とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

40 御霊屋

2015-07-30 23:52:06 | 日記
花りん、行ってみよう。私は、妙に気がかりになってきた。
 私は姫神がいないのをみはからって、隣の花りんにそう言いました。霊的にはお前が上だからお前の霊の中に隠れて、いや、運んで貰って行くことになる。これはいつもの通りだ。樹木からの霊体離脱はかなりのエネルギーが必要だが、少しの間ならなんとかなる。

 「お父さん、私もそう思っていました」

 「そうか。姫神が避ける家、もと三人が住んでいた家。その中に旦那さんと娘さんの霊が住んでいる。・・・確かめたい。出来たら話がしたい」

 「分かりました。出かけましょう。では、精神を静かに落ち着けてください。私も波長を合わせます」

 すると。私の視野が次第に動き始めました。振り返ると自分の樹が後ろにありました。

 「うん、成功だ。花りんはすごい」

 「心が乱れると、私から落っこちますよ」

 「分かってる。分かってる」

 二人は、森の奥へ、奥へと進んでいまーきました。間もなくすると、広い花畑が辺り一面に広がっていました。



 私は暗い森とその中の不気味な空家を考えていました。

 「森の奥がこういう風に明るいとは思ってもみなかった」

 「ああっ、ずっと向こうに家が見えてきた。お父さん花畑を進んでみますか」

 「もちろんだ。花りん慎重に、慎重に。何が出てくるか分からない」

 「ええ、承知してます」


 やがて、家の前に着きました。花りんが入口のドアを開けました。

 「いい香りが立ち込めている」

 「お父さん、正面に、絵が掛けてあるわ。・・・おお !! 二人の肖像画です」

 「後ろはすごい細工のステンドグラスだ」

 「教会みたい」

 「そうだ。きっとそうだ。二人の霊を鎮める御霊屋だ。姫神はここには近づけない、とか言ってたけど、この香りは、神事が行われている証拠だ」

 「男の人と少女。すごい穏やかな顔をしていらっしゃる」

 「理想の家族。そんな感じだ。・・・いいものを見せていただいた」

 二人は、摘んできた花を絵の前に供えました。すると、建物がかすかに振動しました。言葉ともとれる妙なる響きでした。

 
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39 姫神の過去世

2015-07-27 17:05:38 | 日記


 新樹さん、私の過去について貴方にお話しさせてください。どうしてなのか私にもよく分かりません。新樹さんと向かい合っていると、自然にお話ししたくなります。
 姫神様はそう前置きして、自身の過去を語り始めました。

 「この森の時間の尺度は他とは随分違います。ですからそう思って聞いてください。・・・私は大学のサークルで知り合った恋人がいました。私は弁護士になり、彼は都内の会社に就職しました。そして、ごく普通の結婚をしました。私が都内に事務所を開いたときは、資金面でも協力してくれました。事務所を開いてからは私は勤務が不規則で帰宅時刻もまちまちでした。それでも不満を述べたことはありませんでした。私も彼を信頼していました。そして、私は女の子を出産しました。・・・育児や家事は彼が中心になってやってくれました。ごく普通の家庭だったと思っています。」

 「姫神様が弁護士だったとは・・・」

 「理詰めでものごとを考えるのが好きだったのです。その性格ががその後災いしたようです」

 「災い・・・?」

 「そうですね。私が生活の道を予め決めて、それを家族に押し付けていました。子どものことでもよく口論するようになりました。小学生になってもほんの些細なことで喧嘩していました。一人娘ですからしっかりした仕事に就けたいと思っていました。彼はのびのびと育てた方がいいといつも言っていました。外国の学校に行かせたいと主張していました。私は遠くに行かせることは反対でした」

 「それはどこにでもある家庭の姿ではないでしょうか」

 「そうかもしれません。でも、私たちの場合は深刻になっていきました。・・・彼は突然、娘は私が一人で育てると言いました。・・・それって離婚したいと言うこと ? 私は尋ねました。すると、彼はそうだと言いました。私は急に目の前が真っ暗になったような気持ちになりました。彼と結婚したのは間違いだったのかもしれないとも思いました。私はあくまで自分中心の発想でものごとを割り切っていました」

 「私もそういう点があったと思います」

 「・・・とうとう子どもを連れて家を出ていきました。そうか、娘も私を嫌っていたのか、と思い、私の道がすべて閉ざされてしまったように気持ちになりました。私は何度も二人の家に行って説得しました。しかし、だめでした」

 「ご両親に相談されましたか ?・・・御免なさい。失礼なことを言いました」

 「いや、結構です。よく言っていただきました。そのときは私自身のことは自分一人で解決できると思っていましたので、相談はしていませんでした。あのとき、両親や知人に相談すべきでした。・・・私が一人で問題を抱え続けていたことが悲劇を生みました。・・・無理心中をしてしまったのです」

 「ええっ !!」

 「ははっ、馬鹿な女です。・・・この森の奥に当時の私たちの家を作りました。そっくりそのままです。・・・どうして作ったのか ? ははっ、私にもよく分かりません。ただ、あの家に住み続けることは出来ませんでした。まだ、死んだ二人の霊が生き続けているからです。・・・私 ? 私が死んだ訳 ? どうしても聞きたい ? ・・・悲惨な死に方を選びました。反抗したくなったのかもしれません。手段はご想像にお任せします」
 
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38 姫神の忌避神

2015-07-23 04:47:50 | 日記



 私は貴方を信頼してしいます。ですから、色々と話しました。・・・姫神様はそう仰言いました。

 「ですから、・・・また、別の話をしたくなりました」

 「ありがたいことです。ぜひお聞きしたいです」

 「貴方の娘さん、・・・ああ私の世話をよくしてくれる、あのさやかさんですが・・・」

 「さやかがどうかしましたか ?」

 「いや、そうですね、・・・純真すぎる、というか、一途で怖い気がします。・・・貴方の霊を引き継いでいるということ、・・・ああ、御免なさい。気になさらないでくださいね」

 「私もそう思っていました。ですから、遠慮はいりません。どうか続けてください」

 「こういう霊の世界があるということをさやかの現世のお母さんはご存知ないようです。いや、そのことはさやかも知っていることのようですが、それが・・・」

 「それがどうかしましたか ?」

 「いえ、何も・・・」

 「ですから、私には少しも遠慮なさらないでください」

 そう言うと、姫神様は少し涙ぐんだ様子で、顔を伏せました。私は、訳を知りたいと思う反面、これ以上聞いてはいけないと思いました。しかし、自分で話しておきたいと仰ったことですから、何か重大な秘密があるに違いないと思いました。

 「誰にも話しません。花りんもそうだと思います。ですから・・・」

 「・・・そうですか、それでは・・・」

 姫神様は、ゆっくりと顔を上げました。

 「ある日の夕方、さやかのお母さんが西の空を見上げていました。満天の星空をしみじみと見ているようでした。私にはお母さんが天に祈っているという風に見えました。さやかのことかもしれないし、自分のことかもしれない。その姿が神々しく見えました。・・・確かに絶対神が加護している、というか、背後に絶対神が付いている、という姿に見えました。・・・いや、お母さんが絶対神かもしれないという思いが湧き上がってきました。これは私だけに見える姿です」

 「絶対神 ?」

 「そうです。私たち、そうです、貴方に関わった女性たちの神々もそうですが、一体の地下神なのです。私たち地下神は絶対神の加護を受けつついろいろな仕事をしているのです。・・・ああ、そうでした。あの火事の日、私の火花が天上に昇っていったのも神の意思によると思われます」

 「とすると、有難いことだと思いますが・・・」

 「ええそうです。その通りです。ですから、私たちは神への祈りを絶やしません。過去世での罪人を転生させる仕事は、この現世ではなくてはならない仕事です」

 「聖なる仕事ですね」

 「聖なる・・・? そこですね。私たちは、・・・この森の妖精たち、そして私は、何も聖なる云々という意識はありません。天の思し召しだから、自然に仕事が出来るのです。無為、無作。と言った方がいいかもしれません」

 「無為、無作 ?」

 「そうです。天のお加護があるからこの森のが存在出来るのです。感謝しています。・・・でも、考えてみてください。常に感謝をしていることも出来ない。分かりますか ?」

 「いえ、分かりません。神様の所業は私たちは計り知ることができません」

 「はははっ、過去世は私も罪人。その霊が完全に消えている訳ではありません。ですから、どうして ? と思うこともあります。そういう時は絶対神を忌避しているかもしれません。忌避している、・・・いや、言葉が悪いかもしれません。縛られているという感覚です。しかも永遠に。・・・天の思し召しでこの世は成り立っている。ははっ、そういうことにささやかな抵抗をしてみたくもなります。ははっ、抵抗したらこの世はなりたちませんけれど・・・」

 分かると言ったら語弊があるかもしれません。しかし、私は、姫神様の永遠の苦悩を見たような気がしました。


 
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37 姫神の森

2015-07-17 00:48:04 | 日記





 はははっ。姫神様はまた笑いました。私が姫神さまの過去世を知りたくなって、ある日尋ねたときです。私の過去世 ? 聞きたい ? そう仰言いました。

 「それは、あなたとよく似ています。・・・光の柱たちから弾き出されました。そして、ここへ来ました。気がついたら、森のようなところでした。私は、森のてっぺんまで飛ばされました」

 「弾き飛ばされた・・・。ということは、過去世に於いていろいろと・・・」

 「光の柱に加われなかった理由はありすぎるほどありました」

 「えっ !! ・・・そのことを尋ねてはいけませんか ?」

 「かまわないけれど、・・・ははっ、貴方と似たようなものです。いや、もっとひどいかも・・・」

 私は、驚きました。私と似ている ? この森の崇高なる姫神さまが、私と似た過去世を・・・。私は、何かしら親近感を感じました。

 「私は、弾き飛ばされて、樹木として転生しました。次第に、この森の樹木はすべて過去世に於いて人間だったことを知りました。私は、その呻き声のような凄まじい声を聞いて暮らしていました。先ほどのキャシーとアンナも初めは泣き叫んでいるだけでした。私は、その夥しい声を聞いて暮らすことを少しも苦痛に思っていませんでした。しかし、数年経ってから、・・・ここでの数年は過去世のスパンとは違いますが・・・、大きな出来事が起こりました」

 「大きな出来事 ?」

 「そうです。森が火の海になりました」

 「えっ、・・・ということは、山火事 ?」

 「そうです。落雷が原因で炎がたちまちに森中に広がっていきました。益々叫びだす樹木たち。私のところへも炎が回ってきて、私も燃え上がりました。ああ、ここでも私は苦しむのか、因縁とはこういうものだ、と思っていました」

 「火炎地獄ですね」

 「ははっ。そうだったかも知れません。私も一緒に焼けただれて死んでいく。因縁だ。この森のものたちは過去世に於いてそれにふさわしいことをして来たのだから・・・。そんなことを考えていました。が、ふと何かに気づいたのです。根元が冷たい。そうです。確かに水がある気配でした。私は、辺りを見透かしました。私の後ろ、山のてっぺんには大きな池があったのです。燃え盛る樹々、大量の水。・・・今考えると不思議な思念ですが、私は咄嗟に、私に大きな雷が落ちることをイメージしました。すると、もしかして、私が粉々になる代わりに池の堤が砕けるかもしれない。そう思いました」

 「ええ、ええ、そうです、そうです。で、そうなると森に大量の水か流れ出す・・・」

 「はははっ、察しがいいですね。・・・私のその思いは次第に強くなり、体を包んでいる炎が天上に吹き上がりました。遥か彼方に炎が昇っていきました。そのとき、森中を揺るがす雷鳴が轟きわたり、私はたちまちに火の粉となって飛び散りました。同時に私の魂は地面が動き出すのを感じました。そして、亀裂が出来て、池の水がどっと溢れ出しました。そして、次の瞬間、森の中に大量の水か流れ下りました」

 「よかったです。それで森の樹木はほとんど火難から免れた・・・」

 「私は今でも不思議に思っています。私の炎が天上に吹き上がるなんて・・・」

 「天が貴女に与えた役割、というか、天の配剤ですか・・・」

 「そうだったかも知れません」

 「天は貴女を選んだ。そのことによって姫神様の資質が与えられた・・・」

 「そうだったかも知れません。私の過去世の極悪な魂の最後の叫びが天に通じたのだと思います。・・・森は、それから徐々に広がっていきました」

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36 大願成就=消失

2015-07-09 16:03:42 | 日記




 キャシーとアンナ、いよいよお別れだね。今までよく精進しました。はははっ。いや、ご免、ご免、こんなところで笑ってはいけないね。・・・いやね、この森へ来た時より素晴らしく美しくなってきましたね。これは精進の賜物、よかったね。もうここへ帰ることがないように。
 私は、姫神のそういう話を興味津津聞いていました。大願成就すれば木から人間に変じてしまう。しかも美しい姿になって、森から消えていく。私はどういう精進をすればそういう姿に戻れるのか。いや、私は、人間に戻りたくない。・・・私は、またそう思いました。

 「花りん、二人の姿を見て、私は、お前を早く人間に戻したいと思った」

 「すごく綺麗だった、あの二人。過去世のことは噂で聞いていました。すごかったらしいです。お父さんが人間になるのを見てから私も・・・。いいえ、私はこのままでいい」

 「さやかが色々と教えてくれると思う。精進して早く・・・」

 「精進ですか。私は、火炎地獄を味わいました。もう精進はしたくないです。・・・何も人間に戻らなくても木の方が理想的・・・」

 「理想的 ? ・・・そう言えば私もそう思っていた。生き物として理想的だと思う」

 「お父さん、あの二人の修行内容は大体想像できる。地獄の修行だと思う」

 「そうだろうな。いや、私は、怖くなんかない。ただ、人間に戻りたくないだけだ」

 「お父さん、修行の後で、姫神さまが最後の仕上げとして食べさせてくれる食べ物を知っている ?」

 「何だ、それは ?」

「マテバシイの実」

 「何、マテバ ?」

 「そうです。私は見てました。二人は確かに食べていました。マテバの実はそのまま炒って食用になる。この森ではずっと奥にたくさん自生していてすべてご神木です。さやかさんがリスに変身するのは、マテバをたくさん姫神さまからいただいたからだと思います」

 「花りん、分かった、分かった。・・・マテバ、マテバか」

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