サンサン
「伊勢湾台風!」。きんさんとぎんさんは口を合わせてそう言った。テレビのインタビュー番組で、「今まででいちばん怖かったことは……?」という質問への答えだった。今でもその言葉が耳の底で響いている。
「あんたは、台風がくーと元気になーね」。先日、台風十三号が近づいてきたときに妻がそう言った。事実、私はきんさん、ぎんさんと同じように平成三年の台風十九号の吹き戻しの怖さが身に染みていた。夜凄まじい音をたてて強風が吹き荒れた。朝起きて見ると、電信柱がたくさん倒れていた。わが家の車庫のシャッターがぐにゃっと曲がっていた。確か瞬間最大風速五十六メートルだったと思う。だから十七日の昼過ぎになると玄関先に置いている鉢物をせっせと中にしまったり、テレビやパソコンで予想進路を確認したり、おまけに夜はラジオにかじりついていたのである。そんな私の姿を見ていて、妻はこっけいに思ったに違いない。
それはともかく、私は各種のメディアの台風情報提供のあり方について考えていたのである。予想進路についての情報はインターネットの「ウェザーニュース」が正確だった。九州に近づくにつれて少しずつ北よりに進路を変えていく様が手に取るように分かった。テレビは通過地点のライブで強みを感じた。また、床に就いたらイヤホンでラジオを聴くに限る。しかし、私は視聴していて何か不満や疑念が湧くのを感じた。
それは、被害を少なくする具体的な方策については漠然とした情報しか報じられていないことである。また、死者が出るような自然現象なのにかわいい名前を付けるのもどうかと思った。サンサン。これは香港で名付けられた。少女の名前だそうだ。 (2006投稿)
「伊勢湾台風!」。きんさんとぎんさんは口を合わせてそう言った。テレビのインタビュー番組で、「今まででいちばん怖かったことは……?」という質問への答えだった。今でもその言葉が耳の底で響いている。
「あんたは、台風がくーと元気になーね」。先日、台風十三号が近づいてきたときに妻がそう言った。事実、私はきんさん、ぎんさんと同じように平成三年の台風十九号の吹き戻しの怖さが身に染みていた。夜凄まじい音をたてて強風が吹き荒れた。朝起きて見ると、電信柱がたくさん倒れていた。わが家の車庫のシャッターがぐにゃっと曲がっていた。確か瞬間最大風速五十六メートルだったと思う。だから十七日の昼過ぎになると玄関先に置いている鉢物をせっせと中にしまったり、テレビやパソコンで予想進路を確認したり、おまけに夜はラジオにかじりついていたのである。そんな私の姿を見ていて、妻はこっけいに思ったに違いない。
それはともかく、私は各種のメディアの台風情報提供のあり方について考えていたのである。予想進路についての情報はインターネットの「ウェザーニュース」が正確だった。九州に近づくにつれて少しずつ北よりに進路を変えていく様が手に取るように分かった。テレビは通過地点のライブで強みを感じた。また、床に就いたらイヤホンでラジオを聴くに限る。しかし、私は視聴していて何か不満や疑念が湧くのを感じた。
それは、被害を少なくする具体的な方策については漠然とした情報しか報じられていないことである。また、死者が出るような自然現象なのにかわいい名前を付けるのもどうかと思った。サンサン。これは香港で名付けられた。少女の名前だそうだ。 (2006投稿)