とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

34 さやかの祈り

2015-06-28 00:19:38 | 日記





 姫神さま、お願いがございます。さやかはリスに姿を変え、神の森の木に登りながらそう言いました。私は、息を潜めて聞いていました。

 「おおっ、忠実なさやか、お前の気持ちにはずっと前から気づいていました。では、改めて述べてみるがよい」

 姫神はさやかをすっかり信頼している様子でした。

 「ご覧になっている通り、今日は父を連れて参りました。父についてのお願いです」

 「承知している。さ、はっきりと述べてみなさい」

 「ありがとうございます。・・・ご存知の通り、父は長らく麓の里の田舎道で電信柱として精一杯仕事をしてきました。最近は近くに姉が木となって父のお世話をしています。その甲斐あって、父は少しずつ木に変わりつつあります。いずれ、大きな樹木となって引き続き仕事を続けていくと思います。私はその姿を見ていて、命を与えられたことを喜んでいました。・・・しかし、私は元の大人として再び生きて欲しいのです。お願いです。姫神様のお力で元の人間に返していただけませんでしょうか。私の現世には父がいましたが、早死いたしました。私も病気だったのですが、父の霊がが治してくれました。母は元気で過ごしいます。母はことの経緯を少しも知りません。いや、その方がいいのです。母には私たちのすべてを知らせない方がいいと思っています。・・・どうか、私の願いを叶えてください」

 「・・・分かりました。私の心の奥にその願いを収めておきます。ただ、一つ聞きたいことがあります。父の姿を人間に変えたとして、それからどうするのです。また危うい道を進んでいくかも知れない」

 「いや、そういうことは絶対にないと信じます。精一杯生きて、幸せな家庭を築いていくとおもいます」

 「ほほう、立派です。父を心底信じていますね」

 「ありがとうございます」

 「ただ、さやか、・・・すぐにそう出来るものではありません」

 「姫神様、それはどういう意味でございますか ?」

 「しばらくこの森で他の樹木と一緒に過ごしてほしい。・・・お姉さんも一緒がいい」

 「分かりました。しかし、森への移動は難しいかと・・・。また、電信柱の代わりは・・・」

 「さやか、たやすいことです。すぐに移しましょう」

 姫神様は、やおら両手を高く掲げて祈りました。すると、周囲の樹の中から、たくさんの神々が姿を現しました。

 「いいか、先ほどの話、しかと聞いていたと思う。すぐさま実行してほしい。・・・丁重に、丁重に」

 従者の姫神たちは、音もたてずに素早く森の外に出て行きました。

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33 神の森へ

2015-06-22 00:54:54 | 日記


 今日、あのね、お父さんを、森の姫神様に、何ていうか、・・・紹介してあげたいと・・・。花りんがある朝方そう言い出しました。

 「花りんが、私を・・・? どうして ?」

「いえね。さやかが・・・」

 「えっ、どうしてさやかが ?」

 「紹介という言葉はよくないんだけど、恩返ししたいんだと思う」

 「恩返し ? ・・・いや、意味分からなくもないと思うけど・・・」

 「お父さんに助けて貰ったとか言ってて、それで、神様に頼んで、人間に返して貰うとか言ってた」

 「電信柱のこの俺、・・・最近木になりつつあるんだけど・・・、この俺の姿を人間に・・・」

 「そう言うことだと思う」

 「ははっ、さやかの気持ちはありがたいが、結構だね。私は暫くこの姿でいたい。あっ、それから、もし仮に俺が行くと言っても、どうして森まで行くんだ」

 「さやかの体の中に霊魂だけ潜んで、付いて行くということらしいけど」

 「さやかにそんなことが出来るのか ?」

 「出来るか、出来ないか、やってみなくては・・・」

 花りんがそう言っていた間に、私は、ふわっと体が浮いていくような感覚を覚えました。そして、動いていく私を感じました。さやかの術にかかったと思いました。お父さん、これからしばらくじっと黙って私に乗っかってついてきてください。と、そういうさやかの声が聞こえてきました。しばらく黙っていると、次第に周りが薄暗くなり、森の中に入っていました。

 「お父さん、木は好きですか ?」

さやかはそう尋ねました。平凡な質問だったので、私は即座に頷きました。

 「それは嬉しいです。私がお仕えしている姫神様は、樹木をすべての種類育てておられます。その樹木を見て、あらゆる世界を感じられるようです」

 「木を見る ? 見てすべてが分かる ?」

 「見て、触って、撫でて、匂いを嗅いで、・・・そうです。世界のすべてが分かるようです」

 「いや、それで、その姫神様のところに私を連れていって、どうするんだ ?」

 「お願いします。父を人間にしてください、と」

 「私はそういう願いは持っていない」

 「私は、忍びないのです。お父さんがつったっておられるのを見るのが。私は、じっと、小さい頃からお父さんの姿を見続けてきました」

 「おい、さやか、私を返してくれ」

 「いえ、返しません」

 「・・・」

 「きっと、お父さんの気を感じて、なにかの方法を授けていただけると思います。でも・・・、最悪の場合、無視されることもあります。ああ、神の森に入りました」

 私は、遠くにだれか女性の姿を見つけていました。
 

 



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32 花娘

2015-06-15 15:28:56 | 日記





 「お父さん!! お父さん!!」

私は、ある朝、花りんの呼ぶ声に驚いて目を覚ましました。

 「ああ、花りん、どうしたの ?」

 「リス、リス、小さなリス」

 「ああ、リス。リスがどうかしたの ?」

 「私に、夜、よじ登ってきたの」

 「リスなら珍しくないけど・・・、しかし、夜行性だったかな・・・」

 「なにをそんなとぼけたことを言ってるの」

 「えっ、だから、どうしたの ?」

「いえね、一晩私のところで泊まって、・・・どうしてか、なにか居心地がよさそうで、それで、朝方なにか囁いたのよ」

 「どう言ったんだ ?」

「たしか、お姉さん、また、お邪魔してもいいですか、と・・・」

 「お姉さん ?」

「たしか、そう言ってた。・・・だからね、こんなところで良かったら、いつでもおいで、と言ったの。そしたら、急に下に飛んで降りて、・・・」

 「それで・・・」

 「女の子になってた。綺麗な花飾りを頭につけてた」

 「女の子 ? ・・・それ、もしかして・・・」

 「なによ。あの子、お父さん知っているの ?」

 「いや、し、しらない」

 「私は、・・・透視して見て、ぼやっと分かったような・・・」

 「なにが ?」

 「いえね。あの、さやかでは・・・、と」

 「さやか ?」

 「・・・みたいな。でも、よく分からない」

 「さやかは、だれかの生まれ変わりかも・・・」

 「だ、だれだ !!」

 「お父さんの子ども。・・・たしかにお姉さんと言ってた」

 「花飾りは・・・?」

 「そうねえ。あの森の姫神様にお仕えするしるし・・・」

 私は、そう聞いて、全身が感電したような気持ちになりました。そのころの私は、もう、全身に樹皮が出来ていて、ところどころ小さな木の芽が出ていましたが、それが、一瞬ブルッと震えたような気がしました。


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(番外) pixabay.com さんありがとう !! 

2015-06-13 00:19:46 | 日記
この物語の写真素材の出所は「Pixabay」さんです。感謝しています。今後も使用させてください。また、勝手に加工したりしてごめんなさい。お詫び申し上げます。以下は、タイトルページの説明と写真を感謝の気持ちを込めて引用させていただきました。




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Pixabayさんありがとう

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31 天使の訪問

2015-06-09 10:14:36 | 日記


 夜中のことでした。

 「貴方に挨拶に来ました。電信柱になっておられるとか、聞きましたので」

 綾野でした。羽根が生えていました。美しい天使になっていました。

 「よかった。・・・願いが叶って」

 「貴方のお陰です」

 「私は、科が重なってこういう姿に・・・」

 「私は、貴方以上に科がありました。・・・家を出たこと、嫌な男が出入りしたこと、貴方を道連れにしたこと。ええ、でも、こうして居られるのは貴方のお陰です」

 「えっ、どいうこと ?」

「貴方が私に魂をくださったことです」

 「タマシイ ?」

 「そうです。貴方がお亡くなりになり、その魂が私に乗り移りました」

 「どういうことだ !!」

 「・・・」

 「おい、しっかり言ってくれ !!」

 「貴方の魂は清い、美しい魂でした」

 「おい、そんなことはない。誤解だ」

 「いえ、誤解ではありません。今まで黙っていましたが、私には子どもがお腹の中にいました。ほんとです。貴方の子どもです。主人のものでもないし、あの嫌な男のものでもありません。・・・これは、私だけが知っています」

 「ええっ !!」

 「ごめんなさい。その子どもがだけは生き続けさせたかった。そうです。その子どもが貴方の魂をいただきました」

 「何、・・・」

 「今、どこかで、生き続けています。私と貴方の子どもとは知らずに」

 「会いたい、会いたい !!」

 「ですから、私は心安らかに天上に召されていきました。それから、苦しい修行をいたしました。その結果がこういう姿・・・」

 「分からない。混乱するだけだ」

 「ですから、貴方は、私がお救いするにふさわしいお方です。男神となって、私と一緒に気の毒な魂を救済したいのです」

 「・・・神になる ? ・・・ 綾野、いや、女神様、それだけは出来ません。私にはこの姿が好ましい。ここで、思いっきり仕事をしていたい」

 「そうですか。分かりました。それでは、・・・いずれまた。貴方様がお助けになりましたお二人の女性もいずれ私のように神となられることと信じます。ほんとです。きっとその日が来ると信じます。そのときは、相助け合って、三柱の神となって、貴方を未来永劫お守りいたします。・・・では、その日まで・・・」

 「綾野 !! もう行くのか」

 「ええ、貴方のお姿を拝見して、安心いたしました。危ないときには私を呼んでください。では、これにて・・・」
 
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