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【判例】未払いNHK受信料、5年の短期消滅時効が適用される(旭川地裁平成24年1月31日判決)(1)

2012年03月01日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

判例

   旭川地方裁判所
   平成24年1月31日判決言渡

   平成23年(レ)第45号,同第55号 放送受信料請求控訴,附帯控訴事件
   (原審・旭川簡易裁判所平成23年(ハ)第115号)

   口頭弁論終結の日 平成23年11月22日


判          決

主          文

1 控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

 (1) 控訴人は,被控訴人に対し,9万3160円及びうち8万2400円に対する平成23年2月1日から,うち1万0760円に対する平成23年10月1日からそれぞれ支払済みの日が属する月の前月(支払済みの日が偶数月に属する場合)又は前々月(支払済みの日が奇数月に属する場合)の末日まで,2か月当たり2パーセントの割合による金員を支払え。

 (2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。

2 訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審を通じ,これを5分し,その4を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

3 この判決は,仮に執行することができる。


事 実 及 び 理 由

第1 控訴及び附帯控訴の趣旨

 1 控訴の趣旨

 (1) 原判決を取り消す。

 (2) 被控訴人の請求を棄却する。

 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2 附帯控訴の趣旨

 (1) 原判決を次のとおり変更する。
控訴人は,被控訴人に対し,10万9900円及びうち9万9140円に対する平成23年2月1日から,うち1万0760円に対する平成23年10月1日からそれぞれ支払済みの日が属する月の前月(支払済みの日が偶数月に属する場合)又は前々月(支払済みの日が奇数月に属する場合)の末日まで,2か月当たり2パーセントの割合による金員を支払え。

 (2) 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用も含む。)は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

 (3) 仮執行宣言

第2 事案の概要

 1 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,放送受信契約(以下「受信契約」という。)に基づき,原審においては,平成16年12月1日から平成22年11月30日までの放送受信料(以下「受信料」という。)合計9万9140円及びこれに対する支払督促の送達の日である平成23年1月25日が属する期(毎年4月1日から2か月ずつを各期とし,1年は第1期ないし第6期から成る。)の直後の期の初日である平成23年2月1日から,支払済みの日の属する期の直前の期の末日まで約定の2か月当たり2パーセントの割合による遅延損害金の支払を,当審においては,附帯控訴の上,請求を拡張し,原審での請求に加えて,平成22年12月1日から平成23年7月31日までの受信料合計1万0760円及びこれに対する附帯控訴状の送達の日である平成23年9月20日が属する期の直後の期の初日である平成23年10月1日から,支払済みの日の属する期の直前の期の末日まで約定の2か月当たり2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

  原判決が,被控訴人の請求を全部認容したところ,控訴人は,原判決を不服として控訴した。これに対し,被控訴人は,当審において,上記のとおり,附帯控訴の上,請求を拡張した。

2 前提事実(証拠等を摘示した部分を除き,当事者間に争いがない。)

 (1) 被控訴人は,放送法(以下,平成22年法律第65号による改正[平成23年6月30日施行]前の放送法を「旧法」,同改正後の放送法を「新法」といい,改正の前後を区別しない場合は単に「放送法」という。)に基づいて設置された法人であり,総務大臣の認可を受けて,日本放送協会放送受信規約(同規約は,平成19年4月1日規約改正[同年10月1日施行],平成20年4月1日規約改正[同年10月1日施行],平成22年11月10日規約改正[同年12月1日施行],平成23年6月14日規約改正[同年7月1日施行]など,数次にわたり改正されているが,以下,特に断りのない限り,改正の前後を問わず「規約」という。)を定めている(甲2,4,弁論の全趣旨)。

 (2) 被控訴人と控訴人は,平成15年3月19日,カラーの放送受信契約を締結し(以下「本件受信契約」という。),平成16年12月1日現在の契約内容は次のとおりである(甲1,4,弁論の全趣旨)。

  ア 名称 カラー契約

  イ 支払区分 口座振替。ただし,口座振替の指定日において受信料額を振り替えることができなかったときは,当該請求期間以降分について,訪問集金による受信料額を訪問集金により支払う。

  ウ 支払方法 毎年4月1日から2か月ずつを1期とし,毎期末限り,支払う。

  エ 料金 口座振替の場合,月額1345円訪問集金の場合,月額1395円

  オ 延滞利息 控訴人が受信料の支払を3期分以上延滞したときは,1期当たり2パーセントの割合で計算した延滞利息を支払う。

 (3) その後,規約改正により,本件受信契約の契約内容の一部が次のとおり変更された(甲2,弁論の全趣旨)。

  ア 名称 地上契約(平成19年4月1日規約改正により,カラー契約と普通契約が統合された上,名称が「地上契約」に変更された。同年10月1日施行)

  イ 支払区分 訪問集金は廃止された。(平成20年4月1日規約改正,同年10月1日施行)

  ウ 料金 月額1345円(平成20年4月1日規約改正,同年10月1日施行)

 (4) 控訴人は,平成16年12月1日以降の受信料を支払わない(弁論の全趣旨)。

 (5) 被控訴人は,平成23年1月22日,控訴人に対し,本件受信契約に基づき,平成16年12月1日から平成22年11月30日までの受信料合計9万9140円及びその遅延損害金の支払を求めて,旭川簡易裁判所に支払督促の申立てをした。

  上記支払督促事件は控訴人の異議の申立てにより訴訟に移行し,旭川簡易裁判所は,被控訴人の請求を認容する判決をしたところ,控訴人は,原判決を不服として控訴した。これに対し,被控訴人は,当審において,附帯控訴の上,請求を拡張した。(顕著な事実)

 (6) 控訴人は,被控訴人に対し,本件受信契約に基づく受信料債権(以下「本件受信料債権」という。)について,平成23年3月29日の原審の口頭弁論期日において,民法174条2号の消滅時効(1年)を,同年5月31日の原審の口頭弁論期日において,民法173条1号及び2号の消滅時効(2年)を,同年11月22日の本件口頭弁論期日において,民法169条及び商法522条の消滅時効(5年)を援用するとの意思表示をした(顕著な事実)。

 

(旭川地裁 平成24年1月31日判決)(2)へ続く


【判例】未払いNHK受信料、5年の短期消滅時効が適用される(旭川地裁平成24年1月31日判決)(2)

2012年03月01日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

3 争点

 (1) 本件受信契約の無効

 (2) 本件受信契約の解約による終了

 (3) 消滅時効の成否

4 争点に関する各当事者の主張

 (1) 本件受信契約の無効(争点(1))

 (控訴人の主張)

  ア 民法1条2項,旧法1条[新法1条],憲法21条及び国民主権原理違反旧法32条1項(新法64条1項)は「協会(日本放送協会)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定している。同規定は,そもそも知る権利の侵害であり,憲法21条に反する上,上記規定が,放送法に基づき締結される受信契約は,私法上の契約であっても,被控訴人は放送事業の顧客である受信設備を設置した者(視聴者)に対して一切の債務を負わないという意味であれば,契約当事者間の信義則(民法1条2項)に反し,ひいては,放送法の基本理念たる放送の最大限普及,放送による表現の自由の確保,放送の民主主義への貢献(旧法1条[新法1条])に反し,憲法21条及び国民主権原理に反する。

  イ 憲法19条違反

  旧法32条1項(新法64条1項)は,受信設備を設置した者に被控訴人との契約締結を強制することを意味するから,憲法19条に違反する。

 (被控訴人の主張)

  ア 民法1条2項,旧法1条[新法1条],憲法21条及び国民主権原理違反について旧法32条(新法64条)及び規約9条は,受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の受信料の支払を義務付けるだけであって,受信料の支払義務は,控訴人が,被控訴人の放送を視聴したか否かにかかわらず生じるものである。被控訴人が放送する番組の視聴を強制するものではないし,一般放送事業者が放送する番組の視聴を禁止するものでもない(東京高裁平成22年6月29日判決[甲5])。 また,旧法32条1項(新法64条1項)の規定は同法1条の目的・原則を達成するための体制の一端として定められたものであって,もとより民主主義に資するものとして合理性を有している。

  したがって,控訴人の主張は失当である。

  イ 憲法19条違反について

憲法19条で保障される内心とは,特定の歴史観,世界観等の人格形成に関わる内心を指すものであって,放送法で定められた受信料の支払を回避したい,受信契約の締結を回避したい等の内心がこれに含まれないことは明らかである(前掲東京高裁平成22年6月29日判決・その上告審である最高裁第三小法廷上告棄却及び上告不受理決定[甲6]参照)。また,控訴人には,受信設備を設置しないことによって,受信契約を締結しない自由があるところ,控訴人はその自由な意思に基づいて受信契約を締結したものである。

  したがって,控訴人の主張は失当である。

 (2) 本件受信契約の解約による終了(争点(2))

 (控訴人の主張)

  ア 受信契約の内容は,被控訴人が提供する放送を受信する対価として受信料を支払うというものであり,この内容について,被控訴人と消費者(受信設備設置者)間の合意が認められる。また,受信設備を設置するか否かは消費者の自由意思に任されており,解約も一定の要件を満たすことで可能とされていることも考え合わせれば,控訴人との受信契約は,当事者双方の合意によって成立する契約であることが確認される。したがって,受信契約には,消費者契約法の適用がある。

  イ 平成20年改正前の規約9条は「放送受信契約者が受信機を廃止することにより,放送受信契約を要しないこととなったときは,放送受信章を添えて,直ちに,その旨を放送局に届け出なければならない。」と規定している。同規定は,受信契約の解約の方法を著しく制限し,消費者の利益を一方的に害する条項であるから,消費者契約法10条に反し無効である。

  そして,控訴人は,被控訴人に対し,平成16年2月ころ,受信契約の解約の意思表示を行ったから,本件受信契約は終了している。

 (被控訴人の主張)

 消費者契約法11条2項は,個別法が消費者契約法に優先して適用されることを規定しており,その趣旨は,民法及び商法以外の個別法の私法規定の中に,消費者契約法の規定に抵触するものがあることを前提として,個別法が当該業種の取引の特性や実情,契約当事者の利益等を踏まえた上で取引の適正化を図る点にある。

 受信契約の締結を義務付ける旧法32条(新法64条)は,放送法の構造と立法趣旨の下に定められたものであって,もとより合理性のある規定であり,かつ,旧法32条(新法64条)と同趣旨の下で定められた規約9条も,あらかじめ総務大臣の認可を受け,一般に周知される等の手続も経たものであって(旧法32条3項[新法64条3項],規約15条),旧法32条(新法64条)及び規約9条が消費者契約法11条2項にいう「民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがある」場合に当たる。したがって,旧法32条(新法64条)及び規約9条は,当事者間でこれと異なる合意をすることを禁止する強行規定と解されるものであることからすれば,そもそも,旧法32条(新法64条)及び規約9条と異なる契約を締結することができない場合であって,消費者契約法10条が適用され得る余地はないというべきである(前掲東京高裁平成22年6月29日判決参照。なお,前記諸事情を考慮すれば,旧法32条(新法64条)及び規約9条が,控訴人の主張する消費者契約法10条の「民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たらない。)。

 (3) 消滅時効の成否(争点(3) )

 (控訴人の主張)

  ア 受信料債権の法的性質について

  受信契約の内容は,被控訴人が提供する放送を受信する対価として受信料を支払うというものであり,他のインターネットの有料動画配信契約等の私法上の契約と同様である。したがって,受信契約は私法上の契約である。

  仮に,行政法上の契約であっても,民法の時効の規定が除外されることにはならず,個別法が時効期間を定め,又は民法の時効の規定を排除するものでない限り,民法の時効の規定が適用される。現に水道契約は,行政法上の契約であるものの,短期消滅時効が適用されている(東京高裁平成13年5月22日判決・判例体系[最高裁平成15年10月10日第二小法廷上告不受理決定]参照)。

  被控訴人は,国又は地方公共団体とは別個の法人格であるから,当然に会計法30条や地方自治法236条は適用されない。また,放送法において,受信料の時効期間について何ら定めておらず,かつ,時効期間を定めていないからといって民法の時効の規定を排除する趣旨であるとは解しがたい。

  以上によれば,消滅時効期間については,一般法たる民法の適用又は準用がされるというべきである。

  イ 消滅時効期間について

  (ア) 本件受信料債権は,民法174条2号の「自己の労力の提供・・・を業とする者の・・・供給した物の代価に係る債権」に当たるから,消滅時効期間は1年である。

  (イ) 本件受信料債権は,民法173条1号の「生産者・・・が売却した・・・商品の代価に係る債権」に当たるから,消滅時効期間は2年である(電気料債権につき大審院昭和12年6月29日判決・民集16巻1014頁,前掲東京高裁平成13年5月22日判決[最高裁平成15年10月10日第二小法廷上告不受理決定]参照)。

  (ウ) 本件受信料債権は,民法173条2号の「自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作・・・することを業とする者の仕事に関する債権」に当たるから,消滅時効期間は2年である。

  (エ) 本件受信料債権は,民法169条の「年又はこれより短い時期によって定めた金銭・・・の給付を目的とする債権」(以下「定期給付債権」という。)に当たるから,消滅時効期間は5年である。

  (オ) 被控訴人による放送サービスの提供は「他人のためにする製造・・・に関する行為」(商法502条2号)に当たり営業的商行為である。

   また,被控訴人は商行為をすることを業とする商人(商法4条1項)であり,仮にそうでなくとも公法人が行う商行為については,商法2条が適用される。

   したがって,本件受信料債権は,商法522条の「商行為によって生じた債権」に当たるから,消滅時効期間は5年である。

 (被控訴人の主張)

  ア 受信料債権の法的性質について

  受信料債権は,対価性のない特殊な負担金という法的性質を有するものである。

  イ 消滅時効期間について

 (ア) 民法173条,174条について

  上記のとおりの受信料債権の法的性質からとすると,受信料債権は,労働・商品等の代価を内容とする民法174条2号,同法173条1号及び2号の債権とは法的性質を異にする。また,受信料債権は,文言上も民法174条2号,同法173条1号,同法173条2号のいずれにも当たらない。

 (イ) 民法169条について

  a 民法169条の立法趣旨

  民法169条は,「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権」(定期給付債権)について5年の短期消滅時効を規定する。

  その立法趣旨は,①弁済がないと直ちに債権者に支障が生ずる債権であるから速やかに弁済されるのが通常であること,②通常それほど多額でないため受領証の保存が怠られがちであって後日の弁済の証明が困難であること,③定期金は長年放置された後に突然支払の請求をされると多額になってしまうため債権者の懈怠に対して特に債務者を困窮から保護する必要があることと解されている。

  しかし,受信料債権については,①ないし③の立法趣旨はいずれも当てはまらない。

 b 受信料債権については,民法168条1項所定の基本権たる定期金債権は存在しないから,民法169条は適用されない。

 すなわち,受信機を設置した者が旧法32条1項(新法64条1項)に定める契約締結義務に基づき放送受信契約を締結した場合,当該契約は受信機設置の日から成立し,受信料債権は受信機設置の月から発生するとされるものである。このように受信料債権の発生は受信機の設置の事実に起因するものであって,受信料を定期的に給付することを目的とする基本権たる定期金債権に起因して発生するものではない。

 c 民法168条1項の適用を認めた場合の実質的な不都合性

  そもそも民法168条1項が定期金債権について第1回目の弁済期から20年間での時効消滅を認めたのは,長く続く定期金について最後の弁済期まで時効を進行させないのは,不当とされたからである。

  仮に,受信契約によって発生する基本権が民法168条1項の「定期金の債権」に該当するとした場合,当該基本権は第1回目の弁済期から20年間行使しないときに消滅することになる。

  しかしながら,被控訴人との間で受信契約を締結することが,被控訴人の放送を受信することができる受信設備を設置した者の法的義務とされ(旧法32条1項[新法64条1項]),あらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ受信料を免除することはできず(旧法32条1項[新法64条2項]),被控訴人の平成23年度の収支予算,事業計画及び資金計画が承認された際には,「公平負担の観点からも,契約の締結と受信料の収納が確保」されるようにとの衆議院の附帯決議がされているとおり,受信料については,国民・視聴者の公平負担が強く求められており,20年間行使されないことにより基本権が時効消滅することを認めるのは妥当ではなく,否定されるべきである。

 d 永小作料債権および賃借料債権との相違点

  なお,例外的に,基本権につき民法168条1項の適用を否定されつつ,支分権につき民法169条が適用されると解されている債権として,永小作料債権及び賃借料債権を挙げることができる。

  しかし,これらの債権について上記のような解釈が認められるのは,仮に,基本権の消滅を認めてしまうと,永小作権については,無償の永小作権となってしまい,物権法定主義(民法175条)に反すること,賃借料債権については,無償の賃借権となってしまい,賃借料債権が発生することが契約の要素となっている賃貸借契約の概念と矛盾してしまうことといった,形式的な理由によるものである。

  受信料債権については,永小作料債権及び賃借料債権に関する議論に見られるような形式的な理由は見出し難く,このような例外的な解釈をする前提を欠いている。

 e 上記のとおり,民法169条を含む短期消滅時効制度については,その適用範囲はできるだけ狭く解すべきである。

  特に,受信契約に基づく受信料は,対価性のない特殊な負担金という性質を持つとされる,他に例のない極めて特異な法的性質を有するものであり,その受信料に関する債権も,定期給付債権の典型とされる賃借料債権や給料債権等とは全く異なる法的性質を有する債権であるから,定期給付債権とは認められないと解すべきである。受信料債権について,あえて定期給付債権に該当するとして短期消滅時効を認めるべき合理的な理由や必要性は何ら存在しないばかりか,短期消滅時効を認めることは受信料の公平負担を阻害する弊害も危惧される。

 f 以上によれば,受信料債権には,民法169条は適用されない。

 (ウ) 商法522条について

  被控訴人の放送等業務の遂行は,商法502条が定める営業的商行為には当たらない。

  また,被控訴人は,営利を目的として業務を行うものではないから,商法4条1項の商行為をすることを業とする商人には該当しない。さらに,被控訴人の放送等業務の遂行は商行為ではないから,商法2条の規定に基づいて商法が適用されることはない。

  したがって,受信料債権は,商行為によって生じた債権ではないから,商法522条が適用される余地はない。



(旭川地裁 平成24年1月31日判決)(3)へ続く


【判例】未払いNHK受信料、5年の短期消滅時効が適用される(旭川地裁平成24年1月31日判決)(3)

2012年03月01日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

第3 当裁判所の判断

 1 受信契約及び受信料債権の法的性質

 争点についての判断をする前提として,放送法の趣旨及び規定を概観した上,受信契約及び受信料債権の法的性質について検討する。

 (1) 放送法の趣旨及び規定

   旧法1条[新法1条も同じ]は,放送が国民に最大限に普及されて,その効用をもたらすことを保障すること,放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること,放送に携わる者の職責を明らかにすることによって,放送が健全な民主主義の発達に資するようにすることの各原則に従って,放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ることを法の目的として規定している。

  これを受けて放送法は,我が国の放送制度について,一般放送事業者による放送(いわゆる民放)及び被控訴人による放送という独立した二系列の事業システムを構築し,被控訴人を,「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による」国内放送を行うとともに,「放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送」等を行うことを目的とする法人として位置付け(旧法7条[新法15条],旧法8条[新法16条]),その目的のために一定の業務を行う義務を課している(旧法9条[新法20条])。また,放送番組の編集及び放送等に当たっては「豊かで,かつ,良い放送番組」の放送を行うことによって「公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように,最大の努力を払うこと」など,一般放送事業者とは異なる配慮や施策等を行うことが義務付けられている(旧法44条[新法81条])。また,その事業の運営に要する財源の確保に関し,被控訴人の番組編成や報道等において,国家からの独立性及び中立性を確保して,被控訴人の表現の自由を確保するため,国庫からの支出や予算配分による方式は相当ではないとされ,また,被控訴人の公共性から,他人の営業に関する広告の放送が禁止され,広告料収入の途を閉ざされている(旧法46条1項[新法83条1項])。そこで,被控訴人の自主財源を確保する仕組みとして,被控訴人の放送を受信できる受信設備を設置した者に対し,被控訴人の放送の視聴の有無にかかわらず,被控訴人との受信契約を義務付け(旧法32条1項[新法64条1項]),同契約に基づき,契約者は受信料の支払義務を負うこととなっており,この受信料収入が被控訴人の財源の主要部分となっている。

  また,被控訴人には,公共性を確保して適正に運営されるための仕組みのほか,契約者からの受信料の適正な設定やその使途についても国会を通じて適正に監督がされるような仕組みが備わっている。すなわち,被控訴人には,被控訴人の経営方針その他業務の運営に関する重要事項を決定する権限と責任を有する経営委員会が設置され(旧法13条[新法28条],旧法14条[新法29条]),同委員会を構成する委員12名は,両議院の同意を得て内閣総理大臣によって任命されている(旧法15条[新法30条],旧法16条[新法31条])。

  また,被控訴人の毎事業年度の収支予算,事業計画,資金計画,財務諸表及び業務報告書は,総務大臣に提出された(旧法37条1項[新法70条1項],旧法38条1項[新法72条1項],旧法40条1項[新法74条1項])上,毎事業年度の収支予算,事業計画及び資金計画については,国会の承認事項とされ(旧法37条2項[新法70条2項]),業務報告書については,国会の報告事項とされ(旧法38条2項[新法72条2項]),財務諸表については,会計検査院の検査を経て国会に提出される(旧法40条3項[新法74条3項])ことになっている。

  さらに,受信契約の条項の設定及び変更には総務大臣の認可が必要とされ(旧法32条3項[新法64条3項]),受信料の月額は,国会で収支予算が承認されることにより定められ(旧法37条4項[新法70条4項]),受信料の免除は,総務大臣の認可を受けた基準(旧法32条2項[新法64条2項])である日本放送協会受信料免除基準により行われることになっている。

 (2) 受信契約及び受信料債権の法的性質

   旧法32条1項(新法64条1項)は,「協会(日本放送協会)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定している。前述したとおり,同規定は,被控訴人の番組編成や報道等において,国家からの独立性及び中立性を確保し,被控訴人に課された公共性のある事業を遂行するため,被控訴人の放送を受信できる受信設備を設置した者に対し,被控訴人の放送の視聴の有無にかかわらず,被控訴人との受信契約の締結を義務付けるとともに,同契約に基づき,契約者は受信料の支払義務を負うこととしている(旧法32条2項[新法64条2項]参照)。これを受けて,規約は,受信契約の種別ごとに受信料月額に差異を設け,その上で実際の視聴時間と関係なく世帯単位で一律に定額の受信料を支払うべきことを義務付けている(規約5条)。

  上記の旧法32条1項(新法64条1項)の規定による受信契約の締結の義務付けは,被控訴人の独立性,中立性,公共性を確保しつつ自主財源を確保するため,放送法が定めた仕組みであること,被控訴人の放送を実際に視聴したか否か及びその視聴時間と関係なく受信料債権が発生すると定められていることからすると,受信料の法的性質は,放送の視聴と対価性のあるものとはいえず,放送法に基づき,公共放送を行う法人である被控訴人に徴収権が認められた特殊な負担金と解するのが相当である。

2 本件受信契約の無効(争点(1))

 (1) 民法1条2項,旧法1条[新法1条],憲法21条及び国民主権原理違反について

  控訴人は,旧法32条1項(新法64条1項)は,契約当事者間の信義則(民法1条2項),放送法の目的(旧法1条[新法1条]),憲法21条及び国民主権原理に反すると主張する。

  しかしながら,前記1で認定したとおり,旧法32条1項[新法64条1項]の受信契約の締結の義務付けは,被控訴人の独立性,中立性,公共性を確保しつつ自主財源を確保するため,放送法が定めた仕組みであると解されることからすると,旧法1条[新法1条]に反するものとはいえない。

  また,前記1で認定したとおり,受信契約において,放送の視聴と受信料の支払との間に直接の対価性は認められないけれども,被控訴人は,公共放送を行う法人としての目的を達成するため,一定の業務を行うことが義務付けられていること(旧法9条[新法20条]等),公共性を確保して適正に運営するための仕組みや,契約者からの受信料の適正な設定やその使途についても国会を通じて適正に監督される仕組みが備わっていることからすると,旧法32条1項(新法64条1項)は,信義則(民法1条2項)に反するとはいえない。

  さらに,旧法32条[新法64条]及び規約9条は,受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の受信料の支払を義務付けるだけであって,テレビ番組の視聴を強制したり制限するものではないから,控訴人の知る権利ないし表現の自由を侵害するものではなく,また,国民主権原理とは無関係である。

  したがって,控訴人の主張は理由がない。

 (2) 憲法19条違反について

  控訴人は,旧法32条1項(新法64条1項)は,受信設備を設置した者に被控訴人との契約締結を強制することを意味するから,憲法19条に違反すると主張する。

  憲法19条の「思想及び良心」とは,信仰に準ずる世界観,主義,主張等の個人の人格形成の核心をなすものを意味するものと解されるところ,旧法32条(新法64条)及び規約9条に基づき受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の受信料の支払が義務付けられるからといって,契約者の「思想及び良心」の自由に対する制約があるとは認められない。

  したがって,控訴人の主張は理由がない。

3 本件受信契約の解約による終了(争点(2))

  控訴人は,規約9条は受信契約の解約の方法を著しく制限し,消費者の利益を一方的に害する条項であるから,消費者契約法10条に反し無効であるところ,控訴人は,被控訴人に対し,平成16年2月ころ,本件受信契約の解約の意思表示をしたから,本件受信契約は終了していると主張する。

  これに対し,被控訴人は,控訴人が本件受信契約の解約の意思表示をした事実を否認しているところ,控訴人から何ら具体的な立証がない本件においては,控訴人が本件受信契約の解約の意思表示をした事実を認めることはできない。

  また,前記1及び2で認定・判断したとおり,旧法32条1項(新法64条1項)の規定は合理性を有し有効な規定であるところ,同規定によれば,被控訴人の放送を受信することができる受信設備を設置している限り,受信契約にの締結を義務付けているから,受信設備の廃止についての立証がない限り,受信契約の終了を認めることはできないところ,本件においては,控訴人から受信設備の廃止についての具体的な立証はない。

  (なお,前記1で認定したところによれば,旧法32条(新法64条)及び規約9条が,控訴人の主張する消費者契約法10条の「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たるとはいえない。)

  そうすると,その余の点については判断するまでもなく,控訴人の本件受信契約の解約による終了の主張は理由がない。

4 消滅時効の成否(争点(3))

 (1) 民法173条,174条について

 ア 控訴人は,本件受信料債権は,民法174条2号の「自己の労力の提供・・・を業とする者の・・・供給した物の代価に係る債権」に当たるから,消滅時効期間は1年であると主張する。

  しかしながら,同号の「自己の労力の提供を・・・業とする者」とは,使用者と従属関係に立たず,かつ,主として肉体的労力を提供する者を意味するものと解される(最高裁昭和36年3月28日第三小法廷判決・民集15巻3号617頁参照)ところ,被控訴人がこれに当たるとは認められない。

 したがって,控訴人の主張は採用できない。

 イ 控訴人は,本件受信料債権は,民法173条1号の「生産者・・・が売却した・・・商品の代価に係る債権」に当たるから,消滅時効期間は2年であると主張する。

  しかしながら,前記1で認定したとおり,受信料債権は対価性のない特殊な負担金としての性質を有するものであることに照らすと,生産者が売却した商品の「代価」であるとは認められない。この点は,利用の対価としての性質を有する電気料債権や水道料債権とは性質を異にするものと解される。

  したがって,控訴人の主張は採用できない。

 ウ 控訴人は,本件受信料債権は,民法173条2号の「自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作・・・することを業とする者の仕事に関する債権」に当たるから,消滅時効期間は2年であると主張する。

  民法173条2号の「自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作・・・することを業とする者」とは,同号の立法趣旨が手工業,家内工業的規模で注文により他人のために仕事をし,又は物を製造加工する者の代金決済が,社会の取引の実情に照らして短期に決済されるという点にあると解されることからすると,同号の物を製作することを業とする者には,近代工業的な機械設備を備えた製造業者のような者は含まれないと解するのが相当である(最高裁昭和44年10月7日第三小法廷判決・民集23巻10号1753頁参照)。

  これを本件についてみると,前記1で認定した被控訴人の事業の内容に照らし,被控訴人は「自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作」することを業とする者に当たるとは認められない。

  したがって,控訴人の主張は採用できない。

 (2) 民法169条について

  ア 民法169条は,「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権」(定期給付債権)について5年の短期消滅時効を規定する。

   その立法趣旨は,①弁済がないと直ちに債権者に支障が生ずる債権であるから速やかに請求され弁済されるのが通常であること,②通常それほど多額でないため受領証の保存が怠られがちであって後日の弁済の証明が困難であること,③定期金は長年放置された後に突然支払の請求をされると多額になって債務者が困窮することにあると解されている。そして,民法169条が適用されるものの具体例として,利息,賃料,小作料,扶養料,年金,給料等が挙げられる一方,単に分割払いの特約が付されているにすぎない債権は同条の適用外とされている。

  イ そこで,受信料債権について民法169条が適用されるか否かを検討する。

   受信料債権については,旧法32条(新法64条)を受けた規約5条及び6条において,契約者が受信契約に基づく受信料の支払義務を負うこと及びその月額受信料を2か月単位で支払うことが定められ,各期の弁済期の到来によって具体的な受信料債権(請求権)が発生することになっているものと認められる。そうすると,受信料債権については,前者の規約に基づき発生する受信料債権を基本権として,後者の具体的な受信料債権(請求権)が支分権として発生するという関係にあることが認められる。したがって,本件受信料債権については,定期給付債権の支分権に当たり,民法169条が適用されると解するのが相当である。

  また,民法169条の立法趣旨との関係をみると,上記立法趣旨のうち,①(迅速に行使されるのが通常)については,確かに,証拠(甲25)によれば,被控訴人において平成23年3月31日現在で受信料支払の延滞のある契約が204万件を超えている実態が認められるが,一方において,前記1で認定したとおり,被控訴人においては広告料収入の途が閉ざされており,受信料の収入によって自主的財源を確保することとしているのであって,それゆえ被控訴人は少額であっても本件訴えを提起しているのであり,受信料債権が「弁済がないと直ちに債権者に支障が生ずる債権」ではないなどと言うことはできず,上記実態は単に受信料債権の取立てが事実上困難であること等を示しているにすぎない。次に,②(受領証の保存を期待し難い)については,確かに,証拠(甲2,4)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人が平成20年10月1日に訪問集金制度を廃止したことが認められるが,それ以前においては少なからず訪問集金がされ,その場合には受信料支払の証拠が領収書のみであったのであり,現在訪問集金廃止から約3年半経過したにとどまり,未だ領収書等を紛失したとしても支払の記録を容易に確認することができる状態にまで至っていない。そして,③(長年放置後の突然の請求は債務者を困窮させる)については,受信料は低額に抑えられているとはいえ,契約者の収入や所得の状況にかかわらず,受信設備の設置者との間で受信契約の締結が義務付けられる仕組みとなっており,契約者の収入や所得の状況は多様であることからすると,長年放置後の突然の請求によって債務者が困窮することもあり得る。

  以上によれば,これらの趣旨は受信料債権にも相応に当てはまるものと言える。

  ウ この点について,民法学者であるA教授は,「日本放送協会の有する放送受信料債権と民法169条の適用について」と題する意見書(甲13。以下「本件意見書」という。)において,①受信料債権については,その基本権について民法168条1項は適用されず,その結果,特段の事情のない限り支分権について同法169条は適用されないし,また,特段の事情も存在しないこと,②同条の趣旨の一つとして,長年にわたって積み重なった額を一度に請求されると債務者が困窮するおそれがある,という点には債務者保護の側面だけでなく,債権者の懈怠に対するサンクションという面があるところ,被控訴人には,サンクションを加えるまでの懈怠があるとはいえないことを主たる理由として,受信料債権には同条は適用されないと述べている。

  しかしながら,上記①についてみると,本件意見書は,基本権について民法168条1項の適用がない場合には特段の事情のない限り支分権について同法169条の適用がないとする。しかし,本件意見書は,小作料債権や賃借料債権のように支分権につき同条の適用がある場合において,特段の事情があるときには,その基本権につき同法168条1項の適用を否定する事例があることを論証するにとどまっており,かかる論証から,基本権について同項の適用がない場合には特段の事情のない限り支分権について同法169条の適用がないとするのは,いささか論理が飛躍しており,上記見解を採用することはできない。

  そして,規約に基づき発生する抽象的な受信料債権と各期の弁済期の到来によって発生する具体的な受信料債権とは基本権と支分権の関係に立っており,このような関係にある債権のうち,支分権である受信料債権に民法169条が適用されることは前述したとおりである。基本権から派生した支分権としての性質を有し,民法169条の要件に該当する債権について同条の適用を排除すべき理由はないから,基本権である受信料債権に民法168条1項が適用されるか否かにかかわりなく,支分権である受信料債権には民法169条が適用されるというべきである。

  また,上記②については,従前,被控訴人は,契約者の任意の履行に期待して,受信料の強制的な徴収を差し控えてきたという経過がうかがえるけれども,前記1で認定した被控訴人の公共放送を行う法人としての役割及び受信料債権は対価性のない特殊な負担金としての性質を有することからすると,受信料負担の公平性が強く要請されるというべきであり,被控訴人において,長期間にわたる受信料の不払に対して適正な管理を怠るということになれば,債権者の懈怠という側面があることは否定できない。

  以上によれば,本件意見書の見解を採用することはできない。

  エ そして,前記前提事実(2)によれば,本件受信料債権の弁済期は,毎年4月1日から2か月ずつを1期とし,毎期末限りであることが認められ,前記前提事実(5) 及び(6) によれば,被控訴人は,平成23年1月22日,控訴人に対し,本件受信契約に基づき,平成16年12月1日から平成22年11月30日までの受信料合計9万9140円及びその遅延損害金の支払を求めて,旭川簡易裁判所に支払督促の申立てをしたこと,控訴人が被控訴人に対し,平成23年11月22日の本件口頭弁論期日において,本件受信料債権について民法169条の消滅時効を援用するとの意思表示をしたことは裁判所に顕著である。

   そうすると,本件受信料債権のうち,平成16年12月1日から平成17年11月30日までの分は,弁済期から民法169条所定の消滅時効期間である5年の経過により消滅したものと認められる。

5 結論

  以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,被控訴人は,控訴人に対し,平成17年12月1日から平成23年7月31日までの受信料及びこれに対する遅延損害金の請求をすることができるところ,前記前提事実(2)ないし(4)によれば,受信料額は,平成17年12月1日から平成20年9月30日までは月額1395円,同年10月1日から平成23年7月31日までは月額1345円であると認められる。

  したがって,被控訴人の請求は,被控訴人が控訴人に対し,本件受信契約に基づき,受信料9万3160円及びうち8万2400円に対する平成23年2月1日から,うち1万0760円に対する平成23年10月1日からそれぞれ支払済みの日が属する月の前月(支払済みの日が偶数月に属する場合)又は前々月(支払済みの日が奇数月に属する場合)の末日まで,約定の2か月当たり2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

  よって,本件控訴は一部理由があり,本件附帯控訴は全部理由があるから,原判決を上記限度で認容する旨に変更し,その余の被控訴人の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項前段,64条本文を,仮執行宣言につき同法310条本文を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

旭 川 地 方 裁 判 所 民 事 部

裁判長裁判官    田 口   治 美

裁判官         田 中   寛 明

裁判官          光   絢 子

 

 

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【Q&A】 借家の更新時に火災保険への加入を言われたが必要があるのか

2012年02月24日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 (問) 私は、2年前に、文化住宅に入居し、今年4月に契約更新を迎えます。家主の代理人を名乗る者から、「火災保険料を負担して火災保険を掛けること」を契約更新の条件にしたいとの申入れがありました。契約書を見ると、火災保険については何もふれられておりおりませんでしたので、断りたいと思っています。万一火災が発生したらどうしたらよいのでしょうか。


 (答) 契約更新は、当事者間で契約条件を変更することを合意して契約書を新たに結ぶ「合意更新」と契約条件を変更せずに、自動的に契約が更新される「法定更新」があります。

 家主が契約を拒絶した時は、「正当な事由」が必要であり、最終的に裁判所の判断で決まります。

 お問い合わせの例では、借主が火災保険を新たに掛けることを条件にして契約を更新することは、借主の同意が必要であり、借主が拒否してもその他の正当な事由がない限り、法定更新されます。

 家屋本体の火災保険は、貸主が負担して加入することであり、借主が火災保険を掛ける場合は家財道具など借主が万一火災による被災の補填です。

 借主が、自らの家財道具などに自己負担で火災保険に加入するかどうかは借主の判断です。

 なお、借主の火元で火災が発生しても、「失火に関する関する法律」によって借主の放火など社会通念に反する原因でない限り、類焼者へ損害賠償に応ずる必要はありません。

 

大借連新聞より


 以下の記述は、東京・台東借地借家人組合

 「失火ノ責任ニ関スル法律」では、「民法709条ノ規定ハ失火ノ場合ニ適用セス但シ失火者ニ重大ナ過失アリタルトキハ此ノ限リニアラス」。失火者に重過失がない限り、損害賠償を請求することが出来ないと規定されている。即ち、火災が単なる過失の場合は失火者の責任を免除している。重過失の場合だけ失火者に責任を負わせている。

 しかし、家主に対する関係においては、債務不履行上の賠償責任が生じる。借家人は借用建物又は部屋を善良な管理者の注意をもって保管する義務があり、また借用期間が満了となった際に借用建物を原状回復して返還する義務がある。

 従って、借家人の過失によって火災・爆発などの事故が生じ、家主の建物に損害が生じたときは、借家人は家主に対し借用建物返還義務が履行不能になることによる損害賠償責任を負わねばならない。

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未払いNHK受信料、短期消滅時効が適用され、5年分9万円支払い命令

2012年02月02日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 NHKが北海道旭川市内の男性に未払いの受信料の支払いを求めた訴訟の控訴審判決があり、旭川地裁の田口治美裁判長は、「受信料債権は民法169条に基づき定期給付債権の短期消滅時効が適用される」とし、NHKの訴えを全面的に認めた1審の旭川簡裁判決を取り消し、家賃やマンションの管理費などと同じ5年の短期の時効を適用し、男性に過去5年分の9万3160円の支払いを命じた。

 判決は1月31日。

 民法の定める請求権の消滅時効は、対象によって異なり、NHK側は不払い分の請求期間を「一般の債権」の10年として支払い訴訟を起こしている。この男性に対しては、約6年分の約11万円の支払いを求め、1審はNHKの主張を全面的に認め、男性側が控訴していた。

 

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一度下げた家賃を再び大幅値上げ請求された (東京・荒川区)

2011年12月16日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 Aさんは荒川区東日暮里4丁目で木造2階建店舗兼住宅(約30坪)を平成4年から借りている。そこで水道工事や水洗トイレの新設と修理業を営んでいる。

 Aさんは確かに借りた当時家賃が月額18万円だった。バブルが崩壊した後、一時的に仕事もなく家賃すら支払いに困難となり、平成14年に家主に減額を申入れた。家主の理解を得て月額16万円に値下げしてもらった。景気は一向に回復せず16万円の支払いも苦しい毎日だった。

 Aさんは廃業を覚悟し、平成18年に借家を返し他を借りると意を決して家主に申入れたところ、「そんなに大変なら家賃10万円で結構ですよ」といわれ現在に至っている。

 今年6月に家主の代理という娘に同行してきた不動産屋から家賃4万円の値上げを通告され、「値上げに応じない場合は裁判に訴える。弁護士にでも聞いてみろ、裁判すれば1回で追い出せる」と恫喝された。

 家主の娘の話では「家主は少し認知症なので今までの家賃減額の話はご破算にしてほしい。その上で4万円値上げする」とのことだった。

 Aさんは3者で弁護士のところに相談に行った。結果は家主側に分が悪く、家主側から何も言ってこなくなり、最近になって家主側から「仕方がないので同じ条件で借り続けて結構」との返事が届き、Aさんは一安心した。

 

東京借地借家人新聞より

 

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税務署が生活保護費を差押えたが、解除させ取戻した。(兵庫・尼崎市)

2011年12月14日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 尼崎借地借家人組合 田中組合長

 平成23年9月22日に尼崎借地借家人組合に「税務署に生活保護費を差押えられた何とかなりませんか」と電話が入りました。突然のことで何のことかわからないので事務所にすぐ来てもらい事情を聞きました。

 1、平成7年の阪神淡路大震災でビルが倒壊し、1年後、借入金でビルの再築をした。本人は平成22年末まで神戸で3階建ての自社ビルを持ち、2階と3階はテナントとして貸店舗、1階で婦人用靴店を親の代より経営していた。

 ところが平成21年にビルの名義人の母が亡くなり、相続問題で裁判となり、1,700万円を兄弟に支払うことになった。しかし、兄弟に支払う金がなく、兄弟はビルを差押え競売に掛けました。その結果、物件は3,500万円で売れたが、ビルは他人の手に渡り商売は廃業となりました。そのうち1,700万円は兄弟に支払い、残りはビル再建の時の借入金の残りを支払っても借金がまだ残り、税金も130万円未払となっていました。

 平成23年に入り3月には迷惑ばかりかけていた妻から離婚届けを出され何も言えず承諾しました。丸裸で家を出たが、無収入のため4月より生活保護を受給し細々と暮らしていました。

 2、ところが、平成23年9月16日に銀行のATMで家賃と生活費とを支払うため引出しにいったら、おどろいたことに通帳の打出しには24万5,000円の残高全額税務署の「差押え」で残高0円となっておりました。24万5,000円の残高は毎月福祉からの振込11万6,000円から3,000円、5,000円と少しずつ出し冬に向かって寒くなったら冬服を買う予定で苦しい中で残してきたお金です。

 全部税務署に持って行かれて1ケ月家賃が不払いとなれば家を追い出されてしまいます。手元に夕食代もなく困り果てて、お世話になっている「生活と健康を守る会」に相談に行ったが、差押えは解除にならず、それではと市会議員にも相談したが、ここでもうまくいきません。

 生活費は底をつき6日目には食べるものもなくなり餓死するしかないと思い、再度どこか相談するところがないかたずねた所、ひょっとしてここなら何とかなるかもしれないからと言われ、尼崎借地借家人組合を紹介され9月22日に相談に来ました。

 3、借家人組合ではさっそく、税務署に本人と同行し税務署の收税課と交渉。生活保護法第57条の公課の禁止と第58条の差押え禁止条項を示し、差押え解除を求めました。

 税務署側は本人の普通預金を差押え、生活保護費として押さえていないので解除できない、税務署は違法行為をしていないとつっぱねて来ました。

 本人の生活保護費振込預金通帳を提示し入金は保護費の入金しかなく、1ヶ月11万6,000円から少しずつ残した残高24万5,000円全部差し押さえられ、このままであれば本人は餓死するしかなく、預金の中身が生活保護費であることが判明すれば当然返還すべきと迫まりました。

 税務署は不正請求でないと言い張り、この日では結論がでず、23日~25日は3連休なので26日の月曜日に再度くるので、この人が餓死しないため最善を尽くすことを約束して引き上げました。

 4、私は3連休の行楽は全部キャンセルし、情報集めのため「生活保護問題対策全国会議」の代表である尾藤弁護士、日本共産党国会議員団、全国生活と健康を守る会連合会、インターネットによる、生活保護差押え判例などによる情報收集を行いました。

 全国生活と健康を守る会でも差押え解除の経験もなく、平成10年2月10日の最高裁の判決は「差押禁止債権は預金口座に振込まれば預金債務となると差押禁止債務としての性質を原則として承継しない」としているため差押えは違法でないという立場をとり、この判例を根拠に差押え解除を拒否していた。

 ところが下級審の判例を見てみると、東京高裁平成2年1月22日決定では「給付が受給者の預金口座に振込まれて金融機関に対する預金債務となった場合においても受給者の生活保持の見地からする右差押禁止の趣旨は尊重されるべきであり、右のような預金債務の差押命令は、取り消されるべきである」としている。

 5、私は下級審であっても道理に合った判決は尊重されるべきであるし、この見地からしても「差押え」は解除されるのが当然であると思いました。

 この問題解決の重要な点は、私は何人かの法律家に相談したが裁判をしなさい言われたました。しかし、裁判で勝ったとしても、それまで当人が生きておれるかという問題です。裁判を待たず直接交渉で、たとえ国家権力の税務署であっても、人間にとって一番大切な命を守る立場で交渉すれば早い解決で餓死しないですむと思います。たとえ税務署員でも一人の人間である限り人の命を奪ってでも法律的に違法でないと言って済ませることが出来なかったのではと思いました。

 6、私は9月26日(月)の連休明けに本人と尼崎税務署におもむき、生活保護受給者が税務署差押えで餓死者を出さないため下級審の平成2年1月22日の東京高裁の判決を取り入れ差押え解除を求めました。結果、平成23年9月26日付で生活保護費の入金預金口座の差押解除をしてくれることになった。

 

全国借地借家人新聞より

 

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【判例】 *共有不動産を使用する内縁の夫婦の一方が死亡した場合は

2011年10月26日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 判  例

平成6年(オ)第1900号 平成10年2月26日最高裁第一小法廷判決


(要旨)
 共有不動産を共同で使用する内縁の夫婦の間では、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認される

(内容)
件名 不当利得返還請求事件(最高裁判所平成6年(オ)第1900号平成10年2月26日第一小法廷判決、破棄差戻)
原審 福岡高等裁判所

 

主      文

 原判決中、上告人敗訴の部分を破棄する。
 前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

 


理      由

 上告代理人保田行雄の上告理由について
 1 原審の確定した事実及び記録によれば、本件の事実関係の概要は次のとおりである。

(1) 上告人と岡部勇とは、昭和34年ころから内縁関係にあって、楽器指導盤の製造販売業を共同で営み、本件不動産を居住及び右事業のために共同で占有使用していた。

(2) 勇は昭和57年に死亡し、本件不動産に関する同人の権利は、同人の子である被上告人が相続により取得した。

(3) 上告人は、勇の死亡後、本件不動産を居住及び右事業のために単独で占有使用している。

(4) 上告人と被上告人との間では、本件不動産の所有権の帰属をめぐる訴訟が係属し、被上告人は本件不動産が勇の単独所有であったと主張し、上告人は勇との共有であったと主張して争っていたところ、右訴訟において、本件不動産は上告人と勇との共有財産であったことが認定され、上告人がその2分の1の持分を有することを確認する旨の判決が確定した。

 2 本件は、被上告人が上告人に対し、上告人が本件不動産を単独で使用することによりその賃料相当額の2分の1を法律上の原因なく利得しているとして、不当利得返還を求めるものであり、原審は、上告人の持分を超える使用による利益につき不当利得の成立を認めて、被上告人の請求を一部認容した。

 3 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 共有者は、共有物につき持分に応じた使用をすることができるにとどまり、他の共有者との協議を経ずに当然に共有物を単独で使用する権原を有するものではない。しかし、共有者間の合意により共有者の一人が共有物を単独で使用する旨を定めた場合には、右合意により単独使用を認められた共有者は、右合意が変更され、又は共有関係が解消されるまでの間は、共有物を単独で使用することができ、右使用による利益について他の共有者に対して不当利得返還義務を負わないものと解される。そして、内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。けだし、右のような両者の関係及び共有不動産の使用状況からすると、一方が死亡した場合に残された内縁の配偶者に共有不動産の全面的な使用権を与えて従前と同一の目的、態様の不動産の無償使用を継続させることが両者の通常の意思に合致するといえるからである。

 これを本件について見るに、内縁関係にあった上告人と勇とは、その共有する本件不動産を居住及び共同事業のために共同で使用してきたというのであるから、特段の事情のない限り、右両名の間において、その一方が死亡した後は他方が本件不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。そうすると、右特段の事情の有無について審理を尽くさず、不当利得の成立を認めた原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分につき、右特段の事情の有無について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


(裁判長裁判官・ 小野幹雄  裁判官・遠藤光男  裁判官・井嶋一友  裁判官・藤井正雄  裁判官・大出峻郎)

 

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大震災と借地借家問題

2011年08月27日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 東借連は、夏季研修会を全借連と共催で7月23日午後1時半から豊島区のラパスホール会議室で37名の参加で開催した。今年は東日本大震災を受けて、首都圏や全国各地で大規模な地震などによる建物の倒壊などの問題に備えて「大震災と借地借家問題」というテーマで行なった。研修会は、佐藤富美男会長(全借連副会長)が司会を行い、冒頭河岸清吉全借連会長が開会の挨拶を行なった。

 はじめに、尼崎借地借家人組合の田中祥晃組合長より「阪神・淡路大震災での借地借家相談活動について」とテーマで報告がされた。阪神・淡路大震災当時、尼崎市の市民の26%が老朽化した木造借家に住んでいて被災を受け、マンションへの建替え等を理由に明渡し相談が激増した。大震災直後に全借連の支援を受け、「震災被災借地借家人の会」を立上げ、被災した借地借家人の権利を守るためのリーフレット2万部を作成し宣伝し、活発な相談会活動を行った。無料会員が3ヶ月で2千人入会し、その後の尼崎借地借家人組合の母体となった。当時の地上げ屋との交渉や立退き問題の調停裁判の様子などがリアルに報告された。

 次に、東借連常任弁護団の西田穣弁護士より「罹災と借地借家問題」と題して、罹災都市借地借家臨時処理法(罹災法)について、罹災法の権利内容として(1)罹災借家人の敷地優先賃借権、(2)罹災借家人の借地優先譲受権、(3)罹災借家人の建物優先賃借権以上について解説され、罹災借家人に特別な私法上の権利を付与しているのが罹災法の特徴であると指摘された。これらの権利について、日本弁護士連合会は改正を求める意見書を出しているために、政府も東日本大震災の被災地に適用する政令による指定が見送られている。罹災法がなぜ適用すると問題になるのか等について同法の問題点が明らかにされ、西田弁護士は罹災法について実効性のある制度にするために「建物を震災で失った借地人が簡易に借地権譲渡を可能とする規定の創設、借家人に対し優先賃借権を中心とする救済制度の再構築、家賃補助制度の創設が必要である」と強調した。

最高裁判決を受け更新料の対応学習
 西田弁護士は余談として、更新料・敷引契約をめぐる最高裁判決について報告。更新料をめぐる訴訟としてA更新料支払請求事件、B建物退去もしくは建物収居土地明渡請求事件(更新料不払による債務不履行)による賃貸借契約の解除、C支払済み更新料の不当利得返還請求事件について3つの類型毎に今後の対応について報告した。借家契約で更新料条項が明確で、1ヶ月~1・5ヶ月の条項で無効を争うのは困難であり、今後「更新料条項のない家屋を賃借する」といった運動を作っていく必要があるのではと問題提起した。討論の最後に、更新料の学習会を秋に開催することを確認した。

 

東京借地借家人新聞より

 

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罹災法で学習会を開く、日弁連の意見受け実効性ある制度に

2011年08月20日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 東日本大震災を受けて、7月23日の午後1時半から全借連と東借連は共催で「大震災と借地借家問題」というテーマで夏季研修会を開催しました。会場の東京都豊島区のラパスホール会議室には東京を中心に全国から37名が参加しました。研修会は、佐藤富美男副会長が司会を行い、冒頭河岸清吉全借連会長が開会の挨拶を行ないました。

 はじめに、尼崎借地借家人組合の田中祥晃組合長より「阪神・淡路大震災での借地借家相談活動について」とテーマで報告がされました。

 阪神・淡路大震災当時、尼崎市では老朽化した木造借家に住んでいる多くの市民が被災を受け、マンションへの建替え等を理由に明渡し相談が激増しました。大震災直後に全借連の支援を受け、「震災被災借地借家人の会」を立上げ、被災した借地借家人の権利を守るために活発な相談会活動を行ったことが報告されました。当時の地上げ屋との交渉や立退き問題の調停裁判の様子などがリアルに報告されました。

 次に、東借連常任弁護団の西田穣弁護士より「罹災と借地借家問題」と題して、罹災都市借地借家臨時処理法(罹災法)について、罹災法の権利内容として(1)罹災借家人の敷地優先賃借権、(2)罹災借家人の借地優先譲受権、(3)罹災借家人の建物優先賃借権以上について解説され、罹災借家人に特別な私法上の権利を付与しているのが罹災法の特徴であると指摘されました。

 これらの権利について、日本弁護士連合会は改正を求める意見書を出しているために、政府も東日本大震災の被災地に適用する政令による指定が見送られていると報告されました。

 西田弁護士は罹災法について実効性のある制度にするために「建物を震災で失った借地人が簡易に借地権を譲渡を可能とする規定の創設、借家人は優先賃借権を中心とする救済制度の再構築、家賃補助制度の創設が必要である」と強調しました。

 西田弁護士は、7月に判決が下された更新料・敷引契約をめぐる最高裁判決について報告。更新料をめぐる訴訟としてA更新料支払請求事件、B建物退去もしくは建物収去土地明渡請求事件(更新料不払による債務不履行)による賃貸借契約の解除、C支払済み更新料の不当利得返還請求事件について3つの類型毎に今後の対応について報告がありました。罹災法と更新料問題で講師に対して質疑応答がありました。

 

 

全国借地借家人新聞より

 

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更新料・敷引特約に関する最高裁判決に対する全借連の抗議声明 (2011年7月27日)

2011年07月30日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判所長官

竹博允 殿

2011年7月27日

全国借地借家人組合連合会

会長 河岸 清吉

〒160-0022 新宿区1-5-5-401

電話 03(3352)0448

 

更新料・敷引特約に関する最高裁判決に抗議する

 

 賃貸住宅の契約更新時に支払う「更新料の特約」及び入居時に預けた保証金を退去時に一定額を差し引いて返還する「敷引特約」に関し、最高裁は今年7月、「信義則に反し借りての利益を一方的に害するものとはいえない」と、両特約は有効との判決を下した。賃貸住宅の借主団体である当会は、以下の通り最高裁判決に抗議する。 

1、賃貸借契約の更新料は、住宅難の時代に「契約を更新したければお礼を払え」とばかりに、借主の弱みに付け込んで請求したのが始まりで、そもそも法的な根拠の不明な金銭を授受している。旧借地法・旧借家法、及び借地借家法では、賃貸借契約の更新時に貸主には明渡しを求める「正当事由」がなければ、契約の更新を拒絶することはできないことになっている。賃貸借契約の更新料を支払わなくても、契約は「法定更新」ができることになっている。今回の判決では、更新料を支払わなければ契約の更新を認めないというもので、借主を保護する借地借家法の根幹を揺るがすものであり、断じて許されない。非正規雇用の勤労者や低所得者の多くは借家住まいであり、毎月の家賃を支払うのが精一杯で、更新料を支払う余裕がないのが実態である。今回の判決によって、特約で約束した更新料を支払えない借主は、住み続けることすら困難になるなど借主保護に逆行した判決である。 

2、最高裁判決では「高過ぎなければ有効」と、家賃の3・5倍の敷引特約や1年契約で2ヶ月分余りの更新料特約も「高過ぎるとはいえない」と判断したが、借主の事情を全く知らないか「契約したのだから払うのが当然」という、消費者保護の精神をかなぐり捨てた事業者である貸主擁護の判決といわざるを得ない。

 空室が多くなり、「借主=弱者」ではなくなったのでないかとする見方があるが、現在は、貸主の多くが賃貸建物の管理を不動産会社に委託し、サブリース契約で不動産会社が貸主になっている事例が増えている。不動産会社は、貸主がお客であり、借主は事業収益の拡大の対象としか見てない。不動産会社の賃貸借契約はお客である貸主に有利な契約書を作成し、更新料や敷引特約が横行する大きな理由になっている。プロである不動産業者と賃貸借契約の知識や法律知識の乏しい借主とでは、情報力・交渉力でも大きな格差があり、不動産会社に更新料のない物件を紹介してもらうことはほとんど不可能である。インターネットなどでは賃貸借契約の詳細な条件の情報は掲載されておらず、正確な情報を事前に知ることは困難である。 

3、更新料の性質について「賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的性質を有するもの」と解しているが、意味不明な説明で到底理解できるものではない。不動産会社や管理会社が、契約更新料の中から一定額を更新の報酬として受け取っているのが実態である。従って、これまで不動産会社が更新料や敷引について明確な説明ができなかったのは、法的に根拠のない金銭を徴収するために、意味不明にしてきたのである。

 更新料は「事実たる慣習ではなく」、関東や京都などごく一部の地域的だけに限定されている。今回の不当判決によって、従来更新料特約の慣例のない地域へも波及することが十分考えられ、賃貸借をめぐる紛争が激化する恐れがある。更新料の特約のない契約では、更新料の支払い義務はなく、更新料を請求できない。特約で借主をしばり、強引に徴収してきたのが更新料であり敷引契約である。仮に、更新料の特約がある契約は、更新料の特約がない契約と比べ、家賃が割安であるという事実があるというのであれば、賃料補充の説明がつくかもしれないが、そのような実態はなく、更新料の有り無しで家賃の額に差があるという根拠もない。更新料が前家賃であるならば、契約の途中で借主が解約したならば、更新料を経過日数で返還する規定を設ける必要があるが、不動産会社は更新後1ヶ月後に解約しても更新料を返還したことはなく、賃料補充とする根拠はなく、判決は「複合的性質」と苦しまぎれな説明をしているのにすぎない。 

4、借主は賃貸建物を使用収益する対価として「賃料」を支払っている。貸主は、礼金・更新料・敷引契約などによって、説明することができない、根拠の不明な金銭を請求すべきではない。世界的にも更新料など意味不明な一時金を徴収しているのは日本だけであり、こうした悪習慣を蔓延させているのは、日本の不動産業界の古い体質そのものにある。今回の最高裁判決は、消費者に説明の出来ない不当な契約を見直し、透明性のある賃貸借契約に改善させていかなければならないという時代の要請にも逆行するものである。

私たちは借主団体として更新料や礼金、敷引を廃止し、不透明な賃貸借契約を公正で透明性のある賃貸借契約を改善させるために、引き続き運動を継続していくことを表明する。

全国借地借家人組合連合会HPより

 

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名古屋で「借地借家問題を考える会」が結成される (愛知・名古屋市)

2011年05月23日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 名古屋市昭和区の宗教法人A寺(地主)の寺領地(借地)に約350世帯の借地人が、地代値上げや更新料、名義変更料など地主の一方的な請求に、これまで応じてきました。

 地主側の執事が不動産業者に交代したことを契機にして、借地人の実態調査するためにアンケートが送られてきました。

 2010年6月21日、鶴舞総合法律事務所の弁護士の支援をうけて借地人の有志が呼びかけて「借地借家問題勉強会」を開き約70名の借地人が参加しました。3名の世話人を選び、「借地借家問題を考える会」が結成されました。

 その後、数回の「勉強会」が開かれ、借地人が疑問や不安に感じている事柄について弁護士の支援で学習し、地主側へ公開質問状を提出し回答を求めてきました。しかし、回答内容は、借地人に納得が得られるものではありませんでした。

 「考える会」は、借地借家人組合の活動や全借連運動の成果などについてヒヤリングしたいと、2011年3月28日船越康亘全借連副会長へ要請し、4月17日、「考える会」の連絡事務所となっている鶴舞総合法律事務所で世話人および弁護士等5名が参加し懇談を行いました。

 当日、「考える会」側からは、活動状況を報告、全借連からは全借連運動の歴史と成果など報告し、約3時間懇談しました。その中で、名古屋市の区役所が固定資産税課税台帳を借地借家人へ公開していないことが報告されました。参加者からは、名古屋市内に全借連があれば資料や情報が得られたのにと述べていました。

 翌日船越副会長は、名古屋市と昭和区役所へ事実を確認したところ、公開できることを窓口職員へ徹底していなかったことが明らかになりました。

 「考える会」は、早速区役所へ固定資産評価証明書を請求したところ、発行されました。「考える会」の事務局を担当されているBさんは「懇談会でたくさんのことを学びました。近々中に相談をしてあらためて全会員を対象に学習会を企画するのでぜひ名古屋に来てもらいたい」と要請されました。

 世話人会は、現在「考える会」に参加する借地人49名をもっと増やし、借地人の正当な権利が守られ、安心して住み続けられることを願い、2011年4月23日「借地借家問題を考える会」春の交流会を企画しました。当日は、3名の弁護士も参加し個別相談にも応じました。また、「演劇で学ぶ借地問題」を企画し、参加者の交流を行いました。

 

全国借地借家人新聞より

 

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【Q&A】 私道の通行

2011年05月17日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

【問】 私の借地は私道の行き止まりにあります。現在、地主が地代値上げを請求し、認めなければ公道の出入り口に鉄柵を作って車の出入りを禁止するといっています。何とかならないでしょうか。


【答】 この私道は、地主が所有しているものと思われます。地主は、借地人に私道の行き止まりにある土地を貸したのですから、土地賃貸借契約に基づき当然その私道を通行させる義務を負っています。私道の通行を認めなければ借地を宅地として使用することができないわけですから、これは当然のことです。(註1)

 このことについては、最高裁判所の判決(昭和44年11月13日)が次のように述べています。
 「公道に面する一筆の土地の所有者が、その土地のうち公道に面しない部分を他人に賃貸し、その残余地を自ら使用している場合には、所有者と賃借人の間において通行に関する別段の特約をしていなかったときでも、所有者は、賃借人に対し賃借に基づく賃貸義務の一内容としてこの残余地を賃貸借契約の目的に応じて通行させる義務がある」

 次の問題は、通行権の内容として、車を通行させることができるかということです。現在、自動車の保有率が高まり、家庭にとってなくてはならないものになっているのですから、車による通行権はあるというべきです。この種の争いは、地主と借地人という関係にはない土地所有者と隣地土地所有者との間でよく起こるトラブルですが、その裁判例は具体的なケースによって結論が違っています。車が通行する幅があるかどうか、私道の利用状況はどうか、現状を変更しなくて車が通行ができるか、隣地の不利益はどうかなど、様々なことを考慮して、車の通行が認められるかどうかが判断されています。(註2)

 しかし、ご質問の場合地主との関係ですし、今まで車で通行していた実績があるわけです。また、車の通行によって格別地主に損害が発生するわけでもありません。地代増額要求の手段として通行を禁止しようとしている事情を見れば、車による通行が認められるでしょう。

 では、車の出入りを認めるから私道の地代を支払えと言われたらどうでしょうか。地主が借地人に対して私道の通行権を認めるのは、私道を使わなければ利用できない宅地を貸したことによって発生する地主の義務ですから、私道の地代を払うか払わないかとは関係ありません。私道の地代を払わなくても地主には私道を通行させる義務があるのですからです。

 

東借連常任弁護団解説

Q&A あなたの借地借家法

(東京借地借家人組合連合会編)より


(註1) 【判例紹介】 公道に面する一筆の土地の内公道に接しない賃借人に通行権を認めた事例

(註2)最高裁判所は平成18年3月16日判決で、通行権に関して新判断を下した。「自動車の通行を前提とする民法210条(*)の通行権の成立を否定した原審の判断には、判決に影響を及ぼす明らかな法令違反がある」として自動車の通行権を否定した東京高裁判決を破棄し、再び東京高裁へ差戻した。即ち、民法210条の通行権は自動車の通行を前提にしたものという解釈に改められた。

(*)民法210条「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、行動に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」

(註)は東京・台東借地借家人組合

 

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【判例】 退去時に造作買取請求権を行使したが設置したエアコンの買取りが認められなかった事例

2011年05月12日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

判例紹介

平成22年1月25日判決 言渡 東京簡易裁判所

平成21年(少コ)第3065号 敷金返還等請求事件(通常手続移行)

口頭弁論終結日 平成22年1月6日

 

判        決

主        文

 

       1 原告の請求をいずれも棄却する

       2 訴訟費用は,原告の負担とする。

 

事 実 及 び 理 由

第1 請求

 1 被告は,原告に対し,10万5000円及びこれに対する平成21年4月20日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

 2 被告は,原告に対し,7万5670円及びこれに対する平成21年5月10日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

 3 訴訟費用は,被告の負担とする。

 4 仮執行宣言

第2 事案の概要

 1 請求の原因の要旨

 (1) 原告は,下記のとおり被告から下記記載の物件を借り受けた(以下「本件賃貸借契約」という。)。

 

      記

 契約日・・・・・・・・・・・・・・平成20年5月22日

 賃借物件の所在地・・・・東京都中央区 a 町 b 番 c 号

 建物名称・・・・・・・・・・・・X

 住戸番号・・・・・・・・・・・・d 号室(以下「本件住居」という。)

 家賃・・・・・・・・・・・・・・・・月額30万2600円

 敷金・・・・・・・・・・・・・・・・90万7800円

 期間・・・・・・・・・・・・・・・・平成20年5月29日から平成21年5月28日まで

 (2) 原告と被告は,家賃の支払方法について,平成20年5月22日,1年分(373万4000円)を前払いする旨合意し,同日,原告は,被告に対し,同額を支払った。

 (3) エアコンの設置
  本件建物は,地上22階のいわゆるタワーマンションで,築年数5年程度と新築に近いものであったが,本件建物の各住居の標準装備として,エアコンが設置されていなかった。

  そこで,原告は,本件住居に入居すると同時に,3つのエアコン(A社製eee-fff,B社製 ggg-hhh,C社製 iii-jjj)(以下「本件エアコン」という。)を持ち込み,本件住居に取り付けた。

  (4) 原告の退去等
  ア 原告は,被告に対し,平成21年4月2日,本件賃貸借契約を同月19日付けで解約する旨の意思表示をした。

  イ 同月14日,被告は,本件住居を訪れ,敷金から控除すべき損害がないか査定したが,そのような損害はないとの結論になった。

  ウ 同日ころ,被告との賃貸借契約書を確認した原告は,造作買取請求権について特約で排除されていないことに気づき,被告のDに電話し,同請求権を行使する意思表示をした。

  エ 同月19日の明渡し期限を迎えた原告は,本件エアコンとそのリモコンのみを残して本件住居を明け渡した。

  オ 原告は,同月27日,内容証明郵便にて造作買取代金の支払を催告し,同書面は同月30日に被告に到達した。

 
 (5) 請求額
  ア 造作買取代金   各下取り額に取り外し費用2万5000円を加えた 合計 10万5000円
  この債権は,本件契約が終了した平成21年4月19日が弁済期となり,その翌日である20日から被告は遅滞に陥っている。

  イ 不当利得
  本件エアコンは,原告の造作買取請求権の行使により,被告所有になったものであるが,被告は,これを自らの意思で撤去したにもかかわらず,これにかかった費用を原告の負担に帰せしめ,原告に返還すべき敷金から7万5670円を控除した。この控除は,法律上の原因がないものであり,同額について,原告の損失によって被告が利得を得ていることは明らかであり,不当利得となる。この不当利得返還請求権は,少なくとも敷金が返還されるべき契約解除日たる平成21年4月19日から3週間後の5月10日から被告は遅滞に陥っている。

 (6) よって,原告は,被告に対し,造作買取代金として10万5000円及びこれに対する平成21年4月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,不当利得返還請求権として7万5670円及びこれに対する同年5月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。


2 被告の主張の要旨
 (1) 被告がエアコンを設置していない事実は認めるが,原告が入居と同時に3台のエアコンを取り付けたことは知らない。

 (2) 原告が,エアコンについて造作買取請求権を行使する旨の意思表示を行ったことは認める。これに対し,被告担当者は,エアコン3台が設置された箇所にはエアコン設置のためのスリープ,コンセント,補強板が既に取り付けられており,そこに設置したエアコンについては容易に取り外しができるものであるから造作買取請求権の対象ではない旨説明している。被告は,本件エアコンの設置について許可しているが,造作買取請求までも認めてはいない。

  (3) 被告は,本件住宅についてはエアコン設置のためのスリープ,コンセント,補強板が既に取り付けてあり,このような住宅にあっては,設置は勿論のこと,取り外しについてもエアコンを毀損せず容易にできるものであるから,これは借地借家法33条の造作にあたるとはいえない。原告の造作買取請求は理由がなく,原告は原状回復としてエアコン3台を取り外さなければならないにもかかわらず,それをせず放置したのであるから,被告がそれらの撤去に要した費用を敷金から控除するのは適法なことであり,何ら不当利得となるものではない。


3 争点
  エアコンは造作買取請求権の対象となる造作か否か

第3 判断
  1 証拠及び弁論の全趣旨から次の事実が認められる。

 (1) 本件エアコンは,一般家庭用ルームエアコンであり(乙2),本件建物には,エアコン取り付け箇所が用意されており,そこにはコンセント及びスリープが設置されていること(乙3)。

 (2) 本件賃貸借契約には,造作買取請求に関しての定めはされていないこと(甲2)。

 (3) 証人Eの証言によれば,乙3号証の写真に示される部屋は,原告が使用していた部屋と同型のものであるが,室内の壁面にコンセント,その隣に丸い取り外し可能なスリープが設置されており,エアコンを取り付けるときには室内機の裏側を補強板に取り付けるが,ビスで取り付けるだけであるから,何ら建物を毀損するということはないこと,また,これまでエアコンの件で買取請求されたケースは記録上もないこと等の事実

 2 ところで,建物賃貸借において,賃貸人の同意を得て建物に附加した造作については,賃貸借終了時に賃貸人に対し,これを時価で買い取ることを請求で きる(借地借家法33条)。ここにいう造作とは,建物に附加された物件で賃借人の所有に属しかつ建物の使用に客観的便益を与えるものをいい,賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため,特に附加した設備の如きを含まない(最高裁判所昭和29年3月11日判決民集8巻3号672頁,最高裁判所昭和33年10月14日判決民集12巻14号3078頁)。附加とは,建物の構成部分となったものでもなく,家具のように簡単に撤去できるものでもなく,その中間概念であり,賃借人の所有に属し,賃借人が収去することによって,そのものの利用価値が著しく減ずるものであると解される。

 3 そうすると,本件エアコンは,上記認定事実によれば通常の家庭用エアコンであって,本件建物専用のものとして設えたものではなく汎用性のあるものであり,これを収去することによって,本件建物の利用価値が著しく減ずるものでもなく,また,取り外しについても比較的容易であるものと認められることから,本件建物に附加した造作と認めることは難しく,造作買取請求の対象とならないものとみるのが相当である。

 4 よって,原告の請求は,その余を判断するまでもなく理由がなく,主文のとおり判決する。

 

                        東京簡易裁判所民事第9室

                                         裁 判 官  野 中  利 次

 

 

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賃貸住宅の礼金・中途解約時の返還命令 大阪簡裁

2011年04月16日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

賃貸住宅の礼金・中途解約時の返還命令 大阪簡裁
 

  賃貸住宅の礼金支払いを義務づけた契約条項の有効性が争われた訴訟の判決で、大阪簡裁が中途解約時の返還に応じない契約を無効と判断し、家主側に一部返還を命じていたことが13日、分かった。判決は3月18日付。原告側代理人によると、礼金の返還を認めた判決は初めて。

  原告は大阪市内の男性(24)。平成21年12月、市内の賃貸物件に入居する際、1年契約で礼金12万円を支払ったが、2カ月足らずで転居した。

 判決理由で篠田隆夫裁判官は「礼金の主な性質は賃料の前払いで、建物使用の対価に当たる」と指摘。契約満了前に退去したケースで「未使用期間に対応する礼金の返還は当然」と述べ、中途解約でも返還しないとする契約内容は「消費者利益を一方的に害し無効」と判断した。

  そのうえで男性の未使用期間を10カ月と認定し、謝礼などを引いた9万円の返還を家主に命じた。礼金条項そのものが違法とする原告側の主張については「礼金にも一定の合理性がある」として退けた。


 2011年4月14日 産経新聞

 

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