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最高裁判例
借地法10条の建物の時価の算定
(最高裁 昭和35年12月20日判決 民集14巻14号3130頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人長谷川毅の上告理由第一点について。
借地法10条にいう建物の「時価」とは、建物を取毀った場合の動産としての価格ではなく、建物が現存するままの状態における価格である。そして、この場合 の建物が現存するままの状態における価格には、該建物の敷地の借地権そのものの価格は加算すべきでないが、該建物の存在する場所的環境については参酌すべ きである。何故なら、特定の建物が特定の場所に存在するということは、建物の存在自体から該建物の所有者が享受する事実上の利益であり、また建物の存在する場所的環境を考慮に入れて該建物の取引を行うことは一般取引における通念であるからである。
されば原判決において建物の存在する環境によって異なる場所 的価値はこれを含まず、従って建物がへんぴな所にあるとまた繁華な所にあるとを問わず、その場所の如何によって価格を異にしないものと解するのが相当であると判示しているのは、借地法10条にいう建物の「時価」についての解釈を誤ったものといわなければならない。
しかし、原判決を熟読玩味すれば、原判決に おいて判定した本件建物の時価は、建物が現存する状態における建物自体の価格を算定しており、本件建物の存在する場所的環境が自ら考慮に入れられていることを看取するに難くないから、原判決における上記瑕疵は結局判決に影響を及ぼすものでないといわなければならない。論旨は結局理由がない。
よって,民訴396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官 高橋潔、裁判官島保、裁判官河村又介、裁判官石坂修一
裁判官垂水克己は病気につき署名押印することができない。 裁判長裁判官高橋 潔
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最高裁判例
有料社宅(近隣の家賃相場よりかなり低額の場合)の使用関係は賃貸借ではないとされた事例
(最高裁 昭和29年11月16日 判決 民集8巻11号2047頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人(従業員)の負担とする。
理 由
上告代理人高橋銀治の上告理由(後記)について。
会社とその従業員との間における有料社宅の使用関係が賃貸借であるか、その他の契約関係であるかは、画一的に決定し得るものではなく、各場合における契約の趣旨いかんによって定まるものと言わねばならない。原判決がその理由に引用した第1審判決の認定によれば、被上告人会社は、その従業員であった上告人に 本件家屋の1室を社宅として給与し、社宅料として1か月金36円を徴してきたが、これは従業員の能率の向上を図り厚生施設の一助に資したもので、社宅料は維持費の一部に過ぎず社宅使用の対価ではなく、社宅を使用することができるのは従業員たる身分を保有する期間に限られる趣旨の特殊の契約関係であって賃貸借関係ではないというのである。
論旨は、本件には賃借権の存在を証明し得る証拠があるにかかわらず、原判決はこれを無視してその存在を否定し法律関係の認定を誤った違法があるというのであって、帰するところ原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するにほかならないので採用できない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致で主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官井上登、裁判官島保、裁判官河村又介、裁判官小林俊三、裁判官本村善太郎
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最高裁判例
従業員専用の寮の使用関係(世間並みの賃料額相当を支払っている場合)は賃貸借であるとされた事例
(最高裁 昭和31年11月16日判決 民集10巻11号1453頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人時田至の上告理由について。
本件家屋の係争各6畳室に対する被上告人等の使用関係については、原判決は、判示各証拠を綜合して、その使用料は右各室使用の対価として支払われたもので あり、被上告人等と訴外会社との間の右室に関する使用契約は、本件家屋が訴外会社の従業員専用の寮であることにかかわりなく、これを賃貸借契約と解すべきであるとしていることは原判文上明らかである。およそ、会社その他の従業員のいわゆる社宅寮等の使用関係についても、その態様はいろいろであって必ずしも 一律にその法律上の性質を論ずることはできないのであって本件被上告人等の右室使用の関係を、原判決が諸般の証拠を綜合して認定した事実にもとづき賃貸借関係であると判断したことをもって所論のような理由によって、直ちにあやまりであると即断することはできない。論旨は、畢竟,原判決の右判断の某礎となった事実の認定を争うに帰し採用することはできない。
よって、民訴4401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官小谷勝重、裁判官藤田八郎、裁判官谷村唯一郎、裁判官池田克
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最高裁判例
期間を10年と定めた普通建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約につき、借地法2条により期間が30年であると認められた事例
(最高裁 昭和45年3月24日 判決 判時593号37頁)
裁判要旨
普通建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約において期間を10年と定めた場合には、存続期間の約定は借地法11条により、その定めがなかつたものとみなされ、賃貸借の存続期間は、同法2条1項本文により契約の時から30年と解すべきである。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人磯崎良譽、同磯崎千壽の上告理由第1点および第2点について。
本件において、被上告人は、昭和19年2月1日本件土地を普通建物所有の目的で期間の定めなく賃借したものであると主張し、本件土地に対する賃借権の確認を求めたのに対し、上告人らは、右賃貸借の期間は昭和19年2月1日から20年と定められたのであるから、賃貸借は昭和39年2月1日終了したものであり、被上告人は本件土地に対する賃借権を有しないと抗弁したものである。
ところで、いわゆる普通建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約において期間を10年と定めた場合には、右存続期間の約定は、借地法11条により、その定めがなかつたものとみなされ、右賃貸借の存続期間は、同法2条1項本文により、契約の時から30年と解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和41年(オ)第1356号、昭和44年11月26日大法廷判決、裁判所時報534号10頁参照)。
そして、被上告人が昭和19年2月1日本件土地を普通建物所有の目的で期間を10年と定めて賃借したものであることは原審の適法に確定した事実であるから、被上告人の本件土地に対する賃借権の存続期間は、右昭和19年2月1日から30年と解すべきである。そして、本件土地を昭和19年2月1日普通建物所有の目的で期間の定めなく賃借したものであるから本件土地に対し被上告人が賃借権を有することの確認を求めるという被上告人の主張のなかには、本件土地に対するDと被上告人との間の賃貸借契約における期間の約定が借地法11条によりなされなかつたものとみなされ、同法2条によりその期間が30年とされる場合においても、被上告人が現に本件土地の賃借権を有するとの主張をも含むものと本件記録から認められる以上、たとえ明示的には後者の主張がなくても、裁判所が該主張の事実を認定しても、当事者の主張しない事実を認定したものとはいえない。
したがつて、以上に説示したところにより、上告人らの期間満了の抗弁は理由がなく、被上告人が現に本件土地に対し賃借権を有することは明らかである。原判決は、右に述べたところと理由を異にするが、その結論において正当である。論旨は採用できない。
よつて、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、上告代理人磯崎良譽、同磯崎千壽の上告理由第1点および第2点に対する期間を10年と定めた普通建物所有を目的とする土地の賃貸借契約の存続期間についての裁判官田中二郎の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。
本件土地の賃貸借契約における賃借権の存続期間は契約の時である昭和19年2月1日から20年と解すべきであると考える。その理由は、最高裁判所昭和41年(オ)第1356号、昭和44年11月26日大法廷判決の反対意見(裁判所時報534号11頁参照)のとおりであるから、ここにそれを引用する。したがつて、被上告人の本件土地に対する賃借権は、昭和19年2月1日から20年を経過した時において消滅したものというべきである。そして、被上告人の右賃借権消滅後の本件土地の使用につき上告人らが遅滞なく異議を述べないときは、被上告人の右賃借権は法定更新されることとなるが、上告人らが借地法6条により遅滞なく異議を述べたときは、右賃借権は法定更新されないこととなる。そうとすれば、原審は、すべからくこの点について釈明し、審理を尽くすべきであつたのである。しかるに、この点について、単に被上告人は本件土地に対する期間の定めのない賃借権を有するとした原判決には、借地法2条の規定の解釈適用を誤り、釈明権不行使、審理不尽、理由不備の違法があり、破棄を免れないものと考える。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 関 根 小 郷
裁判官 田 中 二 郎
裁判官 下 村 三 郎
裁判官 松 本 正 雄
裁判官 飯 村 義 美
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土地の無断転貸を理由に明渡請求
契約解除権は10年で滅時効になる
(問) 15年前に借地の一部を地主の承諾を得て隣の食品会社に転貸した。会社はそこに軽量鉄骨造りの倉庫を建てて現在も使用している。
ところが今回地主が死亡して相続人から地代の大幅値上げを請求された。その請求を断ると、無断転貸を理由に契約解除・土地明渡請求が内容証明郵便で送られて来た。どうしたらいいのか。
相続人に承諾の証拠を示せない。こんなことになるのであれば、文書での承諾を得ておけばよかったと悔やまれる。
(答) 相談者の場合は先代の地主から承諾を得て食品会社に転貸していた。だから過去に地主との間に転貸でのトラブルがなかった訳である。相続人の無断転貸の主張は言掛かりに過ぎない。しかし、賃借人は転貸承諾を文書化していなかったので、言掛かりに対する立証が難しい。
民法では、「賃借人は賃貸人の承諾が無ければ賃借権を他人に譲渡したり、賃借物を転貸することが出来ない。賃借人がこれに反し転貸した時は、賃貸人は契約を解除することが出来ると定めている(民法612条)。
長期間契約を解除しないで放置していた場合、解除権は消滅時効にかかるのかという問題である。
消滅時効は、一定期間権利が行使されなかったことによってその権利が消滅するものである。
最高裁は「賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意 思表示により賃貸借契約関係を終止させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法167条1項が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅する」(1987(昭和62)年10月8日判決)としている。
消滅時効の起算点については、転貸借契約が結ばれて転借人が土地について使用収益を開始した時から消滅時効は進行するとしている(1987(昭和62)年10月8日判決)。
「時効による権利消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるもの」(最高裁1986(昭和61)年3月17日判決)として援用を停止条件としている。
これは時効によって利益を受ける者が時効の成立したことを主張しなければならない。この主張を援用と いう。時効期間が経過することによって権利の得喪は生じるが、未だ確定的ではなく、援用によって初めて権利が確定する。換言すると、10年が経過しても借 地人は消滅時効を、転借人は取得時効を援用しない限り、地主は無断転貸を理由とした明渡請求が出来ることを意味している。
難癖であろうと降り懸かる災難は取除かなければならない。承諾の有無を相続人と争うよりも、消滅時効で片を付けた方が解決が速い。
結論、談者の場合は既に10年の時効期間を満たしている。消滅時効の起算点は、食品会社との賃貸借契約で15年経過していることは証明できる。従って地主に対して配達証明付き内容証明郵便で「解除権は既に時効である」と《時効の援用》をすれば、消滅時効は完成する。
(*) 民法612条(賃借権の譲渡および転貸の制限)「①賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物転貸することができない。② 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除することができる。」
(*)民法167条1項(債権等の消滅時効)「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」
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判例紹介
更新料特約を有効と判断した最高裁判例 (平成23(2011年7月15日)年7月15日第2小法廷判決)
これまで地裁・高裁の結論が分かれていた更新料条項について、最高裁判所が有効と判断した事例を紹介します。ただ、この判例は限定的ですので、借地借家人は誤った理解をしないよう注意して下さい。
【事案の概要】
こ の事件は、京都市内の共同住宅の1室についての借家契約が問題となった。
①賃借人は平成15年4月1日~平成16年3月31日まで、契約期間1年の借家契約を結んだ。
②賃料月3万8000円、特約で更新の際は更新料として賃料の2か月分7万6000円を支払うことが契約書に記載されていた。
平成16~平成18年までは1年契約で3回、特約の更新料7万6000円を支払って契約を更新した。
③最後の1回は法定更新を主張して更新料7万6000円を支払っていない。
④賃借人が3回の更新の際に支払った合計22万8000円の返還を求めたのに対し、賃貸人が法定更新の際にも更新料を支払うべきと主張して、 法定更新の際の更新料の支払いを求めた。この更新料支払条項が消費者契約法10条に反するかが争点になった。
本件借家契約書には特約として、更新するときは、法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、賃貸人に更新料として賃料の2か月分を支払わなければならないという更新料支払条項がある。
【最高裁の判断】
こ の事案に対し、最高裁は、更新料の性質について、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満 に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な 性質を有する」としています。その上で、更新料は、民法等の規定に比べて、消費者である賃借人の義務を加重するものとして、消費者契約法10条の特約条項を無効にする要件の一 つに該当すると認定した。
また、消費者契約法10条は特約を無効にする要件として、民法1条2項の信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると規定している。
しかし、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新 料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定す る基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない」として、特約条項を無効にする要件としては認められないと判断した。
「更新料条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間と するものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また、更新料条項を、借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。」
結果、賃借人の支払い済みの更新料22万8000円の返還請求は破棄され、賃貸人の未払い更新料請求7万6000円は認められた。
【注意点】
この判例の問題点は多々指摘することができるが、最高裁判所の判断なので、今後の借地借家の問題に強い影響を及ぼすことは明らかである。最高裁は、この判決で1年契約で家賃の2か月相当の更新を是認する判断をした。
一般的に借家契約 では、更新料条項として首都圏では2年ごとに家賃の1~2か月相当の更新料を支払うと金額まで明示されている場合が多く、最高裁の判断からすると2年契約で家賃の1~2か月相当の更新料支払条項を無効とするのは可なり難しくなった。
つまり、借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合であって、更新料支払条項が契約書に「一義的かつ具体的に記載」され、更新料の金額が賃料の額と更新される期間等と勘案して高額すぎるなどの特段の事情がない限り、その更新料の合意は消費者契約法に反せず、法定更新を選択した場合でも更新料を支払う義務があるとした。
他方、借地契約の場合、そもそも契 約書に更新料支払条項がなかったり、更新料支払約束があっても、「更新に際し、世間相場並みの更新料を支払うものとする」、「近隣と同等の更新料を支払う」 等、具体的な金額まで記載されていなかったりする事例が殆どだ。この場合、最高裁が指摘する「一義的かつ具体的」な更新料の金額の合意がないので、従来どおり法律上も慣習上も支払義務のない更新料を支払う必要はない。
「一義的」とは、「意味や結果がただ一種類であること」(岩波国語辞典)、「一つの意味にしか解釈が出来ない様子」(新明解国語辞典)ということである。
従って、「借地契約は更新料750万円を支払うことで更新される」と具体的な金額が明記されていたり、「更新に際して、坪当たり5万円の更新料を支払うものとする」、「更新時に更新料として国税庁路線価(1㎡当たり)の5%×借地面積相当分の 金額を支払う」というように具体的に金額が算定できる根拠が示されている場合は、支払い義務が発生する危険がある。
また、最高裁の判断だと、借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立していない場合、或いは仮に更新料条項が明確に規定されていたとしても、更新料が著しく高額な場合は更新料支払特約が無効となる余地がある。この点も注意して下さい。
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NHKが個人を相手に受信契約締結と受信料支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(下田文男裁判長)は2013年12月18日、「受信者から契約申し込みの意思表示がなければ、契約は成立しない」との判断を示した。2013年10月には東京高裁の別の裁判長が「NHKが契約を申し込めば、受信者が承諾の意思表示をしない場合でも、2週間が経過すれば契約は成立する」との判決(確定)を言い渡しており、判断が分かれた。
NHKが東京都渋谷区の受信者を相手に受信料の支払いなどを求めて提訴。1審・東京地裁判決(7月)は、受信者に契約の承諾と受信料24万8640円の支払いを命じる一方、「判決の確定時に契約が成立する」との判断を示した。これに対しNHKは「契約の通知書が届いてから相当期間が過ぎれば契約は成立する」と主張して控訴していた。
下田裁判長は「受信者とNHKの双方の意思表示が合致して契約を成立させる以外には、法律的な契約の効果が発生するとの規定は存在しない」と述べ、NHKの主張を退けた。そのうえで支払額については請求通り、受信料の改定などを踏まえて1万800円増額した。
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2013年10月28日、約144万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が神戸地裁尼崎支部であった。マンションの一室で自殺があったことを告げずに、その部屋を賃貸したのは不法行為だとして、部屋を借りた男性が家主の弁護士(兵庫県弁護士会所属)を訴えていた。
家主の弁護士は2011年5月2日、兵庫県尼崎市のマン ションの一室を競売で取得した。その部屋に住んでいた一人住まいの女性が競売後の5月5日頃に部屋で自殺した。
2012年8月、家主の弁護士は、部屋で女性が自殺したことを説明せずに、男性と部屋の賃貸借契約を結んだ。男 性は8月末に引っ越を完了したが、近所の住人から、「この部屋で去年女性が自殺した」という話を耳にして、気味が悪いので、翌日には部屋を退去した。翌月の9月20日、家主に部屋の契約解除を通告した。
裁判の中で家主の弁護士は、「競売後の 手続きは他人に任せていた。部屋で女性が自殺したという報告を受けないまま明渡し手続きを終了した。自殺の事実は知らなかった」と主張した。
裁判官は、女性の死後に弁護士が部屋のリフォームを指示したことから、「部 屋の心理的な瑕疵の存在を知らないことはあり得ない」と指摘し、「およそあり得ない不自然な経緯という他はない」と家主の弁護士の主張を退けた。
また、裁判官は、女性の遺体を警察官が搬出し、住人らが自殺と認識していたことなどを挙げ、「一般の人でもこの部屋は居住に適さないと考える。部 屋には、嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的な欠陥という瑕疵がある」と判断し、「告知すべき義務があったのに、意図的に告知しなかっ た」として、弁護士に賃料や慰謝料など約104万円の支払いを命じた。
他の裁判例(横浜地裁)でも、自殺があった建物売買で心理的瑕疵があるとして、契約解除を認めている。
中古マンションの売買契約後、その部屋で6年前に売主の妻が首つり自殺をしていたことが判明した事案。
買主は自殺は建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景の一つであり、隠れたる瑕疵に当たるとして、契約を解除し、支払い済みの手付金及び違約金の支払いを求めて横浜地裁に提訴した。
判決では「首つり自殺があった建物を他の類歴のない建物と同様に買い受けるということは通常考えられないことであり、子供を含めた家族で永住するために供することははなはだ妥当性を欠くことが明らかである。本件契約は、民法570条の瑕疵担保責任による解除原因があるとして、買主の請求を容認した。判決は、建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に原因する心理的欠陥も瑕疵に当たるとした(横浜地裁平成元年9月7日判決 判例時報1352号126頁)。
裁判例から窺えることは、人の死が病死や老衰等の一般的な自然死については瑕疵の問題は惹起されない。それでは、心理的瑕疵の認定基準はどのような事情によるのか。認定基準は、買主や借主にとって気味が悪いといった主観的事情であり、一般的には他殺や首つり自殺に代表される尋常でない変死ということになる。
長い「時」が経過すれば、気味悪さも薄れてゆくので、時間的経過も考慮される。横浜地裁の事例のように6年経過すれば問題ないと感じる人もいるであろう。部屋が綺麗に修復されて変死の痕跡がなければ家賃を値下げしてくれれば耐えられるという人もいるであろう。何年経とうが気味が悪いと感じる人もいる。このように人の感じ方という極めて主観的な問題であるので、心理的瑕疵の認定は難しい問題を含んでいる。
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先の参議院選挙で自民党が圧勝し、改憲を進める勢力が多数を占めるようになりました。いよいよ本格的に憲法改正が政治スケジュールに位置付けられることになります。そうである以上、様々な表現媒体をつかって憲法の意義や改憲の問題性についてきちんと発言し討議していく必要があります。
しかし自民党の改正草案を見ると、今後そのような発言を封じることを可能にする規定が新設されています。具体的には表現の自由の条文です。
自民党草案では、現行憲法21条1項とほぼ同じ条文である「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する」に加え、2項を新設して「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」との規定を設けています。この規定が意味するところは何でしょうか。
これまでの連載にもあったように、憲法は本来国民の自由を保障するため国家権力に対して縛りをかけるものです。そのために自由を保障する種々の規定をおいているのです。
しかしこの条文は違います。国民の自由、すなわち人権に制約をかけようとしているのです。表現の自由は人間の尊厳にかかわる人権とされ、また民主政治に不可欠の人権とされています。それは、表現することが人間の本質であり、また民主政治において十分に議論をたたかわせることが不可欠と考えられているからです。そのため表現は自由でなければなりません。しかし自民党草案では、このような重要な人権を憲法で制約しようとしているのです。
自民党の「日本国憲法改正草案Q&A」で「『反国家的な行動を取り締まる』ことを意図したものではありません」としています。しかし「公益」や「公の秩序」を害する場合とはいったいどんな場合でしょう。原発反対やTPP反対を叫ぶデモ行進をなどをして、時の政権の政策や方針に反対するとしましょう。時の権力者が原発再稼働やTPPを進めるようとしている場合、そのようなデモは「公益」に反する活動とされ禁止される恐れがでてきます。官邸前で抗議活動をすれば人がふくれあがり交通秩序が乱れる、だから「公の秩序」を害するとして取締りを受けかねません。憲法がこのような制約を認めることになるわけですから、対抗するのは極めて困難となります。
いま、自由にモノが言えない社会をわざわざ作り出す必要がどこにあるのでしょうか。
戦前、私たちは言論が制約された時代を経験しています。それがいかなる悲劇を招いたか歴史上明らかです。「公益及び公の秩序」によって表現の自由を制約することはまさに時代を逆行させるもので、決して許してはなりません。
全国借地借家人新聞より
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京成線千住大橋駅近くで58坪の土地を祖父母の代から賃借しているAさんは、今年になり地主から依頼されたという不動産業者が訪ねてきて等価交換の話を持ちかけてきた。
5年前に更新料300万円を支払い合意更新した経緯があり、ここに来て等価交換の話があるとは考えてもいなかった。
Aさんは心配になり東借連のホームページで組合の存在を知り、事務所に相談に行った。
組合では先ず、土地の登記簿謄本で、土地所有者名義が誰になっているか、先代名義であったり、相続で共有登記になっていないか、また抵当権や差押などの第三者の権利が記載されていると交換後に権利行使によって被害を受けることもあるので調べること。
次に、土地の境界を確認し、面積を確定するため測量する必要がある。今後、地主との土地の分け方でAさんが取得する土地は建築確認が取れて、希望通りの建物が建てられるか、予め調べた上、交渉する必要があると説明した。
東京借地借家人新聞より
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大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法案は、先の通常国会で全会一致で可決成立した。この結果、戦災によって住居を失った被災者の保護と罹災都市の復興促進を目的に昭和21年に制定された罹災都市借地借家臨時処理法は廃止された。
罹災都市法は、災害時にも適用され、これまで30回程度にわたって適用事例がある。平成7年に発生した阪神・淡路大震災にも適用されたが、戦後の臨時立法当時の法体系と現代の借地借家の実情に整合しないなど様々な問題点が指摘され、日本弁護士会からの反対もあって2年前の東日本大震災に適用されず、平成24年9月から法制審議会で罹災都市法の見直しが審議されてきた。
今回の特別措置法は、大規模な災害の被災地において、災害により借地上の建物が滅失した場合における借地人の保護等を図るための特別措置を定めた法律で借地借家法に優先する。当該災害を「特定大規模災害」として政令で指定され、適用すべき措置及び地区が指定される。(第2条)
借地権の対抗力の特例では、借地借家法第10条第1項の場合において建物の滅失があっても、その滅失が特定大規模災害によるものであるときは、政令の日から6か月間は第3者に対抗することができる。
なお、6か月が経過した後は、借地権者がその建物を特定するために必要な事項等を土地の上の見やすい場所に掲示する時は、政令の日から起算して3年間は借地権を第3者に対抗することができることになった。(第4条)
特定大規模災害で建物が滅失していても借地権を譲渡又は転貸することができるようになった。ただし政令施行から1年以内借地人は裁判所に申し立てを行なえば、地主の代諾許可を与えることになった。(第5条)
特定大規模災害で借家人が借りている建物が滅失した場合、従前の賃貸人がその敷地上に新たに建物を築造し、または築造しようとする場合、政令施行の日から3年以内にその建物の賃貸借契約の締結を勧誘しようとするときは、賃貸人は従前の賃借人のうち知れている者に対し、遅滞なくその旨を通知する義務が生まれる(第8条)。
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1 はじめに
従来、大規模災害の際に適用される借地借家法の特別法として「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下「罹災法」と言う。)があったが、本年4月、政府はこれに代わる「大規模な災害の被災地における借地借家特別措置法案」(以下「改正案」と言う。)を国会に提出した。
主な内容は、(1)優先借地権制度の廃止、(2)優先借家権制度の廃止と従前賃貸人による通知制度の新設、(3)借地人保護のための規律の改正・新設、(4)被災地短期借地権の新設であるが、字数の関係上、罹災借家人に関する見直し(上記(1)及び(2))と今後の課題に絞って述べる。
2 罹災借家人に関する制度の見直し
(1)優先借地権制度の廃止
罹災法では、建物滅失時の借家人が地主に申し出て優先的に土地を賃借することができる、あるいは、借地権者に申し出て優先的に借地権を譲り受けることができる制度があるが(2条、3条)、改正案はこれを廃止するとしている。
過去の適用例を踏まえ、災害を契機に借家権が借地権に昇格することの弊害が指摘されてきたからである。
(2)優先借家権制度廃止と通知制度の新設
罹災法では、建物滅失後に再築された建物につき、滅失時の借家人が優先的に賃借できる制度がある(14条)。
改正案はこれを廃止し、同地上に建物を再築した従前賃貸人が、災害指定の政令施行日から三年以内に同建物を賃貸しようとする場合、旧借家人(知れている者)にその旨を通知するべきものとしている。
罹災借家人に元の場所で生活再建する機会を与える趣旨である。
3 今後の課題
改正案によれば、罹災法と比較し、罹災借家人の地位は弱まる。罹災法は戦後処理の臨時法として制定された後に大規模災害にも適用されるようになり、様々な問題点が指摘されてきた点に鑑みれば、見直し自体はやむをえない面もあるが、罹災借家人の権利擁護に遺漏があってはならない。
第1に、被災者のための公的賃貸住宅の建設や公的補助を伴う既存建物の活用といった公的制度の充実が図られるべきである。
第2に、優先借家権制度を廃止し事前通知制度を導入するにしても、権利行使の機会を実質的に保障するには、再築者に対する資金補助や新建物の借家人に対する家賃補助といった施策が必要となるであろうし、新しい賃貸条件を巡る紛争を迅速かつ適正に解決する仕組みの整備も必要になると思われる。
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平成11年3月25日 第1小法廷判決 平成7年(オ)第1705号 保証金返還債務確認請求事件
(要旨)
賃貸建物の新旧所有者が賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに賃貸人の地位の新所有者への移転を妨げるべき特段の事情があるとはいえない。
(内容)
件名 保証金返還債務確認請求事件(最高裁判所平成7年(オ)第1705号平成11年3月25日第1小法廷判決、棄却)
原審 東京高等裁判所
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人工藤舜達、同林太郎の上告理由第二点、同坂井芳雄の上告理由第一点、及び同原秋彦、同洞敏夫、同牧山嘉道、同若林昌博の上告理由第二点について
1 本件は、建物所有者から建物を賃借していた被上告人が、賃貸借契約を解除し右建物から退去したとして、右建物の信託による譲渡を受けた上告人に対し、保証金の名称で右建物所有者に交付していた敷金の返還を求めるものである。
2 自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり(最高裁昭和35年(オ)第596号同39年8月28日第2小法廷判決・民集18巻7号1354頁、最高裁昭和43年(オ)第483号同44年7月17日第1小法廷判決・民集23巻8号1610頁参照)、右の場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。けだし、右の新旧所有者間の合意に従った法律関係が生ずることを認めると、賃借人は、建物所有者との間で賃貸借契約を締結したにもかかわらず、新旧所有者間の合意のみによって、建物所有権を有しない転貸人との間の転貸借契約における転借人と同様の地位に立たされることとなり、旧所有者がその責めに帰すべき事由によって右建物を使用管理する等の権原を失い、右建物を賃借人に賃貸することができなくなった場合には、その地位を失うに至ることもあり得るなど、不測の損害を被るおそれがあるからである。もっとも、新所有者のみが敷金返還債務を履行すべきものとすると、新所有者が無資力となった場合などには、賃借人が不利益を被ることになりかねないが、右のような場合に旧所有者に対して敷金返還債務の履行を請求することができるかどうかは、右の賃貸人の地位の移転とは別に検討されるべき問題である。
3 これを本件についてみるに、原審が適法に確定したところによれば、(一) 被上告人は、本件ビル(鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付10階建事務所店舗)を所有していたアーバネット株式会社(以下「アーバネット」という。)から、本件ビルのうちの6階から8階部分(以下「本件建物部分」という。)を賃借し(以下、本件建物部分の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)、アーバネットに対して敷金の性質を有する本件保証金を交付した、(二) 本件ビルにつき、平成2年3月27日、(1) 売主をアーバネット、買主を中里三男外38名(以下「持分権者ら」という。)とする売買契約、(2) 譲渡人を持分権者ら、譲受人を上告人とする信託譲渡契約、(3) 賃貸人を上告人、賃借人を芙蓉総合リース株式会社(以下「芙蓉総合」という。)とする賃貸借契約、(4) 賃貸人を芙蓉総合、賃借人をアーバネットとする賃貸借契約、がそれぞれ締結されたが、右の売買契約及び信託譲渡契約の締結に際し、本件賃貸借契約における賃貸人の地位をアーバネットに留保する旨合意された、(三) 被上告人は、平成3年9月12日にアーバネットが破産宣告を受けるまで、右(二)の売買契約等が締結されたことを知らず、アーバネットに対して賃料を支払い、この間、アーバネット以外の者が被上告人に対して本件賃貸借契約における賃貸人としての権利を主張したことはなかった、(四) 被上告人は、右(二)の売買契約等が締結されたことを知った後、本件賃貸借契約における賃貸人の地位が上告人に移転したと主張したが、上告人がこれを認めなかったことから、平成4年9月16日、上告人に対し、上告人が本件賃貸借契約における賃貸人の地位を否定するので信頼関係が破壊されたとして、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、その後、本件建物部分から退去した、というのであるが、前記説示のとおり、右(二)の合意をもって直ちに前記特段の事情があるものと解することはできない。そして、他に前記特段の事情のあることがうかがわれない本件においては、本件賃貸借契約における賃貸人の地位は、本件ビルの所有権の移転に伴ってアーバネットから持分権者らを経て上告人に移転したものと解すべきである。以上によれば、被上告人の上告人に対する本件保証金返還請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の各判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官藤井正雄の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官藤井正雄の反対意見は、次のとおりである。
私は、上告人が被上告人に対し本件保証金の返還債務を負担するに至ったとする法廷意見には賛成することができない。
1 甲が、その所有の建物を乙に賃貸して引き渡し、賃貸借継続中に、右建物を丙に譲渡してその所有権を移転したときは、特段の事情のない限り、賃貸人の地位も丙に移転し、丙が乙に対する賃貸人としての権利義務を承継するものと解されていることは、法廷意見の説くとおりである。甲は、建物の所有権を丙に譲渡したことにより、乙に建物を使用収益させることのできる権能を失い、賃貸借契約上の義務を履行することができなくなる反面、乙は、借地借家法31条により、丙に対して賃貸借を対抗することができ、丙は、賃貸借の存続を承認しなければならないのであり、そうだとすると、旧所有者甲は賃貸借関係から離脱し、丙が賃貸人としての権利義務を承継するとするのが、簡明で合理的だからである。
2 しかし、甲が、丙に建物を譲渡すると同時に、丙からこれを賃借し、引き続き乙に使用させることの承諾を得て、賃貸(転貸)権能を保持しているという場合には、甲は、乙に対する賃貸借契約上の義務を履行するにつき何の支障もなく、乙は、建物賃貸借の対抗力を主張する必要がないのであり、甲乙間の賃貸借は、建物の新所有者となった丙との関係では適法な転貸借となるだけで、もとのまま存続するものと解すべきである。賃貸人の地位の丙への移転を観念することは無用である。賃貸人の地位が移転するか否かが乙の選択によって決まるというものでもない。もしそうではなくて、この場合にも新旧所有者間に賃貸借関係の承継が起こるとすると、甲の意思にも丙の意思にも反するばかりでなく、丙は甲と乙に対して二重の賃貸借関係に立つという不自然なことになる(もっとも、乙の立場から見ると、当初は所有者との間の直接の賃貸借であったものが、自己の関与しない甲丙間の取引行為により転貸借に転化する結果となり、乙は民法613条の適用を受け、丙に対して直接に義務を負うなど、その法律上の地位に影響を受けることは避けられない。特に問題となるのは、丙甲間の賃貸借が甲の債務不履行により契約解除されたときの乙の地位であり、乙は丙に対して原則として占有権限を失うと解されているが、乙の賃貸借が本来対抗力を備えていたような場合にはそれが顕在化し、丙は少なくとも乙に対しても履行の催告をした上でなければ、甲との契約を解除することができないと解さなければならないであろう。)。
3 本件は「不動産小口化商品」として開発された契約形態の一つであって、本件ビルの全体について、所有者アーバネットから39名の持分権者らへの売買、持分権者らから上告人への信託、上告人と芙蓉総合との間の転貸を目的とする一括賃貸借、芙蓉総合とアーバネットとの間の同様の一括転貸借(かかる一括賃貸借を原審はサブリース契約と呼んでいる。)が連結して同時に締結されたものであることは、原審の確定するところである。これによれば、本件ビルの所有権はアーバネットから持分権者らを経て上告人に移転したが、上告人、芙蓉総合、アーバネットの間の順次の合意により、アーバネットは本件ビルの賃貸(右事実関係の下では転々貸)権能を引き続き保有し、被上告人との間の本件賃貸借契約に基づく賃貸人(転々貸人)としての義務を履行するのに何の妨げもなく、現に被上告人はアーバネットを賃貸人として遇し、アーバネットは被上告人に対する賃貸人として行動してきたのであり、賃貸借関係を旧所有者から新所有者に移転させる必要は全くない。すなわち、本件の場合には、上告人が賃貸人の地位を承継しない特段の事情があるというべきである。そして、この法律関係は、アーバネットが破産宣告を受けたからといって、直ちに変動を来すものではない。
賃貸借関係の移転がない以上、被上告人の預託した本件保証金(敷金の性質を有する。)の返還の関係についても何の変更もないのであり、賃貸借の終了に当たり、被上告人に対し本件保証金の返還義務を負うのはアーバネットであって、上告人ではないということになる。被上告人としては、アーバネットが破産しているため、実際上保証金返還請求権の満足を得ることが困難になるが、それはやむをえない。もし法廷意見のように解すると、小口化された不動産共有持分を取得した持分権者らが信託会社を経由しないで直接にサブリース契約を締結するいわゆる非信託型(原判決11頁参照)の契約形態をとった場合には、持分権者らが末端の賃借人に対する賃貸人の地位に立たなければならないことになるが、これは、不動産小口化商品に投資した持分権者らの思惑に反するばかりでなく、多数当事者間の複雑な権利関係を招来することにもなりかねない。また、本件のような信託型にあっても、仮に本件とは逆に新所有者が破産したという場合を想定したとき、関係者はすべて旧所有者を賃貸人と認識し行動してきたにもかかわらず、旧所有者に対して法律上保証金返還請求権はなく、新所有者からは事実上保証金の返還を受けられないことになるが、この結論が不合理であることは明白であろう。
4 以上の理由により、私は、被上告人の上告人に対する保証金返還請求を認めることはできず、原判決を破棄し、第1審判決を取り消して、被上告人の請求を棄却すべきものと考える。
(裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)
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大田区大森西地域で40年余、賃借中の木造瓦葺2階建1棟1戸建の内、階下約13坪の店舗兼居宅を先日明渡した。当日現地で借主のAさんも家主も笑顔で残金の精算に立ち会った。
永い年月の中には、貸主とのトラブルも2、3度は生じたという。平成4年には大雪と地震で壁の一部が欠落し、補修を求めたが家主は応じず、借主が行なうも家主代理人弁護士より、工事中止の書面が送付されたが最小限の工事を実行する。また、平成18年には家賃の増額と更新料の請求を受けて、永年据え置いてきたことや、近隣の家賃等と比較して8割増額でも家主は応じず、供託することになった。しかし、家賃の供託は長期にならず短期間で持参払いなった。時の流れは家主側に変化が生じて、息子らが相続することとなった。
長期の遺産相続の協議も整え、同一建物の2階に住む新たな家主との関係は友好なものとなった。東日本大震災の老朽化の建物への影響は大きく、昨年夏頃家主より建替えたいとの打診があり、後日工事を依頼された建築業者との協議となった。Aさんは自分も高齢であり、この建物では地震は怖いと明渡しに応じることにした。協議は順調に進み、補償金に明渡猶予期間(6カ月)の家賃の支払免除、処理に経費の係る残置物の処理は家主の責任で行なうとの内容で合意した。
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板橋区の東新町に住むAさんは親の代から借地して住んでいた。20年前には親が地主の代理人と称する不動産屋に脅かされて400万円の更新料を支払ってしまった。今年の3月に入って、地主の夫婦が突然訪ねてきて「更新料を他より安くしたから支払え」と捨てぜりふのように言って帰って行った。
その数日後、地主の代理人と称する不動産会社から契約期間が満了したので更新料を支払って更新するよう文書が送られてきた。ただちにインターネットで調べて組合事務所に相談に来た。
事務所ではAさんの相談で「契約書の中身をみても更新料支払うという約束事がないこと」などを確認し、昭和51年の最高裁判決や昨年出版した「更新料解決マニュアル・その更新料支払う必要ありません」(東京借地借家人組合連合会+東借連常任弁護団 株式会社旬報社)の本を示し、更新料を支払う必要がないことなどを確認し、拒否する決意をかためてもらった。
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