東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例】*借地人が地上建物を第三者に譲渡した場合敷地の賃借権をも譲渡したものと推定される及び賃料増額請求は共同借地人の一部の者に対してされた賃料増額請が無効とされた事例

2018年11月22日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

ア 借地人がその建物を他に譲渡した場合には、特別の事情のない限り、建物の所有権とともにその敷地の賃借権をも譲渡したものと推定されるから、借地人と建物譲受人との共同借地関係が成立したとの事実認定が違法とされた事例
イ 共同借地人の一部の者に対してされた借地法12条に基づく賃料増額請が無効とされた事例
(最高裁 昭和54年1月19日判決 裁判時報919号59頁 裁判集民事126号1頁)


       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。


       理   由
 (1) 上告(賃借人)代理人西山要の上告理由第1点について

 賃借地上に建物を所有する土地の賃借人がその建物を他に譲渡した場合には、特別の事情のない限り、建物の所有権とともにその敷地の賃借権をも譲渡したものと推定すべきものである最高裁昭和45年(オ)第803号同47年3月9日判決・民集26巻2号213頁)ところ、原審の確定する事実関係によれば、上告人(賃借人)A1は、昭和36年3月ごろに被上告人(賃貸人)から第1審判決別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち596.13㎡を建物所有の目的で賃借し、その後借増しをして昭和38年1月には本件土地の全部(実測643.96㎡)を賃借するに至ったが、昭和40年12月ごろ、本件土地上にある木造建物を取りこわしたうえ、同地上に鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造陸屋根4階建ビルディング1棟(以下「本件建物」という。)を建築して所有し、本件建物でパチンコ店、喫茶店等を経営してその営業の基礎を築いた後、本件建物の所有権を上告人(賃借人)A2(弟)に移転して昭和44年4月4日付でその所有名義をも同上告人(賃借人)A2に移転し、また、本件建物における右営業を同上告人(賃借人)A2に譲り、その後は山口県宇部市に居を移して他の事業に従事している、というのである。


 右事実関係によれば、上告人A1が本件建物の所有名義を上告人A2に移転した際、上告人A1は、特別の事情のない限り、本件土地の賃借権をも上告人A2に譲渡して賃借人の地位を離脱し、他方、上告人A2が単独で賃借人の地位を承継取得したものと推定すべきものである。しかるところ、原審は、この点につき、上告人A1は未だ本件土地の賃借人たる地位を失っておらず、上告人A2とともに共同賃借人たる地位にあるものと推認すべきものとし、そのように推認すべき事情となるべき事実関係として、

  1 上告人A1は本件建物及び建物内で経営する前示営業を上告人A2に譲渡した後も、毎月一度は来阪して上告人A2の営業について指示、助言を与え指導に当たっていること、

  2 被上告人(賃貸人)が昭和46年12月に本件第1回目の賃料増額の請求をした際、上告人A1が上告人A2を同道して被上告人(賃貸人)宅を訪れ、上告人らの増額案を呈示するなど接衝に当たっていること及び

  3 上告人A1は、本件建物を上告人A2に譲渡するにあたり、事前に被上告人(賃貸人)の承諾を得ておらず、本件土地の賃借権の譲渡等につき未だ被上告人(賃貸人)との間で接衝するに至っていないことの諸事実を認定している。しかし、原審が挙示する右1ないし3の事実関係が存在するというだけでは未だ本件建物の所有権及び本件建物を利用して行われている営業が上告人A1から上告人A2に譲渡されたにもかかわらず、なお上告人A1が賃借人たる地位を離脱することがなく、従って、上告人A2も完全な単独賃借権を取得せず、その結果、上告人両名が共同で賃借人たる地位を保有するに至ったものと認定すべき特別の事情があるものということはできない。してみれば、右事実関係を認定しただけで、上告人両名が共同賃借人の関係にあることを肯認した原判決には建物の敷地となっている土地の賃借権の譲渡に関する法律関係についての法令の解釈、適用を誤り、ひいて理由不備の違法を犯したものというべきであるから、論旨は理由があり、原判決は、その余の論旨につき判断するまでもなく、破棄を免れない。


 (2) のみならず、被上告人(賃貸人)の主張にかかり、また原審の確定した事実関係によれば、昭和47年1月1日から本件土地の賃料を1か月あたり41万6500円に増額する旨の第1回目の増額請求部分については、昭和46年12月22日に被上告人(賃貸人)の代理人小林良子から上告人A2に対してその旨の意思表示がされたというにとどまり、共同賃借人の他の一人とされる上告人A1に対してその旨の意思表示がなされたことについては、被上告人(賃貸人)の主張するところでも、また原審の確定するところでないにもかかわらず、原審は右第1回目の増額請求の効力を認め、昭和47年1月1日をもって本件土地の賃料が適正額に改定された旨の判断を示している。

 しかし、賃貸人が賃借人に対し借地法12条に基づく賃料増額の請求をする場合において、賃借人が複数の共同賃借人であるときは、賃借人の全員に対して増額の意思表示をすることが必要であり、その意思表示が賃借人の一部に対してされたにすぎないときは、これを受けた者との関係においてもその効力を生ずる余地がない、と解するのが相当である最高裁昭和50年(オ)第404号同年10月2日判決・裁判集民事116号155頁参照)。してみれば、原判決中、上告人A2に対してされた増額の意思表示によって第1回目の増額請求が効力を生じたことを前提として、上告人両名に対し、昭和47年1月1日から同49年11月末日までの増額後の賃料月額と従前の賃料月額との差額813万4000円及びこれに対する昭和50年1月1日から支払ずみまで年1割の割合による遅延損害金の支払を命じた第1審判決を維持し、控訴を棄却した部分は、この点においても破棄を免れない。

 (3) そして、上告人両名が本件土地につき共同賃借人たる地位にあるか否かについてはなお審理を尽くさせる必要があるので、本件を原審に差し戻すのが相当である。

 よって、民訴法407条に従い、裁判官全員の一致の意見で、主文のとおり判決する。


   最高裁裁判長裁判官栗本一夫、裁判官大塚喜一郎、同吉田豊、同本林譲

 

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