Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『三月大歌舞伎『元禄忠臣蔵』夜の部』 1等1階花道寄り

2009年03月20日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎『元禄忠臣蔵』夜の部』 1等1階花道寄り

昼夜観ての感想ですが、トータルとしては国立3ケ月公演のほうが戯曲に忠実に丁寧にしていた&脇の脇までしっかり演じていて芝居としての緊張感が上だったと思う。ただ、歌舞伎としての雰囲気、そして主役級の役者たちの熱の入りようは今月の歌舞伎座のほうが上。そういう意味では歌舞伎座さよなら公演で上演した価値は大いにあり。

『南部坂の別れ』
大石内蔵助@團十郎さん、少し痩せられましたね。でもお元気そうですっきりしたお顔にシャープさがあり大石の拵えが似合っておりました。肚に秘めたものというよりは少しばかり揺れがストレートに出すぎかなと思う部分もあれど、我慢に我慢をというところが非常によく伝わり良かったです。台詞は少々重い感じですが情感がありました。

瑶泉院@芝翫さん、浅野内匠頭の奥方というよりお母様な雰囲気は否めず。しかしならが格の高さのなかに情味を見せる部分は見事。

羽倉斎宮@我當さん、直情型の熱い羽倉斎宮を強い口跡で表現し、大石内蔵助と見事に対照的なキャラクターを造詣して印象に残します。しかしお膝の調子がよろしくないのでしょうね…時々ハラハラ。ただ雪の中の芝居なのでうまく傘を使い、違和感をそれほど感じさせなかった工夫はさすがでした。

落合与右衛門@東蔵さん、細かいところに気付き屋敷のなかできちんと目配りをしている人物というのが伝わりいいですね。

腰元おうめ@芝雀さん、赤の着物が似合い可愛らしかったです。瑶泉院の気持ちを代弁するかのようにおせっかいな語りをする役回りですが押し付けがましくなく品のいいところが芝雀さんらしいです。

腰元夜雨@高麗蔵さん、みゆき@芝のぶさん、赤穂からのご奉公しにきたという女たちという可愛らしさがあってなんだか印象に残りました。

『仙石屋敷』
大石内蔵助@仁左衛門さん、皆が褒めるので期待しすぎたかも?個人的には少々力みすぎでは?とか思う部分あり。口跡がよく緩急つけた台詞でお調べに対してまったく臆することなく赤穂側の理を述べていく様は見事だし、情景描写は上手いし、仇討ちにかける強い思いが伝わるものではありましたし泣かせてきます。しかし個人的にはこの場面ではもっと肩の力を抜いてほしい。仇討ちし終わった安堵感とかあんまりみえないというか…あまりに強すぎて今から仇討ちに行きますって感じがしてしまうのです。息子、主税との別れの場はしみじとして良かったです。

仙石伯耆守@梅玉さん、赤穂シンパの代弁者としての捌き役。楽しげで爽やか。昼の部で浅野内匠頭でしたのでこのお役で鬱憤を晴らせるのではないでしょうか。

吉田忠左衛門@彌十郎さん、気骨ある老人として存在感がありました。今月の彌十郎さん、明快な台詞術と人物造詣で非常に目立ちました。大当たりでしょう。

桑名武右衛門@錦吾さん、何気ない風情のなかに赤穂浪士への心配りが垣間見られて良かったと思います。

富森助右衛門@男女蔵さん、こういう芝居での男女蔵さん、なんだか好きです。

大石主税@巳之助くんは芝居はなかなか良いんだけど控えてる時の姿が首が曲がって少々かっこ悪いかも。背筋が曲がってるのかな?早めに矯正したほうがいいと思う。

『大石最後の一日』
大石内蔵助@幸四郎さん、内蔵助はなんだかんだ言って当代一だなと感じ入りました(not由良之助)。台詞の利かせ方がやはり上手いのと大きさのある存在感が見事。淡々と静かに押さえながらも人間味溢れる大石。肩に力が入っておらず、迷い迷い来た道を初一念でやりとげた充実感を身に纏った凛とした存在の大石でした。そのなかにリーダーとして傑出たりえた芯の強さと人への目配りがある。大石が口にする「初一念」という言葉が今回すんなりと納得できたような気がします。また、おみのと磯貝のためにどうにかして迷いを晴らしてあげようとする姿に、懐の深さとともに優しさを感じました。

磯貝十郎左衛門@染五郎さん、青年らしい揺れのある磯貝で良かったです。だいぶ前に演じた時に比べて段違いにしっかり磯貝十郎左衛門として存在してました。江戸育ちの風流を解する優男ながら一途に義に殉じる。義のために非情にならざる負えなかった一途さのなかに、人としての情の部分で後悔の念を抱く、そういう心の揺れを繊細に表現していたと思います。ラストの切腹の向かう場での惑いが消えた凛とした顔と姿がなんともかっこよかったです。

おみの@福助さんは…私的には疑問の残るおみの像でした。芝居が上手いので力技で泣かせてはきますが、あれじゃ武士の娘じゃなく町娘?乙女心のほうを押し出してきたのだとは思うのですがなぜあんなにクネクネしてしまうのでしょう?なぜあんなに甘ったれた口調になるのでしょうか?仮にも気骨ある武士の娘ですよね?凛として欲しかったです。。染五郎さんが秘めた想いを押し殺した透明感のある芝居をしているのので、おみのが一人空回りしているようにみえてしまい、全然合わない…。

前回、国立の通し上演の時、幸四郎さんは錦之助さん(磯貝)と芝雀さん(おみの)にかなりラブラブモードで演じさせました。しかし今回、二人の距離が短いラブラブモードの演出がなかったです。でも福助さんの芝居では、この演出をするとクドくなると止めたんじゃないかと思います。私は福助さんにはもう少し押さえて芝居をして欲しかったです。

堀内伝右衛門@歌六さん、それほど老けとして演じてこず手強さが備えた伝右衛門像でした。世話焼きな部分と親友の乙女田杢之進を思う義侠心がよく出ていたと思います。ただ、個人的にはもう少し大らかさというか少し気を抜けさせるような空気も欲しいかな。それと、伝右衛門は単純におみの親子を心配して、おみのを手引きしたように思うんですがそういう単純さがみえたほうがいいなとか。

細川内記@米吉くん、大きくなりましたねえ。しっかりと台詞が通り、なかなか良い感じかと。