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【Q&A】 借家の更新時に火災保険への加入を言われたが必要があるのか

2012年02月24日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 (問) 私は、2年前に、文化住宅に入居し、今年4月に契約更新を迎えます。家主の代理人を名乗る者から、「火災保険料を負担して火災保険を掛けること」を契約更新の条件にしたいとの申入れがありました。契約書を見ると、火災保険については何もふれられておりおりませんでしたので、断りたいと思っています。万一火災が発生したらどうしたらよいのでしょうか。


 (答) 契約更新は、当事者間で契約条件を変更することを合意して契約書を新たに結ぶ「合意更新」と契約条件を変更せずに、自動的に契約が更新される「法定更新」があります。

 家主が契約を拒絶した時は、「正当な事由」が必要であり、最終的に裁判所の判断で決まります。

 お問い合わせの例では、借主が火災保険を新たに掛けることを条件にして契約を更新することは、借主の同意が必要であり、借主が拒否してもその他の正当な事由がない限り、法定更新されます。

 家屋本体の火災保険は、貸主が負担して加入することであり、借主が火災保険を掛ける場合は家財道具など借主が万一火災による被災の補填です。

 借主が、自らの家財道具などに自己負担で火災保険に加入するかどうかは借主の判断です。

 なお、借主の火元で火災が発生しても、「失火に関する関する法律」によって借主の放火など社会通念に反する原因でない限り、類焼者へ損害賠償に応ずる必要はありません。

 

大借連新聞より


 以下の記述は、東京・台東借地借家人組合

 「失火ノ責任ニ関スル法律」では、「民法709条ノ規定ハ失火ノ場合ニ適用セス但シ失火者ニ重大ナ過失アリタルトキハ此ノ限リニアラス」。失火者に重過失がない限り、損害賠償を請求することが出来ないと規定されている。即ち、火災が単なる過失の場合は失火者の責任を免除している。重過失の場合だけ失火者に責任を負わせている。

 しかし、家主に対する関係においては、債務不履行上の賠償責任が生じる。借家人は借用建物又は部屋を善良な管理者の注意をもって保管する義務があり、また借用期間が満了となった際に借用建物を原状回復して返還する義務がある。

 従って、借家人の過失によって火災・爆発などの事故が生じ、家主の建物に損害が生じたときは、借家人は家主に対し借用建物返還義務が履行不能になることによる損害賠償責任を負わねばならない。

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地主が相続対策で底地を地上げ屋に売却 (東京・足立区)

2012年02月22日 | 地上げ・借地権(底地)売買

 足立区東和で昭和55年から30坪を借地しているAさんは昨年12月に入って、N社の社員2名が突然訪ねてきた。その社員は以下のような地主からの文書を置いて帰った。

 「今後につきましては、賃貸料及びその他一切のことに関しましてはN社とお打合せ頂きたい。地主という立場で借地権付の土地を生涯に渡り保有していくことに少なからず不安を抱いていたこともあり、将来に向けての相続対策等を考慮し検討した上で、この度売却に至った次第です」との内容の文書であった。

 2日後、再び訪ねてきた2名は家に入って来るなりわめき始めた。何の連絡もないという理由で謝っても止めず、恐ろしくなり近所の役員に電話して来て貰い、数十分の押し問答の末、社員はようやく帰った。その日のうちに組合から社員に電話し、12月中旬に組合事務所に来て貰い、今後は組合が窓口になるので駒場さん宅には行かない約束を取り付けた。

 平成24年1月中旬組合事務所で交渉に臨み、借地権売却で話をしたい旨を伝え、売却額を提示したが合意には至らず、念のため社員には合意に至らない場合には借地を続けていく旨を告げておく。

 

東京借地借家人新聞より

 

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地主に借地権を売却 (東京・大田区)

2012年02月21日 | 地上げ・借地権(底地)売買

 大田区本羽田地域の借地約80坪で工場を営むAさんは、更新料と地代の増額を請求されて、知人の紹介にて組合に入会した。

 更新料不払いと地代増額請求を拒否し、地代の供託をして1年余経過した。ところが、長期不況で仕事は減り、経営は深刻で先の見通しはなく、非住宅用地のため地代は高額で日々の生活にも影響及ぼす状況となり、借地権の売却を検討した。

 しかし、敷地が80坪と広く、分割しての第三者への売却は、土地の測量に建替えと売却の承諾と経費が高く、採算が合わないことを確認。これまでのわだかまりを捨てて地主に働きかけることにした。

 地主との話し合いは時間がかかったが、第三者への売却の経費を考慮すると満足できる価格で合意した。

 

東京借地借家人新聞より

 

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更新料支払拒否で地主が調停の申立て (東京・豊島区)

2012年02月20日 | 更新料(借地)

 豊島区大塚に住むAさんは親の代から借地して住んでいた。昨年の8月に更新の時期を迎えると、地主は近隣の借地人から更新料を受領しているという理由と前回更新料を支払っているので事実たる慣習があるとして更新料の請求をしてきた。Aさんは、知人に相談したところ借地借家人組合があることを知って相談に来た。

 組合では、更新料支払の慣習を否定した昭和52年の最高裁の判決(註1)や更新料支払特約がある契約でも法定更新した場合は支払い義務がないとした東京高裁の判決(註2)、そして2011年の更新料支払請求をされた裁判で、たとえ更新料支払特約があったとしても裁判所がその金額を特定できる明確な合意がなければ請求できないとした判例(註3)などを説明した。

 その上で、地主に対し更新料支払の特約がない契約で更新料を支払わなければいけない法的根拠とその算出根拠を示すように回答したところ、年末に地主は調停の申し立てを行ってきた。Aさんは、更新料の支払いには一切応じないという強い決意で調停に臨むことにした。

 

東京借地借家人新聞より


以下は東京・台東借地借家人組合の記述

(註1) 更新料支払の慣習を否定した昭和52年の最高裁の判決は存在しない。更新料支払の慣習を否定した最高裁昭和51年10月1日判決<資料1(19頁)>及び最高裁昭和53年1月24日判決<資料2(21頁)>は存在する。「借地・借家 更新料について」<500円>(東京借地借家人組合連合会) 参照。
 【判例】 *更新料支払の慣習を否定し、更新料支払義務なしとした最高裁昭和51年10月1日判決 (1)

 【判例】 *更新料支払の慣習を否定し、更新料支払義務なしとした最高裁昭和53年1月24日判決 (2)

(註2) 更新料支払特約がある契約でも法定更新した場合は支払い義務がないとした①東京高裁56年7月15日判決<資料4(28頁)>。及び②最高裁昭和57年4月15日判決<資料3(26頁)>「借地・借家 更新料について」<500円> 参照。

 ①【判例紹介】 (借家) 更新料支払特約があっても法定更新された場合は更新料の支払義務がない

 ②【判例】 *(借家) 更新料支払特約があっも法定更新した場合には更新料の支払義務が無い(最高裁判決)

(註3) 【判例紹介】 更新料支払請求権は客観的に金額を算出できる具体的基準が必要とされた事例

 

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【判例紹介】 *賃料増額請求を受けた借地人は相当と判断する金額の地代を払えばよい

2012年02月16日 | 地代の減額(増額)

判例紹介


 地主から賃料増額請求を受けた借地人が相当と考える地代を供託していたが、その地代額が後に裁判所で確認された相当賃料より低い額だったとしても債務不履行(契約違反)とならないとした事例 
最高裁平成5年2月18日判決、平成2年(オ)第1444号)。


【事案の概要】
 借地人は昭和45年に本件土地を地代6760円で賃借した。地主は昭和57年に3万6052円に、昭和61年に4万8821円に、それぞれ地代増額請求をした。

 借地人は6760円を支払おうとしたが地主が受領を拒否したので、昭和59年6月まで6760円、昭和62年6月まで1万0140円、昭和62年7月以降2万3000円を供託した。

 地主は借地人が請求どおりの地代を支払わないため昭和62年7月に支払いを催告し、支払わなければ賃貸借契約を解除する旨通知したが、借地人が応じなかったため土地明け渡しを求める訴訟を提起した。1審、2審とも地主の土地明け渡し請求を認めた。


【判旨】 2審(大阪高裁)判決取消し、地主の請求棄却。

(1)借地人が相当と考える地代を供託しているので、賃貸借契約解除の理由となる債務不履行(契約違反)はない。

(2)借地人が固定資産税等、本件土地の公租公課の額を知りながら、それを下回る額を供託している場合は、その額は著しく不相当であり債務不履行(契約違反)ともなりうる。

(3)借地人が供託した額は公租公課の額を上回っているから、本件土地の地代が隣地の地代に比べてはるかに低額であると知っていても債務不履行(契約違反)とはならない。


【寸評】
 借地借家法11条2項(旧借地法12条2項)は地代が「近傍類似の土地の地代等に比較して不相当」となったときは地代の増額または減額請求ができると定め(減額請求しないとの特約は無効)、同条3項は増額について地主と借地人の協議が調わないときは、借地人は裁判で増額が決まるまでは「相当と認める額の地代」を払えば足りると定めている。

 本件は「相当」の判断は借地人が相当と考える額でよいとする一方、その額が公租公課を下回る額であることを知っていた場合は借地人が相当と考えていても債務不履行(契約違反)となるとしたものである(註1)。

 なお、借地人が相当と考える地代に減額請求しても、地主は相当と考える地代を請求できる(借地借家法11条3項)ので注意されたい(註2)。

 

(2012.02.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


 以下の記述は、東京・台東借地借家人組合

註1) 【判例紹介】 *賃料増額を拒否し支払額が税額以下と知っていた時は相当賃料に当らない (最高裁平成8年7月12日判決


註2) 【判例紹介】 家賃減額を請求した場合に裁判確定前の家賃額は従前と同額とした事例

     【判例紹介】 一方的に減額賃料を支払った借家人が賃料不払で契約解除された事例

     【判例紹介】 賃料減額で従前を下回る賃料を支払い続けが、契約解除が認められなかった事例

 

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【判例】 土地明渡請求事件 (東京高裁平成23年12月21日判決)

2012年02月09日 | 土地明渡(借地)

判例

平成23年12月21日判決言渡

平成23年(ネ)第5187号建物収去土地明渡請求事件(原審・東京地方裁判所平成22年(ワ)第31274号)

 

 

                    主      文

 1 本件控訴を棄却する。

 2 訴訟費用は控訴人の負担とする。

 

                    事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
  1 原判決を取り消す。

  2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載2の建物(木造瓦葺2階建、1階34.54㎡・2階14.87㎡)を収去して同目録記載1の土地(宅地・42.075㎡)を明け渡せ。

  3 被控訴人(賃借人)は、控訴人(賃貸人)に対し、平成22年9月12日から前項の土地の明渡済みまで1か月金2万5500円の割による金員を支払え。

第2 事案の概要
  1 本件は、控訴人が、建物所有目的で被控訴人に賃貸している控訴人所有土地につき、 被控訴人の無断増改築禁止特約違反を理由に賃貸借契約を解除したとして、被控訴人に対し、賃貸借契約の終了に基づき、地上建物の収去土地明渡しを求めた事案である。

  2 原判決は、控訴人の請求を棄却したので、控訴人が控訴をして、上記第1のとおりの判決を求めた。

 
 1 請求原因
  (1) A(賃貸人)は、B(賃借人)に対し、昭和47年9月13日、目的を普通建物所有とし、賃借人が建物を改築又は増築するときは賃貸人の承諾を要するとの特約(無断増改築禁止特約)を付して別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を賃貸し、そのころ、引き渡した。

  (2) 原告は、昭和55年9月9日、Aから、本件土地の賃貸人たる地位を相続した。

  (3) 被告は、昭和59年7月25日、Bから、本件と地上の別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を買い受け、現在まで所有している。

  (4) 原告(控訴人)は、被告(被控訴人)に対し、昭和59年7月25日、普通建物所有目的、賃料月額6758円との約定で本件土地を賃貸し、その頃、引き渡したが、同契約にも、無断増改築禁止特約が付されていた(以下、原告・被告間の本件と地に係る賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。

 仮に、原告と被告との間で賃貸借契約を締結した事実が認められないとしても、本件建物をBから譲り受けた際、本件土地の賃借人の地位も併せて譲り受け、その権利義務を承継した。

  (5) 被告は、平成19年2月頃、本件建物の外壁を取り替え、ベランダを新設するなどの増改築工事をした。

  (6) 原告は、被告に対し、平成19年6月9日、無断増改築禁止特約違反等の債務不履行により本件賃貸借契約を解除との意思表示をした。

  (7) 本件土地の使用損害金は、1か月当たり2万5500円(1坪当たり2000円)を下回らない。

  (8) よって、原告は、被告に対し、本件賃貸借契約締結の終了に基づき、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めるとともに、契約終了の後である平成22年9月12日から本件土地の明渡済みまで1か月2万5500円の割合による使用損害金の支払を求める。


 2 請求原因に対する否認
  (1) 請求原因(1)ないし同(3)は認める。

  (2) 同(4)のうち、被告(被控訴人)が、原告(控訴人)から、本件土地を賃借したことは認めるが、無断増改築禁止特約の定めがあったことは否認する。その余の契約内容については記憶していない。被告がBから賃借人の地位を譲り受け、その権利義務を承継したとの主張は争う。

  (3) 同(5)のうち、被告が外壁及びベランダの工事を実施したことは認めるが、その時期・内容は以下のとおりである。

     被告は、本件建物の外観及び使用上の便宜を改善するため、平成10年頃に外壁にサイディングボードを貼り付け、平成13年頃に既存の木製ベランダをアルミ製に替えたが、これらは躯体変更を伴わない補修改良工事であるから増改築に当たらない。

  (4) 同(6)は認め、その効果は争う。

  (5) 同(7)は争う。


 3 抗弁 (信頼関係不破壊)
   被告が平成13年ころまでに美観改善等の目的でした補修工事により本件建物の存続期間が伸張されたとはいえない上、原告は近隣に住みながら10年近く異議を述べなかったから、信頼関係破壊と認めるに足りない事情がある。なお、被告は、原告からの更新料の支払い請求を拒絶したが、そもそも更新料の支払義務がないから、信頼関係破壊を認める事情とはならない。


 4 抗弁に対する認否
   否認し争う。

   被告は、平成19年2月ころ、朽廃状態にあった本件建物に新築にも等しい増改築をしてその存続期間を著しく伸張させた。また、被告は、原告が平成16年7月ころまでに1坪当たり15万円の更新料を請求したにもかかわらず、近隣の原告所有地の他の借地人らと異なり更新料の支払を拒否した。したがって、被告と原告との信頼関係は破壊されている。


第3 当裁判所の判断

 1 請求原因(無断増改築禁止特約違反に基づく債務不履行解除)について
  (1) 請求原因(1)ないし同(3)は当事者間に争いがない。

  (2) 証拠(甲13、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(4)の事実のうち、原告(控訴人)と被告(被控訴人)との間で昭和59年7月25日、本件土地の賃貸借契約が締結され、その頃引渡された事実が認められる。

  (3) 請求原因(4)の事実のうち、無断増改築禁止特約の存否について検討するに、同特約を定めた契約書は証拠として提出されていない。

 しかし、後記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、AはBに本件土地を賃貸する際、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を使用したこと(甲3)、A及びその相続人である原告は、本件土地以外の土地の借地人との間でも、それぞれ昭和51年と平成元年に、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を用いて土地賃貸借契約を締結していたこと(甲4の1、4の2)、原告本人は本件賃貸借契約締結時に同様の契約書を作成した旨陳述し(甲13)、被告本人は契約締結自体を認めつつ契約書を作成したか覚えていないと陳述するにとどまること(乙3)などを総合すると、原告と被告との間で、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を利用して本件賃貸借契約を締結し同特約を定めたものと認めることができる。

  (4) 請求原因(5) (無断増改築禁止特約違反の有無)について検討するに、証拠(後記のほか、甲5に1、5の2、12の11、ないし12の14、乙2、3、)及び弁論の全趣旨によれば、①本件建物は昭和22年ころに建築された木造瓦葺2階建ての建物であること(甲2の1ないし2の3)、②被告が、平成10年5月ころ、本件建物の外壁全体にサイディングボードを貼り付けたこと(乙1。以下「本件外壁工事」という。)、③被告が、平成13年ころ、本件建物玄関上側にアルミ製ベランダを取り付けたこと(以下「本件ベランダ工事」といい、本件外壁工事と併せて「本件各工事ともいう。)は認められる。原告本人は、被告が平成19年2月ころに外壁の取替え及びベランダの新設を含む増改築工事をしたとの陳述書(甲13)を提出するが、工事時期及び内容を裏付ける客観的証拠はなく、被告本人が古くなった既存の木製ベランダをアルミ製に取り替えたに過ぎないと陳述していること(乙3)などに照らし、上記認定を左右しない。

 また、無断増改築禁止特約は、借地人が目的の範囲内で借地上の所有建物を保存改良する自由を制限するものであり、具体的な根拠がないにもかかわらず、同特約を「増築又は改築」以外の大修繕等に拡大解釈することは許されないというべきである。本件各工事は、上記方法・程度に照らせば、比較的大規模な修繕改良工事とはいえるとしても直ちに増築(床面積の増加)とも改築(建替え・建直し)とも認めらず、無断増改築禁止特約違反自体を認めるに足りない。

  (5) したがって、その余について判断するまでもなく、請求原因には理由がないことになる。


 2 抗弁 (信頼関係不破壊)について
  (1) なお、念のため、仮に本件各工事が特約にいう増改築にあたるとした場合の抗弁の成否についても検討する。無断増改築がされた場合でも、借地人の土地の通常の利用上相当であり、賃貸人に著しい影響を及ぼさないなど、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が無断増改築禁止特約に基づき解除権を行使することは許されないと解される(最高裁昭和41年4月21日判決・民集20巻4号720頁参照)。

  (2) 前記のとおり、本件各工事は、外壁にサイディングボードを貼り付け、ベランダをアルミ製化するもので、本件建物の美観のみならずその効用を維持改善するものとはいえるが、本件建物の躯体自体に変更を加えるものではなく、本件建物の耐用年数への影響の有無・程度を認めるに足りる証拠もなく、借地人の土地の通常の利用上相当の範囲を超えるものではないと認められる。これに加え、本件各工事が平成19年2月ころまで問題とされなかったことも考慮に入れると、本件各工事がされたことによっても信頼関係が破壊されたとは認められないというべきである(もっとも、本件各工事が実施されたのが、原告(控訴人)主張のとおり、平成19年2月に接近した時期であったと仮定しても、上でみた本件各工事の内容に鑑みれば、上記結論を左右しないというべきである。)。

  (3) これに対し、原告は、本件建物は本件各工事がなければ朽廃状態にあったと主張する。確かに、本件建物に隣接し、ほぼ同時期に建設された隣接については、平成10年12月当時、既に相当程度老朽化した状態にあったことがうかがえる(甲9の1・2、甲10、11)。しかし、建物の耐用年数は管理・保存の状況等によって相当程度異なり得るところであり、隣接建物についても、平成10年12月の時点で、敷地の地代が支払われていないなど、管理が相当期間おろそかにされていた状況がうかがえる(甲11)ことに加え、その老朽化の程度が顕著であることを示す甲12の1から12の10までの写真にしても、平成22年9月時点のものであり、平成10年12月から更に長期間放置された後の状況を表しているにすぎない(隣接建物敷地の賃貸借契約は、平成11年3月に合意解除され、同建物は、地主である控訴人において速やかに解体撤去するものとされている(甲11)。したがって、被告(被控訴人)らが居住し、通常の使用を続ける本件建物(乙3、弁論の全趣旨)について、本格工事を実施しなかった場合、隣接建物と同様の老朽化・朽廃状態に至っていたなどといえるものではない。

 また、原告の主張どおり、被告が原告から本件賃貸借契約の更新時期である平成16年7月ころまでに更新料の請求を受けながらその支払を拒絶したことは認められる(甲13、乙3)。しかし、本件全証拠によるも、本件賃貸借契約上の更新料支払義務を根拠づける原告と被告との間の合意又は事実たる慣習を認めるに足りず、更新料の支払拒絶は信頼関係破壊を基礎づける事情とならない。その他原告の主張は上記認定を左右するものではない。

  (4) したがって、仮に本件各工事を特約所定の増改築とみる余地があるとしても抗弁が成立し、いずれにしろ無断増改築禁止特約違反を理由とする本件賃貸借契約の解除には理由がない。


第4 結論
    よって、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。


                        東京高等裁判所第23民事部

                裁判長裁判官      鈴木 健太

                     裁判官      吉田  徹

                     裁判官      中村 さとみ

 

 

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【判例】 土地明渡請求事件 (東京地裁平成23年6月29日判決)

2012年02月08日 | 土地明渡(借地)

判例

平成23年6月29日判決言渡

平成22年(ワ)第31274号 建物収去土地明渡請求事件

 

                    主      文

 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

                    事実及び理由

第1 請求
 1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載2の建物(木造瓦葺2階建、1階34.54㎡・2階14.87㎡)を収去して別紙物件目録1の土地(宅地・42.075㎡)を明け渡せ。

 2 被告は、原告に対し、平成22年9月12日から第1項の建物明渡済みまで1か月金2万5500円の割による金員を支払え。


第2 当事者の主張

 1 請求原因
  (1) A(賃貸人)は、B(賃借人)に対し、昭和47年9月13日、目的を普通建物所有とし、賃借人が建物を改築又は増築するときは賃貸人の承諾を要するとの特約(無断増改築禁止特約)を付して別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を賃貸し、そのころ、引き渡した。

  (2) 原告は、昭和55年9月9日、Aから、本件土地の賃貸人たる地位を相続した。

  (3) 被告は、昭和59年7月25日、Bから、本件と地上の別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を買い受け、現在まで所有している。

  (4) 原告は、被告に対し、昭和59年7月25日、本件土地を賃料月額6758円で賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)、そのころ、引き渡した。

  (5) 無断増改築禁止特約違反
    ア 原告と被告は、本件賃貸借契約締結の際、無断増改築禁止特約を合意し、又は、AとBとの間の無断増改築禁止特約を承継した。

    イ 被告は、平成19年2月ころ、本件建物につき、外壁を取り替え、ベランダを新設するなどの増改築工事をした。

  (6) 原告は、被告に対し、平成19年6月9日、無断増改築禁止特約違反等の債務不履行により本件賃貸借契約を解除との意思表示をした。

  (7) 本件土地の使用損害金は、1か月当たり2万5500円(1坪当たり2000円)を下回らない。

  (8) よって、原告は、被告に対し、本件賃貸借契約締結の終了に基づき、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めるとともに、本件土地の明渡済みまで1か月2万5500円の割合による使用損害金の支払を求める。


 2 請求原因に対する否認
  (1) 請求原因(1)ないし同(3)は認める。

  (2) 同(4)は知らない。

  (3) 同(5)ア及び同イは否認し、争う。 

     被告が、無断増改築禁止特約に合意したことはない。また、被告は、本件建物の美観及び使用上の便宜を改善するため、平成10年ころに外壁にサイディングボードを貼り付け、平成13年ころに既存の木製ベランダをアルミ製に替えるなど、躯体変更を伴わない補修改良工事をしたにすぎない。

  (4) 同(6)は認め、その効果は争う。

  (5) 同(7)は争う。


 3 抗弁 (信頼関係不破壊)
   被告が平成13年ころまでに美観改善等の目的でした補修工事により本件建物の存続期間が伸張されたとはいえない上、原告は近隣に住みながら10年近く異議を述べなかったから、信頼関係破壊と認めるに足りない事情がある。なお、被告は、原告からの更新料の支払い請求を拒絶したが、そもそも更新料の支払義務がないから、信頼関係破壊を認める事情とはならない。


 4 抗弁に対する認否
   否認し、争う。

   被告は、平成19年2月ころ、朽廃状態にあった本件建物に新築にも等しい増改築をしてその存続期間を著しく伸張させた。また、被告は、原告が平成16年7月ころまでに1坪当たり15万円の更新料を請求したにもかかわらず、近隣の原告所有地の他の借地人らと異なり更新料の支払を拒絶した。したがって、被告と原告との信頼関係は破壊されている。


第3 当裁判所の判断

 1 請求原因(無断増改築禁止特約違反に基づく債務不履行解除)について

  (1) 請求原因(1)ないし同(3)は当事者間に争いがない。

  (2) 証拠(甲13、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(4)の事実が認められる。

  (3) 請求原因(5)ア (無断増改築禁止特約の存否)について検討するに、本件賃貸借契約締結時の契約書自体は証拠として提出されていない。

     しかし、後記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、AはBに本件土地を賃貸する際、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を使用したこと(甲3)、A及びその相続人である原告は、本件土地以外の土地の借地人との間でも、それぞれ昭和51年と平成元年に、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を用いて土地賃貸借契約を締結していたこと(甲4の1、4の2)、原告本人は本件賃貸借契約締結時に同様の契約書を作成した旨陳述し(甲13)、被告本人は契約締結自体を認めつつ契約書を作成したか覚えていないと陳述するにとどまること(乙3)などを総合すると、原告と被告との間で、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を利用して本件賃貸借契約を締結し又はAとBとの間の無断増改築禁止特約を承継したことは推認され、同特約があったことは認められる。

  (4) 請求原因(5)イ (無断増改築禁止特約違反の有無)について検討するに、証拠(後記のほか、甲5に1、5の2、12の11、ないし12の14、乙2、3、)及び弁論の全趣旨によれば、①本件建物は昭和22年ころに建築された木造瓦葺2階建ての建物であること(甲2の1ないし2の3)、②被告が、平成10年5月ころ、本件建物の外壁全体にサイディングボードを貼り付けたこと(乙1。以下「本件外壁工事」という。)、③被告が、平成13年ころ、本件建物玄関上側にアルミ製ベランダを取り付けたこと(以下「本件ベランダ工事」といい、本件外壁工事と併せて「本件各工事ともいう。)は認められる。原告本人は、被告が平成19年2月ころに外壁の取替え及びベランダの新設を含む増改築工事をしたとの陳述書(甲13)を提出するが、工事時期及び内容を裏付ける客観的証拠はなく、被告本人が古くなった既存の木製ベランダをアルミ製に取り替えたに過ぎないと陳述していること(乙3)などに照らし、上記認定を左右しない。

 また、無断増改築禁止特約は、借地人が目的の範囲内で借地上の所有建物を保存改良する自由を制限するものであり、特に本件賃貸借契約上の同特約は前記のとおり市販の契約書の定型文言によるものにすぎないから、同特約を「増築又は改築」以外の大修繕等に拡大解釈することは許されないというべきである。本件各工事は、上記方法・程度に照らせば、比較的大規模な修繕改良工事とはいえるとしても、直ちに増築(床面積の増加)とも改築(建替え・建直し)とは認められず、無断増改築禁止特約違反自体を認めるに足りない。

  (5) したがって、その余について判断するまでもなく、請求原因には理由がないことになる。


 2 抗弁 (信頼関係不破壊)について
  (1) なお、念のため、仮に本件各工事が特約にいう増改築にあたるとした場合の抗弁の成否についても検討する。無断増改築がされた場合でも、借地人の土地の通常の利用上相当であり、賃貸人に著しい影響を及ぼさないなど、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が無断増改築禁止特約に基づき解除権を行使することは許されないと解される(最高裁昭和41年4月21日判決・民集20巻4号720頁参照)。

  (2) 前記のとおり、本件各工事は、外壁にサイディングボードを貼り付け、ベランダをアルミ製化するもので、本件建物の美観のみならずその効用を維持改善するものとはいえるが、本件建物の躯体自体に変更を加えるものではなく、本件建物の耐用年数への影響の有無・程度を認めるに足りる証拠もなく、借地人の土地の通常の利用上相当の範囲を超えるものではないと認められる。これに加え、そもそも本件賃貸借契約の契約書が現存しているかも不明であり、無断増改築禁止特約の内容の明確性にも疑問があること、平成10年5月ころの本件外壁工事が平成19年2月ころまで問題とされなかったことなども総合考慮すれば、本件各工事をもって信頼関係破壊と認めるに足りない特段の事情があったというべきである。

  (3) これに対し、原告は、本件建物は本件各工事がなければ朽廃状態にあったと主張する。確かに、本件建物に隣接しほぼ同時期に建設された別人所有の建物が平成10年当時に朽廃状態にあったことは認められるが(甲9の1、9の2、10、11、12の1ないし12の10)、建物の耐用年数は建築以来の保存・管理状況等により相当異なり得るから、直ちに原告の上記主張を認めるに足りない。

 また、原告の主張どおり、被告が原告から本件賃貸借契約の更新時期である平成16年7月ころまでに更新料の請求を受けながらその支払を拒絶したことは認められる(甲13、乙3)。しかし、本件全証拠によるも、本件賃貸借契約上の更新料支払義務を根拠付ける原告と被告との間の合意又は事実たる慣習を認めるに足りず、更新料の支払拒絶は信頼関係破壊を基礎づける事情とならない。その他原告の主張は上記認定を左右するものではない。

  (4) したがって、仮に本件各工事を特約所定の増改築とみる余地があるとしても抗弁が成立し、いずれにしろ無断増改築禁止特約違反を理由とする本件賃貸借契約の解除には理由がない。


 3 よって、原告の請求は理由がないので棄却する。


         東京地方裁判所民事第39部

                 裁 判 官   押 野  純

 

           

 

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【Q&A】 定期借家契約とはどんな契約

2012年02月07日 | 定期借家・定期借地契約

 最近、若い人からの相談で、「更新を拒絶され、再契約できないと言われた。引越しして2年しかたっていないので、あと1回くらい更新をしたいのだが、どうしてもだめですか」という中身で同じような電話相談を何件か受けました。

 よくよく話を聞いてみると、普通借家契約ではなく定期借家契約であることが判明しましたが、本人たちは普通借家契約と定期借家契約の違いもわからず、契約時のどのような書類に署名捺印したかも忘れていました。最近は非正規で働く人が増加しているために、このような若者向けに定期借家契約の物件が増えてきているという話です。

 あらためて定期借家契約について知っておきたい豆知識を紹介いたします。

 その1、通常の借家契約と異なり、更新がなく契約終了と同時に退去しなければいけないということです。(借地借家法第38条1項)期間が満了すれば、再契約もできますという不動産会社の口頭の説明をうのみにしてはいけません。あとでどのようにでも言い訳できます。

 その2、定期借家契約は定期借家契約であるという説明した文書を交付した上で説明が必要です。(同38条2項)定期借家契約書だけでは、定期借契約は成立致しませんので注意が必要です。何年か前の相談ではこのような文章がなかった事例もありますので注意しましょう。

 その3、契約期間が一年以上の場合は、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に通知をしなければいけないことになっています。(同38条4項)その通知がない場合は、あらためて通知が来てから6ヶ月後に契約は終了となります。最後に、このように定期借家契約は借主にとって極めて不利な契約ですのでこのような契約物件は避けるべきです。

 

東京借地借家人新聞より


 ここからの文章は、東京・台東借地借家人組合。

 2011年6月号の借地借家豆知識の欄で、 
 「その3、契約期間が一年以上の場合は、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に通知をしなければいけないことになっています。(同38条4項)その通知がない場合は、あらためて通知が来てから6ヶ月後に契約は終了となります」と説明している。

 上記の説明(赤字部分)は、正確でないし、誤解を生む。この説明では、「賃貸人が終了通知を通知期間内(期間満了の1年前から6か月前まで間)にしなくても、後日、期間に限定されることなく、任意の日に終了通知をすれば、期間満了後であっても、その日から6か月後に契約が終了する」ということになる。

 換言すれば賃貸人が意識的に定期借家契約の満了日までに終了通知を出さなければ、以後、賃借人とトラブル等があれば、賃貸人は正当事由なしに任意の日に「終了通知」をすれば、6か月後に契約を確定的に解除出来るという貸主には好都合な説明になる。

 定期借家契約は契約の更新がなく、確定期限で契約は終了する契約である。それにも拘らず、前記の例であれば、期間満了後の契約形態は、自動更新された期間の定めのない「定期」借家契約ということになる。

 確かに、貸主から期間満了の1年前から6か月前までの通知期間内に終了通知がなくても、通知期間経過後から契約期間の満了日までに終了通知があれば、その通知の日から6か月が経過すると、貸主は定期借家契約が終了したことを主張できる。

 しかし、期間満了後の終了通知の場合も、6か月後に契約が終了するのか、契約期間満了後の終了通知が果たして有効なのかが問題である。このことは、借家人の居住権に係わる重大な問題である。

 このことに関しては、次の記事を参照
   【Q&A】 契約期間満了後に定期借家契約の終了通知が届いた場合はどうなるのか

 Q9 定期借家契約の期間が満了で必ず建物を明渡さなければならないのか<あなたの借地借家法別冊 「Q&A 定期借家契約」 (東京借地借家人組合連合会編)>

 借家人の居住権を守るための重要な保護制度である「正当事由制度」及び「法定更新制度」を適用除外させた借家契約が定期借家契約(平成12年3月1日施行)である。借家人の保護制度を無力化するために拙速に作られた条文であるから、杜撰な面がある。この条文は衆議院・参議院の法務委員会で審議されたのではなく、お門違いの衆議院の建設委員会(平成11年11月24日)、参議院の国土・環境委員(平成11年12月7日)で審議された。借地借家法に関しては、全くの門外漢による数時間のスピード法案審議で法案化されたもので、厳密さがないのは当然かもしれない。その代表が38条4項の「但書き」である。

 

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【借地借家 豆知識】 地代・家賃の供託について

2012年02月06日 | 弁済供託

 借地・借家の場合、賃料を払いたいけれど、相手が受け取ってくれないというこということは珍しくありません。

 例えば、家主が賃料を6万円から5000円値上げしたとします。借主が「高すぎる」といって認めなければ問題となります。借主としては2000円加算した6万2000円の賃料で支払に行くと、家主は「話が決まってからでいい」といって受け取ってくれません。

 このような場合には、借主は賃料を供託すると賃料不払になりません。供託しておけば、家主との話合いはいくら長引いても心配はありません。供託とというのは、借地・借家に限らず、相手がお金など弁済の目的物を受け取ってくれない場合に、法務局にその目的物を預ける手続きです。

 実際供託する額は、家主に従来の額に2000円を加算した6万2000円を供託しておきましょう。供託の原因欄には、「賃料の増額請求があり、あらかじめ賃料の受領を拒否され目下係争中」と記載します。

 しかし、家主が6万2000円を内金で受け取るといった場合は判例では「特段事情のない以上、賃料の全額の弁済として提供されるのであればその受領を拒絶する趣旨を含むものと解することができる」として、受領拒否と認めています(註)。供託することも可能ですが、6万2000そ円で支払っておくこともできます。その際は、念のため家主に対して、支払った賃料は賃料全額であることを意思表示しておきましょう。この意思表示は内容証明郵便で出しておきましょう。

 なお受領書に「内金として」と記載されても、それだけでは賃料増額を認めたことにはなりません。

 

東京借地借家人新聞より


 ここからの文章は東京・台東借地借家人組合。

 借地借家法第32条2項は、「建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない」と規定している。

 借家人が相当と思う賃料を支払えば、債務不履行として取り扱わないと規定している。賃料が著しく低額で税金以下ということを本人が知っていたという事例は判例上、債務不履行になる(最高裁 平成8年7月12日判決)が、そうでなければ通常は現行賃料を支払っていれば充分である。値上げを言われたからといって、迎合して何も自分の方から賃料を増額して支払う必要はない。

 例えば、月額数1000万円という高額の家賃の場合であれば、万が一、裁判で増額が認められた場合は年10%の支払利息は可なり大変であるが、そうでなければ、裁判が確定してから支払っても遅くないし、それで充分である。また、賃料の増額請求権は5年で消滅時効になるので、5年間の差額を考慮すれば足りるのであるから、先走って現行賃料に自ら加算して支払う必要などない。

(註) 「家主が、家賃の弁済の提供を受けた際、内金としての受領する旨述べたことは、特段の事情のない以上、家賃の全額の弁済として提供されるのであればその受理を拒絶する趣旨を含むものと解すべきである。したがって、家主は、借家人が債務の本旨に従った弁済の提供に対し、その受領を拒絶し、その後も受領しない意思を示したものいわなければならない」(東京高裁昭和61(1986)年1月29日判決、判例時報1183号88頁)。

 この東京高裁昭和61(1986)年1月29日判決に対し、東借連常任弁護団の見解は、「賃料の増額請求がされた場合、賃借人が相当賃料として従前額を提供し、賃貸人がこれを賃料の内金として受領しようとする事例が多い。この場合の賃貸人の態度が受領拒絶に当たるかが問題となる。最高裁昭和50年4月8日判決は、受領拒否に当たらないとする。本件判決は、右最高裁判決と相反するものであるが本件では家主の増額請求に相当無理な点があるという特殊なケースであり、われわれとしては、安易に本判決の理屈付けを利用せず、従来どおり支払った上、賃料全額であることを通告する方式を堅持していきたい。」ということで、供託を認める判例があることに寄り縋り、安易に供託することを諌める。

 賃料の一部として受取る・内金として受取る・と賃貸人が言っているにも拘らず、賃料を持ち帰って、供託をすると賃料不払(債務不履行)で契約を解除される恐れがある。賃料の一部としての内金の受取りを民法494条の受領拒否に当たらないという最高裁判決が変更されない限り、供託は危険である。

 殊に、借地の場合、組合の誤った指導から、無効の供託による債務不履行を理由とする契約解除による建物収去・土地明渡請求訴訟で、敗訴した場合の借地人の財産的損害は莫大である。取返しがつかないことになるので、注意しなければならない。 

  
関連記事
判例紹介】 家賃の一部(内金)として受領する旨の回答が受領拒絶に当たるとされた事例

【Q&A】 賃料を内金として受領すると言われた場合どうするか 

 

 

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更新料支払請求裁判で借地人が全面勝訴 (東京・渋谷区)

2012年02月03日 | 更新料(借地)

 渋谷区で41坪を借地しているAさんは、2011年の10月東京地裁の更新料請求事件で地主の574万円の更新料請求を棄却する全面勝訴の判決を勝ち取った。

 地主は昭和62年の更新の際にAさんの父が更新料700万円の支払があったことをもって、以後の更新の際にも更新料を支払う合意が成立していると主張した。

 判決では、「昭和62年に作成された土地賃貸借契約書には更新料の支払いを定めた条項はなく、昭和62年の本件借地契約の更新の際に更新料の支払いがあったことをもって、直ちに将来の更新の際に更新料を支払う合意が成立したとは認めがたい」と地主の主張を退けた。

 

東京借地借家人新聞より

 

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未払いNHK受信料、短期消滅時効が適用され、5年分9万円支払い命令

2012年02月02日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 NHKが北海道旭川市内の男性に未払いの受信料の支払いを求めた訴訟の控訴審判決があり、旭川地裁の田口治美裁判長は、「受信料債権は民法169条に基づき定期給付債権の短期消滅時効が適用される」とし、NHKの訴えを全面的に認めた1審の旭川簡裁判決を取り消し、家賃やマンションの管理費などと同じ5年の短期の時効を適用し、男性に過去5年分の9万3160円の支払いを命じた。

 判決は1月31日。

 民法の定める請求権の消滅時効は、対象によって異なり、NHK側は不払い分の請求期間を「一般の債権」の10年として支払い訴訟を起こしている。この男性に対しては、約6年分の約11万円の支払いを求め、1審はNHKの主張を全面的に認め、男性側が控訴していた。

 

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【Q&A】 地代の増額請求と5年の短期消滅時効の成立

2012年02月02日 | 地代の減額(増額)

(問)30年前から地代の増額請求で話し合いがつかないまま地代を供託しています。地主が亡くなり、相続人となった長男の地主の代理人の弁護士から30年前からの地代の差額を支払えと請求されています。支払に応じないと裁判にかけるといわれています。どうしたらよいでしょうか。


(答)月払いの地代など賃料債権は民法169条の短期消滅時効により5年前の地代の増額は請求できません。

 地代の増額請求は、旧借地法12条により、地主と借地人との間で地代の増額について協議が成立しない場合は、借地人は相当と認める賃料の支払をもって、債務不履行として扱わないとしています。地主に相当額を提供し、受け取らない時は法務局に供託しておけばよいのです。地主がどうしても地代を値上げしたければ、調停を経て裁判を起こし、裁判で地代が確定し借地人が支払った相当額との差額が生じた場合には、年1割の利息をつけて支払わなければなりません。

 地主は、増額請求して5年間の間に地代増額請求の調停も裁判も起こさなかったわけですから、時効により地代の差額は請求できないことになります。

 時効とは、法律上の権利関係が長年決着がつかない状態にあると社会生活が安定しないことや、昔の出来事なので証拠がなくなっているということがあります。権利の行使を怠っていた債権者である地主は保護されなくても仕方がないということです。

 地主の代理人に対しては、30年間の差額は時効の成立で差額地代の請求には応じられない旨を内容証明郵便等で回答し、あらためて過去5年間の地代について固定資産税・都市計画税を調査し、相当額について協議に応じる意思がある旨を伝えましょう。内容証明郵便の書面の内容等については、組合や組合の顧問弁護士に相談して対応してください。

 

東京借地借家人新聞より


  以下の文章は東京・台東借地借家人組合。

 「地主は、増額請求して5年間の間に地代増額請求の調停も裁判も起こさなかったわけですから、時効により地代の差額は請求できないことになります」と回答しているが、説明に問題がある。「増額請求して5年間の間」と書いているが、30年前の地代増額請求をした時が消滅時効の起算点ではない。

 弁済期が定められた債権の消滅時効は弁済期が起算点になる。その翌日が起算日になり、そこから時効は進行する。起算点を取違えているから、「30年間の差額は時効の成立」という説明になる訳である。

  次の東京地裁の判例を読めば頷ける筈である。

 地主は昭和58年12月17日に、適正地代が地主の値上げ請求金額であることの確認請求訴訟を提起した。

借地人は「本件賃料債権は月払いであるから、民法169条の5年の短期消滅時効にかかる。したがって、地主が提訴した昭和58年12月17日より5年前までに支払期日の到来している昭和53年11月までの賃料債権は、時効によって消滅した」と反論して争った。

 裁判所は、「本件賃料債権は、民法169条(注1)所定の債権に該当する。

  ところで、借地法12条2項の趣旨は、賃料の増額請求があったときは、客観的に適正な賃料額に当然に増額の効果を生じ、賃借人はその額の支払義務を負うに至るのであるが、(中略)増額についての裁判が確定するまでの間は、賃借人は、自己が相当と認める賃料を支払う限り、遅滞の責を負わないものとしたのである。(中略)

 したがって、賃料債権自体は発生し、かつ、本来の賃料支払期日に履行期が到来しているものというべきである。

 賃貸人は、その支払を求める給付の訴又はその確定を求める確認の訴を提起して、消滅時効を中断することができ、又、給付判決が確定すれば強制執行をすることも妨げられないのであって、権利を行使するについて特段の障害があるものと解することはできない。

 したがって、右のような増額請求にかかる増加額についても、所定の弁済期から消滅時効が進行を始めるものと解するべきである。

 具体的な給付請求権が時効消滅した場合には、他に特段の必要のない限り、もはや確認の利益は失われるものと解すべきである。」と、5年前までの請求を棄却した。(東京地裁昭和60年10月15日判決、判例時報1210号61頁以下)。

 (註1) 民法169条「年またはこれより短い時期によって定めた金銭その他のもの物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。」

 弁済期が定められた債権の消滅時効は弁済期が起算点になる(註2)。平成24年1月の時点を例に採れば、賃料の支払いが後払いの毎月末日払いの場合、弁済期はその月の末日であるから、1月31日である。この場合の起算点は1月31日である。

 但し、民法上の期間を算定するとき(日、週、月又は年によって期間を定めた場合)は初日を算入しない(民法140条)ということであるから、平成24年2月1日(起算日)から時効は進行する。このように請求されている地代の増額分は、毎月、毎月5年前の分が次々と時効で消滅していく。

 (註2) 民法144条「時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」、民法166条「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」 

 結論、判例によれば、増額地代の差額分は例えば、後払い地代の場合、平成24年1月の時点で検討すると、弁済期が平成23年12月末日で、そこが起算点になる。従って、平成24年1月1日が時効の起算日になる。その5年前の増額賃料債権が消滅時効により、消滅する。過去25年分の増額賃料債権に関しては既に時効消滅している。

  なお、時効の利益を受ける者は、消滅時効が成立したと主張する必要がある(註3)。これを時効の援用という。勿論、黙っていたのでは時効の利益を受けられない。そこで、証拠に残すためにも、内容証明郵便で時効の援用をする。内容は、「増額請求権は民法169条の短期消滅時効により弁済期から既に5年が経過し、平成*年*月以前の分に関しては既に時効により、増額賃料債権は消滅している。従って、消滅時効部分の支払請求には応じられない」という趣旨のことを書き、配達証明付きにして地主に送り届けておく。これで時効の援用と増額請求の支払拒否の通知は終了である。

 (註3) 民法145条「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」

 援用の時期は何時までにしなければ、援用権が無くなるということはないが、要は債権者から請求があったときに援用すればいい訳である。勿論、裁判との関係で最終期限はある。第2審の口頭弁論終結までに時効を援用しなければならない(大審院大正7年7月6日判決)。


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更新料を5回の分割で支払う約束をしてしまった (東京・足立区)

2012年02月01日 | 更新料(借地)

 足立区梅田に25坪の土地を賃借しているAさんは平成18年7月に20年の期間満了しても、隣に住む地主から更新についても何も話がないので心配になり知り合いに相談すると「地主さんに話に行った方がよい」と言われ訪ねた。

 しかし、平成19年7月に地主との間で更新料支払を承諾させられ、5年の分割で100万円を支払う契約書に判を押してしまった。

 去年までは20万円支払ってきたが、病気入院したため今月支払いに困り、議員さんに相談し、組合を紹介された。

 契約書を見せてもらうと前回の契約書には更新料約定はなく、父の代に支払っていたので支払ったとの答え。今回は地代持参時に事情を話し、猶予してもらうよう助言したが何かむなしい。1年間も、地主は地代を受領していたので、Aさんが「法定更新」を主張すれば更新料を支払わなくて済んだはず。

 

東京借地借家人新聞より

 

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