東京・台東借地借家人組合1

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「改正 罹災法(案)と課題」 森 信雄弁護士が解説

2013年05月22日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

1 はじめに
 従来、大規模災害の際に適用される借地借家法の特別法として「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下「罹災法」と言う。)があったが、本年4月、政府はこれに代わる「大規模な災害の被災地における借地借家特別措置法案」(以下「改正案」と言う。)を国会に提出した。

 主な内容は、(1)優先借地権制度の廃止、(2)優先借家権制度の廃止と従前賃貸人による通知制度の新設、(3)借地人保護のための規律の改正・新設、(4)被災地短期借地権の新設であるが、字数の関係上、罹災借家人に関する見直し(上記(1)及び(2))と今後の課題に絞って述べる。

2 罹災借家人に関する制度の見直し
(1)優先借地権制度の廃止
 罹災法では、建物滅失時の借家人が地主に申し出て優先的に土地を賃借することができる、あるいは、借地権者に申し出て優先的に借地権を譲り受けることができる制度があるが(2条、3条)、改正案はこれを廃止するとしている。
 過去の適用例を踏まえ、災害を契機に借家権が借地権に昇格することの弊害が指摘されてきたからである。

(2)優先借家権制度廃止と通知制度の新設
 罹災法では、建物滅失後に再築された建物につき、滅失時の借家人が優先的に賃借できる制度がある(14条)。
 改正案はこれを廃止し、同地上に建物を再築した従前賃貸人が、災害指定の政令施行日から三年以内に同建物を賃貸しようとする場合、旧借家人(知れている者)にその旨を通知するべきものとしている。
 罹災借家人に元の場所で生活再建する機会を与える趣旨である。

3 今後の課題
 改正案によれば、罹災法と比較し、罹災借家人の地位は弱まる。罹災法は戦後処理の臨時法として制定された後に大規模災害にも適用されるようになり、様々な問題点が指摘されてきた点に鑑みれば、見直し自体はやむをえない面もあるが、罹災借家人の権利擁護に遺漏があってはならない。

 第1に、被災者のための公的賃貸住宅の建設や公的補助を伴う既存建物の活用といった公的制度の充実が図られるべきである。

 第2に、優先借家権制度を廃止し事前通知制度を導入するにしても、権利行使の機会を実質的に保障するには、再築者に対する資金補助や新建物の借家人に対する家賃補助といった施策が必要となるであろうし、新しい賃貸条件を巡る紛争を迅速かつ適正に解決する仕組みの整備も必要になると思われる。

 

全国借地借家人新聞より

 

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定期借家契約のUR梅田団地 (大阪・北区)

2013年05月20日 | 定期借家・定期借地契約

 「2014年の2月に立ち退きしなければならないが、いま近くの病院で心臓病の治療をうけていて、遠くにはいけないので困っている」という相談がありました。賃貸契約書をみせてもらうと、1960年2月から60年契約の借地上に建設されたUR住宅です。3年間の定期借家契約になっていました。

 梅田団地といって繁華街の中にあり、話を聞くと、古い住宅なので賃料も安く(1DK・4万5000円)、便利なので空きが出てもすぐに入居者があるそうです。どんどん入居させているということは、具体的な計画(建て替えや転売など)がたつまでは、再契約を繰り返し、計画が持ち上がると再契約を拒否できるようにしていると思われます。

 今すぐ立ち退きにはならないだろうということで、安心されましたが、平成32(2020)年借地契約が満了するころには、再契約拒否の可能性があります。更新の保証がない賃貸契約で不安を与え住まいの権利を奪う制度を公共住宅に適用することへの怒りをあらためて実感しました。

 

全国借地借家人新聞より

 

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内容証明で修繕請求、 家主が雨漏りを修繕 (東京・足立区)

2013年05月17日 | 修理・改修(借家)

 足立区内で借家をして10数年になるAさん(仮名)は更新料問題で組合に入会し、その後法定更新になった。

 今回は不動産屋に雨漏りの修繕要請をしても、一向に履行してくれないので組合事務所に夫婦で相談に行った。

 組合では建物賃貸借契約書を吟味し、Aさんからも話を聞き、民法606条1項の「賃貸人は賃借物の使用及び収益に必要な修繕をなす義務を負う」と定めていることを説明した。その上で、家主は借家人が契約通りに建物を使用できるよう修繕する義務があると付け加え、まずは直接家主宛てに期日を区切り雨漏りの修繕を要求し、修繕が行われなければ借家人が業者に依頼し、家主に修繕費用を請求し、支払がない場合賃料から修繕費用を相殺する旨を内容証明郵便にして送った。

 しばらくすると家主が業者に依頼したのか修繕の下見に来た。2週間後には工事が終了し、Aさんからお礼の電話が組合に寄せられた。今回は不動産屋に無視されてもあきらめず、家主に内容証明郵便で修繕請求を申し入れたことが好結果につながった。

 

東京借地借家人新聞より

 

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【判例】 *定期借家契約の成立要件は契約書と別個の書面の交付による説明が必要 (再)

2013年05月16日 | 定期借家・定期借地契約

最高裁判例


事件番号
・・・・・・・・平成22(受)1209
事件名・・・・・・・・・・ 建物明渡請求事件
裁判所 ・・・・・・・・・・最高裁判所第一小法廷
裁判年月日 ・・・・・・平成24年9月13日
原審裁判所 ・・・・・・東京高等裁判所
原審事件番号 ・・・・平成21(ネ)6078
原審裁判年月日 ・・平成22年3月16日

【事案の概要】
 本件は、建物を上告人に賃貸した被上告人が、本件建物の賃貸借は借地借家法38条1項所定の定期建物賃貸借であり、期間の満了により終了したなどと主張して、上告人に対し、本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める事案である。

 【裁判要旨】
 借地借家法38条2項所定の書面は、賃借人が、その契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要する。

 

        平成22年(受)第1209号  建物明渡請求事件
        平成24年9月13日  第一小法廷判決


                    主      文

          原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。

          被上告人の請求を棄却する。

          訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

                    理      由

 上告人の上告受理申立て理由について
 1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を上告人に賃貸した被上告人が,本件建物の賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)は借地借家法(以下「法」という。)38条1項所定の定期建物賃貸借であり,期間の満了により終了したなどと主張して,上告人に対し,本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める事案である。上告人は,同条2項所定の書面を交付しての説明がないから,本件賃貸借は定期建物賃貸借に当たらないと主張している。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 被上告人は,不動産賃貸等を業とする会社である。
 上告人は,貸室の経営等を業とする会社であり,本件建物において外国人向けの短期滞在型宿泊施設を営んでいる。

 (2) 被上告人は,平成15年7月18日,上告人との間で,「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わし,期間を同日から平成20年7月17日まで,賃料を月額90万円として,本件建物につき賃貸借契約を締結した。本件契約書には,本件賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了する旨の条項(以下「本件定期借家条項」という。)がある。

 (3) 被上告人は,本件賃貸借の締結に先立つ平成15年7月上旬頃,上告人に対し,本件賃貸借の期間を5年とし,本件定期借家条項と同内容の記載をした本件契約書の原案を送付し,上告人は,同原案を検討した。

 (4) 被上告人は,平成19年7月24日,上告人に対し,本件賃貸借は期間の満了により終了する旨の通知をした。

 3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断して,本件賃貸借は定期建物賃貸借であり,期間の満了により終了したとして,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 上告人代表者は,本件契約書には本件賃貸借が定期建物賃貸借であり契約の更新がない旨明記されていることを認識していた上,事前に被上告人から本件契約書の原案を送付され,その内容を検討していたこと等に照らすと,更に別個の書面が交付されたとしても本件賃貸借が定期建物賃貸借であることについての上告人の基本的な認識に差が生ずるとはいえないから,本件契約書とは別個独立の書面を交付する必要性は極めて低く,本件定期借家条項を無効とすることは相当でない。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは,公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(法38条1項),そのような賃貸借をしようとするときは,賃貸人は,あらかじめ,賃借人に対し,当該賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(同条2項),賃貸人が当該説明をしなかったときは,契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)。

 法38条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃借人になろうとする者に対し,定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ,当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず,説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。

 以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと,同条2項は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃貸人において,契約書とは別個に,定期建物賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上,その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして,紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると,上記書面の交付を要するか否かについては,当該契約の締結に至る経緯,当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく,形式的,画一的に取り扱うのが相当である。

 したがって,法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。

 約書とは別個独立の書面であるということはできず,他に被上告人が上告人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお,上告人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。

 そうすると,本件定期借家条項は無効というべきであるから,本件賃貸借は,定期建物賃貸借に当たらず,約定期間の経過後,期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取り消し,上記請求を棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


(裁判長裁判官  白木 勇、   裁判官  櫻井龍子、   裁判官  金築誠志、   裁判官 横田尤孝、   裁判官  山浦善樹)


 

 

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【判例紹介】 *定期借家契約の成立要件は契約書と別個の書面の交付による説明が必要

2013年05月14日 | 定期借家・定期借地契約

判例紹介

 定期借家契約が有効に成立するための要件として、契約前に、契約書とは別個に「契約更新がなく、期間満了により契約終了となる旨を記載した書面」を交付して説明することが必要とした事例 最高裁平成24年9月13日判決)。

 【事案の概要】
 貸室事業を営む会社と不動産会社が建物賃貸借契約を結んだ。その契約書には、契約期間、賃料など通常の契約内容に加え、本件契約は更新がなく、期間満了により終了することが定められていた(定期借家条項)。本事件は契約期間満了により、不動産会社が定期借家契約の成立を主張して建物明け渡しを求めた事案である。

 【判旨】
不動産会社の請求を認めず。
① 借地借家法38条1項が、定期借家契約を結ぶには書面によることが必要と定めたことに加え、同条2項が定期借家の内容を説明した書面を交付し説明することを要すると定めたのは、契約の前に、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借の内容を理解させ、契約をするか否かの意思決定のために十分な情報提供をすること、そして書面に基づいて説明させることによって紛争発生を未然に防止するためである。

 ② 以上のような借地借家法38条の趣旨からすると、定期借家条項のある契約書が交付され、賃借人が定期借家条項の存在を知っていても、定期借家契約の内容を説明した書面を契約書とは別個に交付し説明すべきと解するのが相当。

③ 別個の説明書面を交付しなかった場合は、契約書に定期借家条項があっても通常の期間の定めのある賃貸借契約と理解すべきである。よって、契約期間満了後は法定更新され、期間の定めのない賃貸借契約となる。

 【解説】
 定期借家契約の成立要件として契約書とは別個の書面を要するとの結論は、平成22年7月716日最高裁判決東借連新聞2010年10月号判例紹介参照)で既に実質的に出ていたが、契約書の定期借家条項の存在、契約締結経緯、契約内容について賃借人の認識の有無、理解の程度など具体的事情は考慮されず、形式的、画一的に説明書面が必要であることを明示した最初の判例である。
 

(2013.05.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例】 *合意があっても新所有者への地位の移転を妨げる理由にならない(平成11年3月25日最高裁判決)

2013年05月08日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

平成11年3月25日 第1小法廷判決 平成7年(オ)第1705号 保証金返還債務確認請求事件

(要旨)
 賃貸建物の新旧所有者が賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに賃貸人の地位の新所有者への移転を妨げるべき特段の事情があるとはいえない。

(内容)
件名 保証金返還債務確認請求事件(最高裁判所平成7年(オ)第1705号平成11年3月25日第1小法廷判決、棄却)
原審 東京高等裁判所

 

              主          文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

              理          由

 上告代理人工藤舜達、同林太郎の上告理由第二点、同坂井芳雄の上告理由第一点、及び同原秋彦、同洞敏夫、同牧山嘉道、同若林昌博の上告理由第二点について

 1 本件は、建物所有者から建物を賃借していた被上告人が、賃貸借契約を解除し右建物から退去したとして、右建物の信託による譲渡を受けた上告人に対し、保証金の名称で右建物所有者に交付していた敷金の返還を求めるものである。

 2 自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり(最高裁昭和35年(オ)第596号同39年8月28日第2小法廷判決・民集18巻7号1354頁、最高裁昭和43年(オ)第483号同44年7月17日第1小法廷判決・民集23巻8号1610頁参照)、右の場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。けだし、右の新旧所有者間の合意に従った法律関係が生ずることを認めると、賃借人は、建物所有者との間で賃貸借契約を締結したにもかかわらず、新旧所有者間の合意のみによって、建物所有権を有しない転貸人との間の転貸借契約における転借人と同様の地位に立たされることとなり、旧所有者がその責めに帰すべき事由によって右建物を使用管理する等の権原を失い、右建物を賃借人に賃貸することができなくなった場合には、その地位を失うに至ることもあり得るなど、不測の損害を被るおそれがあるからである。もっとも、新所有者のみが敷金返還債務を履行すべきものとすると、新所有者が無資力となった場合などには、賃借人が不利益を被ることになりかねないが、右のような場合に旧所有者に対して敷金返還債務の履行を請求することができるかどうかは、右の賃貸人の地位の移転とは別に検討されるべき問題である。

 3 これを本件についてみるに、原審が適法に確定したところによれば、(一) 被上告人は、本件ビル(鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付10階建事務所店舗)を所有していたアーバネット株式会社(以下「アーバネット」という。)から、本件ビルのうちの6階から8階部分(以下「本件建物部分」という。)を賃借し(以下、本件建物部分の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)、アーバネットに対して敷金の性質を有する本件保証金を交付した、(二) 本件ビルにつき、平成2年3月27日、(1) 売主をアーバネット、買主を中里三男外38名(以下「持分権者ら」という。)とする売買契約、(2) 譲渡人を持分権者ら、譲受人を上告人とする信託譲渡契約、(3) 賃貸人を上告人、賃借人を芙蓉総合リース株式会社(以下「芙蓉総合」という。)とする賃貸借契約、(4) 賃貸人を芙蓉総合、賃借人をアーバネットとする賃貸借契約、がそれぞれ締結されたが、右の売買契約及び信託譲渡契約の締結に際し、本件賃貸借契約における賃貸人の地位をアーバネットに留保する旨合意された、(三) 被上告人は、平成3年9月12日にアーバネットが破産宣告を受けるまで、右(二)の売買契約等が締結されたことを知らず、アーバネットに対して賃料を支払い、この間、アーバネット以外の者が被上告人に対して本件賃貸借契約における賃貸人としての権利を主張したことはなかった、(四) 被上告人は、右(二)の売買契約等が締結されたことを知った後、本件賃貸借契約における賃貸人の地位が上告人に移転したと主張したが、上告人がこれを認めなかったことから、平成4年9月16日、上告人に対し、上告人が本件賃貸借契約における賃貸人の地位を否定するので信頼関係が破壊されたとして、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、その後、本件建物部分から退去した、というのであるが、前記説示のとおり、右(二)の合意をもって直ちに前記特段の事情があるものと解することはできない。そして、他に前記特段の事情のあることがうかがわれない本件においては、本件賃貸借契約における賃貸人の地位は、本件ビルの所有権の移転に伴ってアーバネットから持分権者らを経て上告人に移転したものと解すべきである。以上によれば、被上告人の上告人に対する本件保証金返還請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の各判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

 よって、裁判官藤井正雄の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


 裁判官藤井正雄の反対意見は、次のとおりである。

 私は、上告人が被上告人に対し本件保証金の返還債務を負担するに至ったとする法廷意見には賛成することができない。

 1 甲が、その所有の建物を乙に賃貸して引き渡し、賃貸借継続中に、右建物を丙に譲渡してその所有権を移転したときは、特段の事情のない限り、賃貸人の地位も丙に移転し、丙が乙に対する賃貸人としての権利義務を承継するものと解されていることは、法廷意見の説くとおりである。甲は、建物の所有権を丙に譲渡したことにより、乙に建物を使用収益させることのできる権能を失い、賃貸借契約上の義務を履行することができなくなる反面、乙は、借地借家法31条により、丙に対して賃貸借を対抗することができ、丙は、賃貸借の存続を承認しなければならないのであり、そうだとすると、旧所有者甲は賃貸借関係から離脱し、丙が賃貸人としての権利義務を承継するとするのが、簡明で合理的だからである。

 2 しかし、甲が、丙に建物を譲渡すると同時に、丙からこれを賃借し、引き続き乙に使用させることの承諾を得て、賃貸(転貸)権能を保持しているという場合には、甲は、乙に対する賃貸借契約上の義務を履行するにつき何の支障もなく、乙は、建物賃貸借の対抗力を主張する必要がないのであり、甲乙間の賃貸借は、建物の新所有者となった丙との関係では適法な転貸借となるだけで、もとのまま存続するものと解すべきである。賃貸人の地位の丙への移転を観念することは無用である。賃貸人の地位が移転するか否かが乙の選択によって決まるというものでもない。もしそうではなくて、この場合にも新旧所有者間に賃貸借関係の承継が起こるとすると、甲の意思にも丙の意思にも反するばかりでなく、丙は甲と乙に対して二重の賃貸借関係に立つという不自然なことになる(もっとも、乙の立場から見ると、当初は所有者との間の直接の賃貸借であったものが、自己の関与しない甲丙間の取引行為により転貸借に転化する結果となり、乙は民法613条の適用を受け、丙に対して直接に義務を負うなど、その法律上の地位に影響を受けることは避けられない。特に問題となるのは、丙甲間の賃貸借が甲の債務不履行により契約解除されたときの乙の地位であり、乙は丙に対して原則として占有権限を失うと解されているが、乙の賃貸借が本来対抗力を備えていたような場合にはそれが顕在化し、丙は少なくとも乙に対しても履行の催告をした上でなければ、甲との契約を解除することができないと解さなければならないであろう。)。

 3 本件は「不動産小口化商品」として開発された契約形態の一つであって、本件ビルの全体について、所有者アーバネットから39名の持分権者らへの売買、持分権者らから上告人への信託、上告人と芙蓉総合との間の転貸を目的とする一括賃貸借、芙蓉総合とアーバネットとの間の同様の一括転貸借(かかる一括賃貸借を原審はサブリース契約と呼んでいる。)が連結して同時に締結されたものであることは、原審の確定するところである。これによれば、本件ビルの所有権はアーバネットから持分権者らを経て上告人に移転したが、上告人、芙蓉総合、アーバネットの間の順次の合意により、アーバネットは本件ビルの賃貸(右事実関係の下では転々貸)権能を引き続き保有し、被上告人との間の本件賃貸借契約に基づく賃貸人(転々貸人)としての義務を履行するのに何の妨げもなく、現に被上告人はアーバネットを賃貸人として遇し、アーバネットは被上告人に対する賃貸人として行動してきたのであり、賃貸借関係を旧所有者から新所有者に移転させる必要は全くない。すなわち、本件の場合には、上告人が賃貸人の地位を承継しない特段の事情があるというべきである。そして、この法律関係は、アーバネットが破産宣告を受けたからといって、直ちに変動を来すものではない。

 賃貸借関係の移転がない以上、被上告人の預託した本件保証金(敷金の性質を有する。)の返還の関係についても何の変更もないのであり、賃貸借の終了に当たり、被上告人に対し本件保証金の返還義務を負うのはアーバネットであって、上告人ではないということになる。被上告人としては、アーバネットが破産しているため、実際上保証金返還請求権の満足を得ることが困難になるが、それはやむをえない。もし法廷意見のように解すると、小口化された不動産共有持分を取得した持分権者らが信託会社を経由しないで直接にサブリース契約を締結するいわゆる非信託型(原判決11頁参照)の契約形態をとった場合には、持分権者らが末端の賃借人に対する賃貸人の地位に立たなければならないことになるが、これは、不動産小口化商品に投資した持分権者らの思惑に反するばかりでなく、多数当事者間の複雑な権利関係を招来することにもなりかねない。また、本件のような信託型にあっても、仮に本件とは逆に新所有者が破産したという場合を想定したとき、関係者はすべて旧所有者を賃貸人と認識し行動してきたにもかかわらず、旧所有者に対して法律上保証金返還請求権はなく、新所有者からは事実上保証金の返還を受けられないことになるが、この結論が不合理であることは明白であろう。

 4 以上の理由により、私は、被上告人の上告人に対する保証金返還請求を認めることはできず、原判決を破棄し、第1審判決を取り消して、被上告人の請求を棄却すべきものと考える。

 (裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)


 

 

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建物の老朽化で家主の建替え要請に協力(東京・大田区)

2013年05月01日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 大田区大森西地域で40年余、賃借中の木造瓦葺2階建1棟1戸建の内、階下約13坪の店舗兼居宅を先日明渡した。当日現地で借主のAさんも家主も笑顔で残金の精算に立ち会った。

 永い年月の中には、貸主とのトラブルも2、3度は生じたという。平成4年には大雪と地震で壁の一部が欠落し、補修を求めたが家主は応じず、借主が行なうも家主代理人弁護士より、工事中止の書面が送付されたが最小限の工事を実行する。また、平成18年には家賃の増額と更新料の請求を受けて、永年据え置いてきたことや、近隣の家賃等と比較して8割増額でも家主は応じず、供託することになった。しかし、家賃の供託は長期にならず短期間で持参払いなった。時の流れは家主側に変化が生じて、息子らが相続することとなった。

 長期の遺産相続の協議も整え、同一建物の2階に住む新たな家主との関係は友好なものとなった。東日本大震災の老朽化の建物への影響は大きく、昨年夏頃家主より建替えたいとの打診があり、後日工事を依頼された建築業者との協議となった。Aさんは自分も高齢であり、この建物では地震は怖いと明渡しに応じることにした。協議は順調に進み、補償金に明渡猶予期間(6カ月)の家賃の支払免除、処理に経費の係る残置物の処理は家主の責任で行なうとの内容で合意した。

 

東京借地借家人新聞より

 

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