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【判例】*地主は所有権移転登記を経由しないと、借地人に対抗できない  

2016年07月07日 | 登記

最高裁判例

賃貸中の宅地を譲り受けた者は、その所有権の移転につき登記を経由しないかぎり、賃貸人たる地位の取得を賃借人に対抗できないとした事例 最高裁 昭和49年3月19日 判決


裁判年月日 昭和49年3月19日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
事件番号 昭和47(オ)1121
民集 第28巻2号325頁

 

 

        主    文
 被上告人の本訴請求中上告人に対し第1審判決添付目録第1記載の宅地につき昭和29年9月12日大阪法務局江戸堀出張所受付第12514号所有権移転請求権保全仮登記に基づく所有権移転登記完了と同時に同第2記載の建物の収去を求める部分に関する原判決を破棄し、右破棄部分を大阪高等裁判所に差し戻す。
 上告人のその余の上告を棄却する。
 前項の上告費用は、上告人の負担とする。


         理    由
 上告代理人樫本信雄、同竹内敦男の上告理由第1点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして肯認することができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。

 同第2点及び第3点について。
 原判決は、訴外Dは昭和25年4月原審控訴人Eから第1審判決添付目録第1記載の宅地(以下本件宅地という。)を買い受けたがその所有権移転登記をしなかつたところ、昭和29年3月本件宅地を被上告人に売り渡したが、その所有権移転登記は中間を省略してEから直接被上告人に対してされる旨の合意が右三者間に成立し、被上告人は同年9月12日主文第一項記載の仮登記を経由したこと、一方、上告人は本件宅地上に右目録第2記載の建物(以下本件建物という。)を所有しているが、そのうち家屋番号a番のb、c木造瓦葺2階建店舗1棟床面積1階7坪6合9勺、2階7坪9勺については昭和27年7月4日これを他から買い受けるとともに、当時本件宅地の所有者であつたDから本件宅地を建物所有の目的のもとに賃借し、右建物につき同月5日所有権移転登記を経由したこと、被上告人は昭和46年6月15日到達の書面をもつて上告人に対し昭和29年9月14日以降昭和46年5月末日までの賃料を4日以内に支払うよう催告し、上告人がこれに応じなかつたので、同年6月21日到達の書面をもつて上告人に対し賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことを、それぞれ確定したうえ、右賃貸借契約は同日解除されたとして、被上告人が土地所有権に基づき主文第1項の所有権移転登記完了と同時に上告人に対して本件建物の収去を求める本訴請求を認容したものである。

 しかしながら、本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法177条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につきその登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができず、したがつてまた、賃貸人たる地位を主張することができないものと解するのが、相当である(大審院昭和8年(オ)第60号同年5月9日判決・民集12巻1123頁参照)。

 ところで、原判文によると、上告人が被上告人の本件宅地の所有権の取得を争つていること、また、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由していないことを自陳していることは、明らかである。それゆえ、被上告人は本件宅地につき所有権移転登記を経由したうえではじめて、上告人に対し本件宅地の所有権者であることを対抗でき、また、本件宅地の賃貸人たる地位を主張し得ることとなるわけである。したがつて、それ以前には、被上告人は右賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として賃貸借契約を解除し、上告人の有する賃借権を消滅させる権利を有しないことになる。そうすると、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由しない以前に、本件宅地の賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として本件宅地の賃貸借契約を解除する権利を有することを肯認した原判決の前示判断には法令解釈の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を与えることは、明らかである。


したがつて、この点に関する論旨は理由があるから、その余の論旨について判断を示すまでもなく、原判決中本判決主文第1項掲記の部分は破棄を免れない。そして、右部分につきなお審理の必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

 よつて、民訴法407条1項、396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官    関   根   小   郷

            裁判官    天   野   武   一

            裁判官    坂   本   吉   勝

            裁判官    江 里 口   清   雄

            裁判官    高   辻   正   己

 

 

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【Q&A】 抵当権設定前に保存登記された建物を取壊して建替えた場合

2015年12月14日 | 登記

抵当権設定前に保存登記された建物を
  取壊して建替えた場合、借地権を土地の買受人に対抗できるか

(問) 7年前、地主の建替えの承諾を得て借地上の木造建物を取壊し、鉄骨4階建ての建物へ建替え、建物保存登記も済ませた。勿論、木造建物の時も登記はしていた。
 ところが建替えの3年前に地主は土地を担保に金融機関から融資を受けていたことが発覚した。金融機関は、地主の土地建物と底地部分にも抵当権設定登記をしていた。
 今回、地主の経済破綻から、その抵当権が実行され、競売で競落した買受人から建物収去・土地明渡しを要求されている。明渡さなければならないのか。


(答) 「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することが出来る。」(借地借家10条1項)と規定し、建物登記がある場合に、借地権に対抗力を認めた。これにより、土地所有者が代わっても、新所有者に対して自分の借地権を主張でき、明渡しを求められることはない。

 また、その登記した建物が焼失(滅失)した場合でも登記事項と再築の意思表示の掲示物を借地上の見やすい場所に掲示すれば、第三者に借地権の対抗力を維持できるとしている(借地借家10条2項)。

 ①<建物登記→抵当権設定登記>
 建物登記がされている土地(底地)に対して抵当権設定登記がなされた場合、抵当権が実行されても借地人は買受人に借地権の対抗力を主張できる。借地人は、借地上建物にそのまま住み続けることができる。

 ②<抵当権設定登記→建物登記>
 しかし、抵当権設定登記後になされた建物登記の場合、抵当権が実行されると借地権は競売の買受人に対抗できず、最終的には建物収去、土地明渡ということになる。

 要するに対抗要件の優劣は登記された時期の先後で決定される。先に登記された方が優先されるというのが原則。

 それでは、借地人が抵当権設定登記前に保存登記をしていた借地上の建物を抵当権設定登記後に取壊して再築した場合、借地権を土地の買受人に対抗することができるのか。

 今回の質問と殆ど同一の問題で争われた東京高裁(2000(平成12)年5月11日)判決(金融・商事判例198号27頁)がある。


<東京高裁判決の要旨>
 「民事執行法は、土地の買受人が借地権を引き受けるかどうかを、その借地権が抵当権者に対抗することができるかどうかによって決定している。すなわち、不動産競売では、対抗問題は、抵当権の設定時に生じ、買受人が不動産を競落するときに生じるのではない。・・・・不動産競売における買受人の所有権の取得は、抵当権者の有する換価権の実現に過ぎず、新たな物権変動ではない。そのために、競売の時点での対抗問題は生じないのであって、競売による所有権取得の場合には、借地権を買受人が引き受けるかどうかは、抵当権者に対抗できるかどうかで定まるのであり、そのことを民事執行法59条2項が確認しているのである」と判示している。

即ち、①不動産競売において対抗問題が生じるのは、抵当権設定時であって、不動産競売の買受人への売却時ではない。従って、不動産の競落時における対抗要件の存在は必要ではない。

 そして、借地上建物の滅失と借地権の対抗に関しては、「抵当権設定登記が経由された時点において、土地の建物に所有権保存登記を経由していれば、借地人は借地権を抵当権者に対抗することができる。このようにして対抗力を取得した借地権は、その抵当権者との間では、その対抗力を維持するため、建物自体を維持したり、所有権保存登記を維持していなければならないわけではない」と述べている。

 即ち、②抵当権に対する借地権の対抗要件があるかどうかは、抵当権設定時に登記があったか否かだけで定まる。従って、借地権は、抵当権設定時に既に建物保存登記があれば、その後に建物が滅失しても、また対抗要件である登記抹消されても、抵当権者・買受人に対抗できる。抵当権設定後の建物の存在や登記の存在は、抵当権に対する対抗力の存否とは無関係である。借地権の対抗力の有無は、競売時ではなく、抵当権設定時点で決定される。

 結論、質問者は木造建物を保存登記していたので、抵当権が設定された時点で借地権の対抗力がある。従って買受人の明渡し要求に応ずる必要はない。借地人は買受人と新規に契約書を締結する義務がないので、従前の契約内容で借地を続けることが出来る。買受人は従前の契約条件を履行する義務がある。

 従前は、抵当権が設定された借地での建替えは多大なリスクを伴い、危険であった。従来の判例では、後日、抵当権が実行された場合、抵当権設定に後れる建物登記は対抗力がないということで、借地人は、建物を取壊して土地を明渡さざるをえない危険があった。

 事実1審の横浜地裁(平成8年3月11日判決)では、借地人に建物収去、土地明渡しを命じている。従って、借地人は抵当権設定登記がある間は事実上建物の建替えが不可能であった。修繕の繰り返しで建物の維持をするしか方法がなかった。このような借地人の悲惨な状況が続いていた。

 東京高裁の判決が確定したので、これからは借地上建物の登記が抵当権設定前になされていれば、借地人は建物の再築・増改築が安心して出来るということである。借地人にとっては刮目に値する重要な判決である。
(同趣旨の判例、(東京高裁平成13年2月8日判決 判例タイムズ1058号272頁)

 

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【Q&A】 土地所有者を名乗るが、土地の移転登記をしていない者への対応

2015年08月24日 | 登記

 (問) 地主が経営するスーパーが経営不振で閉店した。その後、土地の売買契約書のコピーを持って、地主から土地を買ったという人間が現れた。来月から自分の方に地代を支払うようにと言って来た。
 土地の登記簿謄本で調べると、土地の所有者は元の地主のままである。新所有者名義の所有権移転登記はされていない。
 土地所有者を名乗るが、土地の移転登記をしていない者への対応を、問題の起きない地代の支払いをどうしたらいいのか、教えてください。


 (答) 賃 貸不動産が譲渡された場合、その譲受人は、どのような要件を具備したら賃借人に賃料を請求できるのか。民法 177 条(不動産に関する物件の変動は、不動産登記法に定められた登記がなされて初めて第三者に対抗することができる)は不動産の物件変動を登記によって公示す るという考え方を採用し、登記は対抗要件であるとしている。

   判例は賃貸不動産の譲受人は所有権移転登記をしない限り賃借人に対して所有権の取得、賃貸人たる地位の承継を主張することが出来ない。賃借人は民法177条の第三者に該当し、譲受人の移転登記がない場合には賃料請求をすることが出来ない最高裁1974年3月 19日判決)。

   これは所有権移転の事実を確実にして、賃借人の二重払いの危険を回避するために登記を保護要件としている。これによって賃借人の保護をしている。即ち、「登記簿上の所有名義人は反証のない限り当該不動産を所有するものと推定される」(最高裁1959年1月8日判決)。登記されていない物件の変動は無視しうるという形で取引の安全が保障され、取引の迅速化が促進される。

   借地人の取りうる態度として第1の方法は登記簿を調べて登記上の権利者に支払うということになる。即ち、譲受人が移転登記を完了していれば新所有者に支払う。移転登記がなされていなければ、元地主に支払えば、債権の準占有者(民法 478 条)へ有効な弁済をしたことになる。

 

   尚、前記1974年最高裁の判例では、新所有者が賃借人の明渡を要求する場合にも、登記を具備する必要があるとしている。

  例えば、地上げ屋が地主との底地売買を証明する書面を見せて地主から土地を買ったと主張しても、登記簿等謄本を調べたら所有権の移転登記が完了していない 場合(或いは所有権移転登記が完了していない期間)は、借地人に明渡請求を強要したり、地代の受取り・地代の大幅値上げ請求などは当然できない。


  第2の方法は、民法494条供託原因による「債権者の確知不能」として供託する。今回のように債権譲渡の通知を受けたが、借地人が賃料の支払の相手が誰なのか断定出来ない場合、「債権者が確知できない」との供託事由により供託することが出来る。

 

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【判例】 *登記の地番及び床面積が実際と異なる建物が「登記されている建物」に当たるとされた事例

2011年11月02日 | 登記

 判  例

事件番号・・・・・・・・平成17(オ)48

事件名・・・・・・・・・・建物収去土地明渡等請求事件

裁判所・・・・・・・・・・最高裁判所第一小法廷

裁判年月日・・・・・・平成18年1月19日

裁判種別・・・・・・・・・判決

結果・・・・・・・・・・・・・破棄差戻し

原審裁判所・・・・・・・高松高等裁判所

原審事件番号・・・・・平成16(ネ)267

原審裁判年月日・・・平成16年10月12日

(判示事項)
 登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる建物が借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たるとされた事例

(裁判要旨)
 借地上の建物の登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる場合において,所在地番の相違が職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じたものであること,床面積の相違は建物の同一性を否定するようなものではないことなど判示の事情の下では,上記建物は,借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たる。



主    文

    原判決のうち上告人に関する部分を破棄する。
    上記部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。


理    由

 第1 事案の概要

 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)のうちの東側部分(同目録3記載の土地,以下「東側土地部分」という。)には,住宅営団が昭和22年ころに新築した建物(以下「本件建物」という。)が存在したところ,昭和24年,本件建物につき床面積を8坪(後に26.44㎡と書替え)とする表示の登記及び住宅営団を所有者とする所有権保存登記がされた。

 (2) 住宅営団は,本件建物をDに売却し,昭和24年,Dはその旨の所有権移転登記を了した。Dは,その後本件建物を約13.32㎡分増築した上,昭和34年4月,これを上告人の夫の母であるEに売却し,Eは本件建物につきその旨の所有権移転登記を了した。

 (3) Eは,昭和43年ころ本件建物を約16.18㎡分増築するとともに,昭和44年ころ,本件建物に隣接して床面積約4.06㎡の物置を新築したが,登記上の床面積の表示の変更及び附属建物の新築の登記はされなかった(以下,本件建物と上記物置とを併せて「本件建物等」という。)。

 (4) Eは,平成2年6月に死亡し,その孫であり上告人の子であるF及びG(以下,両名を併せて「Fら」という。)が代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した。Fらは,平成15年ころ,本件建物を8.45㎡分増築したが,登記上の床面積の表示の変更はされなかった。

 (5) 被上告人は,平成15年10月28日,競売により本件土地の所有権を取得し,同月29日,その旨の所有権移転登記を了した。

 (6) 本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年の所在及び地番の変更並びに昭和61年の分筆を経て,「松山市a町b丁目c番d」(本件土地)となっていたが,本件建物の登記においては,その後も建物の所在地番が「松山市a町b丁目e番地」と誤って表示されており,本来の所在地番とは相違していた上に,床面積の表示も26.44㎡のままであった(以下,この登記を「本件登記」という。)。そのため,上記競売手続における執行官の現況調査報告書には,本件建物等は未登記である旨記載されており,物件明細書には,東側土地部分に係る賃借権は対抗力を有しない旨が記載されていた。

 (7) 本件建物については,平成16年5月,平成2年6月相続を原因とするFらに対する所有権移転登記がされた。また,平成16年6月,Fらの申請により,本件登記につき,所在地番を「松山市a町b丁目c番地d」,主たる建物の床面積を64.39㎡とする表示変更及び表示更正登記がされるとともに,附属建物について床面積を4.06㎡とする新築の登記がされた。

 2 本件は,被上告人が,本件建物に居住して東側土地部分を占有する上告人に対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物等を収去して東側土地部分を明け渡すことを求める事案である。これに対し,上告人は,(1) 本件建物等の所有者は上告人ではなく,Fらである,(2) Eは,東側土地部分につき建物所有を目的とする賃借権を有しており,同人が本件登記のされている本件建物を所有することによって上記賃借権は対抗力を有していたところ,Fらが相続によって本件建物及び上記賃借権を取得した,と主張してこれを争っている。


 第2 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告理由について

 上告人に対し本件建物等の収去を命じるためには,その所有者が上告人であることを要するところ,原審は,前記事実関係のとおり,Fらが相続により本件建物等の所有権を取得した事実を認定しながら,他方で,上告人が東側土地部分に本件建物等を所有している旨の第1審判決の説示を引用の上,上告人に対し本件建物等の収去を求める被上告人の請求を認容すべきものとしている。そうすると,本件建物等の所有者に関する原判決の理由の記載は矛盾しており,原判決には,上告人に対し本件建物等の収去を命じる部分につき理由に食違いがあるというべきである。論旨は理由がある。


 第3 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告受理申立て理由について

 1 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,本件登記は東側土地部分の借地権の対抗要件としての効力を有しないとして,被上告人の上告人に対する請求を認容すべきものとした。

 (1) 賃借権の設定された土地の上の建物についてされた登記が,錯誤又は遺漏により,建物の所在地番の表示において実際と相違していても,建物の種類,構造,床面積等の記載とあいまち,その登記の表示全体において,当該建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違である場合には,当該建物は,建物保護に関する法律1条にいう登記した建物に当たると解すべきである。

 (2) 本件建物等の本来の所在地番は「松山市a町b丁目c番地d」であるのに対し,本件登記上の所在地番は「松山市a町b丁目e番地」であって,その間に大きな相違がある上に,本件登記上に表示された建物の床面積も昭和22年に新築された当時の26.44㎡のままであり,本件建物等のうちの大部分は本件登記に反映されていない。また,執行官の現況調査報告書にも本件建物等は未登記である旨記載されており,このような場合にまで賃借人を保護するときには,その土地を買い受けようとする第三者を不当に害することになりかねない。したがって,上記の所在地番や床面積の相違は,建物の同一性を認識するのに支障がない程度に軽微であるとは認められず,本件建物等を建物保護に関する法律1条にいう登記した建物ということはできない。そして,被上告人が本件土地を取得した後に本件登記につき現況と合致するように更正登記等がされたとしても,かかる登記の効力は遡及しないと解すべきであるから,上記結論に影響しない。

 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 記録によれば,①Eが本件建物を取得した昭和34年当時の同建物の敷地の所在及び地番は松山市f町b丁目e番であり,同人が本件建物につき所有権移転登記を了した時点では,本件建物の登記上の所在地番は「松山市f町b丁目e番地」と正しく表示されていたこと,②本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年に松山市a町b丁目c番に変更になり,土地登記簿については職権でその旨の変更登記がされたこと,③上記敷地の所在及び地番の変更に伴い,昭和39年に職権で本件建物の登記の所在欄のうち地番以外の部分が「松山市f町b丁目」から「松山市a町b丁目」に変更されたが,地番はe番地のまま変更されなかったこと,④昭和61年に松山市a町b丁目c番の土地から本件土地が分筆されたが,本件建物の登記における所在地番の表示は変更されなかったこと,⑤本件土地の競売による売却によって消滅した担保権のうち最も古いものの設定登記は昭和62年にされていること,以上の事実がうかがわれる。

 以上によれば,本件建物の登記における所在地番の表示は,Eが本件建物を取得した昭和34年当時は正しく登記されていたが,その後登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤ったため,競売の基礎となった担保権の設定時までに実際の地番と異なるものとなった可能性が高いというべきである。

 (2) ところで,建物保護に関する法律1条は,借地権者が借地上に登記した建物を有するときに当該借地権の対抗力を認めていたが,借地借家法(平成3年法律第90号)10条1項に建物保護に関する法律1条と同内容の規定が設けられ,同法は借地借家法附則2条により廃止された。そして,同附則4条本文によれば,本件にも同法10条1項が適用されるところ,同項は,建物の所有を目的とする土地の借地権者が,その土地の上に登記した建物を有するときは,当該借地権の登記がなくともその借地権を第三者に対抗することができるものとすることによって,借地権者を保護しようとする規定である。この趣旨に照らせば,借地上の建物について,当初は所在地番が正しく登記されていたにもかかわらず,登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤った結果,所在地番の表示が実際の地番と相違することとなった場合には,そのことゆえに借地人を不利益に取り扱うことは相当ではないというべきである。また,当初から誤った所在地番で登記がされた場合とは異なり,登記官が職権で所在地番を変更するに際し誤った表示をしたにすぎない場合には,上記変更の前後における建物の同一性は登記簿上明らかであって,上記の誤りは更正登記によって容易に是正し得るものと考えられる。そうすると,このような建物登記については,建物の構造,床面積等他の記載とあいまって建物の同一性を認めることが困難であるような事情がない限り,更正がされる前であっても借地借家法10条1項の対抗力を否定すべき理由はないと考えられる。

 (3) これを本件についてみると,前記のとおり,【要旨】①Eが本件建物を取得した当時の本件建物登記の所在地番は正しく表示されていたこと,②本件登記における所在地番の相違は,その後の職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じた可能性が高いことがうかがわれるのであり,また,本件登記における建物の床面積の表示は,新築当時の26.44㎡のままであって,実際と相違していたが,前記事実関係に照らせば,この相違は本件登記に表示された建物と本件建物等との間の同一性を否定するようなものではないというべきである。そして,現に,本件登記については,その表示を現況に合致させるための表示変更及び表示更正登記がされたというのである。

 そうすると,Eが,本件土地の競売の基礎となった担保権の設定時である昭和62年までに東側土地部分につき借地権を取得していたとすれば,本件建物等は,借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に該当する余地が十分にあるというべきである。

 (4) 以上の点に照らせば,本件登記における建物の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯等について十分に審理することなく,本件登記における建物の表示が実際と大きく異なるとして直ちに上告人の主張する借地権の対抗力を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由がある。

 第4 結論
 以上によれば,原判決のうち上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件建物等の所有者,本件登記の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯,東側土地部分についての借地権の有無等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉治の補足意見がある。


 裁判官泉治の補足意見は,次のとおりである。

 原判決は,「当裁判所の判断」として,「次のとおり補正するほかは,原判決の『事実及び理由』中,『当裁判所の判断』記載のとおりであるから,これを引用する。」と記載し,第1審判決書の理由のうち「上告人が東側土地部分上に本件建物等を所有して東側土地部分を占有している」との部分を引用箇所として残したまま,独自に「上告人らの子であるFらが代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した」との判断を付加し,相矛盾する事実の認定をすることになった。

 原判決は,控訴審の判決書における事実及び理由の記載は第1審の判決書を引用してすることができるとの民訴規則184条の規定に基づき,第1審判決書の「当事者の主張」の記載を引用すると表示しつつ,これに追加の主張を1箇所付加し,また,第1審判決書の「当裁判所の判断」の記載を引用すると表示しつつ,そのうちの3箇所の部分を原審独自の判断と差し替えている。

 民訴規則184条の規定に基づく第1審判決書の引用は,第1審判決書の記載そのままを引用することを要するものではなく,これに付加し又は訂正し,あるいは削除して引用することも妨げるものではない(最高裁昭和36年(オ)第1351号同37年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事59号89頁参照)。しかしながら,原判決の上記のような継ぎはぎ的引用には,往々にして,矛盾した認定,論理的構成の中の一部要件の欠落,時系列的流れの中の一部期間の空白などを招くおそれが伴う。原判決は,そのおそれが顕在化した1事例である。この点において,継ぎはぎ的な引用はできるだけ避けるのが賢明である。

 また,第1審判決書の記載を大きなまとまりをもって引用する場合はともかく,継ぎはぎ的に引用する場合は,控訴審判決書だけを読んでもその趣旨を理解することができず,訴訟関係者に対し,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込んだ上で読むことを強いるものである。継ぎはぎ的引用の判決書は,国民にわかりやすい裁判の実現という観点からして,決して望ましいものではない。

 さらに,民訴規則184条は,第1審判決書の引用を認めて,迅速な判決の言渡しができるようにするための規定であるが,当該事件が上告された場合には,上告審の訴訟関係者や裁判官等は,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込むという機械的作業のために少なからざる時間を奪われることになり,全体的に見れば,第1審判決書の引用は,決して裁判の迅速化に資するものではない。

 判決書の作成にコンピュータの利用が導入された現在では,第1審判決書の引用部分をコンピュータで取り込んで,完結した形の控訴審の判決書を作成することが極めて容易になった。現に,「以下,原判決『事実及び理由』中の『事案の概要』及び『当裁判所の判断』の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的削除については,特に指摘しない。」,あるいは「以下,控訴人を『原告』,被控訴人を『被告』という。なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。」等の断り書きを付して,控訴審判決書の中に引用部分をとけ込ませ,自己完結的な控訴審判決書を作成している裁判体もある。このような自己完結型の控訴審判決書が,国民にわかりやすい裁判の実現,裁判の迅速化という観点において,継ぎはぎ的な引用判決よりもはるかに優れていることは,多言を要しないところである。本件の原審がこのような自己完結型の判決書を作成しておれば,前記のような誤りを容易に防ぐことができたものと考えられる。

 (裁判長裁判官 泉 治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

 

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【Q&A】 未登記建物を借りたが、何か不都合があるのか、商売を続けられるのか

2011年02月07日 | 登記

(問) 最近、私は店舗付き住宅を借りたのですが、この建物が借地上の未登記の建物であることが分かりました。もし、家主が第三者に売却したら、私の権利はどうなるのでしょうか。


(答) ご質問で言えば、未登記の建物であっても、家主が地主の承諾を得て第三者に売却をしたとしても、従来の賃貸借契約は継承され、解除されることはありません。

 しかし、建物が未登記ですので、地主が担保権や根抵当権などを設定し、その後債務不履行によって債権者が裁判所で競売手続きを行ったとき、借地人(家主)の契約は非常に不安定になります。

 裁判所は、その物件の確保のために、実地調査を含め債権債務などの権利や利害関係の実態などの調査結果を含めた条件で、第三者へ入札を開始します。そして、落札した善意の第三者に、この権利や利害がそのまま継承されることになります。そこで落札した善意の第三者である新所有者に対しては、家屋が未登記のため借地権を主張することが困難となります。

 したがって、土地の所有者である地主は、何の権利関係も持たない占有者(借地人である家主と借家人)に対して「建物収去土地明渡」の訴訟をすることになります。この場合、抵当権などの設定登記後に、借地人が家屋の保存登記をしても対抗力はありません。

 借家人であっても契約する前に、その登記簿を閲覧し、建物が保存登記されているか、抵当権などが設定されているかどうか、を確認することが大切です。

 

 

大借連新聞より

 

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【Q&A】 家主から土地建物を買ったという人から家賃の支払い請求を受けたが

2010年07月29日 | 登記

 (問) 木造借家に87歳の母親が一人で住んでいます。突然家主名義で土地建物を売却したので、新家主へ今後の家賃を支払うよう内容証明郵便で通知を受けました。
 登記簿謄本で名義を確認しましたところ、通知書通り名義人も変更されていますが、通知書はどうもこれまでの家主が書いていると思えない文体です。老いた母親は、新家主が地上げ屋ではないかと心配しています。
 家賃は誰に支払ったらよいのでしょうか。また、地上げ屋であったらどうしたらよいのでしょうか。


 (答) 旧家主から新家主へ所有者が変更されたとの通知を受け取り、登記簿謄本に通知書通りの名義人へ所有者が変更されておれば、その名義人へ家賃を支払わなければなりません。

 万一名義人が変更されていないとか、別の名義人となっている場合は家賃の支払いは保留にし、旧家主へ連絡して事情を聴き対処します。

 お問い合わせの件は、登記簿謄本の名義人が新家主の名義と一致し、しかも旧家主から新家主へ支払うよう通知を受けていることから、新家主へ支払う必要があります。

 なお、新家主が地上げ屋であったとしても家賃は支払っておきましょう。その上で、新家主が「家屋が老朽化している」、「土地を有効利用したい」等の理由で立退きを請求されても直ちに応じる必要はありません。家主の都合で一方的な明渡請求をすることはできません。

 万一、地上げ屋から脅迫的な態度で明渡を求められ場合、最寄りの借地借家人組合へご相談ください。

 

 

大借連新聞より  

 


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【Q&A】 地代を誰に払えばいいのか判らない場合 

 

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【Q&A】 借地上の未登記の建物

2010年04月08日 | 登記

 (問) 私は最近、借地上の建物を友人から譲り受けたのですが、未登記だというのです。購入に当っては地主の承諾も受けていますが、登記している場合と登記していない場合とで、地主との関係で何か問題が生じることがあるのでしょうか。


 (答) 建物の登記をしているかどうかは、地主には関係がありません。
 ただ、地主が代わったときには大きな違いが出ってきます。地主の変更は、地主が土地を売った場合や、土地を担保に借金をしたり税金を滞納したりして差し押さえを受けて競売されたときに起こります。

 こうしたときに建物の登記があれば借地借家法10条(*1)(借地権の対抗力等)によって「自分は借地人である」と対抗(主張)できますから何の心配もありません。

 登記がないと対抗できないため、新しい地主から明け渡しを要求されれば、負けることになります。ですから、安心して住むためには、1日でも早く登記をしておく必要があります。

 もっとも、建物の登記がなくても、土地賃貸借の登記(*2)があれば、右のような不利益はありませんが、賃借権の登記は地主がするわけですから通常はありません。

 

 

大借連新聞より

 


(*1)
借地借家法10条1項 「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる」

(*2)
(不動産賃貸借の対抗力)
民法605条 「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる」

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条 「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」

 

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【判例紹介】 *所在地番及び床面積が実際と異なる建物が登記されている建物に当たるとされた事例

2008年04月04日 | 登記

 判例紹介


 平成18年01月19日 最高裁判所 第一小法廷判決 平成17年(オ)第48号、平成17年(受)第57号 建物収去土地明渡等請求事件


(要旨)
 登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる建物が借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たるとされた事例


(内容)
件名   建物収去土地明渡等請求事件
      (最高裁判所 平成17年(オ)第48号、平成17年(受)第57号 平成18年01月19日 第一小法廷判決 破棄差戻し)
原審   高松高等裁判所 (平成16年(ネ)第267号)

 

主    文

 原判決のうち上告人に関する部分を破棄する。
 上記部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。


理    由

 第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)のうちの東側部分(同目録3記載の土地,以下「東側土地部分」という。)には,住宅営団が昭和22年ころに新築した建物(以下「本件建物」という。)が存在したところ,昭和24年,本件建物につき床面積を8坪(後に26.44㎡と書替え)とする表示の登記及び住宅営団を所有者とする所有権保存登記がされた。

 (2) 住宅営団は,本件建物をAに売却し,昭和24年,Aはその旨の所有権移転登記を了した。Aは,その後本件建物を約13.32㎡分増築した上,昭和34年4月,これを上告人の夫の母であるBに売却し,Bは本件建物につきその旨の所有権移転登記を了した。

 (3) Bは,昭和43年ころ本件建物を約16.18㎡分増築するとともに,昭和44年ころ,本件建物に隣接して床面積約4.06㎡の物置を新築したが,登記上の床面積の表示の変更及び附属建物の新築の登記はされなかった(以下,本件建物と上記物置とを併せて「本件建物等」という。)。

 (4) Bは,平成2年6月に死亡し,その孫であり上告人の子であるC及びD(以下,両名を併せて「Cら」という。)が代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した。Cらは,平成15年ころ,本件建物を8.45㎡分増築したが,登記上の床面積の表示の変更はされなかった。

 (5) 被上告人は,平成15年10月28日,競売により本件土地の所有権を取得し,同月29日,その旨の所有権移転登記を了した。

 (6) 本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年の所在及び地番の変更並びに昭和61年の分筆を経て,「a市b町1丁目24番1」(本件土地)となっていたが,本件建物の登記においては,その後も建物の所在地番が「a市b町1丁目65番地」と誤って表示されており,本来の所在地番とは相違していた上に,床面積の表示も26.44㎡のままであった(以下,この登記を「本件登記」という。)。そのため,上記競売手続における執行官の現況調査報告書には,本件建物等は未登記である旨記載されており,物件明細書には,東側土地部分に係る賃借権は対抗力を有しない旨が記載されていた。

 (7) 本件建物については,平成16年5月,平成2年6月相続を原因とするCらに対する所有権移転登記がされた。また,平成16年6月,Cらの申請により,本件登記につき,所在地番を「a市b町1丁目24番地1」,主たる建物の床面積を64.39㎡とする表示変更及び表示更正登記がされるとともに,附属建物について床面積を4.06㎡とする新築の登記がされた。


 2 本件は,被上告人が,本件建物に居住して東側土地部分を占有する上告人に対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物等を収去して東側土地部分を明け渡すことを求める事案である。これに対し,上告人は,(1) 本件建物等の所有者は上告人ではなく,Cらである,(2) Bは,東側土地部分につき建物所有を目的とする賃借権を有しており,同人が本件登記のされている本件建物を所有することによって上記賃借権は対抗力を有していたところ,Cらが相続によって本件建物及び上記賃借権を取得した,と主張してこれを争っている。


 第2 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告理由について
 上告人に対し本件建物等の収去を命じるためには,その所有者が上告人であることを要するところ,原審は,前記事実関係のとおり,Cらが相続により本件建物等の所有権を取得した事実を認定しながら,他方で,上告人が東側土地部分に本件建物等を所有している旨の第1審判決の説示を引用の上,上告人に対し本件建物等の収去を求める被上告人の請求を認容すべきものとしている。そうすると,本件建物等の所有者に関する原判決の理由の記載は矛盾しており,原判決には,上告人に対し本件建物等の収去を命じる部分につき理由に食違いがあるというべきである。論旨は理由がある。


 第3 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告受理申立て理由について
 1 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,本件登記は東側土地部分の借地権の対抗要件としての効力を有しないとして,被上告人の上告人に対する請求を認容すべきものとした。

 (1) 賃借権の設定された土地の上の建物についてされた登記が,錯誤又は遺漏により,建物の所在地番の表示において実際と相違していても,建物の種類,構造,床面積等の記載とあいまち,その登記の表示全体において,当該建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違である場合には,当該建物は,建物保護に関する法律1条にいう登記した建物に当たると解すべきである。

 (2) 本件建物等の本来の所在地番は「a市b町1丁目24番地1」であるのに対し,本件登記上の所在地番は「a市b町1丁目65番地」であって,その間に大きな相違がある上に,本件登記上に表示された建物の床面積も昭和22年に新築された当時の26.44㎡のままであり,本件建物等のうちの大部分は本件登記に反映されていない。また,執行官の現況調査報告書にも本件建物等は未登記である旨記載されており,このような場合にまで賃借人を保護するときには,その土地を買い受けようとする第三者を不当に害することになりかねない。したがって,上記の所在地番や床面積の相違は,建物の同一性を認識するのに支障がない程度に軽微であるとは認められず,本件建物等を建物保護に関する法律1条にいう登記した建物ということはできない。そして,被上告人が本件土地を取得した後に本件登記につき現況と合致するように更正登記等がされたとしても,かかる登記の効力は遡及しないと解すべきであるから,上記結論に影響しない。


 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 記録によれば,①Bが本件建物を取得した昭和34年当時の同建物の敷地の所在及び地番はa市c町1丁目65番であり,同人が本件建物につき所有権移転登記を了した時点では,本件建物の登記上の所在地番は「a市c町1丁目65番地」と正しく表示されていたこと,②本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年にa市b町1丁目24番に変更になり,土地登記簿については職権でその旨の変更登記がされたこと,③上記敷地の所在及び地番の変更に伴い,昭和39年に職権で本件建物の登記の所在欄のうち地番以外の部分が「a市c町1丁目」から「a市b町1丁目」に変更されたが,地番は65番地のまま変更されなかったこと,④昭和61年にa市b町1丁目24番の土地から本件土地が分筆されたが,本件建物の登記における所在地番の表示は変更されなかったこと,⑤本件土地の競売による売却によって消滅した担保権のうち最も古いものの設定登記は昭和62年にされていること,以上の事実がうかがわれる。

 以上によれば,本件建物の登記における所在地番の表示は,Bが本件建物を取得した昭和34年当時は正しく登記されていたが,その後登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤ったため,競売の基礎となった担保権の設定時までに実際の地番と異なるものとなった可能性が高いというべきである。

 (2) ところで,建物保護に関する法律1条は,借地権者が借地上に登記した建物を有するときに当該借地権の対抗力を認めていたが,借地借家法(平成3年法律第90号)10条1項に建物保護に関する法律1条と同内容の規定が設けられ,同法は借地借家法附則2条により廃止された。そして,同附則4条本文によれば,本件にも同法10条1項が適用されるところ,同項は,建物の所有を目的とする土地の借地権者が,その土地の上に登記した建物を有するときは,当該借地権の登記がなくともその借地権を第三者に対抗することができるものとすることによって,借地権者を保護しようとする規定である。この趣旨に照らせば,借地上の建物について,当初は所在地番が正しく登記されていたにもかかわらず,登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤った結果,所在地番の表示が実際の地番と相違することとなった場合には,そのことゆえに借地人を不利益に取り扱うことは相当ではないというべきである。また,当初から誤った所在地番で登記がされた場合とは異なり,登記官が職権で所在地番を変更するに際し誤った表示をしたにすぎない場合には,上記変更の前後における建物の同一性は登記簿上明らかであって,上記の誤りは更正登記によって容易に是正し得るものと考えられる。そうすると,このような建物登記については,建物の構造,床面積等他の記載とあいまって建物の同一性を認めることが困難であるような事情がない限り,更正がされる前であっても借地借家法10条1項の対抗力を否定すべき理由はないと考えられる。

 (3) これを本件についてみると,前記のとおり,①Bが本件建物を取得した当時の本件建物登記の所在地番は正しく表示されていたこと,②本件登記における所在地番の相違は,その後の職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じた可能性が高いことがうかがわれるのであり,また,本件登記における建物の床面積の表示は,新築当時の26.44㎡のままであって,実際と相違していたが,前記事実関係に照らせば,この相違は本件登記に表示された建物と本件建物等との間の同一性を否定するようなものではないというべきである。そして,現に,本件登記については,その表示を現況に合致させるための表示変更及び表示更正登記がされたというのである。

 そうすると,Bが,本件土地の競売の基礎となった担保権の設定時である昭和62年までに東側土地部分につき借地権を取得していたとすれば,本件建物等は,借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に該当する余地が十分にあるというべきである。

 (4) 以上の点に照らせば,本件登記における建物の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯等について十分に審理することなく,本件登記における建物の表示が実際と大きく異なるとして直ちに上告人の主張する借地権の対抗力を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由がある。


 第4 結論
 以上によれば,原判決のうち上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件建物等の所有者,本件登記の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯,東側土地部分についての借地権の有無等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉治の補足意見がある。
 裁判官泉治の補足意見は,次のとおりである。

 原判決は,「当裁判所の判断」として,「次のとおり補正するほかは,原判決の『事実及び理由』中,『当裁判所の判断』記載のとおりであるから,これを引用する。」と記載し,第1審判決書の理由のうち「上告人が東側土地部分上に本件建物等を所有して東側土地部分を占有している」との部分を引用箇所として残したまま,独自に「上告人らの子であるCらが代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した」との判断を付加し,相矛盾する事実の認定をすることになった。

 原判決は,控訴審の判決書における事実及び理由の記載は第1審の判決書を引用してすることができるとの民訴規則184条の規定に基づき,第1審判決書の「当事者の主張」の記載を引用すると表示しつつ,これに追加の主張を1箇所付加し,また,第1審判決書の「当裁判所の判断」の記載を引用すると表示しつつ,そのうちの3箇所の部分を原審独自の判断と差し替えている。

 民訴規則184条の規定に基づく第1審判決書の引用は,第1審判決書の記載そのままを引用することを要するものではなく,これに付加し又は訂正し,あるいは削除して引用することも妨げるものではない(最高裁昭和36年(オ)第1351号同37年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事59号89頁参照)。しかしながら,原判決の上記のような継ぎはぎ的引用には,往々にして,矛盾した認定,論理的構成の中の一部要件の欠落,時系列的流れの中の一部期間の空白などを招くおそれが伴う。原判決は,そのおそれが顕在化した1事例である。この点において,継ぎはぎ的な引用はできるだけ避けるのが賢明である。

 また,第1審判決書の記載を大きなまとまりをもって引用する場合はともかく,継ぎはぎ的に引用する場合は,控訴審判決書だけを読んでもその趣旨を理解することができず,訴訟関係者に対し,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込んだ上で読むことを強いるものである。継ぎはぎ的引用の判決書は,国民にわかりやすい裁判の実現という観点からして,決して望ましいものではない。

 さらに,民訴規則184条は,第1審判決書の引用を認めて,迅速な判決の言渡しができるようにするための規定であるが,当該事件が上告された場合には,上告審の訴訟関係者や裁判官等は,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込むという機械的作業のために少なからざる時間を奪われることになり,全体的に見れば,第1審判決書の引用は,決して裁判の迅速化に資するものではない。

 判決書の作成にコンピュータの利用が導入された現在では,第1審判決書の引用部分をコンピュータで取り込んで,完結した形の控訴審の判決書を作成することが極めて容易になった。現に,「以下,原判決『事実及び理由』中の『事案の概要』及び『当裁判所の判断』の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的削除については,特に指摘しない。」,あるいは「以下,控訴人を『原告』,被控訴人を『被告』という。なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。」等の断り書きを付して,控訴審判決書の中に引用部分をとけ込ませ,自己完結的な控訴審判決書を作成している裁判体もある。このような自己完結型の控訴審判決書が,国民にわかりやすい裁判の実現,裁判の迅速化という観点において,継ぎはぎ的な引用判決よりもはるかに優れていることは,多言を要しないところである。本件の原審がこのような自己完結型の判決書を作成しておれば,前記のような誤りを容易に防ぐことができたものと考えられる。


 (裁判長裁判官 泉 治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

 


 

 

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【判例紹介】 相続による所有権取得登記前の賃貸人の地位の継承は賃借人に対抗できない

2007年12月06日 | 登記

 判例紹介

 

 相続による所有権取得登記前においては賃貸人の地位の継承を賃借人に対抗できず、賃料の不払を理由とする契約解除は効力が生じないとした事例 東京地裁昭和63年10月3日民事第40部判決、未掲載)

 (事案)
 AはYに建物を賃貸していたが、この契約では、賃料の支払を2ヶ月でも怠った場合には何等のの催告を要せず契約を解除しうる約定が存していた。

 Yは昭和57年8月以降の賃料を支払わずにいたところ、Aは建物をXに譲渡し、Xは昭和61年10月2日に賃貸人の地位の継承により前記賃料不払を理由にYに対し契約解除の通知をなし建物の明渡しを求めて本訴に及んだ。

 YはAの所有権取得につき相続登記を経由していないから、家賃の支払を留保していたのであって、Aの賃料支払の催告は、右登記を経由していない間のものであるからYに対抗しえず、効力がないと争った。

 Xは、Yは相続登記前からAに建物の修繕要求をし、Aがこれを拒絶したため賃料を支払わないのであり、YはAが本件建物を相続したことを知った上でAの被相続人死亡後も3年間にわたりAに賃料を支払ってきたのであり、登記のないことを争うYの主張は理由がないと争った。


 (判示)
 「不動産を相続又は売買により取得した者は、その所有権移転登記を経由しない間、及び右の登記を経由した後であってもこれを賃借人が知らない間は、同人に対し、その所有権を取得したことにより賃借人の地位を継承したことを対抗することができなところ・・・・・・

 Aは被相続人の共同相続人の1人にすぎなく、Aが本件建物の全部を相続したのは昭和60年以降に共同相続人で協議した結果であること、昭和57年7月頃AがYに賃料を請求したのに対し、Yの弁済しなかった理由の1つが、Aが相続登記を経ていなかったことであること、ならびにYが前示のAおよびXの各所有権移転登記のなされていることを知ったのは昭和62年1月頃であることがそれぞれ認められる。

 YがAの本件建物の相続による賃貸人の地位の継承を認めて昭和57年8月から昭和61年9月分までの賃料及び遅延損害金の合計として79万8256円を供託したのは、Xから契約解除の通知のあった昭和61年10月2日以降であることが認められる。

 また、Aの被相続人死亡後も、Yが昭和57年7月分までAに本件建物の賃料を支払っていた事実は・・・・・被相続人の生前、Aが被相続人の代理人として賃料を集金していたので、同人の死亡後も同様に集金に来たAを共同相続人の代理者として同人に賃料を支払っていたにすぎず、Yが相続によるAの本件建物の賃貸人の地位を承認したものではない」として、Xの請求を棄却。


 (寸評)
 判旨に異論のない原則問題そのものであるが、日常の運動の中で忘れてはならない法律上の原則問題を思い起こしてもらう意味であえて紹介した。同種の紛争は多いので念のため。

(1989.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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(問題16) 借地人の名義変更と対抗力

2007年10月10日 | 登記

 (問題16) 借地人の名義変更と対抗力
 夫名義の借地契約で、事情があって3年前に地主の承諾を受け建物の登記名義を妻名義に変更した。地主の土地には10年前に抵当権が設定されていた。地主の土地が競売になり、競落した新しい地主から明渡しを請求されているが、新しい地主に対して借地人は対抗できるか。


 (①借地人は対抗できる。 ②借地人は対抗できない。)

 解答・解説は田見高秀弁護士(東借連常任弁護団)です。

 (解答)
 夫の借地契約は,抵当権設定の10年前より更に前と前提。原則として,「②借地人は対抗できない。」となってしまう。

 
(参考)
 東借連【借地借家人新聞】2001年4月15日第409号「借地借家相談室」
 東京・台東借地借家人組合2ブログ参照

<父親名義の借地に息子名義の建物を
             建てたらどのような問題が生ずるか >

(問) 借地契約の名義は父です。新築の建物は銀行融資の関係で息子である私の名義にしようと思っていますが、何か不都合がありますか。

(答) 「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる」(借地借家法第10条1項)。

 借地上の建物につき、借地人が登記をしておけば、土地の所有者が代わっても新所有者に対し、自分の借地権を主張できるので借地の明渡しを求められることはない。この建物登記が借地人本人の所有名義でなされていれば問題はない。

  だが、相談者の場合のように建物登記を長男名義にしなければならない場合も出てくる。また、借地人の死後の相続問題を顧慮して、借地上建物の登記名義を予め妻子名義にしておく場合もある。その場合、借地権を第三者(土地の新所有者)に対抗(主張)出来るのかという問題がある。

 従前は①長男名義の建物登記(東京地裁1951年2月2日判決)、②母名義の建物登記(同1952年6月5日判決)、③未成年の子を名義とする建物登記(東京高裁1954年5月11日判決)に関して第三者に対抗できると判断されていた。

  しかし、最高裁(大法廷)は、借地人が同居の長男名義で建物の登記をした場合について「地上建物を所有する賃借権者が、自らの意思に基づき、他人名義で保存登記をしたような場合に、当該賃借権者は、その賃借権を第三者に対抗する事はできない」(1966年4月27日)としてその借地権の対抗力を否定した。1審・2審の借地人勝訴の判決を破棄し、借地人に建物収去・土地明渡を命じた。

 その後も最高裁は、①妻名義の登記(1972年6月22日判決)、②子名義の登記(1975年11月28日判決)、③義母名義の登記(1983年4月14日判決)について大法廷判決の趣旨に従い終始一貫、借地権の対抗力を否定し続けている。

 以上のことから窺えることは、最高裁の判例の変更の可能性は殆どない。借地人としては、こういう厳格な形式論の判例があるということを承知して借地名義と借地上の建物名義を一致させておく努力は必要である。

 結論としては、最高裁の判例の変更がない限り、借地人と一致しない家族名義の建物登記では第三者には対抗できない。

 

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借地人が無断で建物名義を変更 (東京・豊島区)

2007年07月12日 | 登記

 豊島区に借地して50数年経過している本沢さん宅に、先月、不動産業者が訪問してきた。話の内容は、地主が税金滞納で、今年中に公売になる予定なのでそのまえに明渡してくれないのかという話だった。

 寝耳の水の話で不安になった本沢さんは、以前、城北借組の世話になったという知人から組合のことを知って電話してきた。西武デパートで相談会を行っていること知らされ相談に行った。地主は平成4年にある金融会社から本沢さんの借地も含め土地を担保に抵当権を設定した。その後、この借金に追われるようになって、税金の支払いが滞るようになり、今回、公売予定になった。

  更新契約時に契約した本沢さんの夫が、こちらも借金まみれになる中で、建物だけは担保にしたくないと考えた本沢さんは、地主の承諾なく名義を夫から自分(妻)名義に切り替えてしまったという点とその名義変更が、平成7年で、地主の抵当権設定後であった。このまま公売になった場合、落札した新しい貸主に対抗できないために、明渡しを求められた場合、明渡しをせざるをえないという説明を組合から受けた。

  本沢さんの夫名義の建物の名義変更に際して、地主の承諾と夫との共同名義にしておけば、公売になっても新しい貸主に対抗できる権利をもっていたので安心して住み続ける事ができたのであった。名義変更に際しては十分な注意が必要である。  

東京借地借家人新聞より

 


   (*)関連するのでこちらも参考に覗いて見て下さい。

 

 

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【Q&A】 借地上の建物が火災による焼失で滅失した場合の掲示と借地権の対抗力

2007年05月02日 | 登記

 (問) 隣家からの類焼で借地上の建物が全焼してしまった。再築計画はあるが、現在は更地状態になっている。こんな状態の中、地主が土地を売却すると買主に借地権を主張出来ないと聴いたが、それは本当なのか。借地権を守る手段があったら教えてもらいたい。


 (答) 建物が火災で焼失しても、地震で倒潰しても、建替えのために取壊しても原因は何であれ、建物が無くなることを「滅失」という。

 借地借家法第10条1項に「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。」と規定している。

 従って、借地権者が借地上の建物を登記しておけば、土地の所有者が代わっても新所有者に対し、自分の借地権を主張出来、借地の明渡を求められることはない。しかし登記した建物が滅失した場合は、原則として第三者に対抗出来ない。

 なお、10条1項で要求される登記は、移転登記、保存登記、表示の登記(最高裁1975年2月13日判決 民集29巻2号83頁)のいずれかである。仮登記では不十分である(最高裁1967年8月24日判決 民集21巻7号1689頁)

 借地借家法は例外規定として10条2項を新設し、借地権を保護している。同法10条2項に「前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から2年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る」と規定している。

 従って、借地上の建物が火災で滅失した場合、登記事項を記載した掲示物を設置し、借地上の見やすい場所に掲示しておけば借地権は守られる。その場合は、借地権は登記済み建物が存在していた時と同様に第三者に2年間は対抗出来ることになる。滅失した日から2年以内に建物を再築し、新たに登記済ませておけば、第三者に対して2年経過後も借地権の対抗力を維持することが出来る。

 なお、滅失建物が未登記の場合は10条2項の適用は認められない。借地借家法第10条2項に「前項の場合において」という前提条件がある。前項とは「登記されている建物を所有するときは」という条件付きである。あくまでも登記済み建物が滅失した場合にしか適用されない。

   また設置掲示物が何者かに持ち去られた場合、その後に土地を取得した第三者には対抗出来ないので注意が必要である。即ち、「第三者に対して借地権の対抗力を主張するためには、掲示を一旦施していたというだけでは不十分であり、その第三者が権利を取得する当時にも掲示が存在する必要がある」(東京地裁2000年4月14日判決)。掲示という明認方法により暫定的に対抗力を維持しているので掲示が消滅すれば対抗力は消滅するというのが原則である。

 


  下記は掲示物の見本


                      掲      示
 この土地には下記の者が借地権を有し、下記の建物を所有していましたが、*年*月*日滅失しました。
 借地権者は、滅失日から2年以内に新たに建物を築造する計画がありますので借地借家法第10条2項の規定に基づき掲示します。
 この掲示を移動、毀損、破棄 、落書等の行為を禁止します。もしそのようなことがあった場合は刑事罰を受けることになるので警告します。

  *年*月*日 
住所
借地権者氏名
連絡先

滅失した建物の表示
所在
家屋番号
種類
構造
床面積
建物滅失日    *年*月*日
                       

 

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【判例紹介】 建物の所在地番が間違った登記で借地借家法の対抗力が認められた事例

2006年06月02日 | 登記

 判例紹介

 建物の所在地番が誤って表示された登記について、借地借家法10条1項が定める対抗力が認められた事例 東京地裁平成10年11月27日判決、判例時報1705号98頁)

 (事案の概要)
 本件土地にはY所有の建物が建っていたが、その登記の所在地番が正しくは「470番地4」なのに「469番地」と誤って表示されていたため、競売手続を担当した執行官は本件土地上にY名義の建物登記がない旨の記載をした現況調査報告書を作成し、担当裁判官は右現況調査報告書に基づき、本件土地上にはY所有の建物が存在するが、Yはその借地権を競落人に対抗できないと記載した物件明細書を作成した。

 Xは、右物件明細書を見て本件土地には競落人に対抗できる借地権はないと考え、Yが借地をしている本件土地の所有権を競売による売却で取得し、Yに対し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求め提訴した。なお、本件建物の登記の所在地番は、右物件明細書作成後Xの競落前の間に「469番地」から「470番地4」に更正登記されている。

 (判決)
 本判決は、「土地を買い受ける者は、現地を検分して建物の所在を知り、ひいて借地権等の土地使用権限の所在を推知することができるのが通常であるから、借地権のある土地上にある建物の登記が、錯誤又は遺漏により、建物所在の地番の表示において実際と多少相違していても、当該建物の同一性を認識し得る程度の軽微な誤りであり、殊にたやすく更正登記できるような場合には対抗力を認めるのが相当である」と判示したうえで、本件建物の登記の所在地番の誤りは、その登記の表示全体において建物の同一性を認識し得る程度の軽微な誤りであり更正登記も容易であった旨認定し、また、競売手続を担当した執行官は本件土地上にY名義の建物登記がない旨の記載をした現況調査報告書を作成し、担当裁判官は右現況調査報告書に基づき、本件土地上にはY所有の建物が存在するが、Yはその借地権を競落人に対抗できないと記載した物件明細書を作成している。登記の所在地番の誤りは、建物の同一性を認識できる程度の軽微な誤りではないというXの主張に対しては、執行官は、本件建物の登記の有無につき法務局出張所に調査依頼しただけで自らは登記簿の閲覧などの調査をしておらず、執行官が本件土地上に登記されたY所有の建物を認識し得なかったとはいえない旨認定して、YはXに対し借地権を対抗できるとの判断を下した。

 (寸評)
 借地上の建物の所在地番の表示を誤った登記が当該借地権の対抗力を有するか否かについては、一般的には更正登記によって正しい表示に変更できるかどうかがメルクマールとなると言われており(昭和40年3月17日付最高裁大法廷判決など)、本判決もこのメルクマールに基づいて下されたものである。

(2000.07.)

(東借連常任弁護団)

 東京借地借家人新聞より

 

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【Q&A】 地代を誰に払えばいいのか判らない場合 

2005年07月22日 | 登記

本当の地主が誰なのか判然としないときは
        地代を誰に払ったらよいのか

 (問) 地主が経営するスーパーが経営不振で閉店した。その後、土地の売買契約書のコピーを持って、地主から土地を買ったという人間が現れた。来月から自分の方に地代を支払うようにと言って来た。
 土地の登記簿謄本で調べると、土地の所有者は元の地主のままである。新所有者名義の所有権移転登記はされていない。
 新所有者を名乗る者は既に土地は買取ったのだから、「土地の所有権はこちらにある。地代は当然こちらに払ってもらいます」と言っている。このまま、所有権移転登記が済んでいない者に地代の支払いをしてもいいのか。問題の起きない地代の支払いをどうしたらいいのか、教えてください。


 (答) 賃貸不動産が譲渡された場合、その譲受人は、どのような要件を具備したら賃借人に賃料を請求できるのか。民法 177 条(不動産に関する物件の変動は、不動産登記法に定められた登記がなされて初めて第三者に対抗することができる)は不動産の物件変動を登記によって公示するという考え方を採用し、登記は対抗要件であるとしている。

   判例は賃貸不動産の譲受人は所有権移転登記をしない限り賃借人に対して所有権の取得、賃貸人たる地位の承継を主張することが出来ない。賃借人は民法177条の第三者に該当し、譲受人の移転登記がない場合には賃料請求をすることが出来ない最高裁1974年3月 19日判決)。

   これは所有権移転の事実を確実にして、賃借人の二重払いの危険を回避するために登記を保護要件としている。これによって賃借人の保護をしている。即ち、「登記簿上の所有名義人は反証のない限り当該不動産を所有するものと推定される」(最高裁1959年1月8日判決)。登記されていない物件の変動は無視しうるという形で取引の安全が保障され、取引の迅速化が促進される。

   借地人の取りうる態度として第1の方法は登記簿を調べて登記上の権利者に支払うということになる。即ち、譲受人が移転登記を完了していれば新所有者に支払う。移転登記がなされていなければ、元地主に支払えば、債権の準占有者(民法 478 条)へ有効な弁済をしたことになる。

 

   尚、前記1974年最高裁の判例では、新所有者が賃借人の明渡を要求する場合にも、登記を具備する必要があるとしている。

 例えば、地上げ屋が地主との底地売買を証明する書面を見せて地主から土地を買ったと主張しても、登記簿等謄本を調べたら所有権の移転登記が完了していない場合(或いは所有権移転登記が完了していない期間)は、借地人に明渡請求を強要したり、地代の受取り・地代の大幅値上げ請求などは当然できない。


  第2の方法は、民法494条供託原因による「債権者の確知不能」として供託する。今回のように債権譲渡の通知を受けたが、借地人が賃料の支払の相手が誰なのか断定出来ない場合、「債権者が確知できない」との供託事由により供託することが出来る。

 

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