とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

天上の最終戦争 4 (最終回)

2014-08-16 22:25:33 | 日記
天上の最終戦争 4




「Virgin Mary」 ( Giovanni Battista Salvi da Sassoferrato 1640-50年)

聖母マリアのアトリビュート(attribute・持ち物)としては、天の真実を意味する青色のマント(ヴェール)、純潔の象徴としての白百合(おしべのないユリの花)、神の慈愛を表す赤色の衣服が代表例として挙げられ、聖母マリアの象徴として数多くの西洋画に描かれている。・・・今までたくさんの絵画を引用させていただいた。許可されているものを主体として使わせていただいたが、中には連絡することなく使用させていただいたものもある。ここで、皆様に改めてお詫びをし、御礼申し上げます。最後に聖母マリア像を使わせていただたことに大きな意味があることを付言しておきます。ありがとうございました。


 司祭が天に昇っていった翌日、滝裏の隧道の奥にあるこの小さな村に異変が起きました。異変、・・・いや、不思議な自然現象と言った方がいいかも知れません。と言うのは、晴れていて雲一つないのに、時々稲光がしたり、ドーンという大きな音が鳴り響いたりしました。ですから、村人たちは通りに出て、不安そうに空を眺めていました。・・・昼過ぎになってもまだ同じような状態でしたので、村人たちは、お宮に出かけて「女王様」に祈っていただこうと相談しました。ところが、お宮に行くと、誰もいませんでした。ですから、一層不安を募らせていきました。誰もいない。あの若い男、陶山と言ったっけ、あの人も姿が見えない。ということは二人で駆け落ちしたんでは・・・。おいおい、駆け落ちするようなそんなことをする司祭様ではない。私は信じたい。まあ、それもそうだが、それにしても・・・。よし、それでは、私たちみんなで一緒にお祈りしようぜ。それがいい。それがいい。・・・村人たちは狭い社殿の畳の部屋で一心に祝詞を唱え始めました。その間も時々大きな音が伝わってきました。
 やがて夜を迎えましたので、三々五々村人は帰っていきました。そして、真夜中のこと、一段と大きな雷のような音が村中に響きわたりました。村人は一斉に外に出て辺りを眺めました。すると、お宮の大杉の樹が倒れて炎が噴出していました。大変だ、お宮が火事になる。そう口々に叫びながら男たちはお宮に駆けつけました。すると、杉が真っ二つに裂け、葉が焦げて燃えていました。


 桶を持って来い ! 川から水を汲んでくるんだ !!

おい、いいか、一斉にかけるんだ。揃ったか、それでは、いち、に、さん !!

まだ、まだ。もう一回やろう !!

合計十回水をかけると、火が消え、また、元の闇夜になりました。誰からともなく、お宮の中に入ると、中には司祭が倒れて蹲っていました。

 おい、京介、お前の出番だ。医術の心得があるから、しっかり診てあげてくれ。

 承知しました。しっかり診ます。・・・怪我はありません。脈がありますし、呼吸もしておられますので、これは一時的な失神の症状だと思います。

 そうか、それでは、背中から活を入れてくれ。

 承知しました。ご免ください、少し痛いかも知れません。・・・むっ 1 もう一度、えいっ 1

 すると、司祭は、うーん、と言いながら徐々に目覚め、虚ろな目つきで周りを見回しました。お宮の中に大勢の村人を見つけると、目元に笑みが浮かびました。

 みなさん、ありがとうございます。ご心配をおかけいたしました。

 京介、お手柄だ。よかった、よかった。

 あっ、長老、・・・どうもご心配をおかけしました。

 女王様、どうなされたのですか。昼は大変な異変が続いていましたが。

 そうでしたか。いや、私たちは出来る限りのことをしただけです。

 それは、どういうことですか。

 説明するほどのことではありません。当然のことをしただけです。

 そう仰っても分かりかねます。具体的に・・・、天上では、何が・・・。

 天上 ?

 一日中雷のような音が鳴り響いていましたし、稲光が続いていました。

 そうでしたか。いや、そうかも知れません。ただ、私たちは必死に戦っていただけです。・・・当然のことをしただけです。

 戦い ? 誰と戦っていたのですか。

 良からぬものたちを懲らしめていました。

 良からぬもの ?

 そうとしか言いようがありません。

 私らのために・・・。

 衆生救済のためです。

 聖戦 ?

いや、どうお考えになっても構いません。

 おおっ、みなの衆 !! 女王様に感謝の祈りを捧げよう !!

 ありがとうございます。しかし、結構です。そっとしておいてください。

 そ、そうですか。・・・分かりました。それではこれで引き上げます。

 ありがとうございました。・・・あっ、一つだけお願いがあります。

 女王様、なんなりと・・・。

 その、女王という言い方はこれから止めてください。

 えっ、じゃ、私たちはどうお呼びすれば・・・。

 茅乃と呼んでください。

 カヤノ ?

 ええ、そうです。漢字は・・・、いや、それはどうでもよろしいです。カヤノです。

 それで、上のお名前は ?

えっ、上の名前ですか。・・・陶山です。

 陶山 ? えっ、あの男の名前、・・・で、あの男はどこへ行ったのですか。

 あのお方は私の体の中にいます。

 ええっ、それはどういうことです。

 これもお分かりいただけないと思います。ええ、そうです。確かに私の中に・・・。

 そう言ったときに大きな驚きの声が社に響きわたりました。それから、口々に何かを言い合っていました。姫神はそのとき立ち上がりました。そして、白い手のひらを静かに合わせました。その神々しい仕草が村人を自然に鎮めました。                          (完)

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天上の最終戦争 3

2014-08-13 23:32:23 | 日記
天上の最終戦争 3




フェルナン・クノップフ作「ヴェネツィアの思い出」(1901年頃 姫路市立美術館蔵)


西洋美術史のなかで異彩を放つベルギーの幻想美術は、19世紀の産業化する社会背景から生まれた。画家たちの心象風景が描かれた作品は見るものの想像力を駆り立てる。彼のの作品はグスタフ・クリムトに影響を与えたといわれている。クノップフはどちらかといえば控えめで打ち解けない人柄であったが、彼の作品は存命期よりカルト的な人気を集めていた。レオポルド勲章を受賞している。


貴方は怖くないですか。怖いです、・・・しかし、茅乃さんについていきます。男の霊が私の中に入るということは、私としても経験がないので、極度に緊張しています、ただ、これからの儀式は男女を超えた高度なものですから、始まればお互い苦痛とか不安は感じません。貴女一人で儀式をなさる ? いや、巫女が二人手伝います、では・・・。そんな会話を社殿の中で交わしていると、二人の巫女が装束を正し、鈴を持って現れました。そして、鈴を鳴らしながら円を描いて舞い始めました。茅乃さんは神前に進み出て、拍手を打ち、祝詞を唱え始めました。すると、茅乃さんの体全体に金色の光がまとわりつきました。しばらくすると、眩しくて正視できないようになりました。それにつれ、私の体もふわっと浮いたような感覚が生じました。目を凝らしてじっと私を見てください。眩しくて・・・。いや、すぐに慣れます、いいですか、私の素の体をお見せします。いいですか、その姿を見た瞬間に、貴方はこの世の存在ではなくなります、・・・私の光の中の一部となります。えっ、・・・、そう言った途端、茅乃さんの光に包まれた体のシルエットが見えました。・・・カ、カンノン様。そう私が言うと、私の周りも光に包まれました。これで貴方は私の一部になりました。さあ、これから、天上に昇ります。・・・その言葉だけは聞こえましたが、それからは私の意識はなくなりました。

 

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天上の最終戦争 2

2014-08-07 09:37:40 | 日記
天上の最終戦争 2



藤田嗣治 作 「優美神」 (1946~48年)

 藤田嗣治、60~62歳の時の作品である。三美神を描いたものと思われる。70代にもっと若々しい溌剌とした色鮮やかな三美神を描いている。底知れぬ耽美心を感じる。


 私は、戦いの準備を始めました。死んでもいい、天上で戦えたら私は何の悔いも感じない。ヤサカトメの神の化身の茅乃と生死をともにすることが至上のことと思えてきたのです。イザナミ、八雷神、黄泉醜女(よもつしこめ)らに追われたイザナギは、髪飾りから生まれた葡萄、櫛から生まれた筍、黄泉の境に生えていた桃の木の実を投げて難を振り切った。それにご神木の椋の木の実。霊力を持った植物の実、・・・これを集めておこう。そんなことを思っていました。

 死ぬ !!・・・止めてください。

 死んで、天上に昇り、貴女と生死をともにしたい。

 止めてください。・・・天上の神は究極光の束です。夥しい光の束が絡み合って戦うのです。だから、そんな武器など要りません。

 光 ?

そうです。貴方が光の束になることは、極めて難しい。

 ど、どうして・・・。

 越えなければいけない大きな障壁がいくつもあります。

 修行が足りない・・・。

 霊性という表現が当たっています。霊性も光の束です。

 霊性・・・。

 そうです。

 ・・・。

ひたすら祈ってください。それしか方法はありません。

 ひたすら祈れば何時しか、近づいてくる・・・。

 そうです。ひたすら。・・・ただ、天上は時を争う事態に至っています。間に合いません。

 じゃ、もう私は貴女と一緒に戦えない・・・。

 そういうことになります。・・・ただ、一つだけ方法があります。

 天上に住処を頂いたなら、貴方の場合、もう二度と地上に転生することは叶いません。・・・それでもいいですか。

 二度と人間には返れない・・・ ?

 そうです。特別な儀式を執り行いますが、それは、人間を捨てる儀式でもあります。

 人間を捨てる・・・?

そうです。それでもよければ・・・。

 ・・・。

 それから天上に昇れば、私の光の束の中に取り込まれます。貴方の分だけ私のエネルギーは増大しますから、私の戦力は増大します。光と光の戦いは一瞬で勝敗が決まります。霊性の強い方が弱いもののすべての光を飲み込んでしまいます。邪神の数は日増しに増大しています。私は早く天上に昇らねばなりません。

 ですから、私を戦力に使ってください !!

分かりました。それでは、お宮の方へ行きましょう。・・・いいですか、覚悟は出来ていますか。

 勿論です。

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天上の最終戦争 1

2014-08-02 23:07:51 | 日記





「民衆を導く自由の女神」ドラクロア作(1830年) ルーヴル美術館

 この絵はあまりにも有名すぎて、説明のしようがない。ただ原題は「民衆を導く自由」だそうである。どうして日本では「女神」が付いたのか。当時自由という概念が定着していなかったからであろうか。私はこういう絵は分かりすぎて掲載するのに気恥ずかしさを感じる。色彩の面での配慮、動きのある構図。とまれ、ドラクロア作品を代表する傑作である。


司祭が帰ってきましたので、私は急に落ち着かなくなりました。司祭は庭の奥の祠に入ると、儀式のためにしばらく出てきませんでした。私は、朝食の片付けをすばやく終えて、お茶の準備をしておきました。・・・しかし、待てよ、今日の司祭の顔は何か思いつめているような感じだったなあ。私はそう思って、少し不安になっていました。私は、座卓に揃えたお茶の道具をじっと見つめていました。すると、司祭が居間にもどってきました。


 あっ、ありがとうございます。・・・司祭は私の前に座りました。私は、お茶を注ぎました。

 私は、貴女をどう呼んだらいいでしょうか。

 私の名前ですか。・・・ないです。今までどおりでいいですよ。

 今までどおり ?

あら、忘れたんですか。

 ・・・。

 母さん。母さんでいいですよ。

 母さんと呼んでたんですか。

 そうですよ。貴方が以前急にそう仰った・・・。

 そうでしたか。母さんですか。

 照れくさいなら、・・・茅乃でもいいですよ。

 茅乃さんですか。じゃ、これからそう呼ばせていただきます。

 お茶、おいしかったです。じゃ、失礼します。

 茅乃さん、もう帰るんですか。

 ええ、お勤めが終わりましたので・・・。

 茅乃さん。

 何でしょうか。

 何か、心配事でも・・・。

 心配事 ?

何だか思いつめているような・・・。

 貴方には関係のないことです。

 出来ることなら、何でもします。

 貴方にはできません。いや、頼めません。

 貴女が、・・・もうここに来なくなってしまうような・・・。

 ははっ、そういうことはありません。

 ごまかさないでください !!

・・・そうですか。そう仰るなら・・・。これから戦いが始まります。

 ど、どこで・・・、どんな・・・。

 貴方にだけお話ししますが、神の世界です。・・・私の住処は天上です。そこに、異形の神たちがたくさん出てきました。続いて起きる地上の暗い事件はその神たちの仕業だと思います。

 私も戦わせてください。

 地上のお方は天上では戦えません。

 連れて行ってください。

 お気持ちはありがたいです。しかし、天上に昇るには一旦死なねばなりません。

 私は、私は、貴女といっしょに戦いたい。

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