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【判例】*賃借人の債務不履行による賃貸借の解除と賃貸人の承諾のある転貸借

2016年11月01日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

賃借人の債務不履行による賃貸借の解除と賃貸人の承諾のある転貸借
(最高裁平成9年2月25日判決 民集51巻2号398頁)

 


       主   文
 原判決中、上告人ら敗訴の部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。
 前項の部分に係る被上告人の請求をいずれも棄却する。
 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

       理   由
 上告代理人須藤英章、同関根稔の上告理由について

  一 被上告人の本訴請求は、上告人らに対し、(一) 主位的に本件建物の転貸借契約に基づいて昭和63年12月1日から平成3年10月15日までの転借料合計1億3110万円の支払を求め、(二) 予備的に不当利得を原因として同額の支払を求めるものであるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のと おりである。

 1 被上告人は、本件建物を所有者である訴外有限会社田中一商事から賃借し、同会社の承諾を得て、これを上告人キング・スイミング株式会社に転貸していた。上告人株式会社コマスポーツは、上告人キング・スイミング株式会社と共同して本件建物でスイミングスクールを営業していたが、その後、同会社と実質的に一体化して本件建物の転借人となった。

  2 被上告人(賃借人)が訴外会社(賃貸人)に対する昭和61年5月分以降の賃料の支払を怠ったため、訴外会社は、被上告人に対し、昭和62年1月31日までに未払賃料を支払うよう催告するとともに、同日までに支払のないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。然るに、被上告人が同日までに未払賃料を支払わなかったので、賃貸借契約は同日限り解除により終了した。

 3 訴外会社は、昭和62年2月25日、上告人ら(転借人)及び被上告人(貸借人)に対して本件建物の明渡し等を求める訴訟を提起した。

 4 上告人らは、昭和63年12月1日以降、被上告人に対して本件建物の転借料の支払をしなかった。

 5 平成3年6月12日、前記訴訟につき訴外会社の上告人ら及び被上告人に対する本件建物の明渡請求を認容する旨の第1審判決が言い渡され、右判決のうち上告人らに関する部分は、控訴がなく確定した。
   訴外会社は平成3年10月15日、右確定判決に基づく強制執行により上告人らから本件建物の明渡しを受けた。

  二 原審は、右事実関係の下において、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約が被上告人の債務不履行により解除されても、被上告人と上告人らとの間の転貸借は終了せず、上告人らは現に本件建物の使用収益を継続している限り転借料の支払義務を免れないとして、主位的請求に係る転借料債権の発生を認め、上告人らの相殺の抗弁を一部認めて、被上告人の主位的請求を右相殺後の残額の限度で認容した。

 三 しかし、主位的請求に係る転借料債権の発生を認めた原審の判断は、是認できない。その理由は、次のとおりである。

   賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転貸人が、自らの債 務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求 したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益 について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかはなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引観念に照らして履行不能というべきである。従って、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。

 これを本件についてみると、前記事実関 係によれば、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約は昭和62年1月31日、被上告人の債務不履行を理由とする解除により終了し、訴外会社は同年2月25 日、訴訟を提起して上告人らに対して本件建物の明渡しを請求したというのであるから、被上告人と上告人らとの間の転貸借は、昭和63年12月1日の時点では、既に被上告人の債務の履行不能により終了していたことが明らかであり、同日以降の転借料の支払を求める被上告人の主位的請求は、上告人らの相殺の抗弁につき判断するまでもなく、失当というべきである。右と異なる原審の判断には、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合の転貸 借の帰趨につき法律の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人ら敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき第1審判決を取り消して、被上告人の主位的請求を棄却すべきである。また、前記事実関係の下においては、不当利得を原因とする被上告人の予備的請求も理由のないことが明らかであるから、失当として棄却すべきである。よって、民訴法408条、396条、386条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官可部恒雄、裁判官園部逸夫、裁判官大野正男、裁判官千種秀夫、裁判官尾崎行信

 

 

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