Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『壽初春大歌舞伎 夜の部』1等A席前方センター

2013年01月19日 | 歌舞伎
新橋演舞場『壽初春大歌舞伎 夜の部』1等A席前方センター

夜の部、とっても良かったです。特に「七段目」が素晴らしかった。

『ひらかな盛衰記 逆櫓』
物語として見ると文楽のほうが面白く拝見できる演目のひとつかなと個人的には思うのですが歌舞伎にある個に落とす情味の部分や華やかさの部分はやはり面白く拝見できます。

権四郎@錦吾さん、とても心に沁みました。孫可愛さの情味、そしてその孫の犠牲のうえにたつ若君を救うその心持ち。芯にある優しさゆえの行動原理が胸にスッと入ってくる造詣でした。

お筆@福助さんのも見事だった。心の揺れが手に取るようにわかる。お筆のキャラにここまで納得できるとは、でした。

およし@高麗蔵さん、凛とした強さがありピタリと役にはまる。

松右衛門実は樋口次郎兼光@幸四郎さん、押し出しの強さでみせる。立ち廻りなどさすがの華やかさ。でも少しお疲れかも。頬がこけてました…。声はよく出ているもののしっかりと台詞が前に出てこない部分も。といっても七段目では台詞は立っていたので「逆櫓」の時間帯が一番しんどいのかも。


『仮名手本忠臣蔵 七段目 祇園一力茶屋の場』
大顔合わせの素晴らしい舞台でした。かなり密な濃い空間での芝居になっており見応えがありました。

由良之助@幸四郎さん、重厚な存在感と仇討を秘めた憤怒の有り様が圧倒的でした。鷹揚な酔いのなかに一本筋の通った鋭さを秘める由良之助です。七段目の幸四郎さんの由良さんのなかでも今回は非常に骨太さがあってとても良かったです。

お軽@芝雀さん、最初の出のところで雀右衛門さんの面影と重なる。それだけの存在感が出てきたということでしょう。情味の艶やかさと勘平一途な激情。細やかな感情が伝わる台詞廻しと可憐な佇まいが「お軽」という存在に立体感を与えていた。ほんとにお見事。

平右衛門@吉右衛門さん、貫禄がありすぎるのでは?と危惧しておりましたが流石の出来。足軽の悲哀とやるせなさがストレートに伝わってくる。吉右衛門さんの丸本物は最強だね、と思った本日。台詞回しの自在さに舌を巻きました。

力弥@廣松くん、柔らか味があり端正。花道での密書のやりとりのとこで転んでしまったのだけどすぐにリカバリーできていて違和感を感じさせず。それだけ力弥になりきっていた、ということ。ほんとに良い出来でした。

富森助右衛門@廣太郎くん、まだ型どおりながら丁寧にしっかりと演じていました。場になじんでいたのがとても良いです。

『釣女』
楽しくて気持ちのよい打ち出し。

太郎冠者@又五郎さんと醜女@三津五郎さんはやはり踊りが巧い。このコンビ、端正同士で少し地味だけど二人揃うと巧さがうまく噛み合っていい感じ。

大名某@橋之助さんはかなり疲労度がみえて…切ない。上@七之助くんが綺麗でジワが出ていた。ほんとますます美女ぶりに磨きがかかってきたかも。