とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

18 試練

2015-03-28 16:32:57 | 日記


 お父さん、助けてください。・・・闇の中からそう呼ぶ声が聞こえました。女の声、しかも炎に包まれています。おおっ、花りん !!  ど、どうしたんだ !! 私はそう声を発しながら、身動きできない自分の体をもどかしく思っていました。炎はどんどん広がっていきます。

 「お父さん、助けてください !! 」

 「花りん、私の柱につかまりなさい。よじ登るんだ !!」

 花りんは必死に私に近づこうとします。しかし、煙のような炎のような渦が巻きついてなかなか進めません。私には娘がもがく姿を見ているだけで気を失いそうになりました。

 「そうだ、雨だ。雨よ、・・・どうか降ってくれ」

 私には、そう叫ぶことしか苦しさから逃れる術はありませんでした。

 「地蔵さん、神さま、どうか、どうか・・・」

 娘は、やっと私の足に掴まることができました。おおっ、よかった。早く這い上がれ !!
私は叫び続けました。・・・ところが、私の体に火がつき燻り出しました。私は熱さをこらえながら娘が登るのを見守りました。そのうちに私の体も火を吹き始めました。

 「花りん、・・・お父さんを許してくれ。お前を守れない」

 「お父さん、ありがとう。こうしてつかまっていると、熱くなんかない」

 「ごめん、ごめん、今までたくさん苦労をかけてきた」

 「ここで、一緒に燃えてしまお」

 「なんとかして、お前だけは助けたい」

 「いいの、ここで一緒にいるだけで」

 「花りん、ごめん、ごめん」

 そのときでした。雷鳴がとどろき、雨が降り出しました。

 「花りん、雨だ、雨だ !!」

「火が、火が消えていく !!」

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17 風 水

2015-03-22 23:43:51 | 日記



 「・・・況や悪人をや」

 「だれです、そんなことを言うのは」

 「万物すべて仏事をなすによって・・・、風水の利益を蒙る」

 「風水の利益(りやく)?」

 「はははっ、わしじゃ、わしじゃ」

 「なんだ、六地像さんですか」

 「なんだ、とはなんだ。お前も口が悪くなったのう」

 「京子と出会って、昔のことを思い出していました」

 「その京子だが、これからすごいことになる。・・・すごいこと。そうだ、お前にその姿を見せてやろう。」

 地蔵さんが急にそう仰いました。すると、また京子の姿が現れました。京子の周りにさっきの渦のようなものがまた溢れてぐるぐる取り巻き始めました。

 「京子 !! どこへ行くのだ !!」

 叫んでも返事は返ってきません。渦といっしょに徐々に天空へと進んで行きます。

 「お地蔵さん。京子も私を捨てて、空へ・・・」

 「・・・況や悪人をや」

 「止めてください。・・・京子は神になる・・・ ?」

 「天空の彼方の白蛇の神。・・・すごい修行ぶりだったからのう」

 「修行をしていた ?」

 「そうじゃ、私は、白蛇の修行といものを初めて見た。火の中で身を焼いても悲鳴ひとつ上げなかった」

 「私にさっき絡み付いて登ってきたときは ?」

 「お別れを言いに来たのかも知れない」

 「私を残してみんな何処かへ行ってしまう」

 「はははっ、これからお前の出番が来る。ははっ、そうじゃ、・・・ゆっくり未来を見据えなさい」
 
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16  白い蛇

2015-03-13 00:40:45 | 日記



 ある暮れ方、六地像さんが私に告げました。「今日、白いものがお前の足元から登ってくる。それを怖がって追い払ったりしないように」。私はどういうことが起こるかさっぱり分からないので、ただじっと待ち続けていました。「白いもの ? 何だそれは」そう呟いた途端、足元に絡み付いて登ってくる気配を感じたので、下を見ました。蛇だ !! 私は、ぞくっとしました。「おい、止めてくれ。私を何だと思っているのだ !!」


 「まさか、お忘れではないでしょうね」

 「誰だ !!」

 「ほほっ、私です。・・・京子です」

 「京子 ?」

 「そうです」

 「えっ、じゃ、姿を見せてくれ」そう言うと、蛇は次第に女に変身しました。

 「ああっ、京子 !!」

 「あの女に苦しめられているのを地下から見ていました。・・・私は子どもを殺したりしません。あの女の子ども、・・・そう、貴方の子ども。私は殺したりしません。病気で死にそうになったから、そのとき、子どものそばに私の幻を見た。・・・そうに違いありません」

 「私もそう思いたい」

 「思いたい ?・・・まだ疑っている」

 「いや、・・・つまり、・・・私も苦しいのだ」

 「苦しい ?」

 「苦しい」

 「ほほっ、それほどあの女が好きだった」

 「いや、別れたかった」

 「別れたかった ?」

 「そうだ」

 「子どもを産ませておいて、よくそんなことが・・・」

 「・・・」

 「あなたは電信柱、私は蛇。ほほっ、どっちもどっちですね。ほほっ」

 「何とでも言ってくれ」

 私がそう言うと、辺りの景色がぐるぐると回転し始めました。そして、遠くから鳥の鳴き声が響いてきました。

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15 昇 華

2015-03-02 00:13:56 | 日記



 この地球に一人の女性がいたとしよう。過去世において不倫という罪を犯し、子どもをなし、子どもも母親も死んだとしよう・・・。六地像さんは私に語りかけてきました。

 「相手の男と子どもを愛しているその心は純粋で一途。ただ、男の妻に対しては悪。・・・聖と悪の両面を抱えながら能動的に堕ちていく。・・・そういう女がいたとしよう」

 「それは私のことですか」私は悪夢の恐怖をまだ感じながらそう問いかけました。

 「そうかも知れない。いや、私はじっとお前の過去世を見ていたから、まずもってお前のことを語りだした」

 「そうですか。続けてください」

 「それで、死んだその女はどう転生するのか。・・・ははっ、私はお前が幻影にもがいている姿を見て、はたと気づいた」

 「えっ、どういう・・・」

 「転生・修行を繰り返せば、聖と悪は二面性を持ったまま昇華する。昇華を続けて奇跡的な転生をする。・・・ははっ、やっと私も分かった」

 「聖は悪を剋する。そして、悪は修行の足らぬ相手の中に深く内在する」

 「相手とは ?」

 「お前じゃ」

 「私 ? ・・・ということは・・・」

 「ははっ、今見た過去の幻影がそれじゃ」

 「ああっ、混乱する」

 「はははっ、お前はまだまだ修行が足りない。相手はもう神、姫神となっているというのに」

 「姫神 ?・・・えっ、というと、冴子が姫神に・・・」

 「そうじゃ。・・・姫神が鳥となってさやかと花りんの霊を助けた。ははっ、私はやっと解せた。・・・聖は悪を剋する」

 「冴子が神に・・・。では、京子は・・・」

 「それはいずれ分かるときがくる。我昔所造諸悪業 皆由無始貪瞋癡 従身語意之所生 一切我今皆懺悔」

 「・・・」
 
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