東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

保証金/敷金トラブル/原状回復/法定更新/立退料/修繕費/適正地代/借地権/譲渡承諾料/建替承諾料/更新料/保証人

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を自ら守るために、
自主的に組織された借地借家人のための組合です。

東京・台東借地借家人組合

借地借家人組合に加入して、
居住と営業する権利を守ろう。

無料電話相談は050-3656-8224(IP電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝日は休止 )

 尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。
 

【判例紹介】 一義的で具体的更新料特約は高額でなければ有効と判断した最高裁判決

2011年09月22日 | 更新料(借家)判例

 判例紹介

 更新料特約を有効と判断した最高裁判例 (平成23年7月15日第2小法廷判決

 これまで裁判所の結論が分かれていた更新料条項について、最高裁判所が有効と判断した事例を紹介します。ただ、この判例の射程は限定的ですので、誤った理解をしないよう注意して下さい。

 【事案の概要
 
この事件は、京都市内の共同住宅の1室についての借家契約が問題となっています。契約は、賃貸期間1年・賃料月3万8000円となっており、更新の際は更新料として賃料の2カ月分を支払うことが契約書に記載されていました。契約は4回更新された(最後の1回は法定更新を主張して更新料を支払っていない)ところ、賃借人が3回の更新の際に支払った合計22万8000円の返還を求めたのに対し、賃貸人が法定更新の際にも更新料を支払うべきと主張して最後の1回の法定更新の際の更新料の支払いを求めました。この更新料条項が消費者契約法10条に反するかが争点です。

 【判旨
 
この事案に対し、最高裁は、更新料の性質について、「更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」としています。その上で、更新料は、民法等の規定に比べて、消費者である賃借人の義務を加重するものとして、消費者契約法10条の要件の一つに該当することは認めました。しかし、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条のいう「消費者の利益を一方的に害するもの」とはいえないとし、もう一つの要件は満たさないとしました。

 つまり、契約書に明確に更新料の金額まで記載されている場合、その更新料の合意は消費者契約法に反せず、法定更新を選択した場合でも更新料を支払う義務があるとしたのです。

 【寸評
 
この判例の問題点を指摘すればきりがありませんが、最高裁判所の判断ですので、今後の借地借家の問題に強い影響を及ぼすことは明らかです。一般的に借家契約では、更新料条項として金額まで明示されている場合が多く、首都圏では2年ごとに1~1・5カ月の更新料条項というのが多いので、著しく高額とまでいえず、契約書の更新料条項を無効とするのは難しいと思います。

 他方、借地契約の場合、そもそも契約書に更新料条項がなかったり、あっても金額まで記載されていなかったりする事例がほとんどです。とすると、最高裁が指摘する「一義的かつ具体的」な更新料の合意がありませんから、従来どおり法律上も慣習上も支払義務のない更新料を支払う必要はありません。また、最高裁の判断だと、仮に更新料条項が明確に規定されていたとしても、更新料が著しく高額な場合は無効となる余地がありますので、この点も注意して下さい。

 

(2011.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。


【判例紹介】 更新料支払裁判で、「更新料は中途解約時の違約金」(京都地裁平成22年10月29日判決)

2011年03月28日 | 更新料(借家)判例

 判例紹介

 更新料の支払いを定める条項が消費者契約法に違反して無効になるかが争われています。大阪高等裁判所平成20年1月30日判決有効であるとし、大阪高等裁判所平成21年8月27日判決無効として、最高裁判所の判断を待つ状況になっています。

 妥当な判決である京都地方裁判所平成21年9月25日判決
 同判決は更新料条項が無効であるとしました。

 「更新料は、極めて乏しい対価しかなく、単に更新の際に支払う金銭という意味が強い、趣旨不明瞭なものであって、一種の贈与的な性格を有する。本件更新料条項は、民法601条に定められた賃貸借契約における基本的債務たる賃料以外に金銭の支払い義務を課すものであって、民法の規定に比して賃借人の義務を加重するものであり、賃貸人と賃借人間の情報の質及び交渉力の格差を背景に、更新料の性格について賃借人を誤認させた状況で、賃借人に対価性の乏しい相当額の金銭の支払いをさせるという重大な不利益を与え、一方で賃貸人には何らの不利益を与えないものといえ、信義則に反する程度に、衡平を損なう形で一方的に賃借人の利益を損なうものである。」 (京都地方裁判所平成21年9月25日判決 無効

 賃借人の多くは、更新料の性格(何のために支払うものなのか)をよく認識しないまま、ただ契約締結時に更新料条項に異議を述べて騒ぎ立てても甲斐なく終わることを予感して、更新料条項の当否を不問に付して契約書に判を押しているのが通常でしょう。更新料を対価性の乏しい趣旨不明瞭な給付とした本判決は、契約締結当時の当事者の認識に重きを置いた至極妥当な判断だといえます。

警戒を要する賃借人の立場を無視する判決 京都地裁 平成22年10月29日判決 有効
もっとも、昨年、同じ京都地裁(ただし別の部)で、更新料を賃料の前払いのほか途中解約時の違約金の性格を有するものとし、更新料条項の効力を肯定した判決が言い渡されました(平成22年10月29日)。「途中解約時の違約金」というのは、従来あまり指摘がなかった観点です。

 更新料を支払う慣習はない
 このように更新料条項の効力についての裁判所の判断は分かれています。しかし更新料条項がない場合は更新支払義務がないことは確定した判例です。更新料の支払いと金額について合意ができなければ法定更新を主張することが適切です。

※消費者契約法第10条  民法 、商法 (明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 

 (2011.03)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


 (*)2009年8月2010年2月の大阪高裁判決は、「更新料の契約条項は消費者の利益を一方的に害しており無効」と判断し、家主側に返還を命じた。

 これに対し、同高裁の別の裁判部は2009年10月、「更新料は、賃借権を延長する対価として入居時の礼金を補充、追加するもので必要性がある」として、更新料支払は有効として借り主側敗訴の判断を示した。

 なお、最高裁は3月4日、貸主側と借主側の主張を聞くための弁論を6月10日に開くことを決定した。・・・・・東京・台東借地借家人組合

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。


更新料は家主や管理業者の利益確保を狙った不合理な制度で消費者契約法に反して無効 大阪高裁判決

2010年06月18日 | 更新料(借家)判例

判例紹介

大阪高裁 平成22年5月27日判決
原審・京都地裁 更新料支払請求事件控訴事件
 
 事案
京都のワンルームマンション1K(25.75㎡)
①賃料月額5万3000円 共益費5000円 
②保証料(敷金)30万円(敷引)15万円、仲介手数料2万6500円
③契約期間 平成18年4月1日~平成20年3月31日 2年間
④「本件賃貸借契約が更新された場合は、法定更新、合意更新を問わず、被控訴人(賃借人)は、2年毎に、契約期間満了の2か月前までに、控訴人に対し、更新料として、賃料の2カ月分(10万600円)を支払わなければならない」と契約書に明記されている。更新手数料1万5000円(別途消費税750円)が明記。
 
 裁判所の判断
1、はじめに
更新料がいかなる性質のものであるかは、当該賃貸借契約成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払いの合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考慮した上、具体的事実関係に則して判断されるべきものである(最高裁昭和59年4月20日第2小法廷判決
 
2、本件更新料条項の合理性
①更新料発生の経緯からの検討

(1)更新料は地価高騰期に始まった
 借家契約の更新料は昭和30年代末ころから、都市圏を中心として始まった。長期にわたる借家契約は地価の高騰を賃料に反映させることができず、更新料という名目で金銭を受け取ることによって、脱法的に賃料の値上げを図ったことが、更新料徴収の慣行が始まった契機である。当時は住宅の絶対量が不足しており、賃貸人と賃借人との地位の不平等からくる交渉力の格差が原因。

(2)更新料が地価の高騰がおさまっても続く理由
 賃貸マンションや賃貸アパートの経営が盛んになっていくと、今度は、賃貸契約期間を1、2年の短期に設定して、契約更新時に更新料をとるという利益獲得方法の旨味に見えつけた賃貸人側が、そのような新しい賃貸業者の経営形態では、従前と異なり、賃貸人と賃借人との人間関係が希薄になっていることも手伝い、一部の地域で、賃貸業者側の利益のために、引き続き、積極的に更新料徴収制度の導入を進めたという背景がある。

 しかも、新しい借家契約の形態として、アパートやマンションの賃貸借契約が普及していくと、賃貸経営には素人である個人の零細賃貸人に代わって、不動産賃貸業のプロとしてのノウハウを蓄積している不動産業者が、賃貸物件の仲介人、管理人として関与するようになり、素人の賃貸人を指導して、賃貸借契約に更新料の支払条項を設けさせて、更新料の一部を不動産業者が更新手数料として徴収できる方法を取り入れ、一部の地域で、不動産業者の利益のために、従前にも増して、積極的に更新料徴収制度の導入を進めたことを指摘できる。

 不動産業者にとって、賃貸借契約の更新時に取得できる更新料は、新規契約を獲得するときのコストと時間(賃貸物件の賃貸借条件の設定、広告・紹介・案内、借主募集・審査)を要せず、更新された賃貸借契約書の手間だけであるのに、ある程度の更新手数料を取得することができるために、賃貸不動産の管理業者にとっては、更新料制度は極めて旨味のある制度となっていたのである。

※地価の高騰が収まり、賃料相場の横ばいないしは下落が認められるようになった平成18年時点では、更新料を認めることは合理性はなく、賃借人(被控訴人)の利益を害し、賃貸人(控訴人)や賃貸物件管理業者(フラット)の利益確保を狙った不合理な制度といえる。
 
②更新料の法的性質からの検討
(1)賃料補充の性質
 平成3年以降、地価高騰が収まり、逆に地価が下落して、賃料相場は横ばいないし下落、賃貸借契約の更新時に、継続賃料と新規賃料との差を更新料で補充の前提崩れている。
 本件更新料につき、使用収益期間との対応が全く認められない。本件更新料は、賃料の補充としての性質を有するものとは認められない。

(2)賃貸借契約更新の異議権放棄の対価としての性質
 本件ワンルームマンションの自己使用の必要性から、賃貸人(控訴人)には、本件賃貸借契約の更新拒絶について正当事由が存在し、契約更新の異議権が発生するなどということは、およそ考えられないことである。本件更新料が賃貸人の異議権放棄の対価としての性質を有するなどということは、全く合理性のない議論である。

(3)賃借権強化の対価としての性質
 本件ワンルームマンションの賃貸借契約では、契約期間2年の更新毎に、賃借人(被控訴人)が賃貸人(控訴人)に本件更新料を支払うことによって、賃貸人からの正当事由に基づく賃貸借契約の更新拒絶を防ぐということは、およそ考えられない議論である。
 
③更新料に対する社会的承認からの検討
 本件更新料が、日本全体で社会的に承認を得ているとは評価できない。月額2か月分の更新料は全国的にみても多額の更新料額である。
 国土交通省の標準契約書には、貸主が更新料を取得する旨の規定は置かれていない。公営住宅や住宅都市整備公団の住宅では、更新料は徴収されていない。住宅金融支援機構は、旧住宅金融公庫が融資して建築された賃貸用建物について、賃貸人が賃借人から更新料を徴収することは、賃借人にとって不当な負担となることを賃貸の条件とする場合にあたるとの理由で禁止している。

④小括
 以上の次第で、住宅の賃貸借契約において、更新料の徴収が40年以上にわたり一部の地域で行われたことは認められるが、そのことを理由に、一部の地域で根強く続いている更新料徴収の慣行が、更新料に対する社会的承認を得られた合理的な制度であるとは到底認められず、むしろ、本件更新料条項は、賃借人の利益を犠牲にし、賃貸人や賃貸住宅管理業者の利益確保を優先した不合理な制度であることが認められる。
 
4、消費者契約法10条前段・後段の要件充足
 本件更新料条項は、消費者の利益を一方的に害する内容であることが認められ、消費者契約法の10条の前段・後段の要件を充足している。
 
5、結論
 以上、本件更新料条項は消費者契約法10条により無効であることが認められ、控訴人は被控訴人らに対し更新料を請求することはできない。本件控訴は理由がないから棄却する。

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。


【判例紹介】 借家契約の更新料支払特約は消費者契約法10条に違反し無効とした事例

2010年04月15日 | 更新料(借家)判例

 判例紹介

 借家契約における更新料支払特約を消費者契約法10条に違反し無効とした2つの事例

(事例1) 京都地裁平成21年7月23日判決


 (事案の概要)

 賃借人Xは賃貸人Yに対しマンション賃貸借契約締結に際し保証金35万円(敷引特約により30万円は返還されない)を支払い、また2年毎の契約更新の際には更新料特約に基づき更新料11万6000円を支払った(賃料月5万8000円)。これに対してXがYに対し敷引特約と更新料特約が消費者契約法10条に違反し無効であると主張して提訴したのが本件であり、裁判所はXの請求を認容した。

 (判決要旨)
 理由は、いずれの特約も、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する」ものと評価した上で、敷引特約は月額賃料の約5か月分を無条件に差し引くものであること、Yのする敷引金の法的性質に合理性は認められず、また更新料特約も法定更新であれば支払う必要のない対価であること、更新料の法的性質について、更新拒絶権放棄の対価、賃借権強化の対価、賃料の補充、中途解約権の対価といったYの主張に合理性が認められないことから、民法1条2項の規定する基本原則に反して賃借人Xの利益を一方的に害するものであるからとした。



(事例2) 大阪高裁平成21年8月27日判決

 (事案の概要)
 賃借人Xは賃貸人Yとの間で平成12年8月、建物賃貸借契約を締結し、その後更新料支払の約定に従い、平成13年8月から平成17年8月まで5回にわたり、いずれも賃貸期間を1年とする合意更新の際、それぞれ更新料(5回分で50万円)を支払った(賃料月4万5000円)。これに対しXがYに対し、本件特約が消費者契約法10条又は民法90条に反し無効と主張して更新料の返還を求めた(他に敷金返還請求もあり)。

 (判決要旨)
 これに対し第1審の京都地裁はXの請求をすべて棄却したが、控訴審である本件では、契約時に更新料の説明が無く、賃料としての認識がなかったこと、貸主は正当な理由がなければ自動更新を拒絶できず、借主に更新料支払義務はないなどの理由から、更新料の条項は消費者の利益を一方的に害しており、消費者契約法に反し無効であるとした。

 (寸評)
 上記事例はいずれも借家の更新料特約を、消費者契約法違反を理由に無効とした。更新料支払義務は、本来借家人が負担すべき賃料支払義務のほかに、賃借人の義務を加重するものであるから、その支払については「消費者の義務を加重する」条項といいうる。

 もっとも、今挙げた2つの判例によって、借家契約における更新料特約がすべて消費者契約法に反すると断ずるにはやや早いかもしれない。実際、上記大阪高裁と同じ事例の京都地裁第1審では賃借人の請求は棄却されており、現在の判例の動向は流動的である。ただ、当然のように更新料を請求されている実務に影響を与える事例であるため報告する。

(2010.04)

(東借連常任弁護団

東京借地借家人新聞より

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。


【判例】 更新料支払い請求事件 (京都地方裁判所 平成21年09月25日判決 )1事案の概要

2010年02月17日 | 更新料(借家)判例

 判例紹介

◆事件番号・・・・ 平成20(ワ)1286
◆事件名・・・・ 更新料支払い請求事件
◆裁判所・・・・ 京都地方裁判所 第3民事部
◆裁判年月日・・・・ 平成21年09月25日
◆判示事項・・・・ 原告が,被告に対し,賃貸借契約の更新に際して更新料10万6000円の支払を求めたところ,被告が,更新料条項は消費者契約法10条に反して無効であると主張した。本判決は,更新料を賃料の補充とみることは困難であって,更新拒絶権放棄の対価や賃借権強化の対価ということもできないとした上で,更新料の額や原告と被告との間の情報量の格差等の事情を考慮して,更新料条項が消費者契約法10条に反して無効であるとした事案である。


 平成21年9月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
 平成20年(ワ)第1286号 更新料支払請求事件
 口頭弁論終結日 平成21年7月9日

 

判      決

 

主      文

 

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

 

第1 請求
 被告らは,原告に対し,連帯して10万6000円及びこれに対する平成20年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第2 事案の概要
 原告は,被告Aに対し,賃貸マンションの1室を賃貸し,被告Bは,被告Aの債務を連帯保証したが,被告らが約定の更新料を支払わないとして,被告Aについては賃貸借契約に伴う更新料の支払合意に基づき,被告Bについては連帯保証契約に基づき,未払更新料の支払と訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の割合の遅延損害金の支払を求めた。

1 争いのない事実
 (1) 原告は, 被告Aとの間で, 平成18年3月12日, 京都市a区b町c所在のdマンションe号室( 以下 「本件建物 」という。) を下記の約定で賃貸する契約を締結し(以下,この契約を「本件賃貸借契約」という。) ,同年4月1日,同人に対し,本件賃貸借契約に基づき本件建物を引き渡した。

 賃料  月額5万3000円(毎月25日までに翌月分を支払う )。
 共益費  5000円( 水道料金含む。 毎月25日までに翌月分を支払う。)
 契約期間  平成18年4月1日から平成20年3月31日までの2年間


(2) 本件賃貸借契約証書には, 同契約が更新される場合は, 法定更新, 合意更新を問わず,被告Aは,原告に対し,2年ごとに更新料として賃料の2か月分を期間満了の2か月前までに支払わなければならない旨の記載がある。

 また,被告Bが,原告に対し,本件賃貸借契約に基づき負担する一切の債務につき,本件賃貸借契約に定めた契約期間のみならず,法定更新,合意更新を問わず,更新後も連帯して保証するとの記載がある。

(3) 本件賃貸借契約の契約期間は平成20年3月31日で満了するにもかかわらず,同年1月31日までに被告らから更新料の支払はなかった。

(4) その後, 被告Aは, 平成20年3月21日付けの 「通知書」 と題する書面により,借地借家法26条1項に基づき法定更新がなされたこと,更新料の請求には応じないことを告げ,契約期間満了日である同月31日を経過した後も本件建物を占有している。

(5) 被告らは,更新料10万6000円(賃料の2か月分)を支払わない。

(6) 本件賃貸借契約証書には, 本件賃貸借契約に関する紛争については ,京都地方裁判所を管轄裁判所とする旨の記載がある。

 2 原告(貸主)の主張へ続く


【判例】 2 原告(貸主)の主張 (京都地方裁判所 平成21年09月25日判決 )

2010年02月17日 | 更新料(借家)判例

2 争点
本件の争点は,更新料条項の有効性である。

 (1) 原告
 ア 本件賃貸借契約の締結に当たり, 同契約が更新される場合は, 法定更新,合意更新を問わず,被告Aは,原告に対し,2年ごとに更新料として賃料の2か月分を期間満了の2か月前までに支払わなければならない旨の合意をした。

 被告Bは,原告との間で,平成18年3月12日,被告Aが,原告に対し,本件賃貸借契約に基づき負担する一切の債務につき,本件賃貸借契約に定めた契約期間のみならず,法定更新,合意更新を問わず,更新後も連帯して保証するとの合意をした。

 イ 本件賃貸借契約は,自動更新(合意更新)ないし法定更新されたにもかかわらず,被告らは,更新料を支払わない。

 ウ 被告Aは,平成18年4月からC大学法科大学院に入学しており,契約前・契約後においても十分な知識・判断能力の持ち主である。

 エ 本件賃貸借契約証書3条2項では 「法定更新・合意更新を問わず, 借主は,頭書規定の期間ごとに,貸主に対し,頭書規定の更新料及び管理会社に所定の更新手続料を期間満了の2か月前までに支払わなければならない。」と規定されている。

 オ 被告Aは,更新料について重要事項として説明を受けている。また,本件賃貸借契約証書3条の条文を認識・理解していた。被告Aは,契約締結時には更新料条項について何ら異議を述べていない。

 カ 被告Aは, 更新料条項がない物件を選択しようと思えば選択できたのに,それをせずに本件賃貸借契約を選択している。

 キ 更新料は,賃料の補充,更新拒絶権放棄の対価,賃借権強化の対価といった複合的な性質を有しており,対価性を有する相当なものである。
 更新料条項は,消費者契約法10条に違反せず,被告らの更新料支払拒否は理由がない。

 ク 契約をした賃借人のほとんどは,約束した更新料の支払をしているのであり,その不払は,契約不履行であるだけでなく,賃借人間の公平も害する行為である。

 ケ また,賃貸人たる原告は,更新料条項を含む本件賃貸借契約の条項を信頼して本件建物を引き渡し,被告Aの使用収益に提供しており,約束された更新料が支払われないことにより不測の損害を被っている。

 コ よって,被告Aの法定更新を理由とする更新料支払拒否は,消費者契約法10条違反を口実とした更新料条項の不履行であり,当事者で合意した本件賃貸借契約の契約条件を契約締結後に一部不履行とするものであり,貸主である原告の信頼を裏切る契約上の信義に反する行為であって,直ちに更新料が支払われるべきである。

 サ 借地借家法26条1項,同2項の文言によれば,同条項は,更新の合意がなくとも,一定の要件の下に賃借人が使用継続した場合に契約の更新を認め,賃借人の賃借権を保護する趣旨であって,その際の更新料の支払義務の有無まで定めてはいない。よって,借地借家法26条1項,同2項から当然に法定更新の場合に更新料の支払義務がないことが導かれるとの解釈を前提にする被告らの主張は, 同条項の解釈を誤っており, 失当である。

 シ 本件賃貸借契約は, 中途解約の場合の更新料の精算条項を欠いているが,本件の更新料が更新拒絶権放棄の対価,賃借権強化の対価の性質も併せ持つことからすると,その対価性があるのであって,更新がなされた以上,その後の中途解約による精算の必要はそもそも存在しないものともいえる。 また,更新料に中途解約の場合の一部違約金としての性格が存在するにしても,民法618条,同617条1項2号等から平均的な損害額を超えているとはいえず, 消費者契約法9条違反はなく, 同10条違反もない。

 3 被告(借主)の主張へ続く


【判例】 3 被告(借主)の主張 (京都地方裁判所 平成21年09月25日判決 )

2010年02月17日 | 更新料(借家)判例

(2) 被告
 ア 賃貸借契約証書の更新料条項の記載中,「 法定更新・合意更新を問わず」の部分は合意内容となっていない。被告Aは,更新料の支払時期,更新料の額については説明を受けたが,「法定更新・合意更新を問わず」 との説明はなく,被告Aにおいて,この点についての認識と理解はなかった。

 仲介業者がこれに基づいて被告Aに説明をした重要事項説明書では,更新料の支払時期, 更新料の額については記載されているものの,「 法定更新・合意更新を問わず」との記載はなく,説明もなかった。

 賃借人の予期しない賃借人に不利益な特別の負担を課す場合に,賃借人に同義務が契約内容となるためには,賃貸人あるいは仲介業者が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。法定更新においても,賃借人に更新料の支払を課す義務は,賃借人に予期しない特別の負担を課す特約である。

 イ 被告Bは, 連帯保証人になるとの認識はあったが,「 本件賃貸借契約に定めた契約期間のみならず,法定更新,合意更新を問わず,更新後も連帯して保証する。 」との具体的な認識はなかった。

 なお,管轄についても,被告らは,契約締結時にその意味を説明されたことはなかった。

 ウ 賃貸借契約に関する知識・判断力について,被告Aは,法科大学院入学後は次第に知識はついてきているといえるが,法学未習クラスで入学しており,契約時に十分な知識・判断力があったとはいえない。

 エ 被告Aは,仲介業者から本件建物を勧められてそのまま契約締結に至ったもので,他の物件を全く当たっておらず,他に更新料のない物件があるかどうか知らなかった。仲介業者から更新料のない物件を紹介された事実はない。

 オ 更新料支払条項は,消費者契約法10条により無効である。
 建物賃貸借契約における更新料の徴求は,情報力,交渉力に劣る借主の犠牲の下,家主(貸主)が何らの合理的,正当な理由なく行ってきたものである。

 更新料の性質論について,①賃料補充説は,本来の賃料よりも割安であるとの誤解を与え,②異議権放棄説は,発生しない異議権をたてに,あるいは本来立退料を支払わなければならない場面で逆に金銭を徴求し,③賃借権強化説は, 強化されない賃借権を強化されると強弁するものであって,その不当性の程度は驚くばかりである。

 カ 法定更新時に更新料を支払う旨の条項は,借地借家法30条により無効である。

 法定更新の場合にも更新料の支払義務があるとすると,更新料を払えない賃借人は,期間満了の1年前から6か月前までの間に賃貸人に更新しない旨の通知をし,期間が満了した後建物の使用を止めることを余儀なくされ,借地借家法26条1項,同2項の適用を受けることができなくなる。

 このように,法定更新の場合にも更新料支払義務があるとすると,賃貸人は,更新料支払特約を設けることによって借地借家法26条1項,同2項の適用を事実上排除することができる。これは正に「この節に反する特約で建物の賃借人に不利なもの」であるから,無効である。

 4 裁判所の判断へ続く


【判例】 4 裁判所の判断 (京都地方裁判所 平成21年09月25日判決 )

2010年02月17日 | 更新料(借家)判例

第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1,2,4ないし12,21ないし30,31の1・2,32,33,34の1・2,35の1・2,36の1・2,37ないし43,44の1・2,乙8ないし13,17ないし21,23,被告A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

 (1) 被告Aは, 昭和56年12月13日, 京都市f区で出生し, 平成18年4月,C大学大学院法務研究科に法学未修者として入学した。

 本件賃貸借契約締結当時,被告Aは,法学部卒業程度の法的知識を有していた。

 (2) 本件建物は,専有面積25.75平方メートル,間取り1Kである。

 (3) 本件賃貸借契約証書には, 「月次科目」 「月次金額 」として, それぞれ「 家賃」 「53,000円」 ,「共益費」 「5,000円」との記載があり,その下欄に 「合計」 「58,000円」 との記載がある。 なお,「 月次科目」 「月次金額」 の右欄には 「一時科目」「 一時金額」 として「 保証金 300,000円」との記載がある。

 合計欄の下欄には 「更新料」 賃料の2ヶ月分」 「更新手続料 15,000円(別途消費税750円) 」との記載がある。更新料欄の下欄には, 「敷金控除(明渡し引)」 「保証金引き(150,000円)を差し引く」との記載がある。


 これらの記載の更に下部に賃料等支払方法の記載がある。
 これらの賃借人の経済的出捐については,本件賃貸借契約証書の1ページ目にすべて記載されており,一覧性のあるものとなっている。

 同3ページ目には,本件賃貸借契約の約定が記載されているが,その3条1項では,「賃貸借期間は契約期間欄記載の通りとします。 期間満了の6カ月前迄に甲(貸主)より更新拒絶の通知がない場合は,契約期間欄記載の期間と同期間継続します。」, 同2項では,法定更新・合意更新を問わず,乙(借主)は頭書規定の期間毎に,甲(貸主)に対し頭書規定の更新料及び管理会社に所定の更新手続料を期間満了の2カ月前迄に支払わなければなりません。」,同3項では,「乙( 借主) の契約期間内の解約であったとしても ,甲 (貸主) は更新料の日割り・月割り計算による返金は一切行いません。」 となっている。

 原告,被告A及び被告Bは, 本件賃貸借契約証書に記名・押印をしている。

 (4) 本件賃貸借契約の重要事項説明書では,「2.賃貸借期間及び更新に関する事項」の中に,「更新に関する事項」として,「2年更新とし,契約期間満了の2ケ月前迄に借主は更新料を貸主に支払うものとする。」 との記載が,更新料」として「賃料の2ヶ月分」との記載がそれぞれある。

 そして, その下部の「3 賃料及び賃料以外に授受される金銭 」の中には,家賃,共益費,水道料金,保証金,保険料,仲介報酬額,仲介報酬額に係る消費税の記載はあるが,更新料の記載はない。

 (5) 被告Aは,仲介業者の株式会社Dから,重要事項説明書の説明を受け,「2.賃貸借期間及び更新に関する事項」についても簡単に説明を受けた。

 (6) 被告Aは,本件賃貸借契約締結当時,更新料がどのような性質のものかを 考えたことはなく,更新料は,契約期間が満了し,更新するときに支払わなければならない金銭と考えており,更新料が賃貸人の収入になるのか,不動産業者の収入になるのかの認識もなかった。また,株式会社Dからも更新料がどのようなものかの説明はなかった。

 (7) 被告Aは,株式会社Dに対し,平成20年3月21日ころ,本件賃貸借契約は,平成19年9月30日の経過によって法定更新されており,更新手続は不要であること,更新に関する費用の請求には応じられないことを通知した。

 (8) 生活保護の住宅扶助として更新料扶助があり,また,民事調停にも更新料の条項が定められたり,判決においても賃料3か月分相当の更新料が認められた例もある。

 (9) 賃貸物件情報誌の物件案内には,更新料の表示がなされているものもある。大学生を対象とした賃貸のパンフレットにも,更新料を含めた学生生活4年間の総費用を計算した上で,1年間の平均費用を算出し,年間総費用とし,また,更新料のある物件と更新料のない物件とを掲載しているものもある。

 さらに,インターネットのホームページでも,賃貸物件について更新料の表示があるものが多く,他方,更新料の表示のないものについても問い合わせ先を検索するなどして更新料の有無やその額を調べることができるようになっているものもある。

 もっとも,賃貸住宅情報誌の中にも,更新料の記載がないものもある。

 (10) 総住宅数に占める空き家の割合は,昭和38年の2.5パーセントから一貫して上昇を続けており,平成15年には12.2パーセントとなっている。他方で,賃貸物件の数は,年々上昇している。

 (11) 平成19年6月の国土交通省住宅局作成の民間賃貸住宅実態調査の結果によれば, 家主が更新料を徴収する主な理由としては,「 一時金収入として見込んでいる」 「長年の慣習」 が多い。 また, 更新料を徴収しているのは,東京及びその近郊が多く,京都でも55.1パーセントとなっている。他方,大阪や兵庫では0パーセントである。

 (12) 住宅扶助のうちの契約更新料の生活保護費は,平成18年度で5万2191件,252万5334円であり,平成19年度で5万6137件,273万8566円となっている。

 (13) 国土交通省作成の賃貸住宅標準契約書には,更新料条項の記載がない。

 (14) 住宅金融支援機構の賃貸住宅建設融資について,入居者との契約では更新料は設定できないこととなっている。

 (15) 本件建物の近隣物件の賃料について,平米当たりの平均価格は,1500円である。

2 まず,本件の更新が,自動更新(合意更新)であるか,法定更新であるかが問題となるが,本件賃貸借契約書3条1項の規定にかんがみれば,同項に基づく自動更新(合意更新)であると認めるのが相当である。

3 そこで,次に本件の更新料の法的性質が問題となる。
 (1) 賃貸借契約において 賃料は賃貸目的物の使用収益に対する対価として支,払われるものであるところ,使用収益期間に依拠して対価としての賃料が算出され,支払われるものということができる。そうすると,賃貸借契約における賃借人から賃貸人への給付が賃料と評価されるためには,賃借人の使用収益期間に対応する形で支払額が決定され,かつ,更新後に賃貸借契約が途中で終了した場合には,使用収益に至らなかった期間に対応する更新料額は賃借人に返還されるべき性質のものでなければならないというべきである。

 本件の更新料条項は,2年更新の本件賃貸借契約について,契約期間満了の2か月前までに賃料の2か月分を支払うというものであり,契約期間内の解約について更新料の日割り・月割り計算による返金を一切行わないものであるから,使用収益期間に対応する形で支払額が決定されているわけでもなく,契約が途中で終了した場合の精算も否定するものである。

 加えて,賃借人である被告Aは,本件賃貸借契約締結当時,更新料がどのような性質のものかを考えたことはなく,更新料は,契約期間が満了し,更新するときに支払わなければならない金銭と考えており,誰の収入になるのかの認識もなかったことが認められる。賃貸人である原告についても,本件賃貸借契約証書や重要事項説明書の記載の仕方にかんがみれば,これを賃料とは別の金銭の給付と捉えているものと解するのが相当である。

 そうすると,これを賃料の一部ないし補充とみることは困難といわざるを得ない。
 (2) 他方,建物の賃貸借において,賃貸人に明渡の正当事由がない限り,賃借人は何らの対価的な出捐をする必要がなく,継続して賃借物件を使用することができるが,本件建物のような居住用建物の賃貸借において,賃貸人がその使用を必要とする事情は通常想定できず,正当事由が認められる可能性はあまりないといえる。

 また,本件において,原告・被告がこのような認識を持って更新料に関する合意をしていたとも認めがたい。よって,本件の更新料は,更新拒絶権放棄の対価や賃借権強化の対価としての性質も有するものともいえないというべきである。

 なお,中途解約の場合の更新料の精算条項を欠いていることについての原告の前記反論は,本件の更新料に更新拒絶権放棄の対価や賃借権強化の対価としての性質が認められないし,また,これを違約金とするのも,月々の賃料との対比で不合理であるから採用できない。

 (3) 以上によれば,本件の更新料の法的性質は,賃借人( 被告A )が賃貸人 (原告)に対して更新時に支払をすることを約束した金銭という外なく,その対価性を認めるのは困難である。

4 以上を前提に,本件における更新料条項が消費者契約法10条に違反するか否かを検討する。

 (1) 争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば 被告は消費者契約法2条1項,の「消費者」に,原告は同条2項の「事業者」にそれぞれ該当し,本件賃貸借契約に同法が適用される。

 (2) 次に,更新料条項は,賃貸人に対し, 民法601条に定められた賃料支払義務に加えて更新料という賃借人が賃貸人に対して更新時に支払をすることを約束した金銭の支払義務を課すものであるから,民法の規定の適用による場合に比し,消費者(賃借人)の義務を加重しているものとして消費者契約法10条前段に当たる。

 (3) そして, 前記のとおり,更新料は賃借人が賃貸人に対して更新時に支払をすることを約束した金銭であり,賃料の一部ないし補充としての性質も,更新拒絶権放棄の対価・賃借権強化の対価としての性質も有するものとはいえず,対価性を認めるのが困難な金銭であること,本件賃貸借契約は,専有面積25.75平方メートル,間取り1Kの本件建物に対して,賃貸借契約期間2年間で月々家賃5万3000円と共益費5000円を支払うものであるところ,更新料については賃料の2か月分を支払うもので,近隣物件に比して賃料が低額であるとはいえない状況の下でかかる更新料額は決して安価なものとは言い難いこと,中途解約の場合の更新料の精算も否定するものであること,更新料条項は原告側が作成したものであり,被告らに対しては,更新料の有無やその金額は所与の条件となっており,この点に関し,原告と被告らとの間で交渉の余地があったと認められる事情もないこと,被告Aが法学部卒業程度の法的知識を有していたことを考慮しても,前記のとおりの賃貸物件に関する情報の現状や賃借人が仲介業者を通じて賃借人と契約を締結していることからすれば,事業者(原告)と消費者(被告A)との間の情報格差については大きくはないものの,全くないとまではいえないことが認められ,以上の事実にかんがみれば,更新料条項について本件賃貸借契約証書に明記がされ,仲介業者から被告Aに対しても重要事項として説明があったこと,更新料条項が無効になることによる賃貸人の不利益や少なくとも京都においては更新料が一定程度社会に定着している状況であったこと等を考慮しても,民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条後段にも当たるというべきである。

 そうすると,本件の更新料条項は,消費者契約法10条に反し,無効である。

5 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

      

      京都地方裁判所第3民事部

         裁判官 佐 野 義 孝

 

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。


【判例】 ①更新料返還等請求事件等 (京都地方裁判所 平成21年09月25日判決) 事案の概要

2010年02月08日 | 更新料(借家)判例

 判例紹介

◆事件番号・・・・ 平成20(ワ)947
◆事件名・・・・ 更新料返還等請求事件等
◆裁判所・・・・ 京都地方裁判所 第3民事部
◆裁判年月日・・・・ 平成21年09月25日
◆判示事項 ・・・・原告が,被告に対し,更新料条項及び定額補修分担金条項はいずれも消費者契約法10条に反し無効であるとして,賃貸借契約中に3回にわたり支払った更新料合計22万8000円及び契約締結時に支払った定額補修分担金12万円の返還を求めたところ,被告が,原告及び連帯保証人に対し,未払の更新料の支払を求めた。本判決は,更新料について,賃料の補充とみることや,賃借権強化の対価の性質を有するとみることは困難であるし,更新拒絶権放棄の対価という性質も希薄であって,更新料は,更新の際,賃借人が賃貸人に支払う金銭という一種の贈与的な性格を有するものであるとした上で,原告と被告との間の情報量の格差等の事情も考慮して,消費者契約法10条に反して無効であるとし,定額補修分担金についても,同条に反して無効であるとした事案である。


 平成21年9月25日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
 平成20年(ワ)第947号 更新料返還等請求事件(第1事件・本訴)
 平成20年(ワ)第1287号 更新料反訴請求事件(第2事件・反訴)
 平成20年(ワ)第1285号 保証債務履行請求事件(第3事件)

 

主        文

 

 

 

事 実 及 び 理 由

 

 

 (1) 主文1項同旨
 (2) 原告と被告会社との間で,両者間の平成15年4月1日付け賃貸借契約に基づく,原告の被告会社に対する平成19年4月1日付け契約更新に係る更新料7万6000円の支払債務が存在しないことを確認する。

 2 第2事件(反訴)
原告は,被告会社に対し,7万6000円及びこれに対する平成19年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 3 第3事件
被告Aは,被告会社に対し,7万6000円及びこれに対する平成19年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要
 本件は,①被告会社からマンションの一室を賃借した原告が,その賃貸借契約中の,原告が更新料を支払う旨の条項(以下「本件更新料条項」という。)及び原告が定額補修分担金を支払う旨の条項(以下「本件定額補修分担金条項」という。)はいずれも消費者契約法10条により無効であるとして,被告会社に対し,不当利得返還請求権に基づき,既払の更新料及び定額補修分担金の合計34万8000円及びこれに対する訴状又は訴え変更申立書送達日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めるとともに,未払の更新料7万6000円の支払債務が不存在であることの確認を求めた(第1事件(本訴)。前記第1の1)ところ,②被告会社が,本件更新料条項は有効であるとして,原告に対し,反訴請求として,その未払更新料7万6000円及びこれに対する催告期間満了日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めた(第2事件(反訴)。前記第1の2)上,③上記賃貸借契約における原告の連帯保証人である被告Aに対しても,その未払更新料7万6000円及びこれに対する催告期間満了日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めた(第3事件。前記第1の3),という事案である。

1  前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
 (1) 当事者等
 ア被告会社は,不動産管理業,不動産の仲介及び売買,不動産賃貸業等を目的とする株式会社である。
 被告会社は,昭和61年11月15日に建築された京都市a区b町c-d所在の建物(以下「本件建物」という。)を,平成12年3月24日競売により取得し(甲13,乙11),これを賃貸物件とするために建物内の部屋(48室)に改装を施し,建物名を「Bハイツ」とした上,これらの部屋を賃貸していた。

 イ原告は,熊本県の出身であり,C大学D学部に進学するに際し,京都市内に居住する必要が生じたため,後記のとおり,被告会社から本件建物の一室を賃借し,平成15年4月からそこに居住していた。

 (2) 賃貸借契約等の締結(乙1)
 ア原告と被告会社は,平成15年4月1日,以下の内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,同日,被告会社は,原告に対し,本件賃貸借契約に基づき,以下の物件を引き渡した。

  物件  本件建物311号室(以下「本件居室」という。)
  期間  平成15年4月1日から平成16年3月31日まで
  賃料  月額3万8000円

  イ同日,被告会社と被告Aは,被告Aが本件賃貸借契約における原告の債務を連帯保証する旨の契約を締結した。

 (3) 本件賃貸借契約等に関するその他の定め
  ア 本件賃貸借契約の契約書では,各種の条項(以下「本件賃貸借契約条項」という。)が定められており,その中には別紙のような規定がある。

 (乙1)
 イ 以上のほか,本件賃貸借契約の内容として,原告と被告会社は,共益費及びRCV料(ケーブルテレビ使用料)を月ごとに一定額支払うことについても合意した。(乙1)

 (4) 本件賃貸借契約等に関するその他の事実
 ア 重要事項説明
 原告は,仲介人であるE株式会社から,平成15年3月14日,同日付けの重要事項説明書により,「借賃及び借賃以外に授受される金銭」として,賃料の2か月分の更新料があること,12万円の定額補修分担金があることの説明を受けた。(乙9)

 イ 定額補修分担金の支払等
 原告は,本件賃貸借契約の締結に際し,契約書中の「私は,本契約締結にあたり以上の説明を受け,上記事項を熟読の上,ここに定額補修分担金の支払いを了承し,その支払いに合意致します。」との記載の後に署名,押印し(乙1),被告会社に12万円の定額補修分担金を支払った。

 ウ 本件賃貸借契約の更新
 (ア) 原告と被告会社は,1平成16年2月27日,2平成17年2月28日及び3平成18年2月28日の3回,それぞれ,原告が被告会社に更新料として賃料の2か月分に当たる7万6000円を支払って,期間
を①については平成16年4月1日から平成17年3月31日まで,②については平成17年4月1日から平成18年3月31日まで,③については平成18年4月1日から平成19年3月31日までとして,本件
賃貸借契約を合意更新した。(甲1,2,乙2)

 (イ) 原告は,上記最終の合意更新による賃貸借期間満了後の平成19年4月1日以降も,本件居室の使用を継続し,よって,本件賃貸借契約は同日から法定更新された。原告は,この法定更新時に,被告会社に対して更新料を支払っていない。(甲3,乙3)

 (5) 関係する法律の定め
 ア 消費者契約法10条
 民法,商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。
(以下,「条項であって」までの部分を「前段要件」,その後の部分を「後段要件」という。)。


 イ 借地借家法
 (ア) 26条1項
 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし,その期間は,定めがないものとする。

 (イ) 28条
 建物の賃貸人による第26条1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは,建物の賃貸人及び賃借人・・・が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合でなければ,することができない。

 原告(借主)の主張へ続く 

第1  請求
  1  第1事件(本訴)
 1 被告会社は,原告に対し,34万8000円及び内金22万8000円に対する平成20年3月6日から,内金12万円に対する平成20年7月2日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 本件確認の訴え(後記第1の1(2))を却下する。
3 被告会社の第2事件及び第3事件についての各請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,全事件を通じて被告会社の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

【判例】 ②更新料返還等請求事件等 原告(借主)の主張

2010年02月08日 | 更新料(借家)判例

2 争点及び争点に関する当事者の主張
 (1) 本件更新料条項の有効性
 (原告及び被告Aの主張)
 本件更新料条項は,消費者契約法10条により無効である。

 ア 本件更新料条項の法的性質
 被告会社は,本件更新料条項は,①賃料の補充,②更新拒絶権放棄の対価,③賃借権強化の対価としての性質があって,更新料の支払には合理性があると主張するが,以下のとおり,更新料の支払には合理性がない。

 (ア) 賃料の補充
 賃貸借期間が長期で設定され,かつその期間中賃料相場が増額していくといった社会事情がある場合には,将来生じる賃料の不足分をあらかじめ更新料という形で補っておくことに合理性がないわけではない。しかし,現在の不動産価格の状況からはそのような社会事情があるとはいえないし,アパートやマンション等の建物賃貸借においては,賃貸借期間は1年や2年と短期であるから,賃料の不足分が生じるとは考えられない。また,賃料の不足分を補うとしても,賃貸借期間を考慮することなく一定の金額で算定することには合理性がない。

 また,更新料に賃料補充という性質があるのならば,その分月額賃料が低額になっていること,中途解約の場合の精算が定められていること,更新料が賃料の補充・前払いであることが賃借人に告知されていることが必須であるが,本件賃貸借契約では,月額賃料が低額になっているとは認められないし,中途解約の場合の精算条項はなく,むしろ更新料の返還には一切応じないとされており,使用収益期間と更新料は対応していない上,更新料が賃料の補充である旨の表示も一切ない。重要事項説明や契約締結の際にも,更新料が何の対価なのかの説明は一切なく,賃料の補充であるという説明もなかったし,更新料の事前告知も一切されていない。

 以上によれば,賃料の補充であるとの考え方に合理性はない。

 (イ) 更新拒絶権放棄の対価
 賃貸借契約の更新に関する賃貸人の更新拒絶権は,期間満了の6か月前までに行使しなければならないところ(借地借家法26条1項),通常,合意更新がされる契約期間満了のころには,既に賃貸人による更新拒絶権行使の期間が徒過しており,更新拒絶権が発生しないことが確定している場合がほとんどである。したがって,このような場合には,もはや更新拒絶権の放棄とか,更新拒絶権行使に伴う紛争回避ということが問題となる余地はなく,更新拒絶権放棄や更新拒絶権行使に伴う紛争回避の対価として更新料の性質を説明することはできない。

 また,賃貸人が期間満了の6か月前までに更新拒絶権を行使した場合,その後賃借人が更新料の支払を申し出たからといって,賃貸人が更新拒絶権を放棄して合意更新に応じるとは通常考えられない。

 いずれにせよ,更新拒絶権が発生するか否かにかかわらず一律に合意更新の場合に更新料が徴収されていることの説明はつかない。

 加えて,本件賃貸借契約は,収益目的の居住用賃貸物件の建物賃貸借契約であるが,このような場合に正当事由が認められることは考えられず,究極的なケースを想定しても,立退料の支払もないまま正当事由が認められることはない。そうすると,賃借人が,立退料分を受領せず,逆に月額賃料の2か月分の更新料を支払わなければならないという本件更新料条項は,その料金に相応するサービスの提供がなく,更新拒絶権放棄との対価性をもたない。

 (ウ) 賃借権強化の対価
 法定更新の場合には,期間の定めのない賃貸借となり(借地借家法26条1項ただし書),賃貸人は,解約の申入れをすることができ,解約申入れから6か月を経過すると賃貸借契約は終了するが(同法27条1項),解約申入れにも,更新拒絶の場合と同様に,正当事由があることが要件となる(同法28条)。しかし,マンションやアパートのように,当初から他人に賃貸する目的で建築された物件の場合,賃貸人の自己使用の必要性は極めて希薄であるから,賃貸人に同法28条所定の解約申入れにおける正当事由が認められることは考えられず,更新料を支払って合意更新をしても賃借権の強化にはならない。

 また,本件更新料条項は,法定更新においても更新料が発生するとしており,この点において,そもそも本件では賃借権強化の対価という理屈は成り立ち得ない。

 (エ) 以上のように,被告会社の主張する本件更新料条項の法的性質は,いずれも当事者の意思に反し合理性がない。

 更新料は,賃借人から賃貸人に対して単に慣行的に支払われてきた贈与又は謝礼としか説明ができないものであるが,現在では賃貸物件数に比べ需要が少なくなっており,賃借人が一方的に贈与や謝礼をする根拠が欠けている。結局,更新料とは,賃貸人が,情報力や交渉力の格差を利用し,賃借人に十分な法的知識がないことを奇貨として,半ば強制的に徴収している金銭である。

 イ 前段要件該当性
 本件更新料条項は,賃借人である原告にのみ一方的な負担を強いる不合理なものであって,民法601条の賃料支払義務に加えて賃借人の義務を加重するものであるから,前段要件該当性がある。

 被告会社は,本件更新料条項は契約の中心条項であるとして,消費者契約法10条の適用がないと主張するが,中心条項と付随条項を判然と区別するのは不可能であるし,中心条項に同条の適用がないという見解そのものも誤りである。

 ウ 後段要件該当性
 更新料には何らの合理性,対価性はなく,賃借人は合理性,対価性のない金銭の支払という重大な不利益を受けるのに対し,賃貸人には何らの不利益も発生しない。受領済みの更新料を返還しなければならないのは,本件更新料条項が無効になる以上,法が初めから予定している当然の法律効果であって,賃貸人の不利益ではない。

 賃貸人と賃借人との間に情報力,交渉力の格差があり,更新料支払条項を契約条件に入れるか否かの選択の自由,交渉が賃借人に保障されていないことからも,賃借人の受ける上記不利益が大きいことは明らかである。

 被告会社は,賃借人が賃貸物件情報を手に入れやすいと主張するが,これは単に情報が量的に入手しやすいというだけであり,問題となる条項がいかなる計算なり趣旨で設定されているかという情報の質の面では賃貸人と賃借人との間には大きな格差がある。また,インターネット上の賃貸情報でも,更新料の事前告知は一切されておらず,いざ契約の時点になって初めて更新料という名目の負担を聞かされるというのが実態であり,重要事項説明や契約締結の際に,更新料が何の対価なのかの説明も一切ない。

 また,被告会社は,更新料が社会的に承認されているなどと主張しているが,社会で広く行われていても無効となることはあるのだから,これは更新料条項が有効であることの根拠にはならない。

 以上によれば,本件更新料条項は,信義則に反して,一方的に,正当な理由なく賃借人である原告の利益を害するものであり,後段要件に該当する。

 エ 借地借家法30条との関係
 借地借家法30条は,「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは,無効とする。」としているところ,同節の規定である同法26条1項,2項は,更新料の支払を条件としない法定更新を認めているから,本件更新料条項のように,法定更新に際して賃借人に更新料支払義務が発生するという内容の条項は,借地借家法30条によって無効となる。

 被告(貸主)の主張へ続く


【判例】 ③更新料返還等請求事件等 被告(貸主)の主張

2010年02月08日 | 更新料(借家)判例

(被告会社の主張)
 本件更新料条項は有効である。

 ア 本件更新料条項の法的性質
 (ア) 賃料の補充
 更新料は,賃料の補充・前払いとしての性質を有する。

 a 更新料で賃料を補充することの合理性
 賃貸人は,権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行った上で毎月の賃料額を設定するのが当然であって,その結果生じる設定賃料と本来受けるべき経済賃料との差額について,更新料により補充することは十分合理性を有する。現在では,全国的に賃貸物件は10パーセント以上余っており,京都においても,全賃貸物件のうち20パーセント,場所によっては30パーセントもの空き室が生じており,借り手市場となっていて,他の物件より不利な条件設定をすれば,競争力を失い,空き室に苦しむことになる。一方,賃借人は,更新料の存在によって,契約当初から更新時までは低く設定された賃料で借りることができ,月額賃料を基準に設定される仲介手数料や敷金の支払も少なくて済み,入居しやすいという利点があるし,一般的に更新料の定めのある物件は,更新料の定めのない物件に比べ賃料は割安に設定されており,賃借人は更新料のある物件にするか否かを選択することができる。

 b 当事者の合理的意思
 賃借人は,仲介業者から,複数の物件の紹介を受けて,物件の所在,設備,広さ等とともに,更新料を含む経済的な出捐(礼金,敷金,賃料及び更新料)を比較対照した上で,物件を選択しており,個別的な契約締結の場面においても,更新料が契約更新時に発生する旨重要事項として説明されるなどしているので,更新料を,更新の際に負担する金銭であり,自己の支出となり,賃貸人の収入となり,返還されない金銭であることを理解している。

 したがって,賃借人は,更新料を契約更新時に支払うことが必要であり,賃借する物件を使用収益するのに必要となる経済的負担として把握しているのであり,そのことから更に進めて,賃借人が,更新料を,賃借する物件を使用収益するのに必要な対価として把握していると意思解釈することは正当である。賃借人は物件の使用の対価として,賃料が毎月発生する経済的負担であり,更新料は更新時に発生する経済的負担という認識を有しているのである。

 また,更新料は広く利用され,社会的承認を受けてきたものであるから,使用収益の対価であるといえる。そうすると,当事者間で更新料の支払に関する合意がされている以上,その合理的解釈として,使用収益の対価の支払に関する合意がされているものと評価できる。

 c 原告及び被告Aの主張に対する反論
 原告及び被告Aは,本件更新料条項には中途解約の場合の精算条項がなく,更新料が使用収益期間に対応していないと主張する。

 しかし,建物賃貸借における賃料の支払を月ごとと定めた民法614条は任意規定であり,それと異なる賃料前払いや年払いの合意をすることも可能であって,契約更新時に賃借人に補充賃料を支払ってもらうことも自由である。契約期間内に中途解約などによって契約が終了した場合と期間満了の場合とで差はあるが,これについては,中途解約の際は賃借人が更新料の支払により受けるべき利益を自ら放棄したものであるとか,中途解約に伴う違約金条項としての側面が表れたものであるとか,更新料が賃料の補充のみではない複合的な性質を有しているから差が生じたものである,などと説明することができる。

 また,そもそも賃貸借契約は継続的な使用の対価として賃料を設定するため,契約上厳密に使用収益の期間と賃料額を対応させること自体困難であって,そのような完全な対価性を有していないことをもって,不合理であるとはいえない。

 そして,本件の更新料は,1年間の更新期間ごとに支払うものであり,更新しなければ支払う必要がないから,この点で,まさに使用収益の期間に対応して支払うことが予定されているといえる。さらに,賃借人が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は,ほぼ賃貸期間に比例している上,賃貸人たる被告会社においてはこれを収入の予定として,賃借人たる原告においては支出の予定として,あらかじめ契約締結時に互いに納得していたのであるから,本件居室の使用収益の対価としては,毎月支払われる賃料と1年ごとに支払われる更新料の2本立てになっていた,すなわち,本件の更新料は賃料の補充ないし賃料の前払いとしての性質を有していたと解するのが,当事者の合理的意思に合致する。

 (イ) 更新拒絶権放棄の対価
 更新料が授受されて賃貸借契約の合意更新が行われる場合,賃貸人は,正当事由があるときでも,正当事由が存在しないことが明らかではないときでも,更新拒絶をしないで契約を合意更新することになるから,その意味で,更新料は,賃貸人が更新拒絶権を放棄し,その結果賃借人が更新拒絶権行使に伴う紛争を回避することができることの対価としての性質を有する。

 賃借人も,更新料にはこのような性質があると思えばこそ,更新時に更新料を支払うのであるから,更新拒絶権放棄の対価としての性質も有していたと解するのが当事者の合理的意思に合致する。

 原告及び被告Aは,更新拒絶権の行使可能時期の点を問題とするが,賃貸人は,契約期間満了6か月前までに更新拒絶権放棄をいわば先履行し,契約更新時に,賃借人からその対価としての更新料の支払を受けるというように説明することは十分に可能である。

 また,原告及び被告Aは,更新拒絶の正当事由が認められることは考えられないと主張するが,正当事由の有無を明確に判断できない場合も少なくなく,そのような場合に,賃貸人が更新拒絶権を放棄して紛争を回避することも多い。

 (ウ) 賃借権強化の対価
 更新料を支払って賃貸借契約が合意更新され,契約期間中は賃貸人から一切解約申入れがされない賃借人の立場と,法定更新となって,いつ正当事由に基づく解約申入れがされるか分からない賃借人の立場には差異があるから,この意味で,更新料の支払により賃借権は強化されるし,そのように解するのが当事者の合理的意思に合致する。

 イ 前段要件該当性
 契約の要素と主たる給付の対価に関する条項のことを中心条項といい,これを付随条項と区別すべきであるが,消費者契約法10条前段は,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し」という文言で規定されているところ,契約の要素や価格のように,あらかじめ与えられた法的基準ではなく,専ら当事者の自由意思や,市場経済システムに基づく需要と供給によって決定される事項に関しては,「比べる」適切な法的基準が存在せず,同条による司法的内容審査には服さないとの趣旨と解すべきであるから,中心条項には同条は適用されない。

 そして,中心条項と付随条項の区別は,市場メカニズムが一定程度機能しているか,当事者の主観的意思が関与しているかによって行うべきである。本件更新料条項は,その法的性質からは,賃料の補充という意味で主たる給付の対価である上,その契約書や重要事項説明書の記載上主たる給付の価格条項たる賃料と並べて記載されており,賃借人の意思決定の考慮要素となっているから,市場メカニズムが機能し,当事者の主観的意思も関与しているといえる。したがって,本件更新料条項は,中心条項であり,消費者契約法10条前段は適用されない。

 ウ 後段要件該当性
 (ア) 判断基準
 後段要件は,その条項を無効にすることによって事業者が受ける不利益と,その条項が有効であることによって消費者が受ける不利益とを総合的に衡量し,消費者の受ける不利益が信義則に反し均衡を失するといえるほど一方的に大きい場合に,該当性が認められる。

 また,契約の核心的合意部分については,契約当事者の関心が強く,市場メカニズムが機能することが期待できるため,後段要件該当性の判断については更に謙抑的な基準が適用されるべきであり,消費者の受ける不利益が一方的に害されかつその程度が格段に大きい場合に限り,後段要件該当性が認められると考えるべきである。

 本件更新料条項は,前記イのとおり中心条項であり,上記の核心的合意部分である。

 (イ) 本件更新料条項の合理性等
 本件更新料条項は,前記アのような性質を有する合理的なものであるし,更新料の金額も,本件居室の状況に加え,契約期間や月額賃料の金額等の事情に照らせば,過大なものではない。

 また,建物賃貸借契約における更新料の約定は,40年以上にわたり全国的に広範囲に使用されており,社会的に慣行として承認されている。

 企業の中には,賃貸物件について更新料の補助制度が設けられているところもあり,行政においても,生活保護では更新料の扶助が行われているし,裁判所においても,調停条項や和解条項等で更新料の定めが認められている。このような社会的承認があることは,更新料条項が合理性を有することの証左である。

 さらに,借地借家法においても,更新料は何ら規制がされていない。

 (ウ) 情報力,交渉力の格差
 近年の居住用建物賃貸借契約は借り手市場であり,賃貸人には零細な事業者が多いが,賃借人は,賃貸物件情報を,インターネット,情報誌,広告等の媒体により,容易に大量に入手することができるところ,物件の広告などにおいて,更新料という用語は広く用いられているし,更新料は賃貸物件の条件提示において明示されており,契約書にも明確な文章で記載されている。更新料は,「約定の契約期間満了後も契約継続する場合にその対価として支払うものである。」という意味においては一般に広く理解されている。

 本件においても,賃借人である原告は,数ある賃借物件から,賃貸条件を比較対照して自由に選択できる立場にあった。また,本件更新料条項は,更新料の金額,支払条件が明確である上,原告は,このような更新料の約定の存在やその金額について,仲介業者から説明を受けた上で,本件居室を選定したと考えられ,原告は,その後再び仲介業者から重要事項説明の中で更新料について説明を受けている。

 このように,原告と被告会社に情報力,交渉力の格差はほとんどないし,本件更新料条項は,原告に不測の損害あるいは不利益をもたらすものではない。

 (エ) 被告会社の不利益
 賃貸人は,更新料が社会的に承認されてきたことなどから,更新料を設定して初期の賃料を低くするなどして,更新料を含めた全体の収支を計算し,月額賃料を設定している。本件更新料条項が無効になれば,他の物件の賃貸借関係にも波及し,被告会社は,消費者契約法施行後に締結された全ての賃貸借契約について,受領した更新料を返還しなければならなくなるという不利益を受けることになる。また,実際に原告から支払われた更新料は,被告の収入となり,税務申告をして税金を支払い,賃貸経営の諸経費,生活費などにすでに使用している。本件更新料条項が有効であることに対する被告会社の期待は合理的で,十分法的保護に値するものである。

 (オ) 原告の不利益
 更新料が設定されている物件は賃料のみの物件よりも月額賃料が低く設定されているのが通例で,原告は,更新時まで低い賃料で借り,仲介手数料や敷金等の初期費用も少なくて済むなどの点で有利であるし,更新料を支払うことで,更新拒絶権の放棄,賃借権強化という利益を得ている。また,更新料は社会的に承認され,多くの賃借人が更新料を支払っており,この点から,更新料を支払っていることの不利益は小さいといえる。さらに,原告は,本件賃貸借契約締結に際し,本件更新料条項について仲介業者から説明を受けた上で契約し,現実に約定更新料を支払ってきたのであり,更新料の厳密な法的性質は認識していなかったとしても,更新料が賃料の補充,更新できることの対価であることを明示的,黙示的に認識して,主体的に,本件更新料条項を含む本件賃貸借契約を締結したということができ,原告は,更新料及び月額賃料といった経済的負担に合理性があると判断していたはずであり,本件更新料条項が原告に不測の損害あるいは不利益を及ぼすことはないし,むしろ,原告は,目的物件の使用収益,契約期間の保護という利益を既に享受している。原告の主張する不利益は,いったん納得して支払った更新料が返還されないというに過ぎない。

 (カ) 原告及び被告Aの主張に対する反論
 原告及び被告Aは,更新料には何らの合理性,対価性がないから重大な不利益を受けており,本件更新料条項は無効であるという旨の主張をするが,上記(ア)の後段要件該当性の判断基準に照らせば,客観的な対価性を欠けば直ちに無効となるとの解釈には無理がある。また,複合的性質を有する更新料につき,各個別の性質からすべてを合理的に説明できないことをもって,更新料に合理性がないと批判するのも失当である。

(キ) 以上によれば,本件更新料条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとはいえないから,後段要件を満たさない。

 定額補修分担金条項の有効性 (借主・貸主の主張)へ続く


【判例】 ④定額補修分担金条項の有効性 (借主・貸主の主張)

2010年02月08日 | 更新料(借家)判例

(2) 本件定額補修分担金条項の有効性

(原告の主張)
 本件定額補修分担金条項は消費者契約法10条により無効である。

 ア 前段要件該当性
 本件定額補修分担金条項は,賃借人の通常の使用によって生じる損耗・経年 変化の回復費用を賃借人負担とするものである。建物賃貸借契約においては,賃料と通常使用に伴う損耗等とが対価関係に立ち,通常損耗等の発生が当然に予定されているところ,本件定額補修分担金条項は通常損耗等の回復費用につき,賃借人に二重の負担を課すものであって,民法601条に比して,消費者の義務を加重するものである。

 イ 後段要件該当性
 本件定額補修分担金条項では,賃借人の故意又は重過失による損傷の回復費用は,定額補修分担金とは別に賃貸人が賃借人に請求できることになっている一方で,軽過失による損耗は定額補修分担金の中に含まれるとしている。しかし,実際の軽過失損耗の有無にかかわらず賃借人に費用を負担させる点で明らかに不当であり,また,実際に軽過失損耗があったとしても,本来は負担対象範囲の限定や経過年数を考慮した上で賃借人の負担割合が決定されるのに,本件の定額補修分担金条項はそのような負担割合を一切無視するものであり,不当である。結局のところ,本件定額補修分担金条項は,賃借人の過失損耗を超えて通常損耗等の回復費用を賃借人に負わせようとするものである。また,故意又は重過失による損耗の回復費用については,補修費用の二重取りができる状態となっている。このように,本件定額補修分担金条項は,賃借人である原告と賃貸人である被告会社がリスクと利益を分け合う交換条件的な内容にはなっていない。したがって,本件定額補修分担金条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえる。

 (被告会社の主張)
 本件定額補修分担金条項は有効である。

 ア 前段要件該当性
 
 本件定額補修分担金条項は,賃借人の軽過失による原状回復費用が定額補修分担金を超える場合には,その原状回復費用を賃貸人の負担とする点において賃借人の義務を軽減するものであるし,また,原状回復費用についてあらかじめ賃借人の負担部分を定めることによって,契約終了時の紛争を回避し,賃借人と賃貸人がリスクと利益を分け合う交換条件的な内容を定めたものである。

 そうすると,本件定額補修分担金条項は,民法等の規定に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項とはいえない。

 イ 後段要件該当性
 本件定額補修分担金条項により,賃借人である原告は,軽過失は免責されるので,通常の生活を営む限り,原状回復費用のことを気にかけることなく安心して物件に居住することができる。また,損害額をあらかじめ定額化することにより,退去時における紛争のリスクも格段に減少する。これらのメリットによれば,本件定額補修分担金条項が一方的に消費者に不利益であるとはいえない。

 争点(1) 更新料条項 (裁判所の判断)へ続く


【判例】 ⑤争点(1) 更新料条項 (裁判所の判断)

2010年02月08日 | 更新料(借家)判例

第3 争点に対する判断

1 争点(1)について
(1) 本件更新料条項の法的性質の検討
 ア 検討の前提
 本件更新料条項は,法律上の根拠に基づくものではなく,本件賃貸借契約の一内容として,原告と被告会社との間で定められたものである。したがって,本件更新料条項の法的性質の内容は,当事者である原告と被告会社の契約時における合理的意思の解釈によって判断することとなる。そして,この合理的意思解釈に際しては,本件賃貸借契約条項の文言,契約締結経緯等の客観的事情や,当事者の当時の認識等の主観的事情等がその判断資料となる。
以上を前提に,以下,本件更新料条項の法的性質につき検討する。

 イ 賃料の補充としての性質
 (ア) 賃料の意義

 賃貸借契約は,賃借人による目的物の使用とその対価としての賃料の支払を内容とする契約であるから(民法601条),賃料とは,目的物の使用収益の対価たる金銭である。そして,賃料以外の金銭,すなわち,目的物の使用収益と対価関係に立たない金銭の支払を負担することは,賃貸借契約の基本的内容には含まれない。

 (イ) 本件賃貸借契約条項の定め
 a 本件の更新料は,本件賃貸借契約条項上,名目は「賃料」ではないし,「賃料」とは別個に定められている。したがって,この点からは,本件の更新料は,賃料以外の,賃貸借契約の基本的内容に含まれない金銭と考えるのが自然である。

 b しかし,名目は「更新料」であっても,当事者が,目的物の使用収益の対価の一部として定めたのであれば,名目はともかく,法的には賃料の一部であると評価しうる余地はある。

 c そこで,更に本件賃貸借契約条項をみると,更新料が賃料の補充又は一部であると定めた規定はないほか,一度支払った更新料は返還されない旨の規定があり,たとえ中途解約がされても,それまでの使用収益期間に応じて返還されることはない(別紙2条3項)。

 (ウ) 被告会社の主張の検討
 a 被告会社は,①本件の更新料が1年の更新期間ごとに支払われ,更新しない場合には授受が予定されていないこと(別紙2条4項),②原告が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は賃貸期間に比例しており,当事者もこれを納得していることなどから,本件の更新料は使用収益の対価たる賃料の補充・前払いとして定められていたと解するのが当事者の合理的意思に合致する旨主張している。

 b まず,この主張を,賃貸人たる被告会社の意思に関して検討すると,弁論の全趣旨によれば,被告会社は,本件賃貸借契約締結当時,「目的物の使用収益の対価」,すなわち賃料として更新料を設定する意思であった可能性が高いと認められる。

 ただし,被告会社は,「権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行った上で毎月の賃料額を設定する」旨の主張もしているほか,「本来受けるべき経済賃料額」として考える額を定めて,そこから一定額を更新料という名目に移し替えるという作業をしたようにも窺われないから,本件賃貸借契約締結当時,法的意味での賃料すなわち「目的物の使用収益の対価」という観点を十分に認識していなか
った可能性がある。そして,これらの事情によると,被告会社は,更新料を,賃料すなわち「目的物の使用収益の対価」の一部という狭い意味ではなく,「本件賃貸借契約に係る全体の収益の一部」という広い意味において考慮し設定した可能性もあるといえる。

 c 次に,上記a1,2の主張を賃借人たる原告の意思に関して検討すると,被告会社の主張するとおり,原告が,更新料を含めた賃貸借契約に伴う全体の収支や経済合理性を検討した上で本件居室を賃借すると決め,更新料についても,更新の際に負担する金銭で,自己の支出となり,賃貸人たる被告会社の収入となり,返還されない金銭であることを理解していたことは十分に窺われるし,原告が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計が,ほぼ賃貸期間に比例していることも理解し得たことが窺われる。

 被告会社は,このことから,原告が,更新料を,本件居室を「使用収益」するのに必要な対価として把握していると意思解釈できる旨主張しているものである。

 しかし,例えば敷金や共益費・RCV料など,本件賃貸借契約の「目的物」である本件居室の「使用収益の対価」ではないが,賃貸借契約に付随して授受される金銭というものもあるから,賃借人の側としては,賃貸借契約に伴う費用であるからといって,それはすべからく「使用収益の対価」であると考えるとは必ずしもいえない。更新料についても,例えば,更新に対する謝礼であるとか,合意更新をしてもらうことの対価であるなどと賃借人が考えることは,十分にあり得ることである。現に,被告会社も,「賃借人は更新拒絶権放棄(紛争回避)の性質があると思えばこそ更新時に更新料を支払う」旨の主張をしており(前記第2の2(1)(被告会社の主張)ア(イ)),実際のところ,賃借人がそのように考えて更新料を支払う可能性も十分に認められるものである。

 そうすると,原告に上記のような認識,理解があったからといって,直ちに,原告が更新料を「目的物の使用収益の対価」と認識していたということにはならない。

 (エ) その他の事情
 本件賃貸借契約締結時,原告と被告会社が,更新料が「目的物の使用収益の対価」たる賃料の補充又は一部である旨合意していたとか,原告が更新料につき賃料の補充又は一部である旨の説明を受けたとか,原告が更新料を賃料の補充又は一部として支払ったと認めるに足りる証拠はない。

 (オ) 当事者の合理的意思解釈のまとめ
 以上のような,賃料の意義((ア)),本件賃貸借契約条項の定め((イ)),被告会社の主張の検討結果((ウ)),その他の事情((エ))を総合すれば,本件において,当事者である原告及び被告会社の合理的意思を検討しても,両者が,本件更新料条項を「目的物の使用収益の対価」たる賃料の補充又は一部として定めていたと解することはできない。

 そして,以上の検討結果によれば,明確に認定することはできないものの,実際のところは,被告会社としては,本件の更新料を「使用収益の対価」たる賃料の一部であると考えていたが,原告は,そうは考えず,更新料を,「更新に対する謝礼」であるとか,「更新拒絶権放棄の対価」等として考えるなどしていたため,更新料についての当事者の意思が,「賃貸借契約に関する全体の収支」というレベルでは合致していたものの,「使用収益の対価」というレベルでは一致していなかったという可能性が高いものと考えられる。

 (カ) 以上のとおりであるから,本件更新料条項に,賃料の補充又は一部という性質があるとは認められない。

 ウ 更新拒絶権放棄の対価としての性質
 (ア) 賃貸人である被告会社が,更新拒絶の正当事由が存在するか,あるいは存在するか否かが判然としないにもかかわらず,更新時に本件更新料条項に基づく更新料の支払が受けられることを期待し,これと引換えに更新拒絶権をあらかじめ放棄することにより,賃貸人と賃借人との間の紛争が避けられることもあり得るから,この意味で,更新料が更新拒絶権放棄と一定の対応関係を有し,賃借人である原告に利益をもたらす面があることは否定できない。

 なお,原告及び被告Aは,更新料の支払われるころには,既に賃貸人による更新拒絶権行使の期間(期間満了の6か月前まで)が徒過していて更新拒絶権が発生しないことが確定しているのが通常であり,更新料の支払によって更新拒絶権が放棄され紛争が回避されるとはいえない旨主張しているが,上記のように,賃貸人は,更新時に更新料の支払が受けられることを「期待して」あらかじめ更新拒絶権を行使しないことも考えられるから,この主張は失当である。

 (イ) しかし,借地借家法28条の規定等によれば,更新拒絶の正当事由の判断に際しては,当事者双方の建物使用の必要性が基本的な判断要素となり,建物の賃貸借に関する従前の経過及び建物の利用状況,立退料その他の財産上の給付の提供・支払は,補完的要素であって,建物使用の必要性の有無のみでは判断し難い場合に,初めてこれが考慮されるものと解される。

 このような正当事由の判断方法に照らすと,収益目的の居住用賃貸物件の建物賃貸借契約においては,当初から他人に賃貸する目的であるから,正当事由が認められる場合は少ないと考えられる。

 そして,本件においても,本件建物は被告会社がその事業のために賃貸用に改装して賃貸している物件であり,本件居室はその一室である以上,正当事由が認められる場合は少ないということができる。

 (ウ) また,本件においては,更新時に更新料の支払が受けられることを期待して被告会社が更新拒絶権をあらかじめ放棄するといっても,それまでに原告から更新の申出(別紙2条2項。申出の期限は期間満了の60日前である。)がされていない限り,期間満了の6か月前までは,被告会社が更新拒絶権を放棄するかしないかを自由に選択できる。したがって,本件更新料条項の存在により,必ず賃貸人である被告会社の更新拒絶権放棄がもたらされるわけではない。

 (エ) このように,本件において,更新料が更新拒絶権放棄と一定の対応関係を有するとしても,そのような関係は,解約申入れに正当事由があるか,又はあるか否か判然としない場合であり,かつ,賃貸人である被告会社が,その自由な選択の下,解約よりも更新料の支払を受ける方を選択したという限られた場合に認められるもので,これにより賃借人が受ける紛争回避の利益は,それほど大きく評価すべきものではない。

 加えて,本件における更新料額は,1年ごとに月額賃料の2か月分,すなわち7万6000円と,かなり高額である。

 その他,本件において,原告と被告会社が,特に更新料を更新拒絶権放棄の対価としての性質があるものと合意したとの事情を認めるに足りる証拠はない。

 (オ) 以上を総合すると,本件において,更新拒絶権放棄は,そもそも本件の更新料の対価となっているとまではいえないか,あるいは,対価としての性質は認められるとしてもその意義は希薄で,更新料の金額とは均衡していないというべきである。

 エ 賃借権強化の対価としての性質
 (ア) 被告会社は,賃貸借契約が合意更新された場合,更新後も期間の定めのある賃貸借となるので,賃借人は,契約期間の満了までは明渡しを求められることはないが,法定更新の場合には,更新後の賃貸借契約は期間の定めのないものとなるので(借地借家法26条1項ただし書),賃貸人は,いつでも解約を申し入れることができるから,賃借人の立場は不安定なものとなるので,更新料は,合意更新をする対価であると主張する。

 (イ) しかし,そもそも本件更新料条項においては,法定更新の場合にも更新料を支払う旨定められているから(別紙2条3項,4項),更新料を支払ったことによって賃借人の地位の安定すなわち賃借権の強化がもたらされることはない。つまり,上記のような合意更新と法定更新の違いを前提とする説明は,このどちらの場合にも支払うこととしている本件更新料条項の性質の説明としては,およそ成り立ち得ない。

 なお,仮に本件で法定更新の場合に更新料を支払う旨の定めがなかったとしても,法定更新の場合の解約申入れにも正当事由の存在が要件とされており(借地借家法28条),前記ウ(イ)で検討したように,本件では正当事由が認められる場合が少ないと考えられることからすると,法定更新後の賃借人の立場と合意更新後の賃借人の立場の安定性の差異はわずかにすぎず,賃借権がそれによって強化されたと評価するのも困難である。

 (ウ) その他,原告と被告会社が,本件更新料条項に賃借権強化の対価の性質があると特に合意したとの事情を認めるに足りる証拠はない。

 (エ) 以上によれば,本件更新料条項には,賃借権強化の対価としての性質はない。

 オ 以上検討したとおり,本件更新料条項には,賃料の補充又は一部としての性質,賃借権強化の対価の性質はいずれも認められない。また,更新拒絶権放棄の対価の性質も,そのようにはいえないか,あるいは,かなり希薄なものとしてしか認められず,本件における更新料の金額とは均衡していない。

 そうすると,本件更新料条項は,極めて乏しい対価しかなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な性格を有すると評価することもできる。

 消費者契約法10条該当性の検討 (裁判所の判断)へ続く


【判例】 ⑥消費者契約法10条該当性の検討 (裁判所の判断)

2010年02月08日 | 更新料(借家)判例

(2) 消費者契約法10条該当性の検討

 ア 消費者契約法の適用
 原告は,事業として又は事業のために本件賃貸借契約の当事者となったものではない個人であるから,消費者契約法2条1項の「消費者」に該当する。また,被告は,不動産賃貸業等を事業とする株式会社であるから,同条2項の「事業者」に該当する。
 したがって,本件賃貸借契約は同条3項の「消費者契約」に該当し,同法10条の規制対象たりうる。

 イ 前段要件該当性
 (ア) 消費者契約法10条は,その前段において,適用の対象となる条項を「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」と規定している。

 そして,前記(1)オのように,本件更新料条項は,極めて乏しい対価しかなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な性格を有するとも評価できるものであり,賃料の補充又は一部という性質は有していない。

 したがって,本件更新料条項は,賃借人に対し,民法601条に定められた賃貸借契約における基本的債務たる賃料以外に,金銭の支払義務を課すものであり,民法の規定に比して賃借人の義務を加重しているから,前段要件を充足する。

 (イ) なお,被告会社の主張にかんがみ検討すると,賃借人である原告が,本件更新料条項を,本件賃貸借契約を締結する際の意思決定の考慮要素としていることは認められるから,この点において,本件更新料条項が,被告会社のいうところの中心条項の要件である,市場メカニズムによって機能し,当事者の主観的意思が関与しているものということは不可能ではない。そうすると,被告会社の主張に従えば,本件更新料条項が中心条項に当たることになって,消費者契約法10条が適用されないということになってしまう。

 しかし,そもそも被告会社のいう中心条項が消費者契約法10条前段要件を満たさないのは,中心条項といわれる契約の要素や価格についての定めは,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による」とそもそも当事者の自由に委ねられ,依るべき法的基準が与えられていないので,これに「比し」て「消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重」している場合が考えられないからであると解される。

 このように,同条は,依るべき法的基準がない,すなわち私的自治が強く尊重されている事項については,その司法的内容審査に服させないこととしているものと解されるのである。

 本件更新料条項は,必ず賃貸借契約に付随して定められるものであり,しかも,それ自身の対価がほとんど想定できないことからすれば,上記(ア)のように,賃貸借契約における賃借人の債務に関する民法601条の規定を,消費者契約法10条の「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」,すなわち,与えられた法的基準として考えることができるのであり,つまり,本件更新料条項は,当事者の全くの自由には委ねられていないと考えられるものである。したがって,本件更新料条項が,仮に市場メカニズムによって機能し,当事者の主観的意思が関与している条項であるといえたとしても,この点は同条前段の適用に関し障害とならないといえる。


ウ 後段要件該当性
 (ア) 検討の前提
 消費者契約法10条は,その後段において,同条により無効となる条項を,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」と規定している。

 この「消費者の利益を一方的に害する」とは,消費者契約法の目的(同法1条)等に照らせば,消費者と事業者との間の情報の質及び量,交渉力の格差を背景として,消費者が誤認又は困惑するような状況に置かれるなどして,消費者の法的に保護されている利益を,信義則に反する程度に,両当事者の衡平を損なう形で侵害することをいうものと解される。

 (イ) 次に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 a 国土交通省が,平成19年3月,財団法人日本賃貸住宅管理協会の会員である賃貸住宅管理会社を対象に行った民間賃貸住宅に係る実態調査の結果(乙19)によると,更新料の徴収は全国的に行われているが,大阪府,兵庫県のように,全く更新料の支払がされていない地域もあり,京都府においては,平成17年4月から平成18年3月の間にされた居住用住宅の賃貸借契約のうち更新料が徴収されている物件は,55.1パーセントである。

 b 更新料に関する情報
 インターネットや情報誌等の賃貸情報では,更新料が記載されているものも,記載されていないものも見受けられる上,同じ物件であっても,インターネットのサイトによって,更新料が記載されたりされなかったりしている場合もあるほか,被告会社自身のホームページ上でも,更新料についての記載がない場合がある(甲14~24,28,乙20,29~50)。このように,更新料の情報についての状況は一様ではない。

 (ウ) 検討
 a 情報及び交渉力の格差
被告会社の主張するとおり,賃借人は,賃貸物件の情報を,インターネットや情報誌等の賃貸物件情報により,容易に大量に入手できることは明らかである。そして,上記(イ)bによれば,更新料の有無や金額につき,選択した物件について必ず情報があるとは限らないものの,一定程度は,インターネットや情報誌等で情報を得ることができる状況にある。

 そうすると,少なくとも更新料に関する情報の量の点では,原告と被告会社には大きな格差は存在しないということができる。

 しかしながら,通常,一般の賃借人は,賃貸借契約上の個々の条項について,なぜそのような条項が定められているのか,なぜそのような金額になっているのかの理由については知らないことも多く,このような情報の質の観点からは,賃貸人との間に格差が存在することもあり得る。そして,通常,一般の賃借人が,前記(1)で検討したような更新料の法的性質というものについて認識しているとは考えられない
し,現に,本件更新料条項の性質については,原告と被告会社の間で認識が一致していたとは認められず,一致していなかった可能性も高いことは,既に前記(1)イ,ウ,エで検討したとおりである。

 そうすると,本件更新料条項に関する情報の質の点では,原告と被告会社との間に格差があったと認められる。

 また,証拠(乙1,9,10)及び弁論の全趣旨によれば,本件において,更新料を徴収すること及びその額については,賃貸人である被告会社の方であらかじめ決定しており,原告には交渉の余地はなく,仮にこれが不満であれば本件居室を賃借することを断念せざるを得なかったものと認められ,この意味において,本件更新料条項に関し,原告と被告会社との間には,交渉力の格差があったと認められる。

 被告会社は,情報力と交渉力に格差がない旨主張しているが,以上の検討結果に照らし,採用できない。

 b 原告の受けた不利益等
 前記(1)で検討したとおり,本件更新料条項は,極めて乏しい対価しかなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な性格を有するとも評価できるものである。そうすると,通常,賃借人たる原告は,このような性質を知っていれば,更新料は支払いたくないと考えるはずである。そして,原告がこのような本件更新料条項の性質について認識していたと認めるに足りる証拠はない。

 また,原告は,更新料を含め,本件賃貸借契約に伴う全体の収支や経済合理性を検討した上で本件居室を賃借すると決めたものと窺われるが,仮に,本件更新料条項の上記のような性質を認識していれば,本件居室を賃借しようと判断しなかった可能性もあり,その意味で,原告は,一種の誤認状態に置かれていたものと評価することができる。

 以上によると,原告は,本件更新料条項の性質について一種の誤認状態に置かれた上で,本件更新料条項について合意し,対価性の乏しい贈与的金銭(金額は更新1回当たり月額賃料の2か月分である7万6000円)の支払を約束し,実際に支払を行うことになり,法的に保護された利益を害されたということができる。

 c 被告会社の受ける不利益等
 本件更新料条項が無効となると,被告会社は既に受領している更新料を原告に返還することになる。しかし,これは,上記bの原告の受けた不利益に対応する利益がなくなるというだけのことであるから,この点は,ここでの検討において考慮すべき被告会社の不利益には当たらない。

 また,被告会社は,本件更新料条項が無効になれば,他の賃貸借関係にも波及し,既に受領した更新料を返還すべきこととなって,多大な不利益を受けるなどと主張しているが,これはそもそも本件更新料条項の効力の有無そのものによって受ける本件賃貸借契約に関する不利益ではない。更新料条項それぞれの規定内容,それぞれの契約締結前後の事情等によって,更新料条項の有効性の判断が事例ごとに異なることは当然にあり得るのであって,他の賃貸借契約への影響は,単なる事実上の問題にすぎない。したがって,被告会社の主張する被告会社の不利益は,ここでの検討に際し,考慮の対象とはならない。

 d 被告会社の主張の検討等
 被告会社は,その主張の中で,更新料が社会的に承認されていることを強調している。しかし,仮に更新料一般が社会的に承認されているからといって,本件更新料条項の対価性が乏しいことが克服されるわけではないし,これが原告の受ける不利益の大小に関係することもない。また,被告会社が主張する社会的承認の内容に関して検討しても,上記(イ)aのように,全国一律に更新料の慣習があるというわけでもないから,本件更新料条項の有効無効の判断に関係する事情とはいえない。

 e まとめ
 以上によると,本件更新料条項は,原告と被告会社との間の本件更新料条項に関する情報の質及び交渉力の格差を背景に,その性質について原告が一種の誤認状態に置かれた状況で,原告に,対価性の乏しい相当額の金銭の支払の約束と実際の支払をさせるという重大な不利益を与え,一方で,賃貸人たる被告会社には何らの不利益も与えていないものであるということができ,信義則に反する程度に,衡平を損なう形で一方的に原告の利益を損なったものということができるから,後段要件を充足する。

 (3) まとめ
 以上の検討によれば,本件更新料条項は,消費者契約法10条に該当することが明らかであり,同条により無効である。

 争点(2) 定額補修分担金 (裁判所の判断)へ続く


【判例】 ⑦争点(2) 定額補修分担金 (裁判所の判断)

2010年02月08日 | 更新料(借家)判例

2 争点(2)について

 (1) 前段要件該当性
 ア 民法の規定(601条,616条,598条等)によれば,賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務を負うが,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借契約の本質上当然に予定されている。したがって,建物の賃貸借契約において,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少である通常損耗の補修に関する費用は,使用収益の対価たる賃料の中に含まれているものと解される。

 よって,民法の規定によれば,賃借人には,通常損耗についての原状回復費用を負担すべき義務はない。

 イ 本件では,賃貸借開始時の新装状態への回復費用の一部負担金として定額補修分担金を支払うものとされており(別紙5条1項),ほかに通常損耗の原状回復費用が定額補修分担金に含まれないとの条項もないから,本件定額補修分担金条項は,通常損耗分の原状回復費用も含んでいるものと解される。また,故意又は重過失による損傷,改造の回復費用については,被告会社は別途原告に請求できる旨が定められている(別紙5条柱書,4項ただし書)。したがって,本件定額補修分担金条項による補填の対象となっているのは,前記アの通常損耗に関する原状回復費用と,原告の軽過失による損耗部分の原状回復費用ということになる。

 以上に加え,原告はいったん支払った定額補修分担金の返還を請求できないとされていること(別紙5条2項,3項)からすると,原告の軽過失による損耗部分の原状回復費用が,支払った定額補修分担金の額(12万円)に満たない場合には,原告は,本来賃料に含まれているはずの通常損耗分の原状回復費用についてまで負担させられることになる。

 そうすると,この点において,本件定額補修分担金条項は,前記アの民法の規定に比して,消費者たる原告の義務を加重する条項であるということができる。したがって,本件定額補修分担金条項は,前段要件を充足する。


(2) 後段要件該当性
 ア 原告の受けた不利益
 まず,本件定額補修分担金条項が原告の義務を加重している程度について検討すると,支払済みの定額補修分担金は一切返還されず(別紙5条2項,3項),故意又は重過失による損耗の原状回復費用は別途請求できるものとされている(別紙5条柱書,4項ただし書)から,民法の規定と比べると,1軽過失による損耗についての原状回復費用が12万円以上であれば,原告は通常損耗分の原状回復費用を負担しないことになり,原告に不利益はないが,2軽過失による損耗分の費用が12万円に満たない場合には,原告の義務は加重されていることになる。

 本件の場合,月額賃料は3万8000円であるのに対し,定額補修分担金はその3倍以上である12万円であるところ,軽過失による損耗の原状回復費用がこのような額になることは考えにくく,賃借人が民法の規定よりも加重された義務を負う場合が多くなるから,本件定額補修分担金条項は,賃借人たる原告にのみ大きい不利益を与えるものであるということができる。


 イ 情報及び交渉力の格差
 証拠(乙1,9,10,55)及び弁論の全趣旨からは,本件定額補修分担金条項自体及びその額は,被告会社が一方的に定めたものであり,原告には,同条項を定めるか否かや,その額について交渉する可能性はなかったものと認められるほか,原告に対し,定額補修分担金の有利不利を判断するために必要な情報(前記ア1,2の説明)が与えられたことはなく,原告がこのような情報を認識していなかったことが窺われる。

 このように,原告と被告会社には,本件定額補修分担金条項に関し,情報及び交渉力の格差があったものということができる。


 ウ 被告会社の主張の検討
 被告会社は,本件定額補修分担金条項は,軽過失による損耗の原状回復費用が定額補修分担金の額を超える場合には賃貸人の負担とする点において賃借人の義務を軽減しているとか,原状回復費用についてあらかじめ賃借人の負担を定めることによって紛争を回避し,リスクと利益を分け合う交換条件的な内容を定めたものであるなどと主張しているが,前記アのように,軽過失による損耗による原状回復費用が本件の定額補修分担金の額である12万円(月額賃料の3倍以上)を超えることは通常ほとんど考え難いことからすると,賃借人たる原告に,被告会社の主張するような利益があるとはいえず,本件定額補修分担金条項が交換条件的な内容であるということはできないから,被告会社の主張は失当である。


 エ まとめ
 以上によれば,原告は,本件定額補修分担金条項についての情報及び交渉力について被告会社と格差のある状況の下,自分にとって不利益であることを認識しないまま,本件定額補修分担金条項によって,信義則に反し,一方的に不利益を受けたものということができる。
 したがって,本件定額補修分担金条項は,後段要件を充足する。

 (3) まとめ
 以上によれば,本件定額補修分担金条項は,消費者契約法10条に該当し,無効である。

 3 不当利得
 本件更新料条項及び本件定額補修分担金条項はいずれも無効であるから,これら条項に基づき原告が被告会社に支払った22万8000円及び12万円の合計34万8000円は,いずれも法律上の原因がない利益に当たるということができる。

 4 結論
 以上のとおりであるから,原告の第1事件に係る金銭請求はいずれも理由があるから認容し,被告会社の第2事件及び第3事件に係る請求はいずれも理由がないから棄却する。なお,原告の第1事件に係る確認の訴えは,第2事件に係る金銭請求と訴訟物が同一であり,確認の利益がないから却下する。


 京都地方裁判所第3民事部

       裁判長裁判官 瀧 華 聡 之
       裁判官 佐 野 義 孝
       裁判官 梶 山 太 郎

 


別紙
以下の条項中「甲」とあるのは賃貸人である被告会社を,「乙」とあるのは賃借人である原告を意味する。

2条 契約の更新2項 乙は,契約期間の満了する60日前までに申し出れば,契約更新をすることができる。但し乙に家賃滞納等の契約違反がみられるとき,甲は契約更新を拒めるものとし,乙は契約の更新を主張できないものとする。

3項 乙は,契約を更新するときは,契約期間満了までに更新書類(中略)提出とともに,頭書(2)の更新料の支払いを済ませなければならない。又,法定更新された場合も同様(乙は更新料を甲に支払わなければならない)とする。尚,契約更新後の入居期間に拘わらず更新料の返還(月割り精算等の返還措置)は一切応じない。(「頭書(2)の更新料」とは,賃料の2か月分相当額を指す。)

4項 乙は甲に対し,法定更新・合意更新を問わず,契約開始日から1年経過する毎に更新料を支払わなければならない。

5条 定額補修分担金
本物件は,快適な住生活を送る上で必要と思われる室内改装をしております。そのために掛かる費用を分担し(頭書記載の定額補修分担金)賃借人に負担して頂いております。尚,乙の故意又は重過失による損傷の補修・改造の場合を除き,退去時に追加費用を頂くことはありません。(「頭書記載の定額補修分担金」の額は,12万円である。)

1項 乙は,本契約締結時に本件退去後の賃貸借開始時の新装状態への回復費用の一部負担金として,頭書(2)に記載する定額補修分担金を甲に支払うものとする。」(「頭書(2)に記載する定額補修分担金」は,上記のとおり12万円である。)

2項 乙は,定額補修分担金は敷金ではないということを理解し,その返還を求めることができないものとする。

3項 乙は,定額補修分担金を入居期間内に関わらず,返還を求めることはできないものとする。

4項 甲は乙に対して,定額補修分担金以外に本物件の修理・回復費用の負担を求めることはできないものとする。但し,乙の故意又は重過失による本物件の損傷・改造を除きます。

5項 乙は,定額補修分担金をもって,賃料等の債務を相殺することはできないものとする。

12条 連帯保証人
1項 連帯保証人は,乙と連帯して,本契約から生じる乙の一切の債務を負担するものとする。本契約が合意更新又は法定更新されたときも同様とする。

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。