とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

お詫びと感謝

2011-10-26 22:43:15 | 日記
お詫びと感謝







 空き家とか廃屋に憑かれたように憧れる気持ち。これを私はどう解釈していいのか分かりません。今後も新たな空き家を探し求めそうな気がします。しかしその度に多大なご迷惑を関係者におかけすることになことになります。この度の経験で身に染みて分かりました。
 ありがとう長柄さん。ありがとう娘さん。わがままな私を許していただいてありがとう。そして、この拙い物語風の日記を読んでいただいた皆さんありがとう。これからは我が家の生活を中心にあの空き家での繭篭りの生活をときどき交えてこの日記を綴っていきます。
 それから、使った写真は私が撮ったものもありますが、ほとんどは実物に近いイメージの写真を拝借して構成しました。フリーの写真がほとんどですが、中には無断で借用したものもあります。ごめんなさい。何卒ご容赦のほどを。


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後姿

2011-10-25 23:37:06 | 日記
後姿






 夏服で、裸足で、雪野をひとり行く女性の姿。これは私に住み着いた画像である。
 

 長柄さん。家に来た娘さんは今も独身ですか。

 ええ、そうだと思います。でも、見た目若そうな感じだった思いますが、三十くらいですよ。

 いやいや、そうも見えなかったですよ。

 畝本さん、あなたは女性を見る目がないようですね。あれでいて、大変なしっかりものですよ。縁談がいくつかあったんですが、全部断って出ていきました。この土地が肌に合わないようでした。それから、この土地屈指の旧家だということにも反発していたようです。

 それじゃあ、長柄さん、娘さんが大きな原因ですか。

 まあ、表面上はそうとも考えられます。しかし、全く違うかもしれません。何しろこっそり計画的に引越したのですから。

 ご両親は今どうしておられるのですか。

 いや、さっぱり分かりません。調べようとも思いません。

 どうしてですか。

 そっとしておいた方が何事も旨くいくと思うからです。

 そっとしておく。・・・そうですか。

 それしかないじゃないですか。

 ・・・。

 この界隈で空き家になっている家が他にもぽつぽつあります。それぞれ事情が違うと思いますけれど。長柄さんはそう仰った。その言葉を聞いていて私は私の胸の中に大きな空洞ができ、そこに私のすべての心が吸い込まれていくような気がした。そして、裸足でとぼとぼと歩いていく女性の姿がぼんやりと見えてくるようになったのである。もうあれこれ詮索するのは止めよう。真実は常に奥にある。私は、この空き家という空間をしばらくお借りすればいいのだ。そして、掃除をする。それがここに居られる権利を生じさせる。私はそう自分に言い聞かせた。


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椋の樹の家

2011-10-22 22:30:00 | 日記
椋の樹の家






 あれこれ思案しながら手がかりをこの数日探していた。そして、私は椋の樹に改めて注目し始めた。空き家の庭の椋の樹である。

 長柄さん、娘さんと椋の樹と何かしら関係があるように思われますが、・・・。急に私が言い出した言葉に長柄さんは戸惑っているようすだった。

 いやね、この家の歴史というか、代々の重みというか、そんなものに耐え切れなくなったのでは、・・・。

 歴史とか重みと言っても、この樹は数十年の歴史しかありません。と長柄さん。

 もっともです。でも、この樹の母親は千年もの歴史を背負っているのです。この樹も切り倒さないかぎりずっと歴史を刻んでいくでしょうから。

 分かりました。

 で、この家は娘さんのお父さんで何代目ですか。

 親戚とは言え、きちん分かりませんが、江戸時代から続いているとか聞きました。

 江戸時代!!

 そうです。もともと大地主の家系です。

 大地主!! 私はまた大変なことを聞いてしまったと思った。


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余計なこと・・・

2011-10-15 22:32:43 | 日記
余計なこと・・・







 娘さんが帰ってから、私は随分考えました。それは内省の意味も含まれていました。
 「余計なこと」。いや、そうに違いない。そっとしておきたかったのに、私が突如侵入してまぜかえしてしまった。これは事実であります。腹が立ったに違いありません。
 ということは・・・。従兄に家を任せた形にはなっているが、掃除までして丁重に管理してほしくはなかったのかもしれません。ときどき行って、周囲を見回る程度でよかったのでしょう。そして、いずれ朽ち果てるのをしかたのないことと思っていたのではないでしょうか。いや、それがあの一家の望む姿だったかもしれません。
 翻って私のこと。私はというと、廃屋とか空き家に異常な関心を持ち始めていました。その気持ちの底には、一時でもこの世から姿を隠し、篭り、我と我が身の立ちどころを確認して、疲れた身と心を癒し、そして、またタタカウチカラを醸成すること、そんな自然に湧いてきた目的がありました。いやいや、これは綺麗ごとですね。私も余計なことをしたのかもしれません。
 現実への不満があったか。私の場合、少しもそういう外界に対する攻撃的な思考は出来ていなかったのです。ただ、病のように一人になりたい気持ちが湧いてきただけでした。
 じゃ、あの娘さんの家族にはその不満があったのか。いろいろと聞いても今の所そういう要素は考えられない。それではどうして隠れ忍んで引越しまでしなくてはならなかったのか。・・・いや、後を追いかけてでもそのことを聞くべきでした。私にはそれを確かめる義務がある。こうなってはもう義務であります。
 私は、この問題もいずれ突然解決するのでは・・・、という気持ちになっています。


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手土産

2011-10-12 23:39:58 | 日記
手土産





 私の前にある菓子箱。手土産です。誰が? ある女性です。数日前のことでした。




 私、どうしてか分かりませんけど、急に家の様子を見たくなりました。客間に座ると、その女性はそう言いました。

 ・・・。

 それで、車でとばして、昨日家に着きました。

 ・・・。

 荒れ放題だとばかり思っていたのですが、それが、きちんと綺麗になっていて驚きました。

 ・・・。

 それで、親戚で聞いて、その訳が分かりました。あなたが、・・・。

 ・・・。

 最初、余計なことをと、・・・いや、ごめんなさい。

 ・・・。

 しばらくすると落ち着きました。

 ・・・。

 あちこち尋ねてやっとたどり着きました。

 ・・・。

 とにかくお礼を言わなくてはと・・・。

 ・・・。

 いや、ほんとに余計なことをしました。私はやっと口を開きました。

 ごめんなさい。あんなに綺麗にしていただいて・・・。娘さんは風呂敷から菓子箱のようなものを差し出しました。私は何も言わずに受け取りました。私は、この女性に聞きたいたくさんの言葉が胸のうちに湧き上がりました。しかし、何も聞けませんでした。妻はなりゆきを側で黙って見ていました。

 その女性はそう言うと、すぐに立ち上がって玄関に向かいました。私は、引きとどめようと声をかけました。すると、私を振り返って言いました。

 私は、もう二度と帰りませんので、あの家を引き続きよろしくお願いいたします。

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