とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

公開審査会

2013-07-28 15:47:55 | 日記
公開審査会




三木翠山作「狐と美人図」(仮題)

 これだから絵は怖い。いや、この絵柄が怖いというのではない。画題が無限大に広がるからである。表現活動はすべてそうなのだが、視覚に訴える絵画は直截的だから印象が直ちにビリリッと全身に広がる。女は怖いと思う。いや、こう言っては失礼である。鬼気迫るものが感じられるからである。よく分からないが、葛の葉物語を描いているのであろう。これは私の推測である。「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」。(「義経千本桜」の「狐忠信」であるというご指摘を頂きました。ありがとうございました。さすると、「静御前」が描かれている ? ということですか。)


 いつもの居酒屋で今度は古賀さんに呼び出されて、一緒に飲む機会がありました。郁子さんが大きなハードルをクリアしたと仰るので、私は事の訳を仔細に尋ねました。

 何があったんですか。

 公開審査会と言って、劇団関係者と贔屓の招待客が新人の芸を吟味する会があったんです。

 どこでですか。

 玉造温泉のある老舗旅館の大広間でありました。私もご縁市場を代表して招待されました。いや、いや、すごい緊迫感がビンビン感じられて、正直疲れました。劇団側からは、ああ、事務局長の三朗君も来てました。勿論、オーナー、喜多川さん、仙女さん、翠園さん、それに主だった役者も来ていました。それから贔屓のお客さんが数十名いました。・・・それで、麗華さんと郁子さんがステージで踊ったんですね。あくまで麗華さんは相方です。審査されるのは郁子さんです。あっ、囃子は笙子さん夫婦が中心で、他に数名両劇団から来ていました。

 へえー、ものものしいですね。

 で、どうやって審査するのですか。

 先ず、劇団側が投票します。合格は赤いカード、不合格は白いカードを投票箱に入れます。開票係りが票の読み上げをして審査員の満票をもって合格とするんですね。それから、審査員の質問があり、それにも答えなくてはいけない。それが済むと、会場の招待客が賛成、反対の意思表示を挙手でします。課題の踊りは浦安の舞でした。

 じゃ、郁子さんより笙子さんが得意かもしれませんね。笙子さん、複雑の気持ちで演奏していたんじゃないかと・・・。

 そうかも知れません。

 それで、審査員から一人だけ白票が出ました。ところが、後の質問に見事答えましたので、その方は赤票に変更しました。会場の審査はすべて合格でした。私も合格に手を挙げました。

 すると、きわどい場面もあったんですね。

 ほんとです。私もひやっとしました。

 そんな大規模な審査をするとは知りませんでした。費用莫大かかるでしょうね。

 いや、そこは旨くいくようになってて、贔屓筋は祝儀を包んでくる礼儀なので、余りが出てきますよ。

 そうですか。それから、どうして出雲で・・・。

 いや、それはよく分かりせんが、仙女さんの希望が通ったとか聞いています。・・・すべてめでたし、めでたしでした。・・・その後で芸名が披露されて、なんだったっけ、ああ、中村華龍、なかむらかりょうです。正式な襲名披露は京都の歌舞伎座で行われるそうです。

 華龍ですか。いさましい名前ですね。ああ。それから、ご主人の鈴木琢磨君は昇格ではないんですか。

 琢磨君は鼓笛の主要メンバーですから、残ることになると思います。

 それから、笙子さんはそういう審査はいつ受けるのですか。

 鼓笛で実績を作ってからです。麗華さんがその点みっちり指導すると思います。

 妹がお姉さんをですか。
 
 ああ、そういうことになりますね。

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笙子の決意

2013-07-24 22:46:26 | 日記
笙子の決意



伊東深水「鏡獅子」


伊東深水「鏡獅子」

 深水は「鏡獅子」を幾つか描いている。舞いをしている弥生の表情が微妙に違う。

 歌舞伎の「春興鏡獅子」について少し解説したい。・・・この舞いは江戸城内の鏡開きに先立って行われる行事で、技芸を披露する役に選ばれた弥生が、老女と局に連れ出されてくる。最初は恥じらっていたが、観念して美しく可憐に舞う。しだいに舞に没頭していく弥生。祭壇に置いてあった手獅子を取って舞いはじめると、手にした獅子頭は弥生の意志とは関係なく勝手に動き出してしまう。弥生が袖で押さえようとしても止まらなくなる。それどころか、獅子頭は強引に弥生を引きずったまま、いずこかへ消え去ってしまう。そのあとに胡蝶の精があらわれて、牡丹の花と戯れるように舞う。やがて静けさが戻り、張りつめた空気の中に、勇壮な獅子の精が現れる。獅子の精は、長い毛を豪快に振り立て舞い始める。


 日々元気を取り戻す笙子さん。子育てが大変だと思っていましたが、ご主人の協力もあって、稽古が出来るほどになったということを私に電話で知らせてきました。


 そりゃよかったです。でも、無理をして体に障ってはいけません。

 ありがとうございます。大きな歌舞伎の劇団が統合されるし、まして、湖笛の郁子さんの温かいお誘いもあって、私なりに努力しなくてはと思っています。出雲大社には辞表を出しました。これからは育児とお芝居の稽古と画業に没頭したいと思います。主人も両親も理解してくれました。

 妹の倭歌子さんも湖笛の応援にこれから来られるそうで、頼もしい限りですね。

 ええ、私の理想は三人が競演することです。私はその点で一番引けを取っているので、皆さんにご指導していただきながら湖笛に溶け込んでいきたいと思います。

 二人の阿国という案をどう思いますか。

 それはそれで面白いと思います。でも、私は静御前にまだ拘っています。麗華の舞いにはまだまだ届きませんが、私が静を舞って、それがもう一人の阿国と繋っていく。・・・二役です。新歌舞伎ではそれが可能だと思います。・・・いや、私が郁子さんの上に立つということではなく、鏡獅子でもあんな変身劇が出来たんですから、私は、私は、何でも挑戦します。そうです、夕顔にだって変身して見せます。

 えっ、夕顔。

 そうです。新歌舞伎は時空を超えることができます。

 湖笛の松江さんには話しましたか。

 ええ、それらしいことはお話ししました。

 どう仰っていましたか。

 考えてみると仰っていました。

 松江さんが確かにそう言ったんですか。
 
 そうです。

 じゃ、これから、湖笛は、中央の大きな動きに呼応して動き出すのですね。

 ええ、そうです。楽しみです。・・・最後には新阿国座を目指します。

 そうすると、お宮のこととか絵のこととか家庭的なこととかがいろいろいと・・・。

 ええ、いろいろ気がかりなことだらけです。でも、私は乗り越えます、きっと。

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「母」の言葉

2013-07-21 06:24:28 | 日記
「母」の言葉





エリュー・ヴェッダー画『プレイアデス』(1885年) メトロポリタン美術館所蔵


プレイアデスはティーターン族のアトラースと、海のニュムペーであるプレーイオネーとの間の7人娘であり、キュレーネー山で生まれた。カリュプソー、ヒュアース、ヒュアデス、ヘスペリデスとは姉妹で、一説にカリュプソーとディオーネーをプレイアデスに含める(この場合ディオーネーはアトラースの娘とされる)。

プレイアデス姉妹は女神アルテミスの侍女であり、ヒュアデスの7人姉妹と共に、幼いディオニューソスの乳母兼教師を務め、アトランティデス、ドドニデス、ニシアデスと呼ばれた。あるいは一説に、アマゾーンの女王の姉妹だという。この場合の姉妹の名はよく知られた7姉妹とは異なる。

7姉妹について

1 マイア 。 長姉。ゼウスの子ヘルメースを生んだ。

2 エーレクトラー。ゼウスとの間に、ダルダノスとイーアシオーンを生んだ。

3 ターユゲテー 。ゼウスの子ラケダイモーンを生んだ。

4 アルキュオネー 。ポセイドーンの子ヒュリエウスを生んだ。

5 ケライノー 。ポセイドーンとの間にリュコスとエウリュピュロスを生んだ。

6 ステロペーまたはアステロペー 。アレースの子オイノマオスを生んだ。

7 メロペー 。末妹。シーシュポスと結婚し、不死性を失って死んだ。シーシュポスとの間に何人かの息子を生んだ。


アトラースが天を背負う役目を負わされた後、オーリーオーンがプレイアデス全員を追いかけ回すようになった。ゼウスは彼女らを初めはハトに、ついでその父を慰められるようプレイアデスを星に変えた。オリオン座はいまだプレイアデス星団を追って夜空を回っているという。

物語にはいくつかのバージョンがあり、7姉妹全員が死に至ったのは、父アトラースの運命と姉妹ヒュアデスの喪失を嘆くあまりだという。そこで最高神ゼウスが、姉妹を空に置いて不死性を与え、彼女ら7つの星はプレイアデス星団として知られるようになった。


ヘシオドスより古代ギリシアの詩人ヘーシオドスは叙事詩『仕事と日』の中で幾度か、プレイアデスに言及している。プレイアデスは主に冬の星であり、古代の農業暦において非常に大きな役割を果たす。以下にヘーシオドスの言葉を挙げる。


「そしてもし嵐の海を渡ろうという望みが汝を捕らえたとしても

プレイアデスが強大なオーリーオーンを避け

深い霧の奥に潜り

激しい風が荒れ狂うなら

汝の船を暗紅色の海に出してはならぬ

しかし我が言のとおり忘れずに地を耕すのだ」



プレイアデス星団が「オーリーオーンを避け深い霧の奥に潜」って西にある時期、春の夕方早くは、一年で「地を耕す」のにちょうどよい時間になる。(以上 by 「Wiki」)


 前田三朗が事務局長として赴任することになりました。赴任の日、私は、妻と出かけてしばしの別れを惜しみました。千恵子と志乃は思ったより元気で安心しました。ヘルパーさんも来ていました。午後1時から7時まで1日おきに来てくれることになっていました。三朗は月に一度は帰るということで、これまた安心しました。妻が千恵子の家にときどき手伝いに出かける約束をしていました。この時点で「新阿国座」の稽古場も決まっていて、事務局の隣地の空き家を改装することになっていました。その仕事も三朗が中心になっていて、最初から激務が待ち受けているようでした。・・・赴任してから数日後、三朗から電話がありました。

 
 あ、三朗、・・・体大丈夫かい。

 大丈夫です。先ほど妻にも電話しました。・・・専門家のスタッフがたくさんいて、私はスケジュールを管理していればいいですよ。色んな俳優さんにもお会いしました。女歌舞伎がベースですので、プレイアデス星団みたいです。

 そうかい。フラフラしないようにな。

 ははっ、大丈夫です。・・・里見オーナーにもお目にかかり、いろいろ教えていただきました。二人で話しているうちに、お義父さんの話が出てきました。

 なに、え、私の・・・。

 そうです。お亡くなりになったお義母さんの話です。

 なんだって。

 そうなんです。私も不思議に思いました。オーナーがご存知とは予想外でした。

 どういうことだ。

 なんでも、オーナーの知人、といっても相当のご高齢ですが、お義母さんの妹さんだとか。

 妹。諏訪の出身なのか。

 そうなんです。お義母さんは双子のお姉さんの方で、その方は生まれるや里子に出されたそうです。

 農家だったので、春と秋は大変だったそうです。

 全くしらなかった。

 それで、なんと仰って・・・。

 その方は出雲の最近の動きをすべてご存知でした。

 どうしてだ。

 いや、そのお方は、先に死んだお姉さんが天上から見ていることがすべて分かると仰っているそうです。

 なに、空の上から・・・。

 そうです。ですから、里見さんは、出雲の最近の動きをすべてご存知でした。湖笛のこともご縁市場のことも、すべて・・・。

 お、恐ろしいことだ。

 「・・・この度出雲に集まったお方はすべて重い過去を背負っている。それはだれにも言えることで、その過去にいつまでも拘っていては前進はない。これからは一切の過去の重荷から解き放たれることが肝要だ」と仰ったそうです。また「京子さんが生まれた家を捨てて新天地を切り開いたのはすばらしいことだ」とも言われたとか・・・。

 新天地。

 そうです。

 神か仏か・・・。

 いや、ごく普通のお年寄りだそうです。・・・私は、受話器を持つ手が震えてきました。

 
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新阿国座

2013-07-15 04:48:04 | 日記
新阿国座




 
四条河原で踊る「阿国歌舞伎」を描いた「阿国歌舞伎図屏風」。
「阿国歌舞伎」を描いた画はいくつかあるが、もっとも古い画といわれている。

 
 古賀さんからまた電話があり、統合される二つの劇団の今後のことを説明していただきました。


 ・・・あのね、畝本さん、誤解をしないでくださいね。

 なんでしょう。

 劇団の新しい名前ですよ。

 どうなったんですか。

 「新阿国座」だそうです。

 阿国歌舞伎をやるんですか。

 いや、だから、誤解しないでと言ったんです。阿国歌舞伎だけではありません。「新」というところに注目してください。二つの劇団は、今までの劇団がやらない演目を随分手がけました。それがファンを集めました。新国劇だってそうです。仙女劇団もそうです。今の時代、伝統を尊重しつつ新しい方向に「傾く」演劇が求められています。そういう色彩を強調しようという意気込みが込められている名前です。・・・いや、これは、千賀子さんから聞いたんですどね。

 そうすると、出雲にかなり偏ったネーミングということに・・・。

 いや、それも誤解ですね。阿国は出雲と言う一つの地方に偏った役者ではありません。当時全国的な支持を受けていたんです。だから、「阿国」という名称は全国の幅広い支持層を取り込む強い意思表示なんです。

 ええ、ええ、何となく分かりました。それで、拠点とか、人事的な面は・・・。

 オーナーはもう言いました。それで、座長兼総監督なんですが、喜多川さんに決まったみたいです。

 当然だと思いますね。

 それから、畝本さん、驚かないでくださいよ。

 な、なんです。

 監督補佐兼事務局長として前田三朗さんが内定しているそうです。理論だけではなく、行動力も高く評価されたようです。

 えっ、千恵子は知ってますか。

 もちろんです。

 すると、志乃はまた転校ということに・・・。

 いや、単身赴任だそうです。

 京都ですか。

 そうです。里見オーナーの京都の別邸が事務局です。30人くらいスタッフが常時詰めています。

 勤まるでしょうか。

 大丈夫です。いずれ喜多川さんの後継者ということになると思います。

 ち、千恵子は病気もちなんです。

 ええ、劇団の誰も知っています。だから、しかるべく手を回していると思います。

 と言いますと・・・。

 ヘルパーさんが派遣されるそうです。勿論費用は劇団もちです。

 ヘルパーですか。

 そうです。それでも何か不安でも・・・。

 いや、千恵子が承知しているようですので、何とかやると思います。私たちも援助します。・・・千恵子は負けん気が強い女ですから・・・。

 私も佐山先生に頼んでおきます。

 そうですか。よろしくお願いします。・・・私は、突然の展開に驚くとともに千恵子と志乃の顔が浮かんできて、不意に涙を催しました。

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麗華の祖父

2013-07-12 05:17:40 | 日記
麗華の祖父



 高畠華宵作「男装の麗人(仮称)」
 私は、子どもの頃、華宵の挿絵が好きだった。表情仕種に個性があり、さわやかな色香を感じていた。

 笙子さんが目出度く男児出産、母子ともに健康。そういう知らせが冴子さんから届きました。よかった、これで氏神様の宮司の世継ぎができた。私は一人で我がことのように喜んでいました。郁子さんからのお祝いの電話もあったようで、いよいよこれから新生劇団、日本の舞台劇を背負って立つ大劇団が動き出す。そういう予感に身震いしていました。その後で古賀さんから電話があり、市川麗華の祖父のことについて初めて知ることになりました。

 ・・・それで、その、麗華さんのお祖父さん、里見大三郎と言うお方だけれどね。元新国劇の俳優だったらしいよ。

 へえー、俳優がオーナーに・・・。

 ま、その点の事情はよく分からないけれど、なかなかの人物らしいよ。市川翠園のパトロンで、いやね、変な意味のパトロンじゃないみたいだけれど、人脈がすごいらしい。今まで劇団を背負って立っていた・・・。

 ええ、よく分かりました。それで、今度の劇団の統合ということとの関係は・・・。

 世間は仙女劇団が吸収されたらしいという噂を立てているらしいけれど、実は、対等合併ということらしいね。

 対等、それが理想的ですね。

 喜多川さんが上に立ちたかったんじゃないかと思っていたんだけど、彼はそういう野心ははないらしい。で、仙女さんと相談の結果、統合後のオーナーに里見さんを二人で推したらしい。・・・里見さんは最初は辞退したらしい。でも、日本の演劇界の実情を考えて、引き受けたらしいよ。

 私は、会ってないからよく分からないけれど、里見さん、やってくれそうな感じがします。

 私も同感。その方次第で、二つの劇団が「プラス」の形で動くのか「カケル」の形で動くのかが決まってくると思う。

 そうですね。湖笛が第三極の立場になって、ますます重要になってきますね。

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