とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

シュレッダー

2010-08-24 17:06:29 | 日記
シュレッダー



 ある家庭用品の量販店で大発見(?)をした。「おや、お前は紙だけではなく、CD、DVDも食べるのか」。私は思わず呟いた。
 私は現役時代にシュレッダーで紙をジャッとばらばらにする作業に快感を覚えていた。機械にかけた紙は様々で、テストペーパーの試し刷り、個人情報の記してある過去の書類などと多様であった。機械にかけることですべての秘密は粉々になった。「ああ、これで心がすっきりだ」。私は機械を撫でてやった。この快感を味わうためにマル秘でもなんでもない紙を機械にかけることもあった。
 退職してからは粉々にすべき書類は少なくなった。しかし日が経つに従って、ゴミとして出せない文書が溜まってきた。私の心は落ち着かなくなったのである。そこで、私はいろいろな資料で適当なシュレッダーの家庭版がないか探した。ところがいくら探しても玩具のようなちゃちなものしかないのである。
 ところが、ある日、量販店の文具コーナーの隅の棚に、やや大型で手ごろな値段のものが乗っかっていた。嬉しかった。それからというもの、何回となくその前にしゃがみ込み、ためつすがめつ眺めて迷った。何となく家庭用品としてはそぐわない気もしたのである。でも買わないと……。
 だから、その店に行く度にしゃがんで幾つかの機械の形態と機能を確かめながら機械たちと話をしていた。……そうか、IT時代のシュレッダーは多様な機能を兼ね備えていなければならないのだな。それでは、丸い合成樹脂の板を噛み砕くときはどんな音を発するのかな……。
 もちろん、その音は買って使ってみないと聞こえてこない。私は、ふと、こんなにもその機械に執着するのは、もしかして心の底に積もっている長年の嫌な記憶をバラバラに砕きたい気持ちの表れかもしれないとも思った。(2006投稿)