とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

この重さは何か?

2010-08-23 11:28:40 | 日記
この重さは何か?



 この前の日曜日、雪が降る気配だったので、車用品の専門店にタイヤ交換に出かけた。待合のコーナーの椅子に腰掛けて雑誌架を見ると、若者向きのファッション誌の新年号が置いてあった。(ああ、そういう時季だったなあ)と来し方この一年を思い出しながら手を伸ばして持ち上げようとした。重い! 部厚い写真集なので漫画雑誌とは違って、ずしりと手に「重量」を感じたのである。表紙のあでやかな写真を見つめながら(この重さは何だ?)と一瞬考えた。
そういえば、こんなこともあった。生徒たちが農業実習で作ったプレスハムを十本くらい袋に詰めて階段を上ったことがあった。そのときも同じことを考えた。その前の勤務校では、四階の小職員室まで両手に荷物を提げて毎朝上っていた。荷物の中味は仕事のネタばかり。上りながらまったく同じことを考えていた。
まだある。子どもの頃米の販売店をしていたので、運搬用自転車で紙袋に入った三十キロの米を配達していた。そのときは(もっと軽かったら)と思いながら、同じことを考えていた気がする。
手にした新年号の写真雑誌が重いのは、厚手の紙が使ってあるからである。当たり前のことである。しかし、私はその重さを全身で受け止めて、その中に詰まっている見えないものを見ようと、心がその方向に傾斜する。すると「ああっ!」と叫びたいような気持ちに襲われる。
そのときのえもいわれぬ気持ちは何だか「命」とか、「生きる」こととかに深く関わっているような気がする。「重量」の中にすごいものがこもっていると考えるのである。
(2006年投稿)

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