とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

宿善の助くるによって・・・

2014-05-29 21:58:49 | 日記
宿善の助くるによって・・・




 新緑の椋の木。地味な華が咲き、小さな実をつける。秋になると黒く熟して、鳥が食べたりする。食用で甘い実である。




 園田が突然諏訪まで来てくれて、その後の出雲のことを話してくれました。

 ・・・私はそのままです、転生などしていません。先生は転生されてまたここで生きて行かれます。ああ、奥様ですか、ええ、ええ、お嬢様と一緒に暮らしておられます。ご縁劇場 ? ええ、ええ、あります、あります。出雲市はそのため人口が増えました。出雲大社の平成の大遷宮と時期が重なって、相乗効果と言いますか、連日ものすごい人出です。

 園田、私はここの地の空き家にまた生まれてきたとか言うが、現実感が全くない。その証拠、地理的な知識がない。どこに何があるのか分からない。それから私の家はどこにあるのか、ないのか、・・・全く・・・。

 それはご不自由ですね。どこへなりとお連れします。車などなくてもどこへでも・・・。

 そうか、それはありがたい。じゃ、近くのお寺へ連れて行ってくれないか。

 お寺 ?

そうだ、和尚と話したいことがある。

 今まではお宮とご縁がありましたが、今度はお寺ですか。

 いいじゃないか、無性に法話が聞きたくなった。

 分かりました。では、すぐ近くに禅寺がありますので・・・。法外寺と言います。

 ほうがい ? 法の外 ?

さすがお気づきのようですね。禅の真の教えは法の外にあると仰っているとか聞きます。

 面白い。では、よろしく。・・・私はテレポーテーションのように瞬時にお寺に移動しました。

 どちらから来られたかな、と和尚は白ひげをしごきながら尋ねました。

 私は出雲から来ました。

 ほほう、出雲から。過去世は出雲で・・・。

 ところで座禅の経験は・・・。

 いや、全く。

 では、座禅から始めましょうか。

 私は、ご法話を伺いたいのですが・・・。

 話して分かるものではない。

 そういうものですか。

 修証義をご仏前でお唱えしましょう。そこから感じていただきましょう。そうしているうちに身内に力が漲り、ここでの貴方の働きの助けとなると思います。生きる方向も見えてきましょう。・・・では、お経本をお貸ししますから私につけてお読みください。・・・生を明らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり、生死の中に仏あれば生死なし、但生死即ち涅槃と心得て、生死として厭ふべきもなく、涅槃として欣ふべきもなし、是時初めて生死を離るる分あり、唯一大事因縁と究尽すべし。人身 得ること難し、仏法値ふこと希なり、今我等宿善の助くるに依りて、 已に受け難き人身を受けたるのみに非らず遇ひ難き仏法に値ひ奉れり、 生死の中の善生、最勝の生なるべし、最勝の善身を徒らにして露命を無常の風に任すること勿れ。無常憑たの み難し、知らず露命いかなる道の草にか落ちん、身已に私に非ず、 命は光陰に移されて暫くも停め難し、紅顔いずこへか去りにし、尋ねんとするに蹤跡なし、熟つらつら観ずる所に往事の再び逢うべからざる多し、無常忽ちに到るときは国王大臣親昵従僕妻子珍宝たすくる無し、唯独り黄泉に趣くのみなり、己れに随い行くは只是れ善悪業等のみなり。

 
 ・・・方丈さん。

 なんですか。途中で尋ねないでください。

 ・・・方丈さん、ここです、ここです。「今我等宿善の助くるに依りて、 已に受け難き人身を受けたるのみに非らず遇ひ難き仏法に値ひ奉れり。」・・・方丈さん、ここです。「宿善」とありますが、私もそういうお助けがあったのでしょうか。

 ありましたから、貴方はここに・・・。勿論、お父上、お母上の「宿善」もあったと思います。
 
 母の「宿善」・・・。

 そうです、そうです。諏訪は尊い命の故里です。

 えっ、そうですか。・・・それでは・・・、私は、ここでも・・・、ここでもしっかり生きます。

 よかった、よかった。その言葉を待っていました。

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ここは・・・? !

2014-05-14 22:27:37 | 日記
ここは・・・? !





 おい、おい、私をどこへ連れて行こうとするのか。いつの間にか私の体が霧のようになって輪郭がぼやけてきました。墓の中の空き家が住み心地がよかったのに、どこかへ飛んで行きつつありました。おーい、園田はどこに居るんだ。返事してくれ。妻も治子も千恵子も三朗もすべて呼びました。返事はありません。次第に私の体は気体のようになって、自分でもしかと見えなくなったのです。そして、また暗黒の世界の中に落ちて行きました。ブラックホールの中に吸い込まれていくのか、いや、負の重責する世界か。負だって ?  だとしたらとことん戦おう。私の意識はそう覚悟していました。長い、長い暗いトンネルのようなものが私を包んでいました。
 そして、その底へどしんと落ちた感覚が体を捕らえました。ここはどこだ。目を凝らして見ていると、闇の世界の奥から少しずつ光が差してきて、周りのものの輪郭が現れてきました。

 
 ここは、どこだ。誰か答えてくれ。おい、誰かいないのか。ここはどこだ。・・・ん、ここは、いつか来たことが・・・。確かに私が以前見つけたあの空き家の居間でした。

 誰か、誰か居ませんか。・・・何度も問いかけると、奥の部屋から誰かが現れました。

 陶山さん、ここの家の居心地はどうですか。

 あっ、貴方は長柄さんじゃないですか。

 いえ、私は、管理人の新田です。私の名前を忘れたのですか。

 貴方こそ・・・、私は畝本です。

 いや、貴方は陶山さんです。間違いありません。

 そんな・・・。

 ここの合鍵を貴方に渡しました。

 鍵 ?

もう返したはず。

 いや、いや、持ってらっしゃる、そこの内ポケット。

 ポケット ?

そうです。

 ほ、ほんとだ、ありました。

 ということは、貴方は陶山さんに違いありません。

 ご縁市場は・・・。

 ご縁市場 ?

そうです。昔の小学校です。

 廃校になった小学校はありますが、ご縁市場とは言いませんね。

 ここはどこですか。

 長野です。諏訪市です。

 諏訪 ?

諏訪神社のあるところです。

 タケミナカタだ。

 よくご存知ですね。

 奥方はヤサカトメの神です。

 タケミナカタが私を呼んだ・・・。

 面白いことを仰いますね。

 私は出雲から来ました。

 ええっ、貴方は諏訪のお方のはず・・・。

 違います。出雲で死んで、ここに・・・。

 そんな、貴方は、れっきとした諏訪の人です。

 庭に椋の木があるはずです。

 ええ、あります、あります。大変な老木です。推定樹齢一千年とか言います。

 それから、ここの家の家族はどこに・・・。

 それが、死に絶えました。私が、親戚の私が家の管理をしています。ある日、貴方がふらりとやって来て、家を貸せてくれと仰ったんですよ。庭の草の掃除をしていただいて、感謝してます。

 えっ、そ、そうですか。

 とぼけたっていけません。ほら、綺麗になった庭がそこに・・・。・・・私は、動揺する心を支えきれずになっていました。

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