とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

55 花神2

2015-11-28 00:52:52 | 日記


 山の神の予想は的中しました。花りんの霊が新たな夫婦=花神から離脱しました。父親の所業を許せなかったのです。

 「私は息苦しいです。山の神様」

 「それはどうして ?」

 「花神の一部となることはどうしても・・・」

 「ははっ、それはもっとも。では出ていくがよい。これから私がその儀式をします。・・・ただ花りん、貴女も花神となることが条件です。たくさんの花木に花を咲かせるには花神は多くいた方がいい。そのために貴女もパートナーを見つけてください。」

 「私は一人でも生きていけます」

 「はははっ、花りん、貴女の胸の中で渦巻いているものを私は知っています」

 「えっ。・・・そんな・・・」

 「では、ずばり言い当てましょう。花りん、さやかと親しい男の霊、ははっ、この森の奥の一際大きな樹。・・・泰山木。素晴らしく男らしい。素敵な樹霊」

 「そんなお方は知りません」

 「ははっ、私は以前見ていました。二人が親しく話しているのを。そこへさやかがやってきて、・・・ははっ、ややこしいことになりましたね」

 「そんな・・・」

 花りんの頬が赤く染まりました。山の神はその顔を見て微笑みながら分霊の儀式をしました。花りんは白く輝く衣装を身に着けて生まれかわりました。

 「ははっ、これでいい。・・・実はね。花りんがさやかと諍いをしていたので、後で私がさやかを呼んで本当の気持ちを問いただしました。好きだそうです。・・・しかし、絶対神の立場にあるものが樹霊と結ばれることは不可能です。掟というのではなく、絶対神は樹霊を受け容れる霊的な仕組みがありません。さやかはそのことを知っていて近づいたのです。よほど魅かれたのでしょう。・・・ははっ、落ち着きましょう。冷静になりましょう。花りん、安心してください。さやかは諦めました」

 「それで、彼は・・・」

 「安心して下さい。貴方の方に気があるみたいです」

 「えっ、・・・」

 「貴方は正直ですねえ。顔色にすぐ表れる」

 「そんな・・・」

 「花りん、彼の過去世を知っていますか ?」

 「いいえ、ちっとも。何か・・・」

 「自死願望が強くて何度も病院に運ばれました」

 「どうして・・・」

 「両親が早死にしてお祖母さんと二人で暮らしていました。働いてはいましたが、すぐ辞めてしまうので信用がなくなった。・・・まあ、その先はご想像に任せます。それで、ああ、それで、これからすぐに彼の所へ一緒に・・・」

 「ええっ、すぐ行くんですか ?」

 「儀式です」

 「儀式って・・・」

 「結婚の儀式です。はなびらを産むことが出来る花神になっていただきます。負と負の掛け算です」

 「何の心構えも・・・」

 「要りません。私に任せてください。それとも結婚したくない・・・?」

「そんな・・・」

 「じゃ、行きましょう。私の背中に乗って下さい」

 山の神はふわっと浮き上がりました。そして山の奥の向かって進んで行きました。

東日本大震災被災地の若者支援←クリック募金にご協力ください。募金額ついに80万円を突破しました。

54 KEKKON

2015-11-14 01:22:17 | 日記


山の神様は言いました。
 さくらさん、山茶花さん、花りんさん、私をここに招いて頂いてありがとうございます。私は天空に居ましたが、地の底から沸き上がる大音声、そして、さやかが私を呼ぶ声に導かれてこの山に降りて参りました。そうですね、マーガレットも私の分身の一つ。絶対神の分身は天空にはたくさんいます。今までの山は地下神の姫神に任せました。もうたくさんの樹霊が人間として転生しています。優れた地下神です。感謝しています。貴方は地下の微粉霊を救ってこの森をお作りになりました。そして、森の精霊たちが私を招いてくれました。荒神は以前から貴方たちの力を借りたいようでした。いよいよそれが実現しました。・・・これから大事業が始まります。どうか、協力をしていただきたい。・・・元は罪びとの霊。地上の人間はすべて罪びとと言ってもいいと思います。だからまた新たな森が出来ることと思います。私の分身たちがまた降りていくことと思います。際限がありません。しかし、この霊たちを転生させなければ、人類はいずれ無くなります。・・・任務は重大です。どうか、どうか、重ねてよろしくお願い致します。・・・最後に一つしっかりと理解しておいてほしいことがあります。

 「・・・隣の森との違いです」

 「どういうことでしょうか」

 「樹木の精霊のすべてが均一化していることです。いいですか、樹木の誕生の過程が同じですから、そうです、同じ核を得て一斉に地上に蘇っていますから、表向き形はそれぞれ少しずつ違っていても、同じ性格の樹木です。ですから、みんなに同じ働きかけを根気よくすれば、加速的に転生します。それに・・・」

 「それに・・・、どういうことが・・・」

 「樹木はすべて花木です」

 「そうです。貴方たちと性質的には同じです」

 「花が咲く・・・」

 「そうです。いろいろな花が咲きます。ただ、これから貴方たちにして貰わねばなりません。それは、花芽の生長点を作ることです」

 「えっ、生長点・・・」

 「力の限り空を飛び回って、生長のための聖なる花びらを振りまいてほしいのです。そのためには・・・」

 「ど、どうすれば・・・」

 「貴方たちに元々備わっていた負のエネルギーを掛け合わせれば出来上がります。負と言えば、さくらさん、貴方が地上に戻る力の源は欲望でした。ははっ、異性に対するものも含みます。それを山茶花さん、花りんさんの負のエネルギーと掛け合わせます。ははっ、言わば結婚です。・・・負と言っても、私の前では聖なるものに転化します。ははっ、さくらさん、妄想してはいけません」

 「結婚 ? 娘もいるんですが・・・」

 「ですから、すべて聖なる結婚です」

 「結婚すると私たちはどういう姿になりますか ?」

 「美しい花神となるでしょう」

 「花神。・・・森を救う・・・?」

 「そうです。重大な事業です。樹々が花木となれば、転生は一層早くなります。では、儀式を始めます。このタクトを見つめていてください。すぐに目の前が紅の聖気に満ち溢れます」

 山の神様はタクトを大きく振りました。すると、辺り一帯が炎のような紅い気体に包まれました。その中に霞んだ裸身が見えました。白い肌に山茶花の花姿が映じていました。そしてその姿が次第に私に近づいてきました。近づくにしたがって私の意識が薄れました。薄れる意識の中でぼんやりとした八重桜の花影が見えました。



東日本大震災被災地の若者支援←クリック募金にご協力ください。募金額ついに80万円を突破しました。


53 Sakura

2015-11-06 16:10:19 | 日記



それでは、私が山までご案内いたします。それとも、貴方様の樹を初めにご覧になりますか。眩いばかりに美しい衣装をまとった山茶花さんはそういう言葉で私を迎えてくれました。

 「私は山神様のような翼は持っていませんが、空を飛ぶことができます。さあ、どちらにしますか ?」

 「私の樹を・・・見たい。お願いします」

 「では、私の背中に回って目を瞑って立っていてください。すぐに体が浮かび上がります。浮かんだ感覚がありましたら目を開けてください。貴方の体は私の背中に乗っているはずです」

 ふわりと浮かんだ感触があったので目を開けると、20mくらいの高さを保って空中を飛んでいました。山茶花の背中に跨っているので、私は奇妙な妄想をしてしまいました。甘美な匂いがしきりに鼻腔を刺激しました。

 「おやおや、ははっ、・・・真面目に乗っかっていてください。花りんさんに叱られますよ」

 「いや、申し訳ないです。女の方に乗っけて貰ったりして・・・」

 「貴方は森の樹々の根っこのようなお方です。樹々はすべて分身と言ってもいいです」

 「そんな大それたこと・・・。私はそんなに偉くはありません。ただ、荒神様の思し召しの通りにしただけです」

 「私は貴方のお陰で、こうして飛ぶことが叶いました。しかも、山の神様のお手伝いも出来るようになりました」

 「おお、私の森に入りました。私の国です。懐かしい」

 「霊界には国境はありません。2つの森はともに歩んでいきます」

 「国境 ?」

 「そうです。だから諍いも戦争もありません」

 「分かりました。植物は戦争はしませんからね」

 「植物だからではなく、国境がないから戦争はしません」

 「さあ、着きました。下に降りてみますか ?」

 「これが私の樹ですか ? 何です ? 何の樹です ? ものすごく大きな・・・」

 「この大木は桜です。ですから、これから貴方をさくらと呼ばせていただきます」

 「えっ、さ・く・ら。もったいないことです」

 「花が咲く樹、とくに桜はいいですね。おめでとうございます」

 下から見上げる我が家。桜の大木。・・・私は感激しました。

 



 「では、また後ろに回ってください。今度は山に向かいます。山の神様がお待ちですから」

 また私は山茶花さんの背中を跨いで飛びたちました。山の頂に降りると、翼を広げた山の神様が待ち受けていました。



東日本大震災被災地の若者支援←クリック募金にご協力ください。募金額ついに80万円を突破しました。