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【判例】*無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権の消滅時効と起算点

2016年07月27日 | 譲渡・転貸借

最高裁判例

無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権の消滅時効の起算点
最高裁 昭和62年10月8日 判決 民集41巻7号1445頁)



       主   文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


       理   由
 上告代理人菅生浩一云同葛原忠知、同川崎全司、同丸山恵司、同甲斐直也、同川本隆司、同藤田整治の上告理由第1点について
 所論の点についての原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用できない。

 同第2点について
  賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法167条1項が適用さ れ、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)と の間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となったものということができるから、その消滅時効は、右使用収益開始時から進行するものと解するのが相当である。

 これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、
(1)本件(一)土地の所有者である末正盛治は、大正初年ころ、六ノ坪合資会社(以下「訴外会社」とい う。)を設立し、同社をして右土地を含む自己所有不動産の管理をさせてきたものであるところ、上告人は、昭和34年6月22日、相続により、本件(一)土地の所有権を取得した、

(2)中村国義は、前賃借人の賃借期間を引き継いで、昭和11年7月29日、訴外会社から本件(一)土地を昭和15年9月30日までの約定で賃借し、同地上に3戸1棟の建物(家屋番号22番、22番の2及び22番の3)を所有していたものであるところ、被上告人中村慶一は、昭和20年3月17日、家督相続により中村国義の権利義務を承継した(右賃貸借契約は昭和15年9月30日及び同35年9月30日にそれぞれ法定更新された。)、

 (3)被上告人伊藤染工株式会社(以下「被上告人伊藤染工」という。)は、昭和25年12月7日、被上告人中村から前記22番の3の建物を譲り受けるとと もに、本件(一)土地のうち右建物の敷地に当たる本件(四)土地を訴外会社の承諾を受けることなく転借し、同日以降これを使用収益している、

(4)訴外会 社は、昭和51年7月16日到達の書面をもって被上告人中村に対し、右無断転貸を理由として本件(一)土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした、と いうのであり、また、被上告人伊藤染工及び同濱田を除くその余の被上告人らが、本訴において、右無断転貸を理由とする本件(一)土地の賃貸借契約の解除権の消滅時効を援用したことは訴訟上明らかである。

以上の事実関係のもとにおいては、右の解除権は、被上告人伊藤染工が本件(四)土地の使用収益を開始した昭和25年12月7日から10年後の昭和35年12月7日の経過とともに時効により消滅したものというべきであるから、上告人主張に係る訴外会社の被上告人中村に対する前記賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生ずるに由ないものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することがで き、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用できない。

 同第3点について
 原判決が上告人の被上告人伊藤染工及び同濱田に対する請求に関して所論指摘の判示をしているものでないことは、その説示に照らし明らかであるから、原判決に所論の違法があるものとは認められない。論旨は、原判決を正解しないでその違法をいうものにすぎず、採用できない。

 同第4点について
  原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人伊藤染工、訴外会社ひいて上告人に対抗できる転借権を時効により取得したものということができるから、これと同旨の原審の判断は、結論において是認できる。論旨は、畢竟、判決の結論に影響しない事由について原判決の違法をいうものにすぎず、採用でき ない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官佐藤哲郎、裁判官角田禮次郎、裁判官高島益郎、裁判官大内恒夫、裁判官四ツ谷巖

 

 

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地主の横暴な請求で裁判へ (東京・足立区)

2013年07月18日 | 譲渡・転貸借

 2013年3月、地主から個人商店を営んで収益を上げているので9月分地代から増額する旨の通知書が届きました。

 組合員は土地賃貸契約書を読んでみたが土地の使用法について決め事はなく、公租公課を検討しても地代の値上げ要素はなく承服できないと通知しました。

 5月になると地主及び代理人弁護士名で組合員夫婦と借地権者の父宛に訴状が郵送されてきました。訴状には地主の承諾なく土地の一部を譲渡したので建物を収去し、土地明渡しを請求してきました。

 組合員は平成9年に木造建物を堅固な建物に用途変更した際、借地権者の父と私たち夫婦の3人で共有建物にした経緯ありました。先代地主から用途変更・住宅金融公庫・金融機関への提出書類には地主の承諾印をもらったし、税務署には「借地権の使用貸借に関する確認書」を提出し、写しは現在も大切に保管しています。

 地主及び代理人弁護士が主張している無断譲渡には先の書類等から当たらないと思います。それにしても地主側は地代増額請求に対し、組合員が反論したことが腹立たしく裁判に訴えたとも考えられます。

 本来は地代増額請求調停を申立て、不調で裁判に訴えるのが普通です。仮に地主側が主張する無断譲渡があっても10年以上経過しているので解除権は時効消滅していると考えられます。

 6月の公判に備え組合員も弁護士に依頼し、断固戦って勝利判決を目指すといっています。今後も同地主側から現在裁判を掛けられている組合員を、組合は全力で応援していきます。 

 

全国借地借家人新聞より

 

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借地上建物を競売で落札したが、地主から承諾料の支払請求をされた (大阪・淀川区)

2012年08月20日 | 譲渡・転貸借

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災で東京から難を逃れて、同年6月中旬大阪市淀川区の新大阪駅近くのマンスリーマンションに住んでいたAさん親子は、月々支払う家賃が大きな負担となり、平成24年5月大阪地裁が公示した競売物件約12坪の借地上軽量鉄骨建物を100万円で落札。

 ところが、落札直後、地域の名代な大地主の代理人から「落札確定後2か月以内に借地権価格の10%相当額の35万9200円を支払わないと不法占拠となり明け渡しを求める」との内容証明郵便で通知を受け取りました。

 Aさんは、なけなしの持金で競売代金を払い、親子が住めるよう家屋を改修を始めたところに通知を受け、大変ショックを受けました。Aさんは、インターネットで大借連を地主の承諾が必要知り、借地上建物の競売は事前に地主の承諾が必要であることを教えられ、借地権譲渡の非訟手続きを大阪地裁に開始しました。

 Aさんは「放射能の危険から逃れようと、大阪へ来て定住するために雨露がしのげる程度の建物を競落し、住もうとした矢先に、地主から承諾料を支払わなければ明渡せとはひどすぎる。競売物件は裁判所が事前に借地権譲渡の手続きを完了して公示すべきである」と承諾料の資金繰りの見通しもつかず、手続きの不合理性に怒っています。

 

全国借地借家人新聞より


 ここからは東京・台東借地借家人組合。

建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可借地借家法

第20条 第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができる。

 前条第2項から第6項までの規定は、前項の申立てがあった場合に準用する。

 第1項の申立ては、建物の代金を支払った後2月以内に限り、することができる。

民事調停法(昭和26年法律第222号)第19条の規定は、同条に規定する期間内に第1項の申立てをした場合に準用する。

 前各項の規定は、転借地権者から競売又は公売により建物を取得した第三者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第2項において準用する前条第3項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

 借地借家法20条は、借地上の建物を競売又は公売によって、建物を取得した者が賃貸人に対し、建物取得に伴って取得した賃借権(借地権)の譲渡の承諾を求めたのに、その承諾が得られなかた場合には、裁判所に賃貸人に代わる許可の裁判を申立てることができる趣旨の規定をしている。

 競売又は公売によって、建物取得に伴う賃借権の移転は、賃貸人の承諾を必要とする(民法612条)。しかし、競売又は公売による建物取得の場合、賃貸人にその賃借権の承諾を得ていない状態である。所謂、賃借権の無断譲渡であるから、その譲渡を賃貸人に主張できない。

 競売等の場合、誰が買受人になるかは予測がつかないから、予め事前に承諾を求めることは不可能である。従って、競売等の買受人は自ら賃貸人の承諾を得るために交渉することになる。この場合に賃貸人に不利になる恐れがないにも拘らず、承諾しないときは裁判所に代諾許可の申立てができる。この場合の許可の申立権者は競売等の買受人であり、従前の借地人には申立権は認められていない。また、許可申立の時期は建物の代金支払い後2か月以内とされている(借地借家法20条3項)。

 なお、裁判実務上、裁判所が許可する場合の財産上の給付(譲渡承諾料)は、概ね借地権価格の10%相当額である。

 

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【判例】 *最高裁平成21年11月27日判決(建物収去土地明渡請求事件 )

2009年12月07日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介


事件番号・・・・平成20(受)1340
事件名・・・・建物収去土地明渡請求事件
裁判所・・・・最高裁判所第二小法廷
裁判年月日・・・・平成21年11月27日
裁判種別・・・・判決
結果・・・・破棄自判
原審裁判所・・・・東京高等裁判所
原審事件番号・・・・平成20(ネ)589
原審裁判年月日・・・・平成20年05月14日

裁判要旨
 1 賃借人が借地上の建物の建て替えに当たり新築建物を賃借人とその妻子の共有とすることにつき賃貸人から承諾を得ていた場合において,賃借人が自らは新築建物の共有者とはならず妻子の共有とすることを容認して借地を無断転貸したことにつき,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとされた事例

 2 賃借人が,借地上の建物の共有者である賃借人の子がその妻に離婚に伴う財産分与としてその持分を譲渡することを容認して借地を無断転貸したことにつき,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとされた事例

 

              主       文

       原判決中,上告人らに関する部分を破棄する。
       前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は,被上告人の負担とする。


              理       由

 上告代理人大河原弘,同宇多正行,上告復代理人吉川佳子の上告受理申立て理由について
 1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を所有し,上告人Y₁ に賃貸している被上告人が,無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除を主張して,①上告人Y₁ 並びに本件土地上の同目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を共有する上告人Y₂ 及び同Y₃ に対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを,②本件建物を占有する上告人株式会社Y₄に対し,本件建物から退去して本件土地を明け渡すことを求めるとともに,③上告人らに対し,賃料相当損害金を連帯して支払うことを求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人Y₁ の父Aは,昭和21年ころ,被上告人の父Bが所有していた本件土地を賃借してその上に建物(以下「旧建物」という。)を建築し,以後そこに居住して畳製造販売業を営んでいた。その後,Aの死亡に伴い旧建物を相続により取得した上告人Y₁ は,Bの死亡に伴い本件土地を相続により取得した被上告人との間で,昭和62年3月9日,本件土地の賃貸借契約を更新する旨合意した(以下,上記合意更新後の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。本件賃貸借契約には,賃借人が本件土地上の建物をほかに譲渡するときは,あらかじめ賃貸人の承諾を受けなければならない旨の特約がある。

 (2) 上告人Y₁ は,旧建物に妻である上告人Y₂ 及び子であるCと共に居住するとともに,旧建物を本店所在地として,上告人株式会社Y₄を設立し,その代表取締役に就任し,引き続き旧建物において畳製造販売業を営んできたが,同年2月14日,Cが上告人Y₃ と婚姻し,昭和63年3月30日,Cと上告人Y₃ の間にDが出生し,上告人Y₁ 及びDも旧建物に同居するようになった。

 (3) Cと上告人Y₂ は,平成9年ころ,旧建物の建て替えに反対していた上告人Y₁の了解を得ずに,被上告人との間で,建て替え後の建物の持分を上告人Y₁ 及びCにつき各2分の1とすることを前提として,建物の建て替えの承諾条件につき交渉を行った。被上告人は,Cとの間で,旧建物の建て替え及び本件土地の転貸の承諾料を400万円とすることを合意した。

 (4) その後,Cは,被上告人に対し,金融機関から融資を受ける都合上,建て替え後の建物の共有者に上告人Y₂ を加え,各人の持分を上告人Y₁ につき10分の1,Cにつき10分の7,上告人Y₂ につき10分の2にしたいとの申入れをした。被上告人は,先に合意した承諾料の額を変更することなく,これを承諾した。

 (5) 旧建物の建て替え後の建物である本件建物は,平成10年3月完成した。本件建物については,上記申入れの内容とは異なり,Cの持分を10分の7,上告人Y₂ の持分を10分の3としてC及び上告人Y₂ が共有することとなり,その旨の所有権保存登記がされた。C及び上告人Y₂ は,上告人Y₁ が持分を取得しないことを被上告人に説明すると,旧建物の建て替えについて承諾が得られず,承諾を得られるとしても承諾料その他の条件が不利なものになる可能性があると考えて,上記の事実を被上告人に説明しなかった。

 (6) 上告人Y₁ は,最終的に,C及び上告人Y₂ が本件建物を建築し,上記の持分割合でこれを共有することを容認し,これにより本件土地が上告人Y₁ からC及び上告人Y₂ に転 貸されることになっ た(以下, この転貸 を「第1転貸」という。)。本件建物には,旧建物と同様に,上告人Y₁ ,同Y₂ ,C,上告人Y₃ 及びDの5名が居住するとともに,上告人株式会社Y₄ の本店が置かれてきた。

 (7) Cは,平成17年2月,上告人Y₃ との離婚の届出をし,財産分与として本件建物の持分10分の7を上告人Y₃ に譲渡した。この財産分与に伴い,本件建物の敷地である本件土地につきCが有していた持分10分の7の転借権も上告人Y₃に移転した。上告人Y₁ は,上記財産分与が行われたことを容認し,これにより本件土地が上告人Y₁ から上告人Y₃ に転貸されることになった(以下,この転貸を「第2転貸」という。)。

 (8) Cは,同年6月に破産手続開始の決定を受けた。Cは,同年8月に本件建物から退去したが,上告人Y₃ 及びDは,その後も上告人Y₁ 及び同Y₂ と共に本件建物に居住している。

 (9) 被上告人は,同年6月17日ころ,本件建物の登記事項証明書を取り寄せて,①本件建物の所有権保存登記がC及び上告人Y₂ を共有者としてされていて,上告人Y₁ はその建築当初から持分を有しないこと,②本件建物のCの持分は同年12月22日財産分与を原因として上告人Y₃ へ移転した旨の登記がされていることを知り,同年8月28日,上告人Y₁ に対し,同月末日をもって本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした(以下,この意思表示を「本件解除」という。)。

 (10) 上告人Y₁ は,旧建物を建て替えた後,本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を遅滞したことがない。

 (11) 被上告人は,本件解除においては,第2転貸が被上告人に無断で行われたことを理由としていたが,本件訴訟において,第1転貸が被上告人に無断で行われたことも解除の理由として追加して主張している。

 3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり,第1転貸及び第2転貸のいずれについても,被上告人に無断で行われたことにつき背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとはいえないと判断して,被上告人の上告人らに対する請求をいずれも認容した。

 (1) 第1転貸については,①旧建物の建て替えの承諾条件について交渉を行ったCが,上記条件が不利なものになりかねないと考えて,建て替え後の本件建物の共有持分を上告人Y₁ が取得しないことをあえて被上告人に説明しなかったこと,②上告人Y₁ が本件建物の共有者とならない場合,被上告人において承諾料の増額を要求していたと推認されることなどを勘案すると,これが被上告人に無断で行われたことにつき賃貸人である被上告人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとはいえない。

 (2) 第2転貸についても,①Cの離婚を隣人である被上告人に話しにくいという事情があったとしても,被上告人に無断で本件土地を上告人Y₃ に転貸したことを正当化すべき事由にはならないこと,②Cが破産手続開始の決定を受けたことにより,上告人Y₁ 一家の生活状況や資産内容に少なからず影響があったと考えられることなどを勘案すると,上記特段の事情があるとはいえない。

 4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1)前記事実関係によれば,第1転貸は,本件土地の賃借人である上告人Y₁が,賃貸人である被上告人の承諾を得て本件土地上の上告人Y₁ 所有の旧建物を建て替えるに当たり,新築された本件建物につき,C及び上告人Y₂ の共有とすることを容認し,これに伴い本件土地を転貸したものであるところ,第1転貸による転借人らであるC及び上告人Y₂ は,上告人Y₁ の子及び妻であって,建て替えの前後を通じて借地上の建物において上告人Y₁ と同居しており,第1転貸によって本件土地の利用状況に変化が生じたわけではない上,被上告人は,上告人Y₁の持分を10分の1,Cの持分を10分の7,上告人Y₂ の持分を10分の2として,建物を建て替えることを承諾しており,上告人Y₁ の持分とされるはずであった本件建物の持分10分の1が上告人Y₂ の持分とされたことに伴う限度で被上告人の承諾を得ることなく本件土地が転貸されることになったにとどまるというのである。そして,被上告人は,上告人Y₁ とCが各2分の1の持分を取得することを前提として合意した承諾料につき,これを増額することなく,上告人Y₁ ,C及び上告人Y₂の各持分を上記割合として建物を建て替えることを承諾し,上記の限度で無断転貸となる第1転貸がされた事実を知った後も当初はこれを本件解除の理由とはしなかったというのであって,被上告人において,上告人Y₁ が本件建物の持分10分の1を取得することにつき重大な関心を有していたとは解されない。そうすると,上告人Y₁ は本件建物の持分を取得しない旨の説明を受けていた場合に被上告人において承諾料の増額を要求していたことが推認されるとしても,第1転貸が上記の限度で被上告人に無断で行われたことにつき,賃貸人である被上告人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるというべきである。

 (2) また,前記事実関係によれば,第2転貸は,本件土地の賃借人である上告人Y₁ が,本件土地上の本件建物の共有者であるCにおいてその持分を上告人Y₃ に譲渡することを容認し,これに伴い上告人Y₃ に本件土地を転貸したものであるところ,上記の持分譲渡は,上告人Y₁ の子であるCから,その妻である上告人Y₃ に対し,離婚に伴う財産分与として行われたものである上,上告人Y₃は離婚前から本件土地に上告人Y₁ らと共に居住しており,離婚後にCが本件建物から退去したほかは,本件土地の利用状況には変化が生じていないというのであって,第2転貸により賃貸人である被上告人が何らかの不利益を被ったことは全くうかがわれない。

 そうすると,第2転貸が被上告人に無断で行われたことについても,上記の特段の事情があるというべきである。

 (3) 以上によれば,第1転貸及び第2転貸が被上告人に無断で行われたことを理由とする本件解除は効力を生じないものといわなければならず,被上告人の上告人らに対する請求はいずれも理由がない。

 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,被上告人の上告人らに対する請求をいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁 判 長 裁 判 官 中 川 了 滋  裁 判 官 今 井功  裁 判 官 古 田 佑 紀  裁 判 官 竹内行夫)


 

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【判例紹介】 転借人の賃料不払いで転貸人が家主に賃料を払わず契約解除された事例

2008年09月05日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介


 転貸人が転借人において賃料を払わないことを理由に賃貸人に家賃の支払いを拒否したため、賃貸人が契約を解除した事例で、転借人の賃料支払い能力がなくなった事情が転貸人に責任があるかどうかは、解除の転借人に対する対抗力に影響がない。 (東京地裁平成4年5月11日判決、判例タイムズ831号164頁以下)

 (事案)
 X=建物所有者・賃貸人  Y①=転貸人  Y②=転借人

 XはY①に建物を賃貸しY②はXの承諾の下にY①から建物を転借していたところ、Y①は、Y②が賃料の支払いをしないことを理由に、Xに対する賃料の支払いをしなかった。そこで、XはY両名に対し、契約解除して建物の明渡等を求めた。

 Y②は、Y①が自分の倒産を意図して、自らの資力から充分に家賃の支払いができるのに、あえて支払いを怠り、XもY①に対する家賃の履行を求めることなく馴れ合い的に契約を解除したものであり、賃借権の放棄又は合意解除に類似するものであって、解除はY②に対抗できないと争った事案。

 (判旨)
 「Y②は、Y①はY②の倒産をもくろみ、保証人的立場にあるにもかかわらず、その資力からすれば容易にな賃料支払いをあえて怠っており、XもY①に対し賃料支払いの履行を真摯に求めることなく馴れ合い的に本件解除を行った旨主張する。しかし、賃借人が任意に賃料支払いを履行しないとき、賃貸人はそれだけで解除をなしえるし、これを転借人に対抗しうるというべきであって、それ以上に法的な履行強制手段等を講じた上でなければ、契約解除を転借人に対抗できないというものではない」

 「もっとも、Y①は賃貸借の継続の意思を失っているために賃料の不払いを続けているという観点からみれば賃借権の放棄に類する面がないとはいえないが、Y①の賃料不払いの原因となっているのはY②の賃料不払いなのであるから、信義則上、Xに対し、賃貸借契約の解除が転借人に対抗できないと主張することは許されない。もともとY②は直接Xに対し賃料支払義務を怠っているのであって(民法613条1項)自己の転借権を保全するためには、Xに直接賃料を支払えばよいのである。そして、転借人が賃料支払い能力を失った事情が、賃借人に責任のあるものであるかどうかは、賃借人の賃料不払いを理由とする解除権の転借人に対する対抗力の有無を左右するものではないと解すべきである。」

 (寸評)
 本件はY①が賃料差額も得ておらず、当初からY②に使用させるもので、契約にあたりXが、賃借人の地位を上場企業又はこれに準ずる企業に限定していたため、Y①はY②のために賃借人になっていた事案。

 判旨に異論はない。しかし、馴れ合い的な賃料の不払いがなされる場合もあり、その場合には、結論を異にすると思われる。特に転借人が賃借人に家賃を支払っているのに、賃借人が支払いをしない場合にまで本判決の結論を無条件に認めるべきか、検討の余地はあり得る。

(1994.07.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 賃貸人から契約解除された転借人は転貸人に賃料の支払いを拒否出来る

2008年09月03日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 賃貸人が賃借人(転貸人)との賃貸借契約解除を理由に転借人に建物明渡を求めた場合、転借人は転貸人に対して賃料の支払いを拒絶できるとした事例 (東京地裁平成6年12月2日判月決、判例時報1551号96頁)

 (事案の概要)
 A(賃借人=Yの転貸人)はB(賃貸人=建物所有者)から建物を賃借していたが、AがBに賃料を支払わなかったため、Bは賃貸借契約を解除しY(転借人)に建物の明渡を求めた。他方、Aの債権者Xは、AのYに対する転貸借の賃料債権を差押えYにその支払いを求めたが、YはAB間の賃貸借契約が解除されBから建物の明渡を求められいることを理由に転貸借の賃料の支払いを拒絶した。Xは転貸借の賃料の支払いを求めて提訴。

 (判決)
 本判決は、「建物賃借人は、賃借建物に対する権利に基づき自己に対して明渡を請求することができる第三者からその明渡を求められた場合には、それ以後、賃料の支払いを拒絶することができる」とした最高裁昭和50年4月25日判決(民集29巻4号556頁)を前提として、

 「Aが平成4年3月分からの賃料を滞納したので、BはAに対し、同年8月6日付け書面で、同年3月分8月分の滞納家賃の支払いを催告し、15日以内に支払わないときは本件賃貸契約を解除する旨の意思表示をしたが、AがBの請求に応じなかったため、同月下旬、BはYに対し、YがBに保証金と賃料を支払わなければ本件建物を明渡せと求めた」との事実を認定したうえで、

 「Yは、本件賃貸借契約解除によって本件建物の所有権に基づき明渡を請求することができるBから右明渡を求められたものと認められることができる。したがって、YはAに対し、それ以後、すなわち本件転貸借に基づく同年9月分以降の賃料の支払いを拒絶することができ、その後に右賃料を差押えた人に対してもその支払い拒絶できる」とし、

 さらに「賃貸人は賃借人に対し目的物を使用収益させる義務があるところ、その使用によって賃借人が第三者に対し不当利得返還義務あるいは不法行為による損害賠償義務を負うことがないようにすることをも含むものと解すべきであって、Yは、同年8月下旬、本件建物の所有者であるBから直接賃料の支払いを求められ、その後同社から賃料相当損害金の支払いを求める訴訟を提起されている(中略)から、Yは、同年8月下旬当時においてBから権利を主張された結果、同社から不当利得返還あるいは不当行為による損害賠償請求を受ける客観的な危険があったものであり、転貸人であるAの右義務が履行されないおそれが生じていた上、本件建物を事実上使用収益しても、右使用期間中の賃料支払を拒絶することができる」と判示してYの賃料支払い拒絶を認めた。

 (寸評)
 この判決は最高裁判例を踏まえつつ、賃貸人の義務について分析し、原賃借人から明渡請求を受けた転借人は建物を使用していても転貸人に対して賃料支払を拒絶できることを認めたもので、原賃貸人・転貸人間の紛争に挟まれた転借人に一つの指針を与えるものである。

(1996.03.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 


 

(*)参考 同じ判例(東京地裁平成6年12月2日判決)を扱っています。こちらから 覗けます。

 

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【判例】 *賃借人の更新拒絶により終了しても,再転借人に対抗することができないとされた事例

2008年02月13日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介


 平成14年03月28日最高裁 第一小法廷判決  平成11年(受)第1220号 建物明渡等請求事件

(要旨)
 転貸により収益を得ることを目的として締結された事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても,賃貸人が再転借人に対し信義則上その終了を対抗することができないとされた事例


(内容)
件名  建物明渡等請求事件 (最高裁判所 平成11年(受)第1220号 平成14年03月28日 第一小 法廷判決 破棄自判)
原審  東京高等裁判所 (平成10年(ネ)第1902号)

 

                主    文


 原判決中,上告人らに関する部分を破棄する。
 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。


                理    由


 上告代理人桑島英美,同川瀬庸爾の上告受理申立て理由について

 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 被上告人は,昭和50年初めころ,ビルの賃貸,管理を業とする日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「訴外会社」という。)の勧めにより,当時の被上告人代表者が所有していた土地の上にビルを建築して訴外会社に一括して賃貸し,訴外会社から第三者に対し店舗又は事務所として転貸させ,これにより安定的に収入を得ることを計画し,昭和51年11月30日までに原判決別紙物件目録記載の1棟のビル(以下「本件ビル」という。)を建築した。本件ビルの建築に当たっては,訴外会社が被上告人に預託した建設協力金を建築資金等に充当し,その設計には訴外会社の要望を最大限に採り入れ,訴外会社又はその指定した者が設計,監理,施工を行うこととされた。

 (2) 本件ビルの敷地のうち,小田急線下北沢駅に面する角地に相当する部分51.20㎡は,もとAの所有地であったが,被上告人代表者は,これを本件ビル敷地に取り込むため,訴外会社を通じて買収交渉を行い,訴外会社がAに対し,ビル建築後1階のA所有地にほぼ該当する部分を転貸することを約束したので,Aは,その旨の念書を取得して,上記土地を被上告人に売却した。

 (3) 被上告人は,昭和51年11月30日,訴外会社との間で,本件ビルにつき,期間を同年12月1日から平成8年11月30日まで(ただし,被上告人又は訴外会社が期間満了の6箇月前までに更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,更新される。)とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。被上告人は,本件賃貸借において,訴外会社が本件ビルを一括又は分割して店舗又は事務所として第三者に転貸することをあらかじめ承諾した。

 (4) 訴外会社は,昭和51年11月30日,Aとの間で,本件ビルのうちAの従前の所有地にほぼ照合する原判決別紙物件目録記載一及び二の部分(以下「本件転貸部分」という。)につき,期間を同日から平成8年11月30日まで,使用目的を店舗とする転貸借契約(以下「本件転貸借」という。)を締結した。

 (5) Aは,昭和51年11月30日に被上告人及び訴外会社の承諾を得て,株式会社京樽(以下「京樽」という。)との間で,本件転貸部分のうち原判決別紙物件目録記載二の部分(以下「本件転貸部分二」という。)につき,期間を同年12月1日から5年間とする再転貸借契約(以下「本件再転貸借」という。)を締結し,京樽はこれに基づき本件転貸部分二を占有している。京樽については平成9年3月31日に会社更生手続開始の決定がされ,上告人らが管財人に選任された。

 (6) 訴外会社は,転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして経営から撤退することとし,平成6年2月21日,被上告人に対して,本件賃貸借を更新しない旨の通知をした。

 (7) 被上告人は,平成7年12月ころ,A及び京樽に対し,本件賃貸借が平成8年11月30日に期間の満了によって終了する旨の通知をした。

 (8) 被上告人は,本件賃貸借終了後も,自ら本件ビルを使用する予定はなく,A以外の相当数の転借人との間では直接賃貸借契約を締結したが,Aとの間では,被上告人がAに対し京樽との間の再転貸借を解消することを求めたため,協議が調わず賃貸借契約の締結に至らなかった。

 (9) 京樽は昭和51年12月から本件転貸部分二において寿司の販売店を経営しており,本件ビルが小田急線下北沢駅前という立地条件の良い場所にあるため,同店はその経営上重要な位置を占めている。


 2 被上告人の本件請求は,上告人らに対し所有権に基づいて本件転貸部分二の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるものであるところ,上告人らは,信義則上,本件賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人である京樽に対抗することができないと主張している。

 原審は,上記事実関係の下で,被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は,A及び京樽に対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限を付与したものにすぎないから,転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を解除することができないという意義を有するにとどまり,それを超えて本件賃貸借が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこと,本件賃貸借の存続期間は,民法の認める最長の20年とされ,かつ,本件転貸借の期間は,その範囲内でこれと同一の期間と定められているから,A及び京樽は使用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと,訴外会社は,その採算が悪化したために,上記期間が満了する際に,本件賃貸借の更新をしない旨の通知をしたものであって,そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として,被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をA及び京樽に対抗し得ないということはできないと判断した。


 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,被上告人は,建物の建築,賃貸,管理に必要な知識,経験,資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に,訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し,その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって,本件賃貸借は,訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり,被上告人による転貸の承諾は,賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく,自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識,経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに,被上告人も,各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ,かつ,訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方,京樽も,訴外会社の業種,本件ビルの種類や構造などから,上記のような趣旨,目的の下に本件賃貸借が締結され,被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして,京樽は現に本件転貸部分二を占有している。

 このような事実関係の下においては,本件再転貸借は,本件賃貸借の存在を前提とするものであるが,本件賃貸借に際し予定され,前記のような趣旨,目的を達成するために行われたものであって,被上告人は,本件再転貸借を承諾したにとどまらず,本件再転貸借の締結に加功し,京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから,訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても,被上告人は,信義則上,本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず,京樽は,本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは,本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。

 これと異なり,被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから,上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


 (裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)

 


 

平成14年03月28日最高裁判決を扱った東借連弁護団の判例紹介はこちら

 

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【判例】 *平成19年12月04日最高裁判所第3小法廷判決 2

2008年01月11日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 
 賃借権の目的である土地と他の土地とにまたがって建築されている建物について,借地権設定者が,借地借家法20条2項,19条3項に基づき,自ら当該建物及び賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることは許されない。

 


事件名 競公売に伴う賃借権譲受許可並びに建物及び土地賃借権譲受申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
裁判年月日 平成19年12月04日
法廷名 最高裁判所第3小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却

原審裁判所名 東京高等裁判所  
原審事件番号 平成18(ラ)1052
原審裁判年月日 平成18年09月12日

 

 

主    文

本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。


理     由

 


 抗告代理人鹿内徳行,同鹿児嶋康雄,同菅野智巳の抗告理由について

 賃借権の目的である土地と他の土地とにまたがって建築されている建物を競売により取得した第三者が,借地借家法20条1項に基づき,賃借権の譲渡の承諾に代わる許可を求める旨の申立てをした場合において,借地権設定者が,同条2項,同法19条3項に基づき,自ら当該建物及び賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることは許されないものと解するのが相当である。なぜなら,裁判所は,法律上,賃借権及びその目的である土地上の建物を借地権設定者へ譲渡することを命ずる権限を付与されているが(同法20条2項,19条3項),賃借権の目的外の土地上の建物部分やその敷地の利用権を譲渡することを命ずる権限など,それ以外の権限は付与されていないので,借地権設定者の上記申立ては,裁判所に権限のない事項を命ずることを求めるものといわざるを得ないからである。

 抗告人は,抗告人の設定した賃借権の目的である土地とこれに隣接するAの所有する土地とにまたがって建築されている建物及び上記賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをするとともに,上記Aの所有する土地に設定された賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをするものであるから,その申立てが不適法であることは明らかであり,これを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

 (裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官近藤崇晴)

 


 <参考法令
  借地借家法

(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第19条  借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

 2  裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

 3  第1項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

 4  前項の申立ては、第1項の申立てが取り下げられたとき、又は不適法として却下されたときは、その効力を失う。

 5  第3項の裁判があった後は、第1項又は第3項の申立ては、当事者の合意がある場合でなければ取り下げることができない。

 6  裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第1項又は第3項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。

 7  前各項の規定は、転借地権が設定されている場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第3項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)
第20条  第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができる。

 2  前条第2項から第6項までの規定は、前項の申立てがあった場合に準用する。

 3  第1項の申立ては、建物の代金を支払った後2月以内に限り、することができる。

 4  民事調停法 (昭和26年法律第222号)第19条 の規定は、同条 に規定する期間内に第1項 の申立てをした場合に準用する。

 5  前各項の規定は、転借地権者から競売又は公売により建物を取得した第三者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第2項において準用する前条第3三項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

 

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【判例】 *平成19年12月04日最高裁判所第3小法廷判決 1

2008年01月10日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介


  賃借権の目的である土地と他の土地とにまたがって建築されている建物について,借地権設定者が,借地借家法19条3項に基づき,自ら当該建物及び賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることは許されない。


事件名 賃借権譲渡許可並びに建物及び土地賃借権譲受許可申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
裁判年月日 平成19年12月04日
法廷名 最高裁判所第3小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却


原審裁判所名  東京高等裁判所   
原審事件番号  平成18(ラ)1494
原審裁判年月日  平成18年12月15日
 


主      文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

 

理       由

 抗告代理人宮原守男,同倉科直文,同中野剛の抗告理由について

 借地権者が,賃借権の目的である土地と他の土地とにまたがって建築されている建物を第三者に譲渡するために,借地借家法19条1項に基づき,賃借権の譲渡の承諾に代わる許可を求める旨の申立てをした場合において,借地権設定者が,同条3項に基づき,自ら当該建物及び賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることは許されないものと解するのが相当である。なぜなら,裁判所は,法律上,賃借権及びその目的である土地上の建物を借地権設定者へ譲渡することを命ずる権限を付与されているが(同項),賃借権の目的外の土地上の建物部分やその敷地の利用権を譲渡することを命ずる権限など,それ以外の権限は付与されていないので,借地権設定者の上記申立ては,裁判所に権限のない事項を命ずることを求めるものといわざるを得ないからである。

 抗告人は,抗告人の設定した賃借権の目的である土地と相手方の所有する土地とにまたがって建築されている建物及び上記賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをするものであるから,その申立てが不適法であることは明らかであり,これを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用する。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

 (裁判長裁判官 那須弘平 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)

 


 

 <参考法令
  借地借家法

(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第19条  借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

 2  裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

 3  第1項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

 4  前項の申立ては、第1項の申立てが取り下げられたとき、又は不適法として却下されたときは、その効力を失う。

 5  第3項の裁判があった後は、第1項又は第3項の申立ては、当事者の合意がある場合でなければ取り下げることができない。

 6  裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第1項又は第3項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。

 7  前各項の規定は、転借地権が設定されている場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第3項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

 

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【判例紹介】 借地上の建物の朽廃が近いとして借地権の譲渡を許可をしなかった事例 

2008年01月07日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 借地上の建物の朽廃が近いことを理由として賃借権の譲渡許可の申立を排斥した事例 (東京高裁平成5年11月5日決定、判例タイムズ842号)


 (事案)
 賃借人は、借地上の建物を買取って借地権を取得したが、賃借期間は平成4年9月で20年であった。本件建物は平成2年から半ば空き家状態で、通常の維持管理もされずに放置されていた。

 賃借人は、平成3年、本件賃借権を第三者に譲渡する許可の申立を横浜地方裁判所川崎支部に申立てたところ、地主は本件建物は朽廃しており賃借権は消滅しているのだから譲渡の許可は認められないよ争ってきた。

 横浜地方裁判所川崎支部は、「本件建物は、老朽化しているものの、朽廃に至ったとは認められない」として、賃借権の譲渡の許可をした。

 これに対して、地主が東京高等裁判所に不服を申立てたところ、高裁は地裁の決定を取消して譲渡許可の申立を棄却した。


 (決定要旨)
 「本件建物は、日本瓦で葺かれた屋根の 大棟の中央が沈下し、全体にゆがみがあり、一部の瓦は欠損したり、はがれたりしている。屋根全体に瓦のずれがあり、瓦を支える葺土、野地板、ルーフィングの老朽化、朽廃化が激しい。

 このため、建物全体が雨漏りし、各部屋の天井、内壁のベニヤ板のはがれ、腐朽、畳の腐り、壁のひび、はがれなど、腐朽破損が進行している。6畳間の場合には天井に穴があき、空が見える状態である。基礎は浅いところが多く、土台の一部は、完全に腐食し残りも腐食が入り始めている。柱床には傾斜が見られる。

 右認定したところによれば、本件建物はすでに朽廃に近い状態にあって、今後短期間のうちに朽廃の状態に到達し、本件土地の賃借権もこれに伴い消滅する可能性が高い。

 借地権が今後短期間のうちに消滅する可能性が高い場合は、借地人が建物の修繕その他の改築をしようとしても、賃貸人がこれを承諾しない可能性が高く、その場合に裁判所がその承諾に代わる許可の裁判をすることが適当でない場合が多いから、このような建物及び借地権を譲り受けても、譲受人は結局その建物を利用することができず、買受けの目的を達成することができない可能性が大きい。このように売買の目的を達成することが困難な事情があるにもかかわらず、借地権の譲渡の許可をするのは、借地をめぐる紛争の予防を目的として制定された借地権譲渡許可の制度の趣旨に合致しない。したがって、本件譲渡許可は認められない。


 (説明)
 借地期間の残存期間が少ない場合、譲渡許可を裁判所が出さないことがあるが、本件では建物が朽廃に近いことを理由に譲渡許可を否定した。建物を空家にしていたことが老朽化を進めたろうし、賃借人に不利に作用したものと思われる。

(1994.08.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 株式会社で商号や経営者が変わっても賃借権の譲渡と認められなかった事例

2007年06月29日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 商号、資本及び実質的な経営者と異なっていても、株式会社として法人格を取得している以上は、法人としての継続性、同一性を有し、賃借権の譲渡にあたらない賭された事例 (東京地裁民事30部昭和62年7月28日判決、未掲載)

 (事実)
 Yの旧商号時代のA会社は、Xから使用目的に事務所、倉庫の約束で建物を賃借し、酒類の卸小売業を営んでいた。

 旧商号のAの株式は代表者が全株を有するいわゆる個人会社であったが、その代表者が経営の意欲をなくし全株式をB会社に譲渡し、併せて会社の役員も全員辞任してB会社から新役員が送られるに至った。そして、Yの社名もAから別のYとする旨の商号変更をし、従前の経営を継続するに至った。

 Xは右の変更は単なる株式譲渡ではなく、精算を伴う会社の売買であって、実質的には、賃借人の交替があったとみるべきであり、かかる場合には賃貸人と賃借人との間の信頼関係を前提とする賃貸借の特質に鑑み、YはXに対して賃借権を主張出来ないとして、建物の明渡しを求めていた事案である。

 (判示)
 「AとYとは商号も異なり資本及び実質的な経営者も異なっているが、Aが株式会社として法人格を取得している以上は、右の変動は法人としての継続性、同一性を失わせるものではないと言わざるを得ない。もっとも、賃借人が形式的に法人格を有していたとしても、そもそも法人としての実体がなくいわゆる法人格否認の法理の対象となるような場合には、株主あるいは経営主体の交替により、賃借人との関係では別個の法人として扱うべき余地もありうるところであるが、A商店がAの個人的色彩の強い会社であったことは否定できないとしても、そもそも法人としての実体がなくいわゆる法人格否認の法理の対象となるような会社があったとまで認めるべき証拠はない」

 「Aが、商法上の解散手続きを行っていない以上は、前記法人の継続性、同一性の判断を左右しない

 (寸評)
 この事件は、筆者がYの代理人として担当した事件。判旨は法人理論を素直に理解しており当然の結論である。同旨の高裁判決もある(大阪高裁昭和54年6月15日判決)。

 しかし、賃借人が法形式上同一であっても、その実態に変更があり、実質的に賃借人の交替とみなされる場合には、賃借権を主張できないとする判例(東京地裁昭和51年8月23日判決)もある。

 個人の零細法人が多い我国の実態を見ると、単純な判断ができない要素のある事案があるので参考のために紹介した。

(1987.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 貸主から契約解除された転借人は転貸人に家賃の支払を拒否出来る(1)

2006年09月22日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 賃貸人が賃借人(転貸人)との賃貸借契約解除を理由に建物明渡を求められた場合、転借人は転貸人に対して家賃の支払を拒絶できるとした事例 東京地裁平成6年12月2日判決、判例時報1551号96頁)

 (事実)
 A(建物所有者)、B(賃借人=転貸人)、C(転借人)とする。

 AはBに対し、Bの賃料不払を理由として建物賃貸借契約を解除しBおよびCに対し建物明渡を求めた。
 そこで、CはBに対する建物明渡を求められていることを理由に家賃の支払を拒絶した。
 その後、AはBに対する建物明渡請求事件に勝訴したので、CはBとの間の建物賃貸借契約を解除し、あらためてAとの間で直接建物賃貸借契約を結んだ。そこで、CはBに差し入れていた保証金返還請求権が発生したので、未払家賃と相殺したと主張した。

 (争点)
 本件の争点は、基になる賃貸人から賃借人(転貸人)に対する賃貸借契約解除を理由に転借人に対して明渡請求があった場合、転借人は転貸人に対し、賃料の支払を拒絶できるかである。

 (判決要旨)
 裁判所は、『Aは、本件建物所有権を有するものであり、Cに対して賃借物に対する権利に基づき明渡しを請求できる地位にあるところ、一般に、賃貸人の賃借人に対する目的物を使用収益させる義務には単に目的物を事実上使用可能の状態に置くことだけにとどまらず、その使用によって賃借人が第三者からの不当利得返還請求あるいは不法行為に基づく損害賠償請求を負うことがないようにする義務も含むものと解すべきである。本件においては、CはAから直接賃料の支払請求、その後明渡請求と賃料相当損害金の支払を求められている以上、Aから権利を主張された以降の賃料の支払を拒絶できるものである。なお未払い賃料については、保証金により当然充当されるものであり改めての相殺の意思表示は要するものでない。』と判示した。

 (短評)
最高裁は、賃借人が、所有権など賃借物に対する権利に基づく明渡請求できる第三者から賃借物の明渡を求められた場合には、それ以降の賃料の支払を拒絶できるとしている最高裁昭和50年4月25日判決、判例時報778号62頁)

 賃借人が賃借物を現実に使用収益を継続しているのに賃料の支払拒絶できる理由は、賃借人が真の権利者から不当利得返還請求または損害賠償請求を受ける客観的危険があるからである。
 本件は、バブル崩壊後多発しているケースであり、賃借人がとるべき措置の上で実務上参考になるものである。

(1996.04.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 


 

 (*)参考 こちらでも東京地裁平成6年12月2日判決を扱っています。

 

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【判例紹介】 *転貸人の賃料不払で契約解除する場合、転借人に通告等をしなくてもよい

2006年09月21日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 適法な転貸借関係が存在する場合、賃貸人が賃料の不払を理由として賃貸借契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない 最高裁第2小法廷平成6年7月18日判決、判例タイムズ888号118頁)

 (事案)
 Y(転借人)は、X(賃貸人)から土地を賃借していたA(賃借人・転貸人)から土地の半分を転借し、その土地上に建物を所有していた。Aが賃料の支払を怠ったため、XはAに対し、賃料支払の催告をしたうえ、契約を解除し、Yに対して建物収去土地明渡を求めた。

 Yは、転貸借がある場合には、賃貸人が賃料不払を理由に契約解除するためには、転借人に対して通告をするなどして、未払賃料の支払をする機会を与えなければならないと主張して争った。原審はXの請求を認めたためYが上告していた事案である。Yの上告棄却。

 (判旨)
 「土地の賃貸借契約において、適法な転貸借関係が存在する場合に、賃貸人が賃料の不払を理由に契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない

 (寸評)
 最高裁は、本件の先例として、昭和37年3月29日第1小法廷判決。昭和49年5月30日第1小法廷判決等で、本判決と同旨の判断をしていた。

 Yはこの判例の変更を求めたが棄却された。賃貸人と賃借人(転貸人)が基本賃貸借契約を合意解除した場合については、最高裁は、転借人に対抗し得ないとしていた(昭和37年2月1日第一小法廷判決)が、賃料不払などの債務不履行による解除については、転借人に対抗できるとして、転借人の主張を悉く認めて来なかった。

 これまでの学説では、信義則あるいは公平の原則に照らして転借人に対して賃料不払の事実の通知をして、代払の機会を与えるべきであるとするものがあり、多数説となっている。本判決では、この学説に従った少数意見が出されており、注目される。

 転借人の保護を重視する立場にはもっともな面があるが、転貸借が元の賃貸借の存在を前提としている限り、その理論上の拘束は厳しく、判例の変更は期待すべきではなかろう。

(1996.11.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 *賃貸人の承諾ある転貸借は賃貸人が転借人に明渡を請求したときに終了する

2006年09月20日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 賃借人の債務不履行により賃貸借契約が解除された場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に終了するとされた事例 最高裁平成9年2月25日判決。判例時報1599号69頁)

 (事案の概要)
 X(転貸人)は、A(所有者で賃借人)から建物を賃借し、これをAの承諾のもとにY(転借人)に転貸していたが、Aに対する賃料の支払を怠ったため、Aから昭和62年1月に賃貸借契約を解除された。Aは同年2月、XYを被告として建物明渡請求訴訟を提起し、勝訴判決得て、平成3年11月、強制執行により建物明渡しを受けた。

 その後、Xは、Yが昭和63年12月以降Xに転借料を支払っていなかったので、Yに対して、昭和63年12月から明渡まで未払転借料の支払を求めた。第1審及び第2審はXの請求を認めたが、Yはこれを不服として上告した。

 (判決の概要)
 本判決は、「賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権限(転借権)を有することが重要であり転貸人が、自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させることを怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の使用収益について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引通念に照らして履行不能というべきである。したがって、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合は、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である」と判示し、昭和63年12月の時点では転貸借契約は終了していたとしてXの請求は棄却した。

 (寸評)
 賃貸借契約が転貸人の債務不履行で解除された場合、賃貸人の承諾のある転貸借契約がどうなるかについては、判例もあいまいであったが、本判決は賃貸人が転借人に明渡を請求したときに終了すると明確な判断を下したもので、今後の指針となるものである。

(1997.08.)

(東借連常任弁護団)

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【判例紹介】 賃貸人が転貸借契約承継の特約ある時賃貸人は転貸人の地位を承継する

2006年09月16日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介

 賃貸人の承諾の下に建物が転貸されている場合において、賃借人の債務不履行を理由に賃貸借契約が解除されたとしても、賃貸借契約終了した場合は、賃貸人が転貸借契約を承継する旨の特約があるときには、賃貸人は、転貸人の地位を承継し、転借人が差し入れた保証金返還義務を負うとされた事例東京高裁平成11年12月21日判決、判例タイムズ1023号)

  (事案)
 建物所有者は不動産開発会社に転貸の承認をした上で賃貸したが、開発会社が賃料不払いをしたので契約を解除した。本件建物は転借人が使用中で、1億5543万円の保証金を入れていた。所有者と開発会社との賃貸借契約には契約が終了した場合には、建物所有者は転貸借契約を承継する。」という特約があった。

そこで、転借人は、所有者が転貸借契約を承継したとして、建物所有者に対して転借契約の解除を申し入れ、保証金の返還を請求した。

 建物所有者は、転借人とは賃貸借契約はないと言って返還拒否したので、転借人は提訴した。東京地裁では転借人敗訴、控訴判決である本判決で転借人が逆転勝訴した。

 (判決要旨) 
 「サブリース契約というものは、不動産のデベロッパー等が、土地の利用方法の企画、事業資金の提供や融資斡旋、建設する建物の設計、施工、監理、完成した建物の賃貸営業、監理運営等、その事業の全部又は一部を受託して、土地・建物の所有者等にその所有権や借地権を残したままで、賃貸目的の建物を一括借り受ける等の方式をとることによって、その事業収益を所有者等に保障する形態で行う事業の目的のために当事者間で締結されるものである。

 このようなサブリース契約における建物賃貸借契約は、基本契約、建物建築請負契約、管理委託契約等一連の契約の一部をなしており、「建物利用権を取得する」ためではなく、「建物を転貸して収益をあげる権限」だけを取得するためのものである。そこで、共同事業が終了、解体する場合には、その後も収益事業の継続を図るためにデベロッパーが締結した第三者との転貸借契約を所有者に承継させる必要が生じ、本件承継特約がなさるものである。

したがって、転借人は、本件特約は第三者たる転借人のためになされているものであり、その効力を当然に受けることができる。そうすると、建物所有権者はデベロッパーと転借人との転貸借契約を承継したものであるから、保証金返還義務も承継したものである。」

 (説明)
 不動産開発会社が賃借人となって貸し出す物件が増えている。転借人の地位は、建物所有者との間で何の契約もないので不安定である。本判決は、サブリースという契約関係の実態に基づいて、承継特約の合理的解釈をして転貸借契約を建物所有者に承継させたものであるが、この種の問題の判決は分かれている。

(2000.06.)

(東借連常任弁護団)

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