とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

二人の母

2012-09-28 23:26:42 | 日記
二人の母




ドーソンヴィル伯爵夫人(アングル 1845年 フリック・コレクション ニューヨーク)
「泉」の実物を鑑賞することができた私は、この画家の品格ある作品群に強い関心を持っている。心を包み込むような雰囲気は永遠に愛されることと思う。


 小学校での各種の店の部屋割りと担当者等が決まり、いよいよ開店の日が近づきました。地元商工会は二部屋割り当てられ、品数としては小さなスーパー並みになり、この企画に賛同する地元の層も厚くなりました。ということで、報酬を目当てとしないボランティアの協力を得ることもできました。事務所の部屋も出来上がり、所長として古賀画伯が就任することになりました。そんなある日、郁子さんから電話がありました。


 モデルを頼まれたんです、京子さんから。

 ああ、独立展の作品ですね。

 そうです。

 いい話じゃないですか。ぜひ引き受けてください、私からもお願いします。

 前後してご免なさい。もう始まってます。

 あっ、そうですか。

 数枚下絵を描いて、その中から決めるそうです。

 そうですか。いろいろな構想を練ってますね。しかし彼女はもう実力は認められています。もちろん彼もです。・・・それで彼はどういう・・・。

 ご主人は、お孫さんを抱いたポーズのお母さんです。

 それもいいですね。

 それで・・・。

 なんですか。

 いや、その下絵の中にセミヌードもあるんです。

 えっ。

 別に抵抗はありません。その絵柄が選ばれても私は構いません。

 ・・・。

 いろいろなポーズをとっているとき、京子さんが突然、貴女はどこかでお目にかかったことがあるような・・・、とか仰ったんです。

 えっ。

 いや、はっきり言いますと、誰かに似ているとか、そんな・・・。

 似ている。誰にですか。

 画家の独特な勘でしょうか。

 もっと具体的に仰ってください。

 ある舞台女優の名前を上げたんです。

 誰ですか。

 中村仙女さんです。

 中村仙女・・・。いや、私は演劇に疎いので初めて聞く名前ですが。

 画家としても活躍されています。

 道理で・・・。

 ええ、画家だから余計に京子さんは意識されたかも知れません。

 で、その似ているということがどうだと言うんですか、京子さんは・・・。

 いや、それ以上何も仰いません。

 そうすると、私に電話かけてきたのは・・・。

 ご免なさい、個人的なことで電話までして・・・。

 いや、いいですよ。

 私はその方の子どものような・・・。

 えっ、家を出られたお母さんはその方という・・・。

 小さいころ父が私にちらとそのようなことを言ったような記憶が・・・。だから借金のことで家出したというのは作り話で、同居はしてなかったようです。冴子さんによくしていただいて、私は自然にお母さんだと思い込んでいました。・・・京子さんの口から中村仙女という名前を聞いて、反射的に私が動揺しました。そう言えば十分な収入がないお父さんが私を育ててこられたのもそのお方の影の心遣いがあったからではと思いはじめました。・・・私は冴子さんだけがそういう心遣いをしてくださっていると思っていました。でも、冴子さんも絵の商売をなさっていますから、おそらく二人で連絡をとっておられたのではないかと思います。

 舞台女優という立場上、表に出ることはできなかった・・・。

 そうだと思います。

 昨日、私宛にお金が送られてきました。

 えっ、お金が・・・。

 全く違う名前だったですが、これはお母さんに違いありまんせん。新しい仕事で使ってくれと書いてありました。

 二人の母・・・。私はそう言いかけて、その言葉を飲み込みました。
  
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電力の供給

2012-09-23 23:11:26 | 日記
電力の供給




 岡鹿之助「雪の発電所」(昭和31年・ブリヂストン美術館蔵)。この作品のモデルとなったのは、長野県下高井郡山ノ内町平穏にある水力発電所である。因みにこの作品は昭和31年には現代美術日本展最優秀賞を、昭和32年には毎日美術賞を受賞している。


 リハーサルを見た地元商工会の会長から古賀画伯に電話があったそうで、すぐに佐山先生と協議をされました。その後佐山先生が私の家に来られ、事情を説明されました。


 長柄さんや冴子さんにも話しましたが、ちょっとした問題が起こったようです。

 と言いますと・・・。

 一つは、郁子さんが付けてくれた照明のことです。会長さんの話によると、小学校の敷地からはみ出していて苦情の連絡があったそうなんです。いや、このことはすぐに郁子さんが修正してくれました。実はね、会長さんはその時、節電のことを仰ったようです。夜間あかあかと照明を点けていてはこのご時世おかしいと仰るんです。

 それもそうですね。

 LEDにしても同じことを言われると思います。

 そうでしょうね。

 それでね。あれこれ相談して、時間を短縮することにしました。

 それがいいですね。

 それから、会長さんはいいことを教えてくれました。

 いいこと・・・。

 再生可能エネルギーです。

 ああ、最近よく聞きますね。

 古くから地元にある水力発電の電力を使ってほしいと言われました。

 水力発電所があるとは聞いていましたが・・・。

 ええ、配線をしていただいて、使わせていただくことにしました。そしたら、郁子さんが、小学校だけで使う電気だったら小型の水力発電で賄うことができると提案しました。

 発電機、高いんじゃないですか。

 それが、中古のものを用意すると言うんですね。

 それが可能ならそれがいいのでは・・・、いや、私にはよく分かりません。

 私は郁子さんの提案を断りました。

 どうしてですか。

 商工会からの提案の裏には、どうも小学校に地元の商店も出店したいという気持ちがあると思ったんです。

 それはいい話だと思いますが・・・。

 私もそう思います。商品の種類が増す・・・いや、それ以上に地元の商工会が私たちの企画を全面的に認めてくれたことになります。

 地元が認めてくれれば強いですね。

 そうです。ますます地域興しの拠点としての機能をいかんなく発揮します。

 裾野がぐんと広がりますね。・・・私は、いよいよ本物になってきたと思いました。

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ニケ像のリハーサル

2012-09-18 21:44:34 | 日記
ニケ像のリハーサル



 ニケ像の設置

 小室さんの観音菩薩像(ニケ像)がやっと出来上がりました。たくさんのパーツが小学校の校庭の隅に運ばれました。車付の台の上で組み立てられ、夜その像は鮮やかなニケの神像に変身しました。
 私と長柄さんは、設置位置を決めるリハがあるという話を佐山医師から聞きましたので、見学に出かけました。
 
 おっ、想像以上のすごい迫力ですね、と長柄さんは目を見張りました。

 観音さんが姿を変えたとは思えないですね、こりゃすごい。私もその神々しい姿と輝きに目を奪われ、立っているここが小学校の跡地だということが一瞬信じられなくなりました。古賀画伯と佐山医師が並んで何やら話していました。そしてときどき大声で、ちょっと前へ、とか、もう少し東へ、とかの指示を出していました。すると指示に従って微妙に像は少しずつ動きました。闇の中を目を凝らしてよく見ると、小室さんや京子さんの姿も認められ、二人は親しげに話しているようでした。私たちが京子さんたちの傍に近づくと、郁子さんの大きな声が響きました。

 一旦照明落としてみますね。すると、像の方から誰かの声がしました。

 消さないでください。位置が分からなくなります。

 そうですか。じゃ、止めますね。そう言うと、京子さんと小声で何か話していました。私は先日の冴子さんの話を思い出しなから、二人の出会いの不思議な縁ということを思いました。運命の糸というものは意外なところで結ばれる。私はそう考えながら何か恍惚とした思いにとらわれていました。

 長柄さん、ほんとに不思議ですね。

 何が・・・。

 人と人との出会いというものがですよ。

 ほんとに・・・。

 一本の糸で繋がれているような・・・。

 ほんとに・・・。

 こういう日が来ることは想像もしていませんでした。

 ・・・。

 京子さんたちの壁画は進んでいるでしょうか。

 佐山先生の奥さんたちの作品はとっくに完成しているらしいですよ。だから、京子たちの作品も出来ていると・・・。

 ああ、そうですか。そりゃよかった。・・・岡田さんたちの農産物は何時でも出せるとか聞いています。

 じゃ、いよいよスタートだね。お疲れ様。

 いやいや、貴方こそ。・・・私はそう言いながら大きな夢が膨らんでくるのを感じました。

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坂本郁子という女性

2012-09-16 22:36:59 | 日記
坂本郁子という女性



 夜の教室

 会議が終わって、出席者誰もが興奮気味で会議室を出ていきました。私も長柄さんと帰ろうと思い、玄関まで出ました。すると、冴子さんが私たちを呼び止めました。二人は招かれるまま教室の一部屋に入りました。中には意外にも坂本郁子さんが座っていました。


 お疲れのところごめんなさい。少しばかりお話ししたいことがありまして・・・。そう言って冴子さんは郁子さんの隣に座りました。私たちは二人の前の机と椅子を逆向きにして座りました。

 ごめんなさい。実はこの郁子のことですけれど・・・、この子、私を母と思っていて・・・、私も母親のように心がけて育ててきました。

 そうですか。初めて聞きました。郁子さんは電気関係がお強いですね。外の照明を見てびっくりしました。あっ、このことは岡田さんから伺いました。

 この子、電気、と言いますか、照明の勉強をしてきました。ある演劇集団の照明係りをしていました。

 道理で・・・。それで、今は・・・。

 辞めて岡田さんのお手伝いをしています。郁子さんが答えました。

 失礼ですが、どういうきっかけで・・・。

 ちょとしたいざこざに巻き込まれてしまって、退団をしてしまいました。

 いざこざ・・・、いや、失礼、立ち入ったことを聞くのは止めましょう。

 それでね・・・。と冴子さんが続きを繋げようとしました。・・・それで、これから一緒に仕事をすることになったので、誤解を避けるためこの子と私の関係をお二人にお話ししよう思ったのです。・・・実はこの子の父親は画商をしていました。そういう関係で、私もコマーシャルベースでお付き合いをしていました。銀座に出店するという話を進めておられるときも相談をもちかけられ、その筋のお方を紹介してあげたりしていました。ところが金銭関係のトラブルが起きて、どうにも前に進めることができなくなりました。そのことがきっかけで母親が家出をしました。八方手を尽くしたのですが、見つかりませんでした。幼い郁子の養育ということがありましたので、私は母親代わりとして暇を見つけては通っていました。・・・それで、郁子はいつしか私をお母さんと呼ぶようになりました。正直言って、私も子どもが欲しかったので、ついついお母さんと呼ばれると、はい、はいと答えるようになりました。・・・ええ、そうです、京子という子どもを裏切って、父親を連れ出したその罪の償いだとも思っていました。勿論、京子も可愛いです。掛け替えのない子どもです。しかし、この子も可愛い子どもです。・・・畝本さん、可笑しいでしょうね。笑ってやってください。

 冴子さん、そんな・・・。私はやっとそう言いました。

 京子の父親はそのことを知っていますか。初めて長柄さんが口を開きました。

 東京に出てまもなく失明しましたが、私が郁子のところへ通っていることは知っているようでした。郁子には父親もいますし、私を疑っていたかも知れません。

 で、今は、その件については・・・。

 郁子が可愛いから通っているということは理解してくれていると思います。

 分かりました。分かりました。よくぞ私たちに話していただきました。ありがとうございます。・・・まっ、そういう込み入った話は置いて・・・、私は、郁子さんという心強い仲間を得ましたのでとても嬉しいです。晴れやかです。ねえ、長柄さん。

 若い仲間は頼もしい。年寄ばかりはいかん。はっ、はっ、はっ、よろしく、よろしくお願いします。

 畝本さん、長柄さん、私こそこの子をよろしくお願いします。

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古賀画伯が紹介した事例

2012-09-14 05:57:37 | 日記
古賀画伯が紹介した事例



 岩手県旧荒屋小学校の木造校舎(下記サイトより引用)

廃校施設利用の事例

 古賀画伯は会議の冒頭で岩手県の旧荒屋小学校等の廃校施設を利用した様々な試みをスライドで紹介しました。
 
 これから出雲で新しい地域興しの事業を立ち上げる訳ですが、最初に紹介しました先進地での試みから学べることはどんどん取り入れていきたいとと思います。先ず運営の組織がしっかりしている必要があります。次に支援していただく地元の理解が必要です。それから品数が豊富で安価であること、勿論新鮮さも求められます。芸術鑑賞スペースではくつろいだ雰囲気づくりが求められます。それからリピーターをたくさん作るためにどのコーナーも明るく入りやすい配置、陳列を工夫しなくてはいけません。接客マナーの勉強も必要です・・・。

 私は配られた資料の内容、事例の紹介等を見たり聞いたりしているうちにこの会場に漲る力を感じました。古賀画伯、佐山医師、それに冴子さんというその道のベテランがそろい、趣旨に賛同する同志たちがたくさん集結したことが奇跡のように思われました。

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