とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

伝説のヴァイオリニスト

2011-11-24 22:00:47 | 日記
伝説のヴァイオリニスト



 久保 守という画家を知るようになって、私の絵の見方が変わった。絵というものは結局この方の作品に行き着くという気持ちになっていた。
 この画家は、1905年に札幌で生まれ、絵の道に進み、梅原龍三郎に師事した。1929年に東京美術学校西洋画科 ( 岡田三郎助教室 ) 卒。1930年にフランスに滞在、ルーブル美術館で模写。1960年に安井賞の選考委員となり、1966年に 東京芸術大学教授。1972年に 退官し、のち名誉教授となった。
 画風は特に静物画を得意とし、無駄なものをそぎ落とした簡素な構成の絵が多い。一見さらっと描いているように見えるが、とても奥深くしかも品格がある。人間これほど冷静にはなれないということを感じさせるほど静かな画境を確立している。『文学界』の表紙絵を描いていた時期もあったそうだ。そう言えば私は確かにその絵を長らく見ていて、画風に好感を持っていた。
 ある日私はネットのオークションで久保氏の人物像を見つけてその迫力に驚嘆した。諏訪 根自子(すわ ねじこ、1920年1月23日生まれ 。女性ヴァイオリニスト。東京府出身)の舞台姿だった。大きな目をキッと見開いて演奏している意志的な姿だった。画布の裏にはその折に作った短歌も書き込まれていた。
 その後ネットで検索すると、何と素晴らしい美人ではないか。しかも十代で渡欧して外国で高い評価を得ているし、かの田中頼璋の娘の路子氏の知遇を得ている。この世界的な演奏家の演奏を聴いた久保氏は圧倒されたに違いない。普段の冷静さを失い、燃え上がるような情熱を注いで描いたのである。
 この絵が欲しい!! 私もまた冷静さを失い、入札を続けた。しかし、途方もない値が付いてしまったので涙を呑んで諦めた。 ある年の日経朝刊の文化欄で美術評論家・勅使河原純が「一世風靡の女十選」と題して、9人の女優と一人のバイオリニストをモデルにして10人の画家が描いた肖像画を紹介したそうである。メンバーは、小倉遊亀の越路吹雪、梅原龍三郎の高峰秀子、小磯良平の八千草薫、北沢映月の山本安英、宮本三郎の雪村いづみ、伊東深水の小暮実千代、守屋多々志の松井須磨子、大山忠作の有馬稲子、久保守の諏訪根自子、横尾忠則の桃井かおり。
 ということは、私が落札しようとした絵は美術館ものの絶品だったのである。私は痛く合点してしまった。それにしても世の中には金持ちがいるものではある。
 その後せめて画像でもと探したのが次のyou tubuである。ありがたいことにレコードに録音された演奏も聴くことができた。なんと、なんと、こういうお方もいたのである。・・・絵から私は様々な出会いをすることが出来た。天運に多謝。



Dvorak Indelian Lament Nejiko Suwa,violin インディアン・ラメント 諏訪根自子



        

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2 コメント

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ありがとうございます (久保 龍)
2014-06-24 11:41:17
初めまして。久保守の孫、龍と申します。

時折、亡き最愛の祖父を忍び、ネットで「久保守」を検索するなか、こちらの温かい入稿を拝読させて頂きました。

祖父は明治・大正・昭和と、たぐい稀な激動期を、とても恵まれた環境の中で人生を過ごし、その祖父ならではの世界観が作品に素直に表現されていると思う次第です。

没後20年以上になりますが、未だこのように評価して頂くことに、ただただ感謝申し上げます。
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久保 龍 様へ (瀬本あきら)
2014-09-06 17:32:35
書き込みありがとうございます。お孫さんですか。初めまして。私は、画狂と自称するくらい絵が好きで、毎日いろいろな絵を眺めでいます。久保画伯の絵は「文学界」表紙絵の時代からずっと見ていました。静物画においては独特の画風を確立され、私はすごく尊敬しています。このブログは別のテーマで再開します。絵に関するものにしたいと思います。またのご訪問をお待ちしています。ありがとうございました。
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