではなく、通常の用法に従って使用したことによる損耗や経年劣化については含まれないとする解釈論、(2)原状回復義務に通常損耗を含むとの明文化された契約条項について「明確に認識して自由な意思に基づき契約したか」どうかという意思表示論、(3)通常損耗を賃借人負担とする原状回復特約が民法90条や消費者契約法10条に違反し無効であるとする効力論、の三つの段階を追って争われてきた。

 本判決は、第二段階である意思表示をめぐる争いに終止符を打つ意義を有している。大阪府住宅供給公社の負担区分表は相当に詳細であり、これでも「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない」と評価されたのであるから、不動産業者サイドとしても、およそ契約書に明記することなどできないといってよいであろう。

 また、本判決は、消費者契約法の適用前後を問わず、詳細に規定して通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる特約の成立を阻むものであり、不当な原状回復費用の請求から賃借人を幅広く救済する効果を有しているといえる。本判決と消費者契約法10条が相俟って、こうした原状回復特約を封じ込めることが期待される。

 私たち敷金問題研究会は、早速、大阪府住宅供給公社に対し、(1)契約書及び区分表の見直し、(2)将来の退居者から通常損耗の修繕費用を徴求しないこと、(3)過去の控除についても点検して不当利得があれば返還すること、を申し入れた。同公社の対応が注目される。また、他の地方住宅供給公社についても、同様の原状回復特約がなされていないかどうかを点検し、改善を申し入れることを検討している。

 私たち敷金問題研究会は、本判決を最大限に活用し、賃貸住宅契約において、標準契約書やガイドラインに従って、原則論である「通常損耗は賃貸人負担」を徹底するよう求めていく次第である。

 なお、合わせて、12月16日、原状回復特約を公序良俗に反し無効であるとした大阪高裁判決について、大阪府住宅供給公社の上告受理申立てを受理せず、上告を棄却する決定がなされ、同判決が確定したことも報告しておく。

自由法曹団通信 1183号

 

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【判例紹介】 *地代自動増額特約による増額に対し借地人の減額請求が認められた事例

2006年02月05日 | 地代の減額(増額)

 判例紹介

  地代自動増額改定特約に基づく地代の増額が借地借家法11条1項の趣旨に照らし不相当になったとして、同特約による地主の地代増額請求が認められず、借地人による地代減額請求が認められた事例 最高裁判所第1小法廷平成15年6月12日判決。判例時報1826号47頁)

   (事案の概要)
  Xは、昭和62年7月1日、Yから建物所有の目的で本件土地を賃借したが、その際、本件土地の地代について、3年後に15%増額し、その後も3年ごとに10%ずつ増額するという内容の地代自動増額改定特約を締結した。当時、本件土地を含む東京都23区内の地価は急激な上昇を続けており、以後も上昇を続けるものと考えられていた。

   ところが、本件土地の1㎡当りの価格は、昭和62年7月1日が345万円で、平成3年7月1日には367万円に上昇したが、平成6年7月1日には202万円に、平成9年7月1日には126万円に下落した。他方、本件地代は、本件特約に基づき、平成3年7月1日には15%、平成6年7月1日にはさらに10%増額された。

   しかし、Xは、平成9年7月1日の地代改定にあたり、本件地代を増額することなく従前の地代の支払を継続するとともに、同年12月24日には、本件地代を20%減額するようYに請求し、Yは本件特約により増額された地代の支払いを求めた。

   そこで、Xは地代減額請求により減額された地代月額の確認を求め、Yは本件特約により増額された地代月額の確認を求め提訴した。原審(控訴審)は、本件特約が失効したとはいえないとして、本件特約に基づく地代の自動増額を認め、Xの地代減額請求を認めなかった。

   (判決)
  本判決は、「地代等自動改定特約は、その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には、その効力を認めることができる」が、「その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより、同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には、同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず、これを適用して地代等改定の効果を生ずることはできない。また、このような事情の下においては、当事者は、同項に基づく地代等増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない」として、地価が当初の半額以下になった平成9年7月1日の時点では、本件特約は地代増額の効果を生ぜず、同年12月24日時点におけるXの地代減額請求権の行使に妨げはないとして、Xの請求を認めた。

   (寸評)
  地代等自動改定特約につき、借地借家法11条1項との関係に着目してその効力を論じた初めての最高裁判決であり、バブル期に締結された地代等自動増額改定特約に苦しむ借地借家人に参考になる判決である

(2003.11.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 借地上の建物が火災による消失で滅失した場合の掲示と借地権の対抗力

2006年02月03日 | 借地の諸問題

  判例紹介

  借地上の建物滅失後の掲示と借地権対抗力 東京地裁平成12年4月14日判決、金融商事判例1107号)

 (事案の概要)
 借地人の建物は、平成10年12月30日、火事で燃えてしまった。借地人は、平成11年3月18日、借地借家法10条2項による掲示(消失建物及び建物建築予定等の必要事項)をしたが、何者かによってその掲示が取り外された。そこで、同年3月25日、26日にも同様の掲示をしたが、これらも取り外されていた。本件土地は、その間に売却されて、平成11年4月23日、被告に買われて所有権移転登記がなされてしまった。借地人は、被告に対して、借地権の確認を求める訴訟を提起したが、被告は、本件土地を買い受けた当時、本件土地上には建物がなく、建物が存在していたことを示す掲示もなかったので、借地権を対抗することができないと、争った。

  (判決要旨)
  「法10条2項の規定は、建物が滅失して借地上に存在しなくなっても、滅失した建物の残影があれば、それからその土地上には土地利用権が設定されているとの推測が働き、建物登記簿も調べて借地権の存在を知ることができるとの考えから設けられたものである。すなわち、無効となった登記に一定の条件の下に余後効を認めるとともに、もはや建物が存在しない現地と建物登記を結び付ける方法として掲示を要求し、それに滅失建物を特定する事項を記載すべきものとした。法10条2項は、掲示上の表示と滅失した建物登記とが一体となって暫定的に借地権の対抗力を維持しえるものとした。

 借地上の建物の滅失により、掲示がなされるまで一時的にその借地権の対抗力は消滅するのであり、建物滅失後この掲示をするまでの間にその借地について第三者が権利を取得した場合には、その後に掲示を行っても借地権を対抗することはできない。また、法10条2項の定める掲示は滅失した建物の残影に他ならないから、掲示が一旦なされた後に撤去された場合には、その後にその土地について借地権の負担のない所有権を取得した第三者に対しては、借地権を対抗することができなくなる。第三者に対して借地権の対抗力を主張するためには、掲示を一旦施したというだけでは不十分であり、その第三者が権利を取得する当時にも掲示が存在する必要がある。

  (説明)
 借地権を第三者に対抗するには(認めさせるには)、建物が借地人名義で登記されていること、建物が存在することが必要。建物が火事、建替で滅失したときは、「滅失建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示」すれば、この掲示が建物の身代わりとなる。この掲示は新建物が建築されて登記されるまでの間継続させないといけない。掲示の保全につき、注意を喚起させる事例である。

(2001.11.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 貸ビルの譲渡で新旧家主間で合意しても借主の敷金返還を保護した事例

2006年02月01日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

 不動産の賃料債権の差押があった後に当該不動産が第三者に譲渡されても賃借人は債権者の取立てに応じなければならない。東京高裁平成10年3月4日判決、判例タイムズ1009号)

  (事案)
 負債を抱えていた賃借人は、債権者から自分が賃貸した賃料を差し押えられてしまった。その後、賃貸人は、賃貸建物を他人に譲渡して名義変更をした。賃借人は、賃料を新しい建物名義人に支払い、差し押さえた債権者への賃料支払を拒絶した。そこで、債権者が賃借人に対して、差し押さえた賃料を取り立てる訴訟を起こした。
 判決は、賃借人は、賃料を新建物所有者に支払ったとしても、債権者への支払を拒絶できないと判断した。

  (判決の要旨)
  「不動産の賃料債権に対する差押の効力が生じた後に、右不動産が第三者に譲渡され、所有権移転登記がされた場合には、右賃貸借関係は譲受人に引き継がれるが、差押の効力はそのまま継続し、譲受人たる新賃貸人を拘束すると解するのが相当である。
 不動産の賃料債権について差押の効力が生じた後に執行債務者(賃貸人のこと)が、その賃料債権を第三者に譲渡した場合、差押債権者には対抗できない。その不動産が第三者に譲渡された場合には、その賃貸人の地位は当該第三者に移転する。賃貸人の地位は、賃料債権者たる地位と不動産を賃借人に使用収益させる債務を負担する地位とから成るが、この場合の賃料債権の移転は、すでに差押があるから差押債権者が優先する。(不動産を賃借人に使用収益させる債務を負担する地位だけが新所有者に移動する。)
 不動産の譲渡による賃貸人の交代の場合には、賃料債権について引き続き差押の拘束を受けることにしても賃借人が何ら不利益を受けるものではない。」

  (説明)
  賃料が賃貸人の債権者によって差し押さえられるケースが、最近では多いので、係争事例の一つとして紹介する。賃料が差し押さえられた場合の注意点は、賃料を二重に請求されることがないようにすること、処置を誤って賃料不払いとなり契約を解除されることがないようにすることである。本件では、賃借人は六人いたが、賃料差押後に賃貸建物が譲渡されたため、新しい所有者に賃料を支払ったことから、賃料を差し押さえていた債権者から二重に賃料の支払請求を受けたケースである。判決は、賃料が差し押さえられた後に建物が譲渡されても賃料差押の効力は続くので、新所有者に支払ってはならないと述べている。この取り扱い自体は通常のことである。賃料が差し押さえられたとき、賃貸人からさまざまな働きかけを受けることがあり、その説明がどこまで正確なのかの判断が付きにくいこともあるから、組合とよく相談して対処することが必要である。

(1999.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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