東京・台東借地借家人組合1

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【判例】*継続した地代不払を一括して1個の解除原因とする賃貸借契約の解除権の消滅時効

2018年11月13日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

継続した地代不払を一括して1個の解除原因とする賃貸借契約の解除権の消滅時効は最後の賃料の支払期日が経過した時から進行するとされた事例
(最高裁昭和56年6月16日判例 民集35巻4号763頁)


       主   文
 原判決中、上告人(賃貸人)の被上告人(賃借人)に対する本件土地の明渡請求に関する部分及び昭和43年2月1日から右土地明渡ずみに至るまでの損害賠償請求に関する部分並びに昭和43年2月1日から昭和47年5月16日までの賃料請求に関する部分を破棄し、右破棄部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

 上告人のその余の上告を却下する。
 前項に関する上告費用は、上告人(賃貸人)の負担とする。


       理   由
 上告(賃貸人)代理人武藤達雄の上告理由第2点ないし第4点について
 原判決によれば、上告人(賃貸人)は、被上告人(賃借人)に本件土地を木造建物所有の目的で賃貸しているものであるところ、昭和32年7月30日被上告人(賃借人)に対し地代が比隣の土地の地代及び諸物価の高騰に比較して不相当になったとして同年8月1日以降の地代を月額1万0242円に増額する旨の意思表示をしたが、被上告人(賃借人)はこれを支払わず、昭和37年6月25日に至って昭和32年8月分から昭和34年12月分までの月額3500円の割合による地代と昭和35年1月から昭和37年6月分までの月額6500円の割合による地代を一時に供託し、その後も月額6500円ないし7000円の割合による地代を供託しているにすぎないので、上告人(賃貸人)は、約定に基づきあらかじめ催告することなく昭和43年1月31日送達の本件訴状をもって被上告人(賃借人)に対し右地代支払債務の不履行を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたと主張して、被上告人(賃借人)に対し本件建物を収去して本件土地を明渡すことを求めていることが、明らかである。

 これに対し、原審は、上告人(賃貸人)の右賃料増額の請求は、昭和32年8月1日以降月額9000円の範囲内において効力を生じたとしたうえ、被上告人(賃借人)は右増額地代を現実に支払わないのみならず、弁済の提供をして受領を拒まれたことがないのに地代を供託したのであるから、右賃料支払債務の不履行の責は免れないとしたが、賃料支払債務の不履行を理由とする契約解除権は、10年の時効により消滅すると解するのが相当であるところ、本件では、1回でも地代の不払があったときは催告を要せず直ちに本件賃貸借契約を解除しうる旨の特約があったのであるから、上告人(賃貸人)は、昭和32年9月1日には本件賃貸借契約を解除しうるに至ったのであり、従って、上告人(賃貸人)が本件賃貸借契約解除の意思表示をした昭和43年1月31日当時には、すでに右解除権は時効により消滅していたと判示して、被上告人(賃借人)の右解除権の消滅時効の抗弁を容れ、上告人(賃貸人)の請求を棄却した。

 ところで、賃貸借契約の解除権は、その行使により当事者間の契約関係の解消という法律効果を発生せしめる形成権であるから、その消滅時効については民法167条1項が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅すると解するのが相当であるが、本件では、上告人(賃貸人)の契約解除理由は、昭和32年8月以降昭和43年1月までの地代支払債務の不履行を理由とするものであるところ、被上告人(賃借人)の右長期間の地代支払債務の不履行は、ほぼ同一事情の下において時間的に連続してされたという関係にあり、上告人(賃貸人)は、これを一括して1個の解除原因にあたるものとして解除権を行使していると解するのが相当であるから、たとえ1回でも地代の不払があったときは催告を要せず直ちに契約を解除することができる旨の特約があったとしても、最初の地代の不払のあった時から直ちに右長期間の地代支払債務の不履行を原因とする解除権について消滅時効が進行するものではなく、最終支払期日が経過した時から進行するものと解するのが相当である。

 そうすると、上記判示と異なる見解のもとに、本件賃貸借契約の解除権は時効により消滅したとして被上告人(賃借人)の右解除権の消滅時効の抗弁を容れ、上告人(賃貸人)の請求を棄却した原判決には、解除権の消滅時効の起算点に関する法律の解釈適用を誤った違法があるものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨はこの点で理由があり、原判決中、上告人(賃貸人)の被上告人(賃借人)に対する本件土地明渡請求及び昭和43年2月1日から右土地明渡ずみに至るまでの損害賠償請求を棄却した部分は、その余の論旨につき判断を加えるまでもなく、破棄を免れず、原判決中の右部分が破棄を免れない以上、予備的請求として認容された昭和43年2月1日から昭和47年5月16日までの賃料支払請求に関する部分についても当然に破棄を免れない。そして、右各破棄部分については、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻す。なお、本件上告中、昭和32年8月1日から昭和43年1月31日までの賃料支払請求に関する原判決の破棄を求める部分については、上告人(賃貸人)は民訴法398条に違背し民訴規則50条所定の期間内に上告の理由を記載した書面を提出しないので、同部分に関する上告は却下を免れない。

 よって、民訴法407条1項、399条ノ3、399条、398条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官伊藤正己、裁判官環昌一、同横井大三、同寺田治郎

 

 

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