保証金/敷金トラブル/原状回復/法定更新/立退料/修繕費/適正地代/借地権/譲渡承諾料/建替承諾料/更新料/保証人
自主的に組織された借地借家人のための組合です。
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(問) マンションの契約期間が間もなく満了します。すでに家主の依頼を受けた不動産屋から契約更新の条件を提示されています。それによると、家賃は据え置きなので不満はないのですが、新しい更新契約書に連帯保証人の実印を押すことと印鑑証明を添付することを要求されました。私には、新たにお願いできる保証人がいないので、それを断りました。「それでは契約は更新できないので期間満了で賃貸借は終了します」と不動産屋に言われてしまいました。頼める保証人がいない場合は、契約の更新ができないのでしょうか。
(答) 建物賃貸借契約の保証人の役割は、契約の内容にもよりますが、普通は契約書に「保証人は、本契約から生ずる乙(賃借人)の一切の債務につき、乙と連帯して履行の責を負うものとする」などと書かれています。賃貸借契約から生ずる一切の債務とは、家賃を支払う債務や建物を壊した場合の弁償などです。あくまで金銭的な債務で、立ち退きを保証するなどということはありません。
頼める保証人がいなくても契約の更新は可能です。借家契約の更新には次の2種類があります。
①契約の当事者(家主と借家人)が更新の条件について合意し、更新契約書を取り交わす(合意更新)。
②更新契約書を取り交わさずに従前の契約期限をそのままやり過ごすと自動的に更新する「法定更新」(借地借家法第26条)。
頼める保証人がいなくても、更新契約書ができなくても②の法定更新を選択すればいいわけです。法定更新後の契約条件は、従前の契約条件と同一の内容になります(借地借家法第26条1項)。ただし、2年というような契約期間はなくなり、期間の定めのない状態で続くことになります」(借地借家法第26条1項但書)。
法定更新すると、契約条件は従前と同一ですから、もし前の契約書に「更新時に新家賃の*か月分の更新料を支払う」という特約があっても、契約期間の定めがなくなるので、その後は更新料を支払う機会が来なくなるという有利な条件が得られます。
結果、法定更新をすると、以後更新が発生しないので、更新料支払問題は発生しません。
東京借地借家人新聞より
<参考法令>
借地借家法
(建物賃貸借契約の更新等)
第26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
東京・台東借地借家人組合
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地縁、血縁関係の薄れが指摘されるなか、家の賃貸契約や借金の申し込みなどの際に必要となる「保証人」を、インターネットを通じて紹介するサービスが広がり、トラブルが多発している。業者に手数料を振り込んだのに紹介されないなど、各地の消費生活相談窓口への相談は2004~09年度で827件に上る。国民生活センターは「保証人がいなくて契約できない場合は、まず自治体の窓口に相談してほしい」と話している。
兵庫県の50歳代の男性は、借金をするために保証人が必要になった。ネットで見つけた紹介業者の口座に10万円を振り込み、公務員だという保証人を紹介してもらった。ところが勤務先に確認すると、実在しなかったという。
また、千葉県の30歳代の女性は「保証人になれば手数料収入を得られ、リスクはすべて業者側で負担する」とうたった紹介業者のサイトをネットで見つけ、副業感覚で5人の保証人になった。その後、アパートの賃借人が家賃滞納のまま行方不明に。保証人としての責任を迫られ相談してきた。紹介業者は何かと理由をつけて逃げているという。
同センターが把握する苦情のあった紹介業者は200社超。相談者が10万円を超える額を払った例も69件あった。
保証人紹介サービスは現時点で規制する法律はない。
同センターは「副業感覚での保証人登録は絶対にしないように」と強調している。(小林未来)
2010年5月27日 asahi.com(朝日新聞社)
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(問) 10年前にマンション入居の際、頼まれてAの連帯保証人になった。ところがAの家主から突然、3年分の滞納家賃と共益費の支払を求められた。請求に応じなければならないのか。
(答) 家主から契約更新後の保証人の継続に関する承諾の連絡などは一度もなかったという。保証契約が継続しているという自覚がない保証人に対し、家主からの滞納家賃の支払請求は寝耳に水の事である。
判例は保証人の責任に対しては厳しいものである。最高裁は原則として契約更新後についても保証人の債務責任を認めている。即ち、「特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責を負う趣旨で合意されたものと解するのが相当であり、保証人は賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れない」(最高裁平成9年11月13日判決 判例タイムズ969号)と判示した。最高裁判決の原則から言えば、相談者は家主からの滞納家賃請求に応じなければならないことになる。
しかし、最高裁は同判決で例外として「特段の事情」がある場合は保証債務を免れることが出来ると云っている。
それは、どういう場合なのか。例えば、
①「賃貸契約に2ヶ月の賃料の支払を怠った場合に無催告解除が出来るという特約があって、更新までにそれを上回る高額の延滞賃料が発生したにも関わらず、漫然と契約を解除しないで法定更新をして、このことによって延滞額が更に高額になった場合について、このような場合についてまで連帯保証人に責任を負わせることはできない」(東京地裁平成10年12月28日判決)。
②貸主(原告)の広島県福山市は約13年間、連帯保証人に対して借主の滞納家賃等の明細を通知するなどの措置を全くしていなかった。「催告書を全く送付することなく、また、訴外A(借主)の賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していたものであり、原告(貸主)には内部的な事務引継上の過失又は怠慢が存在するにもかかわらず、その責任を棚上げにする一方、民法上,連帯保証における責任範囲に限定のないことや、連帯債務における請求に絶対効が認められることなどから、被告に対する請求権が形骸的に存続していることを奇貨として、敢えて本件訴訟提起に及んでいるものであり、本件請求における請求額に対する被告の連帯保証人としての責任範囲等を検討するまでもなく、本件請求は権利の濫用として許されないものというべきである」( 広島地方裁判所 福山支部平成20年2月21日判決)
①、②のような場合が「特段の事情」として挙げられる。
相談者の場合、家主はAの滞納家賃が高額になっているにも拘らず、保証人に滞納の事実を連絡せず、又は契約を解除するなどして保証人の損害を回避すべき義務があった。それにも拘らず、契約の更新を行い、その回避義務を怠って損害を拡大した責任は重い。これらは家主が保証債務の履行を請求することが信義則に反する「特段の事情」に該当する。よって、保証人は保証債務の支払義務は無いというのが結論である。
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判例紹介
◎事件名・・・・ 建物明渡等請求事件
◎裁判所・・・・ 広島地方裁判所 福山支部
◎裁判年月日・・・・ 平成20年02月21日
◎裁判概要・・・・ 本件建物及び本件駐車場を所有して管理する原告(広島県福山市)が,賃貸借契約は賃料不払いを理由に解除されたとして,本件建物及び駐車場の賃借人の連帯保証人である被告に対し,平成9年1月分以降(約10年分)の未払賃料及び賃料相当損害金として約300万円の支払いを求めた事案。判決は福山市の請求を権利の濫用として認めなかった。
平成20年2月21日判決言渡・同日原本領収 裁判所書記官
平成19年(ワ)第69号 建物明渡等請求事件
口頭弁論終結日 平成19年12月20日
判 決
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,293万1248円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,別紙目録記載の建物(以下,「本件建物」という。)及び駐車場(以下,本件駐車場」という。)を所有して管理する原告が,賃貸借契約は賃料不払いを理由に解除されたとして,本件建物及び駐車場の賃借人の連帯保証人である被告に対し,平成9年1月分以降(約10年分)の未払賃料及び賃料相当損害金として約300万円の支払いを求めた事案である。
2 争いのない事実及び証拠によって認められる事実(証拠によって認定した事実については,末尾に証拠を掲載した。)
(1) 原告は,昭和57年10月26日,訴外Aに対し,本件建物を次の約定で賃貸した。
ア 使用目的 居住用
イ 賃 料 1か月2万2000円
ウ 賃借人が賃料を3月以上滞納したときは,原告は本件建物の明渡しを請求できる。
エ 本契約は,公営住宅法,同法施行令,福山市営住宅等条例及び条例施行規則による。
(2) 被告は,昭和57年10月26日,訴外Aが原告に対して負担する本件賃貸借契約上の債務を保証人として連帯して履行することを約した。
(3) 上記賃料は,平成5年11月1日から2万6600円,平成10年4月1日から3万6000円,平成11年4月1日から3万5500円,平成12年4月1日から2万5300円 平成13年4月1日から3万3800円,平成14年4月1日から3万3300円,平成15年4月1日から3万2800円,平成16年4月1日から3万2400円,平成16年5月1日から3万5200円(駐車場使用料を含む。),平成17年4月1日から3万5100円(駐車場使用料を含む。),平成17年12月1日から1万9900円(駐車場使用料を含む。)に改定された(甲3,4 )。
(4) 原告は,平成16年5月1日,訴外Aに対し,本件駐車場を使用料1ヶ月2800円,期間は訴外Aが本件建物の賃借資格を有するまでの約定で使用許可した(甲4,6)。
(5) 訴外Aは,平成9年1月分から賃料の支払を滞納するようになったため,原告は,訴外Aに対し,平成18年10月25日到達の内容証明郵便で,未払賃料合計275万6000円を同書到達後5日以内に支払うよう,もし支払わなかったときは本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが,訴外Aはこれを支払わなかったため,本件賃貸借契約は平成18年10月31日に終了した(甲2の1及び2,3)。
(6) 原告は,被告に対し,平成9年1月以降,訴外Aの賃料債務不履行の事実を伝えたり連帯保証債務履行の請求をすることを一切行わずに放置していたが,平成18年10月11日に至って初めて,訴外Aの未払賃料合計275万6000円を10日以内に連帯保証人として支払うよう催告し,更に,同年同月24日,翌日到達の内容証明郵便で,訴外Aの未払賃料合計275万6000円を同書到達後5日以内に連帯保証人として支払うよう催告した(甲9の1及び2,13,乙1,2)。
(7) 訴外Aは,平成19年7月25日,強制執行により本件建物を明け渡した(弁論の全趣旨)。
3 争点及び当事者の主張
(争点)本件未払賃料等を連帯保証人である被告に請求することの当否。
(被告の主張)
(1) 原告は,平成9年1月分から賃料の不払いがあったとして,本件請求をしているが,福山市営住宅等条例41条(2)記載によれば,家賃を3ヶ月以上滞納したときは「当該入居者に対し,当該市営住宅等の明渡しを請求することができる」と規定している。
したがって,本件建物賃貸借契約の連帯保証人の保証の本旨は3ヶ月を限度として保証しているものであって,3ヶ月分の請求ならともかく,入居者の賃料不払いを無制限に保証しているものではない。
(2) 本件請求は,地方自治体の公的義務に違背し,権利の濫用として無効である。
(3) 原告は,被告に対しては平成5年12月20日まで合計8回にわたって催告したと主張する。
したがって,被告の連帯保証債務は,原告の主張する上記最終請求日から満5年をもって時効により消滅しているものであるところ,被告は,本訴において時効の利益を援用する。
(原告の主張)
(1) 被告の保証は3ヶ月分を限度としたものではない。
原告が,被告に対し,途中から催告を差し控えていたことは事実であるが,公営住宅であることからできるだけ法的手続を留保していたとしても,訴外Aに対しては延滞賃料の支払いを厳しく催告し続けており,また,被告は訴外Aの義理の叔父であって意思の疎通も十分されていることなどを考えた場合には,仮に原告の被告に対する本件請求が地方自治体の管理業務として問題があるとしても,保証責任の期間が制限されるものではない。
(2)ア 原告は,市営住宅の明渡請求訴訟の提起等,家賃滞納整理については福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱に基づいて事務処理している。
(ア) 1ヶ月以上の滞納者に対しては,まず督促状を送付する。
(イ) 3ヶ月以上の滞納者に対しては,「さきに督促状を送付しましたが,いまだ未納ですので表記の指定納入期限までに完納してください。もし,期限までに完納できない事情がある場合は,住宅課へご相談ください。なお,住宅・駐車場使用料の未納については連帯保証人に対しても連絡済です。」の文書を送付する。
(ウ) 5ヶ月以上の滞納者に対しては,「あなたの滞納については再三督促しているにもかかわらず表記の指定納入期限までに完納してください。なお,連帯保証人に対しても催告書を送付しております。(予告)期限までに納入されない場合は裁判所に住宅明け渡しの訴えを行うことになります。」の文書を送付する。
(エ) 6ヶ月以上の滞納者で家賃を支払う意思のないものに対しては,法的措置を行う旨記載した文書を送付し,警告するとともに臨戸訪問等により本人と接触し,納付指導を行う。
(オ) 市営住宅明け渡し等請求訴訟の訴え提起前日までの間に,滞納家賃の全額又は,3分の2以上の額を納付し,かつ当該納付すべき残額について分割納付誓約書を申し出た場合は,提訴しないことができるものとする。ただし,分割納付誓約の内容は,滞納が1年以内に整理できるものとする。
イ 原告は,家賃滞納者に対しては,これまで上記要綱に基づいて事務処理していたが,市営住宅が住宅に困窮する低所得者に対し低廉な家賃で賃貸し,市民生活の安定と社会福祉増進を目的としていることから,実務的には明け渡し等請求訴訟の訴えは,滞納額とこれについて賃借人が原告の付指導に基づいて納付誓約書を差し入れるなど誠実に対応されているかどうかによって慎重に処理していた。
ウ 連帯保証人である被告らに対して原告が催告を控えるようになったのは,訴外Aが,平成5年10月に納付誓約書を提出し,誓約書どおり分納を履行していたにもかかわらず,原告担当者が,平成5年12月20日,過って被告に催告状を出したため,訴外Aが,平成6年1月,原告担当課に来て強く抗議したため,原告は,被告ら保証人にお詫びの電話をするとともに,その後は訴外Aに賃料滞納があっても被告ら保証人に対する催告を控えるようになったものである。
(3) 主たる債務者について時効中断の事由が生じたときは,保証債務の付随性に基づき,保証人にもその効力が及ぶところ,訴外Aは,原告に対し,
① 平成11年8月25日,未払賃料債務53万7700円を承認し,
② 平成12年8月14日,未払賃料債務59万4100円を承認し,
③ 平成14年8月14日,未払賃料債務132万6300円を承認し,
④ 平成17年9月5日,未払賃料債務253万6100円を承認し,
それぞれ分割して完納する旨を誓約しているので,消滅時効は上記各承認により中断している。
消滅時効完成後の承認が時効利益の放棄となり,主たる債務者がなした時効の利益の放棄は保証人に対して効力を生じないと解されるとしても,上記各承認は,時効完成後の承認ではないから,保証人である被告に効力が生じるものであり,被告の消滅時効の主張は理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 上記認定事実に加えて 証拠 甲1,5,7,8,10ないし17,証人B,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件市営住宅は,公営住宅法にいう公営住宅に該当するものであるところ,公営住宅法は,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって(法1条),この法律によって整備された公営住宅の使用関係については,管理に関する規定を設け,家賃の決定,家賃の変更,家賃の徴収猶予,修繕義務,入居者の募集方法,入居者資格,入居者の選考,入居者の保管義務,明渡し等について規定し(法第3章),また,法の委任(法47条)に基づいて制定された条例も,使用許可,使用申込,申込者の資格,使用者選考,使用手続,使用料の決定,使用料の変更,使用料の徴収,明渡し等について具体的な定めをしているところである。
そして,福山市営住宅等条例(甲5,8)の規定によれば,市営住宅等の入居決定者は,決定のあった日から10日以内に,入居決定者と同程度以上の収入を有する者で,市長が適当と認める連帯保証人2人の連署する請書を提出することが要求されている。
(2) 被告は,昭和57年10月26日,訴外Aが原告から本件建物を賃借するに際し,福山市営住宅等条例の上記規定に基づき,訴外Aの実父である訴外亡D(平成13年a月b日死亡)とともに訴外Aの連帯保証人となることを承諾し,市営住宅使用請書(甲1)の連帯保証人欄に署名・押印した。
なお,被告は,訴外Aの実母の姉の配偶者であり,すなわち,訴外Aの義理の伯父の関係にあるが,訴外Aの生活状況については必ずしも十分に把握しておらず,訴外Aが平成5年に破産宣告を受けたことすら,最近まで知らずにいた状況であった。
(3) 訴外Aは,平成3年頃から本件建物の賃料を滞納するようになった。
(4) 原告には,市営住宅使用料(家賃)の納付の円滑化を図るため,昭和63年4月1日から施行された「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱」(甲16)が存在し,納期限までに家賃を納付しない市営住宅の入居者やその連帯保証人に対する督促や明渡請求訴訟の提起等,家賃滞納整理については,上記要綱に基づいて事務処理することとされていたものであるところ,上記要綱には以下の事項が定められていた。
ア 家賃の滞納が発生した場合には,滞納者に対し事実の認識と納付指導のため,つぎの文書を送付する。
(ア) 1ヶ月以上の滞納者に対しては,まず督促状(様式1)を送付する
(イ) 3ヶ月以上の滞納者に対しては, 「さきに督促状を送付しましたが,いまだ未納ですので表記の指定納入期限までに完納してください。 もし,期限までに完納できない事情がある場合は住宅課へご相談ください。なお,住宅・駐車場使用料の未納については連帯保証人へ連絡済です。」の文書(様式2)を送付する。
(ウ) 5ヶ月以上の滞納者に対しては,「あなたの滞納については,再三督促しているにもかかわらずいまだ完納されていません。表記の指定納入期限までに完納してください。なお,連帯保証人に対しても催告書を送付しております。(予告)期限までに納入されない場合は,裁判所に住宅明渡の訴えを行うことになります。」の文書(様式3)を送付する。
イ 以上の規定により,督促・催告したにもかかわらず納付しない滞納者の連帯保証人に対し,つぎの文書を送付する。
(ア) 3ヶ月を超え5ヶ月までの滞納者の連帯保証人に対しては,「さきに「住宅・駐車場使用料完納指導依頼書」を送付しましたが,いまだに完納されていません。ついては,連帯保証人であるあなたに請求しますので,入居者と相談のうえ指定納入期限までに納付してください なお,これ以上滞納が続くようであれば,入居者に対しては,裁判所に住宅明渡の訴えを行うこととなります。また連帯保証人に対しては,住宅使用料等(起訴費用・損害賠償金含む)の支払いを請求することになります。」の文書(様式4)を送付する。
(イ) 6ヶ月を超える滞納者の連帯保証人に対しては,「あなたが連帯保証人となっている市営住宅入居者は,市の再三の督促にもかかわらず,表記のとおり滞納となっています。ついては本人と相談のうえ指定納入期限までに完納されるようご指導ください。なお,期限までに完納されない場合は,連帯保証人のあなたに請求することにもなりますのであらかじめお知らせしておきます。」の文書(様式5)を送付する。
ウ 6ヶ月以上の滞納者で,家賃を支払う意思のないものに対して法的措置を行う旨記載した文書を送付し,警告するとともに,臨戸訪問等により本人と接触し,納付指導を行う。
エ 市営住宅明け渡し等請求訴訟の訴え提起前日までの間に,滞納家賃の全額又は,3分の2以上の額を納付し,かつ,当該納付すべき残額について,分割納付誓約を申し出た場合は,提訴しないことができるものとする。ただし,分割納付誓約の内容は,滞納が1年以内に整理できるものとする。
(5) 原告は,本件建物の賃料を滞納するようになった訴外Aに対しては,平成3年1月20日から平成5年6月18日までの間,上記様式1ないし3の催告書等を11回にわたって送付するとともに,保証人である被告に対しても7回にわたって催告書を送付した。
一方,訴外Aは,平成5年6月7日に自己破産決定を受け,その後,免責決定も受けたが,原告に対しては,平成5年10月19日,納付誓約書を提出して未払賃料を分納することを約束し,その後,同約束に従ってこれを履行していた。
ところが,訴外Aが上記納付誓約書に記載された約束を概ね遵守して未払賃料の分納を続けていたにもかかわらず,原告担当者は,平成5年12月20日,過って被告に対して催告書を送付してしまったため,訴外Aは,平成6年1月,原告担当課に来てそのことを強く抗議し,原告担当者は,被告に対し,電話で謝罪した。
このことがあってから,原告は,内部的な申し送りとして,訴外Aに賃料滞納があっても,上記納付誓約書に記載された約束を概ね遵守して未払賃料の分納を続けている限りは,被告ら保証人に対しては催告書の送付を控える取り扱いとすることを取り決めた。
(6) ところが,訴外Aは,平成6年夏頃から,上記納付誓約書に記載された約束どおりの納付を滞るようになり,その後,新たな滞納分も加わって,平成11年8月25日現在の滞納額は53万7700円,平成12年8月14日現在の滞納額は59万4100円,平成13年9月3日現在の滞納額は99万0800円,平成14年8月7日現在の滞納額は129万3000円,平成15年8月20日現在の滞納額は172万3400円,平成16年12月20日現在の滞納額は226万7000円,平成17年11月17日現在の滞納額は265万3400円と増加した。
原告は,訴外Aに対しては,再三にわたって催告書を送付し,臨戸訪問等により本人と接触し,納付指導を行うなどし,更には,平成11年8月25日,平成12年8月14日及び平成17年9月5日には納付誓約書を提出させるなどしたが,被告に対しては,上記の内部的な申し送りの趣旨を後任者に正確に伝えなかったこともあってか,「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱(甲16)に反して,催告書を全く送付することなく,また,訴外Aの賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していた。
なお,この間の平成13年7月10日,訴外Aのもう1人の連帯保証人である訴外亡D(訴外Aの実父)は死亡した。
2 被告は,福山市営住宅等条例41条(2)において,家賃を3ヶ月以上滞納したときは「当該入居者に対し,当該市営住宅等の明渡しを請求することができる」と規定しているところから,本件建物賃貸借契約の連帯保証人の保証の本旨は3ヶ月を限度として保証しているものであって,入居者の賃料不払いを無制限に保証しているものではないと主張するので,まず,この点について検討する。
公営住宅法は,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものである(法1条)ことは上記判示のとおりであるから,そもそも,公営住宅の賃貸借において,住宅に困窮する低額所得者である賃借人の賃料未払いを担保するために,賃貸借契約締結の条件として連帯保証人を付することを要求することの正当性及び合理性自体に疑問があるところであり,本来,生活保護法における住宅扶助の制度と連動させるなどの法的整備が望まれるところであるが,公営住宅の賃貸借において賃貸借契約締結の条件として連帯保証人を付することを要求すること自体が違法であるとまで解することはできず,一方,連帯保証人を付することの効用としては,公営住宅の賃借人に対し,連帯保証人に迷惑を掛けてはいけないという道義心から賃料支払義務の確実な履行を促す効果が期待でき,また,公営住宅の賃借人が賃料を滞納した場合に,公営住宅の賃借人に対して連帯保証人から納付を促してもらうことによって,賃料支払義務の履行をより強力に促すことができるという効果が期待できるのであり,上記認定にかかる「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱」(甲16)も,滞納整理に関する行政機関の内部的な規範ではあるが,以上の趣旨に添うものとして評価できる。
以上の観点によれば,本件建物賃貸借契約における連帯保証人の保証責任の範囲として,入居者の賃料不払を無制限に保証していると解することは相当でなく,自ずから社会的相当性の認められる一定の範囲に限定されるべきものではあるが,その責任範囲についての明確な約定の存在しない本件において,福山市営住宅等条例41条(2)の規定のみを根拠として連帯保証人の保証の本旨は3ヶ月を限度とするものであると解することは必ずしも相当でなく,この点に関する被告の上記主張は直ちには採用できない。
3 しかしながら,公営住宅の賃貸借契約における連帯保証人の意義が上記判示のとおりであって,入居者の賃料不払いを無制限に保証していると解することは相当でないことは上記判示のとおりであるから,公営住宅が住宅に困窮する低所得者に対し低廉な家賃で賃貸し,市民生活の安定と社会福祉増進を目的としていることから,公営住宅の賃貸借契約に基づく賃料等の滞納があった場合の明渡等請求訴訟の提起に関して,その行政実務において,滞納額とこれについての賃借人の対応の誠実さなどを考慮して慎重に処理すること自体は相当且つ適切な処置であるとしても,そのことによって滞納賃料等の額が拡大した場合に,その損害の負担を安易に連帯保証人に転嫁することは許されず,明渡等請求訴訟の提起を猶予する等の処置をするに際しては,連帯保証人からの要望があった場合等の特段の事情のない限り,滞納額の増加の状況を連帯保証人に適宜通知して連帯保証人の負担が増えることの了解を求めるなど,連帯保証人に対しても相応の措置を講ずべきものであるということができる。
これを本件についてみるに,連帯保証人である被告に対する原告の催告状況は上記認定のとおりであって,賃借人である訴外Aが,平成6年夏頃から,納付誓約書に記載された約束どおりの納付を滞るようになり,その後,新たな滞納分も加わって,平成11年8月25日現在の滞納額は53万7700円,平成12年8月14日現在の滞納額は59万4100円,平成13年9月3日現在の滞納額は99万0800円,平成14年8月7日現在の滞納額は129万3000円,平成15年8月20日現在の滞納額は172万3400円,平成16年12月20日現在の滞納額は226万7000円,平成17年11月17日現在の滞納額は265万3400円と増加したにもかかわらず,被告に対しては,「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱」(甲16)に反して,平成5年12月20日に催告書を送付したのを最後に,平成18年10月11日に至るまで,催告書を全く送付することなく,また,訴外Aの賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していたものであり,原告には内部的な事務引継上の過失又は怠慢が存在するにもかかわらず,その責任を棚上げにする一方,民法上,連帯保証における責任範囲に限定のないことや,連帯債務における請求に絶対効が認められることなどから,被告に対する請求権が形骸的に存続していることを奇貨として,敢えて本件訴訟提起に及んでいるものであり,本件請求における請求額に対する被告の連帯保証人としての責任範囲等を検討するまでもなく,本件請求は権利の濫用として許されないものというべきである。
4 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所福山支部
裁 判 官 杉 本 正 樹
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(問) 東京の豊島区で2年前にマンションの賃貸借契約を結び、2か月後に契約更新をむかえます。管理会社から更新の手続の書類が送られてきましたが、その書類の中に「連帯保証人について、年金生活者は認められません。その場合は、弊社が指定する保証会社を保証人とする契約を結ぶことが契約更新の前提です」と記載されていました。父は今年定年で、年金生活者です。
管理会社がいうように保証人を保証会社にしなければならないのでしょうか。現在、派遣社員として働いているので、収入が安定していません。追い出しや取り立てが問題になっていると報道されている保証会社を出来れば使いたくありません。
(答) 最近、管理会社や不動産会社が更新に際して、様々な理由をつけて連帯保証人に変わって保証会社を押し付けてくる事例が増えています。しかし、更新に際して必ず連帯保証人をつけなければいけないという法的根拠はありません。年金生活者である父の代わりに保証会社をつけなければいけないという根拠はありませんので拒否することが大事です。そのために合意更新できないならば法定更新の方法もあります。賃貸契約上なんら問題がありません。
全国借地借家人新聞より
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(問) 3年前に、夫の友人が賃貸マンションを借りる時に、夫が連帯保証人になりました。ところが、管理会社から突然内容証明郵便で「3か月分の家賃が滞納されているので支払え」との督促状を受取りました。よく調べると、友人は3か月前から行方不明となっていることが判りました。夫は1年前に交通事故で死亡しており、この場合、妻である私が未払い家賃を全額支払わなければなりませんか。
(答) 賃貸マンションを契約するときの条件として、連帯保証人を付けることが通例となっています。連帯保証人の法定相続人のあなたは、民法432条の規定により、友人の滞納家賃を支払う義務があります。
また、行方不明の友人の賃貸契約が解約されるまでの家賃は、連帯保証人の法定相続人である妻のあなたへ支払義務が生じます。
そこで、あなたは、警察へ借主の「行方不明」届けを提出し、債務者の代理人として貸主へ①賃貸借契約の解約請求、または、②連帯保証人の辞退と③以後の未払家賃の支払いの意思がないことを内容証明郵便で通知しておくことが必要です。
なお、貸主は3か月前から友人が行方不明となっていることを知りながら、あなたへなんら事前の照会がなくて突然に支払の督促をしてきた場合は、貸主の催告の努力義務を怠ったことにより連帯保証責任を免れることも考えられます。いずれにしても、裁判所でその判断を委ねることになります。
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(問) 間もなく引越しをする予定です。賃貸マンションを借りる時、連帯保証人がいないので仲介業者が紹介した保証会社と委託契約を結ぶようにいわれましたが、どうしたら良いか、注意する点はありますか。
(答) 連帯保証人を付けることができない借家人が賃貸マンションを契約する場合、公的保証制度があれば、安心して契約を結ぶことができます。すでに、神奈川県川崎市では、高齢者が民間借家を借りる時、連帯保証人を付けることが不可能な場合、川崎市が連帯保証人となり高齢者の住まいを確保する支援制度があります。
このような地方自治体が連帯保証人を確保することが困難な市民に対して連帯保証人となる制度を確立することは歓迎されます。
最近、高齢者・外国人・青年などで連帯保証人になっていただける身内がいない、非正規雇用の増大などで会社や上司に保証人を頼むことが出来ないなどの事情で、保証会社を利用する人が増えています。
「保証会社の業務内容に対しては「宅建業法」上の規制はありません」(東京と都市整備局住宅政策推進部不動産業課)とされ、法的規制がないために賃料滞納の際には悪質な取立や借りている部屋への無断立入、施錠などをし、入居できないようにすることが出来る。貸主に代わって契約を解除する代理解除権を有するなど悪質な契約内容が多く存在します。
一部は消費者契約法に違反している契約書もありますので、契約をする際には十分内容を検討することが求められています。少しでも不明瞭な点がある場合は最寄りの組合へご相談ください。
全国借地借家人新聞より
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判例紹介
建物賃貸借が更新された場合に当初の保証契約の効力が更新後も存続するとされた事例 (東京地裁昭和62年1月29日判決、判例時報1259号68頁)
(事案)
家主Xは借家人Aに対しその所有するマンションを英語教室として使用する目的で、期間2年、賃貸借契約終了後はAの費用で原状に回復し居住用マンションとして明渡すこと等の約定で賃貸し、YがAの一切の債務について連帯保証人になった。
XとAは、その後賃料を改定し、その他の条件は従前のままとして、Yを加えることなく合意更新した。XとAはその後合意解約しAはXにマンションを明渡したが、Aには13カ月の賃料滞納があり、原状回復もしなかった。そこでXがAの保証人Yに滞納賃料と原状回復費用を請求した。
Yは当初のXとの保証契約は賃貸借の合意更新後には及ばない、家主X には借家人Aの賃料不払いを保証人に通知すべき信義則上義務があり通常考えられる程度の延滞額を超える請求は無効である、といてXの請求を争った。
(判例要旨)
建物賃貸借は期間満了後も存続するのが原則であること、保証人も継続的に保証するものであることを認識していた筈であること、保証人の債務もほぼ一定しており更新後の債務について保証の効力を認めても保証人に酷ではないこと、などからしてXY間連の連帯保証契約の効力は合意更新後にも存続する。また、賃貸人には賃借人の賃料不払を保証人に通知すべき信義則上の義務はなく、仮にXがYにAの賃料不払いを通知したとしてもAが弁済しない限りYは全額を支払わなければならない。
(短評)
民法619条2項には「前賃借につき当事者が担保を供したるときはその担保は期間の満了により消滅す。但し敷金はこの限りにあらず」とある。これをそのまま適用すれば、当初契約の際保証人(保証人のことを人的担保という)になった人は、その契約に定められた期間内の債務についてのみ責任があり、更新後は関係ないと言えそうである。
しかし、実際上は借家関係は更新により存続することが常識化されており、保証人も当然このことなどを理由に、借家権の続く限り保証責任も存続する、その考え方が判例上も支配的になっている。
この判例は、保証人の責任は法定更新のみならず合意更新の場合も同じであるとしたものである。
借家人には直接関係ない事例であるが(といっても保証人が支払えば借家人は保証人からの請求を免れ得ない)<保証人になるのは怖いですよ>ということを再認識するには好例と思い紹介する次第。
(1988.06.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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(問) 友人の息子Aのマンション入居時に保証人を頼まれ、連帯保証人になった。ところがAの家主から突然、1年分の滞納家賃と共益費の支払を求められたが、請求に応じなければならないのか。
(答) 入居時の契約でAの保証をしたが、その後家主から保証人に関する連絡などは何もなく、契約の更新にはノータッチであったという。このように保証人の自覚もない人間に対し、家主からの保証債務の履行請求は寝耳に水の事であり、その請求に不満を持つのは当然の気持ちである。
だが判例の傾向は保証人には厳しいものである。最高裁は原則として契約更新後についても保証人の責任を認めている。
その理由として賃貸契約は正当事由がない限り、更新拒絶が出来ないなど本来相当長期間の存続が予定されている。従って保証人も更新を前提とした賃貸借契約の存続を当然予測できる筈である。
また保証人の債務は賃料債務を中心とするので賃料額は特定されており、更新後といえども保証人の予期せぬ責任が一挙に発生することがない。
以上の理由から「特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責を負う趣旨で合意されたものと解するのが相当であり、保証人は賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れない」(最高裁平成9年11月13日判決)と判示した。
最高裁判決の原則から言えば、相談者は家主からの滞納家賃請求に応じなければならないことになる。
しかし最高裁は同判決で例外として
①更新後の債務について保証しないなどの期間満了後の保証責任について格別の定めがある場合、
②格別の定めがなくても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情がある場合、
③保証債務の履行を請求することが信義則に反する場合、
①~③に関しては責任義務がないとしている。
「特段の事情」がある場合は保証債務を免れることが出来るというが、どのような場合か。
「賃貸契約に2ヶ月の賃料の支払を怠った場合に無催告解除が出来るという特約があって、更新までにそれを上回る高額の延滞賃料が発生したにも関わらず、漫然と契約を解除しないで法定更新をして、このことによって延滞額が更に高額になった場合について、このような場合についてまで連帯保証人に責任を負わせることはできない」(東京地裁平成10年12月28日判決)。このような場合、「特段の事情」があり、保証債務の履行を請求することが信義則に反する例として挙げられる。
Aの家主は借主が家賃の滞納を繰り返し、延滞額が高額になっているにも拘らず、保証人に滞納の事実を連絡するなど、或は契約解除をするなどして保証人の損害を回避する努力をすべきであったが、徒に契約を更新していたため保証人の予想を超える高額家賃滞納になった「特段の事情」がある。
家主には保証人の損害を回避すべき義務があり、それを怠って損害を拡大した責任は重い。相談者の場合は家主が保証債務の履行を請求することが信義則に反する前記「例外」の③に該当するので、保証人の保証債務責任は認められないと思われる。
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判例紹介
本件は、借家人の債務を保証した者(保証人)が借家契約の更新後も保証人としての責任を免れないとされた事例である。(最高裁平成9年11月13日判決 判例タイムズ969号126頁)
(事件の概要)
X:原告(個人、Aの保証人)
Y:被告(賃貸人)
(関係人)
A:Xの実弟(賃借人)
Yは、昭和60年5月31日にXの実弟であるAに兵庫県内のマンションを賃貸した。賃貸借契約においては、期間が同年6月から2年間、賃料が月額26万円と定められた。その際、XはYに対し、Aが賃貸借契約に基づいて負担するすべての債務について連帯して保証することとなった。
YとAとの間の賃貸借契約においては、期間の定めに加えて「但し、必要あれば当事者合議の上、本契約を更新することも出来る」と規定されていた。Yは、賃貸借期間を家賃の更新期間と考えており、期間満了後も賃貸借関係を続けられることを予定していた。また、Xのほうは、保証契約締結当時にAが食品流通関係の仕事をしていて高額の収入があると認識していたことから、Aの支払い能力は心配していなかった。
AとYとの間の賃貸借契約は、3回にわたり更新された。すなわち、まず昭和62年6月ころ、期間を同年6月から2年間と定めて更新する旨が合意され、ついで平成元年8月に、期間を同年6月から2年間、賃料を月額31万円と定めて更新する旨が合意され、そして平成3年7月に、期間を同年6月から2年間、賃料を月額33万円と定めて更新する旨が合意された。
各回の更新の際に作成された契約書の連帯保証人欄には「前回に同じ」と記載されているにとどまり、Xによる署名押印がされていない。また、各更新の際にYからXに対してAの保証を続ける意思を確認する問い合わせがなされたことはなく、XがAに対して引き続き連帯保証人となることを明示して了承したこともなかった。
Aは、2回目の合意更新による期間中の賃料のうちの75万円と3回目の合意更新による期間中の賃料など759万円を支払わなかった。Yは、平成4年の7月中旬ころ、Aに対し賃貸借契約の更新を拒絶する旨を通知すると共に、平成5年6月に賃料不払いが続いている旨をXに連絡した。Aは、同月Yに対しマンションを明け渡した。
このような経過の後、XがYに対して保証人としての責任がないことを主張したのがこの事件の概要である。
(理由)
建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無に関わらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人が予期しないような保証責任が一挙に発生するようなことはない。
期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。
(解説)
保証人の責任は、保証契約に基づいて生ずるものであり、この保証契約は、保証人になろうとする者と債権者との間で結ばれる。この事件の保証契約は、賃借人が賃料などを支払わない場合には、保証人が不払いの債務を弁済する趣旨のものである。
銀行からの借り入れなどと異なり、賃料債務は一定期間ごとに定まった額で発生するものであるから、債務額の予測が容易であり、また建物の賃貸借は更新がなされることが少なくない。これらのことを考えると、この事件の判決が保証人の責任は更新後も残ると考えていることが原則であるとし、そのように考えたとしても保証人にとって過酷ではないとするところも一応理解することが出来る。
しかし、事例によっては長期に賃料滞納が続くなどして保証人の責任が予想外に大きくなり、保証人にとって過酷となることもなくはない。大審院の判例(後掲参考判例(1))においても、一定の要件の下に、保証人が将来に向けて保証契約を解除することを認めたものがある。
一定の要件とは、(1)保証期間の定めがないこと、(2)保証契約締結後相当の期間を経過したこと、(3)賃借人がしばしば賃料の支払いを怠り将来も誠実にその債務を履行する見込みがないか、あるいは、保証後賃借人の資産状態が著しく悪化し、それ以上保証を継続するとその後の分に対し将来求償権の実現がおぼつかなくなるおそれがあるか、もしくは、賃借人が継続して債務の履行を怠っているのに賃貸人が保証人にその事実を告知せず、また、遅滞の生ずるごとに保証債務の履行を求めず突如として一時に多額の延滞賃料の支払いを求め保証人を予期せぬ困惑に陥らしめる等の事態が生じたこと、(4)それにも関わらず賃貸人が賃貸借の解除、明渡請求等の処置を取ることなく依然として賃借人に使用収益をさせていること、である(副田隆重・判例タイムズ982号57頁)。
また、保証契約の解除を認めるところまではいかなくても、ある金額を超えた部分については保証人の責任が及ばないとする保証責任の限定を認めた裁判例もみられる(後掲参考判例(2))。
この事件の判決それ自体も、一般論としては、特別の事情がある場合に保証人に対する責任の追及が信義に反することとなる場合があることを認め、ただし、本件事件の具体的な処理においては、これを認めなかった。更新の経過などに鑑みれば、保証人の損害を回避すべき義務が賃貸人にあったとみる余地もあると思われる。
(参考判例)
(1)大審院 昭和8年4月6日 判決 民集12巻791頁
(2)東京地裁 昭和51年7月16日 判決 判例時報853号70頁
国民生活センターHPより
<参考> こちらで、今回と同じ最高裁の判例を扱っています。
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(問題1) 借家の連帯保証人の責任
友人の借家契約の保証人になったが、保証人に一度も連絡がないまま、友人が1年間滞納した賃料を督促されたが、支払わないといけないか。
●解答・解説は田見高秀弁護士(東借連常任弁護団)です。
(解答)
③全額は支払わず交渉する。ただ、①支払う義務があるとされる危険はある。
(解説)
東京・台東借地借家人組合1 「判例紹介」 参照
判例紹介
①賃料の自動改定の特約の効力を制限した事例 ②ビルの管理・修繕の不備を理由に賃料の減額を認めた事例 ③賃貸借契約の連帯保証契約の解約を認めた事例 (東京地裁平成9年1月31日判決、判例タイムズ952号220頁以下)
(事案)
Y①はXから飲食店経営の目的でビルの一室を賃借していた。このビルの管理状態が悪いため、建物の使用に一部支障を来たす状況であった。Y①は、これを理由に賃料の減額請求をした。この店舗の契約には3年毎に家賃を15%増額する特約があったため、XとY①間で紛争となり、Y①は家賃の支払を一部拒絶した。
Xはこれに対し、契約解除の通知をし、Y①に対し店舗の明渡しを求め、Y①とその連帯保証人Y②に対し、未払い金及び損害金の支払を求めた事案。
判決はXの一部勝訴(建物の明渡し、減額賃料の支払を認容。Y②に対する請求棄却)。
(判旨)
①「賃料を一定年数毎に定率で自動的に増額する条項は、相手側からそれによるのを不相当とすると特段の事情の存在に関する主張、立証のない場合を除き、一定年数経過時に約定どおり賃料を自動的に増額させる趣旨の契約であると解すべきであり、また、その反面として、相手方から、その条項による賃料の増額を不相当とする特別の事情の主張、立証があった場合には、その条項の効力は失われるものと解すべきものである」
②「本件店舗については、少なくても昭和63年5月以降、貸主に求められる管理、修繕の義務を尽くしたものとは認めがたく、これによる本件店舗の使用上の不都合は重大なものがあり、本件店舗は、本件賃貸借契約が想定した通常の賃貸店舗からみて、少なくともその効用の25%が失われていたものと認めるべきである。従って、本件店舗の賃料は平成元年10月内にXに到着したY①の意思表示により、同年11月分以降、約定賃料を25%減じた額……に減額されたものと認めるのが相当である」
③「このようなXの姿勢によるXとY①との間の本件店舗の明渡しをめぐる紛争の長期化は、Y②の予期しないところであり、……のような事情からY①の連帯保証人となったY②に対し、平成8年3月6日以降になっても、なおY①の明渡し遅滞による責を負わせるのは酷に失し、正義の観念に反する。従ってY②については、信義則上右時点で解約を認め、Y①の連帯保証人としての地位から離脱を認めるべきである」
(評論)
①の判旨は、定率自動改定条項の効力について、有効性を認めつつ特段の事情による効力の否定を認めるもので同種の特約の解釈について参考になる判例といえる。
②については、法律的に特別な意味はないが、修繕義務を尽くさない貸主に対し、減額請求で争うこともあり得るのであえて紹介した。
③については、貸主側の不誠実な態度が紛争の要因となっている特別の場合には、信義則による連帯保証契約の特別解約権を認めた事例である。
(1998.6.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
(参考)
最高裁の判例に「更新後も連帯保証人は借主の債務保証義務がある」という連帯保証人に苛酷な責任義務を負わせる判例がある。最高裁判決とは逆に特段の事情がある場合は債務保証義務を負わないという東京地裁判決もある。
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(問題17) 連帯保証人に代わる賃貸保証委託契約の解除
連帯保証人がいないので連帯保証会社に保証料を支払って契約した。2年の契約期間が満了し、不動産会社から賃貸保証委託契約を再度結ぶように要求されたが、委託契約を解除できるか。更新保証料を支払わないと、賃貸借契約は解除されるとの特約が記載されている。
(①解除できる。 ②解除できない。)
●解答・解説は田見高秀弁護士(東借連常任弁護団)です。
解答は以下の解説で
1,資料として貰った「日本セーフティー株式会社」の委託契約書の第2条に次の約定があります。「2 賃借人は保証期間の満了日までに保証会社の指定する期間内において,上記規定の更新保証料を支払わなければならない。その場合の保証期間は上記更新期間で更新するものとし,以後の保証期間の満了日においても同様とする。賃借人が更新保証料を支払わない場合は,本契約及び本賃貸借契約を解除したものとみなし上記保証物件を明渡しするものとする。」。下線の部分の特約が問題です。
2,同じ契約書の第5条に「4 賃借人は保証会社に対し本賃貸借契約解約を申し出る行為,または賃貸人からの本賃貸借契約解除を承諾する行為を委託するものとする」とあります。これを解除代理権の付与といいます。
3,賃借人が,賃料を延滞したり,保証会社に更新保証料を払わなかったりすると,保証会社が賃借人を代理して賃貸借を解除すると賃貸人に通告してしまい,賃借人は物件を明け渡さなくてはならない(追い出される),という訳です。
4,賃借人が更新保証料は高いので今度は身内・友人を保証人にして更新したと希望すると,借り続ける意思(や賃料支払いの事実)自体はあるのに,更新保証料を支払わないというだけで,借家権を失う。かような特約は,民法90条(公序良俗)に反する,あるいは消費者契約法違反として,無効とすべきではないかと思います。判例はまだないようです。
5,根本的に,賃借人に原賃貸借契約違反(賃料延滞等)があった場合,賃借人の代理で保証会社が賃貸人に対して原賃貸借契約を解除できるということ自体に問題があります。さらに,保証会社の契約書は,この代理解除権を前提に,契約違反のあるときに,①無断立ち入り権,②物件使用の一時禁止(施錠),③部屋の中の家財の処分権,等を規定していますが,賃貸人がやれば自力救済として違法となるこれらのことが,保証会社だからできるという法はあり得ません。
6,消費者契約法が改正され,消費者契約法違反の約款を以て事業している事業者に対し,認定適格消費者団体(日本消団連も認定団体となった)から,「消費者契約法違反の条項を含んだ契約の締結の差し止め命令」を請求できるようになりました。賃貸保証委託契約は,この一つの適用事例となるかもしれません。
(関連)連帯保証人サービスに関してはこちらも参考にして下さい。
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判例紹介
期間の定めのある建物賃貸借契約の更新と保証人の責任 (最高裁第一小法廷平成9年11月13日判決。判例タイムズ969号126頁以下)
(事実)
建物の賃借人の連帯保証人が、賃貸人に対して、合意更新された契約には民法619条2項により連帯保証の効力が消滅した。
仮にそうでなくても、長期にわたる賃借人の賃料未払いの事実を連帯保証人に通知することもなく合意更新したうえ、未払賃料を連帯保証人に対して請求することは信義誠実の原則に反するとして、連帯保証債務の不存在確認を求めていた事案。連帯保証人の上告棄却。
(判旨)
「期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責を負う趣旨で合意されたものと解するのが相当であり、保証人は賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである」。
(寸評)
世上、よく生じる保証人の責任のうち、建物賃貸借契約の保証人の責任に関する最高裁の判断として実務に与える影響は大きい。
本件の第一審は、更新前後の契約間には法的同一性がないとして更新後の保証人の責任を否定した。学説上もこの立場を採る有力説があるが、裁判の実務上の大勢は、最高裁の判断と軌を一にしているようで、学説上の通説でもある。
本件は、期間の定めのある建物の賃貸借に関するものであり、土地賃貸借契約の更新の場合には別異に解釈される余地は充分にあり、それが相当といえる。
評者は、この最高裁判決には批判的である。保証意識の推測として、当然に法定更新を前提とするのは保証人に酷である。
(1998.11.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
こちらの「判例紹介」は、最高裁の判断とは逆に借家人の保証人は法定更新後の債務を負わなくてもよいという事例。合意更新と法定更新の違いがあるが、参考になるので参照して見て下さい。
<参考> 今回と同じ最高裁の判例を「国民生活センターHP」で扱っているので再録しました。こちらを参照。
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判例紹介
建物賃借人の保証人が法定更新後の賃借人の債務を負わなくてよいとされた事例 (東京地裁平成10年12月28日判決、判例時報1672号)
(事案)
(1)賃貸人Xは、Aに対し、約20年前に建物を賃貸し、YはAの連帯保証人になった。
(2)XとAの間の賃貸借契約は逐次合意更新され、その都度Yは賃貸借契約に連帯保証人として署名捺印してきた。
(3)平成6年2月、Aが賃料等を240万円滞納したので、Xは契約を解除し、AとYに建物明渡と未払賃料の支払を求める訴えを提起したが、訴訟外で和解が成立し、新たに期間を平成6年4月1日から2年間、賃料月額26万円、滞納が2ヵ月分に達したときは無催告で解除できる等の約定で賃貸借契約を結び、Yが連帯保証人になった。
(4)平成8年3月の更新時には約200万円の延滞があったがYが全額精算したためXは契約を解除せず、契約は法定更新された。
(5)Aはその後また延滞し、それが400万円を超えるまでになったので、Xは契約を解除し、Yにその支払を求める訴えを提起した。
(判旨)
(1)XはYに対し右法定更新の経緯やその後の賃料滞納について直ちに知らせず、また連帯保証人への就任も依頼しなかったが、その理由は、Yが連帯保証人辞任の意向を有していることをXは承知しており、従前の経緯からしてそれもやむを得ないと考えていたからであった。
(2)Aは、前件訴訟の際にも約240万円もの賃料を延滞していたものであり、それゆえ、本件賃貸借契約には賃料の滞納が2ヵ月分に達したときは無催告解除しうる旨の特約が付されていた。しかるに、本件法定更新時には延滞額が200万円にも及んだが解除されず、X自身ですら更新に消極的であったがそのまま法定更新されたものであり、さらに、Aの賃料延滞は更新後もおさまらず、最終的には400万円を超えるまでになり本件訴訟が提起されたというのであって、右のような事態が、本件連帯保証契約の当時、契約当事者間において予想されていたものであったとはいい難い。
(3)以上の諸点を総合すれば、Yにおいて本件更新後は保証責任を負わないと信じたのも無理からぬことであったということができ、Aが本件更新後に負担した賃料等の債務については保証責任を負わない特段の事情があったものと解するのが相当である。
(寸評)
結論は極めて妥当である。 ご承知のように、建物賃貸借契約の保証人は、特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても責任を負うというのが判例の立場である。問題はこの「特段の事情」とは何かであるが、本件はその具体的事例として意味がある。
(2000.04.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
2006年7月25日の「判例紹介」は、合意更新の場合であるが、今回とは逆の判断をしている最高裁判決である。
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