Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『さよなら公演 御名残四月大歌舞伎 第一部』 1等1階センター上手寄り

2010年04月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 御名残四月大歌舞伎 第一部』 1等1階センター上手寄り

『御名残木挽闇爭』
『曽我対面』をベースにし、歌舞伎座の立替えと三年後の再開を台詞に入れ込んだ中堅・若手のだんまり。若手役者たちが勢揃いで華やか。

舞鶴@時蔵さん、若手のなかに入ると引率の先生?な感じ(笑)。さすが貫禄、存在感ありました。

悪七兵衛景清@三津五郎さん、だんまりですと踊り上手というのがまざまざと判ります。特に引っ込みの六法が綺麗でさすが。

典侍の局@芝雀さん、楚々として可愛らしく、雀右衛門さんに似ていらっしゃいました。

工藤祐経@染五郎さん、工藤にしては少々線は細いですが立ち姿の肩から背中のラインの美しさが格別。声にハリがあり台詞廻しもよく、きちんと貫禄を出せていました。染五郎さんの工藤だけいわゆる白塗りではなく砥粉含んだ色合い。何かこだわりがあるのでしょうか?染五郎さんのだけ全体のなかで彩度が低めな色合いになってて面白かったです。工藤は確かに全体的に彩度低めではあるんだけど、普通の白塗りのイメージなんだけどなあ。う~んと、最近では富十郎さん普段の工藤の拵えと違ってたのが印象に残っているけど顔の色はどうだっけ?

曽我十郎@菊之助さん、品がありひとつひとつの形が綺麗です。特に肩のラインが以前よりかなり柔らか味を出せるようになっていたと思います。

片貝姫@七之助さんが非常に可愛らしく華やかでした。

あとは秩父庄司重忠@松緑は丁寧に、大磯の虎@孝太郎さんはきちんと格があり、朝比奈@勘太郎くんは腰の入りっぷりが見事で、鬼王新左衛門@獅童さんは大人しかったです…。

民部@團蔵さんはあがってしまったのか台詞つっかえ、若干キレ味なし。


『熊谷陣屋』
役者が揃い大舞台でした。終始緊密な空気が流れていて非常に見ごたえあり。

熊谷直実@吉右衛門さん、大きさのある骨ぽい熊谷でした。前回演じた時より「父としての顔」の部分を押さえ気味。かえって苦悩が浮き出た感じがしました。花道での引っ込みになんともいえない悲哀と無常感が流れていた。後半、頭をまるめ僧侶姿になったときの顔の拵えが、ほぼ素顔に隈を取った拵えだったように思う。汗で流れたのをそのまま、だったのかもしれませんが、そのお顔が壮絶で、観ていて胸が締め付けられました。二代目として、ご自身の熊谷に到達したな、とそう感じた舞台でもありました。

弥陀六@富十郎さん、素晴らしかったです。弥陀六という人物の輪郭がくっきりと浮かんできます。また台詞の伝え方がお見事。情景や心持ちがストレートに伝わってきます。また膝がお悪いための工夫もまったく違和感なく、また衣装も富十郎さんならではの渋い色合いで品のある美しい色あい。

相模@藤十郎さん、芯のしっかりした気持ちが強い相模でした。母としての嘆きは、ただひたすら嘆くのではなく、母として子を死なせてしまった悔しさもあったように思う。そこに武将の妻としてのやるせなさがあった。小太郎の首を抱える形が非常にリアルです。また色気があるので熊谷との若い時の恋愛模様が透けてみえてくるのが面白かったです。

相模はやっぱり雀右衛門さんのが一番好き。あとは芝翫さんの母性溢れる嘆きもかなり印象に残る。この二人だな、今のとこ。

藤の方@魁春さん、藤十郎さん相手に品格がお見事。さりげない芝居なのですが細かい部分のひとつひとつに藤の方の想いがしっかり入っていて敦盛の母としての気持ちが伝わってくる。

源義経@梅玉さん、さすが義経役者です。品格といい愁いといい、佇まいに説得力があります。また、ふとした台詞回しに柔らかさを加え、情味をみせてきます。上手いですね。

堤軍次@歌昇さん、熊谷直実の部下としての立ち居地のバランスが非常に良いです。そうそう軍次はこうじゃなくちゃ、と思わせてくれます。
             
『連獅子』
久しぶりだったので、そうだ、これが中村屋の三人連獅子だったねえ~~という感じでした。三人なので華やかです。毛振りは今日はそれほどシンクロせず、だけどそこがまた個々の個性がよく出てて、中村屋の連獅子はシンクロという固定観念から外してくれたその部分を非常に面白く感じました。息子二人のそれぞれの個性が頼もしく、しかし親がまだまだ先を行くという雰囲気で(^^)

親獅子@勘三郎さんがやっぱり息子二人とはまだまだ違う次元にいるなと思いました。以前より肩の力が抜け、流れるような踊り。そして身体全体の形のなかに想いが込められている感じがしました。ことさら表情をつけているわけではないのに伝わってきます。前シテでは個人的に先代勘三郎さんにこれほど似ていたっけ?と。それほど先代を彷彿させる表情。獅子になってからは勘三郎さんは獣性を強く出される。そこに異の空間をみせてくれて凄いんですよ。これはまだ息子二人には無いです。毛振りは前ほどの勢いはありませんが、それでもまだまだ息子と同じくらいの勢いで振ってくるのが見事。しかも軌道が本当に美しくいっさいブレません。

子獅子@七之助さん、私が拝見したこの日は集中度が凄かった。非常にキレがよく、気持ちいほどピタっと形が決まっていく。とても端正な素直な踊りで伸びやか。以前に比べ相当な成長ぶりを見せてくれました。毛振りも腰が安定し、柔らかに美しく廻して、軌道が絶えず綺麗でした。ラスト、スピードアップした時は若さを見せ付け鋭い毛振り。

子獅子@勘太郎は相変わらず身体能力の高さが踊りに直結していて、天性の上手さを感じさせます。力強いです。今回は上半身の動きが以前と違うなと感じました。ひたすら素直でまっすぐな踊りという部分からか色(個性)がついてきた。勘太郎くんならではの独特の柔らかさと大きさが個性として表現されている。ただ悪い意味ではなく、まだその色が安定してないなという部分もありました。勢い込んでの部分に少し肩の力が入っているというか。毛振りの勢いと、毛先の上がりっぷりは断然、勘太郎くんでした。ただ軌道が時々ぶれたのが珍しい。膝の怪我のせいで上半身と下半身のバランスがまだ少し上半身に偏ってしまっているのかな?とか思いましたが、どうなのかな?

間狂言は二人とももう少し落ち着いてほしいと思いました…。

しかし中村屋さんは『三人連獅子』しかやらないんでしょうかね?勘三郎さんが動けるうちに息子個々と二人連獅子をやっていただきたいのだけど。