東京・台東借地借家人組合1

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【判例】*更新料の支払義務の不履行を理由として土地賃貸借契約の解除が認められた事例

2018年11月28日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

更新料の支払義務の不履行を理由として土地賃貸借契約の解除が認められた事例
(最高裁昭和59年4月20日判決 民集38巻6号610頁)


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人(賃借人)らの負担とする。


       理   由
 上告(賃借人)代理人猪狩庸祐、同大久保博の上告理由第1及び第2について

 原審は、
1(一) 被上告(賃貸人)人は、昭和9年12月14日、上告人(賃借人)甲に対し、被上告人(賃貸人)所有の本件土地を、賃貸期間20年、普通建物所有の目的、権利金・敷金なく、無断譲渡・転貸禁止の特約付きで賃貸した。

 (二) そして、本件賃貸借契約は、昭和29年12月14日期間20年として更新され、その後地上建物の無断増改築禁止の特約がされ、上告人(賃借人)乙が連帯保証人となったが、更に本件賃貸借契約は、昭和49年12月14日期間20年として更新された。

 (三) ところで、本件賃貸借契約には、前示のとおり被上告人(賃貸人)の承諾なしに建物の増改築をしてはならない旨の特約があったが、上告人(賃借人)甲は、昭和37年12月本件建物(1)について長男名義で増改築の確認の申請をしたうえ、昭和38年ころその増改築に着手し、土台石を敷いた段階で被上告人(賃貸人)に承諾を求めたので、被上告人(賃貸人)がこれを承諾せず、その中止を申入れたが、上告人(賃借人)甲はこれを聞きいれずに完成させてしまった。そして、右増改築により上告人(賃借人)甲宅の便所が被上告人(賃貸人)の長男宅に接近して同人らに不快感を与えるようになり、また、上告人甲(賃借人)は、右増改築部分に間借人をおいたが、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)らとの紛争を避けるため、特に抗議を申入れることはしなかった。

 (四) また、本件賃貸借契約には、前示のように被上告人(賃貸人)の承諾なしに本件土地の賃借権の譲渡・転貸をしてはならない旨の特約があったが、上告人(賃借人)甲は、被上告人(賃貸人)の承諾を得ずに妻である上告人(賃借人)乙に本件建物(1)の所有権を移転して本件土地を使用させ、かつ、昭和38年2月8日上告人(賃借人)乙に本件建物(1)の所有権保存登記をして、本件土地を転貸した。被上告人(賃貸人)は、後日このことを知ったが、紛争を嫌って抗議等の申入れをしなかった。

 (五) 上告人(賃借人)らは、昭和50年12月7日本件建物(2)を隣地に接近して建築した。そのころ、これを知った被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)らに書面で右建物は、何時、誰が建てたのか明らかにするよう求めたが、上告人(賃借人)らがこれに応じなかったので、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)らに重ねて書面でその回答を求めたが、上告人(賃借人)らはこれにも応じなかった。

 (六) 昭和38年ころから上告人(賃借人)甲の賃料の支払が遅れ、また、被上告人(賃貸人)は、本件土地を自ら使用する考えをもっていたが、本件賃貸借契約の解消は考えず、昭和49年12月14日の賃貸借契約の更新に先立ち、同月12日上告人(賃借人)甲に対し更新料の支払を請求する旨予め通告し、昭和50年6月1日三菱信託銀行株式会社の鑑定による本件土地の更地価格2585万3000円に基づき、借地権の価格をその7割にあたる1809万7100円とし、更に更新料をその1割にあたる180万9710円と算定してこれを上告人(賃借人)甲に支払うよう求めた。

 (七) しかし、上告人(賃借人)甲がこれに応じなかったので、被上告人(賃貸人)は、昭和50年10月30日右更新料の支払を求めて宅地調停の申立てをした。調停は、14回の期日が開かれ、主として、被上告人(賃貸人)と上告人(賃借人)甲の代理人として出頭した弁護士丙との間で更新料の額と支払方法のほかに、前記の上告人(賃借人)甲の本件建物(1)の無断増改築、本件土地の賃借権の無断転貸、賃料支払の遅滞等の問題等についても話合がなされた。その結果、賃料に関する問題は、賃料の増額もあってその賃料額及び支払額が不明確になっていたが、双方の言分の隔たりが大きく早急に合意に達することが困難な状態にあったので、調停成立後、右の点につき更に話合いを続けることとした。そして、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)甲の前記の不信行為を不問に付することとし、不問に付したことによる解決料と本来の意味での更新料との合計額を100万円に減額する旨申入れたところ、上告人(賃借人)甲はこれを了承し、右100万円を昭和51年12月末日50万円、昭和52年3月末日50万円と2回に分割して支払うことを約したので、昭和51年12月20日上告人(賃借人)甲が被上告人(賃貸人)に対し更新料100万円を右のとおり分割して支払う旨の調停が成立した。

 (八) そして、上告人(賃借人)甲は、第1回の分割金50万円は約定のとおり支払をしたが、第2回の分割金50万円は期限までに支払をしなかった。そこで、被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)甲に対し、昭和52年4月4日到達の書面をもって、右書面到達の日から3日以内に第2回の分割金50万円を支払うよう催告したが、上告人(賃借人)甲がその支払をしなかったので、被上告人(賃貸人)は、同月10日到達の書面をもって本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

 (九) 上告人(賃借人)甲が、第2回の分割金50万円を期限までに支払わず、かつ、被上告人(賃貸人)の催告にも応じなかったのは、調停の際被上告人(賃貸人)側が借地の範囲を明確にすることなどを先ず履行することを約束していたものと考えていたこと、被上告人(賃貸人)が従来、賃借人の不信行為について強く抗議をせず、また、義務の履行を迫ったことがなかったので、右分割金を期限までに支払わなくても本件賃貸借契約が解除されるという事態に至ることはあるまいと思っていたからであった。しかし、調停成立の際、賃料については後日話合いすることが留保されたものの、被上告人(賃貸人)が先ず借地の範囲を明確にすることなどの合意はされていなかった。なお、上告人(賃借人)甲は、昭和52年4月16日被上告人(賃貸人)に対し、第2回の分割金50万円を弁済のため提供したが、被上告人(賃貸人)がその受領を拒絶したので同月18日これを供託した、との事実を確定したうえ、

2(一) 本件賃貸借契約は、昭和9年に締結されて以降2回の更新がされているが、右契約締結当時権利金・敷金等の差入れがなく、かつ、その間地価をはじめ物価が著しく値上りしているため、被上告人(賃貸人)が更新の際に借地権価格の1割に相当する更新料の支払を請求し、これについて当事者双方が協議したうえその支払の合意がされたことの経緯から見ると、本件更新料は、本件土地利用の対価として支払うこととされたものであって、将来の賃料たる性質を有するものと認められる。

 (二) 被上告人(賃貸人)は、その所有土地の有効利用を考え、また、上告人(賃借人)らの不信行為もあったが、本件賃貸借契約の解消を求めず、その継続を前提として更新料を請求したものであるから、更新に関する異議権を放棄し、その対価としての更新料を請求し、これについて更新料の支払が合意されたものと認めるべきである。

 (三) また、本件においては、上告人(賃借人)甲に建物の無断増改築、借地の無断転貸、賃料支払の遅滞等の賃貸借契約に違反する行為があったが、本件調停は、これら上告人(賃借人)甲の行為を不問とし、紛争予防目的での解決金をも含めた趣旨で更新料の支払を合意したものと認められる、と認定判断するところ、以上の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし正当として是認できる。

 ところで、土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが、その更新料がいかなる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは、単にその更新料の支払がなくても法定更新がされたかどうかという事情のみならず、当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当であるところ、原審の確定した前記事実関係によれば、本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから、その不払は、右基盤を失わせる著しい背信行為として本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。従って、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 論旨は、畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用できない。

 同第3について
 本件において、賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるとは認められないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として肯認するに足り、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用できない。

 よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁裁判長裁判官宮崎梧一、裁判官木下忠良、同鹽野宜慶、同大橋進、同牧圭次

 

 

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