とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

夜明けの蝶

2010-08-01 22:01:01 | 日記
  夜明けの蝶



 私はほとんど毎朝三時前後に目が覚める。そして直前まで見ていた夢のことを思い出そうとする。大体が悪い夢である。それからしばらく眠れないので携帯ラジオをつけてイヤホンで聴く。寝ぼけているので放送の中味は記憶していても断片的である。
 数日前、また目が覚めたのでラジオを聴いていた。通信員か誰かが最近の珍しい出来事についてレポートしていた。私の頭には「アサギマダラ」という蝶の名前と「渡り」という言葉が断片的に記憶されていた。春は北上し、秋は南下するらしくその渡りのことを言ってい







この素晴らしいアサギマダラの渡りの画像は、次のサイトから借用しました。多謝。
フリー画像



るらしかった。私はぼうっとした意識でその二つの言葉を思い浮かべていた。蝶が渡りをする、何だか聞いたことがあるな、と思ってイメージを作っていた。すると、「春」という題名の安西冬衛の「てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡って行った。」という一行詩を突然思い出した。韃靼海峡というのは樺太とユーラシア大陸の間の間宮海峡である。不意に目覚めた私の頭は正常には働かない。「アサギマダラ」と「渡り」の二つの言葉が自然に「春」の詩に繋がったのである。寒々とした北の海を一匹の色鮮やかな蝶が飛んでいる。私の頭の中ではその姿を追っていた。蝶は私だ。私の姿そっくりだ。急にそう思って深い孤独の闇に飲まれていった。そして、夜明けの蝶とともにまた寝入ってしまった。こんな日の朝は決まって頭痛がする。私の寝不足は何時まで続くのか?      (2004年投稿)