東京・台東借地借家人組合1

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【Q&A】 借地借家法施行前に設定された借地権が施行後に譲渡された場合の存続期間は

2011年05月30日 | 契約・更新・特約

 (問) 私は、昭和49年に建築した借地上の建物(註1)を地主の承諾をえて家屋所有者から平成11年に購入しました。
 この時の借地契約は、旧法が適用されるのでしょうか。また、借地期間はいつまでになるのでしょうか。


 (答) 平成4年8月1日に現行の借地借家法(新借地借家法)が施行されました。それ以前には、借地契約は借地法、借家契約には借家法が適用されていました。

 新借地借家法は、「土地の利用について双方の必要性の度合い」「利用状況」「契約の経緯」のほか、新たに「金銭を提供すること」(立ち退き料)によって正当事由を補完することが加わりました。

 また(さらに)、定期借地制度が加わりました。

 お問合せの方は、平成11年に家屋を購入し、借地契約を締結されておられますので、新借地借家法が適用されることになります。

 新借地借家法による借地期間は、堅固なる建物の場合は、30年以上、更新後も30年の期間となります。木造家屋の場合は、20年以上で更新後も20年の期間となります。

大借連新聞 4月号


 ここからの文章は東京・台東借地借家人組合が記述したものです。


 大借連新聞4月号では以上のように掲載されていた。

 5月号の「お詫びと訂正」で「新借地借家法の適用される借地契約の場合の借地期間の回答が、誤って旧借地法の契約期間で回答していました。改めて新借地借家法が適用する借地契約期間について回答させて頂きます」ということで、(新借地借家法)が追加され、「また」が→「さらに」へ変更されている。

また、以下の説明が、
新借地借家法による借地期間は、堅固なる建物の場合は、30年以上、更新後も30年の期間となります。木造家屋の場合は、20年以上で更新後も20年の期間となります。

次のように加筆訂正された。
 「新借地借家法による借地期間は、従来堅固な建物と非堅固な建物に区別されてきましたが、新借地借家法の適用される借地では堅固・非堅固を問わず一律となりました。
 具体的には、①新規契約の場合は30年以上の契約になります。ただし、合意がない場合は、30年になります。②更新後の存続期間は原則として最初のの更新20年となり、その後は10年となります。
」(大借連新聞 5月号)


 問題点は、上記のことではない。「借地借家法」の施行前(平成4年8月1日)に締結した借地契約の場合で、「借地借家法」(新法)の施行後に借地権の譲渡、又は借地権を相続する場合は、即ち借地人の交代があった場合の存続期間・更新後の期間はどうなるのか。

 その場合、「旧借地法が適用」されるのか、或いは「新法(借地借家法)が適用」されるのかが問題である。

 借地人の権利に関することで重要である。旧借地法が適用されずに借地借家法(新法)が適用されると、借地人の権利は弱められる(註2)。

 大借連新聞では、借地借家法(新法)が適用されると解説されている。果たして、そうなのだろうか。

 「明解Q&A 新借地借家法」(三省堂1992年版)では、「Q18 借地権を譲渡・相続する場合はどうなるか」で新法施行前に借地契約を締結している場合の譲渡・相続に関しては、次のように「Q&A」で説明している。

【Q18】 新法施行前に借地契約を締結しています。新法施行後、借地権を譲渡する場合は、存続期間や更新後の期間はどうなるのでしょうか。また、借地権を相続する場合はどうなるのでしょうか。

【回答】 新法施行後、借地権を譲渡しても、その借地権の内容は従来の契約がそのまま引き継がれ、存続期間や更新後の期間についても旧法が適用されます。借地権を相続する場合も同様です(「明解Q&A 新借地借家法」56頁)。

【解説】►借地権の譲渡  新法施行後、借地権を譲渡する場合、新法施行前に締結された契約の内容がそのまま効力をもちます(法附則4条)。存続期間も更新後の期間も従来の契約のままで、何ら変更されることはありません。

 もっとも借地権の譲渡に際して、存続期間を譲渡のときから20年とか30年とかに延長することはできます。・・・・・また借地権の譲渡に際して、更新後の期間について「これからは新法による」と定めることはできません。更新後の期間について新法の規定は旧法よりも明らかに不利ですので、無効となります。再び借地権を譲渡しても同様です(「明解Q&A 新借地借家法」57頁)。

【解説】►土地の譲渡・相続 新法施行後に、地主が土地を譲渡したり、相続により地主が変わる場合も同様です。新法施行前に締結された契約の内容がそのまま効力をもち、旧法の正当事由の規定が適用されます(「明解Q&A 新借地借家法」90頁)。


地震に伴う法律問題」(近畿弁護士会連合会編(1995年3月16日初版) 社団法人商事法務研究会」でも同様の問題が「Q&A」で取扱われ、次のように解説されている。

【Q2】 私の借地権は、昨年(新法施行後)に前の人から譲渡を受け、地主の承諾を得たものですが、どちらの法律が適用されますか。

【A】 滅失と更新については、借地権の「設定」が新法施行前か後かで適用が分かれます。その「設定」とは、当初の契約時点のことです。その後に、更新が繰り返されたり、借地権の譲渡とか相続があっても当事者が変更しても、当初の契約時点をいいます(一問一答・新しい借地借家法19頁商事法務研究会)。

 したがって、新法施行後に譲渡を受けた借地権でも、当初の借地人の契約が新法施行前ならば旧法の適用となります(「地震に伴う法律問題」2頁)。


 「借地借家法」の改正に際し、法務大臣談話(1991年9月20日発表)が出された。
「特に、現在ある借地・借家関係には、新法の契約の更新及び更新後の法律関係に関する規定を一切適用しないことを法律自体で明らかにしており、現在ある借地・借家関係が新法になっても従前と変わらない扱いを受けるようにしている。」と明確に施行前に設定された借地契約の「更新」及び「更新後の法律関係」に新法が適用されないことを明言している。これらは「借地借家法」の「附則」(法規定)で明確にされている。

 「また、更新の際に、「新法が成立したら、それに応じて契約を改める」ということをあらかじめ特約することを貸主側が要求する例もあると報道されているが、このような特約をすることは法律上許されていない。したがって、貸主からそのようなことを要求されても、それに応じる必要はないし、仮にそのような特約をしてしまっても、その特約は、無効である。」(法務大臣談話)。

 平成3年8月30日の衆議院法務委員会で次にように政府答弁している。
「この法律の施行前にされた借地契約についてはすべて従前の規定が適用される。これをこの借地関係が相続されて相続人に承継され、あるいは他に譲渡されて移転するというようなことがございましても、借地関係は同一性を持って移ることになりますので、やはり旧法の規定に従って更新等が規律されることになる。」


【Q&A】 息子名義で借地上建物の建替え

2011年05月25日 | 増改築・改修・修繕(借地)

【問】 私が借地している土地上の建物を息子がローンを借りて建替えることにしました。地主との関係や税金はどうなるのでしょうか。


【答】 息子といえども土地の賃貸借契約上は第三者になりますから、地主との関係では息子さんはあなたから借地権の譲渡を受けるか又貸し(転貸)を受けるかすることになります。いずれの場合も、あらかじめ地主の承諾を得なければなりません(民法612条1項)。

 また、建物を建替えるわけですから、もしあなたと地主との間の借地契約に増改築禁止の特約があれば、やはりこの点についても地主の承諾が必要となります。特約がなければ、自由に改築できるわけですから、借地権の譲渡又は転貸の承諾さえ得ておけば問題はないことになります。

 したがって、まずあなたとしては地主と交渉して、あらかじめ地主の承諾を得るよう努めることが大切です。その際一定の承諾料を要求されるのが普通でしょう。金額は双方の話し合いで決めるべきもので、法律でいくらと規定されているわけではありません。

 地主の承諾が得られないか、金額で話がつかない場合は、承諾に代わる許可を裁判所に求めることができます。その場合、増改築禁止の特約があるときは、借地権譲渡又は転貸許可の申立(借地借家法19条)と増改築許可の申立(借地借家法17条)を併合して申立てることになります。増改築禁止特約がない場合は、借地権譲渡又は転貸許可の申立だけをすることになります。

 地主との関係では、地主の承諾ないし地主の承諾に代わる裁判所の許可を得ないで、勝手に借地権(つまり借地上の建物)をたとえ息子といえども第三者に譲渡又は転貸しますと地主から借地契約を解除される恐れがあります。

 次に税金ですが、通常の個人間の借地権の無償の譲渡、転貸については、普通、贈与税が課税されます。しかし親から子が、その土地を使用貸借によって借受け、その土地に建物を建築した場合には、特例として贈与税はかからないことになっています。

 その場合、その貸借が使用貸借であることを確認するため、「借地権の使用貸借に関する確認書」(様式が決められています)によって、使用貸借による借受者、借地権者、土地所有者がそれぞれ事実を確認し、税務署に提出することになっています。

 

東借連常任弁護団解説

Q&A あなたの借地借家法

(東京借地借家人組合連合会編)より

 

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地主の執拗な地代の増額請求の調停・訴訟攻撃 (大阪市・東住吉)

2011年05月24日 | 地代の減額(増額)

減額請求訴訟を提起
 借地人らは、協議して「地代の減額請求訴訟」を起こすことを決めました。まず最初に取り組んだのは、近隣地域の地代調査でした。

 調査は、思ったいた以上に骨が折れました。まず借地契約の条件や建物の構造の相違など同一性の選別が大変でした。それでも一同は町内の知人を頼り、その方に紹介をお願いして、輪を拡げました。ようやく20数名の調査票が集まりました。

 訴訟の提起は、吉岡良治弁護士が代理人になり強靭な主張の準備をしていただきました。
 ところが、ほぼ同時に地主は、借地人の2人を相手取り増額請求の調停を提起していました。証拠として地主が依頼した「鑑定評価書」が出されていました。


7人中5人の減額を勝ち取る
 双方の提訴は、併合されました。賃借人(申立人)らは、裁判所の判断を酌み、鑑定を申請しました。この鑑定調査では、申立人が集めた近隣地代調査が大いに役立ちました。鑑定士より「丁寧で、正確に調査されていますね」との感想も。

 結果の鑑定評価は申立人7人の内5人が18か月遡及して《大幅に減額》。2人が増額でした。裁判所より、この鑑定通りの和解案が示され、双方合意し、確定しています。この和解では、減額請求が認められた以上に、借地人全員の賃料改定時期が同一になったことも大きな成果でした。

Hさん、自宅の修繕を始める
 この申立の前年、借地人の1人Hさんは、屋根が相当傷んでいるので、この際修繕が必要な個所の修理を建築業者に依頼しました。この工事を見つけた地主は、無断増改築を理由にした契約解除の提訴をしてきました。

 調停では、
①賃料は、別途賃借人らが申立てている減額請求訴訟により定める。
②賃借人は、賃貸人に保証金として135万円を差し入れる。
③賃貸人の明渡請求は失当。
との調停が成立していました。

地主、調停と訴訟を連発
 減額請求訴訟の和解が確定後、8か月も経たない2009年1月地主は、Hさんに地代増額の調停を提起しましたが、即日「不調」に。

 同年秋、地主は本訴を提起しました。審理の中で、新たな鑑定の必要性が「争点」になりましたが、原告(賃貸人)の費用で実施することに。

 鑑定調査は、3時間以上に及び工事に使用した建材や施工方法など詳細な質問がありました。鑑定結果は、「当該工事は、改築ではなく、大規模修繕工事になる」と建築基準法の条文を示しての鑑定でした。

 そして賃料の増額は、時期からしても不相当との意見が付記されました。この地裁判決でも、鑑定通りの判決になっています。

 さらに加えて、「原告(地主)はこれまでも、短期間で繰り返し賃料増額の意思表示を行い、被告(賃借人)はその対応に苦慮してきたことがうかがえるのであって」と述べ、「かかる短期間での賃料増額は、賃借人を不安定な立場に立たせることになって相当ではない」と異例ともいえる見解を判決に盛り込んでいます。

賃貸人が控訴を
 審理が尽くされた判決にも拘らず、賃貸人は「控訴」を申立てました。控訴理由書は、代理人弁護士が「原判決」内容を論じるのではなく、地主本人の「陳述書」形式で、鑑定費用(21万円)は、原告が出しているにも拘らず、増額の必要はないとの結論に疑義を述べ、さらには、鑑定を勧奨した裁判官にまで鑑定指示が、無駄であったとさえ論じている。
 当然、公判では即日に結審していますが、その「高裁判決」も、異例の内容なっています。

高裁も賃貸人を叱責
 高裁判決は、一般的には「控訴理由には、原判決(地裁判決)を覆すに足りる主張がない。よって本控訴は棄却する」との簡潔な判決多いものです。この判決は、地裁判決の大部分を引用していますが、原判決で「原告の意向を善意に解釈したとしても、主張が不充分」との下りを削除し、原告の意向を取り上げることさえ不要であると判示しています。

【賃借人側は、全部本人が対応】
 地主側は、最初から弁護士が代理人でしたが、賃借人は、高裁の対応もすべて本人訴訟で奮闘しました。

 

全国借地借家人新聞より

 

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名古屋で「借地借家問題を考える会」が結成される (愛知・名古屋市)

2011年05月23日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 名古屋市昭和区の宗教法人A寺(地主)の寺領地(借地)に約350世帯の借地人が、地代値上げや更新料、名義変更料など地主の一方的な請求に、これまで応じてきました。

 地主側の執事が不動産業者に交代したことを契機にして、借地人の実態調査するためにアンケートが送られてきました。

 2010年6月21日、鶴舞総合法律事務所の弁護士の支援をうけて借地人の有志が呼びかけて「借地借家問題勉強会」を開き約70名の借地人が参加しました。3名の世話人を選び、「借地借家問題を考える会」が結成されました。

 その後、数回の「勉強会」が開かれ、借地人が疑問や不安に感じている事柄について弁護士の支援で学習し、地主側へ公開質問状を提出し回答を求めてきました。しかし、回答内容は、借地人に納得が得られるものではありませんでした。

 「考える会」は、借地借家人組合の活動や全借連運動の成果などについてヒヤリングしたいと、2011年3月28日船越康亘全借連副会長へ要請し、4月17日、「考える会」の連絡事務所となっている鶴舞総合法律事務所で世話人および弁護士等5名が参加し懇談を行いました。

 当日、「考える会」側からは、活動状況を報告、全借連からは全借連運動の歴史と成果など報告し、約3時間懇談しました。その中で、名古屋市の区役所が固定資産税課税台帳を借地借家人へ公開していないことが報告されました。参加者からは、名古屋市内に全借連があれば資料や情報が得られたのにと述べていました。

 翌日船越副会長は、名古屋市と昭和区役所へ事実を確認したところ、公開できることを窓口職員へ徹底していなかったことが明らかになりました。

 「考える会」は、早速区役所へ固定資産評価証明書を請求したところ、発行されました。「考える会」の事務局を担当されているBさんは「懇談会でたくさんのことを学びました。近々中に相談をしてあらためて全会員を対象に学習会を企画するのでぜひ名古屋に来てもらいたい」と要請されました。

 世話人会は、現在「考える会」に参加する借地人49名をもっと増やし、借地人の正当な権利が守られ、安心して住み続けられることを願い、2011年4月23日「借地借家問題を考える会」春の交流会を企画しました。当日は、3名の弁護士も参加し個別相談にも応じました。また、「演劇で学ぶ借地問題」を企画し、参加者の交流を行いました。

 

全国借地借家人新聞より

 

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更新料として路線価の5%の金額を要求されたが (東京・豊島区)

2011年05月20日 | 更新料(借地)

 豊島区池袋駅から10分位の商店街の近くで住んでいるAさんは、自分が借りている土地が度々底地を転売されて現在に至っている。

 今年の1月に管理会社から更新と更新料の請求が通知された。その中には路線価の5%の更新料が請求されていた。Aさんは組合と相談して「最高裁の判決にもあるように更新料は法的根拠がない。その上、算出根拠も不明である」と回答した。

 これに対して、管理会社から「土地契約上の慣習(民法92条・事実たる慣習)であり、当社はこの慣習に従っております」と回答してきた。Aさんの相談を受けた組合では、昭和52年の最高裁の判決(註)をあらためて説明した。

 Aさんは「このような回答ならば更新料の支払いを拒否し、一切話合いに応じないことにする」と決意を話し、頑張ることにした。

 

東京借地借家人新聞より 


(註)東京・台東借地借家人組合

①「宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了に当り、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商習慣ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、その過程に所論の違法性はない。」(最高裁 昭和51年10月1日判決)。

②「建物所有を目的とする土地賃貸借契約における賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求に基づき当然に賃借人に賃貸人に対するの更新料支払義務を生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められないとした原審の認定判断、及びその余の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法性はない。」(最高裁 昭和53年1月24日判決)。 

③「更新特約は、「本契約期間満了のとき賃借人において更新契約を希望するときは賃貸地の時価の2割の範囲内の更新料を賃貸人に支払い更新契約をなすべきことを当事者間において予約した」というものであが、この特約によって本件賃貸借契約の更新に伴い当然に一定の額の更新料請求権が発生すると認められるかどうかはともかくとして、右特約の趣旨に照らせば、賃借人たる控訴人において本件賃貸借契約の更新を希望する以上は、少なくとも、更新料についての当事者間の合意の成立に向けて真摯な協議を尽くすべき信義則上の義務があると解すべきである」とした上で、土地の時価の5%を請求した地主の更新料請求を否認した(東京高裁 平成11年6月28日判決)。

 

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東日本大震災で家が傾き、耐震補強工事へ (東京・足立区)

2011年05月19日 | 増改築・改修・修繕(借地)

 今回の東日本大震災では足立区でも4月20日現在、罹災証明の申請が557件も出され、その内建物の一部損壊が大多数を占めている 足立借組で現在分かっているだけでも5人の組合員が被害を受けた。一人の組合員は建物には被害がなかったが、隣の公衆浴場の煙突が屈折したため、解体工事で10日間以上もホテルに避難を余儀なくされた。

 こんな中、千住地区で約22坪の土地を賃借しているAさんは、地震で建物が隣のベランダに寄りかかるように傾き、余震の揺れもひどくなった。組合への連絡では、体が絶えず揺れている感じで仕事にも差し障るので修繕を考えているとのこと。

 契約書もないので建物を修繕するのに地主の承諾は必要ないと判断し、組合は直ちに一級建築士のBさんを紹介して建物を診断し、補強箇所を指摘してもらった。

 Bさんからは、このまま放置しておくと大きな余震で道路側に倒壊する可能性が高いので最低限の耐震補強工事が必要とアドバイスを受けた。まもなく業者を選定して工事にかかる予定である。

 

 

東京借地借家人新聞より 

 

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借地更新料支払い拒否 (東京・大田区)

2011年05月18日 | 更新料(借地)

 大田区中央地域で約90㎡の土地を賃借して木造2階建の建物に居住しているAさんは、契約期間満了期日5ヵ月前に地主代理人の不動産業者より、書面にて期日1ヵ月までに更新手続きを済ませるようにと通知され、更新請求を通告すると同業者から更新料を請求された。

 早速、Aさんは更新料の支払いを拒否、更新期日以降の地代も支払い済みであり法定更新を選択する旨を回答する。同業者から更新料を支払って更新手続きを行わない場合は、支払い済みの地代を含む今後地代を損害金とするとの3度目の通告を受けた。

 法的に更新料支払い義務がないことや、支払い慣習もない旨の最高裁判決を熟知しているAさんは、自ら地代を供託することを代理人の業者に通告することを決意。なお、Aさんは同業者にかかわる借地人に組合を紹介し、更新料の不払いを他の借地人に啓蒙したいと述べている。

 

 

東京借地借家人新聞より 

 

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【Q&A】 私道の通行

2011年05月17日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

【問】 私の借地は私道の行き止まりにあります。現在、地主が地代値上げを請求し、認めなければ公道の出入り口に鉄柵を作って車の出入りを禁止するといっています。何とかならないでしょうか。


【答】 この私道は、地主が所有しているものと思われます。地主は、借地人に私道の行き止まりにある土地を貸したのですから、土地賃貸借契約に基づき当然その私道を通行させる義務を負っています。私道の通行を認めなければ借地を宅地として使用することができないわけですから、これは当然のことです。(註1)

 このことについては、最高裁判所の判決(昭和44年11月13日)が次のように述べています。
 「公道に面する一筆の土地の所有者が、その土地のうち公道に面しない部分を他人に賃貸し、その残余地を自ら使用している場合には、所有者と賃借人の間において通行に関する別段の特約をしていなかったときでも、所有者は、賃借人に対し賃借に基づく賃貸義務の一内容としてこの残余地を賃貸借契約の目的に応じて通行させる義務がある」

 次の問題は、通行権の内容として、車を通行させることができるかということです。現在、自動車の保有率が高まり、家庭にとってなくてはならないものになっているのですから、車による通行権はあるというべきです。この種の争いは、地主と借地人という関係にはない土地所有者と隣地土地所有者との間でよく起こるトラブルですが、その裁判例は具体的なケースによって結論が違っています。車が通行する幅があるかどうか、私道の利用状況はどうか、現状を変更しなくて車が通行ができるか、隣地の不利益はどうかなど、様々なことを考慮して、車の通行が認められるかどうかが判断されています。(註2)

 しかし、ご質問の場合地主との関係ですし、今まで車で通行していた実績があるわけです。また、車の通行によって格別地主に損害が発生するわけでもありません。地代増額要求の手段として通行を禁止しようとしている事情を見れば、車による通行が認められるでしょう。

 では、車の出入りを認めるから私道の地代を支払えと言われたらどうでしょうか。地主が借地人に対して私道の通行権を認めるのは、私道を使わなければ利用できない宅地を貸したことによって発生する地主の義務ですから、私道の地代を払うか払わないかとは関係ありません。私道の地代を払わなくても地主には私道を通行させる義務があるのですからです。

 

東借連常任弁護団解説

Q&A あなたの借地借家法

(東京借地借家人組合連合会編)より


(註1) 【判例紹介】 公道に面する一筆の土地の内公道に接しない賃借人に通行権を認めた事例

(註2)最高裁判所は平成18年3月16日判決で、通行権に関して新判断を下した。「自動車の通行を前提とする民法210条(*)の通行権の成立を否定した原審の判断には、判決に影響を及ぼす明らかな法令違反がある」として自動車の通行権を否定した東京高裁判決を破棄し、再び東京高裁へ差戻した。即ち、民法210条の通行権は自動車の通行を前提にしたものという解釈に改められた。

(*)民法210条「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、行動に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」

(註)は東京・台東借地借家人組合

 

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【判例紹介】 増改築禁止特約に違反しても契約解除が認められなかった事例

2011年05月16日 | 増改築・改修・修繕(借地)

判例紹介

増改築禁止特約に違反しても契約解除が認められなかった事例 最高裁 昭和41年4月21日 判決 民集20巻4号720頁】

解説
 増改築禁止特約とは、通常、借地上の建物につき増改築する場合には予め地主の承諾を要し、違反した場合は催告なしで契約解除できるという特約です。このような特約に違反すれば債務不履行(契約違反)として契約の解除が認められそうです。しかし、継続的な契約である借地借家契約においては、賃借人に債務不履行があったとしても、債務不履行の内容が当事者間の信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事情がある場合には、賃貸借契約の解除は認められないとの理論(信頼関係破壊理論)が判例上確立しています。この理論は賃料不払いや無断転借の場合にも採用されています。

事案
 判例の事案は、建物1階の根太(床の下地部分)及び柱を交換し、2階部分を取り壊したうえ、従前より広い2階を増築したというものです。

判決の要旨 
1審では解除が認められましたが、控訴審では、「この程度の修理は家屋の維持保存のため普通のことであるから特約をもってこれを禁止することはできない」とし、2階の増築については「この程度の増築は借地の効率的利用のため通常予想される合理的な範囲を出ない」として特約に基づく解除は認められないとし、最高裁も控訴審の判断を支持しました。

短評
 ところで、この特約は建物の増改築をする場合の特約ですから、工事の内容が建物の維持保全を目的とする修繕工事にとどまるのであれば、増改築禁止特約には違反しません。

 また、増改築禁止特約がある場合で、「土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が整わないとき」は、裁判所に地主の承諾に変わる許可を求めることができます(借地借家法17条2項、借地法8条の2第2項)。しかし、修繕については地主の承諾に変わる許可が予定されていませんので、修繕工事に地主の承諾を要するとの特約は、上記規定に反する借地権者に不利な特約として無効と解されます(借地借家法21条、借地法11条参照)。

 他方、「修繕」か「増改築」か微妙な場合、まずは地主の承諾を求めて協議し、協議が整わない場合には裁判所に地主の承諾に変わる許可を求めることをおすすめします。

(2011.05.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

東京・台東借地借家人組合

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【判例】 退去時に造作買取請求権を行使したが設置したエアコンの買取りが認められなかった事例

2011年05月12日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

判例紹介

平成22年1月25日判決 言渡 東京簡易裁判所

平成21年(少コ)第3065号 敷金返還等請求事件(通常手続移行)

口頭弁論終結日 平成22年1月6日

 

判        決

主        文

 

       1 原告の請求をいずれも棄却する

       2 訴訟費用は,原告の負担とする。

 

事 実 及 び 理 由

第1 請求

 1 被告は,原告に対し,10万5000円及びこれに対する平成21年4月20日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

 2 被告は,原告に対し,7万5670円及びこれに対する平成21年5月10日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

 3 訴訟費用は,被告の負担とする。

 4 仮執行宣言

第2 事案の概要

 1 請求の原因の要旨

 (1) 原告は,下記のとおり被告から下記記載の物件を借り受けた(以下「本件賃貸借契約」という。)。

 

      記

 契約日・・・・・・・・・・・・・・平成20年5月22日

 賃借物件の所在地・・・・東京都中央区 a 町 b 番 c 号

 建物名称・・・・・・・・・・・・X

 住戸番号・・・・・・・・・・・・d 号室(以下「本件住居」という。)

 家賃・・・・・・・・・・・・・・・・月額30万2600円

 敷金・・・・・・・・・・・・・・・・90万7800円

 期間・・・・・・・・・・・・・・・・平成20年5月29日から平成21年5月28日まで

 (2) 原告と被告は,家賃の支払方法について,平成20年5月22日,1年分(373万4000円)を前払いする旨合意し,同日,原告は,被告に対し,同額を支払った。

 (3) エアコンの設置
  本件建物は,地上22階のいわゆるタワーマンションで,築年数5年程度と新築に近いものであったが,本件建物の各住居の標準装備として,エアコンが設置されていなかった。

  そこで,原告は,本件住居に入居すると同時に,3つのエアコン(A社製eee-fff,B社製 ggg-hhh,C社製 iii-jjj)(以下「本件エアコン」という。)を持ち込み,本件住居に取り付けた。

  (4) 原告の退去等
  ア 原告は,被告に対し,平成21年4月2日,本件賃貸借契約を同月19日付けで解約する旨の意思表示をした。

  イ 同月14日,被告は,本件住居を訪れ,敷金から控除すべき損害がないか査定したが,そのような損害はないとの結論になった。

  ウ 同日ころ,被告との賃貸借契約書を確認した原告は,造作買取請求権について特約で排除されていないことに気づき,被告のDに電話し,同請求権を行使する意思表示をした。

  エ 同月19日の明渡し期限を迎えた原告は,本件エアコンとそのリモコンのみを残して本件住居を明け渡した。

  オ 原告は,同月27日,内容証明郵便にて造作買取代金の支払を催告し,同書面は同月30日に被告に到達した。

 
 (5) 請求額
  ア 造作買取代金   各下取り額に取り外し費用2万5000円を加えた 合計 10万5000円
  この債権は,本件契約が終了した平成21年4月19日が弁済期となり,その翌日である20日から被告は遅滞に陥っている。

  イ 不当利得
  本件エアコンは,原告の造作買取請求権の行使により,被告所有になったものであるが,被告は,これを自らの意思で撤去したにもかかわらず,これにかかった費用を原告の負担に帰せしめ,原告に返還すべき敷金から7万5670円を控除した。この控除は,法律上の原因がないものであり,同額について,原告の損失によって被告が利得を得ていることは明らかであり,不当利得となる。この不当利得返還請求権は,少なくとも敷金が返還されるべき契約解除日たる平成21年4月19日から3週間後の5月10日から被告は遅滞に陥っている。

 (6) よって,原告は,被告に対し,造作買取代金として10万5000円及びこれに対する平成21年4月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,不当利得返還請求権として7万5670円及びこれに対する同年5月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。


2 被告の主張の要旨
 (1) 被告がエアコンを設置していない事実は認めるが,原告が入居と同時に3台のエアコンを取り付けたことは知らない。

 (2) 原告が,エアコンについて造作買取請求権を行使する旨の意思表示を行ったことは認める。これに対し,被告担当者は,エアコン3台が設置された箇所にはエアコン設置のためのスリープ,コンセント,補強板が既に取り付けられており,そこに設置したエアコンについては容易に取り外しができるものであるから造作買取請求権の対象ではない旨説明している。被告は,本件エアコンの設置について許可しているが,造作買取請求までも認めてはいない。

  (3) 被告は,本件住宅についてはエアコン設置のためのスリープ,コンセント,補強板が既に取り付けてあり,このような住宅にあっては,設置は勿論のこと,取り外しについてもエアコンを毀損せず容易にできるものであるから,これは借地借家法33条の造作にあたるとはいえない。原告の造作買取請求は理由がなく,原告は原状回復としてエアコン3台を取り外さなければならないにもかかわらず,それをせず放置したのであるから,被告がそれらの撤去に要した費用を敷金から控除するのは適法なことであり,何ら不当利得となるものではない。


3 争点
  エアコンは造作買取請求権の対象となる造作か否か

第3 判断
  1 証拠及び弁論の全趣旨から次の事実が認められる。

 (1) 本件エアコンは,一般家庭用ルームエアコンであり(乙2),本件建物には,エアコン取り付け箇所が用意されており,そこにはコンセント及びスリープが設置されていること(乙3)。

 (2) 本件賃貸借契約には,造作買取請求に関しての定めはされていないこと(甲2)。

 (3) 証人Eの証言によれば,乙3号証の写真に示される部屋は,原告が使用していた部屋と同型のものであるが,室内の壁面にコンセント,その隣に丸い取り外し可能なスリープが設置されており,エアコンを取り付けるときには室内機の裏側を補強板に取り付けるが,ビスで取り付けるだけであるから,何ら建物を毀損するということはないこと,また,これまでエアコンの件で買取請求されたケースは記録上もないこと等の事実

 2 ところで,建物賃貸借において,賃貸人の同意を得て建物に附加した造作については,賃貸借終了時に賃貸人に対し,これを時価で買い取ることを請求で きる(借地借家法33条)。ここにいう造作とは,建物に附加された物件で賃借人の所有に属しかつ建物の使用に客観的便益を与えるものをいい,賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため,特に附加した設備の如きを含まない(最高裁判所昭和29年3月11日判決民集8巻3号672頁,最高裁判所昭和33年10月14日判決民集12巻14号3078頁)。附加とは,建物の構成部分となったものでもなく,家具のように簡単に撤去できるものでもなく,その中間概念であり,賃借人の所有に属し,賃借人が収去することによって,そのものの利用価値が著しく減ずるものであると解される。

 3 そうすると,本件エアコンは,上記認定事実によれば通常の家庭用エアコンであって,本件建物専用のものとして設えたものではなく汎用性のあるものであり,これを収去することによって,本件建物の利用価値が著しく減ずるものでもなく,また,取り外しについても比較的容易であるものと認められることから,本件建物に附加した造作と認めることは難しく,造作買取請求の対象とならないものとみるのが相当である。

 4 よって,原告の請求は,その余を判断するまでもなく理由がなく,主文のとおり判決する。

 

                        東京簡易裁判所民事第9室

                                         裁 判 官  野 中  利 次

 

 

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【判例】 原状回復費が定額補修費を下回る場合は、その差額分の返還請求を認めた事例

2011年05月11日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

事件番号  平成21(レ)167
事件名  敷金返還請求控訴事件
裁判所  さいたま地方裁判所 第1民事部
裁判年月日  平成22年03月18日
判示事項
 賃貸人・賃借人間の定額補修費の合意は敷金類似の金銭預託契約であり,消費者契約法10条に反しないとして,定額補修費のうちペットの消毒費を控除した金額につき賃借人からの返還請求を認めた事例

 

主         文


1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。


事 実 及 び 理 由


第1 当事者の求めた裁判
  1 控訴人
 (1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,5万2250円(請求額9万7000円から原審認容額4万4750円を控除した金額)及びこれに対する平成21年4月10日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 (3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 (4) 仮執行宣言


2 被控訴人
  主文1項と同旨

第2 事案の概要
 本件は,被控訴人との間で,A市B町所在のCアパート0号室(以下「本件貸室」という )の賃貸借契約を締結し,その後合意解約して本件貸室を被控訴人に明け渡した控訴人が,①上記賃貸借契約締結の際に,被控訴人に交付した定額補修費8万円は敷金であるとして,また,仮に定額補修費が敷金でなかったとしても,定額補修費の合意は消費者契約法10条に違反して無効であり,被控訴人がこれを不当に利得しているとして定額補修費8万円の返還を,②前払した賃料及び共益費のうち,明渡し日の翌日以降退去月の末日までの分を返還しないとする契約条項は,消費者契約法10条に違反して無効であり,被控訴人が明渡し日の翌日以降の賃料及び共益費に相当する1万7000円を不当に利得しているとしてその返還を,それぞれ求めるとともに,これらに対する訴状送達の日の翌日である平成21年4月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原判決は,定額補修費8万円のうち 「ペットによる消毒費3万5000円」及びこれに対する消費税相当額1750円を控除した4万3250円及び明渡し後の共益費15日分に相当する1500円の合計4万4750円の返還並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で控訴人の請求を認容し,その余の請求を棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。

1 前提となる事実(争いがないか,後掲の証拠によって認定できる事実)
(1) 控訴人は,平成16年12月17日,仲介業者であるD社の仲介により,控訴人との間で,本件貸室を,次の内容で賃借する内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。 )を締結し,平成17年1月27日に本件貸室の引渡しを受けた。

 ア 賃貸借期間・・平成17年1月27日から2年間
 イ 賃料・・・・・・・・1か月3万1000円
 ウ 共益費・・・・・・1か月3000円
 エ 特約・・・・・・・・ペット飼育が可能であり,これにより賃料を2000円増額する。

(2) 控訴人は,被控訴人に対し,D社の仲介により,本件賃貸借契約締結に際し,定額補修費の名目で8万円を交付した(以下,この8万円を「本件交付金」という 。)。定額補修費8万円のうち,3万円は,ペット飼育可による増額分である。

 控訴人が本件交付金をD社に渡した際に,D社が控訴人に交付した「預かり証及び領収証 (以下「本件領収証」という。 )には,本件交付金が, 「家賃その他」の欄ではなく , 「保証金」欄に記載されていた。

 また,その際に,D社が控訴人に交付した「振込金明細書・必要書類一覧」には, 「敷金」欄が「敷金定額補修費」と訂正されて,その欄に本件交付金が記載され, 「礼金」欄は空欄のままであった。

 本件貸室の「入居者募集要領」には, 「大幅に・・・条件変更!!礼金敷金¥0」, 「定額補修費3万円UP,家賃2千円UPで・・・・福祉可!・ペット可!」と記載されている。

 控訴人は,本件賃貸借契約の締結に際し,D社に対する仲介手数料(賃料1か月分相当額と消費税) ,被控訴人に対する賃料及び共益費の各支払を除き,いずれに対しても,本件交付金のほかは,敷金,礼金,権利金などの名目を問わず,一切の金員を交付していない。
(甲1,2の1ないし3,弁論の全趣旨)

(3) 本件賃貸借契約について,D社が仲介業者として記名捺印し,控訴人と被控訴人間で作成された定型的な契約書(以下「本件契約書」という。)には,その3条に具体的な敷金条項が記載されているが,その敷金額欄は抹消され金額の記載がない(甲1) 。

(4) 本件契約書の7条3項には「乙(控訴人)が本契約を解約して退去した場合において,その月の入居期間が1ヶ月に満たないときであっても,家賃は1ヶ月分を支払うものとする 」と記載されている(以下「日割精算排除。条項」という。) (甲1)。

(5) 本件契約書の18条1項本文には, 「乙(控訴人)は,2ヶ月以前に ・・・本契約を解除することができる。この場合においては,乙の通知が,甲(被控訴人)に到達した日より起算して,2ヶ月が経過した日が属する月の末日をもって,本契約は終了する。 」と記載されている(以下「退去条項」という 。)。

(6) 控訴人は,被控訴人との間で,本件賃貸借契約を合意解約し,平成20年6月15日,本件貸室を明け渡した(甲3,弁論の全趣旨)。

(7) 被控訴人は,控訴人が退去した後,①「洋室クロス張替え5万4000円」②「洋室CF交換4万5000円」③「ペットによる消毒費3万5000円」④「柱のキズ補修費2万円」⑤「床のキズ補修費1万5000円」⑥ 「クリーニング費2万5000円」及び消費税の費用(合計20万3700円)を支出して,本件貸室の原状回復をした(上記①ないし⑥の補修費用を「本件補修費用」という 。)。


2 本件の争点及び争点に対する当事者の主張

 (1) 争点1
 本件交付金は,敷金であり,全額返還請求できるか。

 ア 控訴人の主張
 本件交付金は,敷金契約に基づき差し入れた敷金である。D社は,控訴人に対し,定額補修金費は,損害が多額に上っても,この額に限定するものであると説明した。したがって,定額補修金費の性質は,損害賠償額の上限を定め,それを前払したものであり,損害が生じない場合は返還義務を負うものであるから敷金である。

 控訴人は,故意・過失で,本件貸室の柱,クロス及び床に汚損,破損を生じさせたことはない。本件貸室には表面上現れた柱は存在しないから,柱のキズは生じようがない。控訴人は,通常の清掃をした上で退去している。被控訴人が主張する汚損・破損は,賃料で負担されるべき通常の損耗である。
 したがって,本件交付金は全額返還されるべきである。

 イ 被控訴人の主張
 本件交付金は敷金ではない。定額補修費の5万円は,退去後の清掃・クリーニング費及び修繕費のうち,賃借人が分担する費用額であり,退去時に返還する合意はない。ペット飼育の場合の増額分3万円は,ペットによる臭いを取るための清掃費,消毒費である。

 賃借人の故意・過失により汚損・破損が生じた場合は,賃借人は定額補修費の定額を超えて補修費を負担する義務を負う。賃借人の故意・過失による汚損・破損でない場合,賃借人の負担は,定額補修費の定額に限定さ れる。定額補修費については,D社が重要事項として説明し,控訴人は承諾しているはずである。


(2) 争点2
 定額補修費の合意は,消費者契約法10条に違反し無効であるか。

 ア 控訴人の主張
 仮に,定額補修費の趣旨が,敷金ではなく,退去後のクリーニング費や修繕費等の回復費用を本件交付金で賄い,これが本件交付金の額を下回る場合にも返還義務が生じないという内容のものであるとすれば,定額補修費の合意は,本来賃借人が負担しなくてもよい通常損耗部分の原状回復費用の負担を強いるものである。

 また,本件賃貸借契約では,ペット飼育を理由として月額2000円が賃料に加算されているのであるから,ペット飼育による賃貸物件の劣化や価値の減少については,賃料によって賃貸人が負担すべきである。

 さらに,定額補修費が月額賃料の2倍を超えること,通常損耗費が定額補修費より少ない場合にも,入居期間の長短に関わらず,差額を返還請求できないこと,賃借人の故意・過失による汚損破損の場合には追加請求されること,更新料6万2000円を支払っていることなどの事情に照らせば,本件交付金の差入れ合意は,民法1条2項に反する。

 したがって,定額補修費の合意は,消費者契約法10条に違反し無効である。

 被控訴人の主張
 本件交付金の差入れ合意は,消費者契約法10条に違反しない。

 
 (3) 争点3
  日割精算排除条項は,消費者契約法10条に違反し無効であるか。

ア  控訴人の主張
 被控訴人は,日割精算排除条項によって,平成20年6月16日から同月30日までの分の家賃及び共益費の返還を拒絶している。

 しかしながら,それでは賃借人が賃貸目的物を返還しても賃料の支払義務が生じるから,賃借人の自由を不当に制約するものであり,他方で,賃貸人に不当に利得させるものである。

 したがって,日割精算排除条項は,消費者契約法10条に違反し無効である。

イ 被控訴人
 賃借人は退去日を自由に決めることができるのであるから,日割精算排除条項は消費者契約法10条に違反しない。


第3 当裁判所の判断

 1 争点1について
  (1) 定額補修費と敷金の関係について

ア 定額補修費は,本件契約書に記載はないけれども,入居者募集要領及び本件賃貸借契約の際に仲介業者であるD社から交付を受けた振込金明細書・必要書類一覧には「定額補修費」と明記されていること,入居者募集要領には「定額補修費3万円UP,家賃2千円UPで・・・・福祉可!・ペット可!」と記載されていることからすると,本件貸室の修復費用に当てられることが合意された「定額」の金員であると認められる。

イ 次に,実際の修復費用が定額補修費を下回る場合に,その差額を賃借人に対して返還すべきであるかについて判断する。

 そもそも,定額補修費が本件貸室の修復費用に当てられることが合意された金銭であることからすれば,本来は,修復費用がこれを下回れば差額を賃借人に返還すべき筋合いのものである。したがって,被控訴人と控訴人との間で,上記差額を返還しないとの合意が成立している場合を除き,被控訴人は,上記差額の返還義務を負うものと解するのが相当である。

 そこで,このような合意の有無について検討するに,本件貸室の入居者募集要領や本件契約書の中で,殊更に定額補修費が「敷金」ではないことが明記されているのは,被控訴人が,定額補修費を,原状回復費用の担保としての性質を有しつつ上記差額の返還義務を負わないという,敷金と礼金のいわば中間的な性質を有する金銭として理解していたことによるものと解される。

 しかしながら,他方で,本件契約書,入居者募集要領,振込金明細書・必要書類一覧及び本件領収証のいずれにも,賃貸人が上記差額を返還する義務を負わないとの記載はなく,また,D社が控訴人に対し上記差額を返還しないと説明したと認めるに足りる証拠もないことからすると,本件において,控訴人が定額補修費につき被控訴人と同様の理解をしていたとは認められない。

 よって,定額補修費につき,被控訴人と控訴人との間に,上記差額を返還しない旨の合意が成立したと認めることはできず,被控訴人は,上記差額の返還義務を負うものと解すべきである。

 ウ 以上を前提として,定額補修費と敷金の関係について判断する。

 控訴人は,定額補修費は敷金であると主張するが,本件契約書には「敷金条項」があるのに敷金欄に記載がなく 「振込金明細書・必要書類一,覧」には「敷金」欄が「敷金定額補修費」と訂正され,その欄に本件交付金が記載されていることに加えて,入居者募集要領には「大幅に・・・条件変更!!礼金敷金¥0」とも記載されていることからすると,定額補修費を敷金そのものとみることは相当でない。

 もっとも,既に検討したとおり,定額補修費は,敷金そのものではないが,本件貸室の修復費用に当てるものとして賃借人から賃貸人に差し入れられる金銭であり,かつ,実際の修復費用が定額補修費を下回る場合に,その差額を賃借人に対して返還すべき性質のものであることからすると, 定額補修費の合意は,このような敷金に類似する性質を有する金銭の預託契約であると解される。

 そして,控訴人の申立ては,定額補修費が敷金であるとしてその返還を求めるものであるが,上記金銭預託契約に基づく返還申立てをも含む趣旨であると解するのが相当である。

(2) 本件補修費用の控除について

ア そこで,本件補修費用が,返還すべき定額補修費の額から控除される修復費用といえるかを検討する。

 本件補修費用は,いずれも本件貸室の修復費用であり,その中に通常損耗の原状回復費用を含むものであるところ,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予測しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明示されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決・判例タイムズ1200号127頁 。)

 イ これを本件についてみるに,入居者募集要領には 「定額補修費3万円,UP,家賃2千円UPで・・・・福祉可!・ペット可!」と記載され,賃借人は,定額補修費の中から,ペット飼育に掛かる汚損・破損の補修費,則ち,ペット飼育により室内に染みついた臭いの消臭や除菌のための消毒の費用を負担することを明確に認識できたことからすると,上記ペット飼育にかかる汚損・破損の補修費については,控訴人と被控訴人との間で,控訴人がこれを通常損耗として負担することが明確に合意されていたものと認められる。したがって,被控訴人は,定額補修費からペットによる消毒費を控除することができる。

 他方,それ以外の本件補修費用については,控訴人と被控訴人との間で,これらを控訴人の負担とすることが明確に合意されているとまでは言い難いから,定額補修費からこれらの費用を控除することはできない。

 (3) 以上によれば,被控訴人は,本件交付金のうち 「ペットによる消毒費3,万5000円」及びこれに対する消費税相当額1750円を控除して,その残額を控訴人に返還すべきである。


2 争点2について
 (1) 定額補修費の合意が,敷金契約と類似する性質を有する金銭預託契約であることは,上記1のとおりである。また,控訴人主張の事実を考慮しても,本件賃貸借契約に権利金や礼金はなく,ペット飼育の賃料増額は1か月2000円であるから,定額補修費の合意が民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものとはいえない。

 さらに,前提となる事実として認定したとおり,本件賃貸借契約では,ペット飼育を理由に賃料が2000円,定額補修費が3万円それぞれ増額されているところ,このように賃料のみならず定額補修費も増額されていること及び各増額分の額に照らせば,本件賃貸借契約における賃料の増額分は,本件貸室でペットを飼育できるという利益を享受することの対価とみるのが合理的であり,それ以上にペット飼育に伴う賃借物件の劣化又は価値の減少を補填する趣旨を含むものではないと解するのが相当である。

 (2) したがって,本件交付金の差入れ合意は,消費者契約法10条に違反し無効であるとはいえない。


3 争点3について

  (1) 日割精算排除条項及び退去条項によれば,控訴人は,本件賃貸借契約を解約して退去する場合,最長,解約の意思表示が被控訴人に到達した日から 3か月間本件賃貸借契約に基づく賃料支払義務を負担することになる。

 しかしながら,本件賃貸借契約は,期間の定めがあるから,退去条項がなければ一方的な解約はできないのが原則であり,期間の定めのない建物賃貸借契約の場合は解約申入れから3か月間の経過により終了するものとされていることからすると,日割精算排除条項(及び退去条項)が,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものとはいえない。

 したがって,日割精算排除条項は消費者契約法10条に違反するとはいえない。よって,控訴人は,日割精算排除条項に基づき,平成20年6月分の賃料全額3万1000円の支払義務を負うから,このうち退去後の賃料に相当する分の返還を請求することはできない。

 (2) 他方,共益費は,日割精算排除条項に記載がないから,控訴人は,同月分の共益費3000円のうち退去後の共益費に相当する分は支払義務を負わない。したがって,平成20年6月16日から同月30日分の1500円は不当利得として返還すべきである。

4 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する請求は,定額補修費8万円のうち「ペットによる消毒費3万5000円」及びこれに対する消費税相当額1750円を控除した4万3250円及び明渡し後の15日分の共益費に相当する1500円の合計4万4750円の返還並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年4月10日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

 よって,上記と結論を同じくする原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。


      さいたま地方裁判所第1民事部

栽 判 長 裁 判 官   佐 藤  公 美

裁 判 官        高 橋   光 雄

栽 判 官      川    慎 介

 

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【判例】 *居住用建物の敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできないとされた事例

2011年05月09日 | 敷金(保証金)・原状回復・消費者契約法

 判例紹介

事件番号  平成21(受)1679

事件名  敷金返還等請求事件

裁判所  最高裁判所第一小法廷

裁判年月日  平成23年03月24日

裁判種別  判決

結果  棄却

原審裁判所  大阪高等裁判所

原審事件番号  平成20(ネ)3256

原審裁判年月日  平成21年06月19日

裁判
1 居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,敷引金の額が高額に過ぎるものである場合には,賃料が相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,消費者契約法10条により無効となる。

2 居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできないとされた事例


 

主      文

      本件上告を棄却する。

      上告費用は上告人の負担とする。

理      由

 上告代理人長野浩三ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,居住用建物を被上告人から賃借し,賃貸借契約終了後これを明け渡した上告人が,被上告人に対し,同契約の締結時に差し入れた保証金のうち返還を受けていない21万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。被上告人は,同契約には保証金のうち一定額を控除し,これを被上告人が取得する旨の特約が付されていると主張するのに対し,上告人は,同特約は消費者契約法10条により無効であるとして,これを争っている。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,平成18年8月21日,被上告人との間で,京都市西京区桂北滝川町所在のマンションの一室(専有面積約65.5m2。以下「本件建物」という。)を,賃借期間同日から平成20年8月20日まで,賃料1か月9万6000円の約定で賃借する旨の賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結し,本件建物の引渡しを受けた。本件契約は,消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。

 (2) 本件契約に係る契約書(以下「本件契約書」という。)には,次のような条項がある。
 ア 上告人は,本件契約締結と同時に,保証金として40万円を被上告人に支払う(3条1項。以下,この保証金を「本件保証金」という。)。

  イ 本件保証金をもって,家賃の支払,損害賠償その他本件契約から生ずる上告人の債務を担保する(3条2項)。

  ウ 上告人が本件建物を明け渡した場合には,被上告人は,以下のとおり,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じた額を本件保証金から控除してこれを取得し,その残額を上告人に返還するが(以下,本件保証金のうち以下の額を控除してこれを被上告人が取得する旨の特約を「本件特約」といい,本件特約により被上告人が取得する金員を「本件敷引金」という。),上告人に未納家賃,損害金等の債務がある場合には,上記残額から同債務相当額を控除した残額を返還する(3条4項)。

  経過年数1年未満   控除額18万円

             2年未満        21万円

             3年未満        24万円

             4年未満        27万円

             5年未満        30万円

             5年以上        34万円

  エ 上告人は,本件建物を被上告人に明け渡す場合には,これを本件契約開始時の原状に回復しなければならないが,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗(以下,併せて「通常損耗等」という。)については,本件敷引金により賄い,上告人は原状回復を要しない(19条1項)。

  オ 上告人は,本件契約の更新時に,更新料として9万6000円を被上告人に支払う(2条2項)。

 (3) 上告人は,平成18年8月21日,本件契約書3条1項に基づき,本件保証金40万円を被上告人に差し入れた。なお,上告人は,本件保証金のほかに一時金の支払をしていない。

 (4) 本件契約は平成20年4月30日に終了し,上告人は,同日,被上告人に対し,本件建物を明け渡した。

 (5) 被上告人は,平成20年5月13日,本件契約書3条4項に基づき,本件保証金から本件敷引金21万円を控除し,その残額である19万円を上告人に返還した。

 3 原審は,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。

 4 所論は,建物の賃貸借においては,通常損耗等に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われるものであるのに,賃料に加えて,賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる本件特約は,賃借人に二重の負担を負わせる不合理な特約であって,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるから,消費者契約法10条により無効であるというのである。

 5 そこで,本件特約が消費者契約法10条により無効であるか否かについて検討する。

 (1) まず,消費者契約法10条は,消費者契約の条項が,民法等の法律の公の秩序に関しない規定,すなわち任意規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであることを要件としている。

 本件特約は,敷金の性質を有する本件保証金のうち一定額を控除し,これを賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約であるところ,居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,契約当事者間にその趣旨について別異に解すべき合意等のない限り,通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含むものというべきである。本件特約についても,本件契約書19条1項に照らせば,このような趣旨を含むことが明らかである。

 ところで,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであるから,賃借人は,特約のない限り,通常損耗等についての原状回復義務を負わず,その補修費用を負担する義務も負わない。そうすると,賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件特約は,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものというべきである。

 (2) 次に,消費者契約法10条は,消費者契約の条項が民法1条2項に規定する基本原則,すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることを要件としている。

 賃貸借契約に敷引特約が付され,賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には,賃借人は,賃料の額に加え,敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって,賃借人の負担については明確に合意されている。そして,通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。また,上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。

 もっとも,消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。

 そうすると,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。

 (3) これを本件についてみると,本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,上告人は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。

 そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。

 6 原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


( 裁判長裁判官 金築誠志  裁判官 宮川光治  裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)

 

東京・台東借地借家人組合

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