ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 吉田千亜著 「ルポ 母子避難ー消されゆく原発事故被害者」 (岩波新書2016年2月)

2017年05月22日 | 書評
子供を守るため自主避難した原発事故被害者への、住宅供給政策と生活支援策の切り捨て 第8回 最終回

4) 帰還か避難継続か 自主避難者への住宅提供打ち切り

 自主避難者が悩む問題に、子どもの幼稚園とか小学校入学を区切りにして帰還するか、このままもう少し避難を継続するかが重く自問自答する日々が続くことである。2013年11月「いわきの初期被曝を追求するママの会」はいわき市長に「地産地消の取り組みを辞める要望書」を手渡した。学校給食による内部被ばくの危険性は、自主避難者の母親にとっていわきに帰るか帰らないかの重要な基準になる。2014年12月いわき市教育委員会は学校給食に使用していた北海道産米をやめ、いわき産米を使用する方針を出した。夫が避難先で職を求めて同居して避難を継続するか判断は極めて難しい。だから家族一緒の生活が望ましい観点で子供の入学期に合わせて帰還する避難者もいる。福島県に戻る場合は、元居た家には帰れない人には借り上げ住宅を新たに無償で利用できることになっている。しかしいわき市でも北部に自宅がある人が、被曝が多少とも少ない南部を希望した場合、「自宅と同じ市内に戻る場合は借り上げ住宅の無償利用は適用されない」ということであった。2014年8月「子ども脱被曝裁判」が、国と福島県の責任を追及するため提訴された。自主避難をしたのは、身勝手な判断という自己責任ではなく、原発事故の恐怖による行動であるということを「自主避難者のための原発ADR説明会」で避難者は訴え、東電の責任を問うた。2014年3月東京郊外の公営住宅に住む自首避難者の母親に、「老朽化した公営住宅を数年後に取り壊すので、都営住宅に移っていただきたい」という説明会の案内が東京都から届いた。2015年4月東京都は都内の全避難者に対して「都営住宅の申し込みについて」というお知らせを発送した。都営住宅の当選倍率が天文学的に高く、ほとんど「ここから出ていけ」と同じようである。借上住宅の終了が、そのまま避難生活の終了になるという不安を多くの避難者が口にしていた。高い家賃を払って東京に住むには、それなりの収入が必要であるが、夫が東京で職を得ることはさらに難しい。2015年5月17日朝日新聞が「自主避難者への住宅供給終了、2016年度内に」というニュースを、福島県より先に報じた。住宅供給打ち切りの報道の後、多くの市民団体の抗議活動が始まった。東京に住む「ひなん生活をまもる会」は署名44978筆を福島県庁へ届けたばかりのことであった。5月20日環境NGOが衆議院会館内で「住宅供給打ち切り方針撤回を求める緊急集会」を開催した。5月24日福島県二本松市で「原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)」の発足集会が開かれた。そこで避難者の切実な発言があった。5月28日全国の避難者支援団体集会が行われ「県外避難者の生活再建に関する要望書」を福島県に提出した。日本弁護士会も「無償提供終了に反対する声明」を発表した。集会や要請行動は6月以降も続けられた。6月9日には「ひなん生活をまもる会」は院内で反対集会を開いた。これに対して、原発の終息宣言と同じように、避難終了を印象付ける復興方針を2015年6月12日の閣議で決定した。そのなかで「避難指示の解除と帰還に向けた取り組みを拡大する」ことがあった。その3日後の6月15日福島県は、自主避難者に対する避難先での住宅無償提供を2017年3月で打ち切ることを正式に発表した。福島県は打ち切りと同時に、福島県への引っ越し費用の補助、低所得者への家賃補助、公営住宅確保、コミュニティ強化の4つの施策を発表した。7月10日復興庁は「子ども・被災者生活支援法」の基本方針の改定案を発表した。そこには「避難指示区域外の地域から避難する状況にはない」と明示し、指定地域外からの自主避難の根拠を否定した。福島県は2015年12月7日、県外の自主避難者が県内に戻るための引っ越し費用補助を最大10万円とし、期限は2017年3月町までとすると発表した。これに対して自主避難者は「私達自主避難者は棄民です」と抗議した。「今避難しているのは原発事故のせいだし、国と東電と福島県の責任でもあります。」という。

(完)