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【判例】*改良住宅の入居者が死亡した場合において、市長の承認を受けて死亡時に同居していた者等に限り使用権の承継を認める京都市市営住宅条例は、公営住宅法等に違反し、違法、無効とはいえない

2018年12月12日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

平成29年(受)第491号 居住確認等請求本訴、家屋明渡等請求反訴事件


改良住宅の入居者が死亡した場合において、市長の承認を受けて死亡時に同居していた者等に限り使用権の承継を認める京都市市営住宅条例(平成9年京都市条例第1号)24条1項は、住宅地区改良法29条1項、公営住宅法48条に違反し違法、無効であるとはいえない
(最高裁平成29年12月21日 第一小法廷判決)



      主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


      理   由
 上告代理人河田創、同中道滋の上告受理申立て理由第3について

1 本件本訴は、上告人が、被上告人(京都市)の所有する住宅地区改良法(以下「法」という。)2条6項の改良住宅である第1審判決別紙物件目録記載1の住宅(以下「本件住宅」という。)を使用する権利(以下「使用権」という。)を上告人の母であるAから承継したなどと主張して、被上告人に対し、本件住宅の使用権及び賃料額の確認等を求めるものであり、本件反訴は、被上告人が、本件住宅を占有する上告人に対し、所有権に基づく本件住宅の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求めるものである。

2 改良住宅に関する関係法令の定めは、次のとおりである。
(1) ア  法は、不良住宅が密集する地区の環境の整備改善を図り、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅の集団的建設を促進し、もって公共の福祉に寄与することを目的とするものである(1条)。

イ  住宅地区改良事業の施行者は、市町村又は都道府県であり(法3条)、同事業において、改良地区内の不良住宅を除却しなければならず(法10条)、そのため必要がある場合においては、当該住宅又はこれに関する所有権以外の権利を収用することができ、その収用に関しては、土地収用法の規定を適用するものとされている(法11条1項、16条1項)。

ウ  施行者は、国土交通大臣による改良地区の指定の日において、当該地区内に居住する者で、住宅地区改良事業の施行に伴いその居住する住宅を失うことにより、住宅に困窮すると認められるものの世帯の数に相当する戸数の改良住宅を原則として当該地区内に建設しなければならないとされている(法17条1項、3項)。そして、上記指定の日から引き続き当該地区内に居住していた者等で、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失ったものその他の法18条各号に掲げる者については、改良住宅への入居を希望し、かつ、住宅に困窮すると認められるものを改良住宅に入居させなければならないとされている(同条)。

エ  国の補助を受けて建設された改良住宅の管理については、改良住宅を公営住宅法に規定する公営住宅とみなして、公営住宅の管理に関する同法27条1項から4項までが準用されている。他方、公営住宅の入居者が死亡した場合において、その死亡時に当該入居者と同居していた者につき、事業主体の承認を受けて引き続き当該公営住宅に居住することができる旨を定めた同条6項(平成8年法律第55号により新設されたもの)は準用されていない(法29条1項)。

オ  国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者は、当該改良住宅に引き続き3年以上入居している場合において政令で定める基準を超える収入のあるときは、当該改良住宅を明け渡すように努めなければならないとされている(法29条3項、平成8年法律第55号による改正前の公営住宅法(以下「旧公営住宅法」という。)21条の2)。


(2)  施行者は、国の補助を受けて建設された改良住宅の管理について必要な事項を条例で定めるものとされており(法29条1項、公営住宅法48条)、被上告人は、改良住宅及び公営住宅を含む市営住宅の管理等について京都市市営住宅条例(平成9年京都市条例第1号。以下「本件条例」という。)を制定している。本件条例24条1項は、改良住宅の入居者が死亡した場合において、その死亡時に当該入居者と同居していた者で、入居の承認に際して同居を認められていた者又は同居の承認を受けて同居している者(以下、併せて「死亡時同居者」という。)は、市長の承認を受けて、引き続き、当該改良住宅に居住することができる旨を定めている。

 

3  原審の適法に確定した事実関係等のの概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、平成20年1月、Aに対し、法18条所定の改良住宅に入居させるべき者に当たるとして、国の補助を受けて建設された本件住宅を賃貸して引き渡した。

(2)  上告人は、平成22年5月頃からAを介護するため本件住宅に同居したが、京都市長に対し、本件条例に基づく同居の承認を申請しなかった。

(3)  Aは、平成25年9月に死亡した。

(4)  上告人を含むAの相続人の間で、平成27年7月、上告人が本件住宅の使用権を取得する旨の遺産分割協議が成立した。

4  原審は、要旨次のとおり判断して、上告人による本件住宅の使用権の承継を否定した。
公営住宅の入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継するものではないと解されるところ(最高裁平成2年(オ)第27号同年10月18日第一小法廷判決・民集44巻7号1021頁)、法の規定及びその趣旨に照らすと、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合についても、公営住宅の場合と同様に、当該入居者の相続人が改良住宅の使用権を当然に承継すると解する余地はない。そうすると、本件条例24条1項は、法の規定の趣旨に違反するとはいえない。

5  所論は、原審の上記判断は、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合について、住宅に困窮する低額所得者に賃貸される公営住宅の場合と同様に解したものであって、法の規定の解釈を誤った違法があり、相続人による当該使用権の承継を制限した本件条例24条1項は、法29条1項に違反し違法、無効であるというものである。

6 (1)  前記2(1)に掲げた法の規定及びその趣旨に鑑みれば、改良住宅は、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失うことにより住宅に困窮した改良地区内の居住者を対象として、建設されるものということができる。また、法は、公営住宅の入居者が死亡した場合における使用権の承継について定めた公営住宅法27条6項を準用していない。そうすると、改良住宅の法18条に基づく入居者が死亡した場合における使用権の承継については、直ちに、住宅に困窮する低額所得者一般に対して賃貸される公営住宅の場合と同様に解することはできないというべきである。

(2)  ところで、法18条は、改良住宅に入居させるべき者について、改良住宅への入居を希望し、かつ、住宅に困窮すると認められるものに限定しており、住宅地区改良事業に伴い住宅を失った者の全てについて、無条件に改良住宅への入居を認めるものではない。そして、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者は、当該改良住宅に引き続き3年以上入居している場合において政令で定める基準を超える収入のあるときは、当該改良住宅を明け渡すように努めなければならないともされている(法29条3項、旧公営住宅法21条の2第1項)。また、改良地区内の居住者が従前の住宅につき有していた所有権その他の権利に対しては、施行者が金銭をもって補償することが予定されている(法11条1項、16条1項参照)。

そうすると、施行者が住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失った者等を改良住宅に入居させることは、上記権利に対する補償ではなく、上記の者等の居住の安定を図るために義務付けられるものであるということができる。

以上によれば、国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合における使用権の承継については、民法の相続の規定が当然に適用されるものと解することはできない。そして、上記の場合における使用権の承継について、施行者が、法の規定及びその趣旨に違反しない限りにおいて、法29条1項、公営住宅法48条に基づき、改良住宅の管理について必要な事項として、条例で定めることができるものと解される。

(3)  本件条例24条1項は、改良住宅の入居者が死亡した場合において、死亡時同居者に限り、市長の承認を受けて、引き続き当該改良住宅に居住することができると定めている。上記規定の趣旨は、前記のとおり、改良住宅が、住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失った者等の居住の安定を図る趣旨のものであることを踏まえて、改良住宅の入居者死亡時における使用権の承継を死亡時同居者に限定したものと解することができる。そうすると、本件条例24条1項は、法の規定及びその趣旨に照らして不合理であるとは認められないから、法29条1項、公営住宅法48条に違反し違法、無効であるということはできない。

以上によれば、上告人による本件住宅の使用権の承継を否定した原審の判断は、是認することができる。論旨は採用することができない。

なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。


よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


   (裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口 厚)

 

 

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【判例】*地代等自動改定特約による地代額が不相当になったときは、地代増減請求が出来るとされ事例

2018年12月11日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

地代自動改定特約による地代額が不相当になったときは、地代増減請求が出来るとされ事例
(最高裁平成15年6月12日判決 民集57巻6号595頁)

 

       主   文
 原判決を破棄する。
 被上告人の請求についての本件控訴を棄却する。
 上告人の請求に関する部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 第2項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。


       理   由
 上告代理人遠藤光男、同高須順一、同高林良男の上告受理申立て理由について
 1 本件は、本件各土地を被上告人から賃借した上告人が、被上告人に対し、地代減額請求により減額された地代の額の確認を求め、他方、被上告人が、上告人に対し、地代自動増額改定特約によって増額された地代の額の確認を求める事案である。

 2 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人は、大規模小売店舗用建物を建設して株式会社ダイエーの店舗を誘致することを計画し、昭和62年7月1日、その敷地の一部として、被上告人との間において、被上告人の所有する本件各土地を賃借期間を同月20日から35年間として借り受ける旨の本件賃貸借契約を締結した。

 (2) 被上告人及び上告人は、本件賃貸借契約を締結するに際し、被上告人の税務上の負担を考慮して、権利金や敷金の授受をせず、本件各土地の地代については、昭和62年7月20日から上告人が本件各土地上に建築する建物を株式会社ダイエーに賃貸してその賃料を受領するまでの間は月額249万2900円とし、それ以降本件賃貸借契約の期間が満了するまでの間は月額633万1666円(本件各土地の価格を1坪当たり500万円と評価し、その8%相当額の12分の1に当たる金額)とすることを合意するとともに、「但し、本賃料は3年毎に見直すこととし、第1回目の見直し時は当初賃料の15%増、次回以降は3年毎に10%増額する。」という内容の本件増額特約を合意し、さらに、これらの合意につき、「但し、物価の変動、土地、建物に対する公租公課の増減、その他経済状態の変化によりα(被上告人)・β(上告人)が別途協議するものとする。」という内容の本件別途協議条項を加えた。

 (3) 本件賃貸借契約が締結された昭和62年7月当時は、いわゆるバブル経済の崩壊前であって、本件各土地を含む東京都23区内の土地の価格は急激な上昇を続けていた。従って、当事者双方は、本件賃貸借契約とともに本件増額特約を締結した際、本件増額特約によって、その後の地代の上昇を一定の割合に固定して、地代をめぐる紛争の発生を防止し、企業としての経済活動に資するものにしようとしたものであった。

 (4) ところが、本件各土地の1㎡当たりの価格は、昭和62年7月1日には345万円であったところ、平成3年7月1日には367万円に上昇したものの、平成6年7月1日には202万円に下落し、さらに、平成9年7月1日には126万円に下落した。

 (5) 上告人は、被上告人に対し、前記約定に従って、昭和62年7月20日から昭和63年6月30日までの間は、月額249万2900円の地代を支払い、上告人が株式会社ダイエーより建物賃料を受領した同年7月1日以降は、月額633万1666円の地代を支払った。

 (6) その後、本件各土地の地代月額は、本件増額特約に従って、3年後の平成3年7月1日には15%増額して728万1416円に改定され、さらに、3年後の平成6年7月1日には10%増額して800万9557円に改定され、上告人は、これらの地代を被上告人に対して支払った。
 しかし、その3年後の平成9年7月1日には、上告人は、地価の下落を考慮すると地代を更に10%増額するのはもはや不合理であると判断し、同日以降も、被上告人に対し、従前どおりの地代(月額800万9557円)の支払を続け、被上告人も特段の異議を述べなかった。

 (7) さらに、上告人は、被上告人に対し、平成9年12月24日、本件各土地の地代を20%減額して月額640万7646円とするよう請求した。しかし、被上告人は、これを拒否した。

 (8) 他方、被上告人は、上告人に対し、平成10年10月12日ころ、平成9年7月1日以降の本件各土地の地代は従前の地代である月額800万9557円を10%増額した月額881万0512円になったので、その差額分(15か月分で合計1201万4325円)を至急支払うよう催告した。しかし、上告人は、これを拒否し、かえって、平成10年12月分からは、従前の地代を20%減額した額を本件各土地の地代として被上告人に支払うようになった。


 3 本件において、上告人は、被上告人に対し、本件各土地の地代が平成9年12月25日万7646円であることの確認を求め、他方、被上告人は、上告人に対し、本件各土地の地代が平成9年7月1日以降月額881万0512円であることの確認を求めている。


 4 前記事実関係の下において、第1審は、上告人の請求を一部認容し、被上告人の請求を棄却したが、これに対して、被上告人が控訴し、上告人が附帯控訴したところ、原審は、次のとおり判断して、被上告人の控訴に基づき、第1審判決を変更して、上告人の請求を棄却し、被上告人の請求を認容するとともに、上告人の附帯控訴を棄却した。

 (1) 本件増額特約は、昭和63年7月1日から3年ごとに本件各土地の地代を一定の割合で自動的に増額させる趣旨の約定であり、本件別途協議条項は、そのような地代自動増額改定特約を適用すると、同条項に掲げる経済状態の変化等により、本件各土地の地代が著しく不相当となる(借地借家法11条1項にいう「不相当となったとき」では足りない。)ときに、その特約の効力を失わせ、まず当事者双方の協議により、最終的には裁判の確定により、相当な地代の額を定めることとした約定であると解すべきである。

 (2)ア 本件各土地の価格は、昭和62年7月1日以降、平成3年ころまでは上昇したものの、その後は下落を続けている。

 イ しかし、総理府統計局による消費者物価指数(全国総合平均)は、昭和62年度を100とすると、平成3年度が109.66に、平成6年度が113.69に、平成9年度が115.75に、それぞれ上昇している。また、日本銀行調査統計局による卸売物価指数は、昭和62年度を100とすると、平成3年度が104、平成6年度が100、平成9年度が98であり、それほど大幅には変動していない。また、本件各土地の公租公課(固定資産税・都市計画税)は、昭和62年7月1日には1㎡当たり6000円であったのが、平成3年7月1日には同6740円に、平茂6年7月1日には同8090円に、それぞれ上昇しており、本件各土地のうち面積が最も広い地番141番51の土地の固定資産税・都市計画税の合計は、平成6年度には84万4103円であったのが、平成9年度には117万4570円となり、約40%も上昇している。さらに、本件各土地の平成9年7月1日の時点における継続地代の適正額についての第1審の鑑定結果は月額785万8000円であり、本件増額特約を適用した地代の月額881万0512円は、その1.12倍にとどまる。

 ウ 以上の事実を考慮すると、平成9年7月1日時点において、本件各土地の地代が著しく不相当になったとまではいえないから、本件増額特約が失効したと断じることはできない。

 (3) そうすると、本件増額特約に基づき、平成9年7月1日以降の本件各土地の地代は月額881万0512円(従前の月額800万9557円を10%増額した金額)に増額されたと認めるのが相当である。

 (4) 本件増額特約のような地代自動増額改定特約については、借地借家法11条1項所定の諸事由、請求の当時の経済事情及び従来の賃貸借関係その他諸般の事情に照らし著しく不相当ということができない限り、有効として扱うのが相当であるところ、その反面として、同項に基づく地代増減請求をすることはできず、その限度で、当事者双方の意思表示によって成立した合意の効力が同項に基づく当事者の一方の意思表示の効力に優先すると解すべきである。

 (5) 平成9年12月24日の時点において、未だ、本件増額特約そのものをもって著しく不相当ということはできないし、これを適用すると著しく不相当ということもできない(従って、本件別途協議条項を適用する余地もない。)から、上告人は、本件各土地につき、借地借家法11条1項に基づく地代減額請求をすることはできない。

 5 しかし、原審の上記判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約の当事者は、従前の地代等が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、借地借家法11条1項の定めるところにより、地代等の増減請求権を行使することができる。これは、長期的、継続的な借地関係では、一度約定された地代等が経済事情の変動等により不相当となることも予想されるので、公平の観点から、当事者がその変化に応じて地代等の増減を請求できるようにしたものと解するのが相当である。この規定は、地代等不増額の特約がある場合を除き、契約の条件にかかわらず、地代等増減請求権を行使できるとしているのであるから、強行法規としての実質を持つものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日判決・民集10巻5号496頁、最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日判決・民衆35巻3号656頁参照)。

 (2) 他方、地代等の額の決定は、本来当事者の自由な合意にゆだねられているのであるから、当事者は、将来の地代等の額をあらかじめ定める内容の特約を締結することもできるというべきである。そして、地代等改定をめぐる協議の煩わしさを避けて紛争の発生を未然に防止するため、一定の基準に基づいて将来の地代等を自動的に決定していくという地代等自動改定特約についても、基本的には同様に考えることができる。

 (3) そして、地代等自動改定特約は、その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には、その効力を認めることができる。

 しかし、当初は効力が認められるべきであった地代等自動改定特約であっても、その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより、同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には、同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず、これを適用して地代等改定の効果が生ずるとすることはできない。また、このような事情の下においては、当事者は、同項に基づく地代等増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない。

 (4) これを本件についてみると、本件各土地の地代がもともと本件各土地の価格の8%相当額の12分の1として定められたこと、また、本件賃貸借契約が締結された昭和62年7月当時は、いわゆるバブル経済の崩壊前であって、本件各土地を含む東京都23区内の土地の価格は急激な上昇を続けていたことを併せて考えると、土地の価格が将来的にも大幅な上昇を続けると見込まれるような経済情勢の下で、時の経過に従って地代の額が上昇していくことを前提として、3年ごとに地代を10%増額するなどの内容を定めた本件増額特約は、そのような経済情勢の下においては、相当な地代改定基準を定めたものとして、その効力を否定することはできない。しかし、土地の価格の動向が下落に転じた後の時点においては、上記の地代改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより、本件増額特約によって地代の額を定めることは、借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなったというべきである。従って、土地の価格の動向が既に下落に転じ、当初の半額以下になった平成9年7月1日の時点においては、本件増額特約の適用を争う上告人は、もはや同特約に拘束されず、これを適用して地代増額の効果が生じたということはできない。また、このような事情の下では、同年12月24日の時点において、上告人は、借地借家法11条1項に基づく地代減額請求権を行使することに妨げはないものというべきである。


 6 以上のとおり、平成9年7月1日の時点で本件増額特約が適用されることによって増額された地代の額の確認を求める被上告人の上告人に対する請求は理由がなく、また、同年12月24日の時点で本件増額特約が適用されるべきものであることを理由に上告人の地代減額請求権の行使が制限されるということはできず、論旨は理由がある。これと異なる原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そこで、原判決を破棄し、被上告人の上告人に対する請求についての本件控訴を棄却するとともに、上告人の被上告人に対する請求について、上告人が地代減額請求をした平成9年12月24日の時点における本件各土地の相当な地代の額について、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官甲斐中辰夫、裁判官深澤武久、同横尾和子、同泉徳治、同島田仁郎

 

 

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【判例】*借地法4条1項所定の正当事由を補完する立退料等の提供・増額の申出の時期

2018年12月04日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

借地法4条1項所定の正当事由を補完する立退料等の提供・増額の申出の時期
(最高裁平成6年10月25日判決 民集48巻7号1303頁)

 


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


       理   由
 1 上告代理人竹田章治の上告理由第2点について
  土地所有者が借地法6条2項所定の異議を述べた場合これに同法4条1項にいう正当の事由が有るか否かは、右異議が遅滞なく述べられたことは当然の前提として、その異議が申し出られた時を基準として判断すべきであるが、右正当の事由を補完する立退料等金員の提供ないしその増額の申出は、土地所有者が意図的にその申出の時期を遅らせるなど信義に反するような事情がない限り、事実審の口頭弁論終結時までにされたものについては、原則としてこれを考慮することができるものと解するのが相当である。けだし、右金員の提供等の申出は、異議申出時において他に正当の事由の内容を構成する事実が存在することを前提に、土地の明渡しに伴う当事者双方の利害を調整し、右事由を補完するものとして考慮されるのであって、その申出がどの時点でされたかによって、右の点の判断が大きく左右されることはなく、土地の明渡しに当たり一定の金員が現実に支払われることによって、双方の利害が調整されることに意味があるからである。このように解しないと、実務上の観点からも、種々の不合理が生ずる。すなわち、金員の提供等の申出により正当の事由が補完されるかどうか、その金額としてどの程度の額が相当であるかは、訴訟における審理を通じて客観的に明らかになるのが通常であり、当事者としても異議申出時においてこれを的確に判断するのは困難であることが少なくない。また、金員の提供の申出をするまでもなく正当事由が具備されているものと考えている土地所有者に対し、異議申出時までに一定の金員の提供等の申出を要求するのは、難きを強いることになるだけでなく、異議の申出より遅れてされた金員の提供等の申出を考慮しないこととすれば、借地契約の更新が容認される結果、土地所有者は、なお補完を要するとはいえ、他に正当の事由の内容を構成する事実がありながら、更新時から少なくとも20年間土地の明渡しを得られないこととなる。


 本件において、原審は、被上告人が原審口頭弁論においていわゆる立退料として2350万円又はこれと格段の相違のない範囲内で裁判所の決定する金額を支払う旨を申し出たことを考慮し、2500万円の立退料を支払う場合には正当事由が補完されるものと認定判断しているが、その判断は、以上と同旨の見解に立つものであり、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するに帰するもので、採用できない。


 

2 その余の上告理由について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。右判断は、所論引用の当審判例に抵触するものではない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用できない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官可部恒雄の補足意見(略)があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官園部逸夫、裁判官可部恒雄、同大野正男、同千種秀夫、同尾崎行信

 

 

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【判例】*土地賃借人が該地上の借地上建物に設定された抵当権は敷地の借地権に及ぶとされた事例

2018年12月03日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

1、土地賃借人が該地上の借地上建物に設定された抵当権は敷地の借地権に及ぶとされた事例
2、地上建物に抵当権を設定した土地賃借人は抵当建物の競落人に対し地主に代位して当該土地の明渡を請求ができないとされた事例
(最高裁昭和40年5月4日判決 民集19巻4号811頁)


       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


       理   由
 上告代理人長谷川毅の上告理由第1・2点について。

 土地賃借人の所有する地上建物に設定された抵当権の実行により、競落人が該建物の所有権を取得した場合には、民法612条の適用上賃貸人たる土地所有者に対する対抗の問題はしばらくおき、従前の建物所有者との間においては、右建物が取毀しを前提とする価格で競落された等特段の事情がないかぎり、右建物の所有に必要な敷地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である(原審は、択一的に、転貸関係の発生をも推定しており、この見解は当審の執らないところであるが、この点の帰結のいかんは、判決の結論に影響を及ぼすものではない。)。何故なら、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって1の財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからである。従って、賃貸人たる土地所有者が右賃借権の移転を承諾しないとしても、すでに賃借権を競落人に移転した従前の建物所有者は、土地所有者に代位して競落人に対する敷地の明渡しを請求することができないものといわなければならない。結論においてこれと同趣旨により、本件における従前の建物所有者たる上告人から競落人たる被上告人に対して本件土地明渡しを請求しえないとした原審の判断は、正当として是認すべきである。


 されば、本件において、かかる特段の事情を主張立証すべき責任は、従前の建物所有者たる上告人に存するものというべく、これと反対の見解に立つ所論は理由がないし、また、被上告人が上告人から競落により賃借権を取得したとしてもそれは地主の承諾を条件とするものであるとの所論は、前記原判示の趣旨を正解しないものである。さらに、上告人が本件競落によって被上告人の取得した賃借権とは別個の賃借権を取得したとの所論主張を肯認すべきなんらの根拠も見出しがたい。論旨は、畢竟、独自の法律的見解に立脚して原判示を非難するものであり、いずれも採用するを得ない。よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官横田正俊、裁判官石坂修一、同五鬼上堅磐、同柏原語六、同田中二郎

 


(註)競売により建物所有権が買受人に移転した時は、敷地利用権も買受人に移転する(同趣旨 最高裁昭和48年2月8日判決金融・商事判例677号44頁)。買受人が土地所有者に対抗できるかは別問題である。敷地使用権が賃借権の場合は、土地所有者の承諾がなければ、対抗できない(民法612条1項)。しかし、昭和41年の借地法の改正(9条ノ3)により借地上建物競売又は公売により買受けた者は借地権の譲受けについて賃貸人の承諾に代わる裁判所の許可を得ることが出来る規定を設けた。この規定は借地借家法20条に踏襲されている。

 

 

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