とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

竹と草

2012-08-30 23:21:36 | 日記
竹と草




  耕作放棄地

 私は長柄さんと一緒に佐山医師を訪ね、その足で古賀画伯宅も訪問しました。二人とも驚いておられましたが、基本的に長柄さんの所謂同窓会的な発想に賛同していただきました。
 その後、二人は地元の主だったお方の家を訪ねました。その中には長柄さんの同窓生も含んでいました。いずれのお方も趣旨には賛同していただきましたが、では、品物を出してくださいと頼むと一様に曖昧な返事をしておられました。
 やはり難しいと落胆しつつこれが最後だという感じで岡田という初老のお方を訪問しました。


 貴方がたは、大変なことを思いつきましたね、と岡田さん。

 私たちの考え方はとことん煮詰めたものではありませので、分かりにくいとは思いますが・・・、と長柄さん。

 ここの地域に活気を取り戻せたら・・・と思っています、と私も付け加えた。

 基本的には分かりました。で、具体的に品物を持ち出して小さな市場のようなものを作るのですね。岡田さんは、身を乗り出すようにそう仰いました。

 そうです、できるだけたくさんのお方に参加していただきたいのです。そうしますと、あの小学校が地域興しの拠点になると思います。私は力を込めてそう言いました。

 分かりました。・・・私は、地元に芸術関係のお店や工房が出来て、いろんなその道のベテランが集まっておられることを大変頼もしく思っていました。それから、小学校には観音さんが出来るとか聞いてわくわくしていました。私は以前市役所の仕事をしていましたので、自分が恥ずかしく思えてきました。現役時代に地域振興策をいろいろと考えて実行しましたが、貴方たちのようなことは少しも考えていませんでした。ありがとうございます。・・・そこで、いい機会ですから私の考えを述べさせいただきたいのですが・・・。

 あっ、どうぞ、どうぞ。私は岡田さんの真摯な態度に接して、このお方なら・・・、と密かに期待しながら聞いていました。

 その店をですね、長続きさせるにはできるだけ多くの賛同者が必要ですし、品物を生産するシステムが必要だと思います。これは私案にすぎないのですが、農産物の場合、支援者を募って、耕作放棄地を農地に戻して、長期的な生産が可能にする方法があると思います。家畜を使う方法もあるようです。よくご存知だと思いますが、年々空き家が増え、耕作地が荒れ果てています。まず、この地域の地盤をしっかりしたものにしなくてはいけないと思います。・・・いや、貴方がたに陣頭指揮を・・・、とは思っていません。・・・私がやりましょう。貴方たちに勇気をいただきました。市役所に働きかけたり、希望者を募ったり、・・・そういう仕事を私にさせてください。

 それは願ってもないことです。ありがとうございます。長柄さんがぱっと明るい表情になりました。私も涙が出るほど感激しました。

 竹と草との闘いです。岡田さんはそう締めくくりました。
 
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大樹に似合う花

2012-08-26 23:12:58 | 日記
大樹に似合う花


 大樹に着生するコチョウラン


 古賀画伯の勇気ある発言が、私の心を揺さぶり続けていました。二つの家族が協力して大きな仕事を完成させれば、なるほど、家庭的なシコリは随分解消されるかもしれない。しかし、アドバルーンを揚げただけではいけない。せっかくのイベントが時間とともに壊れ、いずれ忘れ去られていく。私はそういう思いに囚われて思案にくれた挙句、長柄さんに相談しました。


 古賀画伯は地元に根を下ろした活動をと考えておられるようです。地元を味方につけるいい方法はないでしょうか。

 空き家と廃校になった学校とは根本的に性格が違いますね。

 そうです。そこです。

 小学校という公共の場所を使うのであれば、地元のお方にたくさん来ていただかなくてはいけません。

 そうです。そうです。

 地域興しの拠点として機能しなくては地元はついてきませんね。

 佐山先生は多少そういうこともお考えのようですが、理念というか、観念というか、そういうものが先行しています。古賀画伯はその点を言いたかったと思います。

 千年椋の樹の周りに集まったものが出来ることは、ささやかな花を咲かせることではないでしょうか。

 えっ、花。・・・長柄さん、貴方も随分観念的で分かりにくいですね。

 観念的ではないです。

 と言いますと・・・。

 アドバルーンなら誰でも揚げられます。しかし、花を咲かせることはなかなかできないと思います。

 長柄さん、・・・困ったなあ、もっと具体的に・・・。

 畝本さん、私もあの小学校の卒業生です。だからよく分かるのです。・・・小学校時代で一番心に残っていることは、やはり友達です。家族も勿論大切だけれど、友達もそれに劣らず大切です。

 いや、それは言えますね。で・・・。

 同窓会です。あそこで同窓会を開くんです。

 えっ、小学校に集まるんですか。

 そうです。そうすれば花は咲くと思います。

 いよいよ分からなくなりました。

 畝本さん、あそこに経済的な視点を取り入れたら旨くいくと思います。

 経済的・・・。

 はっきり言いましょう。地元の一人ひとりが大切なものを持ち寄って陳列する部屋を作るのです。農産物、いいでしょう。手芸品、いいでしょう。骨董品、それもいいでしょう。学校にゆかりのある人・・・いや、関わりのない人でも広く呼び掛けて市場を作って安価で販売してはいかがでしょうか、しかも長期的に。

 確かに・・・人は集まりますね。でも、芸術作品の展示とそぐわないような・・・。

 そんなことはないと思います。相反するものの方が却って相乗効果を生むと思います。

 佐山先生から子ども教室の話もありましたが・・・。

 おっ、それもいいですね。次世代に繋ぐには効果的ですね。

 で、そういう宣伝と言うか、広報と言うか、そういうことはどうするのですか。
 
 地元の自治会を根気強く回り、最終的には市役所を動かす。・・・草の根の活動を協力してやっていけば、いずれ・・・。

 うん、長柄さん、ぼんやり分かりかけてきました。古賀画伯や佐山先生に話してみます。説得する自信はありませんが。

 私も協力します。

 

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発光の仕組み

2012-08-18 23:18:04 | 日記
発光の仕組み




 発光するバラ


 古賀画伯が佐山医師のところへ来られたとき、なぜか私が同席するように古賀画伯に言われました。私は何にもわからないまま佐山医院に行きました。なんだかいい雰囲気ではなさそうで、私は帰りたくなりました。


 佐山先生、こう言ってはいけませんが、少し芸術の道を外れていませんか、と古賀画伯。

 もっと具体的に仰ってください、と佐山医師。

 イベント性が強いのでは、と思っています。

 どこがですか。

 まあ、壁画はいいにしても、観音像がニケに変わるなんて・・・。

 ああ、あの点ですか。

 そうです。地元の人が見たらどうしても違和感を持つと思いますが。

 違和感ですか。

 そうです。

 新しい芸術は違和感から立ち上がっていくと思いますが・・・。

 その点は分かっていますが、仏教とギリシャ神話と引っ付けるのはどうかと・・・。

 仏像と神像には共通性があると思いますが・・・。

 そこまで仰るのなら私はもう何も言えません。

 いや、遠慮なさらなくてもいいですよ。

 仏像に翼は要りません。

 ああそうでした。でも、地元の願いと言いますか、大きく言いますと日本の願いは現実から脱出することにあると信じています。だから、その気持ちを象徴的に表したかったのです。

 今の閉塞感からの脱出ですか。

 そうです。その願いは西洋の翼でしか表せないと思っていますが・・・。いや、わたしは西洋にウエイトを置いているつもりはありません。

 貴方のお考えは分かりかねます。しかし、私はもうこれ以上言いません。

 そうですか。残念です。しかし、実物をご覧いただければ、すべて解決すると思います。

 ええ、分かりました。拝見したいと思います。

 ありがとうございます。

 ところで、その変身の仕組みというのは・・・。

 蓄光パウダーです。

 へえー、初めて聞きました。

 そうですか。陶芸家の間では随分知られていますが。

 具体的に説明していただけませんか。

 ブルー、グリーン、オレンジ、スーパーブルーなどの色があります。 日光や蛍光灯などで光りを蓄え、夜間や暗闇で長時間発光する無機体の顔料です。ブラックライトでも発光し、蓄光します。微粉末ですので樹脂や塗料と混合して使用できます。熱に強く900℃まで耐えます。だから、ガラス工芸、七宝焼、陶芸釉薬などに応用出来ます。

 へえー。

 観音像の光背にその発光材を使用します。翼の模様に焼きこんでおくわけです。

 光背に・・・。

 そうです。

 古賀画伯の顔色が心持明るくなるのを私は感じ取りました。

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テーマは家族

2012-08-14 23:34:37 | 日記
テーマは家族


20世紀前半活躍した、フランスの画家フェルナン・レジェの代表作「余暇」。世界第二次大戦が終結してまだ日も浅い頃の1948年あたりの作品。


小出楢重「Nの家族」(1919年 大原美術館蔵)
1887年大阪生まれ、近代画家に大きな功績を残した小出楢重。この作品は、小出楢重自身の家族を描いた作品で、第6回二科展に出品され、樗牛賞を受賞した作品である。


 合作壁画の打ち合わせ会があるということを佐山医師から聞きましたので、小学校に出かけました。会議室の壁面を使うということでしたので、その部屋に入って私は驚きました。


 佐山先生、大変な人数ですね。私は一時にたくさんの視線が自分に注がれたので、どぎまぎしながらそう言いました。

 心強いです。妻の仲間が県外からたくさん駆けつけてくれました。全部絵本の方面ではなくて、イラスト、グラフィック等いろいろです。

 京子さん夫婦も来ておられますね。おや、京子さんのお母さんも・・・、あっ、冴子さんも・・・。

 ええ、二人のお母さんは壁画スタッフではなくて、合宿の食事を手伝っていただいています。

 お父さんは・・・。

 さすが畝本さん。心配は無用です。別室で仏像作りの打ち合わせを小室さんとお弟子さんと一緒にしておられます。下図を見ながら焼き物の各ブロックの形の構想を練っておられます。

 そうですか。では、この小学校が大きな工房になったのですね。

 その通りです。

 すごいですね。頼もしいですね。

 私は雑用係みたいなものです。

 で、壁画はどういう内容のものですか。

 テーマは家族です。

 家族。

 そうです。家族あっての国家です。家族の温かさを描いていただきます。

 合作で一枚の大作としてですか。

 いや、紙芝居形式です。

 えっ、紙芝居。

 そうです。・・・一体に美術館でも入れ替えなしではすぐに入場者は少なくなります。そこで、巨大な額縁を作って、そこにパネルに描いた作品を差し込みます。大よそ一週間で差し替えます。紙芝居みたいに・・・。

 すると相当の枚数が必要ですね。

 勿論そうです。だから、妻の知り合いをたくさん集めたんです。

 この学校の関係者はそういうプランをご存じですか。

 市の教員委員会のお方が会合前に挨拶にこられました。だいたいの計画は書面で届けていますので、ご存じの筈です。半信半疑というのが正直な気持ちだと思います。しかし、全貌が形として見えてくると納得していただけると信じています。・・・何より協力、団結の力です。それをしっかり見ていただきたいと思っています。・・・ああ、畝本さんの子ども教室もここで開かれてはいかがですか。

 願ってもないことです。・・・私は佐山先生の実行力に対して頭が下がる思いがしました。
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翼・翼・翼・・・

2012-08-09 23:40:06 | 日記
翼・翼・翼・・・



ニーケー は、ギリシア神話に登場する勝利の女神。日本語では長母音記号を省略しニケともいう。ローマ神話ではウィクトーリア (Victōria) と呼ばれる。


 空校舎とは言え、もともと地元民の心の拠り所でもあった公共の建物です。そこに仏像を作り、内部に壁画を施すということは、やはり管理している市だけではなく地元の理解が不可欠です。そこの点を佐山医師はどう解決したのか私は疑問に思っていました。そこで佐山医院を訪ねて問いただしました。看護師が取り次いでくれて診察室の隣の小さい応接間に私は通されました。


 すっかり医院らしくなって驚きました、と私。

 お陰様でなんとか仕事ができるようになりました、と佐山医師。

 ところで、冴子さんから聞きました小室さんの仏像や合作の壁画のことなんですが・・・、みんな先生が、何と言いますか、プロデュースされたとか。

 ええそうです。それがどうかしましたか。

 話を聞いて正直驚きました。

 医者の私と芸術とが繋がらない、ということですか。

 いえ、そんな・・・、まあ、そ、そういうことです。

 貴方は素直なお方ですね。ご免なさい。人生の先輩にこう言っては失礼ですね。

 いえいえ、そんなことはありません。

 いえね、私は、ずっと県の文化財関係の諮問委員をしていましたので、その方面のことは一応勉強しています。

 あ、そうですか。話が旨く進んだ理由が呑み込めました。

 そうでした。貴方には相談していませんでしたね。

 いえいえ、相談なんて・・・。

 あの企画は小室さんがもともと提案されたんです。冴子さんの家に行って京子さんのお父さんとお話ししたいと思って出かけたときのことです。小室さんが来ておられて、焼き物の仏像を作りたいという仰ったんです。すると、京子さんのお父さんがぜひ下図をと仰ったんです。だから話がまとまるのは簡単でした。壁画のことは私が提案しました。

 小学校を選ばれたのは・・・。

 地元の皆さんに馴染みやすいと思ったからです。勿論、恒久的な制作物として残すわけではありません。仏像は解体しやすいように工夫していただきました。壁画は仮設の壁に描きます。そして、地元の皆さんにある期間見ていただいてから次のステップに進んでいきます。ま、理解が得られなければ撤去します。・・・畝本さん大きな賭けを伴ったパフォーマンスですよ。でも、これがすべてを解決すると信じています。

 すべてを解決する・・・。

 そうです。家庭的なことも地元の活性化ということも・・・。

 ・・・。

 ところで、この企画には素晴らしい仕掛けがあるんです。

 仕掛け・・・。

 そうです。翼です。

 翼・・・。

 そうです。今の日本、翼がなくてはいけないと思っています。

 翼とはどういうことですか。

 これは関係者以外には秘密なんですが、貴方には一言伝えておきます。

 ・・・。

 仏像は夜は変身して、ニケの神像になるんです。これは小室さんの陶芸家としての最高の技です。

 そ、そんなことが出来るんですか。

 細工は流々。すごい技です。

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