Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『歌舞伎鑑賞教室『鳴神』』 1等席2階センター

2010年06月13日 | 歌舞伎
国立大劇場『歌舞伎鑑賞教室『鳴神』』 1等席2階センター

『歌舞伎のみかた』
解説の宗之助さんは語り口が柔らかでわかりやすい。しかし、歌舞伎のお約束の部分を盛りだくさんに一通りが~っと説明していって丁寧なんだか雑なんだか、ここを説明するぞ、ってところのメリハリがあまりなく全体に平坦。ちょっと台本がよろしくないような…。また、観客二人を舞台にあげて色々やらせるんだけど、あれこれやらせすぎ。もっと減らしてもいいと思う。慣れてない人が一生懸命やってるのは微笑ましいけど…。『鳴神』の物語への前振りもなんとなく中途半端な構成。途中から少し飽きました。

『歌舞伎十八番の内 鳴神』
孝太郎さんも愛之助さんも口跡がいいし、判りやすく演じようという意識も見られる芝居で内容は判りやすかった。でも、その分薄味に感じました。この演目自体は華やかで判りやすいので初心者向けのだとは思うし、悪くはなかったのだけど、なんというか濃い空気感というかこの演目にあるワクワク感が少なめだったかな。

絶間姫@孝太郎さん、どういう立場の姫かって部分での芝居としてはとても良い良かったと思う。内裏に使える姫としての格や怜悧さのバランスがよく、また特に身体の使い方が相変わらず非常に丁寧で決まりの姿がハッとするほど美しかったりもした。でも造詣や動きがいいのに肝心の台詞に緩急があまりなくて芝居のメリハリがついてない。全体に平坦な感じになって、絶間姫の魅力が浮き立ってこない感じ。もっと台詞の緩急が上手い人だと思うのだけど、今回は台詞を言うのでいっぱいいっぱいな感じ。

緩急がないために馴れ初め語りの情景が立ってこないし、なにより鳴神に聞かせようという意識が根底に無いというか、誰に語ってるのかな?という雰囲気に。騙そうという意識を見せないのと誰に向かって語ろうとしているのかという意識は違うと思うんですよね。鳴神や黒雲坊、白雲坊に聞かせてる感じがしないのでこの語りに鳴神上人が思わず聞きほれる、という説得力が薄くなっていた感じがしました。絶間姫だけがその舞台いるというように見えてしまいました。この部分は絶間姫の見せ所だからいいのかなとも思いましたが、あの後の絶間姫と鳴神の力関係を見せる部分がちょっと際立たない感じでした。鳴神にお酒を飲ませる場の台詞のなだめすかしのところが意外と盛り上がらなかったのはそのせいかなと。とりあえず、緩急のつけ方をもっと工夫してほしいです。あと、恋する男のために使命を帯びてきたという恋する乙女の部分もそこはかとなく感じさせてほしかったかな。鳴神を騙すという部分に一直線すぎる感じというか。全体的にはキッパリとして意思が強い魅力的な姫だけになんだかもったいなかったです。

鳴神@愛之助さん、全体的に線が太くキャラに骨太さがあります。台詞廻しも仁左衛門さん写しで安定感があります。すべての声がきちんとよく出ている。しかし、どことなく全体に卒なくこなしてる感じも。十分な出来だとは思ったんですが物足りなさも感じました。なんといいますかちょっと俗ぽい鳴神だったかなあと。「青さ」がなくて、純な可愛いさがあまりないというか。高僧としての品はきちんとあったと思いますが、佇まいが世俗のことよ~く存じておりますって雰囲気。浮世離れしたとこがない。私は鳴神は「浮世離れ」した「青さ」があってこそ、と思うんですよね。そこがあるから、破戒した時の落差が際立つ。しかし愛之助さんには、その落差の面白さがありません。絶間姫@孝太郎に酒を飲まされる部分でのやりとりの面白さがもうひとつ際立たなかったのは絶間姫@孝太郎の緩急の部分だけでなく鳴神@愛之助さんの人物造詣の部分でも足りない部分かなあ。

それと、騙されたと知って怒り狂う場が全体的に少々迫力不足。見得に溜めがないのと、決まりの溜めが少ないので勢いが減じてる。立ち回りももう少し大きさが欲しいし、六法も腰が決まりきってないので勢いが足りない。飛ぶように行って欲しかった。

白雲坊@松之助さん、黒雲坊@橘太郎さん、ほどのよい滑稽味があり安心して拝見。