90歳女性が内科クリニックから腹部腫瘤で当院消化器科に紹介された。腹部造影CTで腹腔内に9cmと7cmの球形腫瘤を認めた。担当した若い消化器科医から相談されて、CT画像を見た。右側の9cmの腫瘤は上行結腸を、左側の腫瘤は下行結腸をそれぞれ圧排している。腸閉塞にはなっていない。腫瘤は内部はほぼ均一に軽度造影され、血管と思われる樹枝状構造がある。その他は小~中リンパ節腫脹はなかった。消化管由来の腫瘍とは考えにくく、悪性リンパ腫かと思われたが、2個だけというのは違和感がある。開腹して生検というわけにもいかないので、とりあえず消化管の検査をしましょうかということになった。胃壁が厚く造影されていて、放射線科の読影はMALTリンパ腫疑いとあった。
上部消化管内視鏡検査で胃底部から胃体部にかけて粘膜浮腫状で襞が退縮していた。生検の診断はMALTリンパ腫だった。限局性胃MALTリンパ腫だと、ピロリ菌除菌ということになるが、腹腔内に巨大なリンパ節腫脹(腸間膜リンパ節だろう)をきたすような進行性のものは考えたことがなかった。それでも治療はまずピロリ菌除菌になる。低悪性度なので進行が年単位で自然寛解する場合があること、根治できる治療がないことから、高腫瘍量と判断された場合に、多剤併用療法や化学療法単独治療を行うらしい。この患者さんはそれに当てはまるが、年齢が90歳(もうすぐ91歳)だった。除菌以外のことについては、家族と相談して決めることになった。