印税一円
鉛筆一本で勝負し、印税で生活する。これは私の若いころからの夢だった。しかし、齢(よわい)六十代前半になっても実現していない。
文学賞に何度応募しただろうか? 多すぎてすぐには浮かんでこない。いいところまで行くこともあるが、最後の一歩を進めるのが至難の業である。だから自費出版をしたこともある。これは生活を苦しめるだけで、全くの収入には結びつかない。しかしそれでも書きたいという願望を抑えきれないまま今日を迎えているわけである。
昨年ある出版社の短編小説賞に応募した。結果は見事落選。応募状況の詳細を知り、当然だと合点した。短編だからということもあるが、数千作の応募があったそうである。しかし、その出版社からアンソロジーに載せたいので、共同出版という形で参画しないかとの誘いがあった。具体的には、編集・出版・販促などに関わる費用の何割かは自己負担して欲しいということらしい。私は迷った末、ページ数も少ないし、負担金も驚くほど多額ではなかったので、その話に乗ることにした。
見積もりの詳細を見ていて、不満なことが一つあった。私が憧れていた印税が、一冊当たり一円だと書いてある。苦情を言ったが、そこは堅くかかっているスペシャリストである。「出版したという実感を味わっていただく」ことが目的だと言う。「実感」? これは言葉として選択ミスだと思った。「実感」するにはあまりにも少額ではないか!
先日、預金通帳を確認した妻から、M社から千八百円振り込みされていると聞いた。販売会社のサイトで確認すると、同じシリーズの中では私の作品が載っている本がランキングのトップであった。トップで千八百冊? まあいいか。初めての印税収入があったのだ。「実感」としては、まんざらでもない。(……こりゃ、救いようがないな。)(2006年投稿)
鉛筆一本で勝負し、印税で生活する。これは私の若いころからの夢だった。しかし、齢(よわい)六十代前半になっても実現していない。
文学賞に何度応募しただろうか? 多すぎてすぐには浮かんでこない。いいところまで行くこともあるが、最後の一歩を進めるのが至難の業である。だから自費出版をしたこともある。これは生活を苦しめるだけで、全くの収入には結びつかない。しかしそれでも書きたいという願望を抑えきれないまま今日を迎えているわけである。
昨年ある出版社の短編小説賞に応募した。結果は見事落選。応募状況の詳細を知り、当然だと合点した。短編だからということもあるが、数千作の応募があったそうである。しかし、その出版社からアンソロジーに載せたいので、共同出版という形で参画しないかとの誘いがあった。具体的には、編集・出版・販促などに関わる費用の何割かは自己負担して欲しいということらしい。私は迷った末、ページ数も少ないし、負担金も驚くほど多額ではなかったので、その話に乗ることにした。
見積もりの詳細を見ていて、不満なことが一つあった。私が憧れていた印税が、一冊当たり一円だと書いてある。苦情を言ったが、そこは堅くかかっているスペシャリストである。「出版したという実感を味わっていただく」ことが目的だと言う。「実感」? これは言葉として選択ミスだと思った。「実感」するにはあまりにも少額ではないか!
先日、預金通帳を確認した妻から、M社から千八百円振り込みされていると聞いた。販売会社のサイトで確認すると、同じシリーズの中では私の作品が載っている本がランキングのトップであった。トップで千八百冊? まあいいか。初めての印税収入があったのだ。「実感」としては、まんざらでもない。(……こりゃ、救いようがないな。)(2006年投稿)